転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編023話 その頃のホワイトスター3

 広大な学園都市でもある麻帆良。その中でも麻帆良女子中の寮から少し離れた場所に、木が一本だけ生えている丘がある。

 現在ではネギの知恵袋的な存在でもある長谷川千雨が、コスプレ衣装を着てクラスの皆の前でネギに裸に剥かれた場所だ。

 夏休みも真っ直中ではあるのだが、さすがに木が1本しか生えてないような場所では熱さを嫌ってか人の姿は存在しなかった。

 だがこの日に限って言えば、あらゆる意味でその状況が幸運だったのだろう。

 パチッ、パチッという音が響き、空中に雷のようなものが幾筋も走り……次の瞬間には唐突に巨大な黒い円球状の何かが発生する。その円球状の何かは一瞬で直径100m近くまで広がり、次の瞬間にはまるでその空間が存在したのが嘘であったかのように消え去っていた。

 その何かの正体はホワイトスターにある平行世界間を渡る為の転移装置でもあるリュケイオスが作りだした転移フィールドだったのだが、この世界の住人でそれを知る者はアクセルとその記憶を追体験した人物以外は存在しない。

 そして転移フィールドが消えた後、そこに姿を現していたのは虫型の機械であるメギロートが10機、黒い人型の機械の量産型ゲシュペンストMk-Ⅱが5機だ。

 また、それらの機体の足下にはレモン、マリューといった量産型ゲシュペンストMk-Ⅱに乗り込んでいないホワイトスター首脳陣の他にも、エキドナや機械で出来たヘルメットを被っている量産型W30人程が存在している。

 

「……ここがアクセルが転移した場所? どうみても平和な街にしか見えないんだが……いや、あの光ってる馬鹿でかい木は確かに異常だと思うが」

 

 量産型ゲシュペンストMk-Ⅱのコックピットの中から、モニタに表示されている街中の光景や遠くに見える光っている巨大な木を見て思わず呟くムウ。

 そんなムウへと隣の量産型ゲシュペンストMk-Ⅱからの通信が入る。

 

「ここは本当にアクセルが転移した場所なのか?」

 

 通信モニタに映っているイザークもまた、いつもの不機嫌そうな様子は鳴りを潜めてどこか混乱したように尋ねてくる。

 

「俺に聞かれたって分かる訳ないでしょ。ちょっと待ってろ」

 

 イザークとの通信を一旦切り、今回臨時的にこの実戦部隊を率いているコーネリアが乗っている量産型ゲシュペンストMk-Ⅱへと通信を入れる。

 

「なぁ、ここに本当にアクセルがいるのかい?」

「待て。今レモンに連絡を……ああ、分かった。それは確かなんだな? ではそのように。ムウ、聞こえているか。どうやらここがアクセルのいる場所であるのは間違い無いらしい。あそこにある建物からマーカーの反応があるそうだ」

 

 そう言ってコーネリアの乗っている量産型ゲシュペンストMk-Ⅱが指差したのは、現在ムウ達がいる丘陵部分から一番近くにある建物だった。

 

 

 

 

 

「エキドナ、ゲートの設置を開始して頂戴」

「分かりました、レモン様」

 

 レモンの命令を受け、コンテナ状の荷物を運んでいるメギロートに指示を出してゲートを展開していくエキドナ。

 その様子を見ながら周囲の様子を確認しつつ、レモンは量産型Wへと指示を出す。

 

「G1からG10までは周囲を警戒。H1からH8までは私達の護衛を。H9とH10は量産型ゲシュペンストMk-Ⅱに搭乗。I1からI10まではゲートの設置を手伝いなさい」

 

 それぞれが指示に従って行動を始める中、レモンは忌々しそうに空を見上げる。

 

「邪魔な太陽ね」

「そう言わないの。どうやらここは夏らしいんだからしょうがないじゃない」

 

 マリューの柔らかな笑みを目にし、ほんの少しだけ口元を緩めるレモン。

 何しろホワイトスターの中は完全に空調が整えられているので、夏や冬というような極端に暑かったり寒かったりする気温には慣れていないのだ。そもそもレモンは元々技術畑出身の研究者であり、元々の世界でも夏は涼しく冬は暖かいという場所に慣れていたし、転移後もアースクレイドル内や戦艦の中といった空調の整っている場所にいる事が多かった。

 それに比べれば、アクセルやキラと共に砂漠やアラスカといった場所を転戦してきたマリューはまだこのような気温にも慣れていると言えるのだろう。

 

(アクセルに再会したら海にでも連れて行って貰おうかしら)

 

 ゲートの設置作業を見ながらレモンが内心で考えていると、隣で同じようにその作業を見守っていたマリューが再度口を開く。

 

「でも良かったの? ゲートを設置して。まだこの世界とどういう関係になるかは分からないんでしょう?」

「確かにそうだけど、ホワイトスター側から物資や兵器を運び込むには必要な事なのよ。マリューも知ってると思うけど、ゲートでこっちの世界とホワイトスター側をリュケイオス経由で固定しないと時差が生じるから。それにいざとなったらホワイトスターに私達が転移した後に自爆装置でも使って破壊すればこの世界の人達には修理出来ないでしょうしね」

「まぁ、それはそうかもしれないわね。と言うか、もしこっちの世界に平行世界に転移する技術があるのならアクセルもさっさと戻ってきてるだろうし」

 

 マリューがそう呟いたその時、コーネリアからの通信が入る。

 

「どうしたの?」

「何者かがこちらへと複数接近してくるのを確認した。確認したのだが……」

 

 いつも毅然としているコーネリアには珍しくどこか口籠もっている。その様子に思わず眉を顰めるレモン。

 

「ここは平行世界なんだから、何があっても驚かないわよ。言って頂戴」

「……私の見間違いで無ければ、人が空を飛んでいるように見える」

「この世界はPTやAMのような人型機動兵器じゃなくてパワードスーツの類が発展した世界なのかしら」

 

 それならアクセルも意表を付かれてマーカーが壊れてしまったのもしょうがないかもしれない。そう考えたレモンだったが、次にコーネリアから告げられた言葉には思わず耳を疑った。

 

「違う、パワードスーツとかそういう類の物は一切装備していない。普通に生身の人間が何の補助も無しで飛んでこちらに近づいて来ているんだ」

「……なんですって?」

 

 さすがにそれは予想外だったのか、一瞬だけ思考が停止するレモン。だがさすがと言うべきか、すぐに我に返り指示を出し始める。

 

「コーネリア、量産型ゲシュペンストMk-Ⅱは全機いつでも戦闘が可能なように準備をしておいて。ただし絶対にこっちから手は出さないで」

「……了解した。ムウ、イザーク、聞いていたな? 向こうから攻撃するまではこちらからの発砲を禁止する」

「あいよ、了解」

「俺がそんな短慮な真似をすると思ってるのか!?」

「……いや、その態度を見ればしょうがないと思うが」

 

 ムウとイザークの漫才じみたやり取りを聞きながら、マリューとレモンも念の為に自分の銃を確認する。

 

「G1からG10、H1からH8は何かあった場合即座に対応出来るように準備をしておきなさい。その場合の最優先事項は私達の命。攻撃された場合、敵に容赦をする必要はないわ。H9とH10はコーネリアの指示に従いなさい。ゲートの展開は自動的に進むはずだからI1からI10とエキドナはゲートの防衛に専念しなさい」

 

 量産型Wもそれぞれ指示通りに動き始め、メギロートもいつでもその凶悪な戦闘力を発揮出来るように指示を出す。

 

「レモン、来たわよ」

 

 指示を出し終えたタイミングを見計らっていたかのようにマリューから声を掛けられ、視線を空へと向ける。

 そこにいたのは確かにコーネリアが言った通りに何の装置も使わずに空を飛んでいる人間達だった。いや、中には高く跳躍する事で空を飛んでいるように見えるような存在もいる。

 

「……呆れたわね。本当に何の装置も無しに空を飛んでいるわ」

 

 こちらへと向かって来ているのはざっと10人程だと判断し、その到着を堂々と待ち受けるレモン。そして1分も経たないうちにその人物達はレモン達の前へと着地する。

 

(シスターにマフィアとか、どんな面子なのかしらね)

 

 目の前にいるのは修道服を着たシスターが2人、マフィアらしき男、スーツを着て日本刀を持っている女、気弱そうでひょろりとした男、研究者らしき男、太っている男、両手に銃とナイフを持った黒人がそれぞれ1人ずつと、10代程の少女が3人の合計11人だった。

 余りにもバラバラな人種にどう反応していいか迷ったレモンだったが、それは空を飛んできた人々――魔法先生や魔法生徒達――も同様だった。

 何しろ突然麻帆良内に黒い円球状の空間が現れたかと思えば、次の瞬間にはそこに巨大なロボットと虫型のロボット。そしてそれらを操っていると思われる20人近い人々――その中の半数以上は異形のヘルメットで顔全体を覆っている――が存在していたのだ。それも認識阻害の類も一切使わずに。

 当然20mを越えているような人型ロボットが5機もいれば隠し通せるものではない。麻帆良中……とは言わないが、それでも麻帆良のかなりの場所からその黒い人型ロボットの姿が見えたのだ。幾ら麻帆良に認識阻害の結界が張られているとは言っても……いや、だからこそ映画か何かの撮影と勘違いしてここへと向かおうとしている者達がそれなりの人数存在していた。そういう相手に対処する為に手の空いている魔法先生や腕の立つ魔法生徒をかき集めてより強力な認識阻害の結界を張ったりしていた為、すぐにここに集まる事が出来無かったのだ。

 

(そして何よりも痛いのは、高畑先生がいないという事だな)

 

 黒人の男――ガンドルフィーニ――が内心で苦々しげに呟く。

 麻帆良でも最強クラスの実力者である高畑・T・タカミチはネギ・スプリングフィールドに関するトラブルで魔法世界に行っており、現在この麻帆良にはいない。正直、ここにいるメンバーが現在の麻帆良最高峰の戦力だと言っても過言ではないのだ。他にも魔法先生や魔法生徒達がいるが、ここにいるメンバーに比べるとどうしても一段落ちる。

 

「……君達は超の仲間か?」

 

 目の前に立つ人型のロボットを見て、まず最初に思いついたのはそれだった。なにしろあの麻帆良祭でも科学の力でロボットを使い麻帆良を混乱に陥れたのだ。あの騒動からまだ3ヶ月も経っていない状況ではガンドルフィーニのみならず魔法の関係者達がそう疑うのも無理はなかった。

 だが……

 

「超? 誰かしら?」

「誤魔化しは為にならないぞ。こんなロボットを使っているのに超鈴音の名前を知らないというのか?」

 

 ガンドルフィーニの言葉に微かに眉を顰めるレモン。

 

(この男の反応を見る限りどうやらこの世界にも一応人型兵器の類はあるようね。けどこの男達はそれとは違う、何らかの力を持っていて対立している……のかしら)

 

「残念だけど知らないわね」

「貴方、そんな言い分で私達を誤魔化せると本当に思っているのですか!」

 

 ビシィッ、とばかりに大人が殆どの中で数少ない10代の少女――高音・D・グッドマン――がレモンを指差す。そしてその言葉に反応するかのように、その影からまるで仮装をしているかのような人型の使い魔が3体程姿を現す。

 同時にその行為を敵対行為と見なしたコーネリアの乗る量産型ゲシュペンストMk-Ⅱがメガ・ビームライフルの銃口を向け、ムウやイザーク、あるいは量産型Wも同様にメガ・ビームライフルの銃口を魔法使い達へと向ける。また、レモン達を守るように囲んでいたメギロート10機も1歩前へと進み出てMSの装甲すら噛み千切る口を開いて威嚇しながらいつでも飛び掛かれるようにその身を沈めている。

 

「待て! こちらに敵対の意志は無い! 高音君も挑発するような真似はよすんだ!」

 

 眼鏡を掛けた研究者らしい男――明石――が、その一触即発の空気をどうにかしようと1歩前へと出て高音を制止する。

 いつもは笑顔を絶やさない温和な性格なのだが、この状況ではさすがに鋭い目つきを高音へと向けていた。

 

「……申し訳ありません、先走りました」

 

 その鋭い目付きに押されたように、影で出来た使い魔を自分の背後へと移動させる。この際、影へと戻すのではなく自分の後ろへと待機させているのが高音がレモン達に対する強い警戒心を抱いているという事の証明だろう。

 

「僕の仲間が失礼をした。出来ればそちらも銃口を下ろしては貰えないでしょうか?」

 

 自分達に向けられているメガ・ビームライフルの銃口5つへと視線を向けて明石がレモンに言う。

 明石にしてみれば、どの程度の威力があるのか分からないだけにその銃口が自分達に向けられているというのはいい気分ではない。

 そしてその用心深さによって魔法使い達は命が助かったと言えるだろう。もしメガ・ビームライフルが放たれていた場合は、最初の一撃でここにいる魔法使い達の半数以上が文字通りに消滅していたのだろうから。初撃を回避出来たのは恐らく機動力に長けた刀子、ガンドルフィーニ、神多羅木くらいであり、その3人にしても最初の一撃は回避出来たとしてもその後に続く射撃は回避出来なかっただろう。

 

「フォフォフォ。随分と物騒な事になっておるのう」

「ふんっ、さすが正義の魔法使いといった所か」

「うーん、私がここにいていいものなんでしょうか」

 

 そして緊張感に満ちた、ある意味で戦場とも言える場所に突然3つの声が響き渡るのだった。


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