転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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3068話

 レモンとの会話を終えた俺が次に向かったのは、行冥がリハビリをしている場所だった。

 そこで行冥が一体どのようにリハビリをしているのか……といったような事が気になったというのもあるし、鬼滅世界についての話を少しくらいしてもいいだろうというのもある。

 そうして向かった先では……

 

「おお、アクセル殿。お久しぶりですな。アクセル殿はそのような顔をしていらしたのか。ありがたや」

 

 そう言い、涙を流す行冥。

 俺の顔をしっかりと認識しており、それによって嬉し涙でも流したのだろうが……だからといって、何で俺の顔を見て涙を流す?

 ともあれ、俺の顔をしっかりと認識出来ているということは、義眼がきちんと性能を発揮しているという事だろう。

 にしても、行冥の涙で義眼の調子が悪くなったりとか、そういう風にならないといいんだが。

 その辺、正直なところどうなんだろうな。

 後でレモン辺りに話を聞いてみた方がいいか?

 

「久しぶり……というか、義眼の移植手術をしてからは初めてだな。その様子を見る限りだと、特に問題はないみたいだが」

「そうですな。お陰で大分視覚というものにも慣れてきました」

 

 南無阿弥陀仏と、俺を見てそう拝む行冥。

 いや、俺を拝むなよ。

 そう思うも、ホワイトスターにいるエルフ達からは、拝むどころか信仰の対象にされているのだ。

 それを考えれば、拝まれる程度は特にどうということもないだろう。

 

「視覚に慣れてきたのなら、もう少しでリハビリも終わって鬼滅世界に戻れるな」

「そうですな。出来るだけ早く戻りたいと思っております。シャドウミラーにも迷惑を掛けておりますし」

「別にムラタは迷惑とは思っていないと思うけどな。それこそ、嬉々として鬼と戦っていると思うぞ。……ムラタと一緒に活動している獪岳は分からないが」

 

 獪岳という名前を出すと、行冥の表情が一瞬変わる。

 まだ獪岳に対して思うところがあるのだろう。

 正直なところ、それは俺にも理解出来る。

 理解出来るのだが、だからといって今の状況で行冥の自由にさせる訳にはいかない。

 

「ムラタとの約束は覚えているよな?」

 

 そう尋ねると、行冥は無言で頷く。

 ムラタとの約束……獪岳との約束と表現してもいいか。

 獪岳が十二鬼月や鬼舞辻無惨を殺すまでは、行冥が獪岳を殺すといったような事はしないというもの。

 獪岳にしてみれば、行冥に殺されない為にも鬼舞辻無惨はともかく、十二鬼月を殺せるようになる必要があった。

 その為に、現在ムラタと一緒に鬼と戦っており、死に物狂いで強くなりたいと思っているのは間違いない。

 獪岳と行冥の関係が、将来的にどうなるのか。

 その辺りは俺にも分からないものの、ともかく今は行冥をしっかりとリハビリをさせて焦らせないようにしておく必要があった。

 獪岳について話せば、行冥にとっても面白くはないか。

 そうなると、もっと別の話題……ああ、あれがあった。

 

「義眼のレーザーの方はどうなってる?」

 

 行冥の義眼は、そこからレーザーを放つという隠し武器を持つ。

 そのレーザーが鬼に対してどこまで有効なのかは分からない。

 しかし、大正時代で生きる鬼にしてみれば、まさか目からレーザーが放たれるとは、到底思わないだろう。

 そうである以上、相手の意表を突くという意味では悪くない。

 特に行冥の日輪刀は、名前こそ日輪刀と刀がついているものの、鉄球というか、モーニングスターというか、そんな武器だ。

 そうである以上、義眼のレーザーによる一撃で相手の意表を突いて驚かせ、動きを止め、そこに鉄球を放つといった攻撃方法もありだろう。

 

「まだ慣れませんな。どうしても自分の目からレーザーとかいうのが出るというのは慣れず……」

「なるほど。そういう一面もあるのか」

 

 俺にしてみれば、レーザーというのは普通に存在して当然といったような武器だ。

 だが、それはあくまでもシャドウミラーの俺だからこそでしかない。

 大正時代に生きる行冥にしてみれば、レーザーというのは理解出来ない存在のものなのだろう。

 だからこそ、行冥にしてみればそんな得体のしれないものを自分の義眼から放つのに躊躇する。

 この辺は慣れるか、もしくはいっそレーザーがどういうものなのかというのを示して、それで行冥を納得させるといたような真似しかないのだろうが……やっぱり慣れさせる方が簡単だよな。

 

「レーザーに関しては、とにかく撃って慣れろとしか言えないな。そのレーザーを使えば、鬼に対して致命傷とまではいかないが、相応のダメージを与えられる筈だ」

 

 とはいえ、聞いた話によると鬼というのは能力が千差万別。

 それだけに、中にはレーザーを無力化したり、血鬼術で反射したりといったような真似をする奴がいてもおかしくはないが。

 そういう意味でも、行冥には出来るだけ早くレーザーという存在に慣れて欲しかった。

 行冥も俺の言いたい事は理解しているのか、反論をしたりせず、素直に頷く。

 

「それは承知している」

「なら、いい。……ああ、そうそう。話の種って訳じゃないけど、俺は鬼滅世界で宇宙に……太陽に行って、そこで宇宙空間に漂ってる岩塊を多数拾ってきたぞ」

「……は?」

 

 一瞬、俺が何を言っているのか分からないといった様子で呟く行冥。

 行冥にしてみれば、まさか俺が宇宙に行ったというのを素直に信じられなくてもおかしくはない。

 大正時代では、月にすらまだ到達していないのだ。

 そんな中で太陽に行ったというのは、とてもではないが信じられないのだろう。

 とはいえ、太陽に行ったというのは正確ではない。

 実際には太陽にかなり近い場所まで行ったという表現の方が相応しいのだが。

 

「猩々緋鉱石や猩々緋砂鉄の類は、太陽の光が重要な意味を持っている。なら、太陽の近くを浮かんでいる岩塊の類は、より強力な太陽の光を浴びているのは間違いない」

「それは……」

 

 納得したのか、それとも取りあえず頷いただけなのか。

 その辺は正直なところ俺にも分からなかったものの、それでも行冥との会話を続ける。

 

「そんな訳で、より強力な太陽の光を浴びていた岩塊は、日輪刀を作る上で重要な要素になる筈だ。実際に耀哉が刀鍛冶の里から刀鍛冶達を呼んで見せたところ、かなり興奮していたみたいだったしな」

「それは、大きな一歩ですな」

「ああ」

 

 実際、俺の持ってきた岩塊からどれだけの猩々緋鉱石が採れるのかは分からない。

 分からないが、予想よりも大量に採れた場合はダーナ・オシーとかを貸し出した時の為にもオーラバトラーが使えるオーラソード型の日輪刀を作って貰ってもいいかもしれないな。

 とはいえ、人の使う日輪刀とオーラバトラーの使う日輪刀では大きさが違う。

 刀鍛冶達でも、それを容易に作れるかと言われれば……微妙だろう。

 色々と試行錯誤をする必要がある以上、作るのにも時間が必要となるのは間違いなかった。

 

「そんな訳で、行冥がいない鬼滅世界も今はそれらしい問題はない。……だから今は安心してリハビリに専念しろ。リハビリの方が終わったら、エヴァ辺りに鍛えて貰ってもいいかもしれないな」

 

 エヴァという名前を出すと、行冥は微妙な表情を浮かべる。

 行冥にしてみれば、エヴァは鬼滅世界の鬼ではない。

 鬼ではないのだが、それでも吸血鬼という鬼であるのは間違いのない事実。

 そしてエヴァには以前ホワイトスターにやって来た時、実弥が手も足も出ずにやられるといった結末を迎えている。

 柱の中では行冥が最強と言われているらしいが、実弥もまた十分な実力者なのは間違いない。

 そんな実弥が圧倒されたエヴァという存在に対しては、行冥も色々と思うところがあるのは間違いないだろう。

 とはいえ、シャドウミラーの中で誰が一番鍛えるのが上手いのかと言われれば、やはりそれはエヴァとなる。

 PTとかの人型機動兵器で鍛えるのが上手いとなるとコーネリアなのだが、今回の一件に限ってはあくまでも生身での戦いについてなのだから、コーネリアの出番はない。

 いや、別にコーネリアも生身での戦いが決して弱いという訳ではないし、普通に考えれば十分に一流の存在だ。

 だが、そんなコーネリア以上にエヴァが強い。

 無惨程ではないにしろ、600年以上生きてきた経験というのは伊達ではない。

 ましてや、鬼殺隊しか敵のいなかった無惨と比べると、エヴァの場合は賞金稼ぎの魔法使いを含めて多くの相手と戦い続けてきたのだ。

 その戦闘経験は、それこそ生身でという事になれば俺以上なのは間違いない。

 

「どうした? エヴァが行冥の知っている鬼と違うのは、もう分かってるんだろう? なら、今は相手がエヴァだからといって、気にするような必要はないと思うがな。今のお前は……鬼殺隊として考えれば強いのかもしれないが、シャドウミラーにはもっと強い相手が幾らでもいる。お山の大将でいたい訳じゃないんだろ?」

 

 行冥は俺の言葉に何も言えなくなる。

 実際のところ、行冥にしてみればエヴァに訓練をつけて貰うというのは、そう簡単な話ではないのだろう。

 本人もそれは分かっているので、今はこうして悩んでいる。

 そして……やがてたっぷり数分が経過したところで、行冥は口を開く。

 

「それでは、お願いしたい」

 

 自分の中にある複雑な思いを飲み込み、そう告げる。

 行冥にしてみれば、柱として自分がまず強くなることが優先されるのだろう。

 強くなければ、鬼を殺せない。

 鬼を殺せなければ、普通に暮らしてるだけの一般人が鬼に喰い殺されてしまう。

 それだけではなく、鬼殺隊を率いる耀哉を守るにも強くなければ守れない。

 ましてや、行冥は本来自分がやるべき仕事をムラタに押し付けて――本人は嬉々として戦っているが――ホワイトスターに来ているのだ。

 そうである以上、ここで強くなるというのは行冥にとって当然の事と判断したのだろう。

 俺としては、そこまで思い詰める必要もないと思うのだが。

 とはいえ、それが行冥らしいと言えばらしいのか。

 

「分かった。なら、俺がエヴァに聞いてみる。……言っておくが、エヴァは強いぞ? それは実弥との戦いを見て分かってると思うが」

「それでこそ、挑み甲斐がある」

 

 そんな行冥の言葉に頷き、俺は早速エヴァに会いに行くのだった。

 

 

 

 

 

「私がその行冥とやらを鍛えろと? ……ふんっ、あまり気が乗らんな」

 

 ホワイトスターにあるエヴァの家。

 そのリビングで、俺は茶々丸の淹れてくれた紅茶を飲みながら、エヴァの言葉にどう返すか迷う。

 元々が天邪鬼なエヴァだ。

 ここで無理強いしても……訓練をつけるといったようなことはするだろうが、手を抜いて適当にやるといった可能性も否定は出来ない。

 行冥は義眼の手術を終えてリハビリをしているのだから、あるいは適当な訓練でもいいのかもしれない。

 しかし、どうせならやはりここはきちんと訓練をしておいた方がいいのは間違いなかった。

 リハビリが終わって鬼滅世界に帰った時、行冥の実力が以前よりも格段に上がっていれば、それはシャドウミラーという存在に対する好意や憧れに変わる。

 自分もホワイトスターに行って鍛えて貰えれば、今までよりも強くなれるかもしれないといったように。

 そうなれば、鬼滅世界との関係も良好なものになるだろう。

 現在の鬼滅世界……というか鬼殺隊との関係は、どこか怪しい存在といったように見られている。

 大正時代の人間に、異世界や平行世界といったような事を言っても理解して貰えるとは思えないのだが。

 そういう意味で、今回の一件はある意味こちらにとっても好機なのは間違いない。

 

「行冥の訓練をしてくれて……そうだな。それ以外にもう3人、鍛えて欲しい奴がいるんだが、そいつらを鍛えて貰えたら、鬼滅世界で自由に動き回ってもいい」

「……何?」

 

 ピクリ、と。

 エヴァは俺の言葉に眉を動かす。

 元々エヴァは和風的な存在に強い興味を示している。

 だからこそ、大正時代の日本というのは、エヴァにとってかなり興味深いのは間違いない。

 現在は第一次世界大戦中という事もあり、エヴァが思う存分好き放題に観光出来るといった訳ではないのかもしれないが……それでも、エヴァにとって鬼滅世界が非常に興味深い世界なのは間違いない。

 個人的には、エヴァの性格を思えば観光をしている中で偶然鬼と会って、それを倒す……出来れば凍らせて確保して持ってきてくれるのではないかといったような期待を持ってはいるのだが。

 

「どうだ? そう考えれば、エヴァにとっても悪くない話だろ? それに、面倒を見て欲しい3人は、才能という点ではかなり高い」

 

 実際、これは嘘ではない。

 炭治郎が鬼滅世界の主人公であるというのもあるし、善逸や伊之助がその仲間であるというのも関係している。

 しかし、同時に鬼殺隊の剣士として活動するようになってからそう時間は経っていないのに、十二鬼月と戦って生き残ったのだ。

 俺であったり、義勇、しのぶの助けがなければ死んでいた可能性はあるが、それでも生き残ったのは間違いのない事実。

 そうである以上、才能という点ではかなりのものがあるのは間違いないと思えた。

 

「どうだ? 多少は興味がないか?」

「……取りあえず、会うだけ会ってやる」

「じゃあ、ついでに行冥の方も頼むな」

「おい!?」

 

 エヴァは俺の言葉に驚きつつも、最終的には納得するのだった。


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