「凄い……」
炭治郎が俺を見て、そんな風に呟く。
その理由は、カナヲが掴んだ薬湯の入った湯飲みを俺の手が押さえていた為だ。
それも成功したのはこれが初めてではない。
カナヲが掴んだ薬湯入りの湯飲みやコップは、その全てが俺によって止められていた。
ちなみにカナヲに薬湯を掛けるのはどうかと思ったので、俺は防御専門だ。
「まぁ、こんな感じだな」
そう言い、これで終わる。
カナヲは恐らく常中を使っている。そして俺はそんな呼吸は使っていない。
にも関わらず俺がこうしてカナヲに勝利出来たのは、単純に混沌精霊の俺と人間のカナヲの種族的な能力差でしかない。
「ぐぬぬぬ」
伊之助の口から唸り声が上がる。
猪の頭部を被っているので、その表情は分からない。
分からないが、その口調からして悔しがっているのが分かる。
うーん……正直なところ、種族差で勝ってる状態だけに、微妙に後ろめたさがあるな。
「取りあえず頑張れ。機能回復訓練の方が一段落すれば、以前約束した通り訓練してお前達を強くしてやるからな」
そう言い、獪岳の件を思い出す。
本来なら、獪岳の件……行冥や一緒に暮らしていた子供達を鬼に売ったという話はしない方がいいのかもしれないな。
善逸は獪岳と友好的な関係とは決して言えない。
だが、それでも心のどこかでは慕っている、もしくは尊敬しているように思えるのだ。
そんな善逸に対して、獪岳の秘密を喋るのは気が進まない。
気が進まないのは事実だが、善逸がこれからも炭治郎達と一緒に行動するとなると、恐らく自然と知る事になる。
普通なら知る必要がない事だが、この世界の主人公の炭治郎と一緒に行動する以上、その辺は自然と知る事になってもおかしくはない。
だからこそ、今は出来るだけ早くその辺についての情報を善逸に話しておいた方がいい。
後で……それこそ、戦いの最中で獪岳と行冥の一件を知った場合、その衝撃で身体が動かなくなり、戦闘に負けるといった可能性は否定出来ないのだから。
視線を善逸の方に向けると、ちょうどタイミング的にもマッサージが終わったところらしい。
本来ならかなり痛みを伴うマッサージなのだろうが、善逸にしてみればアオイやそれ以外の少女達と触れあう絶好の機会だ。
幸せな……それこそやり遂げたといったような表情を浮かべている。
「善逸、呆けているところ悪いが、ちょっといいか? お前に話しておくべき事がある」
「……は!? え? あ、はい。俺にですか? 一体何です?」
俺の声で我に返った善逸が起き上がる。
「聞いてなかったみたいだな。……お前に話しておくべき事がある、獪岳についてだ」
そう言うと、まだ若干呆けていた善逸の表情が真面目なものになる。
やはり善逸にとって、獪岳というのは大きな影響を与える人物なのだろう。
「獪岳ですか? 一体何が?」
「あまり他の奴に聞かれたくない事なんでな。……アオイ、ちょっと善逸を借りていくぞ」
「それは構いませんけど、用事がすんだら戻ってきて下さいね」
アオイからの許可も貰ったので、機能回復訓練をやってる部屋から出る。
そして一応という事で、更に部屋から距離を取った。
「どうしたんです、師匠? 獪岳の件で話があるって事でしたけど……獪岳、何かしたんですか?」
このくらい距離を取れば、問題はないか。
炭治郎は嗅覚が優れているものの、聴覚は普通だ。
他の面々も、善逸のように突出して聴覚が鋭い訳ではない。
そうである以上、ここで善逸と話しても誰かに聞かれる事はないだろう。
「そうだな。何かしたというか、正確には何かしていた……過去形だな」
「過去形? 一体何が?」
「簡単に言えば、獪岳は以前行冥……岩柱をしていて、しかも柱の中でも最年長で柱の纏め役をしている人物と知り合いだった事が判明した」
「え? それって、一体……?」
戸惑う様子を見せる善逸。
まぁ、自分の兄弟子が実は柱と知り合いだったというのは、驚いてもおかしくはないだろうが。
ただ、問題なのはここからなんだよな。
「それもただの知り合いじゃない。以前、行冥や、獪岳も一緒に暮らしていた子供達を鬼に売った事がある」
「……え?」
善逸の口から出て来たのは、数秒の沈黙の後の間の抜けた声。
俺が何を言ってるのか、全く分からないといった様子だ。
獪岳の性格を考えれば、善逸をどう扱っていたのかは容易に想像出来る。
そんな獪岳ではあっても、まさか行冥達を鬼に売ったといったような真似をするとは思っていなかったのだろう。
「事実だ。そして行冥は獪岳が鬼殺隊にいると知らなかったようでな。ムラタ……獪岳を鍛えている奴に会いにいった時に判明した」
「か……獪岳は……どうなったんですか?」
恐る恐るといった様子で尋ねる善逸。
柱、それも柱のリーダー格でもある行冥との間に因縁があったのだ。
それもただの因縁ではなく、鬼に売るといったような因縁だ。
とてもではないが、行冥が獪岳を許すといったようには思えない。
善逸も俺と同じ事を考えたので、今のように尋ねてきたのだろう。
「落ち着け。取りあえず獪岳は生きている。また、すぐに殺される事はない。……ムラタが止めなければ、どうなるのか分からなかったけどな」
実際、ムラタが行冥の攻撃を止めなければ、獪岳は死んでいただろう。
行冥の本来の武器は鎖の付いた鉄球ではあるが、行冥の高い身体能力で殴られれば間違いなく獪岳の頭蓋骨は砕かれていた。
その一撃を止めた辺り、ムラタの実力がどれだけのものなのかを示している。
「そ、そうなんですか……」
安堵したような、もしくは微妙な様子を見せる善逸。
獪岳の件をどう受け止めればいいのか、迷っているのだろう。
というか、まさかそんな事を獪岳がしているとは思っていなかったのは間違いない。
「で、行冥はムラタや俺の説得で取りあえず獪岳を殺さないという事には納得した。……ただし、鬼舞辻無惨を殺すまでにどれだけ鬼を殺したのかによって、どうなるかは決まるけどな」
十二鬼月や鬼舞辻無惨を殺す事が出来れば、生き延びられる可能性は十分にある。
問題なのは、獪岳が十二鬼月や鬼舞辻無惨を殺せるかだろう。
……いやまぁ、鬼の首領という意味で、出来れば鬼舞辻無惨は殺すのではなく捕獲して、色々と調べたいというのが正直なところなんだが。
それに十二鬼月は鬼にとっては柱とも呼ぶべき存在だ。
そうである以上、出来れば十二鬼月も捕らえて色々と調べたい。
俺が鬼滅世界にやって来た時に遭遇した十二鬼月の鬼は、まさかそんなお偉いさんだとは分からずにゲイ・ボルクで殺してしまったしな。
蜘蛛の糸の血鬼術なんか、もし使えるようになれば、色々と便利そうな代物だったんだよな。
今更ながら、本当に惜しい事をしたと思う。
何よりも厄介なのは、鬼は殺してしまえば死体が残らないという事だろう。
そういう存在だと知っていれば、Fate世界で金ぴかを殺した時のように、まだ生きている状態で手足を切断して、即座に空間倉庫に収納したりといったような真似も出来たのだが。
しかし、そのような存在だと知らなかった以上、次に鬼と遭遇した時にその辺を試してみるしかない。
空間倉庫に収納したままならともかく、出した時にどうなるのかといったような事はまだ分からないが。
そんな風に考えながら、こちらもまた何かを考え込んでいる善逸に視線を向ける。
その善逸は、数分黙り込んだ後で口を開く。
「師匠、師匠は獪岳がどうなると思いますか?」
「どうなるか、か。取りあえずムラタと一緒に行動している間は命の心配はないだろう。……多分」
「ちょっ、師匠!?」
何故そこで多分と入れるのかといったように、善逸は俺にそう言ってくる。
とはいえ、ムラタと一緒に行動するとなると、場合によっては鬼との戦いで死ぬのなら、結局はその程度の実力でしかないと見捨てる可能性は十分にあった。
一応、獪岳はそれなりに重要な人物である以上、ある程度は配慮するだろうが……それはあくまでもある程度でしかない。
そのある程度の範囲を超えれば、ムラタはあっさりと見捨ててもおかしくはなかった。
「ともあれ、獪岳はそれなりに腕利きだ。そうである以上、生き残れる可能性は十分にあると思う」
「そう、ですか。……全く……」
何かを言いたいが、実際には言葉に出せない。
そんな様子の善逸だったが、兄弟子だけに色々と思うところがあるのだろう。
だからといって、俺はこれ以上そんな善逸に対して何かを言うような事はなかったが。
「先生、ありがとうございました」
と、やがて善逸がそんな風に言ってくる。
善逸の中である程度整理がついたのだろう。
あるいは、これ以上考えても答えは出ないので何も考えないようにしたのか。
その辺りの理由は俺にも分からなかったが、とにかく善逸の中である程度考えが整理されたり、纏められたりしたのなら、俺からはこれ以上何か言う必要はないだろう。
「なら、そろそろ戻るか? そろそろ機能回復訓練をやる必要があるだろ?」
そう言った瞬間、善逸の表情が明るくなる。
恐らくアオイのマッサージを思い出しているのだろう。
「そうですね」
すぐにでも戻りたいと言いたげな様子の善逸と一緒に、機能回復訓練をやってる場所に向かっていたのだが……向かいからしのぶとエリナがやって来るのが見えた。
あー……これは善逸にとってはちょっと問題のある出来事になるかもしれないな。
「アクセル、こんな場所でどうしたの?」
エリナのその言葉に、善逸はエリナを見て、しのぶを見て、そしてまたエリナを見て、最後に俺を見る。
「し……師匠!」
ん? てっきり血涙を流しながら迫ってくるのかと思ったが、善逸の表情に浮かんでいるのは尊敬と憧れの色だ。
これはちょっと予想外だったな。
「あー……うん、取りあえず落ち着け。この女はエリナだ。俺との関係は、お前が想像している通りで間違いない」
「師匠、こんなに美しい人と……やっぱり先生ですね!」
「ちょっと、師匠と先生のどっちなのよ? というか、アクセルを見習うというのは、普通の人にはお勧め出来ないわよ」
俺と善逸のやり取りを見ていたエリナが、呆れたようにそう言ってくる。
実際、その言葉は間違っていない。間違っていないのだが、善逸にしてみれば恋人が10人以上いる俺はやはり見習うべき相手なのだろう。
「善逸の件はいいとして。エリナとしのぶはどうしたんだ? 量産型Wとコバッタは?」
「取りあえず仕事をさせてるわ」
「……見てなくていいのか?」
エリナの言葉に、俺はしのぶに向けてそう言う。
俺やエリナにしてみれば、量産型Wやコバッタの性能は間違いなく一級品で、命じられた仕事は十分にこなせるだろうと思える。
だが、それはあくまでも量産型Wやコバッタを知っている俺とエリナだからの事であって、それらについて深くは知らず、また知ったのもつい最近となれば、しのぶがそこまで仕事を任せられるとは思わない。
それこそ、仕事がしっかりと終わるまでじっと観察していた方がいいのではないか。
そう思って尋ねたのだが、しのぶはそんな俺の言葉に首を横に振る。
「先程少し見た限りでは、問題ないと判断しましたので。……それにやって貰っているのは、そこまで複雑な作業でもありませんし」
そう告げるしのぶの言葉に、エリナもまた頷く。
この2人が納得してるのなら、俺からは特に何か言う必要はないな。
それだけの信頼度が、この2人にはある。
「先生、一体何の話ですか?」
「そうだな。善逸にとってはあまり面白くない話だと思うぞ」
「え?」
理解出来ていないといった様子ではあるが、それでも若干不安そうな表情を浮かべる善逸。
量産型Wが本格的に運用されるようになれば、当然だが善逸達がやっている機能回復訓練のマッサージも、量産型Wがやるといったような事になってもおかしくはない。
そうすれば、善逸は公然とアオイと密着するといった事が出来なくなるのだから、量産型Wの存在は善逸にとって面白くない。
あるいは、量産型Wが実は女のタイプもいたりすれば話は別だったかもしれないが。
そう思って、ふと疑問に思う。
そう言えば何で量産型Wって男型だけなんだ?
ラミアやエキドナの例を考えると、別に量産型Wに女型を作れないという訳ではないだろう。
量産型Wとラミアやエキドナのような、ナンバーズと呼ばれる者達は、使われている技術その物は同じなのだから。
その技術の精度とか、コストの問題で省略された技術だったりがあったりもするが。
つまり、量産型Wの場合でも女型は作ろうと思えば作れる筈。
それでも作らないのは……単純にコストの問題とか、そういう感じか?
あるいは、もっと別にレモンに何らかの理由があるのか。
「シャドウミラーから派遣された人員、当然男だが、そいつらが今日から蝶屋敷で働く事になった。多分、機能回復訓練とかもその連中がやるようになったりすると思う」
そう告げる俺の言葉に、善逸は思い切りショックを受けた表情を浮かべるのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1810
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1730