「嘘……だろ……」
誰が言ったのかは分からないが、そんな声が周囲に響く。
当然だろう。そこにあるのは、ムラタの持つ刀の切っ先を眼前に突きつけられ、身動きすら出来なくなっている獪岳の姿だったのだから。
輝利哉から聞いた話によると、獪岳は腕はそれなりに認められているものの、それはあくまでも上層部からの話で、同僚達の間では壱ノ型を使えないということで甘く見られている部分もあったらしい。
しかし、壱ノ型は使えなくても獪岳本人は相応の実力を持つ。
侮られたり、甘く見られたりといったようなことはあるのかもしれないが、それでも相応の実力の持ち主であると認識をしている者は多いらしい。
そんな獪岳だったが、雷の呼吸の技を幾つか使い、ムラタを攻撃していたものの……それはあくまでも相手の技を確認するという意味でのムラタの行動であり、その実力の底を見切ったと判断したムラタが攻撃に出ると、一瞬にして勝敗は決してしまった。
ムラタにしてみれば、呼吸というのがあるのは知っていたものの、実際にそれを自分の目で見たことはない。
だからこそ、まずは獪岳の使う呼吸を観察していたのだろう。
鬼殺隊の面々……それこそ輝利哉も含めて、信じられないといった様子を見せているものの、シャドウミラー側……俺、荒垣、凛、綾子、円、美砂にしてみれば、この結果は特に驚くべきものではない。
ある意味当然のものではあった。
ただ……勝敗とは別の意味で少し驚いているところもあったが。
「まさか、本当に雷の幻影が見えるなんて。呼吸というのは、一体どういうものなのかしら。綾子、分かる?」
「私に聞かれても、分かる訳がないだろ。ただまぁ、呼吸に習熟すればああいう風になるんだろうね。実際、雷の呼吸だっけ? それを見て、そこまで驚いている人はいなかったし。……まぁ、獪岳が負けたのを見て驚いてる人達は多いけど」
凛と綾子の言う通り、そして円や美砂も獪岳の使う雷の呼吸で見えた幻影に驚きを見せていた。
そんな者達とは違い……
「荒垣はそんなに驚いている様子はないな」
「ペルソナだって、ある意味幻影に近いだろ? なら、それを見慣れてる俺が、ああいうので驚いたりはしねえよ」
どうやらそういう事らしい。
とはいえ、ペルソナは実際には幻影ではなく、物理的に触れる事も可能だ。
そういう意味ではペルソナと呼吸の幻影は全く違うというのが正しいのだが。
この辺の認識というか、落ち着きぶりも荒垣らしいよな。
荒垣の様子に頼もしいと一瞥すると、俺は声を上げる。
「勝負あり! 模擬戦はこれで終了と……」
「待って下さい!」
終了とする。
そう言おうとした俺に向かい、周囲で今の模擬戦を見ていた剣士の1人が待ったを掛ける。
「獪岳がやられたのは、獪岳が弱いからです! これで鬼殺隊が弱いと思われるのは耐えられません! 俺に模擬戦をやらせて下さい!」
これもまた、獪岳が甘く見られているという証の一部なのだろう。
さて、そうなると……
「ムラタ、退け」
「む? 俺はこのまま連戦でも構わんが?」
構わないというよりは、ムラタにしてみれば未知の攻撃手段を持ってる相手と戦うのを楽しみにしているのだろう。
それは分かる。分かるが……
「ここでムラタだけが連勝しても、それだと俺達の中ではムラタだけが強いって感じになるだろ? なら、次は別の奴がいい。……綾子」
「え? 私かい? まぁ、アクセルがそう言うのならいいけど」
綾子はそう言いながらも、物干し竿を手に前に出る。
ざわり、と。
そんな綾子の姿を見た剣士達がざわめく。
とはいえ、鬼殺隊の剣士の中には女もそれなりにいる。
そう考えれば、ここで綾子が戦ってもおかしな事は特にないと思うんだが。
もしくは、綾子に驚いているのではなく、綾子の持つ物干し竿に驚いているのか。
物干し竿……洗濯物を干す、本当の意味での物干し竿ではなく、Fate世界で行われた聖杯戦争において、佐々木小次郎が使っていた、刀身の長い日本刀だ。
ゲイ・ボルクと違って、特殊な効果を持つ訳ではない。
それでも物干し竿の持つ迫力は、佐々木小次郎が使っていた武器ということで、一種独特の迫力があった。
「そ……そんな巨大な武器を、女のお前が使いこなせる訳がないだろう!」
綾子の持つ物干し竿を見て、自分が獪岳の代わりに模擬戦を行うと言っていた男が叫ぶ。
とはいえ、その気持ちは分からないでもない。
一般的に男と女の間では身体能力が大きく違う。
勿論、鍛えている女と鍛えていない男では、鍛えている女の方が強い。
しかし、ここは鬼殺隊。
鬼と戦う為に集まっている者達だ。
そうである以上、当然ながら純粋な身体能力という点では男の方が強いと思うのは当然の話だった。
だが……それはあくまでも一般的な話でしかない。
そして綾子はとてもではないが一般的な女に分類するのは難しい。
いやまぁ、間違いなく女ではあるのだが。
それは毎晩のように確認しているので無理もないし、鬼殺隊の中にも綾子の美貌に目を奪われている者がいるのだから明らかだろう。
「その辺は試してみれば分かるだろう? アクセル、合図をお願い」
「分かってると思うが、これは模擬戦だぞ」
言外に、殺したり大怪我をさせるなと伝える。
綾子もそんな俺の考えは理解したらしく、物干し竿を構える。
男の方も、こうなってしまえば逃げるといったような真似が出来る筈もない。
……綾子が物干し竿を構え、その刀身が全く震えていないのを見れば、綾子の力の強さは普通に理解出来てもおかしくはない。
もっとも相手を迷わせるという意味で切っ先を揺らすといったようなことをしたりするのは珍しくないのだが。
ともれ、そんな状況の中、俺は声を上げる。
「模擬戦、始め!」
開始の合図と同寺院、青色の刀身を持つ男が一気に前に出る。
綾子はそんな相手の様子に反応していないように見える。
男はそんな綾子の様子に笑みを浮かべ……
「え?」
次の瞬間、自分の手に握られていた日輪刀が消失している事に気が付き、間の抜けた声を上げた。
そして数秒が経過し、男はようやく事態を理解したのか信じられないといった視線を綾子に向ける。
いや、それは綾子と戦っていた男だけではない。
周囲にいた他の剣士達も、綾子が何をやったのかが分からなかったのだろう。
鬼殺隊の剣士、しかも輝利哉と共に俺達を迎える仕事を任されるような者達だ。
当然のようにそれなりに腕利きが揃っており、鬼との戦いを何度も生き延びてきた者達なのだろう。
にも関わらず、綾子の一撃を防いだり回避したりといった真似が出来なかった。
それどころか、一撃を見る事すら出来なかったのだ。
とはいえ……正直なところ、それはある意味でしょうがない事だ。
綾子はただの人間ではなく、半サーヴァントなのだから。
純粋な身体能力では、それこそ混沌精霊の俺や吸血鬼のエヴァに次ぐだけの能力を持っている。
ましてや、俺や凛と一緒に聖杯戦争を戦い抜き、その後は時計塔に留学した凛の相棒として様々な事件を潜り抜け、今は毎日のようにエヴァとの戦闘訓練を行っているのだ。
その実力は、それこそ柱よりも上なのは間違いない。
そんな綾子を相手にしているのだから、この結果は当然だった。
「さて、どうする? 今のが出会い頭だというのなら、もう1度やってもいいが」
「と、当然だ! 今のはちょっと……そう、ちょっと油断しただけだ!」
叫び、物干し竿によって吹き飛ばされた自分の日輪刀を拾って再び構える。
「だ、そうだ。綾子」
「分かったわよ。今ので納得するとは思ってなかったけど」
そう言い、物干し竿を構える綾子。
男は一切の油断なく、綾子の様子を窺っている。
「じゃあ……始め」
その言葉と共に綾子は瞬動で移動。
一瞬にして男の横まで移動すると、次の瞬間には物干し竿の刀身が男の首に突きつけられていた。
「な……」
何が起きたのか全く分からないといった様子の男。
理解出来ないという意味では、先程と同じではあった。
だが、今回は武器を弾かれた訳ではなく、気が付けば自分の首筋に刃が突きつけられていたのだ。
「勝負あり! ……ちなみに、まだ実力が信じられないのなら……凛」
「全く。魔術はそう簡単に人目に触れさせていいものじゃないのよ?」
そう言いながら、右手からガンドを放つ。
ドンッ、という……とてもではないが相手を病気にするような一撃とは思えない音が周囲に響き、少し離れた場所の地面に着弾して穴が空く。
まるで銃弾としか言いようがないその一撃は、銃弾は銃弾でもある意味まだ銃火器がそこまで発達していない大正時代の銃火器よりも威力は上でもおかしくはない。
「な……アクセルさん、今のは一体……血鬼術、ですか?」
「違う」
輝利哉が唖然としつつ尋ねてくるのを、即座に否定する。
何も知らない状況で今のを見れば、血鬼術と誤解してもおかしくはないが。
「魔術。あー……そうだな。分かりやすく言えば陰陽術みたいなものだ」
「アクセル?」
陰陽術といった比喩が気にくわなかったのか、不満そうに凛が言う。
とはいえ、大正時代の人間に分かりやすく教えるとなると、やはり陰陽術という表現が相応しいのは間違いない。
呪術と言ってもよかったが、呪術というのは少し人聞きが悪いしな。
とはいえ、俺のイメージだと陰陽術というのは札を使って術を行使するというイメージが強い。
あるいは前鬼や後鬼といったような存在を召喚するとか。
ネギま世界の関西呪術協会だと、そうやって召喚したのがファンシーな外見で、それを着ぐるみにしているといったような者もいたが……うん、それは取りあえず忘れておくとしよう。
「ちなみに、そっちの円と美砂の2人も、凛とはまた違った魔法や戦闘方法を得意としているぞ」
円と美砂の場合は、正確には魔法を使った戦闘方法ではなく、アーティファクトを使った戦闘を得意としている。
「で、荒垣は……後のお楽しみだな」
「おい、何で俺だけそうやって期待度が高くなるような真似をするんだよ?」
「実際、ペルソナ能力は色々と特殊だしな」
ネギま世界のように自分が生身で戦うのではなく、ペルソナに戦わせる。
勿論、ペルソナだけではなく自分でも戦うが。
ともあれ、ペルソナ能力はネギま世界の魔法のように、習得しようと思えば誰でも習得出来るようなものではない。
それこそ才能が全てだ。
だからこそ、ペルソナ能力を使える者は少ない。
「ともあれ、これで俺達が鬼を倒すだけの実力を持ってる事ははっきりとした筈だ」
荒垣からはまだ抗議の視線を向けられているものの、その視線は受け流しておく。
今の状況を考えれば、そちらよりも優先する必要のある事が多いのは間違いなかったのだから。
「そうですね」
俺の言葉に輝利哉が同意すると、他の者達も同意するしかない。
……いや、ただ1人獪岳だけがまだムラタを厳しい視線で睨み付けていた。
そしてムラタは、そんな獪岳を面白そうに見ている。
いわゆる承認欲求の塊みたいな獪岳だが、ムラタにしてみれば興味深い相手らしい。
いやまぁ、才能という点を考えると間違いなく一級品なのだろうが。
ムラタには伊之助の訓練をして貰うつもりだったんだが、いっそ獪岳もそれに混ぜてみたら面白いかもしれないな。
獪岳と伊之助……今の伊之助はともかく、炭治郎や善逸から聞いた伊之助の性格を考えると、かなり相性は悪いのは間違いない。
「相手の実力くらいは見抜けるようになった方がいいと思うけどな」
「鬼が相手ならともかく、別の世界の人が……それも私達には全く理解出来ない力を使う人達を相手となると、色々と勝手が違うんですよ」
「呼吸という反則技を使ってる時点で、どっちもどっちだと思うけどな」
この呼吸、習得出来ればシャドウミラーの生身での戦闘力はかなり上がるだろう。
とはいえ、本当に呼吸を使いこなすのはかなり難しそうではあったが。
「そう言われても、鬼殺隊にとって呼吸とは普通に使う技術ですしね。シャドウミラーの方々の使う技術の方が、私達から見れば驚きですよ」
「それは……まぁ、そうだろうな」
鬼滅世界の技術は呼吸に統一されているのに対し、シャドウミラーの場合は色々な世界の技術を取り入れている。
とはいえ、生身での戦いという点ではネギま世界の技術がベースになってるのだが。
凛や綾子のような例外もあるが。
「とにかく、こっちの実力ははっきりと見せた。これで不満を持っている者達も納得したんじゃないか?」
「だと思いますよ」
輝利哉の口調は若干の呆れがある。
輝利哉にしてみれば、シャドウミラーの存在を認められないという者がこれ程に出て来るとは思わなかったのだろう。
自分達だけで鬼を殺すと、そのように思っている者達にしてみれば、シャドウミラーは信用出来ないといったところか。
「ともあれ、まずは産屋敷家に行くか。……本来なら、産屋敷家のある場所は秘密じゃなかったのか?」
「そうですね。鬼殺隊の剣士はこの場で解散して、私だけがアクセルさん達と一緒に行動する予定です」
そう告げる輝利哉に、俺は本気か? と視線を向けるのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1810
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1730