転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編124話 UC世界にて

 UC世界における、ルナ・ジオンの首都、クレイドル。

 その中心にある政庁の執務室で書類を整理していたセイラは、扉がノックされた音で顔を上げる。

 

「構いませんよ、入りなさい」

「失礼します、アルテイシア様。少しこちらでは判断しかねることがあったのですが……」

 

 執務室の中に入り、そう言ったのはクラウレ・ハモン。

 ランバ・ラルの内縁の妻で、同時にルナ・ジオンにおける外交で実力を張っている女傑だ。

 セイラにしてみれば、ルナ・ジオンを建国すると決断した時に頼りにした人物の1人であり……同時に、セイラの記憶にはもう薄らとしか残ってはいないものの、幼少の頃にサイド3から兄のキャスバルと一緒に脱出する時に助けてくれた人物でもある筈だった。

 

「ハモン、どうしたのですか?」

「はい。L1宙域にある、サイド5についてブッホ・ジャンクから提案が来ました」

「L1宙域について?」

 

 そう答えながら、セイラはL1宙域について思い出す。

 1年戦争以前、L1宙域にはサイド5があった。

 しかしジオン軍の攻撃によって、コロニーの多くが攻撃され、コロニーが破壊された場所も多くなり、戦後の現在、連邦政府はサイド5を新サイド4として新たにコロニーのサイドを編成するという作業を行っている筈だった。

 また、1年戦争の攻撃によって多数のコロニーや軍艦、戦闘機、MSが破壊されており、そのようなデブリが集まってスペースデブリ帯を形成している場所としても知られていた。

 また、まだ噂程度ではあるが、ジオン軍の残党がデブリ帯で確認されたというものもあった。

 セイラはその提案なのか? と思いつつも、話を持ってきたのがブッホ・ジャンクからとなると、話は違ってくる。

 ブッホ・ジャンクというのは、大規模なジャンク業者だ。

 純粋なジャンク業者という事であれば、どのコロニーにもそれなりの数がいる。

 しかし、ブッホ・ジャンクはかなり大規模なジャンク業者だった。

 コロニーに多数存在するジャンク業者は、それこそコロニーの周辺に漂っているジャンクを集めるという者達だが、ブッホ・ジャンクは作業用の宇宙船を所持しており、コロニーから離れた場所にまでジャンクを集めにいける。

 それこそ、具体的には現在話題になっているL1宙域にあるデブリ帯の類にも。

 

「はい。アルテイシア様も知ってると思いますが、デブリ帯の中にはコロニーの残骸も多数あります。勿論、そのようなコロニーの残骸も連邦軍がサイドの新編成について修理可能であれば使うのでしょうが、中には破損が厳しく、修理するよりも新たにコロニーを製造した方がいい、という物もあります」

「そうでしょうね。それに下手に修理をしても、外から見えない場所に問題がある可能性もあると考えれば、そうでしょうね。連邦政府の事ですから、その辺を構わずに進める可能性もありますが」

 

 このUC世界において、連邦政府というのは非常に大きな勢力を持つ。

 そして連邦政府は……正確には連邦政府を構成している政治家の多くは、宇宙に住むスペースノイドを軽視している。

 1年戦争の影響で、地球に住む者達の中には軽視どころか憎悪を抱いている者すらも珍しくない。

 そういう意味で、スペースノイドが住むコロニーは適当でもいいと、そのように思う者がいてもおかしくはない。

 セイラとしては、そんな連邦政府に思うところはあるものの、ルナ・ジオンは連邦政府とは別の国である以上、その件で連邦政府を問い詰めるような真似は出来ない。

 あまりよくないといったように言うのなら、話は別だが。

 

「ブッホ・ジャンクが、修理が出来ずデブリ帯に捨てられているコロニーの回収をルナ・ジオンと共にやりたいと、そう申し出がありました」

「……ブッホ・ジャンクが? 何故そこで私達に?」

 

 ルナ・ジオンのジャンク屋も、それなりに多い。

 いや、正確にはそれなりどころではなく、かなり多かった。

 何しろルナ・ジオンのジャンク屋の場合、別に拾ってくるのはMSや戦艦、戦闘機といったようなジャンクではなく、それこそ宇宙を漂っている岩塊の類であっても、ルナ・ジオンは相応の値段で買い取るのだから。

 そうして確保された岩塊の類は、シャドウミラーに格安で販売され、キブツによって各種資源に変換され、シャドウミラーで使われたり、場合によっては他の世界への輸出品となる。

 岩塊をシャドウミラーに格安で売ってるのは、それこそルナ・ジオンがシャドウミラーの協力なくしては成り立たないからだろう。

 ルナ・ジオンの首都であるクレイドルも、正確にはシャドウミラーから借りてる代物だ。

 他にもシャドウミラーから協力して貰った事を思えば、岩塊を格安で売る程度のことは特に何の問題もなかった。

 1年戦争が終わった後で月に移住してきた者の中には、ルナ・ジオンがシャドウミラーによって食い物にされていると不満を抱く者も多い。

 しかし、大抵の者は事情を知っているので、そのような不満の相手をする事はなかったが。

 

「その辺は分かりません。モニクに少し聞いてみますか?」

 

 モニク・キャディラック。

 元ジオンという点ではルナ・ジオンに所属する多くの者とそう違いはないものの、総帥府のベーネミュンデ機関出身という、エリートだ。

 セイラもその人となりをそれなりに知っており、有能な人物だというのは理解している。

 ……アクセルとの関係に少し思うところはあるが。

 

「そうして下さい」

 

 セイラが頷いて許可を出すと、ハモンは部屋にある機械を操作し……やがて映像モニタにモニクの気の強そうな美貌が映し出される。

 セイラもハモンも、双方共に美人という言葉が相応しい美貌を持っているが、モニクもまたそんな2人に決して引けを取らない美貌を持っていた。

 

『どうしました?』

「現在、アルテイシア様の執務室にブッホ・ジャンクの件で来ているのだけれども」

『ああ、なるほど。その件でしたか』

 

 ブッホ・ジャンクの名前を出すだけで、モニクは何故自分に連絡が来たのかを理解したのだろう。

 小さく頷くと、改めて口を開く。

 

『ブッホ・ジャンクがコロニーの解体の件をこちらに持ってきたのは、幾つか理由があります。まず、利益を共有する事により、ルナ・ジオンとの関係を親密にする事。そして、連邦政府からの余計なちょっかい……単純に言えばピンハネを少なくする事が出来ますしね。他にも色々とありますが、大きくはこの2つかと』

「ピンハネ? 連邦政府がそのような真似を? ……いえ、連邦政府だからでしょうね」

 

 スペースノイド軽視の連邦政府だけに、そのような真似をしてもおかしくはない。

 スペースノイドに支払う金額を減らし、その差額を自分の懐に入れる。

 地球連邦の人間としては、おかしくない……どころかごく普通の行動。

 強硬派の中には、ピンハネどころか報酬の半分以上を奪うといったような者もいるのだから。

 だが……そこにルナ・ジオンが入ってくるとなれば、連邦政府も好き勝手な真似は出来なくなる。

 1年戦争において、連邦軍が勝利したのはルナ・ジオンの協力のおかげなのは間違いないのだから。

 もしルナ・ジオンが協力していなくても、連邦軍が勝利した可能性は高い。

 高いだろうが、その時に連邦軍が受けた被害は間違いなく増していた。

 また、ルナ・ジオンは唯一シャドウミラーとの交渉窓口を持っている勢力だ。

 そしてシャドウミラーがルナ・ジオンに対し、信じられない程の優遇をしているのは、誰の目から見ても明らかだった。

 そうである以上、連邦政府としてもルナ・ジオンを粗略に扱うような真似は出来ない。

 ……強硬派の中には、それでも妙な考えを抱く者もいるのだが。

 

「では、ルナ・ジオンとしてはブッホ・ジャンクに協力する事にデメリットはないと?」

『そうなるかと。ただし、ブッホ・ジャンクに支払う報酬をピンハネするつもりだった連邦政府の役人や政治家にしてみれば、面白くないと思うでしょうが』

 

 破損して修理が不可能なコロニーの解体。

 やる事はこれだけなのだが、規模が規模だけにかなり大規模な仕事となる。

 

(コロニー公社が出て来ないのは、修理不可能なコロニーだからでしょうね)

 

 コロニー公社は、1年戦争中にジオン軍でさえ手出しをしなかった組織だ。

 もっとも、それはあくまでも公になっている限りにおいての話であって、実際にどうなのかはセイラにも分からなかったが。

 

「では、協力しましょう。話を進めて下さい」

 

 そう告げ、モニクとの通信を切る。

 通信が切れるのを待ってから、ハモンが口を開く。

 

「アルテイシア様、本当によろしいのですか?」

 

 ハモンは、まさかセイラがここまで即決するとは思っていなかったのだろう。少しだけ驚いた様子を見せる。

 とはいえ、セイラが即断即決するのは珍しい話ではない。

 現在このUC世界において最高のニュータイプ能力を持っているセイラだけに、感覚でこれは正しいといったような物事の本質を理解するのは得意だ。

 

「ええ。そうしてちょうだい。……ブッホ・ジャンクの件はこれでいいとして、他に何か報告は?」

「木星から運ばれてくるヘリウム3について、連邦軍がそれとなく探っているようです」

「……でしょうね」

 

 このUC世界において、ヘリウム3というのは一種の戦略物資だ。

 木星からしか入手出来ず、木星までは片道数年の距離となる。

 正確には月にも微量のヘリウム3があるのだが、資源として使うには非常に少ない量でしかない。

 ミノフスキー物理学によって製造された核融合炉に、ヘリウム3は必須だ。

 連邦政府としては、ルナ・ジオンとはそのヘリウム3を使った取引をしたかったのだろう。

 だが、ルナ・ジオンがヘリウム3に困っている様子はない。

 その理由としては、転移技術を持っているシャドウミラーの協力を得ている為だ。

 UC世界では片道数年だが、転移技術を使えば片道数秒も掛からない。

 おまけにルナ・ジオンは木星でヘリウム3を採取しているコロニーとも友好関係を築いており、かなり格安でヘリウム3を購入していた。

 木星のコロニーに住んでいる者にしても、数年に1度しか来ないような相手よりも、一瞬で月と木星を行き来出来る相手との方が、取引はしやすい。

 普通に移動する船団は、木星のコロニーに対する補給物資も持っていくのだが、当然だが持っていける量には限りがあり、生活必需品……それも生きるのに必要な最低限といったことになる事も多い。

 それに対し、ルナ・ジオンは転移ですぐにでも月と木星を行き来出来るので、生活物資以外にも娯楽品の類を運ぶ事も多い。

 シャドウミラーのミナトやエリナから、ゲキガンガー3というアニメを持っていったらどうかと勧められたところ、それなりに人気が高かったのはセイラにとっても少し意外だった。

 

「バッタや量産型Wがいる以上、連邦政府や連邦軍のスパイが行動するのは難しいでしょうが、それでも注意を」

「ええ。とはいえ、このままだとヘリウム3の貯蔵量が一杯になってしまいかねません。連邦は無理でも、ジオン共和国に売るのを検討してはどうでしょう?」

 

 ガルマ・ザビが代表を務めているジオン共和国は、ルナ・ジオンにとっても友好国だ。

 そんなジオン共和国は、ジオン公国の敗北を認めない者達のテロに困らされていた。

 それこそ、以前はヘリウム3の貯蔵施設を襲撃され、かなりの量を奪われたとセイラも聞いた事がある。

 ジオン軍の残党は多数存在しており、それがジオン、連邦双方共にとって頭の痛い問題となっていた。

 ジオン軍の残党の賢いところは、ルナ・ジオンには攻撃をしてくる様子はないといったところか。

 もしルナ・ジオンに攻撃した場合、それこそルナ・ジオン軍の精鋭が出て来るのを知っているのだろう。

 ジオン軍は1年戦争においてルナ・ジオンと戦い、大きな被害を受けている。

 それを知っているからこそ、迂闊にルナ・ジオンに手を出すのは危険だと理解しているのだろう。

 中には幸運にも……あるいは不幸にもルナ・ジオン軍と戦わずに1年戦争が終わり、ルナ・ジオン軍の強さを直接知らず、自分達なら何とでもなると考えているような者もいるのだが。

 それでも、幸いにもその手の敵がルナ・ジオン軍に攻撃をするといったような事例は今のところ行われてない。

 

「それとなく、ジオン共和国にヘリウム3を売るという提案を」

「その場合、連邦にヘリウム3の件を知られてしまう可能性もありますが?」

「そうなったらそうなったで構いません。連邦政府がこちらを怪しんでも、連邦軍に命じて実力行使……などといったような真似は、まず不可能でしょう。であれば、対処する術は幾らでもあります」

 

 そう断言するセイラに、ハモンは少しだけアクセルを思う。

 セイラがここまで過激な行動をするようになった原因の1つには、間違いなくアクセルの存在があるのだから。

 大事な姫様をこのように染めて……と、そう考えながらも、ハモンはセイラに命じられた仕事をこなすべく、執務室を後にするのだった。


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