ラウの国に協力しないで欲しい。
そんな俺の言葉に対し、シーラはそのような真似は出来ないと、きっぱりと断ってきた。
そんなシーラの様子は、まさに凛とした表情と言ってもいいだろう。
普段ならその姿に見惚れてもいいのだが……今の状況を考えると、そのような真似をしてもいられない。
交渉をしに来た以上、こちらの要望を言ってそれは受け入れられないと言われた程度ですぐに諦めるような真似は出来ない。
いやまぁ、こっちの要望を素直に受け入れてくれればそれが一番手っ取り早かったというのも、事実なのだが。
とはいえ、こちらの意見は言った。
それをシーラは断った。
そうなると、ここからが交渉の始まりとなる。
「もしラウの国と協力するのを止めたら、相応の謝礼品を渡すが?」
「そういう問題ではありません」
そちらにも利益があるといったような事を口にしたのだが、シーラは躊躇なくそれを断る。
まさか、ここまで躊躇がないとはちょっと驚きだが……さて、どうしたものか。
「もしラウの国に協力するとなれば、当然だがアの国やクの国と敵対する事になるんだが、それは全て承知の上だと?」
「当然でしょう。ナの国の女王として、私はやるべき事をやるだけです」
さて、どうしたものか。
そうして考えていると、シーラもこちらを見ながら何かを言いたそうにしているのに気が付く。
一体何を言いたいんだ?
「アクセル王、貴方の話は分かりました。ですが、この件は既に動いているのです。そう簡単にどうにか出来るものでありません」
それが、シーラとの最初の交渉が終了する合図だった。
「いや、まいったな。ここまで交渉するのが難しい相手だとは、思ってもいなかった」
ヨルムンガンドのブリッジで、俺はキブツに今回の交渉についての話をしていた。
話というか、半ば愚痴っているといった表現の方が相応しいが。
「そこまで酷かったんですか?」
「酷いというよりは、自分の決めたことはそう簡単に曲げようとはしないといった感じかしら。まさか、ナの国の女王があのような人だというのは、少し驚いたけど」
キブツに話を振られたマーベルは、苦笑と共にそう告げる。
そんなマーベルの言葉に、キブツも困ったように納得していた。
キブツにしてみれば、今回の交渉は可能な限り成功させたいとは思ってはいるのだが、それでも最初から交渉が難しいというのは予想していたのだろう。
正直なところ、俺はこの交渉を少し甘く見ていたのは事実だ。
オーラバトルシップのヨルムンガンドを見せつければ、それによって向こうもこちらの力を警戒し、俺達とぶつからないようにと、そんな風に考えるのかと思っていたのだが。
「それで、どうするの? 今日の様子を見た感じだと、交渉するのは難しそうだけど」
「どうするって言われてもな。今日は交渉するのすら難しそうだったが、だからといって向こうも別にこちらと敵対したい訳じゃないだろ? まぁ、向こうは大国だから、どうにかなると思ってるのかもしれないけど」
シーラを含め、ナの国の者達はまだアの国やクの国が具体的にどのような戦力なのかは、理解出来ていない。
ヨルムンガンドを見て、こちらの戦力を想像するような真似は出来るのかもしれないが、それでも結局は想像であって実際ではない。
……想像力の強さというのを考えると、あるいは実際のアの国やクの国よりも強力な戦力であると考えている可能性もあるのかもしれないが。
「けど、今日の様子を見る限り、それは難しそうよ?」
「そうか? 俺が見た感じだと、交渉はそれなりに何とか出来そうだったけど。……正確には、向こうにも交渉する気はあるだろうってところだが」
これは、あくまでも俺がそう思っているだけで、何らかの確信がある訳ではない。
だが、今日のシーラの様子を見る限り、恐らく俺の判断はそう間違っていないと思う。
……何らかの確証がある訳ではないが。
そんな風に考えていると……
「うわっ!」
不意にブリッジ要員の1人がそんな声を上げる。
一体何だ? と俺を含めてブリッジにいた者達が視線を向けると、そのブリッジ要員は窓の方を見て驚いたいるのが見えた。
そして窓を見ると……
「なるほど」
そこにフェラリオのエルが張り付き、何度も拳で窓を叩いているのを見て、それで驚いたのだろうと納得する。
「あら? あのフェラリオ……シーラ女王のところにいた子よね?」
「ああ。ベルとかいう子供のフェラリオと一緒にいたフェラリオだな。シーラからの伝言でも持ってきたか、それとも単純にヨルムンガンドが興味深くて見に来たのか」
フェラリオという種族の特性を考えれば、どっちでも普通にありそうだから困る。
ただ、エルが俺を指さして何か騒いでおり、そうしながら小さな手で窓を叩いているのを見れば、恐らくシーラからの伝言か何かという可能性が高いのは予想出来た。
「取りあえず、中に入れてやれ」
ブリッジの窓は開かないようになっている以上、エルをヨルムンガンドの中に入れるには、一度大きく回り込んでどこからか中に入れるようにする必要がある。
俺の指示に、ブリッジクルーがエルを中に入れるようにする為に、ブリッジから何人か駆け出すのだった。
「もう、遅いじゃない! もっと早く気が付いてくれてもいいと思うんだけど!」
ブリッジに入ってきたエルは、不満そうにそう叫ぶ。
「そう言われてもな、エルだったよな? お前が来るって話は聞いてなかったし」
「しょうがないでしょ、シーラ様からの秘密の任務なんだから」
「シーラからの?」
やはりシーラからの伝言だったらしい。
そのことに喜ぶ。
こうしてシーラからわざわざ俺達に向かって接触してきたという事は、ラウの国の件に関して決して交渉出来ないという訳ではないのだろうと、そう思った為だ。
「それで? シーラからは何と?」
「シーラ様が、あんたと会いたいそうよ。それで、そっちの女の人も一緒に来てもいいらしいわ。ほら、案内するから早く来てよ」
「今からか?」
「勿論、そうに決まってるでしょ」
それが当然といった様子で俺の言葉に頷くエル。
いや、この状況でそんな事を言われても……まぁ、シーラと会う機会を逃す訳にはいかないか。
「マーベル、どうだ? 俺はこのまま行っても構わないけど」
「私も構わないわ」
そういう事で、予想外の展開ではあったが再度シーラと会談をする事に決まる。
「キブツ、俺とマーベルが出ている間のヨルムンガンドの事は頼む。ここでナの国が妙な真似をするとは思えないが、全員がそうだとは思えないしな」
ナの国は、シーラという強いカリスマを持つ人物によって治められている国だ。
それは、今日の謁見の間での様子を見れば明らかだろう。
だが、だからといってナの国の全てをシーラが完全に把握しているとは限らない。
世の中には、自分の利益だけを考えている者も決して少なくない。
また、シーラが高いカリスマ性を持つとはいえ、それでもまだ10代半ばという年齢でしかない。
国を治めるという事は、どうしても経験が必要となる。
例えば、表向きはシーラに従っていても、腹の中ではシーラを追い落とそうと考えている者がいてもおかしくはない。
あるいは、シーラの美貌を考えると追い落とすのではなく自分の女にしたいと考えるか。
その辺は人それぞれだが、とにかく現状でナの国のような大国をシーラのような少女が完全に把握しているというのは……やっぱり無理があると思う。
あくまでも俺がそう思っているだけで、実際のところは分からないが。
「何よ、シーラ様は凄いんだからね! シーラ様が命令しないような事を、する筈がないじゃない!」
俺がキブツにした命令を聞いていたエルが、不満そうに叫ぶ。
こうして見ると、エルも完全にシーラに心酔しているらしいな。
この辺のカリスマ性はさすがといったところか。
「シーラ本人はそのつもりがなくても、部下の中にはシーラの為と思って、よかれと妙な行動に出る奴もいるかもしれないだろ?」
実際、その判断は決して間違っているとは言い切れないのだ。
オーラバトルシップに乗って俺達がやって来たのを、これ幸いと殺すか、もしくは捕らえる事が出来れば、ヨルムンガンドという最新鋭のオーラバトルシップはそのままナの国の物になる。
ラウの国に協力しているという事を考えれば、ヨルムンガンドをその戦いに投入出来れば大きなアドバンテージになるだろう。
あるいは、今までになく自動化されており、機械の館まで内部に存在するという技術を欲して解析をするといったような感じでもいい。
そんな訳で、その判断そのものは正しい。……ただ、俺がマーベルを始めとする普通の聖戦士と違い、生身でも恐獣やオーラバトラーと戦うだけの実力を持っているというのが、唯一にして最大の計算違いになるだろうが。
シーラからその辺の情報を聞いていないのか、あるいは聞いてはいても信じていないのか。
もしくは、シーラ自身が俺にはそれだけの力があるというのを知らない……いや、これはないか。
シーラはラウの国と協力関係を結ぶ際に、俺達の情報を得ている筈だ。
そんな中で、当然だがギブン家から俺の情報を得ていないというのは、ちょっと考えられない。
「そう言われると……城の中には、シーラ様大好きって人が多いしね」
エルが暗に俺の言葉を認める。
本人にその気があるのかどうかは、また別の話だったが。
ともあれ、キブツに何かあった時の対処を言うと、俺とマーベルはエルの案内でシーラに会いに行く事になる。
……影のゲートを使おうか? と思ったのだが、その辺の情報があるのかどうか分からないし、エルが影のゲートを使った時にどういう反応をするのか分からないので、取りあえず歩いて行く事にするのだった。
エルの案内によって、城の中の一室に入る。
当然の話だが、女王とはいえ若い女と夜に会うのだ。
色々と間違いが起きたり、もしくはそんな話が広がらないようにと考慮する必要があり……俺がマーベルを連れてきたのと同様に、シーラの方も中年の男を1人連れてきていた。
「この者はカワッセ。私の腹心の部下です」
「そうか。ならこっちも自己紹介をしておいた方がいいな。マーベルだ」
シーラの紹介にカワッセが頭を下げると、マーベルも俺の言葉に従って頭を下げる。
「あたしはね、あたしはね、ベル!」
と、謁見の間にもいたフェラリオが飛んできて、そう告げる。
この様子を見ると、やっぱりまだ子供なんだろうな。
それはそれでいいんだが、これから真剣な話をする以上、出来ればベルには騒いで欲しくないんだが。
そんな俺の視線を受け取ったシーラは、俺が何を言いたいのか理解したのだろう。
ベルを見て、口を開く。
「ベル、厨房におやつを用意してありますから、食べてきなさい」
「いいの、シーラ様!?」
「ええ。たまにはいいでしょう。エルもベルの面倒を見てあげなさい」
「はーい」
エルの方は、何を考えてシーラがこのような事を言ったのか理解しているのだろう。
少し不満そうな様子を見せつつも、ベルを連れて部屋を出ていく。
エル……というか、フェラリオの性格を考えれば、これから行われるような真面目な話というのはあまり好みでないからだろう。
「さて、では話に入りましょう」
「出来れば、詳しい話は謁見の間の時にして欲しかったんだけどな」
「こちらにも色々とあります。……大いなる者よ」
大いなる者?
シーラの口から出て来た言葉に、少しだけ驚く。
俺をそんな風に表現したからという訳ではなく、以前にも俺に同じように言った者がいたからだ。
その時は、大いなる者ではなく大いなる存在という呼称だったが。
俺を大いなる存在と言ったのは、ミの国で会ったエレ。
当初はただの貴族の娘だとばかり思っていたのだが、実際にはピネガンの娘……つまり、王女だった人物。
「俺をその名で呼ぶって事は、エレと知り合いなのか? まぁ、有り得る事ではあるけど」
エレもまた、ピネガンと共に現在ラウの国にいる。
ピネガン共々、扱い的にはそこまで重要ではないといった感じらしいが、それでもナムワンとダーナ・オシーをそれなりに有しているピネガンは戦力としては頼りになる。
また、それを抜きにしてもエレは相手の本質を見るというか、俺を普通の人間ではなく大いなる存在と表現したのを見れば分かる通り、普通はない力を持っていた。
それだけに、ピネガンの件はともかくとして、孫娘は別とフォイゾンが考えてもおかしくはない。
「手紙で話をしたくらいですが。正直なところ、大いなる存在というのは少し大袈裟ではないかと思っていました。しかし、今日謁見の間でアクセル王を見た時……そして、こうして私の目の前にいるのを見れば、分かります。確かに貴方は大いなる存在と呼ぶに相応しい」
この様子からすると、エレもそうだがシーラもまた何らかの特殊な能力を持っているのか。
まぁ、そういう能力でもなければカリスマとかはあってもナの国をしっかりと統制するのは難しいか。
そんな風に思いながら、俺は改めてシーラとの会談に臨むのだった。
アクセル・アルマー
LV:43
PP:1570
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1987
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1682