マーベルがルフト領に向かう事に賛成したのは、俺にとっても幸運だった。
だが……いざ行動しようとした時、大きな問題にぶち当たってしまう。
それは、肝心のルフト領がどこにあるのか分からないという、致命的な一件。
ここが現代……例えばマーベルのいた地球なら、書店に行けば地図を購入するといった真似は出来るだろう。
だが、ここは現代ではなくファンタジー世界だ。
当然そのような世界ともなれば、地図というのは非常に大きな意味を持ち……場合によっては、国家機密レベルであってもおかしくはない。
そんな訳で、ルフト領に行くというのは決まったものの、問題なのはどこに向かえばルフト領があるか分からないという事か。
いっその事、俺が空を飛んでルフト領を探すか?
もしくは、ミロンガ改かサラマンダー辺りを出して移動するか。
同じ人型機動兵器だと判断すれば……いや、駄目だな。そうなると騒動が大きくなりすぎる。
であれば、やっぱり誰かに聞くなりなんなりして移動するしかない訳なのだが……そうなるとネックになるのは、俺とマーベルがフラオンに指名手配されている可能性が高いという事だろう。
今の状況を考えると、出来れば城下街には戻りたくない。
不幸中の幸いなのは、この世界では通信機の類が殆どないという事か。
いや、もしかしたらあるのかもしれないが、少なくても昨日色々と動き回った感じではそれらしいのはなかった。
だとすれば、エルフ城から人がやって来るよりも前にこの場から離れればいい。
フラオンも、服の事でそこまで本気になって俺達を探すといった真似はしないと思うし。……いやまぁ、フラオンの性格を考えると、意外と意地になる可能性も否定は出来ないが。
そんな訳で、俺とマーベルは取りあえず出来るだけ早くエルフ城から離れる事にしたのだが……
「……」
俺の腕の中で、マーベルは顔を赤く染めて黙り込んでいる。
顔が赤いのは、羞恥か照れか。
俺の腕の中で横抱き……つまり、お姫様抱っこと呼ばれる状態で道を走っているのだから、マーベルが恥ずかしく思うのは当然だろう。
だが、マーベルと俺の身体能力が違いすぎる以上、これは仕方がない。
役得と思わないでもなかったが。
「ねぇ、今更だけど、影のゲートだったわよね。あれで移動出来ないの?」
俺達と入れ違いにエルフ城に向かう馬車の御者の視線から隠れるようにしながら、マーベルがそう尋ねてくる。
「出来るかどうかと言われれば、それは出来る」
「ちょっ! なら!」
「落ち着け。けど、そうすればこの世界については殆ど分からないままになるだろ? なら、今は少しでも早くこの世界についての色々な情報を仕入れる事が先だ」
「……だからって、これはないでしょ」
「心頭滅却すれば火もまた涼しって言うだろ? 禅の境地で羞恥心を捨ててみたらどうだ?」
「禅を馬鹿にしてる?」
不満そうにこっちを見てくるマーベルだったが、取りあえずそれはスルーしておく。
別に禅を馬鹿にしている訳じゃないが、そんな風にとられても仕方がなかった為だ。
「ともあれ、情報を集める為には影のゲートを使って移動するよりも、こうして普通に移動した方がいい。出来れば、どこかの村とかには寄らないで、ルフト領の場所を聞きたいしな」
「……普通?」
何やらマーベルが呟いていたが、今の状況は特に何の問題もなく普通だと言ってもいいと思う。
「そんな訳で、最善なのは昨日みたいに通りすがりからルフト領に続く道を教えて貰うことだ。……そうなれば、こっちにとっても色々とやりやすい状況になるのは間違いないし」
「それはそうかもしれないけど……それでも、これはちょっと異常じゃない? せめて普通におぶってくれれば、私も楽なんだけど」
「そうかもしれないけど、出来ればこっちがいいな」
「……何で?」
「いや、おぶるってことはマーベルの上半身が俺の背中に体重を預ける格好になるだろ? そうなると、こっちとしては幸せな感触を味わうことが出来るけど、色々と気まずいし」
「え? ……っ!?」
俺が何を言いたいのかを理解したのだろう。
マーベルの顔は真っ赤に染まる。
「ばっ! 馬鹿!」
「だろ? だから結局こういう運び方がいい訳だ」
「うう……どっちも恥ずかしいのね」
それ以降はマーベルも何も言わなく……言えなくなったというのが正しいのか? ともあれ、そんな感じで移動をする事、1時間程。
普通なら、マーベルのような女を横抱きにして1時間近く走り続けるのって、結構厳しいんだが……俺の場合はそんなのは気にしなくてもOKだ。
マーベルは成熟した女らしい身体をしている分、どうしても体重は上がるんだよな。
そんな事を言えば、間違いなくマーベルから責められるだろうから絶対に言うつもりはないけど。
そして……やがて道の先をこちらに向かって歩いてくる数人の集団を見つける。
荷物の類を持っていないということは、商人の類じゃないのか?
ともあれ、その集団は俺とマーベルを見ると驚きで動きを止める。
……やっぱり、女を横抱きにして運ぶというのは色々と衝撃的だったらしい。
マーベルも現在の自分の状況を人に見られたという事で、余計に顔を赤くしていたが。
そんな者達の前で、俺は足を止める。
向こうにしてみれば、俺はこのまま通りすぎると思っていたのか、俺が足を止めたことでマーベルを見たのとは別の意味で驚いた様子を見せていた。
「ちょっといいか?」
「あ、ああ。それは構わないが……あんたらは?」
「旅の者だ」
「無理があるわよ」
旅の者という言葉に腕の中のマーベルが小さく呟く。
しかし、その声が聞こえたのは俺だけだったらしい。
「ちょっと道を教えて欲しいんだけど、構わないか?」
そこまで言って、この連中がこれからエルフ城や城下街に向かうのなら、今から俺達が行く場所を教えるのは不味いのでは? と思ってしまう。
取りあえず、ルフト領に行くといったような事を聞かずに、どこに行けばどのような場所があるのかといった事を尋ねた方がいいな。
「あ、ああ。それは構わんが……何を聞きたいんだ?」
呆気にとられた様子で集団のリーダー格の男がそう答える。
普通なら、それこそ情報料とかを要求されてもおかしくはないんだが……いや、これは単純にマーベルを横抱きにしている俺の姿を見て、妙なちょっかいを掛けない方がいいと判断したとか?
「あっちの方に行けば何がある?」
「あっち? ……いや、特に何か村の類はないが」
「いや、そういう意味で近くじゃなくて、もっと向こう側だよ」
「……クの国とリの国がある方向だと思うが?」
「その手前は?」
「手前って……ギブン家の領地だな」
「ギブン家か」
その名前は、昨日から色々と集めた噂話……いや、情報の中で何度か聞いた名前だな。
アの国の中でもドレイクと肩を並べるくらいに広い領土を持っており、貴族の中でもかなりの影響力を持っているらしい。
それでいて、現在の当主は人格者で下の者にも慕われているとか。
ただし、ドレイクとの関係は以前は良好……とは言わないまでもそれなりに悪いものではなかったのだが、最近ではドレイクとの対立も増えているとか何とか。
この辺はルフト領でオーラバトラーが開発されたのが関係しているのか?
これまで色々な世界を巡ってきた身としては、その説明に強く納得出来るものがある。
基本的に今まで人型機動兵器を開発された世界においては、それはかなりの威力を発揮していた。
その辺の事情を考えれば、オーラバトラーやオーラボムを開発したルフト領をギブン家が警戒してもおかしくはない。
……もっともエルフ城の格納庫にあったゲドを見る限りでは、とてもではないが性能が高いとは思えないが。
何しろ、部品の調達とかも上手く出来ないらしいし。
精密機器である人型機動兵器で、あのようなメカニックの有様を見れば……とてもではないが、その機体に乗りたいとは思えない。
「そんなに平民に優しい領地なら、ちょっと行ってみてもいいかもしれないな。ギブン領に行く道を教えてくれないか?」
「そう言われてもな。ギブン家は大きいから、街道沿いに行けばいい。途中で何ヶ所か分かれ道があるけど、その時は近くにいる奴に聞いてくれ。そうすれば、ギブン領に到着するだろうよ」
そうして話を終えると、俺は道を教えてくれた者達と別れる。
「……ルフト領に行くんじゃなかったの?」
別れてから少し時間が経った後で、今まで黙っていたマーベルがそう尋ねてくる。
ちなみにマーベルは、横抱きにされている自分を見られるのが恥ずかしかったのか、俺が先程の連中と話している時は顔を向こうに見せないようにしていた。
つまり、俺の胸に顔を押しつけるといったような形になっていた、というのが正しい。
そうして情報を教えてくれた者達から離れた事により、ようやくマーベルは顔を上げたのだ。
「そうだな。予定は変えていない。ただ……俺達はフラオンに追われるだろ? で、あの連中は今からエルフ城……その城下街だろうが、そこに向かう。だとすれば、ここで真っ正直に俺達がルフト領に行くなんて事を言えば、エルフ城で似顔絵でもあったら俺達がどこに向かったのかはすぐに分かるだろ」
服を売った店、そして宿。
少なくても、その2つでは俺とマーベルの顔を知っているので、似顔絵を描く事は可能だろう。
写真の類は、多分このファンタジー世界にはないと思うが……絶対とは言えないな。
ともあれ、先程の連中がエルフ城に行って似顔絵の類を見れば、兵士達に俺とマーベルがギブン領に行ったという情報を話してもおかしくはない。
……エルフ城の兵士は、決して住人に好かれているようには見えなかったので、もしかしたら俺の情報を話さないという選択もあるかもしれないが、そんなもしもに期待する訳にはいかない。
「でも、それだとルフト領はともかく、ギブン領には迷惑を掛けるんじゃない?」
「その可能性は否定出来ない。それでもギブン領で調べて問題がないようなら、多分すぐに捜索は打ちきられると思う」
これは絶対にそうなると確信してる訳ではないが、昨日見たフラオンはかなり飽きっぽいように見えた。
であれば、俺とマーベルを探してギブン領まで行って、それでも結局俺達を見つける事が出来なかった場合……面倒になって捜索を止めるという予想は、そんなに間違っているとは思えない。
「ギブン領には若干迷惑を掛けるかもしれないが、これから世話になるルフト領に迷惑を掛けるよりはいいだろ?」
「……それなら、どちらにも迷惑を掛けないようにすればよかったんじゃない?」
「そう言われても、出来る事と出来ない事があるんだからしょうがない。マーベルならさっきの場合はどうした?」
「急に言われても分からないわよ。でも……後で機会があったら、ギブン家に謝った方がいいんじゃない?」
「そうだな。多分、機会はそう遠くないうちにあるだろうし」
俺達はルフト領に行く予定だ。
実際にルフト領でどのような事になるのかは分からないが、それでも上手くいった場合はドレイク家によって匿われるといった形になるだろう。
そしてルフト領とギブン領は隣り合っている以上、接触する機会はそれなりに多い筈。
もし何かあったら、その時にそれとなく謝罪か感謝を示せばいいだろう。
ともあれ、ギブン家に対しての扱いはマーベルも納得したのか、それ以上不満を口にする事はなかった。
「よし、取りあえず街道沿いに行けばいいって話だったらい……分かれ道のある場所までは、影のゲートで移動するか。マーベルもそれでいいか?」
その言葉に、マーベルは少しだけ不満そうにする。
影のゲートに沈む時の感触というのは、独特のものがある。
人によってはその感触を何とも思わないといった者もいるが、中にはどうしても慣れないという者も多い。
何度も影のゲートを使えば、ある程度慣れたりもするのだが……生憎と、今の状況ではまだマーベルはそこまで慣れていないらしい。
いやまぁ、まだ1回しか使ってないんだから、それも当然なんだろうが。
「もし影のゲートで転移するのが嫌なら、このままの状態で走ってもいいけど?」
「……影の転移でお願いするわ」
数秒の沈黙の後、マーベルは不承不承といった様子でそう告げてくる。
マーベルにしてみれば、横抱きのままで晒し者になって移動するか、それとも影の転移を使って慣れない感触を味わいつつも一瞬で転移するのか。
そのどちらかを選んだ場合、後者の方がまだマシだと、そう考えたのだろう。
俺は最初こそ若干違和感があったが、影のゲートについてはすぐに慣れた。
エヴァからも以前ちょっと話を聞いた事があったが、同じ感じだったらしい。
そう考えれば、納得出来ない事もない……か?
影のゲートに沈んでいきながら、そんな風に思うのだった。
アクセル・アルマー
LV:43
PP:1290
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1987
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1637