「うわぁ……美味しい。カロリーが気になるけど、これは手が止まらないわ」
そう言いながら、ミユは皿の中のパスタを口に運ぶ。
ただのパスタではなく、この店の店主が自分の料理に合うように、小麦粉を選び、水の量も調整したパスタだ。
そんなパスタがクリームシチューをベースにしたソースに絡まっている光景は、どこかカルボナーラを思わせる。
うん、実際美味そうなのは間違いない。
とはいえ、ミユの食べている料理だけではなく、俺の前にある料理も美味い。
タンシチューとビーフシチュー。
牛タンといえば、食感が大きな特徴だろう。
焼き肉とかバーベキューとかでは特にそうだ。
そんな中、この牛タンシチューは長時間煮込まれている影響か、そんな牛タン特有の食感は全くない。
非常に柔らかい食感を持つ肉になっている。
……ビーフシチューで牛もも肉を長時間煮込んでも同じように柔らかい肉になるのだが、それでもこの牛タンとは明らかに違う。
調理方法の問題なのか、それとも肉の部位の問題なのか。
その辺は俺にも分からなかったが。
ただ、俺の家の中では家事のスペシャリストと言ってもいいマリューや千鶴でもそうなのだから、恐らく技術ではなく肉の部位の問題なんだと思う。
そんな風に考えながら、水で一旦口の中をリセットして、次にビーフシチューにスプーンを伸ばす。
こちらは牛すね肉を長時間煮込んでいるらしく、唇だけで噛み切れそうなくらい柔らかい食感を持つ。
そんな牛すね肉とジャガイモやニンジンを口の中に入れると、渾然一体とした味を楽しめた。
「美味い」
「……アクセルって、本当に美味そうに食うよな」
呆れたように言うフォルドの前には、グラタンが置かれている。
ルースから煮込み料理が美味いと聞いているのに、わざわざ煮込み料理ではなくグラタンを頼んでいる辺り、フォルドのひねくれ具合が分かる。
「美味いだろ? それともグラタンは美味くないのか? 俺から見ると、かなり美味そうだけど」
実際、たっぷりの具材がホワイトソースで包まれ、上には粉チーズを振って焼き上げたそのグラタンは、サイドメニューという訳でなく十分立派な……それこそメインの料理と呼ぶに相応しい様子だった。
量もかなりあり、それこそミユなら1人で食べるのが無理ではないかと思える。
そんなグラタンが美味くない訳がない。
そう思いながら尋ねたのだが、次の瞬間には当然だろうといった様子で、フォルドが口を開く。
「美味い、それは間違いないけど、それでもアクセルみたいにあからさまに表に出すのはどうかと思う」
「美味い料理は素直に美味いって言った方がいいと思うけどな」
「そうだな。アクセルの言葉は正しい」
クリームシチューを味わいながら食べていたルースが、そう呟く。
ちなみにクリームシチューは鶏肉が見るからに美味そうな様子で入っている。
グラタンも美味そうだし、パスタも美味そうだ。
どれも追加で注文するべきか?
そう考えている間にルースとフォルドのやり取りが終わり、俺達はまた食事に戻るのだった。
「あー、美味かった」
「……信じられない。あんなに食べたのに……」
隣でじっと俺の様子を見ているミユが、その言葉通り信じられないといった様子の視線を向けてくる。
その気持ちも分からないではない。
結局、クリームシチューとグラタン……ではなくラザニアを追加で注文したし、パンも何個か追加で注文したしな。
ぶっちゃけ、この一食で俺がどれだけのカロリーを摂取したのかは……ミユだったら、ムンクの叫びの如き表情を浮かべてもおかしくはないくらいのカロリー量だ。
いやまぁ、そもそも普通なら俺が食ったのと同じだけの量を食ったりは出来ないだろうけど。
「軍人なんだから、訓練も厳しいだろ? そこまで節制しなくてもいいと思うんだけど」
そう告げるが、ミユから向けられるのは不満そうな視線だけだ。
ミユにしてみれば、俺の言葉には素直に納得出来ないのだろう。
そこまで気にする必要はないと思うんだが……ともあれ、今の状況では何を言っても無駄か。
もしくは、ミユはオペレーターである以上、普段からそこまで厳しい訓練をしないのかもしれないな。
これがMSのパイロットや歩兵だったりすれば、かなり厳しい訓練を受ける事になるのだろうが。
ダイエットという目的で考えた場合、訓練はやはり厳しい方がいいのは間違いない。
その分、訓練を経験する者は大変なことになるだろうが。
「ともあれ、腹ごなしに少し歩きましょう。フォン・ブラウンの様子を、もっとしっかりと見ておきたいし。……いいわよね?」
そうルースとフォルドに尋ねるミユだったが、それは尋ねるというよりは決定事項を告げているといった表現の方が相応しい気がする。
……俺の方にはきちんとそれでいいですよね? といった感じで尋ねてきている辺り、ルースとフォルドほどには気を許されていないということなのだろう。
ともあれ、今日は特に何か用事がある訳でもないし、俺はそのミユの言葉に頷く。
ルースとフォルドの2人も、ミユの迫力にやられたのか、それとも単純に腹ごなしにちょうどいいと思ったのかは分からないが、腹ごなしの散歩を許容する。
こうして俺達は散歩をする事になったのだが……
「ねぇ、これどう? ちょっといいんじゃない?」
大通りにある店に飾られているワンピースを見ながら、ミユはルースとフォルドに尋ねる。
いや、これは俺にも尋ねているのか。
薄い緑……若草色と表現するのが正しいのか? 確かにそのワンピースはミユに似合ってるように思える。
だが、フォルドはそんなミユの様子に興味なさそうに頷くだけだ。
……まぁ、女の買い物が長いというのは、よく分かる。
いや、この場合は女の買い物ではなくて、ウィンドウショッピングか?
ともあれ、興味があるのならともかく、その辺りに興味のない者にしてみれば、暇な時間なのだろう。
だが、当然ながらそんなフォルドの態度はミユにも理解出来てしまい……それを見て、ミユは面白くなさそうな様子を見せる。
そんなミユの機嫌を取るように、ルースがミユとワンピースが似合うといったようなことを口にしていた。
これが、この3人のいつもの姿なのだろう。
ワンピースの件は取りあえず一段落し、再び大通りを歩いていると……不意にフォルドが口を開く。
「あ、クレープだってよ。ちょっと食べてみないか?」
「ふぉるど……」
フォルドの言葉に、どこか発音のおかしい様子でその名前を呼ぶミユ。
無理もない。何しろ先程の店で食事をし、その食休みといった感じでこうして大通りを回っているのに、そこでまたクレープといった……いった……いった……
「うげぇ」
「アクセル?」
そのクレープ屋を見た俺の口から、自分でもどうかと思うような呻き声が漏れる。
それを聞いたルースが不思議そうにこちらを見てくるが……ぶっちゃけ、そんなことに構っていられるような余裕はない。
何しろ、そのクレープ屋の屋台の側に立っている旗? 幟? ともあれ、そこに書かれているのは『月の名物ゴーヤクレープ』という文字だったのだから。
これは、正直どこから突っ込めばいいんだ?
そもそも、ホワイトスターからクレイドルに侵食してきたのは分かる。
ゲートを通して繋がっているのだから。
だが……クレイドルとこのフォン・ブラウンは、正直なところかなりの距離がある。
にも関わらず、何故フォン・ブラウンに奴が存在する?
ましてや、月の名物ってのは一体何だ?
何がどうなって、そんな話になってるんだ?
そんな疑問を抱くのは当然だった。
「おい、どうしたんだ、アクセル?」
再度俺に向けてルースが声を掛けてくる。
フォルドとミユの2人も俺に向けて視線を向けてきていた。
「あー……いや、あのクレープ屋……この世界ではクレイドルを本拠地にしている、異世界のクレープ屋だ」
異世界のクレープ屋というのは、強烈な印象を抱かせる。
普通なら考えられない組み合わせだしな。
「異世界の……クレープ屋?」
「ああ」
確認するように尋ねてくるフォルドに、俺は即座に頷く。
「いや、けど……もしかしたら偶然同じのを売ってるとかじゃないのか?」
次にそう言ってきたのはルースだ。
だが……俺は首を横に振る。
「見てみろ。ゴーヤクレープだぞ? そんなメニューを出すようなクレープ屋が偶然異世界からこの世界に出店してきたのが、偶然フォン・ブラウンにも同じようなメニューのクレープ屋が出来るのか?」
特にクレープ屋が店舗形態ではなく、屋台……正確には移動車両を使っているのが、それらしい。
こういう移動車両なら、それこそ何らかの手段で移動出来るのだから。
「それは……いや、けど、ゴーヤだろ? クレープに合うのか?」
フォルドが呟くが、俺は予想とは違う意味で驚く。
ゴーヤというのは、食べられている場所はそう多くはない。
あくまでも俺が知ってる知識だけだから、四葉辺りに聞けばまた別なのかもしれないが。
それだけに、フォルドがゴーヤを知ってるというのは、少し驚きだった。
「ゴーヤ……苦いのよね」
「ああ、苦い」
そしてこちらもまた予想外な事に、ミユとルースの2人もゴーヤを知っていた。
いや、本当に何でそんなにゴーヤの認知度が広がってるんだ?
俺の知ってる限りでは、ゴーヤというのは日本を含めて限られた場所でしか食べないって感じだったんだが。
ちなみに俺が好きなゴーヤ料理は、ゴーヤチャンプルーだったりする。……ただし、ゴーヤ抜きの。
それはゴーヤチャンプルーじゃないって突っ込みが入りそうだけど、それはそれとして。
「ゴーヤクレープ、美容にいいゴーヤクレープはどうですか? 苦いですけど、その苦さが栄養たっぷりの証ですよ!」
クレープ屋の店主の声が周囲に響くと、ミユはその動きを止める。
いや、それはミユだけではない。
ゴーヤと知ってるのか知らないのかは分からないが、それでも美容にいいという話を聞いて、周囲にいた多くの女達がクレープ屋に視線を向けていた。
これまで何度もゴーヤクレープ屋を見たが、美容を謳い文句にするのは初めて見るタイプだな。
「ちょっと面白そうだから買ってくるわね」
そう言い、ミユはゴーヤクレープを買いにいく。
「ちょっ、おい、ミユ! ……いいのか、アクセル」
フォルドが俺を見ながらそう言ってくるが、別にゴーヤクレープは毒がある訳でも、中毒性の類がある訳でもない。
ただ……その繁殖力、侵食力が驚異的なだけだ。
ホワイトスターでも普通に営業してるのだから、何らかの怪しげな薬とか食材とかが使われていれば、それこそすぐに判明して営業許可を停止する事になるのだから。
実際、こうして色々な世界に出店――移動販売車を出店と言ってもいいのかどうかは微妙だが――しているという事は、相応に儲かっているという事の証だろう。
そういう意味では、クレープを買いに行ったミユを無理に止める必要がないのは間違いなかった。
とはいえ、幾ら健康にいいからといって、自分が食べたいのかと言われれば、俺は一瞬の躊躇いもなく、即座に首を横に振るだろうが。
「まぁ、ミユが食べたいのならいいんじゃないか? 実際、ゴーヤが栄養豊富なのは間違いないんだし」
非常に苦い食べ物で、それこそ俺なら進んで食べたいとは思わないゴーヤだが、栄養豊富な野菜なのは間違いのない事実なのだ。
……それに、ゴーヤの苦みが癖になるといったような者もいる以上、悪い食材ではないのは間違いない。
苦すぎて、俺は決して食べようとは思わないが。
そうこうしているうちに、ゴーヤクレープを買ったミユが戻ってくる。
美容にいいという宣伝文句が聞いたのか、結構な女の客がクレープを欲して集まっていたが、どうやら無事に購入する事が出来たらしい。
けど……幾らゴーヤが美容にいいとはいえ、結局のところ砂糖とかそういうのが普通に使われてる以上、食事を終えたばかりのミユが食べるのは、正直どうかと思うんだが。
「んー……苦いですね、これ」
早速ゴーヤクレープを食べているミユの口から、そんな言葉が漏れる。
へぇ、見えているクレープの生地は一般的な黄色に近い色とは違って緑色だ。
恐らく生地の方にもゴーヤを練り込んであるんだろう。
また、生地に包まれているクリームも同じく緑色で、ゴーヤの絞り汁、もしくはフードプロセッサーやミキサーで細切れにしたのが混ざっているのだろう、
それだけではなく、クレープの具としても生か焼いたか分からないがゴーヤの実が入っていた。
まさにゴーヤクレープという名前に相応しいクレープだ。
これだと、美容にいいと言われても納得出来るかもしれないな。……俺は食いたいとは、到底思えないけど。
「な、なぁ、ミユ。それ……本当に食べても大丈夫なのか?」
フォルドが恐る恐る尋ねるのを見ながら、俺はゴーヤクレープの侵食率をしみじみと恐れるのだった。
アクセル・アルマー
LV:43
PP:1060
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1987
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1591