転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編111話 ナイツ&マジック編 第28話

「では、ジャロウデク王国に制裁を科すべく……出撃する!」

 

 エムリスのその言葉に、フレメヴィーラ王国軍が出発する。

 とはいえ、戦力の主力は銀鳳騎士団で、そこに各騎士団から推薦された腕利きが若干名入ってるといったところだが。

 本来なら、もっと大規模な軍を派遣する予定だったのだが、エルの新型機を開発している最中にも、何度か呪餌を使ったと思われる魔獣の騒動があった。

 その結果として、大規模な騎士団の派遣はしない方がいいという事になったのだ。

 代わりに、量より質ということで銀鳳騎士団が主力となる事になったのだが……これってぶっちゃけ、ジャロウデク王国にとっては余計に不利になったんじゃないか?

 そもそもの話、銀鳳騎士団の有する幻晶騎士は、性能こそピーキーだが、その分乗りこなせるようになった場合は強い。

 そして……何より、エルの新型機。

 エルだけしか乗りこなせないように開発され、ベヘモスと巨樹庭園で倒したという巨大な魔獣の素材から作った魔力転換炉を使っている。

 この辺り、もしかしたら動力炉を3つ持っているニーズヘッグの話を軽くした時の件が影響してるのではないかと思っているが、エルの場合なら最初からその予定だったという可能性もある。

 ともあれ、それによって得られる出力により、これまでの……それこそ、最近では銀鳳騎士団系と呼ばれるようになった幻晶騎士と比べても、圧倒的なまでの性能を持つようになった。

 そんな戦力が揃って移動しているのだから、ジャロウデク王国にとっては最悪の結末だろう。

 ちなみに俺も今回参加するということで、空間倉庫を使って各種予備部品や消耗品、その他諸々を持っていく事にしてやった。

 それが、この部隊の機動力が上がった理由でもあるのだが。

 何だかんだと、消耗部品の類というのは荷物になる。

 ましてや、これからジャロウデク王国に攻め込むのだから、フレメヴィーラ王国で移動する時と比べても多く持っていくに越した事はない。

 だが、当然ながら荷物が多ければ多い程に、重量は増え……部隊の機動力が下がる。

 そんな訳で、俺が協力を申し出た訳だ。

 とはいえ、フレメヴィーラ王国の上層部には物資を俺だけに任せるのは色々と不味いと判断した者もおり、馬車にも多少は積んでいくのだが。

 リオタムスやアンブロシウスから見送られ、出発する一行。

 何だったか。確か懲罰軍とか、そんな大層な名前で呼ばれていたような気がする。

 その名前からして、ジャロウデク王国を下に見てるという事を周囲に意図的に広めてるよな。

 ちなみに懲罰軍という名前になった理由として、以前パーティでジャロウデク王国の騎士がフレメヴィーラ王国を魔獣番と呼んだのが原因だって話もあるんだが……魔獣番という名称はフレメヴィーラ王国の者にとっては非常に屈辱的らしいので、実は正解かもしれない。

 ただ、呪餌というフレメヴィーラ王国にとっては禁忌の品を使った……それも何度も使ったというのがこの場合は大きいから、それに対する懲罰であると示している可能性もあったが。

 ともあれ、懲罰軍はフレメヴィーラ王国の街道を進む。

 村や街の近くを通った時は、多くの者が懲罰軍に対して熱狂的に歓声を上げていた。

 

「これって、やっぱり呪餌を使われたというのが大きいんだろうな」

「だろうな」

 

 俺の言葉にそう返したのは、ディー……ではなく、エドガー。

 俺と絡む事が多いのはディーなのだが、今日に限ってはエドガーが俺の話し相手を務めるらしい。

 

「ボキューズ大森海と接しているこの国の者にとって、呪餌というのは許しがたい存在だ。それを何度も使われたのだから、許容出来ないという者が多いのは当然だろう」

「それ、やっぱり広まってるのか?」

 

 一応、呪餌についてはあまり広めないようにとなっているのだが、人の口に戸は立てられぬという言葉通り、どこからともなくその辺は噂という形で広まっているらしい。

 

「ああ。フレメヴィーラ王国だからこそ、だろうな。……許せないという思いを持ってる者も多いんだろう」

 

 そう言いながらも、エドガーの表情が若干憂鬱そうだったのは、今回の戦いに色々と思うところがあるからか。

 ともあれ、基本的には街や村といった場所には寄らず、時々泊まるといったことをしながら進み……やがてオービニエ山脈を越え、東西街道に入る。

 この東西街道が、クシェペルカ王国との主要道路となっているらしい。

 当然のように、途中には小さいながらも要塞の類がある。

 伝統的に友好的な関係にあるとはいえ、国と国。

 国家に本当の友人はいないというのは、どこの世界の言葉だったか。

 その言葉がどこの世界のものであれ、その言葉はこの世界でも間違ってはいない。

 いざという時の事を考えて、砦を用意するのは当然だろう。

 もっとも、懲罰軍の事については前もってクシェペルカ王国に連絡が行っていたし、何より懲罰軍を率いるエムリスはクシェペルカ王国に留学していた経験を持ち、それなりに顔も知られていた。

 結果として、特に大きな騒動が起きる事もなくクシェペルカ王国に入る事に成功する。

 とはいえ、懲罰軍はクシェペルカ王国の首都には向かわず、そのままロカール諸国連合に向かうのだが。

 ちなみにエムリスが言うには、クシェペルカ王国の姫が性格が気弱ではあるが、かなりの美人らしい。

 その言葉に、キッドが微妙に興味深そうにしていたのが印象的だった。

 キッドって何気に姫だとかに幻想を抱いてるタイプなんだろうか。

 男としてその気持ちは分からないでもないけど、俺の場合は何だかんだと知り合いに姫とかそういう人が多いしな。

 コーネリアとかは正真正銘の皇女――元だが――だし、シェリルは銀河の歌姫。……いや、シェリルはこの場合姫に入らないのか?

 あとは、コーネリアに憧れているカガリもオーブの姫だし、セイラにいたっては正真正銘の女王だし。

 そういう訳で、何だかんだと俺にとっては姫というのはそこまで興味を抱くべき相手ではない。

 ……もっとも、結局クシェペルカ王国の首都には寄らなかったので、キッドも王女には会えなかったのだが。

 

「あれがロカール諸国連合か。エムリス、あっちには話が通ってるのか?」

「ああ。その辺は問題ねえ。ただ……クシェペルカ王国と違って親しい訳じゃない以上、何か妙な問題が起きないとも限らねえがな」

 

 そう告げるエムリスの表情は、心配をしている……のではなく、寧ろ何らかの問題が起きて欲しいという、そんな表情を浮かべている。

 トラブルメーカーというか、トラブルがあれば自分からそのトラブルに向かうような、そんな感じ。

 取りあえず問題が起きないといいんだが。

 そんな風に考えたが、幸いにして特に問題なくロカール諸国連合を通り抜ける事が出来た。

 まぁ、ロカール諸国連合にしてみれば、ジャロウデク王国との戦いで膠着状態になっている状況で、それを打開してくれるかもしれない俺達がやって来たんだから、それを邪魔しても意味はない……どころか、自分達の被害が大きくなるだけだと、そう考えたのだろう。

 寧ろ、邪魔をするどころか食料の類を気前よく寄付すらしてくれた。

 ……エムリスは何かトラブルが起きると期待していたのか、何もないままに通過出来たのを、若干つまらなさそうにしていたが。

 それでもジャロウデク王国の領土内に入れば、これから戦いが待っていると判断したのか、ロカール諸国連合での出来事は忘れたかのように、やる気満々といった様子を見せていた。

 

「全員、ここからは敵の領土内だ! ロカール諸国連合から聞いた話によれば、ジャロウデク王国は自分達の領土を守るので精一杯だって話だ。ただし、敵が飛空船を出してくる事だけは、注意しておけ!」

 

 そう叫びながら、エムリスの視線はエルに向けられる。

 エルも当然のようにその視線の意味は分かっているのか、ツェンドリンブルの牽いている馬車に視線を向ける。

 そこには、対空兵器としてエルが開発した魔導飛槍が乗っている。

 今はシートで覆われていて見る事が出来ないが、もし飛空船がこちらを認識すれば、すぐに出番があるだろう。

 元々ジャロウデク王国はこの辺りでも大国として有名だが、当然のように大国ともなれば領土も広い。

 ……だからこそ、周辺諸国からも俺が散布したチラシを名目として、一斉に狙われる事になってしまったのだが。

 ともあれ、そんな訳で広い領土を守る為には敵襲の報告があったら迅速に応援に行く必要がある。

 そういう意味では、飛空船はかなり有用だろう。

 もっとも、その飛行船がやって来たらすぐにでもエルの開発した魔導飛槍の出番となる訳だが。

 

「よし。では全員慎重に……それでいながら大胆に出撃するぞ!」

 

 エムリスの言葉に従い、懲罰軍は進軍を開始する。

 ジャロウデク王国の領土内を進む懲罰軍。

 だが、当然のように、ジャロウデク王国軍はまだこちらを発見は出来ない。

 ……というか、そもそもの話、ここはロカール諸国連合と隣接している部分だけに、戦争が始まった当初は、ロカール諸国連合軍が当然のように占拠したりした筈だ。

 現在が具体的にどのような事になってるのかまでは、俺にも分からなかったが。

 それでも、今の状況を考えれば、まだロカール諸国連合軍の勢力圏内にあってもおかしくはない。

 ジャロウデク王国の飛空船による首都攻撃によって膠着状態に陥ってるとはいえ、それはあくまでも膠着状態だ。

 別に今まで占拠した土地から撤退しなければならない訳ではないのだ。

 だからこそ、今はここも実質的にロカール諸国連合の領土内に入っていてもおかしくはない。

 もっとも、ロカール諸国連合は小国だ。

 ジャロウデク王国が本気を出した場合、飛空船で幻晶騎士がやってきた時点で勝ち目がないと判断して逃げ出すという可能性もない訳ではないが。

 

「お、街が見えてきた。あそこに一旦寄るぞ! だが、いいか。何度も言ってるが、フレメヴィーラ王国の者として、乱暴な真似はするなよ!」

 

 そう叫ぶエムリスだったが、ぶっちゃけエムリスが一番乱暴な真似をしそうなんだが。

 とはいえ、実際にそういう真似をするかどうかと言われると、エムリスの性格を知っている者なら、その言葉に首を傾げるだろうけど。

 ともあれ、そんな感じで会話が進み……俺達は見えてきた街に寄る。

 寄るが、その街には誰も残っていなかった。

 それこそ、大人はともかく子供から年寄り、老若男女問わずに誰もいない。

 

「これは……やはり戦争が始まるという事で、どこかに避難したんでしょうか?」

 

 街中を見ながら、エルが呟く。

 普通に考えれば、やはりそれが一番可能性が高いだろうな。

 とはいえ、そこには疑問も残る。

 もし避難するとしても、この街の規模から考えると結構な人数になる筈だ。

 まぁ、この街がロカール諸国連合と一番近い街である以上、国境を越える時はここを拠点としていた可能性が高い。

 商売をするとなると、当然のようにこういう場所は必要になる訳で、多くの者がこの街を使っていた筈だ。

 戦争が始まるからという理由で、商人達の足が遠のいた可能性はあるが、それ以外の面々は一体どうなったのか。

 これが少数なら、それこそ自分の親類とか友人がいる別の村や街、都市といった場所に向かったりもするだろう。

 だが、まさか街の住人全員がそんな伝手があるとは思えない。

 そうなると……

 

「ジャロウデク王国が計画的に自国の住人をどこかに集めたのか?」

「それしかないでしょうね。もしくは、ロカール諸国連合が連れていった可能性もありますが……連れていくにしても、老人や赤ん坊も連れていくというのは分かりませんし」

 

 少しだけ苦い表情でエルが呟く。

 ロカール諸国連合に連れていかれたとなると、その意味するところは……色々と言葉を言い換えたとしても、ぶっちゃけ奴隷だろう。

 もしくは、ジャロウデク王国から人質として身代金を取るとか、そういうのもあるか?

 ……ないか。

 ロカール諸国連合は、結局のところ小国でしかない。

 今は他の国々もジャロウデク王国に対して攻撃をしているから、ある程度強気でいけても、結局自国だけではジャロウデク王国に対してはどうしようもない。

 そうである以上、あまりジャロウデク王国を刺激するような真似……特に、この戦争が終わった後でまだジャロウデク王国が生き残っていた場合、自分達に敵意を向けられる事は避けたい筈だった。

 とはいえ、戦争を仕掛けている時点でどうしようもないと思うのは、きっと俺だけではないだろう。

 まぁ、その辺に関しては、俺が考える事ではないと思うけど。

 ともあれ、そんな事を考えつつも、俺達は街中を調べていく。

 最終的に本当に誰もいないと判断したところで、取りあえず今日はここを拠点にして野営をする事にしたのだった。


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