転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編098話 ナイツ&マジック編 第15話

 ジャロウデク王国の首都で大量のチラシを散布した俺は、そのままミロンガ改でフレメヴィーラ王国に帰還……するのではなく、ジャロウデク王国の首都以外の村や街、都市といった場所にも移動して、同様のチラシを散布した。

 都市と呼ぶべき場所には幻晶騎士が滞在していたりもしたが、首都にいる精鋭の幻晶騎士でも空を飛ぶミロンガ改をどうにかする事が出来なかったのだから、他の場所も当然何も出来ない。

 後は、砦にも同様にチラシを撒いたな。

 砦である以上、当然のようにそこには幻晶騎士が多く配備されているのだが、こちらも以下同文。

 自国を非難するチラシの内容に、当然のように騎士達は怒り、空中のミロンガ改を何とか撃墜しようとしたりもした。

 もしくは、空中に浮かんでいる以上は絶対にどこかに降りるのだろうと判断して追ってくる部隊もあったが……エルが現在開発しているケンタウロス型の幻晶騎士ならともかく、普通の……それも、テレスターレのように網型結晶筋肉のような新技術も搭載されていないような、言ってみれば旧式の幻晶騎士でミロンガ改に追いつける訳もない。

 とはいえ、このまま真っ直ぐにフレメヴィーラ王国に帰れば、色々と不味い。

 そう考え……チラシの残りも何気にまだ結構な量があるので、別の場所に向かう事にした。

 次に向かったのは、ジャロウデク王国……ではなく、その隣国。

 その隣国の首都まで移動すると、ジャロウデク王国の首都でやったように、空中に浮かんでその国の首都の注目を浴びてから、チラシを散布する。

 チラシに書かれてるのは、当然のようにジャロウデク王国を非難する内容。

 もしチラシにジャロウデク王国の名前が書かれていなければ、この国を無意味に非難したと、そう思われてもおかしくはない。

 だが、そこにジャロウデク王国の名前が書かれている事で、この首都に住んでいる面々は俺を妙な相手とは思っても、敵とは思わない。

 ……いやまぁ、何も言わないでいきなり空中から現れ、大量のチラシを散布したのだから、迷惑行為をしているというのは分かる。

 そういう意味では敵だと思われてもおかしくはないが……それでもチラシに書かれている内容がジャロウデク王国を非難する内容だからだろう。

 ジャロウデク王国の首都の時のように、空を飛んでいるミロンガ改を攻撃してくる相手はいなかった。

 それでも、ミロンガ改が妙な真似をした時には即座に対処出来るように、ある程度の幻晶騎士は姿を現していたが。

 ともあれ、この国の首都でこうやった以上、他の国でもやった方がいいだろう。

 出来れば首都以外の場所でもチラシを散布したかったのだが、チラシの残りを考えると、首都だけにしておいた方がいいな。

 そうしてジャロウデク王国に隣接する国々の間でチラシを散布していき……帰りに、再度ジャロウデク王国の首都に追い鰹ならぬ、追いチラシをする。

 ジャロウデク王国の者達も、まさか再度ミロンガ改かやって来るとは思わなかったのか、幻晶騎士の出撃してくる反応が遅い。

 とはいえ、ミロンガ改は雲の上を移動しているので、地上から見つけるような事は難しい。

 そんな状況からいきなり首都に降下してくるのだ。

 レーダーの類でもあれば、もしかしたらミロンガ改の姿を見つけられたかもしれないが。

 ともあれ、そうしてチラシを後2回分だけ残し、一気に首都に散布する。

 そうして散布した後に、首都から脱出しようとしたのだが……

 

「これは、また……」

 

 ミロンガ改の映像モニタに表示された光景に、思わずといった様子でそう呟く。

 当然だろう。何故ならミロンガ改の映像モニタに表示されていたのは……飛行船と呼ぶべきものだったからだ。

 気球の類ではなく、飛行船。

 W世界で連合軍が使っていた飛行船に少し似てるか?

 いや、あの飛空船は外側が布だったのに対し、これは基本的に少し変わった船がそのまま空中を飛んでいるといったような感じだ。

 その動力炉とかも、俺が知ってる飛行船とは大きく違うんだろうが。

 

「飛行船か。……まさか、ジャロウデク王国でこんなのが開発されていたとはな」

 

 そこまで呟き、ふと気が付く。

 もしかして、ここで飛行船を出してきたのは俺が散々ジャロウデク王国には技術がないといったチラシを散布したからか?

 勿論それだけで飛行船を出してくる訳ではないだろうが。

 向こうにしてみれば、ミロンガ改が空を飛んでいる以上、それに対処する為には自分達も空を飛ぶ必要がある。

 普通なら、この飛行船はジャロウデク王国にとって文字通りの意味で秘密兵器だろう。

 だが、それをミロンガ改に向かって出してきたのは……やっぱり面子の問題か?

 ジャロウデク王国にしてみれば、ミロンガ改はチラシを散布するが、実際に攻撃をしてきたりはしない相手と認識されている。

 勿論、今まで攻撃しなかったからといって、これからも攻撃しないだろうとは限らない。

 だが、それでも恐らく放っておけばいずれチラシを散布し終わったら撤退するのは間違いない。

 だというのに、何故飛行船を出撃させたのか。

 それはやはり、面子を潰されたのが最大の理由だろう。

 それと、国としてたった1機の幻晶騎士――正確には違うのだが――によって好きなように首都に侵入されても、迎撃手段が殆どないと国民に思われるのが不味いという思いがあったのだろうという予想も出来る。

 

「とはいえ……武装はないな」

 

 見た感じ、外側から確認出来る武装はない。

 あるいは内蔵されており、必要となったら武器が出て来るといった可能性もあるが……それよりは、まだ武器の装備が考えられておらず、単純に空を飛べる船という可能性の方が高い。

 いやまぁ、もしミロンガ改がいなければ、あのように空を飛べるというだけで十分戦略的な意味はある。

 あるいは、幻晶騎士を搭載して運ぶ輸送船のように使ってもいいし。

 だが、ジャロウデク王国にとって……いや、あの飛行船を開発した者にとって予想外だったのは、飛行船と同じように空を飛べるミロンガ改がいたという事だろう。

 それでも幻晶騎士を乗せるとか、その程度の用意はしてもいいと思うが。

 ともあれ、空中に浮かんでいる俺の向かいまで移動してくる飛行船。

 残念ながら、その動きはどうしても鈍い。

 この世界において、最初に開発されたのだろうと思えば、仕方がないのかもしれないが。

 ともあれ、こうして向かい合いはしたのだが……どうしたものだろうな。

 取りあえず、映像データはきちんと保存しておくとして。

 向こうも飛行船でミロンガ改の前にやってきたのはいいが、そこからどうするのかは考えていなかったのか、特にこれといった行動を見せる様子はない。

 

「さて、どうしたものか。向こうもこっちに何らかの手段で意思疎通はしようとするつもりなんだろうけど」

 

 この世界に通信機器の類は存在しない。

 エルにも、その辺を開発して欲しいとは思うが。

 そんな風に思っていると、飛行船の一部が点滅してる事に気が付く。

 もしかして、それを使ってこっちに連絡をしているつもりなのかもしれないが、生憎と発光信号での会話というのは、その大前提となる暗号表のような物がなければ、理解は出来ない。

 いや、暗号表という表現は微妙に違うか?

 ともあれ、向こうが前提としている知識をこちらが持っていない以上、どうしようもない。

 ……もっとも、何となく向こうが何を言いたいのかは分かるが。

 向こうにしてみれば、何故自分達に敵対するのかといったことを聞きたいのだろう。

 もしくは、降伏を勧めているのか。

 その辺はこれまでのミロンガ改の取ってきた行動から、何となく理解出来た。

 とはいえ、だからといってその行動に大人しく従う訳にもいかないし、今回の一件の目的は、あくまでもジャロウデク王国の面子を潰す事であって、物理的な被害は可能な限り与えないようにして欲しいと要望されている。

 とはいえ、この飛行船は……もし確保していけば、エル辺りがもの凄い喜びそうではあるが。

 問題なのは、どうやって確保するか何だよな。

 俺の空間倉庫は、人がいれば収納出来ない。

 つまり。この飛行船を確保する為には、乗ってる者を全員下ろす必要がある。

 ここが首都でなければ、その辺はどうとでもなったのだが……

 エルには映像だけで我慢して貰うとするか。

 いや、その場合は映像ではなく、寧ろミロンガ改に乗れる事を喜ぶか?

 その辺の事情は俺にも分からなかったが、ともあれこのままここにいるのは面倒な事になる。

 ジャロウデク王国が何隻の飛行船を持っているのかは分からないが、それでも貴重な代物なのは間違いないだろう。

 そうなると、まさか体当たり……特攻を仕掛けてくるとは思えないが、それでも万が一がある。

 それに飛行船を開発したとなれば、ミロンガ改についても強い興味を持っていてもおかしくはないし。

 このままじっとお見合いしても意味はないだろうと判断し、俺は飛行船に向かってミロンガ改の手を振る。

 じゃあな、という意味を込めて。

 そうして手を振った瞬間……何を思ったのか、飛行船はこちらに向けて進み始めた。

 手を振ったのが気にくわなかったのか?

 そう思いつつも、これ以上ここにいるのは不味いと判断して、その場から飛び去る。

 空を飛べる飛行船だが、その速度は決して速いとは言えない。

 ミロンガ改の移動速度とは、とてもではないが比べものにならないくらいの差がある。

 実際、飛行船は何とかミロンガ改に追いつこうと追ってきたが、すぐに距離を離された。

 まぁ、もし追ってきたとしても、ロカール諸国連合の国境内に入れば、飛行船も追ってくる事はなかっただろうが。

 ジャロウデク王国にとって、飛行船は間違いなく秘密兵器。

 だとすれば、その秘密兵器を容易に他国に見せる訳にもいかない。

 ……まぁ、本気で飛行船を引き離すのなら、高度を上げればよかっただけなんだが。

 ともあれ、飛行船が見えなくなった状態で進み……やがてロカール諸国連合の国境内に入る。

 諸国連合という名前を見れば分かる通り、ロカール諸国連合というのは小国……場合によっては都市国家とかの集まりだ。

 そうである以上、首都らしい首都は存在しないので、幾つかの首都にだけ、チラシを散布していく。

 このロカール諸国連合はジャロウデク王国に領土を狙われているという話を聞いているので、この情報を上手く使えばジャロウデク王国の動きを弱める事も出来るだろう。

 まぁ、そう出来ればいいなという程度の思いなので、そこまで期待はしていないが。

 ともあれ、ロカール諸国連合の首都にチラシを散布した後は……最後にクシェペルカ王国の首都、デルヴァンクールの上空に到着する。

 フレメヴィーラ王国の友好国だけに、こことだけは敵対する訳にはいかない。

 いつもより若干高い高度から、チラシを散布する。

 ここが最後の場所なので、残っているチラシの全てをだ。

 ……友好国だけに、出来れば飛行船についての情報は教えてもいいのか? と思わないでもなかったが、その辺はフレメヴィーラ王国に戻ってからの方がいいだろう。

 俺が迂闊に干渉するよりは、そっちの方がいい筈だ。

 そう判断し……あ、やっぱりここでも幻晶騎士が姿を現すか。

 俺はクシェペルカ王国が友好国だと知ってるが、クシェペルカ王国側にしてみれば、ミロンガ改がフレメヴィーラ王国に協力している俺が乗ってる機体だとは知らないのだから、それも当然か。

 ともあれ、デルヴァンクールに長時間いるのは色々と不味いと判断し、移動する。

 持っていたチラシ、フレメヴィーラ王国で事情を知っている面々が必死になって作ったチラシも、ここで全部使い終わった。

 そうなれば、もうここで何かをやる必要はない。

 エナジーウィングとテスラ・ドライブを使い、雲の上まで上昇していく。

 ちなみに、デルヴァンクールにいる幻晶騎士は、空高く上っていくミロンガ改を見て何やら色々と身振り手振りをしていたが、生憎とそれに応える訳にはいかない。

 ジャロウデク王国の時は、手を振ったらそれだけで怒ってしまったしな。

 ……いやまぁ、あのチラシの事を考えれば、こちらが敵対的な意思を持っているのは誰であっても分かるんだろうから、その反応はそこまでおかしな事ではないのだが。

 ともあれ、今の状況で何か下に反応する必要はないだろうという事で、そのまま雲の上を移動してフレメヴィーラ王国に向かう。

 幸いにして、特に何か面倒な相手と遭遇する事もなく、無事にフレメヴィーラ王国の領土内に入る事に成功した。

 面倒な相手との遭遇って、一体どんな相手なのか疑問ではあるが。

 考えられるのは魔獣とか?

 いや、けど魔獣ってのは基本的にボキューズ大森海にいる訳で、こっち側には……いない訳ではないだろうが、それでもそこまで強力な魔獣はいない筈。

 ベヘモスの類が出て来たら、それはそれで驚くだろうが。

 そんな風に考えていると……やがて、首都のカンカネンが見えてきたのだった。


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