転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編089話 ナイツ&マジック編 第06話

 網型結晶筋肉を開発したのはいいものの、それを幻晶騎士に使うと色々と問題がある事が判明した。

 最初の、筋肉に装甲や関節部分が耐えられないというのは、機体の設計を見直す事により、ある程度どうにかなった。

 補助腕を使ったバックアップウェポンの開発も完了して模擬戦を行ったのが……その際に、問題が発生した。

 単純に言えば電池切れだ。

 別に幻晶騎士は電気で動いている訳ではないので、正確には電池切れという表現は相応しくないのだが、エネルギー切れとなったのは事実。

 考えてみれば網型結晶筋肉で幻晶騎士の消耗するエネルギーが増え、同時にバックアップウェポンを使う事によって、更にエネルギーは消費する。

 その辺の事情を考えると、機体のエネルギーの消耗が激しくなるのは当然だった。

 で、それをどうにかしようとして色々と試行錯誤していたのだが……うん。この世界の人間の評判は悪かった。

 

「着膨れてるっていうけど、あれはあれでいいと思いませんか?」

「まぁ、そうだな。フルアーマーとか増加装甲と考えればありだと思う。……とはいえ、腕の関節部分とかをもっと自由に動けるようにして、機動力とかもどうにかして対処する必要があるんだが……今のこの世界の技術だと、難しいだろ?」

「そうなんですよね」

 

 着膨れしたと表現された新型……テレスターレに板状結晶筋肉を装着したその姿は色々と不評で、更には動きにも影響を与えるという事で、現在は鍛冶師達が必死に痩せさせようしていた。

 そんな中、俺とエルの2人は格納庫の外でそんな話をしていたのだ。

 増加装甲やフルアーマー化というのは、やはり俺やエルのようにアニメ、漫画、ゲームといったものを知っている者でなければ理解は出来ないのだろう。

 この世界の美意識といったものが、俺達と合わないところもあるといったところか。

 

「関節部分の方は、どうにか出来ないのか?」

 

 武器となる長剣を振るえないのは、腕や肩の関節部分が関係してくるので、その辺りはどうとでもなりそうな気がしないでもない。

 だが、エルは俺の提案に首を横に振る。

 

「それは止めておいた方がいいでしょう。……いえ、興味深いのは間違いないんですけどね。ただ、現在の親方達の仕事をこれ以上増やしたくありませんし」

「あー……なるほど」

 

 エルが親方と呼んでいるのは、ダーヴィド・ヘプケン。

 ライヒアラ騎操士学園においてエルの先輩のドワーフだ。

 ……学生という事は、当然のようにまだ10代なのだが、ドワーフだからなのか、普通に大人のように見える。

 ともあれ、腕という意味ではかなりのものらしく、エルが開発する新型機でも主力として頑張っていた。

 とはいえ、着膨れしたテレスターレを痩せさせるという事に集中させたいというのが、エルの考えなのだろう。

 実際に今の状況であれもこれもと手を出すような事になると、色々と厳しくなる。

 

「なら、バトソンは?」

 

 こちらもまたドワーフだが、学年的にはエルやアディ、キッドと同学年となる。

 何でも入学した時からの縁だとか何とか。

 

「うーん、バトソンも技量はあると思うんですが……それに、幻晶甲冑の改良を頼んでますので」

「ああ、スラッシュハーケン」

「名前は違いますけど、そんな感じです」

「となると、フルアーマー化に関しては暫くお預けといったところか」

「そうなります。まぁ、基本的にフルアーマーや増加装甲といったのものは後付けするものですし、素体となるテレスターレが完成したら、それに付け加えるといった形で考えてもいいかもしれませんね」

 

 そう告げるエルの表情は、意味ありげな笑みを浮かべていた。

 うん、これはまたきっとろくでもない事をかんがえているんだろうな。

 

「それで、あのロボットの件ですが……」

「駄目だ」

「そんなぁ……」

 

 最後まで言わせずに拒否すると、目を潤ませながらそう言ってくる。

 ……うん。エルのこういうところを見ていると、アディが俺を警戒する理由は分からないでもないよな。

 とはいえ、エルの頼み……ミロンガ改を見せて欲しいというのは、聞く訳にはいかない。

 アンブロシウスからも出来ればミロンガ改はあまり人目につかないようにして欲しいと言われているし、何よりもやはりこれまでエルと接してきた事で、エルの性格は俺も十分に理解している。

 それこそ、もしミロンガ改を見せようものなら……エルは幻晶騎士云々とかは関係なく、そちらに夢中になるだろう。

 いや、それだけならまだいい。

 だが、場合によっては……いや、ほぼ間違いなくミロンガ改に乗せて欲しいと、そう言われるだろう。

 問題なのは、エルの場合はミロンガ改を本当に操縦してしまいかねない事だろう。

 しかし、ミロンガ改というのは元々パイロットの事を全く考えずに開発されたミロンガを、俺が乗る事を前提にして改修された機体だ。

 最新鋭のテスラ・ドライブを使い、更にはエナジーウィングによって、更に高い運動性と機動性を有しているその機体は、ぶっちゃけ俺とか魔力や気で身体能力を強化しているような者でなければ、下手をすればGで死んでもおかしくはない。

 また、それらとは別にミロンガ改は俺の切り札だけに、あまり見せたくはないというのが正直なところだった。

 ……いやまぁ、実際にはミロンガ改は切り札というか、汎用機に近い感じの機体というのが俺の感覚なんだが。

 本当の意味で切り札というのであれば、ニーズヘッグが空間倉庫の中にはある。

 また、機動性……いや、純粋に移動力という意味では、VFのサラマンダーもある。

 特にこの世界においては、幻晶騎士というのは人型という認識である以上、バトロイドはともかく、ガウォークやファイターがあるサラマンダーを見れば、一体どういう反応をするのやら。

 ともあれ、ニーズヘッグとサラマンダーはあるが、ミロンガ改を安売り――別に本当に売る訳ではないが――するつもりはなかった。

 

「ぐぬぅ……」

 

 不服そうな様子を見せるエル。

 とはいえ、例え同郷――違う地球だが――の出身とはいえ、こちらの手札をそう簡単に見せる訳にはいかないのだ。

 

「あー! またアクセルがエル君を苛めてる!」

 

 不意に響くその声は、当然のようにアディの声。

 とはいえ、いつもであれば面倒なと思うアディの襲撃だったが、今回に限ってはそう悪い話ではない。

 

「っと、悪いな。じゃあ俺はもう行くよ。アディの相手は任せた!」

 

 背後で色々と言うエルの声が聞こえてきたが、俺はそれを無視してその場から離れるのだった。

 

 

 

 

 

 テレスターレの改良……というか着膨れから痩せるんだから、ダイエットか? そのダイエットが始まってから暫く時間が経ち……現在俺の前では、テレスターレがボディビルダーの如きポーズをとっていた。

 

「幻晶騎士って随分とまぁ……開発で愉快な事をするんだな」

「いや、待てアクセル。勘違いするな。決してこれは幻晶騎士を開発する上で必要な事ではない」

 

 エドガーが俺の言葉を聞き、即座にそう言ってくる。

 エドガーにしてみれば、この行動によって幻晶騎士を誤解されるのは絶対に避けたかったのだろう。

 ……まぁ、その気持ちは分からないでもない。

 幻晶騎士というのは、この世界においては力の象徴とも呼ぶべき存在だ。

 そんな幻晶騎士が、ボディビルダーのようなポーズを取っているのは、決して許容出来る事ではないのだろう。

 とはいえ、実際にこうして俺達の目の前でボディビルダーと化しているのは間違いなく……

 

「あれで、か?」

「あれは、その、何だ。エルネスティのやる事である以上、それが少しくらいおかしくても、その辺は理解出来るだろう?」

 

 エドガーの言葉に、エルのやる事なら……と、一応納得しておく。

 もっとも、エドガーも本気で俺が全てを納得したといったようには思っていないみたいだったが。

 

「ともあれ、ここまで来るのは長かった……」

 

 エドガーはこの件に関して話をすれば色々と不味いと判断したのか、そう誤魔化してくる。

 いやまぁ、その気持ちも分からないではないんだが……うん。

 俺はディーと幻晶騎士の操縦訓練とかをやっていたので、テレスターレの方にはたまに様子を見るくらいだった。

 ……俺の操縦訓練に付き合った結果、ディーの操縦技術はかなり上がったのは、向こうにとってもいい事だったのは間違いないだろう。

 実際、授業で模擬戦をやった時にエドガーにかなりの確率で勝てるようになってきたらしいし。

 ライヒアラ騎操士学園のエドガー達の年代において、一番腕が立つのはエドガーだった。

 だが、今はそれが逆転しつつある……というか、実際既に逆転しているらしい。

 それでも学年主席や学年の代表という立場は、エドガーのままだった。

 そういう立場というのは、それこそ実技の成績だけでどうにかなるようなものではない。

 学科だったり普段の生活態度だったり、教師からの印象だったり。

 ぶっちゃけると、実技以外の全ての面において、ディーはエドガーに負けているのだ。

 

「俺は幻晶騎士の操縦訓練をしてたから、そこまで長いとは思わなかったけど。……結果として、十分乗りこなせるようになったのは嬉しい」

「……アクセル」

 

 俺の言葉にエドガーは同意するのかとばかり思っていたのだが、何故か真剣な表情で俺にそう声を掛けてくる。

 

「どうした?」

「その、だな。今はディーがやってるアクセルの訓練相手、俺にもやらせてくれないだろうか?」

「あー……うん。そうだな。その辺はディーと相談して決めてくれ」

 

 何故エドガーがこのような事を言ったのかは、やはりディーの方が実技では上になったというのが関係しているだろう。

 そして、エドガーは何故ディーが急に強くなったのかといったことを考え、俺と毎日のように行われている模擬戦にその理由を見つけた。

 とはいえ、これは俺にとっても悪い話ではない。

 実際、幻晶騎士を十分に乗りこなせるようになった今の俺にとって、ディーだけでは相手にならない。

 幾らライヒアラ騎操士学園の中では腕の立つ方だったとはいえ、結局学生である事に変わりはない。

 ……ベヘモスとの戦いを経験していれば、命懸けの実戦を経験したという事で、ある種の覚醒をしたのかもしれないが、残念ながらディーはべへモスとの戦いから真っ先に逃げ出し、エルに機体を乗っ取られるという行動をしていただけなので、その辺は期待出来ない。

 ともあれ、そんなディーとエドガーの2人を一緒に相手にするというのは、俺にとっても悪い話じゃない。

 ディーが構わないというのなら、俺は全面的に賛成する。

 

「分かった。ディーが構わないと言えばいいんだな?」

 

 そう言い、エドガーは格納庫の中に入っていく。

 ……テレスターレがボディビルダーのような動きをしているのだが、そのパイロットは実はディーだったらしい。

 

「アクセルさん、ナイスです」

「……何がだ?」

 

 いつの間にか俺の側までやって来ていたエルが、俺に向かってそんな風に言ってくる。

 いや、本当に何がナイスなんだ?

 エルの事だから、幻晶騎士に関係する事なのは間違いないだろうけど。

 そんな風に思いつつ、エルに視線を向ける。

 先程まではテレスターレのボディビルダーの動きに付き合っていたと思うんだが、いつの間にかこっちに来たらしい。

 

「エドガー先輩の技量が上がれば、それは即ちテレスターレの性能も最大限に発揮出来るという事ですからね。せっかく新型の幻晶騎士を作るのですから、その性能は最大限に発揮させてあげたいじゃないですか」

「なるほど」

 

 エルらしいと言えば、らしい。

 

「そう言えば、ゲートの設置出来る場所ってどうなった?」

 

 現在、未だに俺はこの世界でゲートを設置していない。

 というか、この世界ではゲートを設置するのが難しいんだよな。

 普段なら、人のいない場所ならどこにでもいいからゲートを設置すればいいんだが、この世界の場合は下手な場所にゲートを設置すると、魔獣によって破壊される恐れがある。

 ……まぁ、量産型Wやメギロート辺りに護衛をさせればいいのかもしれないが。

 そうすれば、魔獣の捕獲も出来るだろうし、一石二鳥ではあるのだが……実際には、そんなに簡単な話でもない。

 何しろ、ベヘモスとか普通にいたしな。

 勿論、ベヘモス級の魔獣というのは、そう簡単に出て来たりはしない。

 しないのだが……それでも出て来るのが、この世界らしいところだ。

 というか、俺がこの世界にやって来た影響とかじゃないだろうな?

 いや、俺がこの世界に転移してきた時は、既にヘベモスとの戦いが行われていた。

 そう考えれば、決して俺が原因ではない筈だ。

 半ば無理矢理ではあったが、そう自分に言い聞かせ、エルに視線を向けて返事を待つ。

 だが、返ってきたのは首を横に振るという行為のみ。

 

「残念ながら、そう簡単にはいかないようです。……出来れば、僕としても何とかしたいんですけどね。他のロボットも見たいですし」

 

 しみじみと、そう告げるのだった。


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