転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編087話 ナイツ&マジック編 第04話

 結局、エルの言葉は若干渋々ながらではあったが、採用された。

 アンブロシウスにしてみれば、俺を自分の目の届く所に置いておきたかったというのが正直なところだったのだろうが、他の重臣達にしてみれば、俺がいる場所というのは危険だと、そう思ってしまったのだろう。

 ……まぁ、幻晶騎士とミロンガ改の性能を比べれば、当然の結果だったのかもしれないが。

 

「そんな訳で、今日からここで世話になる事になったアクセル・アルマーだ。よろしく頼む。堅苦しいのは嫌いだし、アクセルと呼んでくれ」

 

 格納庫の中で、エルに紹介されて、そう挨拶をする。

 目の前にいるのは、エルが新しい幻晶騎士を開発する為に集めた面々で、俺も一応その中の1人という事になる。

 まぁ、最初はエルがベヘモス戦で使っていた機体に関しての修理が云々とかやってたらしいんだが、その辺は俺がいない間に起こったので、話に聞いただけだ。

 俺はエルの家に居候する事になったので、その生活環境を整えている間に起こった出来事らしいし。

 エルの家で俺を預かる事になったのは、単純にあの会議での発言が原因だ。

 エルと俺の気が合うということで、ならばという事になったのだろう。

 エルの祖父はアンブロシウスの信頼も厚い人物らしいので、せめて俺を見張っておく方法として、そんな事になったのだろう。

 幸いにして、エルの家は相応の金持ちらしく空き部屋があったというのも大きいのだが。

 ……ちなみに、部屋に置く家具の類は俺が空間倉庫から取り出した。

 当然ながら、空間倉庫を初めて見るエルは驚き、エルの祖父と父親は更に大きく驚いていたが、エルの母親は『あらまぁ』と一言呟いただけだった。

 何気に、エルの母親って大物なんじゃないかと思った一幕だったりする。

 ともあれ、空間倉庫の中から取りだした家具の数々は、エルの一家を驚かせるには十分だった。

 ちなみに、アンブロシウスも空間倉庫については知っている。

 何故なら、目の前でミロンガ改を空間倉庫に収納してみせたのだから。

 ともあれ、W世界でデルマイユから奪ってきたのがこんな場所で役立つというのは正直驚いたが……まぁ、それはいい。

 そんな風に時間を潰している間に、エルは色々と準備をして早速幻晶騎士の開発を進めていたらしい。

 で、俺の方も一段落したという事でこうして紹介されている訳だ。

 

「あーっ! エル君、ちょっと本気!?」

 

 俺の自己紹介が終わると、1人の女が険悪な様子で叫ぶ。

 俺も当然ながらその女の事は知っていた。

 アデルトルート・オルター。

 横にいるアーキッド・オルターの妹で……エルにぞっこんな女だ。

 それだけに、エルの家に住んでいる俺が気にくわないというのもあるし、同時にエルに構って欲しいのに、エルは俺とロボットの話をしたくて俺の部屋に入り浸っていた。

 それが、アデルトルートの機嫌を損ねてしまった一番の理由だろう。

 その隣では、アーキッドが申し訳なさそうに俺に頭を下げていた。

 

「ええ、勿論本気です。アクセルさんは、陛下が派遣して下さった人ですし」

 

 ざわり、と。

 エルのその言葉に話を聞いていた皆が揃ってざわめく。

 ここにいる者の殆どが、まだ学生……このライヒアラ騎操士学園の生徒でしかないのだから、そこでアンブロシウスの名前を出されれば、それに動揺するなという方が無理だろう。

 

「あー、とはいえ別にそこまで畏まる必要はないぞ。俺はちょっと色々と人に言えない事情があって、幻晶騎士についてのアドバイスが出来るかもしれないというだけでここにやって来た……そう、アドバイスをするという名目で長期の休みを貰っただけだからな。幻晶騎士に乗ったりするのが目的だな。……あ、それと俺は生身では最強に近いから、模擬戦を希望する奴がいたら付き合うぞ」

 

 俺の説明に、話を聞いていた面々は微妙な表情を浮かべる。

 まぁ、そうだよな。

 普通に考えれば、この説明で納得しろというのが無理か。

 それでも時間と共にそれなりに慣れてくるだろうから、いずれはどうにかなる……と、そう思いたい。

 

「はい、では自己紹介が終わりましたし、皆さん仕事に戻って下さい。それとアクセルさんは……エドガー先輩達、お願い出来ますか?」

「あ、ああ。分かった」

 

 その言葉と共に、全員が仕事に戻っていく。

 そしてエドガーと呼ばれた男と、どこか2枚目……いや、2枚目半といった男と、1人の女が近付いてくる。

 まぁ、ファンタジーの世界なんだから納得出来る事ではあるが……女の露出度が高いな。

 腰から胸までを覆っている服――と表現してもいいのか微妙だが――を着ているのだが、腹と肩が剥き出しで、年齢不相応に大きな胸の谷間を周囲に見せつけている。

 多分、動きやすさとかを重視してるんだろう。

 あるいは女の色気で相手を動揺させるのか? という思いがないでもなかったが、どちらかと言えば色仕掛けをするようなタイプには見えない。

 

「アクセル……だったか? 君は、ベヘモスの時に助けてくれた人だな?」

 

 エドガーと呼ばれた男の声で、俺も思い出す。

 あの時、ベヘモスと渡り合っていた幻晶騎士に乗っていた男だ。

 ……そう言えば、エルが世間話で何かそれらしいことを言っていたな。

 

「ああ。あの時の。……そっちの2人もあの場にいた奴か?」

「いや。ヘルヴィはそうだが、ディー……いや、ディートリッヒは……」

 

 2枚目半の男を見て、エドガーがそう言う。

 ディー……ああ、こいつがディーなのか。

 俺がベヘモスと戦っている時に、エルと勘違いしていた。

 というか、エルから聞いた話によると、あの幻晶騎士はディーの機体だったらしい。

 それをエルが半ば乗っ取って、ベヘモスと戦っていたらしい。

 その辺の事情は何となく理解出来るのだが……うん。まぁ、取りあえず置いておくとしよう。

 

「そうか。3人共よろしく頼むな」

「それで、君は……正直なところ、どのくらい強いんだい?」

 

 ディーがエドガーと俺の言葉に割り込むように、そう言ってくる。

 ヘルヴィはそんなディーを止めようとしているようだったが、同時に俺に興味深そうな視線を向けてくる。

 幻晶騎士のパイロット……いや、騎操士だったか? そうである以上、生身での戦いについてはそこまで気にするような事もないのだが……まぁ、騎操士というのは騎士でもあるらしいし、その辺が気になって当然か。

 

「そうだな。機体……幻晶騎士の操縦はまだこれからだから何とも言えないが、生身でなら……このライヒアラにいる全員と戦っても楽に勝てるくらいか」

「……ほう……」

 

 俺の言葉が面白くなかったのか、ディーはこちらに向けて剣呑な笑みを向けてくる。

 どうやらプライドを少し傷つけてしまったらしい。

 もしくは、自分達に対する挑戦だと受け取ったか?

 

「おい待て、ディー。……それはそうと、アクセル。幻晶騎士の操縦はこれからという話だったが、あの空を飛ぶ幻晶騎士は……」

 

 エドガーがディーを押さえながら小声で尋ねてくる。

 この様子を見る限りだと、どうやらミロンガ改に関しては上から口止めされているのだろう。

 とはいえ、当然か。

 この世界において、空を飛ぶ幻晶騎士などというものは存在していない。

 そうである以上、アンブロシウスか、それ以外の誰かなのかは分からないが、ミロンガ改について口止めをするように言うのは当然だろう。

 

「あれは幻晶騎士とは全く別の存在だ。だから、幻晶騎士の操縦という意味では、俺は正真正銘の初心者なのは間違いない」

 

 そう告げると、ディーの目が微かに光る。

 何を考えているのかは大体分かる。分かるが……ぶっちゃけ、俺の人型機動兵器を操縦する特性というのは非常に高い。

 幻晶騎士も、最初はともかく操縦している間にすぐ慣れるだろう。

 

「……よし。なら、まずは生身でアクセルがどれだけ強いのかを見せて貰おう。いいかい、エドガー?」

「それは構わないが……いいのか? ディーはこう見えて、騎士の中でも上位に位置する強さを持っているぞ?」

 

 こう見えてと表現したのを考えると、エドガーから見てもディーに対しては色々と思うところがあるのだろう。

 ベヘモスとの戦いで仲間を置き去りにして逃げ出したのだから、そんな風に思われてもおかしくはないが。

 とはいえ、ディーが逃げ出した結果として、エルを戦場に連れてくることが出来たのだと考えれば、実はかなりの手柄なのは間違いないが。

 

「そうだな、構わないぞ。……それと、エルの仲間で俺の実力がどれだけのものなのかを知りたい奴はついてこい。幻晶騎士についての操縦はともかく、俺が生身でどれだけの実力を持っているのかは見せてやる!」

「へぇ。……そこまで大々的にということは、よっぽど自分の実力に自信があるんだな」

「そうだな。それは否定しない。さっき言った、ここにいる全員と纏めて戦って、それでも勝てるというのは自惚れでも何でもなく、純然たる事実だからな」

 

 そう告げると、俺は格納庫から出る。

 格納庫の前はある程度の広さを持つ。

 幻晶騎士での戦いならともかく、生身での戦いならこれだけの広さがあれば十分だろう。

 ……もっとも、俺が本気で混沌精霊としての実力を発揮したりした場合は、少し狭いのは間違いないが。

 とはいえ、この戦いでそこまで全力を出す訳でもないが。

 そうして格納庫の前で向き合う俺とディー。

 周囲には、俺の言葉を聞いて多くの者達が様子を見に来ていた。

 ……アデルトルートが全力でディーを応援しているのは、取りあえず見なかった事にしておくとしよう。

 ディーが手に持つのは刃のない模擬戦用の長剣。

 

「アクセル、お前もこれを」

 

 そうエドガーが言って俺にも模擬戦用の長剣を渡そうとしてくるが、俺はそれに首を横に振る。

 

「悪いが、俺の武器はこれだ」

 

 そう告げ、空間倉庫の中から一本の槍を取り出す。

 見た者の視線を惹き付ける、不思議な……それでいて圧倒的な迫力を持つ赤い槍。

 そう、ランサーから入手した槍……ゲイ・ボルク。

 ざわり、と。

 それを見た周囲からざわめきが起きる。

 まぁ、実際にそれだけの武器なのだから、しょうがないが。

 

「この槍の銘はゲイ・ボルク。……エルなら知ってるんじゃないか?」

「な……まさか、そんな……本物ですか……?」

 

 俺が予想した通り、エルはゲイ・ボルクについて知っていたらしい。

 ロボットにしか興味がないのかと思っていたが、どうやらファンタジー系に関してもそれなりに知ってるということなんだろう。

 ……いや、この槍の名前はかなり有名だし、それこそファンタジーとかに興味がなくても何らかの理由で聞いたことがあってもおかしくはない。

 

「ああ、本物だ。この槍の所有者から直接譲って貰ったものなのは間違いない。……槍の穂先に布を被せれば、取りあえず危なくはないだろ?」

 

 最後はエドガーに向かっての問い。

 そのエドガーも、俺の持つゲイ・ボルクに目を奪われていた。

 それこそ、空間倉庫を見せたことにすら全く気が付いた様子もないくらいに。

 

「い、いや、それは……例え布を被せても武器としての格が違いすぎる。槍なら模擬戦用の槍があるから、そちらを使ってくれ。……というか、その槍はどこから出した?」

「ちょっとした仕掛けがあってな」

 

 ……まぁ、空間倉庫という仕掛けがあるのは、間違いないのだが。

 ともあれ、皆の見てる前でゲイ・ボルクを空間倉庫に収納する。

 そうしてエドガーが改めて持ってきた模擬戦用の槍を手に、改めてディーと向き合う。

 とはいえ……ぶっちゃけた話、槍と長剣だと間合いの関係で槍の方が有利だったりするんだよな。

 ただでさえ身体能力でこっちが有利なのに、武器の性能でもこっちが有利だと……いや、ゲイ・ボルクを使おうとした俺が言うべき事じゃないか。

 

「取りあえず、来いよ」

「うおおおおおっ!」

 

 俺の言葉が挑発に聞こえたのか、それともディーにとってはそれが最善のタイミングだったのか。

 その辺は分からないが、真っ直ぐこちらに向かって来たのは間違いのない事実。

 とはいえ、その踏み込みは決して鋭くもなんともない……言ってみれば、平凡な動き方。

 Fate世界やネギま世界、ペルソナ世界といった者達と比べるのが、そもそもの間違いなのかもしれないが。

 ともあれ、こちらに向かってふり下ろされた長剣を回避し、そのまま槍の柄を使ってディーの足を掬い上げる。

 

「うっ、うわぁっ!」

 

 地面に転ぶディーと、そのディーの眼前に突きつけられた模擬戦用の槍の穂先。

 ディーは自分のすぐ目の前にある槍の穂先を見て、そこから視線を逸らして俺に向け、再度自分の前にある穂先に視線を向ける。

 そこまでして、ようやく自分の負けを認めたのか、素直に口を開く。

 

「負けたよ」

 

 そんなディーの言葉に、俺は少しだけ驚いた。

 今までのディーの態度から考えると、てっきり見苦しく負けを認めないのかと思っていたんだが。

 まさか、こうもあっさり負けを認めるとは。

 ……アデルトルートがその勝負の結果にこっちを睨み付けているのは、ある意味で予想通りだったが。


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