5000人という大台の突破記念なので、話数はそれなりになる予定です。
ふと気が付けば、何故か俺がいたのは森の中。
……いや、それだけなら問題はないんだが……
「あれって、どう見てもモンスターだよな」
少し離れた場所で行われている戦闘を見て、そんな風に呟く。
今まで、色々な世界に飛ばされてきたのだが、ファンタジーはファンタジー。ロボット物はロボット物と、その辺はしっかり区別されていた。
いやまぁ、ネギま世界に茶々丸とかいたり、ペルソナ世界にアイギスがいたりといった事はあったが。
だが、現在俺の視線の先で行われてるのは、巨大な……それはもう巨大としか表現出来ないような亀のモンスターと、PTのような人型機動兵器が戦っているという光景だった。
人型機動兵器の方は……周囲に生えている木とかから考えて、10mくらいの大きさか?
また、随分と中途半端な大きさだな。
いやまぁ、この世界ではそれが最適としてその大きさなんだろうが。
ギアス世界のKMFは、大体5m前後。MSとかPT……それ以外の人型機動兵器の類も、殆どが18mくらい。
……唯一、俺のニーズヘッグは15mくらいだが、そんなニーズヘッグと比べてもあの人型機動兵器は間違いなく小さい。
そして、亀のモンスターは明らかに巨大だ。
亀の足の大きさ程度と言えば、その差が理解しやすいだろう。
そんな圧倒的な相手に、人型機動兵器の方はたった3機で戦っている。
いや、これは戦っていると表現するのは正しくないか?
ちょっかいを出しているといった表現の方が正しいように思える。
そんな戦いだったが……亀の方もチクチクと攻撃してくる人型機動兵器を鬱陶しく思ったのだろう。尻尾を振って3機のうちの1機を吹き飛ばす。
これは、まずいな。
いや、あの人型機動兵器が撃破されても、俺には何の関係もない。
関係もないのだが……人型機動兵器という事は、あれに乗っているのは恐らく人間だ。
いや、獣人とかエルフとかドワーフとか、もしくは全く俺が知らないようなこの世界特有の種族という可能性もあるが、ともあれ人型機動兵器を使っている以上、相応の技術力があるのは間違いない。
俺がこの世界に来た理由は分からないが、それでも折角やってきて、しかも未知の技術があるのだから、シャドウミラーの代表として接触しない訳にはいかない。
ゲートを設置してホワイトスターに帰れるかどうかも試してみたかったが、今はとにかくこの連中をどうにかした方がいい。
そんな訳で、人型機動兵器という事で空間倉庫の中からミロンガ改を取り出す。
サラマンダーは戦闘機形態に変形するので、色々と向こうを警戒させそうだし、ニーズヘッグは……それこそ、言うまでもないだろう。
そんな訳で用意したミロンガ改に乗り込み……戦場に向かう。
ミロンガ改は機動性と運動性に特化した機体だけに、あの亀の攻撃をまともに食らえばただではすまないだろう。
まぁ、Eフィールドを始めとした、各種バリアがあるので大抵の攻撃は何とか防げそうだが。
ともあれ、テスラ・ドライブを使って空を飛びながら亀のモンスターと人型機動兵器が戦っている場所に乱入する。
人型機動兵器の1機が、今にも亀のモンスターの尻尾で吹き飛ばされようとしているところに割り込み、ビームサーベルを振るう。
斬っ、と。
そんな音と共に、亀の尻尾――ただし先端の細い部分――が切断され、あらぬ方に吹き飛んでいく。
「無事か?」
通信を送ろうにも、そもそもこの人型機動兵器が通信で話しているのかどうかも分からないので、外部スピーカを使って尋ねる。
『あ、ああ。……しかし、貴方は……?』
聞こえてきたのは。まだ若い男の声。
取りあえず意思疎通が出来るのはありがたいが、今はそれどころではない。
「話は後だ。取りあえず、助けに来た味方とだけ覚えておけばいい。……もし邪魔なら、この場から去ってもいいが?」
『いや、それは。……分かった。ありがたく助けを……ん? ディー?』
話している途中で、人型機同兵器の視線があらぬ方を見てそう呟く。
レーダーでもう1機の人型機動兵器が近付いてきているのは分かっていたので、特に驚く事はない。
取りあえず、近付いてくる人型機動兵器に乗っているパイロットの名前はディー、と。
そのディーとやらが乗ってる機体は、真っ直ぐ巨大な亀の顔面まで迫ると、持っていた長剣の切っ先を左目に叩き込む。
へぇ。このディーとかいうパイロット、かなり腕がいいな。
少なくても、ここに残っていた3機のパイロットよりは腕が上だ。
そうして、ディーとかいうパイロットは自分だけで亀との戦いを行う。
それは、単純に言っても互角に近い戦いぶりだ。
「なぁ、これって援護とかした方がいいのか?」
『いや、それは……勿論可能なら援護して欲しいが、あの戦いに割って入るのか?』
「その辺は問題ないだろ。なら……行くか」
そう告げ、テスラ・ドライブを使って空中に浮く。
『何ぃっ!』
……不意に聞こえてくる驚愕の声。
あー……まぁ、この世界の人型機動兵器は、見た限り空を飛ぶといったことは出来ていないから、驚くのも当然か。
実はさっき戦場に飛び込んできた時も、ミロンガ改は空を飛んでいたのだが、さっきは尻尾の攻撃とかを回避したりとやる事が多かったので、気が付かなかったのだろう。
まぁ、人型機動兵器の一つの目安として、空を飛べるかどうかというのがあるのは、間違いない。
そんな事を考えつつ、亀と戦っているディーの援護をするべく、ビームマシンガンを撃つ。
もしこの亀を倒すだけなら、それこそS-11ミサイルを使えば一発だ。
だが、初対面の……それも異世界から来た俺が、いきなりそんな強力な兵器を使えば、間違いなくこの世界の人々を警戒させるだろう。
また、ディーとかいう奴が乗っている人型機動兵器が、亀に対して近接戦闘を挑んでいる以上、ここでS-11ミサイルを使えば巻き込む事にもなりかねない。
『おや? おやおやおや? これは一体……貴方は一体、誰ですか? そのロボットは一体何でしょう? 幻晶騎士にしては、随分と巨大なロボットですが』
……ロボット? そう言ったのか? 幻晶騎士ってのは、話を聞く限りではこの世界の人型機動兵器の名前らしいけど。……けど、ロボットと言ったよな? 俺の聞き間違えじゃなければ。
いやまぁ、もしかしたらこの世界にも日本とかから誰かがやってきて、ロボットという概念を広げている可能性もあるが。
また、もう1つの疑問としては、あの人型機動兵器……いや、幻晶騎士か。その幻晶騎士から聞こえてきた声が、間違いなく幼かった事だ。
それこそ、さっき俺が話した相手はそれなりの年齢……少なくても10代後半くらいの年齢のように思えたが、今の声はかなり幼いように思えた。
これが、さっき言ってたディーって奴なのか?
「詳しい話は、この亀を倒してからだ。それで、どうやって倒す?」
『……分かりました。ロボットの情報を得る為ならば、こちらも本気を出しましょう。その為なら、ベヘモスを倒すくらいは何でもありません! そこのロボットのお方。本来ならそのロボットの性能を思う存分見たいのですが、今は敵を倒す方が優先です。ベヘモスの意識を逸らして貰えませんか?』
どうやら、この亀の名前はベヘモスというらしい。
それっぽい名前ではあるな。
「分かった。敵の注意をお前……ディーから逸らせばいいんだな?」
『ディー? ……まぁ、いいでしょう。とにかく、お願いします』
若干疑問を感じている様子はあったが、今はとにかくベヘモスの意識を向こうから逸らすべく、テスラ・ドライブだけではなく、エナジーウィングも起動する。
ただでさえ高い機動性と運動性を持つミロンガ改だったが、その本領はあくまでもテスラ・ドライブとエナジーウィングの双方を同時に起動させた時に発揮される。
……いきなり速度を増して、自分の周囲を跳び回るようになったミロンガ改に、ベヘモスは苛立ちを覚えたのだろう。
先端を切断された尻尾を使い、それを鞭のように振り回してくるが……
「遅い」
短く呟き、あっさりとその攻撃を回避すると、ビームマシンガンを使ってベヘモスに攻撃する。
かなり皮膚が厚く、防御力が自慢なのだろうが……ビーム兵器を防ぐようなことは出来ない。
もっとも、これがビームライフルならベヘモスにも致命的なダメージを与える事が出来たかもしれないが、ミロンガ改が持っているのはあくまでもビームマシンガンだ。
細かいビーム弾を無数に発射する攻撃で、そのビーム弾でベヘモスに致命的なダメージを与えるといったことは出来なかった。
そうなると、ビームサーベルか?
そうも思ったが、ディーが何かをやろうとしている以上、今はそちらに任せておいた方がいいだろう。
コオオオオオオオオオオオオ。
ふと、そんな声が聞こえてくる。
何の音だ? と思ってヘベモスを見ると、息を吸いながら首を動かし、こちらに狙いを定めているように見えた。
これは……不味い!?
嫌な予感を感じつつ、同時にこれがベヘモスの意識を惹き付けるのなら絶好の好機だというのも理解した俺は、そのまま相手を挑発するようにビームマシンガンを撃ち続け……
轟っ、と。
そんな音と共にベヘモスの口からブレスが放たれる。
グリの使うカマイタチブレスと似たような……それでいて、威力は明らかにこちらが上の一撃だ。
そんな攻撃を、俺はミロンガ改のスラスターとエナジーウィングを使って急速に上昇し、何とか回避する事に成功する。
「ディー、今だ!」
ベヘモスのブレスで聞こえるかどうかは分からなかったが、外部スピーカで叫ぶ。
幸い、俺の言葉は聞こえていたのだろう。
ディーは俺に向かってカマイタチブレス……いや、カマイタチではない、風のブレスか? ともあれ、そのブレスを放ったベヘモスの眼球に向かって真っ直ぐに突っ込んでいき……持っていた長剣を突き刺す。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
風のブレスを放つのを中断し、騒ぎ出すベヘモス。
だが、そのおかげで俺に対するベヘモスの注意も完全に逸れていた。
激痛に暴れ回すベヘモス目掛け、ミロンガ改を一気に急降下させる。
ビームサーベルを引き抜き……ディーによって貫かれたのとは逆の、もう片方の目を斬り裂く。
『助かります。このまま一気に行きますよ。……って、ちょっと先輩! 邪魔をしないで下さい!』
……何だ?
何だかいきなり妙な声が聞こえてきたが……ともあれ、ディーには現在あの敵を倒すだけの何らかの策があると思ってもいいらしい。
どんな攻撃を使うのかは分からないが、ともあれそれに任せるとして……今の俺に出来るのは、ベヘモスを少しでも挑発してこっちに注意を惹く事か、
幸いにして、敵は両目を塞がれて周囲の状況を確認出来ない。
……いやまぁ、これだけのモンスターである以上、視覚以外にも何らかの手段で周囲の様子を確認している可能性はあるが。
ともあれ、ディーの乗っている幻晶騎士は、眼球に突き刺さったままの長剣に手を伸ばし……そのまま少しの時間が経過し……次の瞬間、ベヘモスの身体中に雷が放たれた。
あー……うん。何をしたのか理解した。
つまり、ディーは何らかの手段でベヘモスの目に突き刺さった長剣に雷を流し、それによってベヘモスの体内から焼いたのだろう。
そういう武器なのか……それともモンスターがいるとなると、実は魔法が普通に存在しているのか。
ともあれ、ディーの放った雷によって体内を焼きつくされたベヘモスは、その場に崩れ落ちた。
……死んだ、と見て間違いないだろう。
「どうやら倒したようだな」
『はい、何とか。……それより、少しお話を聞かせて貰えませんか? 特にそのロボットに関してとか、ロボットに関してとか、ロボットに関してとか、そしてロボットに関してとか』
「あー……うん。分かった。お前がロボットに関してはもの凄い興味を持ってるのは分かったから、落ち着け。それよりも……今は、向こうの連中に色々と説明する必要があるからな」
そう言って俺がミロンガ改の顔を動かして示したのは、こちらに近付いてくる幻晶騎士の群れ。
いや、群れというよりは軍勢と言ってもいいだろう。
攻城兵器のような物を持っているのを見れば、恐らくベヘモスに使うつもりで持ってきた武器なのだろう。
……まぁ、巨大な亀といった形のモンスターのベヘモスを相手にするには、ああいうのが必要だというのは分かる。
だが、実際に到着してみれば、既にベヘモスは倒されており……その側には、この世界の主力兵器と思われる幻晶騎士はともかく、ミロンガ改という幻晶騎士では有り得ない人型機動兵器がいたのだから、向こうが困惑し……更にはこちらを警戒するのは、当然の事だ。
さて、この状況……今更、本当に今更の話だが、俺はどこの世界に転移してしまったんだろうな。