本来は数日前には出来ていたんですが、本編が昨日の話で一段落したので、今日から数日番外編を投稿します。
ふと気が付くと、俺の視線の先にはKMFの姿があった。
しかも、何故か俺の外見は10代半ばの姿。
えっと……あれ?
何故いきなりギアス世界にいるんだ? 確か、俺はUC世界にいた筈だったが……
また、同時に疑問を覚えたのは、俺の視線の先にあるKMFだ。
それは、グラスゴーと呼ばれるKMF。
まるで俺のパーソナルカラーのようにピンクに塗られたグラスゴーが、紫色のKMF、サザーランドと戦っているのだ。
それが、まずおかしい。
俺が知ってる限りでは、既にKMFの主力は第7世代になっている筈だった。
グラスゴーが第4世代、サザーランドが第5世代と考えると、今の主力となっている戦力から考えて、明らかに現在俺の視線の先で戦っているKMFは旧式だった。
そんな風に考えていたのが理由なのだろう。
戦っているKMFのうち、ピンク色のグラスゴーがサザーランドに吹き飛ばされてこっちまで飛んできたのが見える。
幸いにも俺にぶつかるといったことはなかったが、それでも数m近ければ、恐らく俺はグラスゴーと接触していただろう。……混沌精霊の俺が、そんな事でどうにかなるような事はないのだが。
『え? ちょっ! 何でこんな所に一般人が!? もしかして逃げ遅れたの!?』
ピンクのグラスゴーから聞こえてくる声。
その声は、俺にも聞き覚えがあった。
それは、黒の騎士団のエースにして、今となってはギアス世界の日本を代表するKMFのパイロット、カレン。
カレン・シュタットフェルトと、紅月カレンという2つの名を持つ人物。
だが、そのカレンが何故紅蓮ではなくグラスゴーに乗って戦っている?
それに、声の調子が俺の知っているカレンよりも随分と若いような気がする。
一体、どうなってる?
だが、カレンのグラスゴーと戦っていたサザーランドは、そんなのは関係ないとばかりにこちらに向かってアサルトライフルを撃ってくる。
『止めろぉっ!』
放たれた弾丸が俺の方にも向けられていると知ったカレンが取ったのは、俺を守る為に自分の機体を盾にするという方法だった。
その為に、弾丸は全く俺に向かって命中することはなかったが、代わりにグラスゴーは次々と損傷し……何とかコックピットが脱出装置として動こうとしたが、機体ダメージのせいで正常に動くことはなく、カレンはコックピットから地上に落下した。
「っと!」
落下してきた女を受け止めると、やはりそれはカレンだった。
ただし、俺が知っているカレンに比べると子供っぽい。……身体付きは平均以上ではあるのだが。
『貴様、イレブン……ではないな? 主義者か?』
グラスゴーから聞こえてきた声にも、覚えはある。
ジェレミアのものだ。
ルルーシュの部下として活動しているカレンとジェレミア。
そして第4世代のグラスゴーと第5世代のサザーランド。
それを考えると、考えられる可能性は1つだけ。
つまり、俺はギアス世界の過去に戻ってきたということだろう。
もしくは、ギアス世界の平行世界という可能性もあるが。
「うう……に、逃げて……」
俺に抱き上げられたカレンは、こちらを見ながらそう言ってくる。
そんなカレンを落とさないように抱きしめながら、こっちに迫ってくるグラスゴーをどうしたものかと視線を向ける。
ジェレミアは、完全に俺を主義者だと認識していた。
それは、アサルトライフルの銃口がこちらを向いているのを見れば明らかだろう。
『主義者め、死ね!』
そんな言葉と共にグラスゴーのアサルトライフルが発射されるが、その弾丸は俺に届く前に全て白炎によって作られた壁に触れ、焼滅する。
『……な……』
うん。まぁ、このギアス世界においては魔法というのは……いや、C.C.とかギアスとかそういうのがあったな。
とはいえ、それはあくまでも表に出ていない事である以上、ジェレミアが知らなくても意味はない。
「取りあえず、見逃してやるから去れ」
その言葉に、一瞬沈黙したジェレミアだったが……
『ふざけるなぁっ!』
自分が侮られたと思ったのか、ジェレミアが再度アサルトライフルを撃ってくる。
ちっ、俺のギアスを消して貰った恩人だから殺したくないってのに……まぁ、いい。
俺の影から影槍が伸びると、そのままサザーランドの手足を次々に切断していく。
そうして被害を受けたサザーランドは、コックピットを脱出させた。
取りあえず借りのあるジェレミアだけに、今回は見逃す。
だが、次に攻撃を仕掛けてくれば……
「ううん……」
ジェレミアの未来について考えていると、腕の中のカレンが小さく呻きながら目を開く。
そして、目と目で視線を交わす俺とカレン。
「きゃっ……きゃああああああっ!」
そんな悲鳴と共に、カレンの腕が鋭く振るわれる。
その一撃は、それこそその辺の軍人の一撃よりも鋭い。
とはいえ、その程度の一撃なら回避するのも難しくはなく、俺はあっさりと回避するのだった。
「ちょっ! 何よあんた!」
「俺か? アクセル・アルマー。知らないか?」
恐らくここが過去の世界、もしくはパラレルワールドだと思いながらも、カレンに尋ねる。
もし万が一にもこのギアス世界が俺の知っている世界であれば、俺の名前を知っていてもおかしくはないと思ったからだ。だが……
「っ!? ブリタニア人!?」
「いや、違うな」
改めて俺の事を疑問に思ったカレンが叫ぶが、俺はそれに首を横に振る。
そもそも、俺はこの世界の人間ではないのだから、その意見は決して間違ってはいなかった筈だ。
「でも、日本人じゃないでしょ?」
「そうだな」
「なら、何でゲットーにいるの?」
「……何でいるんだろうな。正直、俺もその辺はよく分からない。迷子になったといったところか」
自分で言ってなんだが、迷子ってのはそんなに間違っている訳じゃないように思える。
迷子の意味合いは違うが。
「……まぁ、いいわ。それより、ちょっと下ろしてくれる?」
その言葉にカレンを下ろす。
男に抱かれる――性的な意味ではなく――のが初めての為か、カレンの顔は薄らと赤くなっていた。
そんな状況で地面に下りると……どこに持っていたのか、ナイフを俺に突きつける。
「悪いんだけど、ちょっと付き合ってちょうだい。私の顔を見た以上、このまま帰す訳にはいかないのよ」
「あー……まぁ、そうだろうな」
カレンは黒の騎士団として活動する前は、テログループの一員として動いていた筈だ。
そして、カレンの今の服は、黒の騎士団特有の物ではなく、その辺に幾らでも存在している物だ。
つまり、まだ黒の騎士団に所属してない訳で……カレンがこっちを警戒するのは当然か。
いやまぁ、黒の騎士団に所属していればこっちを警戒しないって訳でもないんだが。
ともあれ、どう動くべきなのかが決まっていない以上、少しでも情報を集める為にも俺はカレンと一緒に移動する事にしたのだった。
「カレン! 無事だったのか!」
「扇さん、皆も……そのサザーランドはどうしたの!?」
「お前も聞いたあの声の……いや、それよりも、そっちは一体?」
「分かんない。自称迷子って事だけど。取りあえず顔を見られたから連れてきたのよ」
「迷子って……ここは新宿ゲットーだぞ? ブリタニア人が迷い込むような場所じゃ……」
「自称、ブリアニア人じゃないらしいわよ。それより、これからどうするの?」
「あの声の主が言うには……」
扇と呼ばれた男がカレンに何かを言おうとしたその時……
『扇、来た! 奴だ!』
扇と呼ばれた男が持っていた通信機から聞こえてきた声は、強い焦りの声があった。
そして数秒後……俺にとても見覚えのあるKMFが姿を現す。
白兜……ランスロット。
過去に戻ったと考えると、この世界では現在唯一の第7世代のKMF。
高性能すぎる機体で、現状ではスザクしか使えないという、本当にとんでもない機体なのは間違いない。
それに比べると、こちらの戦力はまだ何機か残っているサザーランド。
ただ、カレンならともかく、レジスタンス程度の技量でランスロットに勝てる筈はなく、普通に考えればここでカレン達が終わりなのは間違いなかった。
……そう、普通に考えれば、だ。
ある意味、ここでランスロットが出て来てくれたのはちょうどいい。
いつまでこの過去、もしくは平行世界のギアス世界にいるのかは分からないが、どうせなら性能の高いKMFを確保しておくに越した事はないのだから。
「くっ!」
ランスロットの姿に、俺の隣でカレンが悔しそうな声を上げる。
グラスゴーがあればと、そう思っているのかもしれないが……スザクとカレンは操縦技術に関しては同等だった筈が、グラスゴーとランスロットではKMFの性能が違いすぎる。
「俺に任せろ。カレンの身体を堪能させて貰ったくらいのお礼はするよ。あのKMFも欲しいし」
「なぁっ!? ちょっ、あんたいきなり何を言ってるのよ!」
身体を堪能という言葉で、カレンが現状すら忘れて、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
まぁ、身体を堪能と言っても、別にそれはこれを聞いた者達が思っているような理由ではないのだが。
カレンの身体を抱きしめた時の事を言っている。
ともあれ、そんなカレン達をその場に残して俺は前に進み出る。
『降伏して下さい』
ランスロットから聞こえてくる声を聞き流し、俺は瞬動を使って一気に前に出る。
以前ロイドやセシルから聞いた話が事実であれば、この時期のランスロットはコックピットが脱出装置としては使われていない筈だ。
そうであれば、スザクにコックピットに乗って逃げられる……といったことは心配しなくてもいい。
瞬動で一気にランスロットの足下まで到着すると跳躍し、ランスロットのコックピットに取り付く。
普通ならこの状況でコックピットを開けるといった真似は出来ないのだろうが……
「よっと」
俺はあっさりとコックピットの外側を剥ぎ取る。
勿論何らかの道具を使ったのではなく、素手で、だ。
「なぁっ!?」
当然のように驚くスザク。
俺が知っているスザクであれば、それこそ俺の能力について知っているのでここまで驚くような事はなかったのだろうが、幸か不幸か現在こうして俺の前にいるスザクは俺とは初対面だ。
だからこそ、こうして信じられないといった様子で俺の方を見ているのだろう。
「じゃあな」
コックピットに座って動きの止まっているスザクを強引に掴み、そのまま空中に放り出す。
普通ならこうも簡単に人間を放り出すといった真似は出来ないだろう。
だが、混沌精霊たる俺の力であれば、容易にそんな真似も出来る。
「うわぁっ!」
唖然とした状況であっても、空中で身を捻って無事に地面に着地するというのは、スザクの高い運動能力を示している。
そんなスザクではあるが、起き上がった時には既に目の前にランスロットは存在しない。
当然だろう。既にランスロットは俺の空間倉庫の中に入っていたのだから。
「なっ!?」
「消えろ。今はこっちも色々と状況を確認するのに忙しいから、ここでは手を出さない。ただ、お前のやってる事が日本人として正しいのかどうか……それをしっかりと確認するんだな」
「え……」
「てめえっ、日本人の癖にブリキ野郎共の味方をしてるのか!」
玉城だったか? 確か、そんな名前の奴がスザクに向かって叫ぶ。
スザクはそんな玉城に何かを言い返そうとするも、結局何も言えない。
そんなスザクに向かって玉城が突っかかっていきそうになるが……
「その辺にしておけ」
そう、短く告げる。
玉城はそんな俺の言葉に何かを言い返そうとするものの、それ以上は何も言えなくなって黙り込む。
まぁ、KMFを素手で破壊するような光景を見れば、それも当然だろうが。
正直なところを言わせて貰えば、俺はスザクという相手を決して好んではいない。
それこそ、俺本来の思いから考えれば、ここで殺してしまってもいいくらいだ。
だが、ユーフェミアの事を考えれば、そんな真似も出来ない。
俺が最初に経験したギアス世界において、本来助けられたかもしれないユーフェミアを、ホワイトスターとギアス世界の時差によって、最終的に救う事が出来なかった。
それがコーネリアの心に大きな傷を与えたのは知っている。
だからこそ、今回は絶対にユーフェミアを助ける必要があり、そしてユーフェミアと相性のいいスザクをここで殺すといった真似は出来なかった。
「行け。白兜……ランスロットは俺が貰ったとプリン伯爵に伝えておけ」
「え?」
俺の言葉に一瞬目を見開くスザク。
まぁ、ランスロットという名前だったり、プリン伯爵という名前を俺が知っているのだから当然か。
ともあれ、スザクはそのままこの場を走り去り……
「さて、色々と話をしようか。お前達も俺に色々と聞きたい事があるだろう?」
そう告げる。
カレン達にしてみれば、俺は明らかに異常な……それこそ、全く理解出来ないような存在である以上、向こうがこちらを理解しようと思うのは当然だった。
また、カレン達にとって俺という存在は明らかに異常な存在ではあるが、同時に対ブリタニアの戦力として考えられるのも、また事実だったのだから。