転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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2022話

 再婚。

 それは、離婚や死別といった理由で独身に戻った男女が、改めて別の――希に同じ人物と――結婚をする事だ。

 ゆかりの父親は既に死んでいる以上、当然のようにゆかりの母親の梨沙子が再婚する相手というのは、現在梨沙子が付き合っている人物なのだろう。

 

「っ!?」

 

 再婚をすると梨沙子が口にして、数秒。

 その言葉を理解出来なかったらしいゆかりだったが、やがてそれを理解し……反射的に何かを言おうとするも、結局何も言えない。

 ゆかりの目に浮かんでいるのは、怒りと悲しみの感情。

 梨沙子はそんなゆかりをじっと見つめている。

 ……ただし、梨沙子の方も何も思っていない訳ではないのか、握られている手は白くなるまで力が入っており、微かに震えている。

 梨沙子も、自分が再婚するという事を言えばゆかりにショックを与えるというのは分かっていたのだろう。

 だが、それでも……どうしても、それを言わなければならないと判断し、こうしてわざわざ学園祭までやって来た訳だ。

 梨沙子が抱いている思いは、一種のケジメに近いのだろう。

 母親の再婚という事で、色々と思うところはあるのは間違いないだろうゆかりだったが、それでも教室から出ていくような真似をせず、じっと母親を見ているのは……それを感じ取っているからか。

 理由はともあれ、ゆかりは母親から逃げるような真似はせず、向き合っていた。

 母親と一緒にいる事が苦痛で、月光館学園にやって来た事を思えば、それは間違いなく成長なのだろう。

 ともあれ、これから行われるのは親子の会話だ。

 無関係……いや、ゆかりと付き合っている以上、俺も無関係ではないだろうが、ともかく今は俺が口を挟むのは色々と危険なのは間違いない。

 

「……それで、再婚するのってあの人?」

 

 どうやら、ゆかりも梨沙子が付き合っている相手の事は知ってるらしい。

 娘なんだし当然なのか? ああ、でも梨沙子との仲が険悪だったって事を考えると、ゆかりはやっぱりその再婚相手に嫌悪感を抱いているのか。

 何だかんだと、父親が大好きなゆかりにとって、新しい父親という存在を受け入れるのは難しいだろうしな。

 

「ええ。そのつもりよ」

 

 先程までの気の弱さ……いや、押しの弱さか? とにかく、それを感じさせない様子で、梨沙子はゆかりにそう言葉を返す。

 それでも手の震えは隠しようがないんだが。

 

「……何で?」

「あの人を愛しているから」

「じゃあ、お父さんは? もうお父さんは愛してないの?」

「そうじゃないわ。……けど、あの人はもういないのよ」

「だからって、すぐに他の男に乗り換えるの?」

「っ!?」

 

 パァンッ、と。

 教室の中に梨沙子の手がゆかりの頬を叩いた音が響き渡った。

 ……そう、ゆかりが梨沙子を平手打ちしたのではなく、梨沙子がゆかりを平手打ちしたのだ。

 大人しい性格をしている梨沙子だったが、それでも自分がすぐに男を乗り換えるという事を許す事は出来なかったのだろう。

 もっとも、すぐにって言うが、ゆかりの父親が死んだエルゴ研の事故があったのは、10年近くも前の話だ。

 そう考えれば、とてもではないがすぐとは表現出来ないと思うんだが。

 まぁ、ゆかりの父親が死んでからすぐにその再婚相手と付き合い始めたのかもしれないが。

 

「何よ、本当の事を言われたのが悔しかったの?」

 

 殴られた頬に触りもせず……それどころか、顔を動かしもせずにそう告げるゆかりの様子を見れば、どれだけゆかりが怒っているのかというのが分かるだろう。

 それは、逆に言えばゆかりが梨沙子について色々と言いつつも、再婚はしないと、そう考えていたのかもしれないという事なのだろう。

 

「……そうね。手を上げてしまったのは、私も悪かったと思うわ。ごめんなさい。けど、これは信じて欲しいけど、私は決してあの人を……詠一朗さんを忘れた訳じゃないわ」

「それを信じろって言うの?」

 

 鋭い視線を向けるゆかりに、梨沙子は辛そうな表情を浮かべて頷きを返す。

 

「そうよ。……詠一朗さんは今でも愛してるわ。けど……詠一朗さんは、もういないのよ。それは、ゆかりにも分かるでしょ?」

 

 感情のままに叫ぶのではなく、言い聞かせるような話し方。

 それを聞きながら、ゆかりは何かを言おうとするものの、結局言葉には出せない。

 実際に詠一朗……ゆかりの父親が既に死んでいるというのは、紛れもない事実である以上、それに対して何かを言おうとしても出来ないのだろう。

 これは俺の予想でしかないが、恐らくゆかりの父親がまだ普通に生きていれば、岳羽家は幸せな家庭を築いていた可能性が高い。

 それが壊れたのは、やはり10年前に起きたという事故のせい、か。

 

「……あの男の人の事、本当に好きなの? お父さんの代わりだって思ってるだけじゃなくて?」

「ええ。それは間違いないわ。勿論詠一朗さんを嫌いになった訳じゃないけど、あの人も間違いなく愛してる」

 

 愛してる、と。

 その言葉を聞いたゆかりは、何故か不意に黙って話を聞いていた俺の方に視線を向ける。

 そうして少しだけ潤んだ瞳で俺を見ると……やがて、しょうがないといった風に溜息を吐いてから、口を開く。

 

「そう。じゃあ、好きにすれば。お母さんが幸せになれるなら、それはそれでいいんじゃない?」

 

 その言葉は、つい数秒前まで梨沙子の再婚に反対していたゆかりの口から出たものとは思えない程にあっさりとしたものだった。

 近くで聞いていた俺も驚いたが、それよりも驚いたのは、当然のように梨沙子だろう。

 自分の再婚について直接話す為に月光館学園までやって来て――娘が学園祭で活躍してるのを見たいというのも、嘘ではないんだろうが――それで話してみれば、当然のように再婚については反対されていた。

 だが……何の脈絡もなく、ゆかりの意見が翻ったのだ。

 それを見ていて、不思議に思うなという方が無理だった。

 

「……いいの?」

「何よ、反対して欲しいの?」

「そうじゃないけど……だって、あんなに反対してたじゃない。なのに、何で急に?」

「いいじゃない、別に。ただ、別に私が喜んで賛成した訳じゃないって事だけは覚えておいてね」

「……ありがとう」

 

 驚きの表情から一点、嬉しそうな笑みを浮かべて梨沙子はゆかりに笑いかける。

 花の開いたような笑顔っていうのは、多分こういうのを言うんだろうな。

 もっとも、それを正直に言えば、ゆかりに責められそうな気がするから口には出さないが。

 ともあれ、お互いに相手を理解したということもあってか、ある程度ギスギスとした雰囲気はなくなった。

 勿論完全にという訳ではないのだが、それでも梨沙子が再婚と口に出した時に比べれば、間違いなく雰囲気はよくなってるだろう。

 その後、二十分程親子で話をし……

 

「じゃあ、私はそろそろ失礼させて貰うわね。また……そう、また会いに来てもいいかしら」

「……好きにすれば。ただ、私も今は色々と忙しいから、相手が出来るかどうかは分からないけど」

 

 そう告げたゆかりは、口調とは裏腹に少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 忙しいというのが、実はゆかりの父親にして、梨沙子の夫が関係している……と、そう考えれば、その辺りの事情を言ってもいいような気がしないでもない。

 いやまぁ、実際にそれを口にすれば、梨沙子も色々と面倒な事に巻き込まれかねないという思いがあるのは理解出来るが。

 

「その、アルマー君だったわよね。ゆかりは色々と意地っ張りだけど、性根は優しい娘なの。だから……よろしくお願いね」

 

 立ち上がった梨沙子が教室を出る直前に、俺に向かってそう言ってくる。

 ゆかりとの関係が改善したのが嬉しかったのか、その口元にはゆかりと同じような笑みが浮かんでいた。

 

「……いいのか?」

 

 そんな母親を黙って見送っていたゆかりに声を掛けると、ゆかりは無言で俺の方に近寄ってくると体重を預けてくる。

 何も言わないのは、ゆかりにとって母親との関係が簡単ではないという事を意味しているからだろう。

 これ以上何かを言っても無意味になるだろうと判断して、俺は無言で体重を預けてきたゆかりの肩を抱く。

 そのまま数分……やがて、ゆかりがそっと口を開く。

 

「お母さん、別にお父さんの事を忘れた訳じゃなかったんだ」

「そうらしいな」

「……前はお母さんと付き合ってる人と会った時、凄く嫌な感じがしたのに……今日話を聞いたら、そんなじゃなかった。実際に会った場合はどうなるか分からないんだけど」

 

 話を聞くだけと、直接会う。この2つは何だかんだで大きく違う。

 そう考えれば、ゆかりが実際に梨沙子の再婚相手に会った時、どうなるのかは分からないが……それでも、以前よりマシになったのは間違いないだろう。

 

「もし……その、もし、だけどね。もし私がアクセルと会わないままで、再婚の話を聞いてたりしたら……多分、今日みたいにしっかりと受け止める事は出来なかったと思う」

「だろうな」

 

 俺と会ったからこそ、今回の話を受け入れられたというにも関わらず、梨沙子の言葉を最初は聞かなかったのだ。

 もし梨沙子に対する思いが以前の……それこそ俺と行動をする前、つまり月光館学園に来た時のままであったとすれば、恐らく梨沙子とゆかりの間は完全に喧嘩別れに終わってしまっただろう。

 いや、ゆかりが一方的に何かを言って教室を飛び出る……という行為が想像される以上、喧嘩別れという言葉は相応しくないのかもしれないが。

 ともあれ、俺と会った事でゆかりが成長したというのであれば、俺にとっては嬉しい事だ。

 

「その……アクセル。アクセルのおかげよ。ありがとう」

 

 そう言い、ゆかりはそっと顔を近づけてくる。

 やがて俺とゆかりの唇は重なり、そのまま数秒が経つとゆかりの舌が俺の唇を軽く突いてくる。

 そんなゆかりの求めに応じて俺も唇を開き、お互いの舌を絡ませる。

 そのまま数分……やがてゆかりの口から快楽を伴う声が出始めたところで……俺の耳は、この教室に近づいてくる気配を感じとる。

 そうして、最後にゆかりの舌とゆっくりと絡めてから顔を離す。

 激しく舌を絡め合っていた為か、日の光を反射する銀糸が俺とゆかりの口を繋ぐが……それはハンカチで拭き取られる、次の瞬間……

 

「あ、ここも休憩室みたいね。ならここで休めば……あれ?」

「ちょっ、ちょっと私を置いていかないでよー……」

 

 教室の扉が開き、色々と食べ物を持った2人の女が姿を現す。

 2-Fの生徒ではなく、単純に休憩場所を求めて来たのだろう。

 人の少ない場所で、ゆっくりと屋台の食べ物を楽しむ……そういうつもりだったんだろうが……

 

「……」

 

 そんな2人の登場に、ゆかりは顔を真っ赤に……それこそ夕日でも当たっているのではないかと――まだ昼間だが――思えるくらい、真っ赤に染めていた。

 当然だろう。ゆかりは完全に俺とのキスにのめり込んでいた。

 もし俺がゆかりを止めるような真似をしなければ、思い切りキスを……それもディープなキスをしている光景を、この2人に見られた事になる。

 そうなれば、俺とゆかりが付き合っているという話と共に、間違いなく噂となって学校中に広がっていたのは間違いない。

 ともあれ、俺とゆかりの2人は離れていたが、それでもこんな教室に男女が2人きりでいたのは間違いなく……それも、どことなく空気が変であるのを考えれば、新たにやって来た2人がいたたまれない雰囲気に感じるのも当然だった。

 

「えっと、その……失礼しました……」

「……ごめんなさい」

 

 その2人は、結局ゆかりの雰囲気に当てられたのか、顔を赤くしながら教室の扉を閉めて出ていく。

 うん、まぁ……その、何だ。

 

「続きでも、するか?」

「しないわよっ!」

 

 その叫びと共に、ゆかりが俺の身体を叩いてくる。

 混沌精霊の俺は物理攻撃を無効化出来るのだが、今のゆかりの前でそのような真似をすれば、どうなるのかは分からない。

 なので、取りあえずゆかりの俺を叩く攻撃をそのまま受けていたのだが……不意に、ゆかりがその動きを止める。

 もう十分とか、そういう感じではなく……それこそ、本当に何か予想外の行動をされたとでも言いたげな、そんな様子で。

 そして反射的に後ろを見て……不意にそこに1体のペルソナが姿を現す。

 だが、それは今までゆかりが使っていたイオではない。

 すぐにそう判断出来たのは、現れたペルソナが牛の頭蓋骨の類ではなく、天使っぽい感じのペルソナだったからだ。

 ただし、胴体……それも鳩尾の辺りが独楽? のようになっている、上半身だけのペルソナだ。

 1対の翼があり、頭部からは上の方向に多少曲がりながら2本の角が伸び、その角の間には何かの鉱石……いや、宝石か? ともあれ、そんなのがある。

 

「何だ、これ?」

「……その、イオがパワーアップしたみたい」

 

 呆然と呟くゆかりだったが……もしかしてイオがパワーアップしたのは、俺とディープキスしたからか? いや、別にこれが初めてって訳じゃないし。

 そうなると、可能性としてはやはり母親との関係なのだろう。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:1435
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1389

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