転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編065話 if ゲート編 01話

 その報告を聞いた瞬間、俺は自分でも顔を引き攣るのが分かった。

 

「……イザーク、それは本当か?」

「本当だ! 俺が、あの門を……以前、ホワイトスターにあれだけの被害を生み出した原因の門を忘れる筈がないだろ!」

 

 イザークの言葉に、俺が異を唱える事は出来ない。

 何故なら、あの門が現れた当時既にシャドウミラーに所属していた者にとって、何人もが殺されたという事は、否応なく自分達の不甲斐なさを覚える事だったのだから。

 当然だろう。シャドウミラーの本拠地たるホワイトスターで、いきなり襲撃されたのだから。

 それも、他の世界からやって来ている人間が殺されるわ、連れ去られるわといった事になったのだから、それを許せる筈がない。

 

「それで、被害は?」

「いや、それが……」

 

 すぐにでも部隊を編成しようとする俺に、イザークが口籠もる。

 そんなイザークの様子に疑問を抱き、視線をイザークと一緒に知らせに来たオウカに向けて尋ねる。

 ……にしても、この2人。一緒に来ていたという事は、恐らく……いや、間違いなくデートでもしてたんだろうな。

 

「その門が出来た場所は、誰も使っていない区画なので、人的被害はありません。いえ、それ以前に門が出現はしましたが、開かないでそこにあるだけなんです」

 

 疑問を感じている様子ではあるのだが、そこまで切羽詰まった様子はない。

 どうやら、本当に門があるだけで、そこからあの門世界の人間は出て来ていないらしい。

 他に人のいない区画でこの2人が何をしようとしていたのかは、若干気になるが……まぁ、その辺は放っておいた方がいいだろう。

 イザークも、恋人とそういう行為をしたいと思っても不思議ではないのだから。

 

「取りあえず、俺が見に行くのが手っ取り早いか」

 

 普通であれば、一国の代表が何があるのか分からない場所に行くというのは自殺行為でしかない。

 だが、それが俺となれば話は違ってくる。

 そもそも、気も魔力もない普通の攻撃では俺をどうにかするのは無理なのだから。

 だからこそ……

 

「そうね。じゃあ、アクセル。お願いね。何かあったらすぐに連絡してちょうだい。こっちもいつでも大丈夫なように、戦力を整えておくわ」

 

 レモンの言葉に頷き、イザークと共に影のゲートで門のある場所に向かう。

 ちなみにオウカを連れていなかったのは、イザークがそう主張した為だ。

 まぁ、あの世界の人間がオウカを見つければ、真っ先に襲おうとするだろうし……

 もっとも、オウカもシャドウミラーの実働班のメンバーである以上、生身での戦闘訓練をエヴァから受けている。

 それこそ、門世界の人間程度がどれだけ集まってきても、オウカを倒すのはそう簡単じゃない。

 それでも駄目だとイザークが言ったのは、門世界には魔法という存在があるというのを理解しているし、何より多分大丈夫だからといってそういう場所に連れて行きたくないというのがあったのだろう。

 

「……間違いなくあの時と同じ門だな」

「ああ。でなければ、わざわざ俺だってお前を呼んだりはせん」

 

 影のゲートから出た俺の前にあったのは、間違いなく以前門世界とホワイトスターを繋げた門と同じだった。

 いや、正確には細かい場所は違うのかもしれないが、それでも同じようなものであるのは間違いない。

 問題なのは……

 

「門から出てくる様子がない事、か」

 

 そう、以前は門が出来てすぐに帝国という名の盗賊団共が姿を現してホワイトスターで暴れたのだが、今回は全くそういう事がない。

 アヌルスの丘に新たに門が出来たのを、向こうもまだ察知していないのか……ともあれ、向こうの様子を確認するのが先決だろう。

 

「どうする?」

「やる事は決まってる。向こうが現在どうなっているのかは分からないが、もし俺達がいなくなった後に連合国を形成しているのであれば、俺達と敵対するような真似はしない筈だ。……あの世界だったら、もしくはあれから時間がそこまで経っていなければ、だけどな」

 

 一度門が消えた以上、時間の流れがどうなっているのかは分からない。

 ましてや、同じ門ではあるが、実は他の世界と繋がっている可能性もある。

 そう考えれば、やはり警戒は必要だろう。

 

「……開けるぞ」

 

 その言葉に、イザークは戦闘の準備を整えると小さく頷く。

 もっとも、戦闘の準備とはいっても銃を持ったりといったことはしていない。

 ぶっちゃけ、今の実働班の面々にとっては、拳銃を撃つより瞬動で移動して直接殴ったりした方が早い。

 それは俺も当然同様であり……何があってもすぐに反応出来るようにしながら、ギ、と門を開ける。

 そうして開いた門の先には……

 

「っ! 2曹、門が開きました!」

「全員、構え! だが、撃つな!!」

 

 そう言いながら、軍人と思しき者達が10人近く、俺に銃口を向けていた。

 そんな光景に――銃口を向けられたのにではなく、銃という武器を持つ文明の人間がいる事に――驚き、銃口を向けられたままではあったが、周囲を見回す。

 もしかして、門世界ではなく別の世界に門が繋がっていたのかと思ったが、こうして周囲を見る限りでは、ここは間違いなくアルヌスの丘だった。

 ただ……明らかに、俺達が以前やってきたアルヌスの丘ではない。

 何故なら、俺達が作った基地の類が全く存在していなかったからだ。

 代わりに、現在進行形で何やら建物を……基地を作っているように見える。

 

「……さて、これはどういう事だと思う?」

「知らん。だが、ここがアルヌスの丘であるのは間違いない。……この連中が敵なのかどうかは分からないがな」

 

 イザークの言葉に、改めてここが門世界なのだと納得する。

 もしかしたら別の世界に繋がっているのではないかという思いもあったのだが、こうして見覚えのある景色があるのを確認すれば、それ以上は間違えそうにもない。

 テュカ達を連れてくればよかったか。

 

「失礼、少しよろしいですかな?」

 

 2曹、と。そう呼ばれた男が俺達に話し掛けてくる。

 その目にはこちらを警戒する色があるが、敵意のようなものは薄い。

 

「ああ、構わない。……さて、俺達は敵ではないと思うのだがな?」

 

 交渉するのであれば、銃口を下ろせ。

 そう暗に告げると、2曹と呼ばれた男は少し考え……やがて、手を小さく動かす。

 すると、こちらに向かって銃を構えていた軍人達は、すぐに銃口を下ろした。

 いや、軍人じゃなくて自衛隊か? 見るからに日本人のようだし。

 もっとも、自衛隊は軍隊じゃないなんて意味のない寝言は、この場合全く意味がないが。

 

「これでいいかな?」

「ああ。……さて。率直に聞くが……自衛隊か?」

「っ!?」

 

 俺の言葉に、目の前の男は息を呑む。

 いやまぁ、その気持ちも分からないじゃないけどな。

 この門があるという事は、向こうにしてみれば俺は別の世界の人間であると、そう判断されている筈だ。

 そんな俺が、まさか日本という国を知っているとは思わなかったのだろう。

 

「その……失礼ですが名前を聞かせて貰っても?」

「アクセル・アルマー。シャドウミラーという国の代表をしている」

「……え?」

 

 男の口から、間の抜けた声が漏れ出る。

 いやまぁ、それは理解出来ない訳でもないんだが。

 

「すいませんが、自分の判断出来る事ではありません。上の方に連絡をしたいのですが、構わないでしょうか?」

「ああ、そうしてくれ。こっちはそれで問題ないよ」

「ありがとうございます。それで、その……こちらの門は……」

 

 こちらを窺うような視線。

 もしかして、俺がこの門を作ったとか、そんな風に考えているのか?

 ……話の流れ的にはそんな風に思われてもおかしくはない、か。

 

「俺達の国に突然現れた門だ」

 

 そう言うと、やっぱり信じられないといった視線をこちらに向けてくる。

 まぁ、その気持ちは分からないでもないけど、感情を顔に出しすぎじゃないか?

 

「……申し訳ないですが、もう少々お待ち下さい」

 

 そう言い、男は急いで部下に指示を出す。

 急いで上官にどうするべきか、聞いているのだろう。

 さて、まさかこの世界に日本人が来てるとは、正直思わなかったな。

 一体どうなっているのやら。

 ……いや、考えるまでもないか。

 門世界も、ゲートで行く世界同様、恐らく何らかの……ゲーム、アニメ、漫画、小説、もしくはそれ以外かもしれないが、とにかく何らかの原作がある世界だったのだろう。

 そしてこの展開から考えると、本来ならあの門は日本と繋がる筈だった。

 だが、それが何故かホワイトスターと繋がった……という事か?

 

「この世界についての情報を求めたい」

「その件について説明をさせて貰いたいので、こちらにどうぞ」

 

 2曹と呼ばれていた男は、上との連絡がついたのかそう言ってくる。

 

「アクセル、どうする?」

「そう言われてもな。……この場合は一緒に行くのがベストだろ。俺の安全は既に確保されてるんだし」

「俺はどうするんだ?」

「門の警備を頼む。一応向こうが手出しをしない限りは、こっちから手出しするなよ」

「分かってる」

 

 不機嫌そうに言うイザーク。

 国の代表に対する態度じゃないせいか、自衛隊の俺を見る面々が微妙になってるような気がする。

 20代の姿なんだから、そんなに違和感はないと思うんだけどな。……いや、20代で国の代表ってのがおかしいのか。

 もっとも、10代で国の代表になっている奴も多いんだが。

 

「ああ、それとレモンの方に連絡しておいてくれ。それと政治班から誰かこっちに向かわせてくれ。護衛は……誰も空いてる奴がいないなら、メギロートかバッタでいいだろ」

「分かったから、お前はさっさと行ってこい」

 

 不機嫌そうに言うイザーク。

 ……銃口を向けられていないとはいえ、銃を持っている自衛隊10人以上に囲まれているにも関わらず、一切動揺した様子はない。

 ここに残っている自衛隊の面々は、それを不思議に思っているのが分かる。

 まぁ、素手のイザークが銃を持った自衛隊10人よりも強いってのは、想像出来ないよな。

 そもそも、向こうが警戒を解いた理由には、俺とイザークが何も武器を持っていなかったから、というのもあるんだろうが……うん、まぁ、それが普通なんだろう。

 こうして俺は、まだ完全には完成してはいないものの、大分出来上がっている施設の中に案内されるのだった。

 

 

 

 

 

「狭間浩一郎陸将です」

 

 そう言いながら、40代……それとも50代か? ともあれ、そのくらいの年代の男が俺に向かって握手を求めてくる。

 それに応じながら、俺は廊下やここと繋がっている部屋に何人もの人の気配を感じ取っていた。

 別にそれを責めるつもりはない。

 そもそもの話、いきなりあのような門が現れ、そこから男が2人姿を現し、ましてやその片方が国の代表だと、そう言うのだから。

 普段であれば、それこそ妄想を口にしているような奴と思われても仕方がない。

 それでも門がある以上、あっさりとそう判断する訳にもいかず……何かあった時の為に、周囲に兵士を配置してあるのだろう。

 

「アクセル・アルマーだ。シャドウミラーという国の代表をしている」

「その……申し訳ありませんが、混乱しています。アルマーさんの言う、シャドウミラーという国を、私は理解していません。帝国という国とは別の国という認識でいいのでしょうか?」

「……帝国、か」

 

 もしかしたらと思っていたが、どうやら俺の予想は当たったらしい。

 本来であれば、既に滅んだ筈の帝国という国が存在している。

 それを考えれば、やはりこの世界は門世界は門世界であっても、俺達が知らない門世界なのだろう。

 さて、どうするべきか。

 既に俺の中には、帝国に対する恨みというのはない。

 いやまぁ、皇帝もその息子達も揃って処刑したし、帝国という国そのものも滅ぼしたのだから、それは当然だろう。

 ……もっとも、この世界の帝国がこっちにいらないちょっかいを出してくるような事でもあれば、話は別だが。

 

「どうやら、アルマーさんの様子を見る限りでは、違うようですね」

「そうだな。俺達の国は帝国という国とは関係ない」

 

 取りあえず、帝国について知っているというのは、今のところ隠しておいた方がいいだろう。

 ここで正直に言っても、向こうを警戒させるだけだし。

 

「……帝国は、アルマー代表達が現れた門を、日本に……それも、銀座にも作りました」

「うわぁ……」

 

 狭間の言葉を聞き、思わず出たのがその一言だった。

 帝国の連中がどのような真似をするのかというのは、それこそホワイトスターで行った事を見れば明らかだ。

 そして、東京の銀座というのは人口密度という点では間違いなくホワイトスターよりも上だ。

 そもそもの話、ホワイトスターは限られた人間しかやってくる事が出来ない。

 それでもあれだけの騒ぎになったのだから……

 うん、この世界の日本にとっては、正直なところご愁傷様としか言えなかった。


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