転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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1890話

「ワン、ワン!」

 

 長鳴神社の境内で、俺の姿を見つけた犬が嬉しそうに吠える。

 だが、いつもであれば真っ先に俺の方に向かって駆け寄ってくるのだが、今回に限ってはそうでもなかった。

 ……まぁ、その気持ちも分からないではない。

 俺以外に、ゆかりの姿がそこにあったのだから。

 一応他の連中も誘ったのだが、有里は何やら細々とした用事があるとかで、真田は部活が、桐条は生徒会長としての仕事があるからと、それを諦めたのだ。

 そんな訳で、ゆかりと一緒に長鳴神社に来た訳だ。

 

「ワフ、ワフ……ワン!」

 

 犬は、俺の近くで足を止め、ゆかりの臭いを嗅ぐようにし……やがて安心出来る相手だと判断したのか、俺ではなくゆかりの周囲を走り回る。

 これは……やっぱり犬がオスだというのも関係しているのか?

 人間だけではなく、犬まで惑わせるフェロモンを発するゆかり、凄いな。

 

「……ちょっと、アクセル。この犬を何とかしてちょうだいよ!」

 

 危害を加えられている訳ではないのだろうが、それでもこうして自分の周囲を走り回られると、何か思うところがあるのか、ゆかりがそう言ってくる。

 うん、このまま困惑しているゆかりを見ていても面白そうだが、本当にそうすれば、後で色々と不味い事になりそうだな。

 取りあえずそう判断し、今は犬に構われて戸惑っている様子のゆかりを助ける事にする。

 

「ワン、ワン! ワン!」

「あははは。ちょ、ちょっと舐めないでよ。くすぐったいから!」

 

 犬もゆかりは遊べる相手だと判断したのか、近づいてゆかりの手を舐めていた。

 勿論この場合の舐めるというのは、侮るといった意味の舐めるではなく、物理的な意味での舐めるだ。

 ……月光館学園にいるゆかりのファンがこの光景を見たら、羨ましさで爆発するんだろうな。

 そんな事を考えつつ、俺は空間倉庫から以前買ってあったドッグフードを取り出す。

 最高級品――あくまでもスーパーに売ってる奴でだが――という訳ではないが、そこそこに高級なその缶詰の蓋を開けると、そこから漂う食欲を刺激する匂いに反応したのだろう。

 ゆかりと遊んでいた犬はすぐにこっちに向かってくる。

 

「ワンワン! ワフゥ!」

 

 早く早くと、促される。

 やっぱりこの犬って何気に食い意地が張ってるよな。

 ここ最近は餌に困ってたのか?

 俺も色々と忙しくて、神社からは少し足が遠のいていたからな。

 ともあれ、開けた缶詰を地面に置くと、犬はすぐにそれを食べ始めた。

 

「全く、色気より食い気ね」

「……色気ってな。いやまぁ、これ以上何かを言うと俺の方に被害が来そうだから、何も言わないが」

 

 犬がゆかりに色気を感じていたら、それはそれで色々と不味い事になりそうな気がするんだが。

 ともあれ、こうしてゆかりと一緒に犬がドッグフードを食べる光景を眺めつつ、空間倉庫からシュークリームを取り出す。

 巌戸台駅からそれ程離れていない場所にあるパン屋で買ったシュークリームだ。

 ……正直、ケーキ屋じゃなくてパン屋にシュークリームがあるというのは、疑問を感じないではないが。

 それでも、和菓子店やおにぎり屋がシュークリームを売ってるよりは、違和感がないだろう。

 パン屋でちょうど出来たてのシュークリームを見つけたので、ある程度纏め買いしたうちの1つをゆかりに、もう1つを自分用にと食べる準備をする。

 

「ありがと。……美味しいわね」

 

 シュークリームを一口食べ、ゆかりの口から感嘆の声が漏れた。

 出来たてだけあって、生地はサクッとした食感が残っており、クリームも生クリームとカスタードクリームが半分ずつ、たっぷりと入っていた。

 これがスーパーとかで売ってるシュークリームだと、クリームはともかく、生地はフニャリとした食感なんだよな。

 美味さの持続時間とでも言うべきものが、シュークリームは短いのだ。

 この美味さを味わえるのは、運のいい奴だけだろう。

 

「うん、かなり美味いな。……それにしても、良かったのか?」

「何が?」

「いや、俺が使っている魔法……ネギま世界についての魔法を覚えなくて」

 

 俺の持つ能力の1つ、魔法。

 桐条達のいる前では、結局ゆかりは魔法を覚えるのを固辞した。

 桐条達は、俺が使っている魔法はこの世界に前からあったもので、単純に自分達が知らなかった技術だと判断している。

 だが、ゆかりは違う。

 俺が異世界からやって来た事を知っているゆかりにとって、魔法というのは文字通り別世界の技術とでも呼ぶべきものなのだ。

 そして、ゆかりが俺の使っている魔法に多少なりとも興味を持っているというのは、一緒に行動している俺は当然のように知っている。

 そんなゆかりだけに、まさか魔法を習得しないという選択肢を取るとは、思っていなかったのだ。

 

「ああ、その事? まぁ、興味がないって言ったら嘘になるけど……正直、今のところはそんな余裕はないでしょ?」

「時間に関しては問題ないと思うが?」

 

 生徒会室でも言ったように、現在ゆかりが自分を鍛えるという意味では、やるべき事はもう殆どないのだ。

 それこそ、俺との模擬戦とか……そのくらいだろう。

 

「時間は、ね。それに、弓を持っていると魔法を使いにくいというのは間違いのない事実なのよ。それこそ、召喚器がなければ、もう少し話は違ってくるかもしれないけど」

 

 そう言ってくるゆかりの表情には、多少の残念さはあっても、やりたい事を無理に我慢しているといった様子はない。

 

「それより、アクセルこそ。……順平の件、どうするの?」

 

 話題を変えたくなった……という訳でもないが、そのゆかりの言葉に俺は何と答えるべきか迷う。

 

「どうするって言われてもな。俺がやるべき事はもうやったし、桐条も警告した。これでもまだどうしようもないままなら、それこそ桐条の方で何か手を打つしかないだろうな」

 

 桐条から聞いた話だと、幾月はああ見えて影時間について研究している研究者の中でも、かなりの実力を持っているらしい。

 であれば、いざとなればペルソナを封じるような手段を持っている可能性は、決して否定出来ない。

 だとすれば、下手に順平が暴走しようものなら、ペルソナを封じる……という手段が使える可能性もある。

 まぁ、実際に聞いた訳ではないので、本当にそんな方法があるのかどうかは、俺にも分からないが。

 それに、本当に最後の手段として、鵬法璽もあるし。

 これは、あまり使いたくない代物なんだけどな。

 

「順平も、去年はあんなに馬鹿な事を言うようには見えなかったんだけど」

「まぁ、な」

 

 俺と順平が会ったのは、当然のように俺がこの世界に来てからだ。

 しかも、実はゆかりよりも前、それこそ本当に俺がこの世界に来た瞬間に遭遇したと言ってもいい。

 そういう意味では、俺がこうしてゆかりと一緒に行動しているというのは、色々と偶然が積み重なった結果なんだよな。

 もしあの日、ゆかりが影時間の適性を得なければ……そして順平が影時間の適性を得ていれば、今とは全く違った組み分けとなっていただろう。

 あー……でも順平の性格を考えれば、俺と一緒に行動している時も自分が特別な、選ばれた存在であると認識していてもおかしくはないのか。

 そうなればそうなったで、色々と面倒な事になっていた可能性もある。

 

「俺はお前が俺の近くにいてくれて良かったと思ってるよ」

「ちょっ!? い、いきなり何を言ってるのよ!? 馬鹿じゃない!? てか、馬鹿じゃない!?」

 

 何故か顔を真っ赤に染めたゆかりが、俺の方を見て罵倒してくる。

 ……何かおかしな事を言ったか?

 そんな疑問を抱くが、ゆかりが顔を真っ赤にしているという事は、恐らくゆかりにとっては恥ずかしい言葉を口にしてしまったのだろう。

 

「はぁー、はぁー、はぁー……全くもう、いい加減にしなさいよ? 私じゃなかったら、そろそろ刺されててもおかしくないんだから」

「いきなり怖い事を言うなよ」

「アクセルのせいでしょうが! ……ああ、ごめんなさい。君に怒った訳じゃないから」

 

 ゆかりの怒声に、ドッグフードを食べ終わっていた犬が驚いたように視線を向けてくる。

 そんな犬に向けて軽く言葉を掛けた後、ゆかりは改めてこちらに視線を向けてくる。

 

「それで、今日はどうするの?」

「今日?」

「そうよ。タルタロス、行くの?」

「あー、なるほど。……けど、さっきも言った通り、もう15階のシャドウが相手だとゆかりの訓練相手としては色々と不足なんだよな」

「いいから、行きましょうよ。誰かさんのせいで少し気が立ってるから、そういう意味では丁度いい相手だわ」

「……シャドウに八つ当たりをするってのは、正直どうかと思うけどな」

「誰のせいだと思ってるのよ! ……まぁ、いいわ。それより、そんな訳で今日はタルタロスに向かうから、そのつもりでいてね。もしかしたら、16階の封印が解けている可能性もあるし」

「そんな都合良く……」

 

 

 

 

 

「……封印が解けてるよ」

 

 目の前の光景に、俺はただ唖然と呟く事しか出来なかった。

 そんな俺の横では、ゆかりも驚愕の表情を浮かべて封印のあった場所を見ている。

 境内でゆかりとの一時を楽しんだ後、影時間になって俺とゆかり、荒垣といういつもの3人でタルタロスにやって来たのはいいのだが、神社での会話を覚えていたのか、ゆかりが16階に行ってみようと言ってきた。

 それは、半ば意地での言葉だったのだろうが、そう言えばここ最近16階の様子を見てはいなかったし……という事で、一応という感じでやってきたのだが……まさか、本当に封印が解けているとは思ってもいなかった。

 

「なぁ、アルマー。この封印、いつ解けたと思う?」

 

 荒垣がそう尋ねてくるが、俺に出来るのは首を横に振って分からないと口にするだけだ。

 

「ここ最近16階には来てなかっただろ。その間に解けたのだとすれば、それこそかなり前に解けていた可能性もある。……個人的には、一昨日のイレギュラーシャドウの一件が関係してるんじゃないかと思うんだが、特に何か証拠がある訳でもないし」

 

 まぁ、イレギュラーシャドウが出るのは恐らく満月という仮説はある。

 その仮説によれば、次のイレギュラーシャドウが姿を現すのは、恐らく来月の8日。

 それまでに、また封印のある場所までタルタロスを攻略していき……そして来月のイレギュラーシャドウを倒してからその階層の封印が解けていれば、話は決まりだろう。

 そう説明すると、荒垣は面倒臭そうに封印の解けた階段に視線を向ける。

 

「となると、また暫くタルタロス漬けの日々が始まるのかよ」

「そうなるな。けど、安心しろ。さすがに毎日連続でってつもりはないから。そんな真似をすれば、疲れて身体を壊すかもしれないしな。だから、1日タルタロスに挑んだら、次の日は休みとかにする予定だ。週休3日や4日と考えれば、そう悪くないと思わないか?」

「……どんな屁理屈だ、それは。まぁ、いい。俺もタルタロスについてはこのままにしておけねえと思わないでもないしな。それで? 今日はどうするんだ?」

「上の階層に向かうさ。それでいいよな?」

「当然でしょ」

 

 ゆかりが俺の言葉に即座に同意する。

 元々ゆかりは、暴れたいといった気分なのだ。

 それが新たな階層に挑戦するということになっても、より強敵と戦えるという嬉しさはあっても、強敵と戦いたくないという怯えはないだろう。

 ……まぁ、その強敵が死神だったりすれば、話は別かもしれないが。

 まさか、上の階層に行って即座に死神が姿を現すとか、そういう事はないと思うが……思いたいが……正直、どうだろうな。

 ともあれ、もしそうなっても死神の攻撃手段とかが大体理解出来ている今の状況では、ゆかりや荒垣を守りながら勝つというのは難しいかもしれないが、守りながら撤退する事は可能だろう。

 勿論、俺が死神の行動を分析しているように、死神も俺の行動を分析している可能性は否定出来ない。

 基本的に今まで戦ったシャドウにはそこまで高い知能はなかったと思うが、それはあくまでも今まで戦ったシャドウだからこその話だ。

 この先のシャドウも同じような知能しか持たないのかどうかは……正直なところ、微妙だろう。

 

「さて、じゃあ行くか。二人とも、一応気をつけろよ。特にゆかり」

 

 そう言いながら、いつものように子猫の炎獣を生み出す。

 もし未知のシャドウが出てきても、炎獣の護衛がいればどうにかなる……筈。

 なってくれればいいな、というのが正直なところなのだが。

 もっとも、もし炎獣を突破出来るだけの力を持つシャドウが出てくれば、最悪俺が出るという手段も残っているのだが。

 ともあれ、そんな風に思いながら……俺達は、封印が解除された階段を通り、上の階層に向かうのだった。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:1435
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1389

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