転生とらぶる1   作:青竹(移住)

1319 / 3194
番外編056話 進路相談

 寒風吹きすさぶ……と表現するのが相応しいだろう麻帆良の中にある喫茶店の1つ。

 現在そこには十人近い人数の少女達が集まっていた。

 ……いや、その集まっている者達の年齢を考えれば、既に少女とは呼べないだろう。

 外見から考えても、大人の女が集まっていた……と表現するのが正しい。

 もっとも、外見は大人であっても中身まで大人であるとは限らないのだが。

 それでも、その喫茶店の外を通っていく男……特に若い男達は、喫茶店の中にいるのがいずれ劣らぬ程の美女ばかりということもあって、目を大きく見開く。

 中にはナンパ目的で喫茶店の中に入ろうと考える者もいて、実際に喫茶店の中に入った者もいたのだが、そこで話し合っているのが就職活動についてだというのを聞くと、何故かすぐにその場を去ってしまう。

 この喫茶店のオーナーが実は麻帆良に所属している魔法使いであり、こっそりと気分が重くなる魔法を使っていると知っている者は少ない。

 

「それで……あんた達はどうなの? 就職先は決まった?」

 

 そう尋ねたのは、知る人ぞ知るといった重要人物でもある神楽坂明日菜。

 既に20歳を過ぎ、誰が見ても美人と呼ぶだろう容姿をしている。しているのだが……今その表情に浮かんでいるのは、どこか深刻そうな色だった。

 

「私は……ネギせんせーと一緒なら、どこでもいいです。多分魔法界の方に行くことになるんじゃないかと」

「あー、本屋ちゃんは結局ネギと一緒かぁ。じゃあ、ユエちゃんも?」

「はいです。のどかを放ってはおけませんし」

 

 そう言いながら、特別にマスターに作って貰った飲み物『タピオカミルク濃厚ソース風味デラックスジュニアローリングサンダー』なる飲み物を口へと運ぶ。

 普通であれば、そんな謎の飲み物に思わず眉を顰める者も多いのだろうが、既にここにいるのは10年近い付き合いの者達ばかりである。

 夕映が何を飲んでいても、『夕映だし』で済ませてしまう程度には気心が知れている。

 もっとも、既に諦めたという一面があるのも事実だが。

 

「ま、この2人は予想通りよね」

 

 カメラを持った女……麻帆良のパパラッチと名高い朝倉和美が、肩を竦めて呟く。

 厚い冬服を着ているというのにその胸がユサリと揺れ、喫茶店の中にいる何人かの敵意に満ちた視線が飛ぶのだが、本人は全く気にした様子はない。

 寧ろ、和美の後ろに浮かんでいる相棒にして守護霊とでも呼ぶ相坂さよの方が、その視線に怯えている。

 

「そっちの2人はシャドウミラーに就職が内定してるのよね?」

 

 和美の視線の先にいたのは、近衛木乃香と桜咲刹那の2人。

 

「そやねー。うちの場合はこのまま西に戻っても、麻帆良にいても色々と厄介な事になりそうやからなー。その件もあってアクセル君に相談して、もう随分と前から決まっとったわ。せっちゃんも一緒やし」

「そうですね。ですが、このちゃんと私では所属する部署が違うということになりそうなのがちょっと不安です」

「そやかて、住む場所は一緒なんやから、夜は一緒にいられるなー」

「お、お嬢様っ!?」

「むー、せっちゃん。お嬢様やないやろ?」

「あ、すいませんこのちゃん。……じゃなくて! あんまり人前でそういう事は言わないで下さい!」

 

 ギャーギャー、キャーキャーとやり合っている2人をそのままに、和美は周囲を見回す。

 

「こうして考えると、何だかんだと元3-Aでシャドウミラーに所属する人って多いのよね。いいんちょ、那波さん、円、美砂の4人は言うまでもなく。って言うか、あの4人は18歳の頃からグチョグチョでネチョネチョでドロドロな夜を過ごしているんだし、もうアクセル君からは絶対離れられないでしょ」

 

 そのあけすけな言葉に、この場にいた多くの者が頬を赤く染める。

 

「そ、それより就職についてよ!」

 

 そんな中、もっとも顔を赤くした明日菜が話を変えるべく口を開く。

 

「朝倉はどうなってるの?」

「うーん……じつは私もアクセル君からオファーが来てるんだよね。ただ、1つの組織に縛られるよりはフリーのジャーナリストも魅力的で」

「えっ!? アクセルからオファーッ!? ずるっ! 私の方には来てないわよ!?」

「いや、それを私に言われてもねぇ……」

「アスナの場合はいいんちょが話を持ってくるんやないかなぁ……」

 

 先程まで刹那と騒いでいたとは思えない程にあっさりと話を振ってくる木乃香。

 その言葉には説得力があり、皆が頷く。

 元3-Aのメンバーであれば、誰でもあやかと明日菜の関係は知っている。

 それ故に、あやかの方から話が持ってこられるのではないか。そんな風に思っても、不思議ではない。

 

「そう言えば、アクセル君が千雨ちゃんにも話を持っていくって言ってたけど……今日千雨ちゃんはどうしたの?」

「多分部屋でネットでもしてるんじゃない? あまり人のいるところに行くのは好きじゃないみたいだし。それに、千雨ちゃんって常識を大事にしてるじゃない。シャドウミラーなんかに行ったら、常識が音を立てて崩れて壊れるわよ? 超包子で働いているあたしからしてそれを実感してるんだから」

 

 しみじみと呟く明日菜。

 ホワイトスターの中でも常に人気で上位に位置する超包子に勤めているだけあって、ホワイトスター内での出来事には色々と詳しくなってしまうのは当然だった。

 例えば牧場でワイバーンに乗れるといったものはまだしも、時々交流区画の上空をワイバーンに乗っている人物が飛んでいたりすることがある、といったもの。

 更には技術班とエキドナの追いかけっこといったものまで見ることが出来る。……とても追いかけっこと呼べる範疇にはないやり取りなのだが。

 そんな日々を過ごしている明日菜にとって、ホワイトスターというのはある意味では魔法界よりも異常な場所だった。

 

「あ、あははは。さすがにホワイトスターね。でもそういう話を聞くと興味が湧いてくるから困るわ。……ちなみに、そこで黙っている夏美ちゃんはどうなの? 卒業後の進路は」

 

 朝倉の言葉に、目立たないようにこっそりとジュースを飲んでいた夏美は、あははは……と何かを誤魔化すような笑みを浮かべる。

 

「あー、うち知っとるでー。小太……んむぐっ!」

「わーっ! 駄目駄目!」

 

 木乃香の口を強引に押さえる夏美。

 そのやり取りを見れば、何となく皆が理解出来た。

 小太郎の卒業を待つのなら、暫く麻帆良に留まるのだろうと。

 

「あー、もう! 本当に私はどうしたらいいのよ! 皆が就職とか、そういうの決まってるのに、まだ私は何も決まってないじゃない!」

「そう? でもアスナの場合最終手段があるでしょ?」

「は? 最終手段? 何それ?」

 

 和美の言っている内容が分からないと言いたげな明日菜だったが、次の瞬間に和美の口から出た言葉に思わずテーブルの上にあるクッキーの皿へと伸ばした手が止まる。

 つまり……

 

「ほら、アクセル君の恋人に潜り込めばいいじゃん。アスナって結構アクセル君と仲がいいし、何でも中学の時の修学旅行だと膝枕とかしてあげたって話じゃん。それに、こう言っちゃなんだけどアスナって結構エロイ身体してるしね。いいんちょとかにも負けず劣らず。その武器を使えば……」

 

 そこまで告げ、嫌らしい笑みを浮かべながら更に言葉を続けようとした和美だったが……不意に周囲の友人達が自分から距離を取っていることに気が付く。

 ゾクリ、と嫌な予感がして明日菜の方へ視線を向けると、そこでは手にハマノツルギを持ち、怒りと羞恥で顔を真っ赤に染めた鬼神の姿があった。

 

「左手に魔力、右手に気……気と魔力の合一」

「ちょっ、咸卦法は不味いってば!」

 

 その言葉を最後に、喫茶店の窓が全て割れるような被害が出るのだが……そして、弁償のために和美と2人で暫くバイト三昧の日々を送る事になるのだが、それはまた別の話。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。