とある不死の発火能力   作:カレータルト

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黄泉川愛穂は拳を交す

 熱い

 体が焦げる匂いがする

 皮膚が焼け、肉が焦げ、骨が溶ける匂いがする

 

 構わない

 構わない、力を得られるならば

 この程度構わない

 

 苦痛を受ければ力が得られるならばもっと私を痛めつけろ

 体を燃やせ、命を散らせ、それが無意味で無いならば

 

 届くがいい、あいつの元まで

 私の体を焼く炎が届けばいい

 私の煙よ、最早死ぬことすら叶わぬこの命の煙よ、月へと届け

 

「もっと、もっと燃えろ」

 

 月に晒された私の狂気よ、願わくば

 あの命を殺し尽くす力をおくれ、その命を燃やし尽くす炎をおくれ

 

 

 

 ◆

 

 

 

 凄まじい風を切る音が耳元で響き、私は一瞬でこちらに戻される。しゅぅっと耳元を蹴りが霞めたらしく普通にあたるよりも痛覚が刺激されて嫌な感覚が残っている、蓬莱人っていっても痛覚はあるんだから面倒くさいもんだ。

 しっかし手加減って事をしてくれないかね、もしくは知らなかったりするのか? 完全にあれこちらを殺すつもりでやってるんだろってぐらいキレがある蹴りだけど…うん、やっぱり体術的には今までで見てきた中でも相当上の部類に入るんじゃなかろうか。

 

「で、よそ見するなじゃん?」

「…別に、んなことしてないよ!」

 

 よそ見なんてしてないさと言おうとして、口を噤む。私は何を見ていた? 目の前で食えないにやにやとした笑みを浮かべている黄泉川を見ながら何を感じていた? 舌打ちすると「ばればれですよ」とばかりに意味ありげな笑顔を作ってくるあたり、こいつは嫌な奴だ。

 気を引き締めよう、私は”手加減”をしなきゃならない。本気を出して殺す事は容易いけれども寝覚めが悪いし第一こんなくだらない事で殺人をはたらくほど程私は人を捨てちゃいない、それに―――いや、今は関係ないか。

 

「そろそろいくじゃん」

「来な、捌いてやるよ」

「大した自信じゃんっ!?」

 

 ばむんっ、と大音響が辺りに響いてわんわんと反響した。それと同時に凄まじい速度でこちらに突撃してくる黄泉川を確認する、今までとは違うやけに馬鹿正直な突撃で……成程、これは挑発だな?

 こいつの狙いはこちらが挑発に乗って踏み込んでくる事、そこをすかさず横に避けて隙を見せた横っ腹に一撃入れるつもりだろうと読んだ。防御に回っても良いがここは挑発に乗るとしよう、知らず知らずのうちに口角が吊り上るのを感じる。

 

「っ!? ちっ、一旦引くじゃん」

「ち……もう一歩踏み込んで来たら沈めてやったのに」

 

 挑発には乗った、だが黄泉川が予想もしていないだろう初速での踏込開始―――そこから更にギアを踏み込んでの二段加速、そこから腹を狙ったストレートを叩き込む。案の定私の速度に対応しきれなかった黄泉川に当たりはした、文句なしの真芯に命中したと思ったがどうにも”足りない”、手ごたえが感じられない。

 慌てた様な黄泉川がバックステップで退避してようやく、攻撃が外れた事を理解したあたり私は平和ボケでもしたのだろうか? 幻想郷は平和だったしなあ。どうやら私の攻撃を瞬時に、無意識かどうかは知らないけど察した黄泉川が寸でで踏み止まったらしい、あれに対応できるあたりこいつも中々やる。

 

「…っぶねーじゃん、躊躇いも無く腹狙ってくる奴がいるじゃん?」

「だって急所だし」

「えげつねー真似するじゃん」

「私も驚いたよ、まさかあそこでずらされるなんて思いもしなかった」

「それは褒め言葉って受け取っても良いじゃん?」

「文句なく褒めてるよ、安心しな」

「妹紅みたいな外見の奴に褒められるって複雑だけどありがたく受け取っておくじゃん」

 

 軽く馬鹿にされた気がするけど気にしないでおこう、これでも成長しないってのは中々気になった時もあったんだけどね。長く生きていると自分の事なんてどうでも良くなってくるものなのさ。中には永く生きているから自分の外見が大事とか言うのも居るけどそこは考え方の相違って奴で。

 

 黄泉川は強い、いくら手加減をしているとはいえ私についてきて攻撃を叩きこんでくる。久々の好敵手出現に口角が歪んで好戦的な笑顔が浮かんだ。

 手加減は決して手抜きじゃない、昔の私からしたら信じられない考え方だけど幻想郷で過ごし、スペルカードルールを始めてからそう思えてきた。恐らくそれは八雲紫が本来仕組んだ目的だからその通りになって癪だけど

 

 手加減とはつまりレベルを一致させる事、そこに生まれるのは圧倒的で一方的な“攻撃”ではなくターンがあり、やり取りがあり、戦略がある“戦闘”。古来からそうであるように戦闘ってのは娯楽の一種で、だからこそ暇つぶしに飢えている幻想郷の妖怪共が食いついたわけだ。

 私が手加減をしている事によって勝負は現在成り立っている、それ以上の事実は必要ない。「手加減したから負けた」とか言い訳をするつもりは一切ない、本気で手加減をして戦うなんて荒唐無稽な事かもしれないがそれによって勝負が成り立つならば――別に何の問題も無いだろう?

 

「んじゃ次、行くじゃん」

「何度来たって無駄だよ」

「言わせておくじゃん!」

 

 今度は急接近からの足技、私は一旦引いてから回し蹴りをお見舞いするが受け止められる。楽しい、やはり一方的な戦いよりもこっちの方が断然楽しい。殺す事なんて幾らでも出来るけど戦う事の方がやっぱり楽しい。

 でもよく考えると、なんで私は黄泉川と戦っているんだ?

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 取り敢えず立ち話もなんだから妹紅にはアンチスキルの支部に来てもらった、同意の元なので決して拉致とかそんなんじゃない――嘘だけど。妹紅は非常に不服そうだったけど何も言わないから大人しく来てもらっただけじゃん。

 支部に来たら妹紅が俄かにきょろきょろしだす、何かと思ったけど多分あれは自分が腕を引っ張られている姿を見られたくなかったのかもしれない、案外注目していると可愛いとこがある……妹紅、こっちの事睨むの止めるじゃん。

 

「ほっとしたじゃん?」

「うるさいよ」

「いやぁ、妹紅も人から見られるのは気になるじゃん?」

「うるさいって、私だってこんな……人に引っ張られる姿なんて見られたかないわ」

「くく、ごめんごめん」

 

 あんまり感情が表に出ないだけですよって小萌先生は言っていたけど――妹紅は普段落ち着いた雰囲気を持っている、でもこうやって積極的に干渉してあげると中々可愛い反応が返ってくるからついついからかってしまう。

 とは言っても妹紅は真正面からアプローチすると距離を置かれるからこうして変化球で行く必要がある、妹紅は犬より猫だと思うじゃん。まあそれ以外にもからかうのが楽しいなんて不純な動機もあるけどそれは置いておく事にしよう。

 

「……で、こんなところまで連れてきてどうするんだい」

「まあまあ、取り敢えずは部屋に入るじゃん」

 

 ちらっとさりげなく見るともう平常を取り戻した様子だ、なんだか惜しいけどそれもまた妹紅らしいと言えば妹紅らしい。普段冷静な分焦った時のギャップが――って何言ってるんだろう。

 部屋っていっても簡単なもので八畳間ぐらいの広さに机と冷蔵庫、ガスコンロと流し台ぐらいしかない小会議室。大体4人ぐらいが入れば満杯になっちゃうぐらいの広さだけど詰所としては丁度いいじゃん。

 

「取り敢えず何か飲むじゃん、コーヒーでいい?」

「……緑茶で」

「無いじゃん」

「紅茶」

「それも無いじゃん」

「じゃ、いい」

「コーヒー出来たじゃん」

「聞いた意味ないよねそれ、絶対コーヒー出すつもりで聞いたよねそれ」

 

 なぜばれた、流石に露骨すぎたかこっちを睨んでくる視線が痛い。もう一度思わせぶりにちらっと見たら「コーヒーって気分じゃない」って言われたがもしかしてもしかするとコーヒーが嫌いだったり? ブリティッシュじゃん。

 

「私としてはさっさと要件を聞きたいんだけどね、路地裏で喧嘩した件? それとも他の何か? 私としては嬢ちゃんが絡まれていたから助けただけだけどそれが何か問題? それともなんか私が都合の悪い事でもしたのか?」

「もしかして……今怒ってるじゃん?」

「結構ね、なんか勿体ぶってるけど要件も言わないし」

「気を悪くしてすまないじゃん、これは個人的な要件もあるから外で話すのは気が引けたじゃん」

「ん? それなら早く言ってくれないとさー、ああやきもきして損した」

 

 しくじった、素直に謝ったら許してくれたけど次はこうもいかないだろう。どうにも外見がいつも付き合ってるスキルアウトと同じぐらいだから気楽に考えちゃったけど気楽に考えすぎじゃん、反省反省。

 

「要件は二つあるじゃん、まずは妹紅が最近やってるスキルアウトの成敗」

「別に意図してやってないんだけどなぁ……」

「まあどう考えてるにせよ最近『白い少女に助けられた』って感謝の言葉をよく聞くじゃん、なんかヒーロー扱いされてるらしいじゃん?」

「……そりゃ、どうも」

 

 嬉しがるかと思ったらそうでもないみたいだ、逆に苦々しい顔をしているけど何か思う所があるのかな? 見かけは普通の子供だけどその内面は酷く屈折している部分があるみたいでどう話せばいいのか時々皆目わからなくなるじゃん。

 

「アンチスキルとしては別にお咎めなしって事になったから別に気にしなくていいよ、まあ妹紅としては人助けのつもりでやっているだろうけど一応そう言った判断になったことを報告しておくじゃん」

「ありがたいね、知らず知らずのうちに逮捕なんて洒落にならんしね」

 

 またもや苦々しい……今度は苦笑も混じったゴーヤみたいな顔をしているけどもしかして経験済みとか? まあこれは業務連絡みたいな奴で取り敢えず『別に今まで通りやっても良いよ』って言っている事ぐらいは分かってたみたいじゃん、妹紅は気が利くじゃん。

 

「そいで二つ目、今回はこの件でちょいと支部に寄ってもらったじゃん」

「へぇ? なんか匿名とか言い渡されたりするのかい?」

「妹紅、私と戦うじゃん」

「……は?」

「だから、私と一戦やるじゃん」

 

 訳が分からない、目は口ほどにものを言うっていい言葉だと思う。唐突な申し出に口がぽかーんと開いて頭にクエスチョンマークが浮かんでそうな表情してた。そりゃいきなり「私と戦え」とか言われたらきっと私でもそんな顔するじゃん。

 

「他意はないじゃん、妹紅の腕を見込んでの頼みじゃん」

「別にいいっちゃいいけど…どうしてさ、相手ぐらい居るだろ?」

「まあ相手には困らないじゃん、でもそれなりの実力者となると限られるじゃん」

「私は特に実力者ってわけじゃないと思うけど……」

「謙遜はよすじゃん、複数人相手に無双出来るなんて相当な実力者じゃん? 是非とも手合わせしたいじゃん」

 

 目に焼き付いて離れない光景がある、ある時通報があって駆け付けた時に見た光景。そこにあったのは被害者ではなく『手酷くやられた数人のスキルアウト』しかも聞く分にそいつはたった一人で立ち向かってものの数秒で鮮やかに倒していったらしい。

 一体誰がどんな技を使って倒したのか全くと言っていい程読み取れない現場だった、だから、だからこそ気になった。体格は? 流派は? 武器は? 見ず知らずの武人に対して知らず知らずのうちに拳が握りこまれていた。

 

 藤原妹紅に出会ったのはそれから数日後、次々に出てくるやられたスキルアウトの証言から焼鳥屋の女将に繋がるまでには随分と時間が掛かった。まさかあの不思議な店主が――初めはそう思ったけど『あれならやりかねない』と、そう納得している自分が居た。

 戦いたい――ただそう思った、アンチスキルの黄泉川としてではない、一人の武術を知る黄泉川として戦ってみたいと思った。

 

「……分かったよ、ちゃかしじゃないようだね」

「良かった、断られたらどうしようかと思ったじゃん」

「最初は断ろうとしたけどさ、本気なんだろ?」

「一目惚れじゃん、手合せしてみたかったじゃん」

「嬉しいねえ、あんたから告白されるなんて思ってもいなかったよ」

 

 こっちの熱意が伝わったみたいでさっきまでのやる気のなさが嘘のように思える程の獰猛な笑顔――って妹紅こんな顔出来たの? 怖いじゃん、でもこっちとしても向こうがやる気そうなので俄然やる気が出て来た。

 

「どうする? 今からやるかい?」

「裏の道場を借りてるじゃん」

「用意周到ってわけだ、黄泉川らしい」

「これでも伊達にアンチスキルやってないじゃん」

 

 妹紅はどこかのスイッチが入ったのか肩をぐりぐりと回して臨戦態勢に入ってるけどまさか殺すつもりで来るってことは無い……と思いたいじゃん。流石にこっちも命を賭けるつもりでやるつもりないよね――賭け? 良い事を思いついたじゃん。

 

「なあ妹紅? せっかくだから何か賭けない?」

「ん? 別にいいけど……賭けるものでもあるか?」

「そっちがかった時の条件は公平にそっちが決めるじゃん」

「じゃ、私が勝ったら黄泉川が一日私と同じ服装になってもらおう」

「……結構クリティカルな事言うじゃん」

「どう言う事だよ、そっちがかったら何すりゃいいのさ」

 

 妹紅と同じ服装って……結構酷い罰ゲームだろう、あれは妹紅が着るから似合うのであって私が着てもミスマッチどころの騒ぎじゃないと思う。まあそれはともかく私が提示する条件はもう決めてあるじゃん。

 

「デート一回」

「は?」

「私が勝ったら妹紅に一回付き合ってもらうじゃん」

「なんだ、一回付き合えばいいのか……焦った」

 

 妹紅は相当強い、賞賛は五分五分とみているけど私が勝ったら妹紅をじっくりと観察できる機会が出来ると考えれば十分賭けるに値する。今まで数多くの不良と付き合ってきたから一日あれば多分いくらかは霧の中から掴めるのではないかな?妹紅って一般人って言うよりかは不良っぽいし。

 

 ま、そんな事は勝ってから考えるとしよう。今は――この折角出来た機会で自分の実力、妹紅の実力を試させてもらうじゃん。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 黄泉川が動く、左足を軸として踏み込みから距離を一気に詰め右足で鋭く刈り上げる。妹紅は一瞬の考慮の末体を右に逸らす事でそれを避け、そのまま出来た隙に手刀を放つ――それは咄嗟にバックして回避した黄泉川に届くことは無く虚空へと消えた。

 

 随分といやらしい立ち回りをする、それが戦い始めて幾らか経った妹紅から見た黄泉川の戦い方への感想であり賞賛だった。

 数多くのスキルアウトと戦いその殆どを制圧してきた黄泉川の戦い方は変幻自在、様々な格闘術を使い分け、時には融合させてその場に対応させることの出来る柔軟さ。しかも対徒手は当然として対ナイフ、対銃まで考えられた立ち回りまで熟せるあたり黄泉川の戦い方と言うのは『センス』である――それが数度にわたりターンの入れ替えを経て辿りつく答えだった。

 

「中々掴ませてくれないじゃん? 逃げてばっかだとつまらないじゃん」

「そりゃそっちこそだ、いい加減掴ませてくれよっとぉ!」

 

 今度は妹紅がお返しとばかりに距離を詰めワンツー、黄泉川は的確にそれを見切り妹紅に掴みかかる、払いのけ更に追撃。目まぐるしく景色が移り変わりその度に攻守が入れ替わる、一瞬の気を緩めれば敗北を生み出すだろう事は想像に難く無くお互いの頬からたらりと汗が垂れる。

 

 何回の応酬かの後お互いに飛びずさり距離を開ける、汗を拭い顔に張り付いた髪を掻き上げる。あれほど激しいやりあいをしたと言うのに両者の息は荒れておらず、その表情からは言いようのない高揚が容易に読み取れた。

 

「はっ……やるねえ」

「これほどやるなんて思わないじゃん……勝ったらアンチスキル入れって言っておけばよかったじゃん」

「約束は替えっこ無しだ、それに……」

「“勝ってから言え”じゃん?」

「へ、分かってるじゃないかよ」

 

 一層獰猛な笑みを深めた妹紅はまた攻撃を再開しようと身構える、まるで別人だ――刹那、黄泉川は妹紅の内面を垣間見た気がした。

 

 妹紅の戦い方は黄泉川と同様に見えるがで全く違う、例えば妹紅が黄泉川と同じように戦えばそこに幾ら力量差があったとしても純粋な戦闘ならば黄泉川の勝利に終わっただろう――まあ妹紅は手加減しているのだが。

 まずは体格が違う、黄泉川と妹紅の間では頭一個分ほどの違いがある、腕の長さや足の長さはそっくりそのままリーチや踏み込みの長さに広がる。妹紅が黄泉川に勝っている事と言えば体が小さいので潜り込みやすい事ぐらい、それも妹紅程の体形の相手と戦い慣れている黄泉川にとってはアドバンテージにはならない。

 

 妹紅にとっての強さは今まで戦ってきた「経験」、そして人の精神を10世紀以上、正気を失う事無く保ち続けたそのタフネス。黄泉川の様に体格差もセンスも妹紅は持っていない、つまりはその点だけで今まで対等に彼女と戦ってきていた。

 無論、身体強化の術を今以上に掛ければその差は更に縮まり容易に追い越せるだろう。だが妹紅はそれをしない、そうして勝ったところで何も意味がないからだ。これは幻想郷で言う弾幕ごっこと同じだ、お互いが全力を賭けて競う遊びであり――お互いの誇りを掛けた全力の手加減。

 

 全力を尽くした、尽くした故に気付けなかった。

 黄泉川に飛びかかり、捕えたと思ったその瞬間黄泉川がにいっと笑った事を気付く事が出来なかった。

妹紅の攻撃が黄泉川に届いた――その思った瞬間妹紅の小さな体が浮き、そのまま地面に叩きつけられる。呼吸が乱れ、思わず「げぼっ」と嫌な音と共に息を吐き出す。

 地面に打ち付けられ身動きが取れない妹紅にすかさず黄泉川が覆いかぶさりそれ以上抵抗が出来なくなるように固める、仮にも学生であるスキルアウトと戦う上で最重要となるのが「無抵抗化」だ、それにも特化している黄泉川の縦四方固めからは逃れられないと妹紅は察し、大人しく白旗を上げた。

 

「合気道が使えるなんて思ってもいなかった」

「まあ大抵の武術は齧ってるじゃん」

「ちっくしょ……容赦なくやりやがって」

「本気を出させた妹紅が悪いじゃん」

 

 事実、黄泉川は内心で驚愕していた。

 数多く撃退しているとはいえ所詮スキルアウトは格闘素人、仲間で群れているに過ぎないから倒すのもさほど難しくはない。あっという間に倒されたといっても凄い速度で動けるだけなのだろう――精々そんな認識だった。

 勝てると踏んで挑んだ勝負、だがあまりにもその認識は甘かった。苦戦した、負けると思う場面があった、結果として手加減を捨てなければ勝ちは危うかった。

 藤原妹紅、一体その正体は何だ? その小さな体躯にまだ何を隠している? 興味は尽きない。

 

「……あのさ、どいてくれると嬉しいんだけど」

「およ?うっかりしてたじゃん」

 

 黄泉川が気付くと妹紅はまだ組み敷かれたままだ、そして縦四方固めをしている黄泉川と妹紅は今現在密着頂戴にある。つまり、つまりは黄泉川からすれば今なら妹紅の体触り放題だ

華奢で握りしめれば折れてしまいそうな腕や腰をさりげなく確認していくと一体どこにあれほどのパワーを出力できる箇所があるのだろうか?と思える程妹紅の体は「普通」だった、筋肉が付いている訳でもなく骨格も普通だ――決して密着状態を堪能している訳では無い。

 

「妹紅って至近距離で見るとやっぱ可愛いじゃん」

「なぁっ……!?おい、さっさと放せ、放せって」

 

そう、決してこの状況を楽しんでいる訳では無いのだ。

 二人としては本気だが何も知らない者が見ればこの光景は危ない、それを理解するものがここに居なかったことが悲劇を呼ぶ。

 

 その時白井黒子がアンチスキルの支部に来たのはただ単純に、黄泉川に対して出動要請のメッセンジャーを務めていたからだ。どこを探しても居ないが他のアンチスキルの面々から「黄泉川先生は今の時間道場の使用許可を申請していた」との情報を受け取り若干の苛立ちを込めて道場の扉を開け放っただけだ。

 

「黄泉川先生? 散々探しましたです……の…?」

 

 そこに広がっていたのは「お姉さんが少女を組み敷いて何かしている」――双方とも美人と美少女である為気を抜くとそっちの道に全速力で突っ走ってしまいそうな光景がそこにあった。

 

「ほら、お肌なんてもちもちじゃん」

「やめろって、くすぐったいからやめろ!」

「あの」

「嫌がる顔も可愛いじゃん?」

「お前今苛めっ子の顔してるぞ!」

「あのっ」

「……ちょいまち、そこに誰かいないか?」

「あ、白井じゃん」

 

 妹紅が沈黙すること数秒、途端に激しく抜け出そうと暴れ出すが黄泉川からは逃げ出せない。主に黄泉川の胸が凄まじい圧迫感を持って逃さない、違う意味で妹紅が燃え上がった。

 

「白井、それで用事って何じゃん?」

「あ、スキルアウトが暴れていると報告が入っているので出動要請が来ています! ……ですの!」

「もう降参だから! 負けたから!」

「まあまあ、妹紅には聞きたい事もあるからこのまま質問コーナーじゃん」

「いやだぁぁぁぁぁ……」

 

 なんだか凄い物を見てしまった、普段の口調を若干崩壊させながら要件を言い終え即座にテレポートして退避した白井は当然妹紅の味方ではない。あとに残されたのは妹紅の絶叫のみだった。

 

 

 




試してみたらバトル描写は苦手だと分かった、残念描写である。
視点が悪かったがあるかも、後ただの殴りあいだし
GLに見えてそうでもないと思う 多分 きっと

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