とある不死の発火能力   作:カレータルト

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もうじき二周年です

二周年です(白目)


御坂グラビトン(上)

 全てを洗い流す、圧倒的な物量に物を言わせた濁流ではなく。

 有形無形を問わずに薙ぎ払う、不可視の力たる暴風でもなく。

 

 

 

 灼熱を

 

 人間を、妖怪を、自分も

 過去も、現在も、未来も

  

 後には何も残さない、何一つとして逃がさない

 麗しいまでに残虐で、悲しいまでに平等な無慈悲の力を。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 学園都市において最も価値のあるものは何かと聞かれれば、十人中十人が“能力”と答えることは、まったくもって自然な成り行きだった。

 

 能力、それは科学の極地、学園都市の始まり。<低能力者>レベル1を始まりとして頂点である<超能力者>レベル5までが有する特異点。

 学園都市の総人口230万人、そのうち学生が占める割合が8割、更にその内6割が無能力者であるとしている統計を信じるとするならば、その総数は全体の32%となる。

 

 その内で<無能力者>レベル0よりかは幾らか才に恵まれたが、所詮その程度である<低能力者>レベル1、及びにそれよりも強い程度の<異能力者>レベル2を差し引けば、その割合はどれ程激減するのだろう。

 

 2割か、1割か、それ以下か。

 レベルが上がるたびに当然希少価値は跳ね上がる、彼らの価値は数値化される。

 

 ハッキリと言えることはただ一つ、世の中には幸運か不運か“選ばれた人間”は間違いなく存在すると言うこと。そして学園都市においてその比率は0.00001%未満だと言うこと。

 

 レベル5、それは選ばれた存在。

 存在するだけで脅威となる、生きた兵器。

 あらんかぎりの加護と、それに見合う対価を強制的に与えて奪われる忌み子。

 

 その内の第3位は現在進行形で――

 

 

「もーっ! あのバカっ!」

 

 

 ――猛烈に、苛烈に、熾烈に、機嫌が悪かった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 また、やってしまった。

 

 御坂美琴は、目の前でプスプスと不穏な音を立てて沈黙した自動販売機を見て流石に反省せざるを得なかった。

 完全に壊したわけではない、修理すれば元通りの機能は取り戻せるだろう――だが逆に言うとそれは“修理するまでは使用が不可能である”事に他ならない。

 

 

「はー……もう、駄目ね」

 

 

 ガラガラと、まるで遺言のように毀れ出てきたジュース……『お汁粉 抹茶味』なる当たりなんだか外れなんだかよく分からない缶を手に取った彼女が落胆した理由は2つある。

 

 1つ目、また鬱憤を暴力で晴らしてしまった事。

 2つ目、出てきた缶が熱かった事

 

 二つ目に突っ込みどころしかないとか、自動販売機を壊してしまった事に対するショックが無いこととか、常人であれば咄嗟に十は思いつくだろう指摘要素。それは“彼女”にとって些末事であり、無為に無視しようとも関係ないことだった、厳密に言えばそんな事理解しているが敢えて無視していることだった。

 

 学園都市のレベル5 その第三位――電撃使いの頂点。

 その通り名は超電磁砲<レールガン>、名の通り超攻撃的な超能力者である。

 彼女にとってすれば、学園都市の機械一つをぶち壊した事なぞ些末事に過ぎないのだ。

 

 

「それもこれも全部あいつが悪いのよ、あいつが……っ!」

 

 

 バチバチ、バチッ

 

 異音を立てて彼女から発せられる光は間違いも無く超常現象……ではない、ただの電気だ。

 外界では人体から電流が流れるなぞ大騒ぎものだが学園都市においては大した事がない、なぜならばその理由は説明がついてしまうからだ、科学的に説明がつく事なぞ恐れる事も大騒ぎする事も無いのであるし――第一、この現象は学園都市が開発し尽くそうとしている“能力”と密接に関わっているのだから。

 

 電流の放出は、すぐに止んだ。

 御坂美琴は、無暗に能力をぶちかます程愚かしくはない。

 

 缶の上部についているプルを取り外せば、グビッグビッと水流が喉に勢いよく流れこむ音を立てつつものの数秒で完食、ならぬ完飲した、味なんてどうでも良い事なのだ。別に味覚に無頓着と言うことではない、彼女にとって今この場で、缶の中身に求めるのは気分転換の為のファクターである事に過ぎないのだから。

 

 

「……ふぅ、あんまり美味しくはなかったわね。」

 

 

 だが、多少は気にするのだが。

 

 何の気なしに缶を放れば、清掃用の機械がそれを回収する。科学の押し進められたこの都市においては“如何にポイ捨てを無くすか”という道徳的な考えよりも“如何に路上のごみを回収するか”という科学的な考えの方が通り易かっただけ、それが子供達のマナー……あくまで“学園都市外での”が付くものの、明確な道徳力の低下を生み出していた。

 

 

『回収します』

 

 

 人工音声を立てながら自分の放り投げた空き缶を回収する無機質な機会を、学園都市の第三位はただじっと見ていた。別に思い入れがある訳でもない――と言えば嘘になるだろうが、彼女はただ何となくその様子を、一部始終を見ていた。

 

 なんだか、無性にイライラする。

 だからといって誰かに暴虐的な力を発するわけでもない。

 彼女は、自分の力について一番知っているのだから。

 

 本当になんとなく、誰かにこの気持ちをぶつけたくなった。

 咄嗟にスマホを手に取ってアドレス表を確認し、溜息を吐く。

 身近な人間には話せない、話したくない、プライドが許さない。

 

 

「どこかに、適当な奴がいないかしら」

 

 

 近すぎず遠すぎず、なおかつ茶々を入れずに聞いてくれそうな、更には今話せそうな存在。

 学園都市は広い、そして広いからこそ見つかりそうにもない。

諦めるか、諦めて運動をするか寝よう、気分の切り替えは大事だと彼女は肩を落とす。

 

 

「うっし、今日の用事は終わりだぞっと……あいつも帰って来てないし時間潰すかぁ」

 

 

 その矢先、見つけた。

 ふわりと風に舞う白い長髪、下は紅で上は白の装い。

 咄嗟に、その肩を掴むまでは僅かに三秒。

 

 

「あんた、ちょっと付き合いなさい」

「うぇっ!?」

 

 

 そもそも『時間が今空いているか』を条件に付けくわえないぐらいは、常識を置き去りにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、また上条の坊主にイラついたからストレス発散したかったと」

「そうよ」

「身近なのにはみっともなくて話し辛かったから適当な相手が欲しかったと」

「黒子なんかに話したら面倒な事になるのは請け合いだし」

「だから近くをたまたま通りかかった私とこうしてデートしていると」

「同性だし、何の問題も無いでしょ?」

「何の問題も無いね、私の意志が無いって以外では完璧だ」

「じゃあ、完璧じゃないの」

「うんまぁ、そうなるね」

 

 

 この藤原妹紅たる少女が理解力と物分りに秀でているのはなんとなく知っていた。

 自分を執拗なまでに慕ってくる白井黒子がその親友たる初春飾利と、その友人である佐天涙子がいろいろと調べているのが心配だと事あるごとにぼやいていたから名前を知っていたし、実際に数度話した事のある相手だからだ。

 

 

「暇だったから良いんだけどさ、奢られるのはなんだか心地悪かったけど」

「私の方が頼んだんだから、これぐらいは受け取っておきなさいよ」

「ただより高いものはなしって言うしね」

「清算しておかなきゃ後々面倒になるかもしれないし」

 

 

 よく御存じで、そう肩を竦めて言うからには何か腹積もりがあったのだろうか。

 それとも単純に、皮肉をたっぷり込めて褒めたのだろうか。

 

 御坂美琴がそれを知るのには、あまりにも情報と言うものが不足していた、

 自分は彼女の何も知らないし、彼女も自分の何も知らないのだろう。

 ただ、これは彼女が未成年(の外見)で行っている仕事柄、人の話を聞く事は上手いと思っての相談だった。それ故に自分が彼女の何を知ることも必要ないし、その逆も然りだ。

 

 

「……それについては良いよ、慣れてるし」

「ありがと、助かったわ」

 

 

 これは、ただの愚痴に過ぎない。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 限りなく身勝手な一方通行と言うものを、彼女はよく知っていた。

 

 

 だからこそ真剣になり過ぎる事も無く、かといって無視するでもなく、話半分に相槌を打ちながら付き合ってくれたのだ。そのプロ精神に感心すると共に、何となく美琴の中では藤原妹紅がいかなる人間なのか――その大要が分かり始めていた。

 

 

「藤原さんってさ」

「妹紅でいいよ、今更ながら」

「じゃあ妹紅って、隠し事が出来ないタイプじゃない?」

 

 

 図星らしい、空を見上げながら「あー……」と気のない声を発する彼女を見ながらも美琴は追加で出てきたケーキを食していた。

 

 現在二人が居る場所は、邂逅した場所から近くにあったケーキ店だった。

 

 店内か店外かで選べる、学園都市にしてはやや高級そうな作りは並の一般市民を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。二人が陣取ったのは店外におかれたいくつかのテーブル、その中で端の離れたところを選んだのは妹紅なりの気遣いだった。

 季節をふんだんに取り入れた、最近流行り――ではないが、その安定した美味しさから根強いファンが多い店だ。それなりに値は張るものの、自身もお嬢様でありレベル5故に研究資金を豊富に頂いている美琴としては痛手どころかお安い御用レベルの出費である。

 

 美琴は考え事をする時によくこの店を使用していたが、その結果として「御坂美琴に会えるかもしれない隠れた名店」として噂が広まっている事までは知らないのだった。運よく空いている時間帯に入れたのも幸運だろう、もしも込み入っている時間帯ならば間違いなく聞き耳をたてられていた筈だ、レベル5とはそういった存在なのだ。

 

 因みに美琴が『木苺のチーズケーキ』を頼んだ矢先に妹紅が『赤ワイン』と衝撃のオーダーをぶっ放したせいで一悶着(未成年飲酒)あったのは言うまでもないことだろう。

 

 

「あんた、私が居なけりゃジャッジメントの世話になってたわよ」

「分かってるよぉ、またあの世話になりたくない……」

 

 

 また? とうっかり恐ろしい言葉を反芻しなかった事は今日一番のファインプレーだった。

 

 ともかく、妹紅は嘘をつくのが苦手の様子だった。

 厳密に言うと取り繕うことが、それを必要としていないような印象を受ける。

 嘘をつく必要性を感じていない、だからこそいざ嘘をつこうとするとすぐ露呈する。

 

 

「嘘をついてるとさ、面倒なんだよね」

「面倒?」

「そんなことを考える労力が面倒、正直な方がいいさ」

 

 

 要するに、彼女にとって重要なのは正直さと言う誠実ではなく、嘘をつく事で発生する面倒くささの方が正直である事の面倒くささよりも上だと言う。

 

 

「それで、そうしていても面倒が起こったら?」

「力で押し通す」

 

 

 脳筋の考え方ねって、そこまでは口からでなかった。

 なにせ美琴自体もそれには同意できることはあるのだから、自分を脳筋として認める気がして癪だったのだ。

 

 

「話を戻すけどさ、私が話を聞くまでは納得したよ。」

「それでいいんじゃない?」

「ああ良いさ、ただ二時間も話を聞く事になるなんて思っても居なかった。」

「……へっ」

 

 

 今度は、美琴が素っ頓狂な声を出す番である。

 慌てて時計を見ると、どう軽く見ても二時間半は時間が経過していた。

 記憶を辿ってみても、その間やった事は妹紅の一悶着意外に自分が話していた事以外になく、つまりはこの二時間ばかりずっとしゃべり続けていたということである。

 

 

「自分でも驚くぐらい、あいつに鬱憤溜まってたのね」

「後半は惚気だったけどねぇ」

「なにか言った?」

「いや、大人には静観も大事だって」

 

 

 なにそれ、と聞いたところでさてね、と返ってくるのが関の山。

 それを聞き返してやる程、そして真面目に答える程、二人の気力はなかった。

 

 

「喧嘩するほど仲が良い、とは言う」

「私とツンツンの仲が良いって!?」

 

 

 椅子を跳ね上げんばかりの力で屹立した美琴の視線は厳しい、並の能力者であれば死を覚悟する程に――爛々と燃えたぎっているような、そんな錯覚すら懐くほど。睨みつければレールガンの一発でも打ち込めるかの如く気迫を放つそれを、妹紅はただ漫然と見返すのみだった。

 

 

「逆に聞くとしようか御坂の嬢ちゃん」

「美琴でいいわ」

「じゃあ嬢ちゃん、上条の坊主に自分が嫌われていると一瞬でも思った事があるかい?」

 

 

 言葉に詰まると、妹紅は鼻を鳴らす。

 それはまるで「ほら、言う通りじゃないか」と言われている様で、けれど怒ることも出来ずに、やり場のない何かを抑えるように乱暴な仕草で座りなおした。

 

 当然ながらこのレベル5は知らない。自らの前に座る同年代のような、はたまた年下にすら思える外見の童女は、地球全土を探しても例を見ない程度の年長者である事に。

 更に言えば、彼女がこちらを見る視線には「若いっていいねぇ」と憧憬に耽る様なそれが含まれていることにも当然気が付かない。

 

 

「……はぁ。なんだか腑に落ちないけれどありがとう、話したらすっきりした」

「私としてもねぇ、話してもすっきりしないと言われるよりもそっちの方がいいさ、聞いた甲斐があるってものだよ」

 

 

 まさか馴れ初めから今までを事細かに、噛み砕ききって話されるとは思わなかったけど。

 胸焼けしそうだと、冗談半分な溜息をつきながら頬杖を突きながら妹紅は本日7皿目のケーキを注文しようとしたのだった。

 

 

「食べ過ぎじゃない?」

「汝、一つのケーキで事を語るなかれ」

「なにそれ」

「つまりはあれさ、このケーキが美味しいからつい」

 

 

 美琴も認めている通り、ここのスイーツは実に美味しい。甘すぎず薄すぎず、飽きのこない味がもう一つ、もう一つとフォークを進めてしまうのだ。

 なので必然的に年頃の――更に言ってしまえば、体重が気になる乙女にとっては禁断の領域と化しているのだが。誘った美琴自身も実の所、最近は体重計が気になるので食べる量は一つか二つと制限を課していたのだが。

 

 

「それにしても、助けた女の子がいきなり怒り始めたら困惑するよ……あむっ」

「分かってるわよ、ただ……引くに引けなくなっただけ」

「んっ、ん。中々甘さ控えめなのはさておいて、確かに朴念仁なのはわかるよ」

「でしょ? ちょっとはこっちの事を考えなさいよって」

「……お互いに譲らないなぁ、んむっ」

 

 

 甘酸っぱいねぇ、なんて言ったら頭に風穴があきそうだから。妹紅は大人しくフルーツタルトを切り分けて口に運ぶ、黄泉川への土産に良いかもしれないと一瞬だけ思うと複雑な表情になっていた。

 二時間余り掛かって、彼女から語られた上条への熱い、恐らくは本人がまだ無自覚であろう感情だとか。それとこのケーキのどちらが味濃いものかと問われれば、恐らくは前者だろう。最早それは妹紅がどのような手段を取ろうとも得る事ができない、人生においてはたった一度の果実なのだから。

 

 切り分けたパイを口に運ぶ、上品に咀嚼する。ものを食べている時は一切の言葉を口にせず、ただ味覚に全神経を注ぐ――喉を通る形と味、胃袋でさえも味わおうかと言わんばかりに目を閉じて、うっすらと開くまでを見られた妹紅は少しばかり恥らった。

 

 

「……あんたって、本当に美味しそうにものを食べるわよね。」

「『美味しいものは美味しく食べるべし』、これぞ飽きのこない人生の鉄則だよ?」

「そりゃそうだけど……」

 

 

 藤原妹紅は、以外にもその口調とは裏腹で、上品に物を食すことが出来た。

長い放浪生活で、例え何を食っても死なない体になろうとも彼女は自らが食べたいと思うものを食したし、木の根や雑草を食らう生活は蓬莱人になってから数年して辞めたのだ。

 

 獣のように、あるものを貪り食らう生活を送っていると、まるで自分が本物の獣になってしまった錯覚を抱くのだ。人間としての自我が薄れて野生になっていく恐怖、それを自覚したのが比較的初期であったのが彼女の理性を救った。

 

 それ以降、彼女は野草や茸についての知識を深め、必ず何らかの調理を施したものを食らうこと、そして作法に従って食事をする事を己に課した。人間らしい食生活は彼女が自我を保つことに貢献したし、料理の楽しみや食材を探す面白さに目覚めた事はそれから長らくたっても彼女の財産であり続ける。

 

 そんな訳で、彼女の礼儀作法は下手なお嬢様よりも遥かに高い水準にあるのだった。

 

 

「うん、このショートケーキも本当においしいな」

(……なんか、悔しい)

 

 

 現在進行形のお嬢様に、そう思われている事には気付かないのだが。

 

 

「そう言えばさ、お嬢ちゃん」

「なによ」

「レベル5なんだってね、凄いじゃないか」

「今更褒めるのそれ!?」

「褒めてはないけれど」

「あ、そう」

 

 

 木苺のチーズケーキを食べつつ、そう言えばと妹紅は目を見開いた。

 

 

「私、能力についてあまり知らないや」

「……は?」

 

 

 今度は、美琴の方が目を見開く番だった。

 噂と言うか、確かこいつは紛れもなく発火能力――“一応”そのレベル2の評価をされていた筈。

 それが知らないとは、あまりであっても学園都市に籍を置くものとしてどうなのだろうか。

 

 

「いやいや、説明受けなかった……と言うより能力についてあまり知らないのに学園都市になんでいるのよあんた」

「だって詳しく聞かない内に無理やり押し込まれたんだからさ! なんとなくこの……発火能力は確かに合ってるけど! レベルってなんなのさ!」

 

 

 ああと、美琴は合点がいった。

 “置き去り”と呼ばれる子供たちが居る、文字通り親が送り込んだきりで連絡が取れなくなった所為で事実上の孤児となった憐れな存在の事だ。

 あまりも、日本人離れしているその髪からして彼女もそれに似た境遇なのだろう。微妙に世間からずれている所といいそうなのだ、それにしてはやけに所作に美麗なものが混じるのは複雑な境遇があったに違いないと。

 

 先入観と言うのは面倒な事もあるが、今回は妹紅にとって有利に働いたことになる。

 

 

「そうね……そう言うことならあんたが知らないのも無理はないかも」

 

 

 大能力者レベルならいざ知らず、異能力者レベルであればごまんといる。

 “置き去り”の中にもレベル4以上の適性を見出される者は居る、そういった存在は“どこか”に連れて行かれるそうだが――有象無象の区別がつかない低能力者は検査だけされて放っておかれたのだろう。

 

 美琴の中に、ちくりと痛みが走った気がした。

 今は余裕綽々としていた彼女にも親が居たに違いない、しかしながら彼女はその影すらも出すことはないのだ。ちゃんと両親とも健在で、愛された自覚がある美琴にとっては捨てられたときに何を考えたか、それを理解出来はしない。

 

けれど――少しぐらい親切にしてやってもいいかもしれない。

 

 

「……良いわよ、教えてあげるから良く聞きなさい、一度しか言わないから」

「ありがたい、どうにも黄泉川と話が噛み合わないと気が合って」

 

 

 御坂美琴は、彼女の最も優れた場所は。

 力を持っても尚、溺れる事も奢れる事も無く、健全な心を持ち続ける事なのだろう。

 

 なによりも輝かしく、どれよりも誇らしいその利点は。

 誰にも指摘されることはないが、間違いなく彼女を人の道へと導いていた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 二人は、話に夢中になっているが故に気付かない。

 美琴の鞄、その中にあるマナーモードの端末が唸り続けている事に。

 何かを訴えかけるように、震えても。

 

 店の片隅にある机の下、そこにぽつんと不自然に置かれた兎の人形。

 誰がいつ置いたのか分からないそれに、気付けない。

 




私はタルトとパイが好きです。
ミスタードーナツ行ってきます。

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