とある不死の発火能力   作:カレータルト

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手紙を呼んでと彼女は頼む

 

 

 

 

 

 時は、藤原妹紅が学園都市に文字通り『降って』来た時に遡る。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 取り敢えず乗り気はしないが手紙を読んでみる事にする、本当に気乗りしないが。手紙だけではない、紫から貰った物なんて大抵何かしらの仕掛けやら罠が仕掛けられていると思っているけど別におかしい事じゃ無い筈だろう。まあただ紫を疑っているだけじゃなくて過去に散々おちょくられた経験があるからなんだけどね、あんなことされたら流石に疑り深くなるわ。

 パサリと開いてみると早速私の行動を見透かしたような一文が目に飛び込んできてただひたすらに萎えるけどそれでも多分この先重要な事が書いてあるんだろうから我慢して読み進める事にしようと己を奮い立たせた。

 

『ここらで一枚ほど嫌がらせで挨拶文を入れても良いと思ったけどそんなのあまりにも不毛だし、下手すると燃やされそうだから余計な事をしないでさっさと連絡事項に移るわ』

 

 いや、そこは何も言わずにさっさと要点を書けよ。

 

『そろそろ妹紅が苛々し始めたと思うから書くわよ』

 

 なぜそこまで分かっていてやる、ああ嫌がらせなのは重々承知だけど。流石にこの調子でつらつらとやられたら流石にここら周辺の気温が10度ぐらい上がってもおかしくなくなるかもしれない、多分そうなる。

 

『取り敢えず最優先で伝える事はこれからの立ち振る舞いについてね。と言ってもあなたには特にやるべきことはありません、大体は自分の感性に従って普通に行動していれば特に問題は無い筈です』

 

 つまりは体の良い放任主義だろうか、確かに紫自身も「中の様子は私にもよく分かっていない」と言っているから詳しい指示を出せないのもあるのかもしれない。ともかく私が向こうでやってきた事と大体同じように適当にやればいいと言う事だな、違うのは輝夜と殺し合いをしない事ぐらいか。

 

『次に、多分妹紅なら一番に気になっただろう衣食住だけどこれは勿論確保させてもらっているから安心して』

 

 世の中で信用ならないのは輝夜の言う事と紫の言う事だと思う、本当にあの二人と話しているとそう思う。輝夜の分は私の確執がそうさせているのかもしれないけど紫の方は確実に経験からだ。

 

『その前にその屋台について説明させてもらうわね、それは見ての通り屋台だけどただの屋台じゃなくてにとり直々のカスタマイズを施した特殊防壁に各種火器兵装を搭載したスーパーな屋台なの、貴方にはここの店主として各地を回りながら情報収集してもらうわ』

 

 屋台に防壁とか火器兵装とかどこをどう盛大に間違えたら搭載されるのだろうか、そこは疑問だが考え出すと頭が痛くなりそうだからてっとり早くスルーした。あいつらと付き合う上でスルースキルは非常に大事だ。

 しかしふむ、流石に紫も良く考えている。学園都市のレベルは分からないけど焼鳥のスキルならそこらの店には負けない自信があるからまあ何とかやっていけるんじゃないだろうか。それよりも移動拠点を用いる事で情報収集を進めてくるあたり狡猾と言うか抜かりないと言うか、紫らしい策だね。

 

『店内の仕様については細かく言わないわ、大体分かっているだろうから。店内にある金庫の鍵も同封しておくわね、その中にはこれから貴方が住む住居の鍵が入っているわ。住所の番号とついでに学園都市の地図なんかも金庫の中に入れておいたから熟読するようにね。』

 

 やけに用意がいいと思ったが、そもそもこれは紫が私に依頼してきた内容だった。事が事だけに紫の方も入念に手回ししているようだ、こうなった時の紫は不本意だが頼もしい。ふざけた事をされた時はどうしようかと思ったがこの分ならばそんな心配はないのかもしれない。

 

『住居と言っても安アパートだけど我慢してね、しっかりし過ぎていると身元調査とかが厳しいだろうし、かと言って立地が悪くても面倒だから無難な場所で妥協したわ。中には貴方の衣服と色々と要り用な日用品が置いてあるから活用して頂戴』

 

 成程、これで居と住に関してはクリアか。安アパートとか言われたが私なんてほぼボロ屋としか呼べない場所に住んでいたから雨がしのげれば十分だと思う、流石に雨風入ってくるような所なら恨むけど。それぐらい主張しても良い筈だろう。

 

『部屋の中には幻想郷と繋がっている戸棚が入っているわ、まあそちらから変なのが入ってこないように一方通行だから送り返しはできないけど。そこから焼鳥屋に必要な物品を逐次送るわね、この都市って関税が馬鹿みたいにかかるし送り主の偽装とか一々面倒なのよ、時間もかかるし』

 

 幻想郷につながる戸棚ってなんつー便利な…とか思ったけど一方通行か、多分隙間経由なんだろうけど良く考えるもんだ。ともかく焼鳥の材料集めには不安があったけどそれもこれで解決か。

衣食住については問題なさそうなのでほっと一息つく、この三つさえあればあとはどうとでもなると言うのが私の今までうんざりするほど生きてきて覚えた事だ。そこまで読んで一段落と言った感じだが手紙はまだ続いていた。

 

『後々必要になりそうだったら藍を送るわ、何かあったら藍に従って。次にやっちゃいけないことを説明するわね、好きにしていいとは言ったけどそれでもやっちゃいけない事もあるから』

 

 確かに、迂闊にも言われて初めて気づいたが私はこの学園都市についてあまりにも何も知らなさすぎる。「郷に入れば郷に従え」と言う言葉は裏を返せば「郷に従わない者は何をされたとしても文句は言えない」と暗に含まれているのだと身をもって知っている。

 極端な話だが私がここで歩いている事だってこの学園都市と言う異世界では当たり前のように粛々と張られたルールに抵触する事だって十分あり得るのだ、何も知らないより何かを知っていた方が当然、良い。

 

『まず第一に“目立ち過ぎない事”…特にあなたの能力を人前で使うのは自重しなさい、この都市は能力者が多いと言っても貴方の過剰な力はやりすぎるし、それに面倒な輩に目をつけられると厄介だわ。精々指に火を灯すぐらい、それぐらいしか出来ない能力者も多いから別に問題ない筈よ。それに貴方の戦闘能力も全部隠しておきなさい、“発火能力を持つだけのただの人間”にならないといけないわ』

 

 まあ要するに力を使うなって事だろうね、“人の見ている所では”って条件も付け加えられるところがミソだけど。要するに見られなければいいと言う話だろう、審判の見て無い所で行われるラフプレーはラフプレーに非ずだ。

 

『次に“深追いしない事”学園都市には無能力者集団のスキルアウトをはじめとして犯罪者が多く巣食っているわ、それ自体は別に大した事が無いのだけれど問題はその中のいくつかの組織はまるで落とし穴の様に学園都市の暗部につながっているのよね。何が起こるか分からない以上下手に刺激をするなんてもっての外よ、気を付けなさい』

 

 犯罪者が多く巣食うなんて“学園”都市とは恐ろしい所だなおい、子供が沢山いる場所の筈なのだがこう言った輩が野放しになっていると言う事に早くも暗い何かを感じざるを得ないな。しかし暗部ねえ、一体どんな奴が居るんだろうか想像するだに怖ろしい。誤解しないで貰いたいがこっちは一応ただの“死なない”人間に過ぎないから力なんてそれほどないんだぞ。

 

『最後に、封筒に同封したカードがあるわ。それは貴方がこれから学園都市で生きていくに必要な物だから失くさないようにね、能力名とレベルが書いてあるから聞かれたら答えられるように。それじゃ、健闘を祈ってるわ』

 

 ああ、さっき落ちてきたカードか。ごく普通の平凡なカードには様々な数値やグラフが書き込まれているが正直さっぱり分からない。ただ唯一表にでかでかと書かれた三行の意味のみは理解出来た。

 

   名前:藤原妹紅

   能力:発火能力

  レベル:2

 

 これが“藤原妹紅”か、面倒なことになりそうだね。面倒くささ半分とこれからの期待半分で微妙な感じだ、ああ空が青い。

 

 ――――そう言えば、酒とたばこって大丈夫なのか?

 

 

 

 ◆

 

 

 

 随分と話し込んでしまった気がする、腕時計を見ると藤原妹紅――どうやら妹に紅と書いて“もこう”と言うらしい――彼女と出会ってからもう3時間にも渡って話し続けていたという事実に驚いた。

 この3時間を思い返してみるとあれ、俺ってこんな話好きだっけな? と思わず首を傾げてしまうほどに自分が一方的に話と言うか愚痴を聞かせてしまっていたらしい、なんだか飯を奢ってもらった時同様に世話を書けてばかりで申し訳なくなる。

 

「いや、本当にすみませんねふじわ「妹紅だ」妹紅さん」

「構わんよ、誰かに話を聞くってのも娯楽の一つでねえ」 

「……妹紅さんっていったい何者」

「焼鳥屋だよ、ただのしがない焼鳥屋」

 

 そんな事は絶対にないと思うんですが、とは言えなかった。何というか貫禄が違う、外見は白髪で線が細くて儚げな美少女だけど中身は面倒見がよさそうでいかにも頼れる姐御肌だからますます分からない。

 少なくとも目の前の少女は非常に聞くのが上手い、話しているとこれも話したい、これも話したいとついつい色々と話し込んでしまうしそれに対して「ほほぉ」だの「なるほどね」だの相槌を丁寧に返してくれるからますます熱が入ってしまったように話してしまう。

 話したことと言えば学園都市の事、勉強の事、クラスメートの事、ビリビリの事、貧乏の事、能力の事、幻想殺しの事……今から考えると愚痴ばっかりだな。妹紅さんと言えば時折何かを考えたり急に目を細めたり反応をしていたけど一番顕著にそれが出てきたのはやっぱり幻想殺しの事だった気がする。

 

「するとなにかい、君のその手に触れると能力が出せなくなると」

「なんなら触ってみます? と言うか妹紅さんも能力者だったんですか」

「あー……うん、レベル2のパイ……パイロキ……パイロキネシスだ」

 

 どうやら発火能力のレベル2らしい、発言の後「パイロキネシスって覚え辛いねこりゃ」とか照れ隠しに笑っていたが一々絵になるんだねこれが。常磐代のお嬢様を時々見る機会があるけれどもなんだかそれよりもお嬢様っぽいと言うか何と言うか、不思議なものだ。

 それにしてもレベル2か、話しながら笑う姿を見るにあまり能力に対して思い入れも無いようだからますます不思議な人だと思う。レベル2は確か普通と言ったところだろうかな、力不足は感じるだろうけど。

 

「ほら手をだしなよ」

「……妹紅さんの手って白いんですね」

「褒めても何も出ないよ」

「あはは、すみません」

 

 ふと見ると妹紅さんの手は白かった、その事に何故か一瞬だけぞわりとした感覚を覚える。なぜ俺がそこに違和感を覚えたのか分からないけれどその手を見た瞬間まるで“人間では無い者”を見ているような――いやなんでもない、ただの錯覚だと思う。

 ともかく出された手を握り返し“幻想殺し”が発動した、暫くうんうんと声が出していたけど手は幾ら経っても熱くならないから無事に発動したようだ……と言うより発動しなくちゃ流石に手が焼けてしまうから遠慮願いたいけど。

 

「確かにねえ、珍しいもんだ」

「このところ上条さん唯一の取柄でして」

「若さがあるじゃないか、若さが」

「それもあと十年したらなくなっちゃうじゃないですか!」

「上条には今若い自分がいるんだ、これ以上の取柄は無いぞ」

「そうでせうか……」

「そうとも、今のうちにやれることをやっておけよ? 上条君や」

 

 言われれば不思議とそんな気がしてくる、なんだか自分にも何かが出来そうな……そんな気がしてきてしまう。「そりゃ昔から人の話をよく聞いてきたし」との彼女の弁だけど昔っていつの事だろうでしょうかね? とか聞いたらなぜだか遠い目をしていた。

 

「妹紅さんって何歳なんですかねって聞いてみたり」

「女に歳を聞くって一番やっちゃいけない事だと思うけど」

「そりゃ知ってますけどね、そりゃ上条さんにもそれぐらいの配慮はあるけど……でも妹紅さんって変に大人びてるから気になって」

「それって褒め言葉と受け取っていいの?」

「勿論ですとも」

 

 妹紅さんは妙な服装だった、いや妙であって変って意味じゃない。どこか古めかしさを感じさせるその衣装はなんだか立ち振る舞いや言葉使いと妙にマッチしていて、それが彼女を妙に大人じみた少女だと思わせるのかもしれない。

 

「千歳は越えているかなぁ」

「へっ?」

「やだな、冗談だって」

「いきなりすぎてそんなフリ返せませんって!」

 

 いきなり真顔で千歳を越えているとか言われても突飛過ぎて一瞬意識が飛んでしまった、気さくだけど冗談だけはあまり上手くないのかもしれない。でもやっぱしいきなり年齢を聞くものじゃないよな、優しくしてくれたからつい調子に乗ってしまった気が……とほほ。

 

「んま、元気が出た様で何より」

「ありがとうございました!この恩は忘れませんですよ妹紅さん」

「まずは腹いっぱい食う事だよ、不幸だとか思う前に腹いっぱい食いな」

「まあ金がある時……ああ、財布が無いんだ」

 

 そこまで来て遂に現実を思い出してしまう、そうだ財布を落としてお金がないんだった。幸福だった気分が一気にしょぼんで重くなってゆくのがありありと分かってしまうのが何とも苦々しい。「財布?」と首を傾げた妹紅さんに自分が行き倒れた理由が財布を無くしたからだと説明する、散々愚痴をぶちまけておいて肝心な事を言っていなかったことにますます心が挫けそうになるな。

 そうすると暫く考え込んだ妹紅さんはちょいと待ってろと言い屋台に駆け込んだ、程なくして戻ってきたその手には何とどこからどう見てもこの前失くした財布が。

 

「んあ、それってこれの事?」

「ちょちょっ、これどこに合ったんですか!?」

「私じゃなくてここの常連の先生が拾ったらしくてね、ここなら人が多く集まるから取っといてって……ああ、確かに上条の身分証が入ってる」

 

 普段なら恨めしい程の不幸属性でまた重い気分のまま帰宅するのかと思えばまたまたどんでん返し。なんだか今日は良い事尽くめな気がしてなんだか気味が悪くなってきた、明日あたりに槍とか振ってきても驚かないぞ。

 

「今度は失くすなよ?」

「いや、本当に何から何までお世話になりまして頭が上がりません」

「なら胸を張って歩くんだね、なんか良い事あるさ」

「上条さん的にはまた会えたら嬉しいですよ」

「まあ機会があったら会おうな、もうそろそろ帰らんと暗くなるぞ?」

「ではさようなら!」

 

 ああ、この人良い人だ。学園都市の常識人で優しい人なんて久々に見た気がする。周りには胡散臭い土佐弁話すのとか性癖が幅広過ぎて訳わからないのとか挙句の果てには当たったら死んじゃう攻撃ぶっ放してくるのとか居るからなんだか優しい言葉を掛けられるとなんだかじんわりきてしまうのはおかしくないと思う。

 そうだよな、生きていれば良い事ぐらいあるよな。妹紅さんと出会えたことで不幸がどこか飛んでいった気がする。

 

「うし、我が家に帰ってきましたよ!」

 

 とんとんと足取りも軽くアパートの階段を登る、今の気分は絶好調だ。もしかすると妹紅さんは幸運の女神様なのかも――なんて馬鹿な考えも出来るぐらいには余裕がある。ドアノブに手をかけてふと考えると鍵をかけたことをすっかり忘れていた、浮かれ過ぎだ。

 確かズボンのポケットに入ってた気が……無い、ジャケットの内ポケットにもない。ひんやりとした汗が背筋を流れるのが分かる。無い、どこにも鍵がない、ふらふらしているうちにどこかに落としてきてしまったのだろうか。これでは家に入れない、今夜は震えながら外で寝るしかない!

 

「ふ、不幸だぁぁぁぁぁ……」

 

 思わず張り上げた絶叫が、星の見えない夜空に響いた。

 

 

 




妹紅と上条さんのフラグは建たなかったり、精神的に4桁単位で年齢差があるし

====人物紹介====

★河城にとり
 河童、幻想郷の河童はエンジニア気質が強いとされている中で彼女もまた発明家の一人、のびーるアームや透明化が出来るスーツを開発したり通信機能を開発したり中々マルチな能力を持つ。好物はやっぱり胡瓜だがペプシキューカンパーについては言葉を濁した。

====ここまで====

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