とある不死の発火能力   作:カレータルト

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人にしれず

 それはその昔、まだ地球が丸いとすら信じられていなかった時代、地球の姿なんかよりも皆が居るかすら分からない化物に怯えていた時代、今からすれば“狂っていた”とも評されるような時代の話だ。教会や神様なんてものが今よりも表に居て大手を振るい民衆を扇動していた時代の事だ。

 

 極東の、それこそど田舎に魔女が居たらしい。

 

 らしい、と言うのは定かではないという意味だ、何故かと言えばその頃の誰一人として“彼女”を見た事は愚かそれが存在するかどうかの確認すら出来なかったのだ。東洋の島国――私の故郷であり今いるこの国、日本にはそれまで彼らの興味を引くような物は何もなかったのだから。

 

 

「ひっどい話だよねえ、まったくさ」

「そうとは思いますが酒を飲みつつ言っても緊張感の欠片もありません」

「いいじゃんちょっとぐらい」

「それって私が勘違いしていなければ二升目なんですが」

 

 

 誰の興味も引かない、それは極めて幸福な事と言えるのだろう。日本からすれば西洋など余計な外敵を増やさずに済んだのだし、それ故に他国の様に侵略を殆ど受けずに済んだのだから。そして立場上は侵略する側である西洋にとっても私は神のご加護があったとしか思えない幸運に恵まれていたのだと思う、万が一にでもこの国に攻め入ればただでは済まなかっただろうから。

 

 では、誰も存在を確認できなかった者がどうして『存在するかもしれない』と思われたのだろうか? 火の無い場所に煙は立たない、民衆にとって眉唾物の吸血鬼や屍人、狼男や魔女は“居るかもしれない”と思えるだけの証拠が存在するからあれだけ長い期間信じられ続けたのだ、そして今もフィクションとは思えない者が居る様にだ。なぜ彼女は前触れもなく中世の彼らの前に姿を現したのだろう?

 

 

「始まりは、北の巨人が逃げ帰ってきた事からだと聞いています」

「……だいだらぼっちかい?」

「そうとも呼んだのでしょうし、または呼ばなかったのかもしれません。どちらにせよ伝承によれば“それ”は逃げ帰ってきた数時間後にある言葉をその同胞達に伝えた後息を引き取ったと。右半身を酷く損傷して居たにも拘らずそれほどまで生き延び得たのは流石でしょう、あるいは運が悪かったと」

「酷いことする奴も居たもんだね」

「分かっていて言っているのですか? それは」

「さーてね。で、なんて言ってたのさ」

「……『気を付けろ、あの島には紅蓮の悪魔が居る』――だそうで」

 

 

 武勇猛々しい巨人族が、それも大人の個体が瀕死の重傷を負わされおめおめと敗走させる程の『ナニカ』――それに食いついてしまったのが当時夜の世界で隆盛を極めていた怪物共だった。その頃になると人を襲うにもあまりにも対策が取られていて退屈、リスキーではあるがリターンがあまりにも少ないしスリルも無い、故に彼らはその取って置きの『暇潰し』に食いついた。

 

 それ憐れな、余りにも愚かしく憐憫を感じる程に軽率な行動だったのだ。初めに群を成して突入した彼らはその晩誰一人として帰ってこなかった、一晩明けても二晩明けても、その行方を確かめるために潜入したものも等しくその闇へと消えたまま戻らなかった。

 

 行きに比べればほんの僅かな数の生き残りが、それも酷くあちらこちらが焼け爛れた姿で生きているとしか思えないような姿に成り果てて帰ってきたのはそれから数日後。他の物の消息は取れないがまるで蟻地獄に飲み込まれてしまったように灰燼となってしまった事だけは火を見るより明らかな事だろう。

 

 彼らは皆等しく死に対する恐怖に発狂し、口々に『悪魔』『炎』『白』といった単語を羅列しその場で事切れていったらしい。もしも彼らが日本の言い回しを知っていれば、そんな行為には走らなかったかもしれないのに――即ち、飛んで火に入る夏の虫と。

 

 勿論それは“紅蓮の悪魔”の仕業ではないのかもしれない、そもそもあの瀕死の重体であった生き残りがまともな精神であったとは到底思えないのだ。それが彼らの見た幻であったと思った方が現実的で、しかしながら極東の小国が入る者を悉く引き摺り込む異形の地であったのも事実だった。

 

 

「覚えがありますか?」

「んー、見慣れない妖怪が百鬼夜行の如くやってきた事なら」

「それってどうなりました?」

「よく燃えたよ」

「……成程」

 

 

 その伝承はどうやら一から十まで確からしい、私の目の前で嘗て未知の存在であり、また全てのモンスター共にとって恐怖の対象であった“紅蓮の悪魔”はちびちびと非常に解せない表情で酒を啜っていた、時々私に酒を注ごうとしてくるのは止めて欲しい。拒否したからって拗ねるな、むくれるな。

 

 

「やめてください、真面目な話をしてるのです」

「酒飲んだ方が舌が回るって」

「いいです、飲むなら後で飲みます」

「ちぇっ……。で、だよ神裂の嬢ちゃん」

「なんですか? と言うよりもその『嬢ちゃん』は止めてくださいと言いましたよね?」

「いや、つい癖で」

「やめてください」

「……はい」

 

 

 そんな怪物を相手に大きな態度を取っている私だが、実は結構やばい事をやってるんじゃなかろうか、やっているのだろう。だって彼女は誰もが想像した『僕が考えた最強で最悪の化け物』の様な容姿も態度も取っていない――外見は美少女だし物腰は何もしなければ低い方だ、けれども私は嘗て彼女に完膚なきまでに叩きのめされているのだから。

 

 聖人の力を駆使したとしても、例え彼女が不死で無かったとしても、多分勝てなかったのだと思う。それを踏まえると彼女が十分な、十分すぎる程に“怪物”である要素を十全に満たしていると簡単に答えが出る。外見に騙されてはいけない、彼女もまたあの『窓の無い建物』にいる“あれ”と同じ存在なのだ。

 

 ……だから本当に、私の目の前でそんなだらけた顔をするのはやめてください。破壊力高いんです色々と、元が年齢がどうでも良くなるほどの美少女だから許されるけどやってることは親父そのものですよそれ。

 

 

「んで、そこまでは分かった」

「私としても上に報告することが出来ましたよ、本当は報告したくないのですが」

「うん? なして?」

「『伝承の存在は確かに存在して、十分すぎる力を有している』なんて火種以外の何物でもないじゃないですか」

「あー……うん、確かにそりゃ面倒くさい、巫女が飛んでくるぐらい面倒くさいな」

 

 

 彼女はうげ、と大仰に舌を出して顔を顰めた。どうにもその巫女は相当な厄介事らしい、彼女曰く「厄介事があるから巫女が来るんだけど、それもそれで厄介な事になるのよね」だそうで、パワーバランス的に色々と複雑なんだそうだ。そもそも私にはその巫女がとても人間とは思えないのだが、妖怪でも勝てない人間とは何ぞや。

 

 

「まあ、あそこは外の常識が通用する地じゃないよ」

「貴方が言いますか、貴方が」

「まーねえ、私だってこの世の“理”って奴に歯向かってるから」

「貴方自体がそれだけで千年に一度クラスの異常事態なんですよ」

「ははは、光栄の極み」

 

 

 不死とは、それ自体が世の根底から洗いざらい引っくり返しかねない異常事態だ。諸行無常、盛者必衰の如く如何に隆盛を極める者にも必ず滅びの時はくる、それはこの不条理で不公平な世界において唯一絶対の公平な審判だ。形あるものは須らく、どれ程の時を経たとしても崩れる、崩れなければいけない。それすらも嘲笑いながら覆すのが『不死』だ、つまりは『不滅』だ。

 

 

「故に、この事態を必要以上に重く見た勢力があります」

「……欧州の?」

「然様です、特に魔術師関連は貴女に興味を抱いていたらしいですね」

「へえ、なして?」

 

 

 どうにも変な所で彼女は勘が鈍いらしい、此処まで言って分からないとは、指を差せばきょとんとした顔をしていた。つまるところ、彼らが特に関心を抱いていたのは日本ではない、政治屋にとっては日本の立ち位置に感心があったのかもしれないがその裏に居る者達にとって重要な存在はただ一人だったのだ。

 

 

「藤原妹紅。その当時のあらゆる怪異、あらゆる魔術師は貴女を恐れていたのです」

「……私を?」

「そう、日本に立ち入った怪異の中には強力極まりない者も多数存在しました――狼男、はぐれ魔術師、そして吸血鬼。吸血鬼です、あの不死身の存在すらも結局は戦果を挙げるどころか消息不明なのですよ」

 

 

 彼女は「大した事は無いよ」と大きく欠伸をしたがそれは恐るべきことだった、彼女にとっては本当に大した事が無いのかもしれないがそれはとてもとても恐るべきことだった。吸血鬼すらも屠る力とはつまり、ありったけの畏敬の念を込めても足りない程なのだ。

 

 あらゆる怪異に怖れられたその悪魔の噂はやがて当然の様に魔術師たちの耳にも届く、それが退治屋経由なのかそれとも単に噂として流れて来たものに裏付けを取ったのか、ともかく教会は彼女の事を相当に警戒していたらしい。

 

 

「昔の我々は貴女を魔女として考えていたようです、それも相当な力を持った警戒すべき敵と」

「魔女って、それに私は別に大したことしてないのに……あ、お酒お代わりある?」

「貴女はそれだけのことをやっていたんですよ、もうやめなさい!」

「いいじゃん! 最近飲んでなかったんだから!」

「駄目です! 真面目な話してるから黙って聞いてください!」

「神裂のけちんぼ!」

「うっせえんだよこの平安女が!」

「ひどいっ!?」

 

 

 どうしてこうなのだろう、百歳なんて鼻で笑えるほどの年を生き続けている彼女は外見どう贔屓目に見ても十五歳行くか行かないか、大して自分はそう――この年にして既に大人と間違われる、即ち顔パスで煙草が変えてしまうぐらいの……詐欺だ、悪意しか感じない何かを感じる。

 

 

「……ええっと、神裂?」

「なんでしょう、堪忍袋がぶちぎれない位だったら堪えられますが」

「ひょっとしてさ、さっきの事まだ怒ってる?」

「いいえ? 少しも? これっぽっちも?」

「ゴメンナサイ、カンザキサンゴメンナサイ」

 

 

 さっきの話だ、路地裏でド派手な死亡フラグをおったてていた不審者たちを追い散らした後彼女と合流したその後の話になる。彼らには妹紅が持っていた鉄パイプが溶けはじめていたのが見えていたのだろうか? わざわざ彼女が自分から路地裏に入った意味すら気づいてなかったとしたらお笑いものだが。

 

 そんな訳で自分のアパートを燃え散かした彼女の住居――前に我々がこの都市に潜入した際ねぐらにしていた場所だが、そこに行く流れになった。道中で彼女が酒を買おうとして童顔故断られたり、だから私を引っ張り出して買わせようとしたりしていた訳だが……その結果が目の前で酒盛りする童女だ、鬱になる。

 

 

「なんでそんな量買ったんですか」

「だって神裂も飲むと思ったし……お金あったし」

「お金があれば何でも買っていいって事にはならないんですよ、知ってますか?」

「法律的には問題ないから、20歳以上だから、余裕で通り越してるから」

「成長を止めた時って何歳でしたか?」

「…………」

「何歳でしたか?」

「……ごめん、それ以上その顔で追及しないで」

 

 

 責めたくもなる、その後顔認証式の煙草自販機の前で「神裂なら……」と言わばかりの視線で私を見るのが悪い、やってしまった私も私だが。しょうがないじゃないか、そこで挽回できると思ったのだから、流石に学園都市の機械だけあって私の年齢位御見通しだと思ったのだから。

 

 ……その結果があの窓においてある灰皿の中にある煙草の残骸だが、此処にステイルが居ればよかったのに。彼なら良いサンドバッグになってくれただろう、でもステイルと妹紅が楽しそうに会話をする姿を眺めるのも随分と癪だ。彼女もそろそろ長ったらしい話に飽きてきたらしくまた煙草を吸いに窓辺に寄ってしまったし、私も大分嫌になって来たので締めに入る。

 

 

「はぁ……ともかくです、その後色々あって鎖国やらなんやらで日本に出入りは愚か近づく事さえ困難になって、ようやくそれが解かれた時には貴女がもうどこにも居なかったんですよ」

「となると、明治時代か。あの頃にはもう妖怪なんてどこにも居なかったし、私も随分と落ち着いてきたから派手な事もしなくなってきたから、それにね」

「それに?」

「面倒くさくなってたのよ、全部が」

 

 

 私は、その瞬間無意識に彼女の方を見た、窓のヘリに座りながら向こう側を、外ではなくもっともっと向こう側を向いている彼女を見た。なぜだかは分からない、だが私には彼女がどうしても悲しげな、そして少しばかり諦めた様な表情をしているように思えた。

 

 

「……で、だ」

「はい」

「神裂がここに来た理由って、私の監視?」

「身も蓋もない言い方をすれば、ええ」

「それってずっと続くものなの?」

「恐らくは別件が終了し次第イギリスに戻ると思います、報告が待たれていますしあまり”魔女”を刺激するのはよくない、と」

「驚きだ、てっきり私の肉でステーキ・パーティーでも開くかと思った」

「昔ならいざ知らずですが、前例がある様なので」

「前例?」

「何でも昔、なにをしても死ななかったのが居たらしいんですよ」

「そいつは驚きだ、蓬莱の薬以外に不死を齎すものがあるなんて」

「アンブロシアにせよ、世界にはそういったものが案外あるものですよ」

「ほへー、じゃあ私の同類も結構いるとか」

「それを食うかは別としてですよ、まともな精神をしてたらそんなもの食べません」

「……だよね」

 

 

 どうやら結構手痛いところを付いてしまったらしくしょぼくれてしまった、やりすぎたかもしれない。けれども私としては酒の件も煙草の件もあるし酔っぱらった彼女に胸を揉まれるなどという暴挙をされた事もあってあまり申し訳なくはならなかった。

 

 

「やってることがたちの悪い親父そのものですよ」

「しょーがないじゃん……羨ましいんだよぉ、私だって女なんだからさぁ。あとから後悔してるんだ……蓬莱の薬を飲むのをもうちょっとだけ待ってたら私だってさ、私だって……」

 

 

 多分美人にはなると思うけれど体型的にはどうなのだろう、きっと希望が持てるだけましだと思う私は精神が荒んでいるに違いない。なにせ妹紅には会えたけれどインデックスには会えていないのだから。おのれステイル、一人だけ抜け駆けしてあの子に会っているのに違いない、確かに妹紅とも話したい事が色々あったがそれと同様にあの子にも会いたい。

 

 

「会いに行きゃいいじゃん」

「心を読むのはやめてください」

「さとり妖怪じゃないからそんな芸当出来んよ、分かり易いだけ」

「……此方にも立場があるんです」

 

 

 一応、事が終わるまで私は彼女について調査と監視の任が当てられている、上層部にとって彼女はどのような形であっても要警戒対象だ。過去に数度我々は彼女の様な『不死』の存在と関わりを持っているらしいが……やはり、絶対的にサンプルが少ないとぼやいていたのを聞いた、言い方には問題があると思うが・

 

 どうにも『不死』というのにも一口では言えず、絶対数は極小だがその中にもは色々あるらしい。例えば超速度の肉体再生――どれだけ傷つけても、果ては肉体を消滅させたとしても復活してしまう者。あるいはかの『魔女』の様に原理は不明だが一切の傷も影響も及ぼす事が出来ない者、もしくは『死亡』という現象をスキップしてしまう為死ねない者等々。

 

 

「どの道、まともではないですがね」

 

 

 そう、まともではない、誰一人としてまともではない。それは総じて常識の埒外に生きる者だ。下手をせずとも人間とは違う精神を持っている怪物達がそれだ、大量虐殺であろうとも天変地異であろうともケタケタと笑いながら見物できるような――そんな怪物。

 

 

「んで? もう一人の方は?」

「ステイルですか」

「この分だとカミジョーの方に行ったんだろ?」

「ええ、心配ですが」

「私も心配してるよ」

 

 

 だったら、なぜ貴方はさも愉快そうに、とても楽しそうに笑っているのだ。まるでこれから来る厄災を歓迎すらしているような、そんな笑顔。それともただ単純に酒に酔っているだけなのだろうか? 私としてはそちらの方だと思いたいのだが、それが賭けるにしてはどれ程贔屓目に見ても不利なものであるとはよく分かっていた。

 

 

「『三沢塾』だっけ? 確か……うん、進学塾だの言われてた気がするけど」

「調査によればそんな所ですね、今は中々に愉快な事になっているようですが」

「愉快? 塾なんて堅苦しいところで?」

「色々あったんですよ、色々。まあ詳しい事を言ったとしてもあれですし、興味ないでしょう」

「まーねぇ、うん」

「大事な事は一つに『現在、”吸血殺し”が監禁されている』事」

「”吸血殺し”? やけに物騒な名前だね、それ」

「効果はそっくりそのまま『吸血鬼を殺す』と酷く限定的でそれ以外何の役にも立てませんが、それ故に効果及びに範囲は強力極まりません。妹紅も奴らの厄介さは知っているでしょう?」

「ああ、戦ったのが昼ならまだしも夜だったから相当手を焼いたよ。やったのが森だったから見つけ出すのも厄介だし回復も早い、おまけにこっちの血まで抜いて来ようとする……あー、嫌な事思い出した」

 

 

 溜息を吐きながらしかめっ面をするのはいいが、その状況で勝てた事に疑問は持たないらしい。レートで言えば10割負けは確実であるのにそれすら引っくり返すのは流石常識はずれの”不死”属性持ちといったところだろうか、教会が用意できた人員が”聖人”属性持ちの自分である事も納得できる。

 

 

「そして二つに『我々の敵が錬金術師、アウレオルス=イザードであること』」

「……ちょっと待て、今『錬金術』って言ったか?」

「はい、イザードは我々≪イギリス清教≫の仇敵である≪ローマ正教≫の隠秘記録官――つまりは”魔女の脅威から人民を守るため魔道書を書く者”ですね、それなのです」

「つまり、さっきの集団はそれかい。私が魔女だとされているから――」

「貴女自体にも興味があるのでしょうがそうでしょう、もしくは単に警戒しているのか」

「ふぅん、成程……それにしても『錬金術』ねぇ」

「なにか因縁でも?」

 

 

 まさか『魔女』にも『宗教』にも目立った反応を示さなかった彼女が初めて興味を持った内容が『錬金術』だとは思わなかった。意外と言えば意外だが彼女の過去については分からないことだらけであって、意外と思うこと自体おかしなことなのだろう。過去に錬金術若しくはそれに関係する何かがあっても変ではないのだから。

 

 しばらく考え込んでいた彼女だったが急に顔を上げて私の方を見た、線の細い美少女がこちらを見ている、とても千年以上も生きているとは思えない覇気と生気に僅かにたじろいだ。それに比べて体格も顔付きも年相応とは言えない自分は損をしているのだろうか、得をしているのだろうか。

 

 

「神裂、その『錬金術師』はどこにいる?」

「『三沢塾』ですが現在予定に準じればステイルと上条両名が向かっている最中です」

「興味が出た、行こう」

「待てこら、おい待てこら」

「なんでだよぉ! 服引っ張るなよぉ!」

 

 

 いきなり何を言うんだこいつは、私に命ぜられたことは彼女の監視並びに今回の作戦に支障が出ない様に制御する――無論できればの範囲だが、彼女が本気を出した時点で私はほぼ勝てない、こうして服によって繋ぎとめられている分ならば彼女にとっても私にとってもお遊びの範疇なのだろう。

 

 

「見て来るだけだって」

「見た途端に参戦するから駄目です」

「しないって」

「私を振り切って狂喜しながら燃やし尽くすんでしょう、知ってます」

「しないって、これ以上暴れたら紫に怒られるから……でもなあ」

「どうしました?」

「……なんでもない、とにかく暴れないから」

「それでも駄目です」

「じゃあ行く前にインデックスの嬢ちゃんに会おう」

「そ、それは……」

「なっ? 神裂も私が嬢ちゃんの所に行けば付いて行かなきゃいけないもんな?」

「う、うぐっ……」

 

 

 卑怯だ、あの子を引き合いに出されたら私はどうしようもないのだ。渋々首を縦に振ると嬉々としてガッツポーズする妹紅を見るとしてやられた苛立ちとあの子に会える嬉しさで非常に微妙な気分である、この時の私はその後待ち受ける事態を考えぬ振りをしていた。

 

 

「そういえば、一つ」

「なんだい?」

「吸血鬼と戦って、どうやって勝ったんですか」

「ああ、それは――」

 

 

 ――森ごと燃やしたんだよね

 

 

「面倒になっちゃってさー、朝になったら山火事になってんの」

「……あは、あはは……」

 

 

 ああ神よ、私はまたとんでもない決断をしてしまったかもしれません。

 




コメント返信は凄く遅れていますが

実は一番気力が貰えるのがコメントです、ありがてえです。

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