とある不死の発火能力   作:カレータルト

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コメ返し遅れて申し訳ないけど気力が無かったんです
許してください続編投稿しますから!


人ととわず

 その部屋には窓がない。

 

ドアもなく、階段もなく、エレベーターも通路も無い。建物として全く機能するはずのないビルは、レベル4のテレポータが無ければ出入りする事も出来ない最硬の要塞だった。核シェルターをゆうに追い越す強度を誇る演算型・衝撃拡散性複合素材のビルの中に一人の魔術師は立っていた――。

 

 ちなみに幻想郷においてはどこへでも現れる神出鬼没な胡散臭い賢者であったり、余裕綽々と壁抜けをするこれまた胡散臭い邪仙が居たり、はたまた『衝撃拡散性』なんて言葉を鼻で笑いながらぶち破る事が可能な火力馬鹿――例えて言うならば四天王や本物の馬鹿である八咫烏、超常の力(物理)を持った元人間等が存在するのだがそれは考慮に入れない、これが異変であったならば何らかの力が働いて紅白巫女もやってくるだろうがそれも考慮外である。

 

 

「…………」

 

 

 魔術師の名はステイル=マヌグス、ついこの間妹紅と戦闘をして派手にぶっ飛ばされていた男、厳密に言えばまだ十四歳なので少年である。煙草を吹かしていようと身長が異常だろうと年齢的には少年なのだからこの表現に語弊は無い筈である。

 

 そんな彼も目の前に聳え立つ“モノ”――一切の証明を廃した広大な室内に置かれている巨大なビーカーの前では流石に煙草を吸わず、普段の余裕の表情すら鳴りを潜めて神妙な顔つきで、ただ“それ”を見上げる様にしていた。

 

 部屋の四隅で眩く光りながらもその機能を途絶えることなく実行し続ける機械の群れ、訳の分からない数値を表示しては精査しまた表示し続ける計器の山、そしてまるで巨大生物の血管のようにのた打ち回りながらも這う様に敷かれたチューブやパイプの束、見続けているとそれらがまるでグロテスクな怪物の様に見えてしまい、目を背ける。

 

 大仰過ぎるそれらは全てそのビーカーの、更に言ってしまえば『たかが人間一人の生命維持の為』――ただその為だけにその職務を全うし続けているのだ。淡々と、脈々と、何の疑問を持たずに一つの目的の為だけに生き続ける怪物に対してステイルは僅かに、ほんの僅かに憐憫の視線を向ける。

 

 そうまでして人の命に価値はあるのだろうか、そうまでに成り果てた命に価値はあるのだろうか。動く事も出来ず、自らの目で、鼻で、口で、耳で、舌で世界を感じる事も出来ず、そうまでして生き永らえる事に果たして価値はあるのだろうかと、最早それは死んでいる事と同義なのではないかと。

 

 

 

 いや、あるのだろう

 

 

 

 そんな状態に成り果ててまで――否、そうする事が最善だったのだ。

 肉体の脈動を封じられてまで――否、そうなる事が必然だったのだ。

 一座標に閉じ込められてまで――否、その解のみが最適だったのだ。

 

 そう思わせる何かが、愚行とも思わしき事すらもこれ以上ない正当な正答であると思わせてしまう何かがその『人間』にはあった、ビーカーの中でゆらゆらと揺蕩い、無限の思考へとその意識を投影する『それ』、もしくは『彼』には間違いなくこの地上のあらゆる生命を超越した『ナニカ』があった。

 

 ビーカーの中に揺蕩う賢者は、眼前の魔術師を見やる。常人であればそれだけでも死を覚悟するそれをステイルはただ何を思うでもなく平然と受けていた。それがどれだけの偉業であろうか、どれだけの愚行であろうか、それはどちらも分かっていた。ただアレイスターは無論それを示唆する必要はないし、ステイルはそもそも自分がなぜ動じていないかさっぱりと分かっていなかったのだ。

 

 畏れなければならない筈だ

 恐れなければならない筈だ

 懼れなければならない筈だ

 

 それがどのような結果を生むか分かっている、不用意な発言が、例え指先の動きであろうとも『彼』の気分を害したのであれば自分は何も考える余地も与えられぬままその命を散らすであろう、それがどのような形であったとしてもそれは迎合出来るものではない。

 

 それなのになぜ――ぼんやりと煙草の切れた頭でステイルは脳味噌をかき混ぜながら探す、どうせこんな思考ではまともに考えも回らないだろう。そう考えていた彼はふと、この完璧なまでに空調の整った部屋ではありえない熱風が体を通り抜けたのを感じた。勿論それは幻で、それでも彼はその見開かれた目で見たのだ。

 

 倒れ伏す自分、それに目もくれずに立ち去るあの白い背中を。

 

 

「……ああ、なるほど」

「――ふむ」

「彼女か」

 

 

 その名前を出した瞬間、アレイスターは僅かに『たじろいだ』。それがどれ程の異常事態か、天変地異の前触れか、それは神ですら分からない。だが不幸にも幸運な事にステイルはその事に気付く様子もなく、ただ『彼女』と『彼』を重ねていた。

 

 片や不必要とあらば自らの全てを無機質な化け物に委ねる事を躊躇わない賢者。

 片やどこまでも人間らしく、それでいて確実に“人間ではない”不死の化物。

 どちらも明確に違う存在で、しかしその狂気は同じほど巨大だった。

 

 あの夜、自分に吹き付けてきたのは圧倒的な質量の熱波。まるで地獄を思わせる程に焼きつく暴力を受けつつも自分が真に背筋を震わせたのはそこに込められた圧倒的なまでの『異常』だったのだ。戦いたいが為だけに生涯を掛けた想いを躊躇なく利用するその思考、まるで自分の命を屑と同価値と思っているかのような捨て身の責め、そこから垣間見えるのはただただ底の見えない狂気。

 

 彼女も厄介な事をしてくれるものだ、ステイルは内心溜息を吐く。あんなものをぶつけられたらこの程度の圧迫感では何も感じられない、まるで麻痺してしまったように何も感じない、あれほど恐ろしかったアレイスターも今では――やはり恐ろしい、ゾクッと身を震わすその感情に彼は初めて感謝した。

 

 

「妹紅」

 

 

 不意に、声が響く。

 

 それはアレイスターの者だった、彼が今しがたステイルが文句を垂れていた彼女の名を呼ぶ。言い当てられたことに身じろぐステイルが聞くその声無き声はどことなく愉快そうで――どうしようもないほど不愉快そうだった。

 

 

「妹紅、藤原妹紅」

「やはり、知っていましたか」

「現状での最重要監視人物のうち一人だ」

 

 

 それはそうだろう、ステイルは内心で納得する。彼女は喩え何をしないでも、あらゆる意味で危険すぎる存在だ。その力、その思考、その全てが世界を等しく焼け焦がすには十分すぎる。彼女が学園都市にとって最大のイレギュラーであることは間違いなく、そんな存在をアレイスターたる男が野放しにする理由が見つからないからだ。

 

 寧ろ今までなぜ「処理」をしなかったか疑問にすら感じているぐらいで、いくら不死の存在であろうとも彼はそれが障害だと判断した際には間違いなく然るべき行動を取るからだ。その理由をステイルは考える

 

 不死の存在を処理するリスクとリターンを考えた結果か。

 彼女の存在が彼の障害にならないと判断したからか。

 それともただ単に面白がっているのか。

 

 そのどれもが“在り得そう”な話。だがしかし、アレイスター・クロウリーと言う存在にとって“在り得ない”事態が無いのだ。全ては彼の考慮の内にあり、手の内にある、ステイルはそれを分かっているからこそ疑問に思う、アレイスターからすれば当然であるはずなのにそれをしない。

 

 その理由をステイルは考えない、考えても無駄である事は分かっているからだ。どう足掻こうともその足元にひれ伏すことすら許されない絶対的な存在、全ての書をもってしても辿り着けない領域に居る存在、それに『なぜ』と問うほど彼は愚かでは無かったのだ。

 

 

「君は――いや、魔術師達は」

 

 

 不意に、まるで転機を聞くかのような気安さでビーカーの中の賢者が問いかけた。その声色を聞いても、いや柔らかいとも取れる様な気安さにステイルは身震いを隠し向き合う。無理もないのだ、一挙一動が自分の生死に直結する、気を損ねればそこに自分の死体はすでに出来上がっている状況――ここは即ち、死に最も近い場所なのだから。

 

 

「西洋の魔術師は、『藤原妹紅』を覚えているのか?」

「……ああ、驚きました」

「その分だと、随分と親切に聞かれたらしいな」

「まさか彼女の名前を出した途端尋問室に送られるとは……やはり彼女は疫病神だ」

 

 

 彼女の事は隠しておこうと、あの都市に同伴した聖人とは話を付けておいた。『不死』の属性を持つ者は多少居るもそのどれもが重要監視対象、場合によっては隔離対象でもある、よもや負ける事は無かろうがそれでも彼女に恩義のある自分たちが火の粉を吹っ掛ける事態は避けたかった。

 

 だがその配慮は母国に戻った瞬間塵と化した、ステイルが書き綴った報告書によって。

 

 ステイルはへまを犯した、藤原妹紅がどれ程の知名度を持っているかを全く考慮に入れていなかったのだ。考えていたとしても精々“昔から居た不死人”程度の認識で、その判断をすぐさま彼は後悔することになる。彼が『ただの人名』として書き綴り提出したそれは上層部に渡った途端に波紋を巻き起こすこととなった。

 

 すぐさま二人は然るべき場所に召還され、当然のように尋問を受ける。彼女の容姿から言動、それどころか好物から趣味趣向まで、煙草を吸っていたと言えばその銘柄まで詳しく聞きだされる始末、全て終わった時には流石の二人も疲労困憊だったがそれでも予想外の収穫はあった。

 

 教えた事は、彼女の現在

 教えられた事は、彼女の過去

 

 それを知った二人の反応は若干異なっていた。ステイルは諦めを含んだ納得で、『彼女』は尊敬の念を含んだ納得、どちらにしても二人にとっては「彼女ならばやりかねない」と心のどこかで分かっていたからだった。

 

 

「ふむ、本来魔術師達が学園都市に関わるのは非常に、非常に問題なのだが――」

 

 

 その発言にステイルは身を固くする、アレイスターがその気になれば……いや、その気にならなくてもこの場一切の生殺与奪の権限を握っているのが誰であるか、それがどんな気まぐれの上に成り立っているか知っている、知っているからこそ。

 

 

「――彼女に関しての事情は厄介だ、“吸血殺し”よりも更に更に厄介だ」

 

 

 戦慄する、暗に『関わりたくない』とすら取れるその物言いは確かに分かる。彼女は厄介極まりない存在だ、ただでさえ不死人は総じて厄介だというのに更に上層部は何らかの情報を掴んでいるらしく藤原妹紅に関するすべてに対して相当慎重な立ち回りを要求された。だがそれをこの『人間』が言うとなると話は別なのだ、全く別だ。

 

 

「首尾はどうする気だ、よもや一人で両方をやると?」

「私は『三沢塾』を、そして藤原妹紅は『彼女』に」

「成程……確かに適任だ、最適ではないが適任だ」

 

 

 既に『彼女』はターゲットへと向かった、「いつまで経っても連絡をくれないんです」とぼやいていたから出会い頭に色々言われるだろう事は両手を合わせておくことにしよう。ともかく顔見知りといった点でも彼女以上の適役は居なかった。

 

 

(しかし、まさか彼女があの『幻想殺し』と行動を共にしてはいないだろうな)

 

 

 ステイルの脳裏に最悪の展開が浮かんだが、僅かに頭を振る事でその事を振り払った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 件の少女はその頃何をしていたか

 

 

 

 ◆

 

 

 

 じりじりと、夏の日差しが地面を焼く。

 陽炎は相変わらず立ち上り視覚にその熱気を訴えてくる。

 目を瞑ろうにも蝉の声が否応なしに現実へと向き合わせる。

 

 まあ、今この日差しの中で三人揃って突っ立っている我ら少年少女――私だけ少女と呼ぶには烏滸がましい年齢なんだけどさ、いいじゃん。少なくとも外見は上条の坊やとかインデックスの嬢ちゃん同じ…いや、ひょっとするとそれより幼いかもしれないし、まだ大人と呼ぶのには幼すぎるからさ。

 

 容赦なく照りつける日差しの下で、遮蔽物も無いままに焦がされてゆく私はそれでもその場を離れようとしなかった、というよりも最早動く気力すらも残っていない程に消耗していたと言った方が正しい、もう動きたくない、でも熱い。見回すと一様に気だるげで、これ以上ない程に疲弊した顔をしていた。

 

 視線の先には一枚の紙きれ、今しがた入ろうと目測を建てていた店はきちんとしまっていて。代わりにと言う様に張られていた紙切れには『お客様各位 まことに申し訳ありませんが、店舗改装の為、暫く休業させていただきます』の文字。これがどう言う事かってそりゃ私でも分かる事だよ。

 

 

「……なあ、坊主」

「なんですか」

「お前……もうちょっと下調べした方が良いぞ」

「……はい」

 

 

 あんまりにもうんざりからこのやりきれない感情をで横に居た坊やにぶつける事にする。理不尽とか言ってくれるな、こっちだってこの暑い中で『アイス』とか言われたらそりゃ頭の中それ一杯になるよ、なるよね? 絶対なるって断言させてもらうよ。それがまあこの仕打ちと来ちゃどうしようもない。

 

 でも責めるにも気力が足りない、どうしようもなく足りない。別に暑さなんて幾らでも忘れることは出来るけどさ、そんな事したら季節の意味ないじゃん。偶にぐらって来ちゃうけどなんとか我慢してるし、こんな時に食べるかき氷とか美味しいからさ……うわぁ、思い出したらまた食べたくなってきた。

 

 

「……妹紅さん」

「うん」

「なんでしょうこの……やりきれない感覚」

「……うん」

 

 

 そんな事を言われている上条もやはりうんざりした顔で、その後ろに居るインデックスが今に癇癪玉を破裂させないかと冷や冷やしながらちらちらと見ている、記憶を失ってからまだ時間は経っていないがそれでも傍に居たこの少女が厄介だという事は十分すぎるほど分かっているみたいだった。

 

 分かるよ私、嬢ちゃんと会話した経験すら少ないというか無いに等しいけど経験から分かる。あれは癇癪を起させるとやばいタイプだ、特に欲望に忠実な感じがする。世間知らずのお嬢様って感じがしてね、ああいったのはふとした拍子に爆発するとそりゃひどい……あ、やめよう、思い出したくない事を思い出すからやめよう。

 

 嬢ちゃんに悟られぬように上条にちらとアイコンタクトを送る、それを額面通りきっちり理解してくれるあたりに流石だと思うよ。輝夜とか分かっていて敢えて無視するし、紫とか永琳にやった日にゃ寿命が縮みそうだ。幻想郷に会話が成り立たない者が居ないわけではないし、むしろ高度な会話を楽しむならばそちらの方が良いんだろうけどさ、色々と問題のある奴が多すぎるんだよ。

 

 内容が高度過ぎて最早別の言語に聞こえる薬師

 会話は出来るがふとした拍子に即殺し合いに発展する月の姫

 生真面目過ぎて色々とやらかす脱走兵

 常にこちらを騙す気満々の腹黒兎

 常識人だが気を抜くと説教化授業に発展する教師

 

 ……あれ? 私って話せる奴少なくね? 閻魔とか私を何故か避けるし、頼みの巫女とか露骨に嫌な顔されるし。いやいやいや、普通に話すし、迷いの竹林とかで道案内してる時とか会話が弾んで仕方ないし。やっぱり心細いのか凄い会話するし――

 

 

『なあ、どうして薬を取りに行くんだい?』

『…………』

『お、おい……どうして』

『おっかぁが危篤なんです!』

『へ、へぇ』

『…………』

『…………』

 

 

 ――いやいや、違うし。確かに竹林まで行って薬を取りに行かなきゃならないとかのっぴきならない事情があるから仕方ないし、私の配慮が足りないだけだから問題ないし。そうだ、人里とかで買い出ししてる時にはよく話しかけられるし――

 

 

『あ、あのっ!』

『んぁ? なんだい坊主、告白?』

『そうですっ! ……あ、いえ。貴方じゃなくて慧音先生です!』

『お、おう』

『だから、その、慧音先生と近い貴女にこの手紙を!』

『……うん』

『ありがとうございますっ!』

 

 

 ――やめとこ、これ以上考えんとこ。あー、煙草吸いてー……なんだか知らないけど妙にむしゃくしゃするから輝夜殺したい、永遠亭のあいつの部屋に放火した後出てきたあいつを百回ぐらい殺したい、単位にして百輝夜だよこれは。

 

 

(妹紅さん、インデックスが怯えてます)

(……すまん)

(そんな殺気人前で放たないで下さいよ……こっちは一般人なんですから)

 

 

 いや、一般人じゃないだろ、そこに居るその嬢ちゃんなんてこの前魔術関係で殺されかけていたし。その右手に宿っている意味不明な力なんて私にすら通用するんだぞ、術を封じられたのなんて久々だったよ。幻想殺しか何だか知らないけど紫が知ったら露骨に眉を顰めそうな名前だよねそれ。

 

 まあ記憶を失っているからにはそんな事も全部忘れているんだろうけどさ、ひょっとすると右手の事も忘れているのかな? 厄介そうだなー、ただでさえ記憶を失う前には色々あったらしいし。さっき聞いたら嬢ちゃんは「剥かれた」とか不貞腐れていたけどその事も忘れているとなったらもう……罪作りとしか言いようがない、それぐらい覚えとけよと言いたくなってしまうのは仕方ないと思う。

 

 まあ、良く考えてみれば記憶がすっからかんになるというのは辛い事なんだと思う。

 

 昔は、いっそ全部記憶が無くなってしまうことを望んだこともあった。何も変化が無いまま無駄に積み重なっていく記憶が重たすぎて、何もかもが辛い時があって、脳味噌を握りつぶしても燃やし尽くしても結局は復活してそれが新しい記憶になる、発狂しそうだった。

 

 でも幻想郷に来てからちょっとは覚えていられる事のありがたみが分かるようになったな、どんな意味でも……くそっ、あの時輝夜ぶっ殺せなかった事が今でも心残りだ。それでも変化がある、輝夜や永琳、勿論慧音もだけどさ、こうして学園都市を歩いている事も今では楽しい。考えが変わったのかもしれない、覚えているのも悪くはない……って最近思え始めた。だからこそ、少しは分かる。上条坊やみたいに若くはないし、比べられない程年も食っちまったからほんの少しだけど分かる。

 

『幻想郷でのことを全部忘れられるか?』

 

 答えはノーだ、忘れたくはない。あの変化の無い閉ざされた世界で私が見たものは、知った事は、忘れたくはない。例え忘れようとしても忘れられるもんじゃないし、忘れろと言われても忘れる気は毛頭ない、もし忘れるとしたら――ぞっとしない話だ。

 

 原初の記憶が風化してしまう程の私がこうなんだ。年頃のオトコノコが全部を、本当に何もかも、親の名前や容姿まで全部忘れちまったとなったらそりゃ辛かろう、間違いない。でもそれに関わらずああやって嬢ちゃんと『普通に』会話できているのだとしたら――その裏にどれだけの覚悟が秘められているんだろう。

 

 

「んぁ……世知辛い世の中だねぇ、ほんと」

「妹紅さんの年でそれを言いますか……あ」

「どしたよ坊主、私の顔になんかついてたかい?」

 

 

 私の事を凝視した上条は押し黙ったまま気まずそうに頭を掻いた、大体その理由は分かる。多分こいつは私が果たして『何者』なのか分からないから年齢を決めつけた事に対して迂闊な発言をしたと後悔してるんだろう、そりゃ私からは何も言っていないからひょっとすると同級生かもしれないわけで……流石にそんな勘違いをされてたら訂正するけど。

 

 何も言うつもりはない、少なくとも今は、こいつが魔術だの非現実的な事をすっかり忘れている間は何も聞かれないだろうから。だってそうだろう? いきなり『私は決して死なない蓬莱人でもう千数年も生きてます、炎とか起こせるし殺しも全然大丈夫ですヒャッハー』とか言っても信じられないと思うし、それ以上に言う意味が無いし。

 

 幸いなことに上条の坊主は私の事をほぼ完全に忘れているし、嬢ちゃんも私の事はあまり知らないみたいだからこのまま押し通せそうな気がする。知っているのはあの魔術師二人だけでもう英吉利に帰ったみたいだからばれる心配は無いに等しいしね、なんだか坊主に関わっているとまた厄介事に関わりそうな気がビンビンにしてるんだよ。

 

 ただでさえあんな騒動を起こしておいて紫の機嫌がやばそうなのにもう一発花火をぶちかませるほど私は命知らずじゃない。というかいつになったら私は幻想郷に戻れるんだ? ひょっとすると今怒り心頭だから罰としてこのままここに永住させるとか? うっへぇ……そりゃ勘弁したいもんだよ。

 

 

 

――あの二人がここに舞い戻ってくるとか無いよね? ないない絶対無い。

 




Q.妹紅がチート過ぎない?
A.だって設定上チートですし

Q.妹紅はこんなキャラじゃない!
A.人の数だけ幻想郷

Q.妹紅は可愛い?
A.間違いなく可愛いです、あとイケメン枠です

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