とある不死の発火能力   作:カレータルト

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失踪してないから(震え声


ひととひといがい
人なりけり


 夏は、暑い。

 

 

 

 そんな事は当然なんだけどさ、そこら辺に居る子供にだってわかる事だよそりゃ。冬は寒いし夏は暑い、地球の裏側は違うんだって紫は言っていた気がするけどそんなの私の知った事じゃないね、“生まれて”この方ずーっと日本人だしさ。多分いちばん長い間日本人やってるよ、バ輝夜とか八意は月人だし妖怪連中は人じゃないしね。

 

あれ、私って人間って呼べるのかな……ま、いっか。

 

 構造上死なない人間だし、妖怪でもないから多分人間だろうさ。そこん所は考えていると色々ややこしくなってくるから敢えて考えないようにしている。なんでって、そりゃ暇で暇で死にそうな時の為に取ってあるからに決まってるじゃん。

 

 

「……あっづ~……」

 

 

 それにしても、暑い。

 

 うだるような暑さで地面から陽炎が立ち上っている、世界はゆらゆらと揺れてそれが余計に暑苦しい。視覚効果ってのは面白い、いくら温度が無くても陽炎があればなんだか熱いように感じるって永琳が言っていた。

 

 そう言えば虫の蜉蝣と陽炎は語感が同じだけどなんか関連があったんだっけ、慧音がなんか言ってた気がする、あいつって私も知らない事をたくさん知ってるもんな……それとも私が何も知らないだけ? あいつ先生だもんなぁ――。

 

 

「あつ、い」

 

 

 前に誰かが、『妹紅は発火能力があるから暑さを感じなくていい』とか言ってた気がするけどそんな馬鹿な事はない。勘違いされたら困るから訂正しておいたけど気付いた時には大分勘違いされていたらしい、なんか慧音が羨ましげにこちらを見てくると思ったらそういった理由があるとは思わなかった。

 

 体から炎を出せるとか、そんなのは全然関係ない。あれは炎の制御で自分に熱が極力かからないようにしてるだけで熱を感じないなんて事は全然ない、制御しきれるようになるまでに何年かかったかな、それよかその間に私の焼死体が何百体単位で生成されたかと思うとあの時の自分は正気じゃなかった事が嫌でも分かって辛いね。

 

 だって幾ら輝夜ぶっ殺すって思ってても今はセルフ焼肉になるなんて御免だし、制御に失敗した時の感覚は今でも覚えているから余計に身震いする。実を言えば今だって時々感情が昂ぶりすぎた時に制御不能になるから忘れることが出来ない。

 

 暑いなんて、熱いなんてものじゃない。目の前が真っ白になってきて、呼吸がきつくなって、とにかく全身が痛いし痺れるしで訳が分からなくなる。意識が遠のいてくれるまでに永劫の様な時間があって、一秒を永遠に引き延ばしたような時の中で、焼失した傍から再生してしまう肉体の所為で軽々しく炭化も出来ないままに醒めぬ苦痛を味わう。

 

 その熱さたるや、地獄の業火も涼しく感じる程。まあ私は地獄に行った事なんて無いしこれからも行く予定なんて無いんだけどね、閻魔様に『地獄に連れてってよ』って言ったら渋い顔で説教されちまったし、今度はあの死神にでも頼んでみようかな……六文銭持ってないけど。

 

 

「……うぁー……」

 

 

 あんまりすぎる暑さで思考が溶けそう、制御云々とか地獄云々とかどうでもいい、とにかくこの暑さをどうにかしたい。難しい話なんてくそくらえだ、そんな事を考えていると脳味噌が熱で蕩けそうになる。ああ、それもこれも私をこんな場所に叩き込んだ紫が悪いに違いないさ。

 

 そもそもこの学園都市は熱すぎるんだよ、幻想郷の気候に慣れていたから余計にそう感じる。どうにも“地球温暖化”とかなんかが絡んでるって聞いたけど知るか、建物の構造とかも幻想郷とかとは大違いだし風通しも最悪だからちっとも涼しく感じない。

 

 クーラーとか扇風機とか冷房装置があるらしいけど、それよりも風に当ってた方が涼しく感じるんだよね。山の神社が河童の協力とかで電気を作ってなんかやってた気がするけど、やっぱり私としてはそれよか川に足を付けてた方が涼しく感じるし。

 

 永琳にそう言ったら「考えが古いわね」って言われて多少落ち込んだ。

 輝夜にそう言ったら「庶民ねぇ」って言われたから燃やして串刺しにしておいた。

 慧音は普通に扇風機に当って涼んでいたから何も言えなかった。

 

 やっぱり私の考えがずれてるのか、年季が違う巫女とか魔法使いに言われても世代差を感じるだけだけど、慧音とかが普通に適応しているのを見るとなんだか寂しくなる。ひょっとして自分だけ置いていかれてるんじゃないかってさ。

 

 そんな事を最近幻想郷にやってきた狸やら鵺やらに酒を飲みつつぼやいたら二人に抱き着かれた。なんか二人とも同じことを思っていたみたいで仲間が居なかったらしい。多分年齢的にあいつらは私と同世代だけどさぁ、妖怪だよ? 折角なら人間とこの感覚を共有したかった。迂闊にもその時仲間を発見した感動でほろりときちゃった自分も情けない。

 

 ……ってどうしてこんな事を思い出さなきゃいけないんだ、それもこれも紫が悪い。私がこんな河原で汗をだくだく流しながら歩かにゃならないのも、そもそもいつ帰れるかも分からないのも、なんだか面倒事に巻き込まれそうなのも全部紫が悪い。

 

 

「絶対帰ったらどついたる……んぁ?」

 

 

 あいつは都合が悪くなるとすぐ逃げるから騙し討ちしかないな、案外緩いところもあるから本人の隙は打てるだろうけど……問題は狐か。あいつちっとも隙を見せないんだよな、主人に対する敵意にはレーダー並に敏感だし、忠犬ってああいったタイプだろうね、狐ってイヌ科だし。主従纏めて燃やすのが一番早そうだな。

 

 そこまで考えた所で陽炎に歪む視界の隅が見知った顔があった、知ってるのは多分『こちらが』ってだけなんだけど。黒髪ツンツン頭とその横でを歩いているのはこんな日に熱くないのかって思える修道服姿のシスター、あれって見ているこっちが熱くなるんだけど。

 

 黒髪ツンツン坊主が上条当麻

 シスターの嬢ちゃんがインデックス

 

 正直、今一番学園都市内で会いたくない二人が目の前にいた。どこかに隠れてやり過ごそうにもここは開けた場所で、二人と私の間は向こうさんが振り向けば顔までばっちりみられるほどに近くて、避けようにもどうしても出来なさそうなのが恨めしい。神様って絶対性格が悪いと思うのは生涯何万回目だっけか。

 

 何やら言い合っているらしく時折横を向きながら歩く背中は仲睦まじいようにも見える、もしかしたら喧嘩をしているだけかもしれないけど――そうだとしても、それすらも青々しい。私と輝夜がやってる喧嘩なんて今じゃただの惰性交じりになってきてる感があるしね、若い同士って何をするにも元気があってちょっと羨ましい。

 

 如何に外見が若くてもねえ……うん。私の外見って上条の坊主と同じぐらいに見えるらしいんだよね、だから十四か十五ぐらいか。あの薬を飲んだ時の年齢なんて覚えちゃいないけど割かし若くてよかったとは思ってるよ、この外見が一番この都市に馴染みやすい。それでも中身はあれだから、時々若者の話題に食いついていけなくなるんだよね。

 

 どこそこのクレープが美味しいとか

 最近話題のドラマが面白いとか

 あいつがうざいとか、あいつが好きだとか

 最近年のせいか体が鈍って仕方ないとか

 娘が反抗期に入って辛いとか

 そろそろ孫の顔が見たいとか

 早く結婚したい、取り敢えず誰かと付き合いたいとか

 

 そんな話題を聞くたびに付いていけなくなる、大抵は焼鳥屋を経営していた時に酒絡みでぼやいているような話題だけどさ。私が覚えている外界なんて江戸時代ぐらいまでだし、文明開化の時にも外には居たけどそれから妖怪なんてほとんど居なくなるわ輝夜の情報を掴むわで幻想郷に入ったから。

 

 まあ、あの生臭天人に言わせれば「あんたはもう仙人みたいなもんよ、修行しないでいい仙人」らしい。胡散臭い方の仙人にはそれとなく、でも非常に羨ましがられたけどそれを表だって言われなかったのはその過程を考慮しているんだろうさ。どうして胡散臭い奴ってどいつもこいつもああなんだろうね。

 

 

「とうまー」

「ん? なんだよインデックス」

 

 

 一見すると仲睦まじく、異国同士の外見に目を瞑りさえすれば兄妹のようにすら感じられる。上条の袖を引っ張るインデックスなんて兄に甘える妹のそれと同じにすら思えるだろうさ、実際にその二人を遠目に見て目を細めている奴もいるぐらいだ。私としてはああいった微笑ましい光景は見ていて飽きないよ。

 

 けれども、見えるだろうか? そうやって目を細めて、表面上だけを見ている連中は二人の間に存在する透明で絶対的な壁が見えているのだろうか? 見えてないだろう、見えていればあんな嬉しそうな顔をできない筈だから、その違和感に気付けたのであれば『微笑ましい』なんて思えない筈だから。

 

 

「三千六百円あったら何ができた?」

「……言うなよ、それ」

「何ができた?」

 

 

 散財でもしたのだろうか、確か坊主は常時金欠だったはずだ。私が部屋に招いて食事を振る舞った時には感涙して思わず抱き着かれそうになるほど嬉しそうに食っていた。今はどうだかわからない、あの時の坊主と今の坊主は“別人”だから。

 

 その時の記憶は、あいつの頭からはもう抜け落ちている筈だから。

 上条当麻は、此処に至る全ての記憶を失っている筈だから。

 

 インデックスと呼ばれている少女と、『平凡』を自称する上条当麻がいつであったか私は知らない、どうでもいいからこれからも知ることはないだろう。ただ私はその件に関わった、関わった結果としてあの結末がある。

 

 上条当麻は記憶を失った

 インデックスは坊主の傍に居場所を見つけた

 二人の魔術師は在るべき場所に帰った

 

 まるで少年の記憶と引き換えのように、少女はそこに居た。それ以外は始まる前と同じ、私と坊主が住んでいたあの家はほぼ全焼してしまったけどね、その所為で住人全員が退去を余儀なくされたけどさ……うん、ごめん。でも仕方ないじゃないか、久々に輝夜以外と肉弾戦で戦ったんだもん。

 

 色々と裏で工作していた私が聞いた事と言えば坊主が全ての記憶を失った事で、どうやらそれをインデックスには隠しているらしいって事で、それだって全部の症状を聞いたのは本人じゃなくて上条の坊主が色々と世話になってる医者からだったし。多分これからあいつはもっと大変な事になるって事も言われた、記憶を失った事を隠しながらなんて凄い覚悟が無いとできないと思うよ。

 

 

 

 

 まあ、そんな事はどうでもいいんだけどさ

 

 

 

 

 記憶を失ったなんて知ったこっちゃない、所詮は他人だし私に何か気が居や不都合があるかと聞かれたら――無い、一切無い。住居が移った際に唯一の繋がりだったお隣さんってステータスも失ってるし、もう完全に他人だってことになる。

 

 そりゃ、これから大変だなーとかは思ったりするけど所詮は他人事で、宇宙の果てぐらいまでどうでも良い事で。多分覚悟も本人にとっては大事な事なんだろうけど、それを私が理解出来るかって思えば全然理解できない。無理に理解しようとしても全然出来ないし、それは無駄な事だからさっさと割り切る事は重要だったりする。

 

 だからどうでもいい、どうでもいい筈なんだけど……実はそうとも言い切れない。私があいつらに『会いたくない』って思った理由はそこにある。別に嫌いな訳じゃないよ、人間臭い、青臭い人間って好きだからさ。なんか見てて微笑ましくなるし、私にも青春なんてものがあったら……とか時々思っちゃうけど。

 

 ある一点を除けば、上条と私は完全な他人だというのに。

 

 

「ん?」

「どしたのとうま……あ」

 

 

 上条当麻は、記憶を失った

 上条当麻は、『殆ど』の記憶を失った

 限りなく100%に近い容量の記憶を損失した

 

 けれども

 

 

「妹紅さん?」

 

 

 けれども

 

 藤原妹紅のその存在の断片

 塵にも等しいそれだけは、覚えているのだ

 

 

「面倒くさいねぇ」

 

 

 ぽつりと、呟いた私の声は多分誰にも聞かれていない。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 誰かに見られている気がした、隣を歩くインデックスとは違う気配。

後ろを振り向くとそこに『彼女』は居た。

 

 不自然な程に白い髪

 モンペなんて古い出で立ち

 べたべたと体中に張り付くお札

 赤と白の奇抜な色彩

 

 藤原妹紅が、そこに居た。

 

 

「妹紅さん!」

 

 

 思わず手を振って呼ぶとどこか苦々しげな顔をした後、確かに手を振り還される。俺は記憶を失う前に彼女に何かしてしまったのだろうか、もしそうだとしたら謝らなきゃならないけど、聞くのが怖い。もしもそれが事実だとしたらと考えると怖くて、結局臆病にも聞くことが出来なかった。

 

 『記憶を失う前の』上条当麻はこんな時どうしたのだろうか、どんな行動を取るのだろうか、どんな顔をするのだろうか、どんな事を思うだろうか。知りたい、知りたくて知りたくて歯噛みする、俺は『上条当麻』にはまだなれていない事を突きつけられてしまうから。

 

 

「なにさぁ、こんな暑い日に……若いって元気があって良いねえ」

「妹紅さんって俺より若く……なんでもないです」

「……ん」

 

 

 危ないところだった、小萌先生を偶然見つけた時は思わず年下の扱いをしてしまって肝を冷やした事を思い出す。あの時はこっちがからかってると思われたから事無きを得たけど彼女が何歳だかまだ聞いていないから。

 

 外見はインデックスより少し大きいぐらいだけど、その内面は随分大人びている。まだ彼女と『会った』経験は数度しかない、探しているけど見つからないのは避けられているのだろうか? そうじゃないと思いたいけど否定できない。こんな時どうしたらいいのかはまだ分からないから。

 

 

「ま、若いって言われるのは悪くはないさ」

「ははは……」

「うっかり年増に見えるとか言ってみな、この世の地獄を体験できるかもよ?」

「遠慮しときます!」

 

 

 大人びている? それとも達観している? その言動からは一切の幼さを感じない。小萌先生は外見相当の――失礼な話だけど、外見の幼さに相応しいような面をちらっと見せる時があった。でも彼女はそれが無い、言葉も行動も大人より大人びていて。俺は時々彼女がとんでもなく長い時を生きているような気がしてならない。

 

 俺は知っていたのだろうか、彼女の素性を。

 

 ふと、そんな事を思う。けれども不思議とそう思えない、藤原妹紅がそう易々と自分の全てを曝け出すような人間には見えない。記憶を失った後、最初からこちらに素を見せてきたインデックスとは違って彼女はどこか一歩引いていたから、それから出会った人間は俺を『上条当麻』として見て来たけど、彼女だけはただ『他人』として俺を見てきたから。

 

 

「……ま、『いつも通り』でなにより」

「はい」

「まだ、ばれてないかい?」

「大丈夫そうです」

「とうまー、なにがばれてないって?」

「なんでもない「こいつが隠してあるお菓子の事」って妹紅さん!?」

「えっ!? お菓子!? お菓子隠してあるの!?」

「もーこーうーさーん!?」

 

 

 それは、彼女が俺の事を知っているからだろうか。俺が記憶を失っている事を聞いたからなのだろうか? それも違う気がする、確証は無いけれどもそんな気がする。彼女は『そう』だと、俺は知っているのかもしれない。インデックスに噛みつかれながら見る彼女は笑っているようで、笑ってはいないようで、分からなくなる。

 

 俺は、彼女を知っている。

 

 錯覚かもしれない、というよりもそちらの方が確率的には高いのだとあの医者は言っていた。ひょっとすると俺はあの蛙顔の医者とはよく顔を合わせるのかもしれない、そんな事を仄めかせていたから。とにかく俺の状態からそれが錯覚とか勘違いとか、その可能性が非常に高い事を聞かされた。

 

 けれども、どうしてもそうとは思えなかった。俺は彼女を知っている、心のどこかに焼き付いたように彼女を知っている。だってそうでなければ彼女の顔を見た瞬間に名前が浮かぶなんてことは在り得ないのだから。偶然浮かんだ名前が的中した? その方がよっぽど在り得ない。

 

 

「……で? なーんでお二人さんはこんなとこまで来てたのさ」

「いやーですね、あんまりにも『荷物』に漫画しかなかったので」

「ははぁ、見栄を張ってお堅い本を買いに来たわけだ」

「……まさかあんなに高いとは思わなかった……昨日まで半額セールだったらしいし」

「そりゃまあ、災難な事で」

「不幸だぁ……三千六百円の出費は痛い」

 

 

 何故かは知らないけど俺が住んでいた場所はもう無いらしい、別にそれは悲劇的な事があった訳ではなく……いや、大家さんにとっては悲劇的な事か。夜間に謎の爆発があったらしく俺が見に行った家の『跡地』は見るも無残な事になっていた、俺の部屋だった場所も悲惨な事になっていたし、残ったのは漫画ばかりだしで非常な出費を強いられるし。

 

 とても住める状況じゃないので大人しく学生寮に移る事にした。俺がこれから行く学校には寮があったらしく助かった、偶然出会った小萌先生――俺の担任らしい、その人に教えてもらわなければ危うく路頭に迷う羽目になったからお礼をしてもしきれない。こればっかしは幸運だったのだろう。

 

 それにしても何があったんだろうか? インデックスの服が安全ピンだらけな事ぐらい気になる話だ。あんだけの爆発がそう偶然的に起こるなんてありえないと思うし、一発の爆発だけではあちこち炭化もしないと思う、一面真っ黒焦げってのは爆発の被害じゃない気がするが……どうだろうか。

 

妹紅さんにそう聞いたら非常に慌てた顔で「そりゃ災難だったね」と言われた、全く関係の無い事なのに気遣ってくれる彼女は優しいんだな。そういえば彼女はどこに住んでいるのだろうか? 割かしどこにでも出没している気がする。

 

 

「これから帰りかい?」

「お金もないし……アイスぐらい買いたかった、せめて家電ぐらい残ってれば」

「……奢ったろか?」

「まじですか!?」

「本当に!?」

「ああうん……まあ、それぐらいはね」

 

 

 本当に、彼女は優しい。見ず知らずの俺達に奢ってくれるなんて、それとも記憶が失う前に何かあったのだろうか? 失くしてしまったのが悔やまれる、俺は彼女との間に何があったのかが知りたい。インデックスの事が知りたい、『上条当麻』の全てが知りたい。記憶を失うこと以上に、それを誰にも告げることが出来ないのが辛い。

 

 藤原妹紅ならば、話せば相手にしてくれるだろうか? 俺が記憶を失っている事を知る唯一の人物、多分俺が現状で何でも話せるだろう『人間』。それに聞けば教えてくれるかもしれない、一片でも取り戻せるかもしれない。

 

 ……いや、止めておこう。これ以上彼女に迷惑をかける訳にはいかない、初めて会った時にこちらを他人と称してきたのはこれ以上関わって欲しくなかったからだろうし、それでも俺がこうして話しかけるのは俺が彼女を『知って』しまっているからだ。それに……それを相談しても、彼女は何も答えてくれなさそうな気がする。

 

 なぜかはわからない、でもそんな気がする。常に達観したような顔をして、諦念したような表情で。俺は彼女どこか遠いところに居る様な気がしてならない、まるで人間ですらないような……いや、そんな筈は無いだろう。妖怪じゃあるまいし、そんなもの化学が進んだ今の世で見る事なんて絶対に無いのだから。

 

 

「ま、そう決まったなら早く行こう……暑くて溶けそう」

「アイス! アイスなんだよとうま!」

 

 

 気だるげな表情で妹紅さんが言う、インデックスが俺の袖を引っ張る、彼女達を見ると不意に心が痛んだ。俺は知らない、知らないから何も出来ない、どうしてインデックスが俺に懐いているのか分からない、どうして藤原妹紅を知っているのか分からない。

 

 

 ただ俺が出来るのは、慌てながら二人の背中を追いかける事だけだった。

 




こっそりと、多分もう更新を諦めた人が多いと思うからと言い訳をしつつ更新。

活動報告か何かで言い訳するかも。

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