『で、どうして君はその嬢ちゃんを助けたいんだい?』
そんな声が聞こえた、聞こえたんじゃないかもしれない、頭の中に響いただけかもしれない。もしくはまったくそんな声なんて無いのかもしれない、けど、あの状況の中で、あの白熱した様にちかちかと眩い光と、熱と、圧倒的な『何か』を前にして、そんな非現実的な事を前にしてはっきりとしていたのはただその声だけだったんだ。
「どうしてって、そりゃ目の前で困ってるからさ」
『目の前で困ってれば誰だって助けるのかい? 犯罪者でも? 老若男女問わず? 危害を加えようとしても? 化物でも? 価値観が全く違う存在でも? 殺し屋でも? それら全部を助けようだって?』
「それは……」
『無理だね、そんな事』
無理なんて決めつけるのは、早すぎるんだよ。そう言い返そうとして、言い返したくて、でもその言葉は宙に消えてしまった。『そいつ』に俺は言い返す事が出来なかった、分かっていたんだ、そんな事は出来ないって、心のどこかでは分かってるんだ。
『一つ言わせてもらうと』
追い詰める様に、また『そいつ』が口を開く。まるで死刑宣告をされてるみたいな絶望感や、諦めや、そんなものが心に蔓延ってくるみたいで、耳を何かで塞いでしまいたくて。でも、手が動かない、一寸たりとも動かない、まるで神経が切れちまったみたいにどうにもならない。
『困っている者が、果たして誰もが助けを心の底から求めているなんて事は無い。寧ろそれは、よくそいつの心をどうしようもなく土足で踏みにじる事にもなる。それに気付かずへらへらと、『困っていたから助けてやったぞ』、なんて事を平気で言って本人は『ああ、俺はなんて偉い事をしたんだろう』なんてお門違いにも程がある事を考えてる奴がいる』
言い返せない、ただ『そいつ』の言葉を、まるで処刑されていくみたいに力を失っていく体で聞いている事しか出来ない。腕も、足も、頭も動かない、ただ耳だけがやけに音をよく聴いていた。
『お前だ、それは。今は違うかもしれない、しかし近い将来に、お前は必ず人の心を壊す為に人を救う、自分の為に人を救うだろう、そんな人間を私は知っているんだ』
「……」
『なぜだかわかるか? 坊主』
「わか――んねえよ――っ」
『お前がガキだからさ、どうしようもないガキで、何も知らないままに、分かろうとしないで行動するからさ、ただ馬鹿みたいに一方的に行動するからさ』
心が痛い、破裂するみたいに、破裂しているかもしれない。どくどくと音が聞こえる、ただ馬鹿にするみたいに囁く声が煩い、目の前が暗いのか明るいのか分からないけど、熱い、何かが轟々と燃える音がする。
『なあ上条当麻、もう一度聞くよ、『どうしてその嬢ちゃんを助けたいんだい?』』
言葉に詰まる、息が滞る、呼吸が荒くなる。俺はどうしてインデックスを助けたいんだ? それに理由なんてあるのか? 果たしてインデックスは、それを望んでいるのか?
「分からない」
『だったら』
「だったら、何だ? 分からなかったら人を救っちゃいけねえのかよ!」
分からない、分からないけど、それがどうしたってんだ。確かに救いを求めていない奴はいるかもしれない。でもインデックスは泣いてたんだ、覚えてる、ステイルも、神裂も、インデックスを救いたくて今まで何もかもを犠牲にしたんだろ!
『はっ……若いねえ』
「だったらなんだよ! 俺はインデックスを助けるんだ! ――こんな右手が合って何にも役に立てなかった! 誰も助けられねえし、テストの点は悪いし、喧嘩も強くねえし、持てるわけでもねえ! でも、俺は今なら目の前の女の子を『助けられる』んだ! 若いとかそんな言葉を言い訳にして逃げてる奴が、とやかく言ってるんじゃねえ!」
笑った気がした、幻聴かもしれない、でも確かに笑い声が聞こえた気がして。
『それでいい、きっと若いってそれでいいんだよ』
「……へ?」
『目の前の女の子一人救えないんじゃ、男じゃないね、まあ及第点だろ』
後ろに体重が掛かる、いつの間にか立ち上がれるようになっている。それどころじゃない、重かった手が、足が、まるで生まれ変わったみたいにぴんぴんしている。右手を握ればしっかりと感触が返ってくる、踏みしめた足が地面に触れているのが分かる。
『ちっとは力を貸してやるよ、坊主』
後ろから声が聞こえた、どこかで聞いたことのある声、でも誰かは分からない。そんな事はどうだっていいんだ、この力があれば、『彼女』がいれば、俺はインデックスを助けられる!
『さあいきな、目の前の女の子を助けられてこそオトコノコだろ?』
「……おう!」
眩いばかりの白と赤が見える、白はインデックスの魔術によって生み出される圧倒的な破壊の色、そして赤は――後ろから轟々と、心強いような音と共に吹き出す色、俺かけた心を叩き起こして奮起させる復活の色。
「お おぉおぉぉぉぉおぉっ!」
いける、これならいける! 遠ざけられた距離が急速に近づいてくる!
これなら、今なら俺はインデックスを――――!
◆
「――不明な反応を確認」
紅、煌めく紅が部屋を染め上げた。圧倒的な白を塗りつぶす程の、暖かな真紅が目の前に広がった。隣に居るステイルが息を飲む声が微かに聞こえる、私もそうだ、目の前の光景に圧倒されていた。
「解析――失敗、続いて魔術の系統を解析」
上条当麻が、さっきまで息も絶え絶えだった彼が押し返している。その背中から紅蓮が『生えていた』――まるでそこにあるのが当然と言う程に、当たり前のように。だがそれは異常な光景だ、ただの人間にそんなものが生えている筈がない。
「――失敗、これは『不明な魔術』もしくは『魔術ではない』と判断」
あるとするならば――もしも、そんな事があるとするならば。可能性は一つ飲み、それを実行したとしてもありえないと思わせない存在はただ一人のみ。
「『Unknown』に対する有効な特定魔術の組み込み――失敗」
「これは、もしや……」
「対応――不明、『Unknown』を対応から外し再び『聖ジョージの聖域』の再実行に入ります」
「藤原妹紅?」
ステイルは、やはり気づいたようだった。私もそう、この翼は、あの炎は、どうしようもなく似ているのだ。あの夜の地獄を彩った赤に、今目の前で広がる紅蓮はそれとは違って暖かで、奮い立たせるような何かを宿してはいるのだが。それでも本質は変わらない、まるで全てを焼き尽くす意志に炎が宿っているような激しい炎。
「しかし、彼女がなぜ、一体どうやって……」
「分かりません、分かりませんが――」
いよいよもって、上条がインデックスに振れそうになる時、まるでそれを妨害するよう――否、妨害するために、天上の亀裂から何十枚にも渡って『羽』が降り注ぐ。あれは、まずい、非常にまずい部類だと理解する。
「上条――っ!」
叫ぶ、あれがなんであろうとも『当たってはならない』と警告しようとする。今右手が潰れている上条はきっとあれを防ぐ術を持っていないのだと――そうして、次の瞬間にはそれが無駄であることを知った。
「……なあ、神裂」
「なんでしょう」
「あれは――一体『何だ』?」
「それを、私に聞きますか」
上条当麻の背から生えた翼が、そのどれをも燃やし尽くした。圧倒的な量の白い羽が追加とばかりに振ってくる、だがそれから上条を護らんと赤い羽根がますます火力をあげて、それに呼応するかのように『幻想殺し』が白い羽を相殺していく。
「人を強化する炎なんて、見た事が無い」
「あれが炎である事すら怪しいですがね」
「ますます、彼女が分からなくなってきた」
「奇遇ですね、私もです」
「上に報告すべきだろうか」
ステイルが控えめに、そう提案してきた。確かにあれは異常だ、聖人にすら容易に勝利する事の出来るその力もそうだが、あの能力は下手すれば『幻想殺し』すら上回る異質だ。ただの炎、だが――本当にあれは『ただの』炎なのか? 研究が必要ではないのだろうか?
ここで私達は彼女について報告すべきなのだろう、それは義務だ、だがしかし――それで本当にいいのか? ステイルも迷っている様子でこちらの同意を求めてきたのはそういった理由もあるのだろう。
私としては、報告すべきではないと思う。喩え報告したとしても、捕まえようとしたら返り討ちに逢いそうだし、まあこれは建前で本音を言ってしまえば私が彼女に好意を持っているからだが。インデックスの恩もある、それを仇で返してしまうのは――頂けない。
「一時保留で」
「妥当だろうな」
炎が舞っている、振りかかる火の粉が、降り注ぐ光の粒子が、それぞれぶつかり合い反射しあい、まるで極光の様に極彩色の世界を彩っている。それは、まるで――
「幻想」
幻想とは、つまり非現実的な事柄で、子供の頃に描いた様な空想の世界の事で。でも私の目の前にあるこれは紛れも無く幻想的なのだ。それを形作るのは『幻想殺し』、何と皮肉な事なのだろうか、もしくはこれすらも計算の内なのだろうか。
そして
その右手が
『幻想殺し』が
「――警、こく」
彼女の悪夢が
私達の今までが
「『 首輪、』致命的な、破壊」
消える
消えてゆく
「『Unknown』 解析――終了、対策魔術は――」
折角ならば、それを言ってくれてもよかったのに。
上条の体が力を使い果たしたのか、ぐったりと伸びる、まるでインデックスを護るかのようにそこに覆いかぶさり――そこに、夥しい数の羽が殺到した。息を飲む、あれ程の量を受ければ確実に、命が無い。
意識を失ったその体に、止めを刺す様に白い羽が命中していく、みるみる内にその体が襤褸切れの様に傷ついていく。当たり前の話だが、紅い羽根はそれを燃やす事が出来ない、まるで透過するように擦り抜けていく、傷つけていく。
そうすると、炎がまるで護る様に上条の体を包み込んだ。轟々と焔がその体を焼いていく、ますます煌めき燃え盛る炎が部屋の中に溢れかえる。
すると、不思議な事が起こった。
「傷が――」
「治っている!?」
「凄い……見る見るうちに修復されていく……!」
傷つけられた箇所を焔が撫でると、みるみるうちにそれが治癒されていく。破壊されていた箇所が繋がり、塞がっていく。やがて白い羽による破壊速度が、治癒速度を下回り、追い抜かれ、意味をなさなくなった。
やがて、暴力的とも思えた光の渦は消え去り。それに伴ってシュウシュウと炎の翼も勢いを失っていく、まるで水を掛けられたように、さっきまでの勢いが嘘の様にそれは萎んでいき、やがて完全に収まった。
「凄いものを見たね、あれが魔術であれば――どれ程の扱いを受けるんだろう」
「間違えても上条の放った力ではありませんね」
「当たり前だ、せめて彼女に話を聞かなければ」
「言うかどうかは分かりませんが」
「その時は無理矢理にでも……無理か」
一体あれは何だったのだろう、強化? 治癒? それとも全く別の物? それに妹紅の姿が見えないと言うのにいつ、どうやって仕掛けを施したのだろうか、どんな仕組みなのだろうか、分からない、ステイルをもってしても頭を抱える程に難解らしい。
「いや、違うんだ神裂」
「なんでしょう」
「この惨状を見てくれ、どう思うよ」
「えっと……あっ」
周りを見ると、今気づいたが凄まじい惨状だ、とにかくボロボロだし天井には亀裂が入って、部屋中焼け焦げているし、あらとあらゆる物が吹き飛んでいるし、家主が帰って来た時にどんな反応をするか考えただけでも恐ろしい。
「ともかくとして、こいつをどうにかせねば」
「確か腕のいい医者が居るらしいですよ、妹紅が言っていました」
「それはいいね、ついでに僕も診てもらわないと」
しかし、まずは彼女だ。
それだけはお互いに何も言わずともわかっていた。
◆
「それで、あれは何なんですか?」
部屋に帰った瞬間、真剣な表情をした二人に尋ねられた。
「なにって、何が? それにこの惨状は何なのさ」
「誤魔化さないでください」
「あれが君のものである事すら分からない程、僕らは愚鈍じゃないさ」
いや、ばれないと思ったんだが。どうやら神裂とステイルの坊ちゃんは私の予想以上らしい、見縊っていた、見縊っていた? ああそうだ、私はこいつらをまだ子供だと思っていた。
子供だ、容易く揺れ動き、影響されやすく激情に駆られやすいガキ。上条もそうだ、この学園都市には異常にそういった奴が多い、精神的に未熟で成長していない奴。幻想郷じゃまずみられない――そもそも、あそこが異常なだけだが。
あそこに居る子供はすぐに成長する、外見は普通の人と何も変わらない、だが怖ろしい速度で精神的に成長してしまう。あっという間にこの世の理を知り、理解し、自分がなんであるかを理解する。
初めて見た時は驚愕した、この私が恐れさえしたが――それはある意味当然かもしれない、閉鎖された社会、隣り合う存在は自らの天敵たる妖怪、そんな世界において成長できないのはすぐさま死に直結するのだから。
だが、この都市は違う、学園都市なんて大層な名前がついているがその実はガキの量産工場だ、肉体的に強くなっても、能力なんて力を持っても精神的な成長を見せない糞ガキ共がのうのうと生きている、ある意味では幻想郷の対極に位置する場所だ。
どうにも平和って奴は人を愚図にするらしい、自らの命を脅かす者が無い環境は安心と安定に満ち溢れている。それ故に人は成長を手放し安穏に走る、その結果として、その集大成がここだ、燃やし尽くしたいほど平和な都市。
だが――この二人は少なくとも違うか、私にとっちゃ子供も良いとこだが。それでもこいつらは私を数回殺したんだ、並じゃない。幾ら復活するから命の価値が無いに等しいとはいえ私を殺すには『人間を殺す』事に対する抵抗を振りきる必要があるんだから。
それにあれだ、ステイルの坊主が最後に見せたあの執念の塊、まるで修羅のような顔は今でも覚えている、一瞬でも私をひるませるなんてただ事じゃないだろうよ、地獄なんて幾らでも見ているんだから。
神裂が見せたのは覚悟の目、強い意志が凝縮したような、宝石の瞳。不意に『あいつ』を思い出して見とれちまった、私が今でも思い出している人間、あの思想は理解できなかったけど、その覚悟は今でも焼き付いているんだから。
「――へぇ?」
見せてもらった、人間の底ってのを。
変わり続けている様でまるで変わっていない、時に最強すら屠るその見えぬ底。
それに対する誠意ってのを――見せなきゃねえ?
「根拠を聞こうか」
「上条の気配に被って、君の気配がしたんだよ」
「あの炎、見間違いがありませんね」
「なんだよ、結局感覚問題じゃないか」
「間違い様がないから仕方ない」
「それ以上は必要ありません」
また、あの瞳が私の心臓を射る。確信の目、まるで世界の心理の様に自らを信じる目、ああ――やっぱり、イイ、凄くイイねぇ。まるで射抜かれた心臓が燃えている様に疼く、思わず笑い出したくなるんだ、そんな目で見られたら。
「『教えない』と言ったら?」
「然るべき場所に報告するだけだよ」
「へぇ? 脅す気?」
「まあ、そうしたところで別に直接的には関係は無いだろう」
「その体を欲しがる者は大勢いるでしょうが、正直貴方が捕まるとは思いませんしね」
「そりゃ買いかぶりだよ」
「でも、『やり辛くなる』――だろう?」
「……はっ、舐めた口を利くガキだね」
ちろりと、体から焔が迸る、そちらがそう出ると言うならばこちらも考えがある、暗にそう言っている。応酬には応酬を、脅しには脅しを、勝ちはしないが負けもしない、負けない限りは此方の物だ。
だけど――やっぱり私が思い違っていたらしい、脅した先にあるのはやっぱり変わらぬ瞳、ここは引かぬと言った意志の表れ。参ったね、本当に参った、そんな目をされたら諦めざるを得ないじゃないか。体から出ていた炎を収めて「降参だ」と手を振ったら警戒の目を緩めてくれた。
「わーったよ、降参だ降参」
「それじゃ、教えてくれるんだね? あの魔術――かな? とにかくあれの正体を」
「ステイルは随分悩んでいましたからね、見当もつかないと」
「そうだよ、あれの正体が分かれば僕はまた強くなれるかもしれないんだ」
「いいけどね、そんな勿体ぶるもんじゃないし難しくも無い、ありゃ『私だ』」
一言だけ、簡単な言葉、でも当然と言うか予想通りと言うか二人はさっぱり分からないと言った風に顔を見合わせていた。そんなに難しいかね? ただ単純な話なんだが、そもそも魔術なんて大層なもんじゃないし。
「私の『魂』だよ、つまりは」
「魂って――まさか」
ようやく思い当たったのか、ステイルの顔が驚愕の色に染まる、隣に居た神裂も一拍置いて唖然とした顔をした。そんな難しいものかね、永琳も輝夜も分かってたし、私と言えばただ何となく使ってただけだけど。
自分の胸に手を当てる、そこにあるのは在る様で無い、そして無いようで在る私の『魂』、不滅の霊魂、この世に縛り付けられた不滅の色に染まったいかなる手段を持っても決して滅せぬ心の臓。
「私の魂を、上条に憑依させた――それだけの簡単な事さ」
「簡単って……それは、そんな術は」
「術じゃないよ、私がその方法を知っているってだけさ」
「魂の操作? それを知っていると?」
「うんにゃ、私は――ってよりも『我々は』知っているんだよね」
「われ、われ?」
「一人じゃないって事さ、まああいつらとは殺し合いをする仲だけどさ」
神裂が捲し立てるように追及してくるのを躱す間、ステイルは顎に手をついて深刻そうな顔をしていた。なにかあったのかね? まあ蓬莱人が普通じゃないのは分かってるけどさ、こんなものは結構すぐ理解できるよ?
別に不死じゃなくても良いのさ、知識も要らない、経験も要らない、だって魂なんて誰もが持っているもので、一番近くて深い部分にあるんだから。私達は偶々それに触れる機会が多かったってだけだよ。
「妹紅」
「おん?」
「君はそれが――どんな意味を持っているのか分かっているのかい?」
「さあねえ、知らんよ」
「魂の操作、そんなのは神の領域だ、下手をすればそれを土足で踏みにじる行為だよ」
ああなるほど、そう言えばキリスト教の信者だったね、この二人は。と言うか神裂に繋がりが深そうな天草なんてその繋がりで戦争を起こしているし、そう言えば天草流ってのとあいつの繋がりは聞いてないなぁ。
しかし神ね、神様、この世のどこかに存在して居て全ての人間を見張ってるなんて言われてる存在。多分暇だと思うんだけどね、よっぽどやる事ないんだろうね、人間のやる事を須らく見守ってるなんてさ、もっとやる事ないのかね?
それを犯す? 神様の領域を侵すねえ。
そんなの――――
「くっだらない事、言うんだね」
「――貴様、何を」
「もう一度言ってやろうか」
ステイルの前に顔を突き出す、煙草の匂い、こんなの吸ってたら長生きできないよ? ああそうか、死んだら神様の元に行けるって? 笑わせる。
「くっだらねえなぁ、おい」
私の顔を殺意すら込めた目で見ていたその顔が歪んで、次の瞬間にはそれが怯えの色を見せていた。そうかい? そんなに私が怖いかい? それとも――今まで私のこんな顔を見せていないのが悪かったのかい?
「神様なんて私に言うかい? なあ坊主」
「なに……を」
「こんな目をする奴に、それを言うかい?」
「……ぐ――ぁっ――!」
きっと私は凄い顔をしているよ、だってただ見ているだけだっていうのにまるで焼き鏝を当てられた様な顔をしているんだからさ。神裂の嬢ちゃんが何か言う声が聞こえたけど、ちらっと見たらその瞬間石化したみたいに固まっちまった。
あれ? なんで私こんなに苛々してるんだ? なんだか知らないけど凄く――むかつく、今すぐこのガキ共を消し炭にしてやりたくなる、畜生、畜生畜生畜生、なんでこんな苛つくんだ、まるで体中が燃えているみたいだ、畜生畜生 畜生っ!
「一つ、言っておくよ」
「なに――を……」
「私はね、私は昔神様に会ったのさ」
ああ、そうか
「その時にね」
――ねえ、そこの可愛い人間さん
「私の中の神様は――――死んだのさ」
――その壺の中身、教えてあげましょうか?
ああ、そうか
だからこんなに、体が燃えているみたいに苛つくんだ。
色々言いたい事があるけど、個人的な語りをここでするのは無粋なので活動報告でやりたいと思います。
作品とは全く関係のない話なのでまあ、お目汚し程度でも。