とある不死の発火能力   作:カレータルト

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メリークリスマス



Salvere000(救われぬものへの救済)

 

 

 

 

 ベランダから帰って来た喫煙者三人はやっぱりヤニの匂いを漂わせていた、インデックスの健康に悪いからさっさとその匂いを消せとばかりに消臭剤をぶっかけると非常に嫌そうな顔をされた、自業自得だ。

 

 それにしても……見れば見るほど異様な面子ではないか、ステイルは見慣れているとはいえこうして改めて見るとどう見ても14歳とは思えないし、逆に先程紹介された教師なんてランドセルの方が似合っている。

 

 かたや藤原の女将なんて何歳か分からない、はっきりとした年齢すら自称していないから予想すらできない。外見は中学生と言った風だが中身を知っているとどう考えても我々全員より大人だ。一体学園都市には何人こういった類の人間が居るのだろうか? 恐ろしい事だ。

 

 非喫煙者のよしみで上条当麻に話しかけたら案外普通といった印象を受ける、どうやら妙な力を持っている様子だが敵ではないだろう、と言うより私の中で絶対的な力を持っている存在が確立してしまったのでそれと比べると……といった感じだが。

 

 どうやら藤原妹紅のお隣さんらしく、情報を知って居そうなので聞いてみる事にする。分からないなら分からないなりに何らかの情報は得る事が出来るだろう、それ程までに彼女は謎だ、謎すぎる。

 

「上条当麻、あなたは藤原妹紅について何を知っている」

「何も知らないんですけどね?」

「聞いた私が馬鹿でした」

 

 馬鹿、その単語に著しい反応を見せた様で床に頭をつけて唸り始めてしまった、ざまあない。ステイル程ではないが私もあなたに言いたい事なんて山ほどある、土下座したままほんの半日ぐらいぶっ続けで聞いてくれれば晴れるぐらいの軽いものだ、私は優しい。

 

 そうこうしているうちに帰って来た喫煙組だが――その先頭のステイルは異様に晴れやかな顔をしていた。先ほどまで上条の顔を見れば噛みつきそうだったのに今では多少眉をひそめるだけで、インデックスを見た時も落ち着いている様子だった。

 

 いきなりの変貌には恐らく彼女が関わって居るのだろう、私が化物と判断しそう呼んでしまった彼女、今思えば本当に申し訳なくなる。ともかく彼女が何かしたのは想像に難く無く、一時は不安定にすらなったステイルは前よりもしっかりとした土台を確立した様子だった。

 

「彼女と、何かあったのですか」

「まあそうかな、うん」

 

 曖昧に返されるのは恐らく隠しているからではなく、まだ自分の中で確立していない事があるから。それがはっきりとした時ますます強くなるであろう事は想像に難く無い、今は無理であろうと、まだ先はあるのだから。

 

「強くなるよ、もっと強く」

「ええ、世界には上が沢山いるんですね」

「ああそうだな、だからこそ甘んじても居られないね」

 

私はいつの間にか羨ましげな顔でステイルを見ていた、それがどのような助言であったか、もしくは激励であったかは分からない。だがその結果として彼は強くなるきっかけを与えられた、彼は強くなるだろう、私はそれが羨ましい。

 

 と言うよりもだ、私は藤原妹紅と話したい。謝罪をしたいのもあるし、いろいろ聞きたい事もある、私はその正体について若干の仮説を立てているが――それが正しいとするならば私はなんてことを言ってしまったのだろうか。

 

「ステイル、貴方はインデックスと話してなさい」

「そりゃいいけど……いいのかい?」

「私は十分彼女を見ましたし、それに上条当麻と和解もすんでないでしょう」

「和解、か」

 

 苦々しい顔をしているがやはり、もう敵意のような感情は見られない。魔術師として常に冷静になれるのは何よりも重要な事で、その為には精神的な成長が大きい。彼にとっては失うものも多かったが得るものはそれ以上だったのだろうか、そんな感じがする。

 

「と言うわけで藤原妹紅」

「はえ?」

「行きましょう、取り敢えず来てください」

「ちょ、いきなりすぎっ、ちょっと待ってよぉっ!」

 

 今やらねば出来ない気がする、私は急いだようにその小さな手を取って外へと引っ張り出した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 外へと連れ出すと若干不満げな顔の女将が着いてきた、すみませんと謝罪すると「いや、まあいいよ」と許してはくれたが、やはりむすっとした顔だった。昨夜見たあの狂気は既になりを潜めている様で、やはりあれは彼女の抑えきれない一面であるのだろうと確信する。

 

 私と同じように彼女もまた獣を飼っているのだと、あの業火の中で私の目に映った瞳は語っていた。戦いが終わった後で私を癒す時にも、ちらとみたその瞳は私の事をどこか同族のようなものを見る目で。それに対して私にとってもどこか似たものを感じていたのかもしれない。

 

 ただ、そこに映る闇は私の、そして今まで見てきたあらゆる昏い部分とは比較にならないぐらい深い事も同じように理解出来た。誰にも癒せない、誰にも理解すら出来ない、それは決して彼女が拒否しているのではなく、私達が理解しようとしていないのだと思う。

 

 訳が分からないものに対して自己防衛が働く様に、私にとって彼女はまるで別世界に生きる生き物のように見えた、それか別の時間を歩む生物のような――そこでふと気づく、彼女が最後惚けた様に私を見ていた時何と言っていた? 誰の名を呟いた?

 

 あまくさ しろう

 

 天草四郎、我々にとって関係の深い人間が江戸時代のそれであることは知っている。それを呼ぶ声はまるで旧知の人間をいきなり見つけた様で、その事実と彼女の異様な生命力、あるいは不死性とがかちりと結びついた。

 

 彼女は人間だ、間違いない、どんな化物でもないしその匂いも気配もしない。だが最も人間に近い人間でありながら、なぜ彼女は人とは程遠いと言った印象を受けてしまうのか? その答えを聞こうと思う、拒否されても良い、突き放されても良い、ただ願わくば私の残酷すぎる予想が外れる様にと願って。

 

「妹紅さん、あなたは一体『何歳なんですか』?」

 

 その瞬間の、まるで唖然とした顔を私は忘れないだろう。

 

 彼女は嘘が下手だ、と言うよりも真摯に向き合われた時に誤魔化しが出来ないのだと踏んた。実際そうだ、私が真剣な眼差しを逸らさずに向けると飄々とした態度はどこへやらと途端に動揺し始める、「えー」だの「あーうー」だの言って逸らそうとするが、無駄だ。

 

「じゅ、じゅうよんさい……」

「嘘とわかりきった事を言わないでください」

「じゅうご……」

「そんな意味じゃありません」

 

 必死に言い逃れをしたり、当たり障りのない態度を取ろうとするが逆効果になっていく、何だこいつ可愛い、中身はともかくとして外見ちっこい美少女が頬を染めつつ目玉をくるくる回す様は卑怯であると思う。

 

 そうしている内に言い逃れは出来ないと理解したのか溜息を吐き「誰にも言うなよ?」と諦め気味に降参を宣言した。無論ここではぐらかしても良い、だがそうしたら最後彼女は何も話さないだろう、そんな愚かな事はしない。

 

「ええ、神に誓いましょう」

「その前にさ、どこまで知ってる?」

「貴方が死なない事ぐらいなら」

 

 否定しない、つまり事実だ、彼女はやはり不死なのだ。不死身の吸血鬼と言えど唯閃を二回食らってぴんぴんしている様なのは居ない、多少の傷なりなんなりは出来るものを彼女は普通に生き還っている事から選択肢としてはそれぐらいしかなかった。

 

 では、どれぐらいの間生きているのだろうか? 天草四郎は十七世紀の人間だったと記憶している、それだけでも大した年齢だが大体5世紀程だろうかと仮定する。

 

「藤原不比等って奴さ、有名だったと思うけどさ」

「そうですね、歴史の教科書には乗ってます」

「あれ、私の親父なんだ」

「……は?」

「だから、私の親父」

 

 それが甘すぎる試算であることが突きつけられた、藤原不比等と言えば七世紀の人間。桁が一つ、つまり千年単位で計算が違う、秒に直せば三百十五億三千六百万秒違う。そんなアホな事を考えてしまうぐらいには衝撃だった。

 

「つまり、今あなたは」

「千と数百歳かな、多分外では一番お婆ちゃんだよ」

 

 けらけらと笑う彼女の傍で、私は笑えない、笑う事が出来ない。千と数百年? 訳の分からない、まるで実感出来ない年数だ、それが彼女の過ごしてきた時間、永劫とも等しいような時の流れ。

 

「辛く無いんですか、孤独じゃないんですか」

「ん? そんなの気にしてたらこうして『生きて』ないよ」

 

 それが失言であった事を理解する、今は気にしないと言っているがそれだけの年数を一人で生きていたら当然辛いだろうに、孤独で無い訳がないだろうに。一ヶ月も一人で過ごせば寂しさを感じる人間が、その数百倍の時間をただただ過ごすのはどれ程の責め苦なのだろう?

 

 その過去は計り知れないが誰かと一緒に居た時期があったとしても、それはすぐに終わってしまうのだろう。彼女の寿命に対して全ての生命はあまりにも短く儚い、きっと愛したとしても全てに追い越されて、それが辛くないわけがないのだ。

 

 彼女の傍には誰も立つことが出来ない、ただ一人で永劫と同等の時間を歩み、そしてこれからも眩暈のするような遠い道程を歩き続けなければならない。それがいかなる拷問なのかを、死ぬ事が出来る私達が理解できる事は無いのだろうが。

 

私やインデックスは死ぬ事が出来る、死んで逃れる事が出来る。だがこの世という魂の牢獄に、縛り付けられ続ける彼女を救える者は誰一人として居ない。如何なる剣も、如何なる力も、如何なる聖人も、その鎖を断ち切る事は叶わない。

 

 私の魔法名であるSalvere000、その意味は『救われぬ者に救いの手を』。だが真に救われるべき者は決して救えない、今までの私が急に霞んで色あせて見えたのは気のせいではないのだろう。

 

「なあ、嬢ちゃん」

「神裂です」

「うん?」

「神裂と呼んでください、妹紅さん」

「いいけど、ならこっちも妹紅って呼びなよ」

「はい」

 

 繋がりを作りたかったのかもしれない、自己満足な救いを与えたかったのかもしれない。ただ何もやらぬよりも何かをやらねばならない、それだけは確かな事で、つまり私は彼女にとっての中にかになりたかったのかもしれない。

 

「ところで、我々はどこに向かっているのでしょう」

「いやね? 嫌な予感がするのよ」

「嫌な予感?」

「いやぁ、あの坊主が派手にやっちゃったからさぁ……」

 

 気付く、この道はあのアパートに向かっている、ステイルと妹紅が初めて戦った場所。私が妹紅を初めてじっくりと観察する事の出来た場所。そう言えばそれはこの角を曲がったところにあった筈だ。

 

「まあ、大したことは無いと思う……けど……もぉ――――」

「どうしまし――た……?」

 

 角を曲がった瞬間、妹紅は唐突に笑顔のまま体を硬直させた。一体何事かと急いでそちらを見るとそこにはあらゆる場所が焦げ、炭化し、汚れた住居だったものがあった。大家は居ないようだがきっと堪忍袋が破裂しているだろうことは想像に難くない。

 

「これはひどい」

「これはひどい」

 

 気の抜けた呟きは空中に溶け、ステイルがやった事だし、あいつがやった事だしと譫言のように呟く妹紅と。それを憐れむのがいいのか励ますのがいいのか、どう声を掛けていいか分からないので取り敢えず頭を撫でる神裂が残された。

 

 

 

 

 

 

 神裂と妹紅が帰宅――帰宅だ、上条にはまだ伝えていないが本来住んでいたのがあの惨状である事を確認した瞬間から妹紅の頭からあの場所は消え去っていた、ワタシワルクナイワタシワルクナイと譫言のように繰り返す妹紅を苦笑気味に見つめる神裂は傍から見るとまるで仲の良い姉妹の様だが。

 

 まあその実、姉だと思われる方が年も精神的にも未熟な妹だと思われる方は年が行き過ぎているのだが、それでも外見上はそう見えてしまう。特に神裂が向ける視線は慈愛のそれだし、撫でられる妹紅の表情はいかにも表面上は不機嫌だ、表面上はだが。

 

 それはともかくとして、帰って来た二人を待ち受けているのは残りのメンバー――小萌はどこかに行ってしまい、インデックスは未だすやすやと寝ているため二人によって発生したものだが――それが神裂と妹紅に早くも頭痛を齎していた。

 

「なあ神裂、あの二人は何で言い争っているんだ?」

「アホなのでしょうか」

「それだろうね、男子なんて皆そんなもんだ、それが良いんだがね」

 

 小賢しいだけの男子なんて男じゃない、そう言いたげな妹紅の隣で眉をひそめてゆく神裂、段々と喚き声のような言い争いが激化していくたびにそれは深くなっていき、隣に居る妹紅が若干緊張気味にアプローチをかけ始めた。

 

「あの、神裂さん?」

「何でしょう妹紅、何故敬語なんですか?」

「いや、怒ってるし」

「神裂と呼んでください」

「……神裂」

「よし」

 

 何故か気分を良くした神裂をみてほうっと妹紅は息を取り戻す、不死だって怖いものは怖い、慧音の頭突きは怖いし永琳の治験と称した人体実験は恐ろしい、輝夜は死ね、何時しか肝試しに来た際のあの巫女は中々怖かったし「斬ればわかる」なんてほざくボブカットには恐れ入った、輝夜殺す。

 

 ともかくとして、神裂の機嫌が最悪であることを妹紅は察した。これはまずい、非常にまずい、私に対して雷が及びかねない。無論ありえないのだがそう思える程に神裂の発するそれは凄まじいものだった。

 

「で、でもさ神裂、まだ何の内容で争ってるか分からないじゃん」

「大体インデックスの事でしょう」

「いや、今晩の夕飯の事かも」

「時折『インデックスが』とか聞こえますし」

「ガッデム!」

 

 何て事だ、と妹紅は膝をついた。確かに言い争いは激しくまともに単語は聞き取れないが時折そんな単語が聞こえる、これでは言い逃れもフォローのしようも無い。しかしステイルは吹っ切れたんじゃないのか、もしかしてまだ未練たらたらなのだろうか。

 

 焦る妹紅と苛立つ神裂、だが女子二人が男子二人に近寄った時それが考えているのと全く違うものであることに気付いた。

 

「どうするんだよステイル! このままじゃインデックスが……」

「ええい、君の幻想殺しで何とかできないのか!」

「馬鹿言うなよ! 出来る訳ないだろ!」

「くそっ、使えないなぁ君は!」

「そう言うお前は何かできたのかよ!」

「うぐ……しかしだね、僕が何か言わなければ今頃何の対策も立てられないまま……」

「対策なんて立てられてないだろ!」

 

 妹紅はそれを聞いて、根本的な問題が解決していない事を知った。神裂はそれを見て「あ、やべっ」とばかりの顔を見せたのを生涯忘れる事は無いだろう、幸いな事に誰も見ていないが。

 

「なあ神裂」

「ええ、根本的な事を言い忘れていました、私たちが何としてもインデックスを保護したかった理由です」

「そんな事言ってたっけ」

「分かってると思ってました」

「んなわけないだろ」

 

 嫌な予感がする、とばかりに額を拭う妹紅の予感が的中する事を若干この場にいる全員が理解していた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ここで、この場に居る者達の学力を記させてもらおう、理由は自ずとわかる。

 

 まずステイルと神裂、彼らは「まあそこそこ学力はあるレベル」だ、所謂上位レベル。魔術なら無論特化しているがそれ以外の事になると、まあそこそこと言えるだろう。

 

 次に上条は「馬鹿」、クラス内で三馬鹿に数えられることからも分かる通り結構致命的なレベルで宜しくない、因みに同じ三馬鹿の内一人は魔術師で一人は良く分からない、小萌先生の補習を受ける目的で敢えて落としている可能性すらあることを知らないのは幸運か。

 

 最後に妹紅だが……「論外」レベルだ。何故か、彼女は箱入り娘であまり教育を受けなかった、しかも勉強する年になる前に家を出て蓬莱人となりそのまま放浪生活、勉学に触れる機会なんて時々拾う雑誌とか新聞のみ。

 

 幻想郷で慧音と知り合ってからは多少の教養は着いたが、そもそも慧音の担当はほぼ歴史と国語に搾られる。時折八雲の藍が数学の臨講としてやって来たり八意永琳が保健体育の授業に来たりはするのだが――はっきり言って何を言っているかさっぱり分からない。

 

 それは彼女たちが教え下手だからなどでは断じてない、寧ろ幻想郷でも上位の上である最上位クラスの頭脳を持っているので道理に適い、分かりやすい教え方をしている。だが如何せん天才であることがいけない、内容が高度すぎるのだ。

 

 かたや幻想郷の賢者の愛娘とも称され、その能力を余すところなく叩き込まれた式神。かたや最高峰の頭脳を持つ月の賢者その人、それに子供がついていけるかと言われれば……自ずとわかるだろう。

 

 そんな訳でまともな教育を受ける機会を与えられなかった妹紅は論外扱いとなる、なぜこんな事を突如として検証したか、それは。

 

「いやいや、頭がパンクするって怖いから!」

「どうするんだよこの状況」

「ええい、やはり彼女は本国に連れて帰るぞ神裂!」

「他ありませんね」

「いや、まだお前らを信用したわけじゃないからな」

「だったらなんだ、このまま彼女が壊れるのを黙って待てと言うのか?」

「うぐぅっ……」

 

 この状況を止める者が誰も居ないのである、繰り返すがこの状況を止められる頭脳を持つ者が皆無なのである。かくして緊急に開かれた『結構空気なインデックスちゃん親睦会議第二回』は第一回とはまた別の意味で混沌としていた。

 

 ステイルが懸念し、神裂が若干忘れていた『インデックスはこのままだと頭がやばい』との情報は、「いや、その程度で頭がどうにかなる訳ないだろ」と言える者が居ないまま平行線をたどっていた。

 

 このまま急いで本国に連れ戻そうとする魔術師組

 危険は無いと分かっていてもまた何かあっては困る上条当麻

 若干どうでもよくなってきた藤原妹紅

 

 最後に関しては深刻で、モチベーションの著しい低下からくすねた煙草を吹かしはじめるという暴挙に出た、因みにそれを咎められるほど余裕を持っている者も居ない。この中で一番纏めなければならない年長者が堂々と責任放棄を決めた一瞬である。

 

 だって私部外者だし、知らねえしとばかりにいっそ清々しい程にそっぽを向く妹紅に気付いた神裂によって折檻が加えられるのはこの数十分後になり、帰って来た小萌先生によって「やだなぁ、そんなことある訳ないじゃないですか」とばっさり言われるまで残り数時間となる。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 風が吹いているのを感じる、ここ周辺には遮蔽物が何もないので吹く風を体全体で感じられるのでお気に入りの場所じゃん。時々お世話になっているが……今日はそう言った用事じゃない、小萌先生に呼ばれて一緒にあることを確認しに来たじゃん。

 

「黄泉川先生」

 

 僅かに、隣で立ち尽くす小萌先生の声が震えているのが分かる、かく言う私も正直目の前に広がっている惨状を見た時は暫く言葉を失った。正直言ってスキルアウトや能力者の鎮圧は行っているけどこれ程のものはあまり見ない。

 

「凄いじゃん、これ」

「ええ、凄まじい出力ですね」

 

 目の前に広がっているのは焼け野原、しかも小規模なものではなく目につくもの全てが焼き尽くされていると言えるほどに広大な範囲が焼き尽くされていた。草木は万遍なく灰になり、根元から焼き尽くされている所を見るに長時間の間熱に晒されていたと推測されるじゃん。

 

「一体誰がやったんでしょうねー?」

「ったく、後処理に回るこっちの身にもなって欲しいじゃん」

 

 惚けた様に話しているけど両方とも若干、と言うより大体下手人の当りはついて居るじゃん。明らかに発火能力者によるこの惨状、だけどここまで焼き尽くせるほどの高レベル能力を持っている奴は限られるし、尚且つ把握している範囲で目立った行動をする発火能力者はこれまで居なかったじゃん。

 

明らかに新しく出現した能力者、しかも高レベル能力ですら出せるか分からない出力、となると思い当たるのは一人。能力詳細不明、調査結果不明、素性不明、身元不明、情報不明のブラックボックス。

 

「藤原妹紅」

「そうでしょうね、と言うよりここで相対したって子が居てですね」

「っへぇ、そいつ生きてたじゃん?」

「散々やられたらしいですけどねー、体は丈夫らしいですよ?」

「羨ましい事じゃん」

 

 軽口を叩きながらも目は真剣そのものだ、多分私も。これ程の能力者が今まで隠れていたとも言い難いが……まあ、彼女はあまり人前で能力を使わないのは分かっているんだけど。何か理由でもあるのだろうかと考えていた、まさかレベルを悟らせない為? 酔った勢いで考え着いたその仮説が段々と現実味を帯びてくる。

 

「安定した出力だったらしいですねー、それも長時間に渡って」

「余裕がない感じだったとかは?」

「いえ? 寧ろ発火能力はおまけで身体能力が更に上がってたらしいですよ?」

 

 そりゃ、穏やかじゃない。普通なら演算で手一杯になって他の事をする暇も無くなる筈なのだが、そこから考えるにこれ程の力を発してもまだ本気には程遠いって事じゃん。あいつ強いのに能力まで併用されたら正直勝てる相手はかなり限られてくるじゃん。

 

「レベル2の自称は」

「ありえないですねー、ここまでできるなら余裕でレベル4にも届くでしょうね」

「それって、あくまでこの結果だけを考慮した判断じゃん?」

「更に上があるのは確実、本気を出したら……レベル5の判断が出されるんじゃないでしょうか?」

 

 専門家が言うのだから間違いないんだろう、けどこれで八人目のレベル5が出現? うわぁ、上の方から色々言われそうで面倒じゃん。参考人として出頭願いなんて出されたら小萌先生を差し出して逃亡するじゃん。

 

「逃がしませんよ?」

「うげっ、そこは友人のよしみで」

「死なば諸共ですよー」

 

 ともかく、そうなれば彼女はあのアパートでは暮らせないだろう。少なくとも監視の意味合いを込めてどこかの学校に強制入学、もしくは暗部入り……あいつならこの学園都市の裏でも食っていけそうな気はしちゃうけど。と言うよりも大分裏でも有名人になってるじゃん、本人気づいてないけど。

 

 ま、個人的にあいつを気に入ってるし、話も合うから手助けできるならしていきたいじゃん。手加減してくれるならまた戦ってみたいし……あ、デートの権利まだ使ってなかったからここぞと言うときに使おう。

 




本当に書く事が無い 誤字脱字修正受け付けています いつもの事だこれ

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