とある不死の発火能力   作:カレータルト

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Fortis931(最強であることの証明)

 

 黒一色だった視界に光が差し込んだとき、まず第一に目についたのは圧倒的な白だった。徐々に画素を細かくしていくとそれは一本一本が糸のように細くなっていき、後頭部を映しているのだとはっきりとわかるようになる。

 

 ああ、あれは藤原の女将じゃないか。僕が最後の最後に全力で殺したからきっとここはあの世なのかもしれない、やけに家庭感に溢れているけど天国はこんな場所なのかもしれないね。死んでしまったのは少し悲しいけど地獄じゃなくてよかったと思おうか。

 

 どうせ僕が死んだとしても神裂はしっかりとインデックスを保護してくれるだろうしね、彼女の実力に関しては一目置いているし、でもインデックスともう会えない事は寂しい。世界の全てを敵にしても護ると誓って、それでも僕は誓いを果たせただろうか?

 

 相変わらず後ろを向いたままの白が少しずれるとそこには黒いちんちくりんが見える、確かあれはインデックスを連れ去った少年だ、あいつも死んでいたのか。ざまあないね、いや何処で死んだのか分からないけど、あの時の事を思い出したらむかむかしてきた。

 

 それにしてもいつ死んだのだろうか? 神裂が殺したのだろうか、多分そうなんだろう。やたらと被害を増やしている気はするけどしょうがない、インデックスの為に清い犠牲を払ってもらったのだ。

 

 ちんちくりんの隣にはどこからどう見ても年端のいかない少女が一人、インデックスと同い年ぐらいか? おい神裂、君はまさかこんな子供も殺したのかい? 流石の僕も若干引くんだけどね、流石に戦闘狂と認識を改めざるを得なくなるよ?

 

 ふっと頭を傾けるとそこには――おい神裂、君まで死んでるってどういうことだ。インデックスはどうなるんだ、殺しに殺して挙句自分も死んで……なんだこの状況は。

 

「あ、ステイル起きましたか」

「おっす坊主、生きてるか?」

「ん――ぁ……?」

「生きてますねー?」

「生きてるなー、手酷くやったはずだけど案外頑丈だなー」

「そりゃ、彼には信念がありますもの」

「いいねぇ、友情だねえ」

 

 いや、訳が分からん。なんでみんな普通にだべってるんだ、というより生きてる? 生きてるのか? いやでも女将ってあれ確実に殺したはずなんだけど普通に無傷で笑ってるし。煙草が吸いたい、この部屋微妙に煙草臭いから体が煙草を求めてくる、ニコチンとかタールを求めてくる。

 

 若干同様で崩れかけた口調を元に戻す、冷静に考えてみると床の感触や空調の音がやけに生々しくて、そこでやっとまだ生きている事を理解した。生きている、生きている? では、あの女将を殺す事が出来なかったのか、少し悔しい。

 

 その問題の女将は後ろを向いてこちらへと向き直ったと思えば、気の抜けた声と共に「座りんしゃい」とばかりに開いている一席を指差した、隣には神裂、対面にはあのちんちくりんの配置に若干悪意を覚えるけどね、仕方ない。

 

「一体何があったんだい? 説明してもらおうじゃないか」

 

 問い詰めると、神裂は若干肩を竦めて女将を見た、大体それで分かった。

 

「今から数時間前の事になりますね」

 

 そんなに経ってたか? 惚ける様に指を折っていく女将を見てるとなんだかこの間のあれとは別人じゃないか、そう思えてしまうのは仕方ないと思う。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ぱちぱちと、轟々と、未だに当りで吠え続ける炎の音がどこか遠くのように聞こえていた。それほどまでに私は疲労困憊して、今にも倒れそうなぐらいに消耗していた。

 

「かはっ――はっ……はぁっ」

 

 火炎が己の水分を容赦なく奪っていく、喉はからからと乾燥してうるおしてくれる何かを渇望している、今だったら人の血すら飲み干してしまえそうな程に――そう不気味な事を考えてしまうぐらい、私は追い詰められていた。

 

 目の前がフラフラと揺れる、シュウシュウパチパチと足元から音がする、熱い、涼しい筈の夜風すら炎のフィルターに通されて熱風へと変わり私を責める。足を踏み出せばそこもまた炎、歩めども歩めども炎、一体どれだけの範囲を燃やし尽くしたのだろうか、あの化物は。

 

 化物――そう考えて、歩みを止める。確かにあれは斬り殺した、私がまた斬り殺したし死体も確かに確認した。だがそれが何の解決になると言うのだろうか? 彼女がまだ死んでいない事への証明に成り得るのだろうか?

 

 狂気とも思える程のナニカを瞳に灯した彼女との戦闘の中で私は冷静さを再び取り戻した、それどころか今までより更に体が思うように動く、これも自分の中の獣を認めた結果なのだろう、そう考えれば感謝するべきなのかもしれないが。

 

 そうして冷静になった頭で考えると、これで終わりとはどうしても思えないのだ。吸血鬼がただ斬られただけで絶命するだろうか? しない、そう言い切れる、私は確かにそういった手合いと戦ってきた経験があるのだから。

 

 然るべき手順を踏み、然るべき方法を行い、然るべき道具を用いて初めて殺しきれる相手は居る。最初はあれが人間だと思っていたので動揺したが……一度殺して生き返ったと言うのなら、二度殺しても、同じ方法であるならば。

 

「……やはり、か」

「まあね」

 

 炎の中から、人影が現れる。まるで魔王の如くゆったりとした歩幅で、悠々と死神の如く現れる。もう私は驚かない、心のどこかでこれは予想していた事だ。

 

 だが

 

「私は、行きますよ」

「あの子の所に?」

「ええ、散々道草を食ってしまいました」

「邪魔するかもしれないよ?」

「言ったでしょう、あそこの事はどうだっていいと」

 

 ゆっくりと、歩を進める。痛む体を引きずり、彼女とは逆の方向に向かって歩いてゆく。私にはもう彼女はどうだっていい、私の目的はあの子ただ一つなのだ、ただ一つだったのだ。一度は見失ったが、もう間違えない。

 

 恐らく彼女は邪魔をしないだろう、邪魔をされたらもう成す術がないが、恐らく彼女にとってそれは本当にどうだっていい事なのだと心のどこかで感じ、確信していた。今回だって私がただ挑発して突っかかっただけ、それに対して手痛い反撃を食らっただけだ。

 

 ああくそ、痛い、体のあちこちが痛い。これは自業自得だ、まったくお笑いだ。意識が暗転して黒く染め上げられてゆく、次第に体中が甘い痺れに犯されて動かなくなってくる。

 

進まないと、でも、進めない、足が動かない、ふらふらする、でも動かないと、インデックスが、あの子が、あの子が壊れてしまう、それだけは駄目だ、それだけは、それだけは――

 

「く――そっ……畜生、畜生――っ」

 

 最早世界は不定形だ、ところどころがぐにゃりと歪んで、撓んで、軋みをあげながらうねる渦だ、私はその内の一つに足を取られているのだ。思考は最早意味を成さない、足元で炎が唸っている、多分倒れれば焼かれてしまうのだろう。ただ今ならば、今ならば熱くなさそうな気がする、焼かれて消し炭になっても平気な気がする。

 

 ひどくゆっくりと、私の体が力を失ってゆく。脳裏に様々な景色が、色が、音が氾濫する、ああこれが走馬灯か、私は死ぬのか。

 

 ごめんねインデックス、私の友達

 私は、死んじゃうから もう足が動かないから

 だから――――

 

 

 

「おっと、すまんね」

「――――へ?」

 

 

 

 ふわりと、体が何かに支えられる。横を見るとそこには白が笑っていた、少し汚れた白、私が汚してしまった白。邪魔しない、でも助けもしないと思っていたそれが倒れ込む私を支えて、現世に引き戻した。

 

「大丈夫かと思ったら、大丈夫じゃなかった」

「……どうして」

「どうしてって、ここで死なれちゃ困るし」

 

 いや、さっきまで完全に殺しに来てましたよね、声が出ないけど目で訴えると「いや、ほんとごめんって」と申し訳なさげに苦笑した、化物の癖にやけに人間っぽい、いやさっきと雰囲気が違い過ぎる。

 

「ちょい待ってな、今治すから」

「なお――す?」

「うんにゃ、ちょいと静かにしてな」

 

 彼女がそう言って私の胸に手を翳す、その瞬間不思議な事が起きた。力が取り戻される、それと同時にあれ程痛んだ傷が段々と回復していく、視覚も平衡感覚も正常に引き戻されて逆に先程よりも元気になった気分さえする。

 

 驚いたように彼女を見ると唇に手を当ててそっと「内緒だよ?」と、静かに笑った。その顔が、その仕草が、あまりにも外見とかけ離れた淫靡さを持っていて、いつの間にか口内に湧き出したつばを無意識にごくりと飲み込む。

 

「いやね、興が乗っちゃって」

「興って」

「そっちが喧嘩を売るのも悪い、お相子だ」

 

 だからこれ以上言いっこなしな? にししと笑うそこからは最早狂気は欠片も見られない。話を聞く分にはどうやら私達をインデックスと引き合わせたいらしい、「だってほら、なんか思い違いしてるみたいだし」とは言っていたが――果たしてそううまくいくのか。

 

「いく、きっといく」

「その自信の出所が知りたいですね」

「そりゃもうね、ガキの言い争いみたいなもんさ、すぐ分かる」

 

 やけに落ち着いている、そう言えば彼女は不明な部分が多い存在だった。こうして相対してみてますますその闇は深くなってゆく、外見に見合わぬ中身、力、精神、そして――最後に彼女は何と言った? 「天草四郎」とそう、まるで既知の友人を久々に見たかのような目で言った、覚えている。

 

 彼女があのまま化物であったとしたならば、彼女が何者か分かっただろう。だが私の横で頻りにこちらを振り向いてくるその顔を見ているとどうしても化物とは思えない、なんで私はこんな少女を恐ろしい怪物だと思ったのだろう、そう言ってしまったのだろう。

 

「後悔先に立たず、か」

 

 何事も、終わった後で後悔するものだ。

 溜息はただただ虚空へと拡散していった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 家主である月詠小萌主催で催された『チキチキ第一回インデックスちゃん親睦会議』は現在混沌たる惨状を晒していた。ちなみにこのネーミングは小萌と妹紅が共同で考えたもので「取り敢えず詰め込んでおけばいいだろう」的な考えが随所にぶち込まれた素敵なものとなっている。

 

 この会議が開催される数分前、既に『煙草を吸って何が悪い同盟』を結成していた両者に加えて部屋の隅々に散らかったカートンやらなんやらを見たステイルが諸手を挙げて参加した事は大して重要ではない。

 

 これに対して上条は「一体妹紅さんは何歳なんだ……」と第二の年齢不詳に対して唖然としたのに対し神裂は「なんか予想してました」と諦念の表情を浮かべる事となる。インデックスは大事を取って寝かせてあった。

 

「だから! 斬りつけることは無かっただろ!」

「僕が斬ったんじゃない、神裂がやったんだ」

 

 言い争う上条とステイルはどこまでも平行線、お互い全く聞く耳を持たずに牙を剥きあうまま。恐らくはインデックスが介入するまで止まらないであろう応酬に割り入ろうとする物好きはここには居ない。

 

「あの、妹紅さん」

「ん?」

「……いえ、なんでもありません」

 

 先ほどからもじもじと妹紅の方を見ながらも悩ましげに視線を逸らす神裂、当人からすれば聞くべきか聞くべきでないか非常に悩んでいるのだろうが何も知らないものから見ればそれは――まあ、そう言う事だ。

 

「いやぁねえ、若いっていいねぇ」

「元気で何よりですね」

 

 この状況で一番落ち着いているのはこの中で最年少、あくまで外見のみだがそれが最も幼い二人組。中身は逆に最高齢で片方に至っては地球上でも相当な長生きに値するのだがそれを知る者は居ない。

 

 ただ穏やかに茶を啜りながら目の前で言いあっている二人を見るその内面では、小萌の方は「煙草吸いたい」であり妹紅の方は「焼鳥仕込み忘れた」であった。特に妹紅の焼鳥屋は一時噂になったものの徐々に落ち着きを取り戻し、今では落ち着いた人気店といった風情になっている。

 

 男二人は睨みあい、女は言うか言うまいかと迷いあぐね、少女二人は心ここに非ず。完全なこう着状況は我慢の限界に達した小萌がベランダに出るまで続くことになる。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「――っはぁーやっぱいいねぇ、生き還るよ」

「いいですねー…」

 

 流石に子供たちの前で堂々と煙草を吹かすのはまずいと小萌はベランダに出て、そこに妹紅は着いて行った。教員としての証明がある小萌はともかくとして、外見がどう見ても中学生の妹紅はその証明も無い、色々と厳しい学園都市に置いてそれは酒もたばこも窘めない事を意味していた。

 

 煙草ぐらい自由に吸わせろ、とは言わない。郷にはいれば郷に従えとの言葉が表す様に、その場所のルールには従わねばならない事を放浪生活で妹紅はしっかりと理解していた。如何に馬鹿らしいルールであろうとそれには理由があるのだ、無論無い場合もあるが。

 

 若干苦笑気味に溜息をつくと横からも同じように気の抜けた音が聞こえる、横を見るとお互いに「考える事は一緒だな」と、また笑い合った。そこに扉をガラガラと開ける音が聞こえ、ステイルがぬっと姿を現す。

 

「いいかい」

「ん、ステイルの坊主か」

「神裂に吸うなら外で吸えって言われてね」

「全くだ、規則は守るべきだ」

「妹紅ちゃんの外見で言われてもですねー」

「……ちゃん、か」

「はい」

 

 若干感慨深げに「ちゃん、ってのも珍しいな」と謎の納得を見せる妹紅の隣に立ったステイルが煙草に火を灯す、紫煙が宙に消えていくのを三人はぼうっと眺めていた。

 

「先生、ライター頂戴」

「はいはーい」

「君たちみたいな外見で煙草を吸ってると……色々複雑だ」

「うるせー、お前がでかいんだよ」

 

 大男一人に少女二人が揃って煙草を慣れた手つきで吸っている光景は異常でしかない、しかも大男は立派な未成年で逆に少女は両方とも年齢的には十分に成人している。倫理的にも色々と拙いが幸いにも目撃される事は終始無かった。

 

 夏の日差しの下、三人はただ黙々と煙草を吹かす。なんとなく、誰とも話したくなかった、ただこうして隣に立って今を堪能する事が最良の選択の様に誰もが感じていた。

 

「なあ、女将」

「今の私は女将じゃないよ」

「では、藤原」

「ん?」

 

 不意に、ステイルが隣に居る妹紅は見ずに淡々と話しかける。小萌はただ黙っていたが遠慮する様子がない事から大方自分たちの会話を聞くつもりなのだろう、ただ煙草を吸いたいだけなのかもしれないが。ステイルも別に問題ないと思っている様子で、だからこそ今話しかけたのだから。

 

「僕たちは、どうすればよかったんだろうね」

「どうって、なにさ」

「インデックスを無理やりにでも保護するつもりだった、でも出来なかった」

「悪いね、でも突っかかってきた君らが悪い」

「それについてはもうとやかく言わない、でも……その結果として、こうして空を眺めているとね、あんなに急ぐべきだったのか段々と分からなくなってきたんだよ」

 

 夏の空はどこまでも高い、それを眺めるステイルはどこか虚ろな目をしていた。

 

「彼女の敵になってでも、護ると誓った」

 

 それは自らに対する戒め、何も出来ぬ己に対する憤怒、護るための力に対する渇望、それら全てが空回りし、ステイルを焦らせ、結果として最悪に近い形で終結を迎える。

 

「その結果があれだよ、彼女の傍にもう僕は居ないんだ」

 

 二人が出ていって暫くした時に、インデックスは起き上がってきた。一瞬自らの胸に歓喜情が込み上げたがその表情を見た時にそれはまるで、風船をつつかれたかの如く萎んでゆくのを感じた。

 

 敵意を持って見られる事は覚悟していた、耐え忍べた。

 だが、自分が向けて欲しかった視線はもう見る事は出来ないのだと、上条当麻と呼ばれた少年を自分とは全く違う目で見るインデックスを見た時はっきりと理解し、耐え切れなかった、だから逃げ出す様にこちらに来たのだ。

 

「一体、僕は何がしたかったんだろうね」

 

 自分の行いは全て水泡に帰してしまったに思えた、何のために今まで戦ってきたのか、何の為に今まで耐え忍んできたのか、それがたった一晩で、見ず知らずの少年にかすめ取られた気がしたのだろう。

 

 その時のステイルの顔は冷徹な魔術師の顔ではなく、天才とも神童とも謳われた才気の塊でもなく、ただ純粋で、純粋すぎる思いを一人に捧げて、それが晴らされなかった事に消沈するただ一人の少年だった。

 

 そんなステイル=マグヌスと呼ばれた少年を慰める事を妹紅はしない、決して彼女は人に対して慰める言葉を話さない。自分がそう言ったところでその言葉はすっからかんである事を知っているからだ、なぜなら――彼女は本当の意味で人を好いた事は無いし、だから理解できる事は永劫にないからだ。

 

 何も言えない、多分どんな言葉を掛けた所で響かない。だから、妹紅は黙って煙草を吸い「別にいいんじゃないかな」と、そう切り出した。

 

「結果を知ってりゃ、そら馬鹿馬鹿しくなるけどさ。行動を起こす際に結果を知ってるなんてことは無いだろ? だからこそ人間って傍から見りゃ阿保らしいとしか思えない事をするんだからさ」

「今日、それをいやって程理解したよ」

「でもさ、本気を出して護ろうとしたんだろ? それを自分で否定しないだろ?」

「まあね」

「『次があるさ』とか『本気を出したことに意味があるさ』なんて言わんよ、んなこたぁない、次なんてもんは無い方が多いし、どれだけ力を尽くそうと大事なのは結果な事が多いさ」

 

 ほぼ経験談だ、少なくとも妹紅の長い人生において最初100年ぐらいはそれを理解できなかったせいで痛い目を見る事が多かった。だからこそ、その言葉は何の慈悲も無くステイルに突き刺さる。

 

「んだけどさ、何時までもそれを引き摺ってちゃ意味がない、そっちの方が愚かだと思うけどね」

「……そうだね」

「まあね、惚れた女に未練たらたらなのは悪いとは言い切れんがね」

「気付いてたのか」

「馬鹿言え、私の目は節穴じゃない」

 

 人を好いた事は無いが、そんな場面は目が腐る程見てきてる。その果てに悲劇が生まれようと喜劇が生まれようとどうだっていいが、人は愛の果てに愚かにも成り果てる事は良く分かっていた。

 

 ましてこの大柄な少年は体格を無視すれば極めて純真なように思えた、煙草を吸いピアスをつけて大よそ神父とは思えないような恰好をしているが、その中身はまだまだ子供だ。言いだすと怒りそうだから妹紅は口を噤んだが、大よそどこ吹く風と知らんぷりを決め込む小萌も同じことを考えているだろう。

 

「まあね、やり直す事は出来んけどさ、友人としてならなんとかなるんじゃないかな?」

「出来ると思うかい?」

「さあねえ、出来なきゃそれまでだし、未練たらたらの男と付き合いたい女は居ないとおもうけどねぇ」

「ぐ……」

 

 反論できない、小萌がくすっと笑った気がしたが両者はそれを無視した。ステイルとしてはインデックスとの繋がりがあればいいのだ、未練などと言われているがそれでもいい、その為に力を付けたのだから。ただし付き合い方は必然的に変えなければならないだろう……物凄く癪だが、とばかりに顔を歪ませたステイルを見てくすくすと妹紅は笑った。

 

「なんなら私が付き合おうか? ほら、口移しした仲だし」

「へっ!? もうそんな関係なんですか!?」

「煙草の火だ、勘違いするような言い方はしないで貰いたいね」

「省略しただけだよ」

「ふん、どちらにせよお断りだね、こっちだって命は惜しい」

「なんだそりゃ、失礼だねえ」

 

 口調とは裏腹にその顔はにまにまと節操無い、恐らく冗談なのだろう――励ましているのか、それともからかっただけなのかは分からないが。だが大分心が楽になったのをステイルは自覚した。

 

 最初とは異なり微妙に晴れやかになった顔で空を仰ぐステイル、憮然とした顔で黙々と煙草を再開した妹紅、そして小萌は――普段の彼女からは考えられない真剣な眼差しで、静かに、しかしその内面に切り込むかのように妹紅を観察していた。

 




後書きに書く事が無い 全然無い

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