東方妹打刀   作:界七

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 お待たせしました。第九話投稿します。


第九話 三人の打ち上げ

「「「かんぱぁい」」」

 時は朝、紅魔館の門番、紅・美鈴(ほん・めいりん)の自室にて、部屋の主を含め、紅魔館のメイド長、十六夜・咲夜(いざよい・さくや)、図書館の司書、小悪魔(こあくま)の三人が机を囲んで互いにグラスを軽く触れ合わせていた。

 彼女たちがしているのは古刀・刃(ことう・やいば)の事実上の歓迎会の打ち上げ。

 しかし、机の上にあるのが度数の低いワインや普通の水、後は軽い料理とお菓子しかないことから、この打ち上げが本格的なものでないことが伺える。

 それでも彼女たちは楽しそうに口を開いていく。

 仕事口調ではなく素の口調で。

「いやぁ、こうして三人で集まって飲むなんて久しぶりだね」

 最初に言葉を発したのは美鈴。大きくため息をつき、ワインを飲む。

「そうね。私たちは時間の都合上、一緒に飲むわけにはいかないから」

 これに咲夜は頷き、同じくワインを飲む。

「特に咲夜ちゃんなんて、私と美鈴以上に飲めないですもんね」

 続いて小悪魔が同情するように言い、やはりワインを飲む。

 三人が言っている時間とは仕事のことであり、それぞれの勤務時間とその内容は大雑把に言うと次の通りとなっている。

 美鈴。朝から夕方にかけて門番として勤務。主要メンバーの殆どが就寝中の昼間の紅魔館の防衛を担っている。また庭の手入れや、紅魔館が損壊した時はその修復も担当。いざと言う時はメイドも兼任。

 なお、夜中は主要メンバーが起きているため、妖精メイドが当番制で就いている。

 咲夜。夕方から朝に掛けてメイド長として勤務。紅魔館の家事、雑事を一手にやっており、妖精メイドの指揮も執っている。他にも紅魔館の防衛と修復。これに加えてレミリアの専属メイドも兼務。

 正直ちゃんと休められているか不安がられているが、今のところ咲夜が疲れで倒れたことはない。

 それでもレミリアを初めとした主要メンバーが心配して休暇を出したりするが、その時は紅魔館の家事、特に掃除は妖精メイドが主力となるため酷いことになる場合がある。

 小悪魔。夕方から朝に掛けて司書として勤務。図書館の本の管理を任されている。同時にパチュリーの助手(使い魔)でもあり、このため昼間に研究などで必要な材料を取りに行くこともある。

 そして美鈴と同じく必要な時はメイドの手伝いもやっている。

 以上が三人の大体の勤務時間とその内容で、美鈴と咲夜の言う通り集まってお酒を飲むことは難しい。

 何せ仕事内容が違うため時間は合わせづらいし、一人は昼間が仕事で、二人は夜間が仕事なのだから、どうしてもどちらかは仕事前に飲むことになってしまう。

 今回はレミリアとパチュリーが丁度いいと言うことで、三人同時に半日休暇を与えたから実現したのだ。

 ただし、小悪魔が言った咲夜の飲酒量が少ないと言うのは仕事とは関係ない。

「それは貴方たちが飲み過ぎなだけよ」

 ただ単に美鈴と小悪魔が人外のため、普通に人間以上に飲むと言うだけの話である。

「えぇ。いくら人間と言ってももうちょっと飲むと思いますよぉ?」

「私も流石に少ないと思うな」

 咲夜の異議に小悪魔に続いて美鈴も異を唱える。

「だとしても今回はそんなに出せないわよ」

 そんな二人に咲夜はとても残念なお知らせをした。

 

 

「しかし、刃ちゃんが出ていかなくて本当に良かったですよぉ」

 ワインを味わいながら少しずつ飲み、何処か残念そうに言う小悪魔。

「それは喜んでいるの? それとも悲しんでいるの?」

「言っていることに嘘偽りはないです」

 呆れた表情で問う咲夜に小悪魔は悲しい表情で告げる。

「いい加減お酒については諦めなさい」

「だってだって、こう言う飲み会の場合、誰かがベロンベロンに酔って、本人でも無自覚な酒癖を披露するもんでしょう!」

 ため息を付く咲夜に小悪魔は大して酔ってもいないのに力説。しかもしょうもない。

「私たちの間で今更新しい酒癖も何もないでしょう。と言うかそれは披露するものじゃないでしょ」

 この三人の中では一番付き合いが短い咲夜でも数年になる。

 当然その間に宴会を初めとした飲み会は何度もあり、咲夜も恥ずかしながら泥酔したことは何度かあった。

 だから新しい発見があるとは思えない。

 そんな咲夜の言葉に小悪魔は。

「いやいや、人は日々変わるもの。もしかしたら新しい酒癖が生まれているかもしれない。あるいは、見たことがある酒癖でも状況が違えば変わった結果を生むかもしれない。そう、例えば酔っ払った勢いでお嬢様を自分の部屋に拉致った咲夜ちゃんが、お嬢様の居ない状況で誰を襲うのか!」

 格好良い言葉を使って、無駄にどうでもいいことを探求、極めつけは咲夜の黒歴史を例えに使ってきた。

「……私はお嬢様一筋よ。でも、丁度いい獲物があるから襲ってみるのもいいかしら?」

 これに銀のナイフを数本手に持ち、底冷えするような笑顔を咲夜は浮かべた。

 言うまでもなく怒っている。

「あはっはっはっ。ちょっとした飲み会でのジョークじゃないですか。ねぇ、めいり……」

 引きつった笑顔で冷や汗を流し、両手で降参の構えをとる小悪魔が美鈴に助けを求めようとそちらを向いて言葉を止める。

「美鈴?」

 咲夜も不思議に思いそちらを向く。

「…………」

 美鈴は目に涙を浮かべながらも微笑み、どこかホッとした表情でワインの入ったグラスを見つめていた。

 それはまるで長い間悩み続けてきた難題がようやく解決したかのようだった。

「どっ、どうしたんですか!? 美鈴」

 さっきまでのやり取りを忘れて小悪魔が慌てて大声で呼び掛け、咲夜も心配そうに見守る。

「えっ? あっ。ごっ、ごめんなさい。ちょっと昔を思い出してて」

 ようやく呼ばれていることに気付き、美鈴は慌てて理由を言った。

「昔?」

 咲夜は首を傾げた。

「うん。ようやく妹様と一緒に居られる人が現れたんだなって改めて思っちゃって。そうしたら今までのことが思い浮かんでね」

 恥ずかしそうに言う美鈴。

 小悪魔と咲夜は納得がいき、空気を読むかのように片方は無言で手を合わせて謝り、片方はため息をついてナイフを収め、これを許した。

「刃ちゃん。本当に出て行かなくって良かったよ」

 美鈴は紅魔館が幻想郷に来る前から門番に就いており、それだけ長くフランとも接してきた。

 と言っても出来たことはなるべく出会うようにして挨拶をし、時には小話をする程度。それ以上のことは出来なかった。

 理由は言うまでもなく、フランのありとあらゆるものを壊す程度の能力。

 この能力の前では防御力と耐久力の高い美鈴でも空気同然。

 それでも覚悟を決め、フラン専属メイドへの転属を希望したこともあったが、許可されることはなかった。

 残念なことに美鈴の代わりとなる人材が居らず、何より体が破壊されるだけならまだしも、もしも死ぬようなことがあればフランの周りからの印象がさらに悪くなる。

 そんなことをレミリアが許せるはずがなく、美鈴自身も嫌だった。

 フランもそのことを理解しており、接触されない限り挨拶も小話もしなかった。

 そして死んでも復活できる妖精メイドに希望を託したが、フランを理解して死を恐れずに付き合える度胸の持ち主は終に現れず、いつしかフラン専属メイドへの転属は罰のように思われ、何人もの犠牲者が出たことにより廃部にされていた。

 だからフランの能力を受けて破壊されても死なず、何より彼女を理解した上で相棒と呼ぶ刃の存在は美鈴にとって、いや、紅魔館主要メンバーにとって夢にまで見た存在なのだ。

 咲夜と小悪魔はその気持ちに共感して美鈴の言葉に頷く。

「そうね。私の能力では回避は出来ても、防ぐことは出来なかったから」

 フラン専属メイドが廃部にされてからは咲夜がフランの世話もこなしていた。

 咲夜が持つ、時を操る程度の能力なら例えフランの持つ能力が発動しても、時を止めれば回避が出来るからだ。

 だが、本人の言う通り防ぐことは出来ない。

 しかも人間であるため、一度でも破壊されればそれは死に繋がりかねない。

 このため他と同じくフランとの接触時は気が緩められなかった。

 咲夜に続き小悪魔が口を開く。

「ご主人様と私でもどうしようもなかったですからね」

「確か貴方はパチュリー様と一緒に妹様専用の能力封じを研究していたわよね?」

 残念そうに言う小悪魔に、思い出すように咲夜は聞き、それに彼女は頷く。

「ええ。でも、今は半ば断念して、新しい資料や材料が入ったら研究してみる程度ですけど。ご主人様は魔法使いとしては上級ですし、私もそれなりですが、やはり神話でも最後に手に入るか入らないような道具や呪文は荷が重いです」

 さらに口にこそ出さないが、研究材料が当の本人であるフラン一人と言うのも難易度を上げていた。

 下手な失敗が許されないため、思い切った調査と実験が出来ないからだ。

 ここで魔法なら錬金術でも有名なホムンクルスなどのクローンが出来ないか? と思うかもしれないが、クローンに同じ能力が宿るかは分からないし、例え宿ったとしてもものがものだけに危険過ぎる。

 また、この手の技術は研究者の予想を超えることが多いため、その意味でも危険だ。

何よりパチュリーにとって友人の妹のクローンを作るのは心情的にも無理だった。

「まあ、刃ちゃんが来てくれたおかげでこれからは気楽にのんびり研究出来ます。……もっともその前に研修ですが」

 

 

 研修。それはもちろん刃の新人研修のことだ。

 期間は三ヶ月で開始は明日から。

 どう見ても性急な上に長期間なのには訳がある。

 まず、性急な理由はフランをなるべく待たせないため。

 刃が紅魔館に残ることになり、幾分か落ち着きはしたが、その精神は未熟。またいつ暴走するか分からない。

 それにも関わらず長期間なのは仕事内容が増えたためだ。

 今までは妖精が専属メイドに選ばれていたため、その内容はフランの身の回りの世話のみだった。

 しかし刃は付喪神で、その精神、知能、身体能力は妖精を上回っている。

 ならば他にもさせようと言うことになり、メイドとしての仕事に加え、護衛と補佐、そして後始末が付け加えられた。

 この後始末とはフランが能力やその他の力で、紅魔館に被害を出した時の修繕のことを指す。

 結果、刃は研修にて礼儀作法、家事、土木建築、戦闘、魔法を覚えることになった。

 担当はそれぞれ礼儀作法と家事が咲夜、土木建築と戦闘が美鈴、魔法が小悪魔となっている。

「それで肝心要のメイドとしての仕事は大丈夫そうですか?」

 小悪魔が聞いたのはもちろん咲夜。

「さあ、それは見てみないことには分からないわね。ただ、本人が言うには礼儀作法は必要最低限、家事は掃除だけがある程度だそうだから、殆ど新人妖精メイドを鍛えるのとは変わりないでしょうね」

 咲夜にとって何も知らない新人の教育はもはや慣れた事なので、その表情に悩みは感じられない。

「でも、言葉は悪いけど、妖精を鍛えるよりははるかにましでしょうから、おそらく私の担当期間の殆どは料理や裁縫になるんじゃないかしら」

 さらに相手が妖精でないため、むしろ余裕すら感じられる。

「それは頼もしいですね。あんまり言うことじゃないですが、どうしても妖精では子供の手伝いになってしまいますから」

 妖精の精神と知能はどう頑張っても大人びた子供が精々で、これは種族の特徴でもあるので仕方がない。

 もちろん例外的に高い精神と知能を持つ者が現れることもあるが、残念なことにそのような妖精が紅魔館に来たことはなかった。

 幸いなことは紅魔館に溢れる魔力と妖力の影響で一定以上の身長と力を保持しており、上司の言うことも基本ちゃんと聞くので使えないと言うことはない。

 だが、小悪魔の言う通り、妖精メイドの仕事は子供の手伝いレベル。

 じゃあ他の種族を雇えば、と思うかもしれないが紅魔館では給料と休暇は基本無く、衣食住の提供が報酬となっているため、妖精以外の種族はほぼ来たためしがない。

 例え来ても労働条件を聞いた途端帰ってしまう。

 このため紅魔館は質より量の信念でかなりの数の妖精を雇っている。

 しかし、それでも咲夜の負担は大きい。

「まだどうなるか分からないけど、出来るようなら私の直属の部下にして経験が貯まり次第副メイド長、昼間の紅魔館を任せて、私が引退したら後を任せたいわね」

 ため息混じりに自分の希望を言ってみる咲夜に美鈴が待ったを掛ける。

「でも咲夜ちゃん。それって妹様の専属メイドが刃ちゃん以外で見つからないと無理じゃない?」

 咲夜が数多の仕事を兼任できているのは類まれなる才能と、時を操る能力があるからだ。

 対して刃には才能はともかく、そのような便利な能力は無い。

 もしも刃が咲夜の後を継ぐとなれば、必然的に紅魔館の家事雑事に追われ、フランの専属メイドはおざなりとなるだろう。

 そうなった場合、フランがどうなるかは考えるまでもない。

 それは咲夜も当然承知している。

「それくらい分かっているわよ。あくまで出来たら。でも、もしかしたら大丈夫かもしれないじゃない」

 咲夜が引退するのはまだまだ先で、早くても数十年先だ。

 フランが精神的に成長し、妖精メイドでも問題なくなっているかもしれない。

「そうなっていたら良いね」

 咲夜の言葉の意味を察し、美鈴は微笑みながら答える。

「私は違う意味で無理だと思いますよ」

 逆に小悪魔は否定してきた。

「どう言う事?」

 思わず美鈴が聞き返す。

「私が見る限り妹様と刃ちゃんの絆はもうかなり強いです。そしてこれから先、より強くなるでしょう」

「つまり何が言いたいのよ?」

 もったいぶった言い方に咲夜が少し眉を釣り上げて言う。

「ぶっちゃけ、咲夜ちゃんが引退する頃に二人は……」

「でっ、美鈴。一番刃の適正が高そうな戦闘は貴方の担当だけど、彼女は強くなれそう? 模擬戦を見る限り私は大丈夫だと思ったけど」

 自分で答えを要求したにも関わらず、それが気に食わないのか、どうでもいいと判断したのか、咲夜は強引に話を変えるべく美鈴に話題を振った。

「えっ? ああ、それは大丈夫だと思うよ。中身はダメダメだったけど、戦い方は形になっていたし、こちらの動きにもちゃんと対応していたし、満足に戦えない自分に怒りを感じていたみたいだし、何より私の思いの籠った拳を受けて、しっかりと感じ取っていたから多分、短期間で強くなると思うよ」

 急に振られたにも関わらず次々と言葉が溢れ、最後はとても嬉しそうに語る美鈴に咲夜と小悪魔は少し引いた。

「そっ、それは良かったわ。それで研修では太極拳を教えるの?」

 太極拳とは美鈴が使う武術の流派の名前で、彼女はこれの達人である。

「役に立ちそうな部分だけかな。刃ちゃんにはもう既に自分の流派と呼べるものがあるから、私がすることはそれを使いこなせるように指導してあげることだと思う」

「違う流派の指導なんて出来るの?」

「一からなら無理だけど、刃ちゃんの場合実際に見て、感じて、機能だっけ? それで知っているから何とかなると思う」

 咲夜の懸念に美鈴は大丈夫と答えた。

「分かった。それならもう何も言わないわ。土木建築のほうもしっかり頼んだわよ」

「うん。任せて」

 美鈴が頷くのを見て、咲夜はチラッと小悪魔のほうを見てみる。

「…………」

 一度言葉を遮ったせいか実に聞いてほしそうにこちらを見ていた。

 咲夜はそれを無視。

「小悪魔。研修中は刃ちゃんにどんな魔法を教えるつもりなの?」

 代わりに美鈴が聞いた。

「そうですねぇ。その前に聞いておきたいんですが、美鈴は刃ちゃんに気力の使い方を教えるんですか? それと咲夜ちゃん。ちょっとこれからは真面目な話をするから大丈夫ですよ」

 少し残念そうに、それでいて真面目な雰囲気を出し始めた小悪魔に咲夜はため息を付く。

「はいはい。途中での不意打ちは無しよ」

「分かってます。それで美鈴、どうなんですか?」

 小悪魔の質問に美鈴は首を横に振る。

「教えないと言うか無理。やっぱり霊力で作られた偽物の体だけあって気力は発生してなかったよ。私としては妖力の使い方を教えてそっちを主力に戦ってもらおうと思う」

 美鈴の言う気力とは精神論や気合などではなく、【ドラゴンボール】で言うところの気である。

 刃も研修中に習うことになるが、この世界においては肉体を持つ者なら誰もが持つものである。

 このため霊力で体を構成している刃は気力を持っていない。

 同時に霊力、魔力、妖力はこの世界においては魂を持つ者なら誰もが持ち、持たないものでもどれか一つを持っている場合がある。

 そのため種族差、個人差はあれど、多くの者が霊術、魔術(魔法)、妖術を使うことが可能だ。

 対して神力は神しか持つことが出来ない。

 これは神だけが信仰である人々の信頼、思い、願い等を力に変えることが出来るためだ。

 そして美鈴が最後に言った妖力を主力とする。これは刃の持つ力の中で一番妖力が多いと言うこともあるが、一番の理由は霊力、魔力、妖力が同時運用に向いていないからである。

 理由は霊力、魔力、妖力、加えて気力、神力、能力は一つの精神力と体力を消費して運用されるからだ。

 つまり、刃のように複数の力が多い者が同時にそれらを運用した場合、すぐに精神力と体力が尽きてしまう。

 だから大抵の者は一つの力に的を絞り、他の力は補助程度に使うか、割り切って使わないことが多い。

 もちろん複数の力の同時運用は強力な効果をもたらすので、必殺技のように瞬間的に使う者も居れば、上手く分けて使う者も極少数ながらいる。

 さらに能力は他の力と違い消費が少なく、同時運用しても支障が出ないことが多い。

 だが、刃の能力は操作不能なので関係なく、力の同時運用もまだ早い。

「私も美鈴と同じですね。だから主に日常生活から戦闘まで役に立つサポート系の魔法を教えようと思っています。まあ、刃ちゃんには例の機能の御陰で攻撃魔法の知識もあるみたいですから、無理して教える必要がないってのもありますが」

 小悪魔もそれが分かっているから同意見で、研修内容もそれにそったものだった。

「一応聞いておくけど、その日常生活にいかがわしいものは入ってないでしょうね? 具体的にはエロ魔法の類が」

 そこに咲夜が怪しい者を見るように小悪魔に視線を送る。

「嫌ですねぇ。流石にそう言うのは独学でやってもらいますよ。まだ死にたくないですし。それに咲夜ちゃんの研修の時、私がそう言う魔法を教えたことがありましたか?」

「……ないわね」

 少々過去を思い出して咲夜は答えた。

 懐かしい記憶であり、それは美鈴と小悪魔も同じだった。

「咲夜ちゃんの研修かぁ。あの頃はまだ刃ちゃんと同じくらいだったのに今ではこんなに大きくなって」

「メイド長ですからね。本当に人間が変わるのは早いです」

 今から数年前、咲夜が紅魔館に入った時、刃と同じく専用の新人研修が組まれ、担当には同じく美鈴と小悪魔が居た。

「逆に二人は私が幾ら言っても仕事以外ではちゃん付けで呼ぶわよね」

 微笑みながら過去を語る二人に対して咲夜は少し頬を膨らませて抗議する。

「だって私たちにとって咲夜ちゃんは、いつまでたっても咲夜ちゃんだからね」

 親にとって子はいつまで経っても子、であるように言う美鈴に小悪魔は何度も頷き。

「それに咲夜ちゃん、刃ちゃんのことを年下扱いしてますよね。私たちと同じく」

 いきなり無関係そうな話題を振ってきた。

「それは見た目があれだし、本人も別にそれでいいと言っていたじゃない」

 刃の実年齢が千歳以上と分かった後、レミリアを初めとしたメンバーは態度を改めるべきかと悩んだ。

 しかし、刃自身が見た目相応な年齢扱いで良いと言ったので、自己紹介のときと変わらない態度で対応していた。

「そうですね。じゃあ咲夜ちゃん。これから先刃ちゃんがメイドとして成長し、身長も私たちと同じくらいになったとして、その時、咲夜ちゃんは刃ちゃんに対する態度を変えますか? あるいは刃ちゃんが変えてほしいと言ったら」

 小悪魔の質問に咲夜は少々予想して答える。

「……その時になってみないと分からないわね」

 結果は分からない。と言うものの、その表情からはそうではなく、小悪魔の思い通りに答えるのが嫌と言うのが見て取れた。

「ふふっ、まあ、確かにそれはその時になってみないと分かりませんもんね。じゃあ、今からそんなに時を待たずして結果も分かることを考えてみましょうか」

 咲夜の言動に微笑みつつ、小悪魔の口から出たのは新たな話題。

「「?」」

 流石にこれは何を言いたいのか分からず、咲夜と美鈴は疑問符を浮かべる。

 対して小悪魔の瞳にはある種の決意がめらめらと燃え上がっていた。

 




 まずは待っていてくれてありがとうございます。そして申し訳ありませんが、多分これからも時間は掛かると思います。
 なお、今回の美鈴たちの仕事時間や霊力などについては独自解釈と独自設定となっています。
 そして次回は幻想郷では何故女の子ばかり出てくるのか、この作品での理由が出てきます。

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