東方妹打刀   作:界七

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 第八話の手直しが終わったので投稿します。


第八話 刃の苦悩

 

 

 場所はフランの部屋の隣、フラン専属メイド用の部屋。

「はぁ、疲れたぁ」

 そう言って刃は自室となった部屋の椅子に座り込む。

 フランと再び一緒に居ることを約束した後も刃は大変だった。

 まず、フランが左腕に抱きついて離れず、それを見たレミリアに嫉妬の視線を向けられ、パチュリーに本体である打刀についてあれこれ聞かれた。

 フランには離れるように言ったが聞かず、そうなればレミリアの嫉妬が収まるわけもない。それでも時間が経てばため息を付いて諦めてくれたので良かったが。

 パチュリーの質問には出来るだけ答えたが、肝心要の製作者と打刀の材料について前者は覚えておらず、後者は自身の魂以外知らないので説明するのは無理だった。

 その次は咲夜に最後の使い手を殺したレミリアを恨んでいないかと聞かれたが、きっぱりと理由を付けて恨んでないと答えた。

 前にも述べた通り、刃の最後の使い手は外道だったので、レミリアに殺してもらえてむしろ喜んでいる。

 もちろん喜んでいるとまでは言っていない。

 咲夜の次は小悪魔が何か聞こうとしてきたが、パチュリーに止められた。

 そして最後に美鈴は模擬戦を申し込んできた。

「強かったな、美鈴さん」

 言って刃は手を握る。

 模擬戦は昼食を食べたあとで行われた。

 戦い方は自由、しかし、相手を必要以上傷つけてはいけないし、殺してもいけない。

 美鈴は徒手空拳、刃は試しにやったら出来た、霊力で作り出した斬れない刀。

 結果は刃の惨敗。

 防御に徹すればそれなりにやれたが、攻撃に移れば尽く避けられた上にカウンターを貰い、最後は大技をくらってのKO負け。

「まあ、当然と言えば当然何だけど」

 刃はこの前まで戦闘で使われる道具だった。

 人間の頃は戦闘どころか喧嘩もまともにしたことがない。

 だから打刀の機能の御陰で知識は豊富だが、自分で戦った経験は零。

 対して美鈴は拳法の達人で、門番でもあるので実戦経験は豊富。

 結果は戦う前から見えていた。

 ただし、それは刃のみ。

 一応周りには自分で戦った経験は無いと言っておいたが、やはり期待していたのか大なり小なり残念な表情をしていた。

 フランだけは美鈴に敵意を向けていたが。

「はぁ、あの後自分も戦うと言うフランを止めるの、大変だったなぁ」

 暴れそうなフランを思い出してため息をつく。

「まぁ、とにかく武術の鍛錬は必須だな」

 幸い知識だけは豊富にあるので鍛錬方法には困らない。

 さらには拳法なら美鈴、ナイフなら咲夜、魔法ならパチュリーとその道の師も居る。

 打刀の師が居ないのは残念だが、そもそも刃が一番相性の良いものなのでこれはなんとかなるだろう。

「メイドの仕事を覚えてからだけど」

 明日から始まるメイド長である咲夜から直々の指導に刃は頭を悩ませる。

「明日から俺もメイド……」

 これが付喪神になる前なら何の冗談だと言っただろう。

 何度も言うが刃は元男であり、心はまだそのままだ。

 そして女装癖もないし、コスプレイヤーでもない。

「明日からあれを着て仕事をするのか」

 向けた視線の先には壁に掛けられたメイド服。

 既に試着で紅魔館の主要メンバーの前で着て見せたそれ。

 刃が顔を赤くして羞恥心に耐えている中、全員がよく似合っている。可愛いと言ってくれた。

 普通ならそれに喜び、素直にお礼を言うのだろうが、刃はそうはなれない。

 ありがとうございます、の言葉こそ言えたが喜んでいいのか、悲しむべきなのか、内心複雑だった。

 いや、心がまだ男である以上、悲しい以外の何ものでもない。

「はぁ、そう言えば一番疲れたのは風呂だったな」

 そんな刃にとって今日最も辛かったのは何といっても風呂。

 あろうことか、レミリアは紅魔館の主要メンバーと一緒に風呂に入ることを提案してきたのだ。

 もちろん刃以外皆賛成。そして正当な理由が無いので刃も最後は賛成するしかない。

 自分は元男だから遠慮します。こう言えたらどんなに楽だろうと刃は思いながら紅魔館の主要メンバーと一緒に風呂に入った。

 詳しいことは記さないが、全員美しい体だったとここで言っておく。

 美鈴、小悪魔、パチュリーは実にグラマスで女性を象徴する部分に刃は無意識に目が言った。

 その時感じた感情は喜びと恐怖。前者は言うまでもないが、あまり考えたくなかったのですぐに思考停止した。後者はいつか自分もああなるのではと思ったからで、そうはなりたくないので気付けば自分のものを触りながらああはなるなよと念じていた。

 そんなことをしている刃を見た咲夜は何を勘違いしたのか。

「大丈夫よ。貴方も私もこれから大きくなるわ」

 と、微笑みながら刃の頭を撫でながら優しい言葉を掛けてきた。

(いや、大きくなったら困るんですけど)

 成長してグラマスになる自分。想像だけでもかなりの嫌悪感があった。

 しかし、だからと言って自分はスレンダーなままが良いとは言えない。

 言われた言葉でもそうだが、咲夜は大きくなることを望んでいる。

 そこに水を差して関係にヒビが入るのは不味いし、疑問に思われても困る。

「そっ、そうですね」

 このため刃はとりあえず同意しておいた。

 なお、咲夜、レミリア、フランはスレンダーではあるが、美鈴たちに負けず劣らず充分魅力的だった。

 そしてそこには刃も入っている。

 

 

「何でこっち側なんだよ……」

 回想を止めてそのことに刃は机に肘を付いて頭を抱えた。

 付喪神になってから色々あったため、しっかりと考える暇が無かったが、刃は元男で今は女になってしまっている。

 もはや何度言ったかは分からないが、心は男のままだ。

「これからどうすればいいんだよ?」

 決まっている。この先も体を男に出来なければ心を女にするしかない。

「……無理だ。嫌だ。そんなの……」

 体を震わせ、涙を流しながら刃は拒絶した。

 人間だったときも含めて約千年もの間男をしてきたのだ。今さら女の体になったからと言ってはい、そうですかと言う訳にはいかない。

 では、このまま体は女、心は男を続けるか?

「それも嫌だ」

 なら、体を男にする方法を探せばと思うが、ここで厄介な問題が三つあった。

 一つ目は刃の体が霊力で構成された仮初であること。

 普通なら意思一つで性別を変えれそうなのにそれが出来ない。

 そして問題はそんな体の性別を変える方法を研究する者がいるかどうか。

 仮に居たとしても極少数だろうし、その方法が幻想郷にあるかどうかは不明。

 二つ目は刃の能力である壊れない程度の能力。

 これは破損だけでなく外部からの悪い影響も受け付けない。

 だから性別を変える方法が見つかっても、この能力により無効化される可能性がある。

 最後の三つ目は刃が紅魔館の住人に女として認識されたことだ。

 このため、もしも一と二の問題を解決して男になれたとしても、善意の下に元に戻されるかもしれない。

 実は男だったんです、と答えるのも危険だ。

 何せ一緒に風呂にまで入ってしまったのだ。そんなことを言えば騙していたのかと怒りを買う可能性は高いし、嫌われたくもない。

 だったら最初に男だった、と告げれば良かったと思われるかもしれないが、そうしていたら紅魔館の住人が体は女、心は男と言う、何とも対応に困る存在と同居しなくてはならなくなる。

 いや、そもそも同居出来ていたかも怪しい。

 何より刃自身、そんな状態になるなら紅魔館を出て行くつもりだった。

 フランと離れて暮らすのは心苦しいが、それで住人の彼女への心象が悪くなるのは避けたい。

「……最初から男だったら」

 それを考えてみるが、良くてただの侵入者、悪くて変質者として罰せられている光景しか思い浮かばなかった。

 さらにこの世界の紅魔館には男が居ない。原作でも居るような描写は無かった。

 つまり男を受け入れる余地が無いか、最悪拒絶している可能性がある。

 もちろんお客として招き、一定期間泊めることぐらいはあるだろう。

 しかし、今の刃のように住み込みで雇うことはまずない。

 どう考えても風紀が乱れるし、騒動の元になることは間違いない。

 例えるなら女子寮に男が入るようなものだ。

「…………」

 女だからこそ今がある。その現実に刃はさらに涙を流した。

 そしてこんな状態だからさらに悪いことを考えてしまう。

(もしもこの世界が十八禁の世界だったらどうしよう)

 考えて言い様のない寒気が体を走り、それに刃は自身を抱きしめる。

(いけない。これ以上このことを考えてはいけない!)

 この世界が十八禁の世界なら、美少女である刃がどう言う扱いになるかは言うまでもない。

 さらに刃も人間だった頃はその手の作品が好きだった。

 だからすぐに思考を止める。

 ただでさえ、女の体になって苦悩しているのに、ここに来て男性恐怖症にまでなりたくはなかった。

(そうだ。もうさっさと寝よう。寝てスッキリして仕事に……)

「刃、大丈夫?」

「えっ?」

 突然聞こえた声に後ろを向けば、そこにはパジャマに着替えたフランが枕を抱えて不安そうにこちらを見ていた。

 

 

「ふっ、フラン。いつからそこに!?」

 いつの間にか居たフランに刃は慌ててそう聞く。

「えっ、えっと、最初から男だったら。かな」

(よりにもよって一番聞かれたくないとこからかよ)

 フランの返答に刃は頭を抱える。

「ちっ、違うんだよ。別に忍び込んだんじゃなくて、また一緒に寝ようと思って何度も扉をノックして、でも返事が返ってこないから心配になって、鍵が掛かってなかったから」

(鍵掛け忘れた上にノックにも、入ってくることにも気付かなかったのかよ)

 慌てて言われたフランの弁明に、刃はこれが自分の完全な失態であることを理解する。

「ごめんなさい。盗み聞きするつもりは無かったの」

「あっ、いや、フランは悪くない。気付かなかった俺のせいだ。だからちょっと静かにしていてもらえるか」

 遂に謝り出したフランを刃は悪くないと言い、そのまま扉の方に向かい外を確認、誰も居ないことに安堵し、扉を閉めて鍵を掛ける。

「えっ、刃?」

 その行動にフランが不安そうに刃の名を呼ぶ。

「別にフランをどうこうしようと言う訳じゃない。ただ、まあ、その……」

 安心させるように言いながら刃はその先が言えなかった。

(どうするって言うんだ?)

 何をするか決めていなかったから。

「……とりあえず座らないか」

「……うん」

 刃の申し出にフランは頷き、二人は机を挟んで椅子に座る。

「…………」

「…………」

 座ったはいいがお互い言葉が出ない。

(どうする。話すか? それとも適当なことを言って誤魔化すか?)

 フランに何て答えるか刃は考えるが、どちらも良いとは思えない。

 真実を話せば嫌われるかもしれないし、誤魔化せば関係にヒビが入るかもしれない。

(……どうしよう)

 刃は悩み、何も言えなかった。

「女の体になっている」

「えっ?」

 そこでフランが言ったのは刃が付喪神になり、自身が女になっていると気付いたときに言った言葉だった。

(何でフランがその言葉を……いや、あの部屋には最初から居たんだから聞いていて当然か)

「そして、さっきの最初から男だったら。ねぇ、刃。貴方もしかして……」

 内心驚く刃にフランは不安そうに答えを求めてくる。

 もう真実を話すしかない。

「そうだ。フランが思っている通りかは分からないが、俺は刀になる前、人間だった頃は男だったんだ」

 自分の罪を告げるように苦い表情で刃はフランに自分が元男であることを告げた。

「!」

 これにフランは目を開き、息を呑む。

「信じられないと言った顔だな。でも、予想はしたんだろ?」

「うっ、うん。でも、やっぱり信じられないよ。お風呂でも……その、私と同じだったし」

 フランの何が刃と一緒だったかはご想像にお任せします。

「…………。ああ、今は体が完全に女だからな。それと体のことはあまり言わないでくれ。精神的に辛いから」

「うん、分かった。ごめんね」

 またしても泣きそうな刃にフランは頷き、謝る。

「いや、謝るのは俺だな。すまない。本当なら最初に言っておくべきことだったのに黙っていて」

 刃は頭を下げる。

「……本当に男……だったんだよね?」

 フランは確認するように訪ねてきた。

「証拠はないが本当だ」

「それって男になれないってこと?」

このフランの質問に刃は頭を上げて答える。

「ああ、見ていたと思うが、俺が何度も刀に戻っては体を作り直していただろ。あれは体を女から男にしようとしていたんだ。変わらなかったが」

「あれってそう言うことだったんだ。何度も同じことをして気絶したから訳が分からなかったよ。でっ、男にはなれないんだよね?」

 ここでフランの表情が変わった。

 不安そうだったのが、安堵したと言った感じに。

(あれ、今の会話に安心する要素あったか?)

 意味が分からず刃は首を傾げる。

「だったらこのまま女の子になっちゃえば良いじゃない!」

(そう言うことかあぁぁぁぁっ!)

 いきなりのフランの提案に刃は内心絶叫。すぐさま反論する。

「いやいや、俺は出来れば男に戻りたいんだけど!」

「でも、戻れないんでしょ?」

「うぐっ。だが、魔法なら。例えなくても研究していけば……」

「明日からメイドの仕事をやるよね。それをしながら研究って、かなり掛かると思うよ。それに刃はどれくらい魔法を使えるの? そうゆう魔法があってもある程度技術がないとすぐには使えないよ」

「…………」

 フランの説明に刃は顔を青ざめる。

 性別を変える魔法。それも自身と言う特殊な身体の性別を変える。

 これを研究できるまでに魔法を習得し、成果が出るまでにどれほど掛かるか。

 少なくとも一年や二年ではないことは確かだし、メイドの仕事をしながらでは倍は掛かるだろう。

 そしてその間刃は女のままで、やったとしても成果が出るかどうかは分からない。

 確かにそれならフランの言うとおり心が女になったほうが良いだろう。

(だが、それでも俺は……)

 目を伏せ、歯を食いしばる。

 現実がそうだったとしてもやはり諦められるものではない。

 そこに椅子から立ち上がったフランが近づいて来て刃を抱きしめた。

「ふっ、フラン?」

 いきなりのフランの行動に刃は顔を赤くして戸惑う。

「ねぇ、刃。そんなに男に戻りたい?」

 逆にフランは真剣な眼差しで聞いてきた。

 それに今も顔は赤いが、真面目な表情に戻って再度刃は自分の気持ちを言う。

「……戻りたい」

「そっか。そうだよね。行き成り性別が変わってすぐに納得なんて出来ないよね。ごめん、女の子になれば良いなんて簡単に言って。でもね、これだけは分かって。私は刃が男に戻っても、女になっても、今のままでも手放さないから。貴方のことが大好きだから! だから、元が男だからって気にすることはないからね」

 フランは力いっぱい、それでいて相手を苦しめないように抱きしめる力を強めた。

「…………」

(元が男でも気にしないか)

 そのことに刃は笑みを浮かべる。

(おかしいな。何も解決していないと言うのに。不思議と大丈夫な気がする)

 もちろんそうさせているのはフランだ。

 刃は口を開く。

「フラン、ありがとう。御陰で気が楽になったよ。男に戻る努力を止めるつもりはないけど、女の子になることも少しは前向きに考えてみるよ」

「うん。分かった」

 その後話し合った結果、このことは二人だけの秘密にすることになった。

 最初は紅魔館の主要メンバー、特にレミリアに話すべきではと刃が言ったが、これをフランは却下した。

 フランが刃を元男と信じたのはそう言う場面に偶々遭遇したからであり、それ以外には証言でしか証拠がない。

 これでは元男だったと言っても実感が無いし、信じてもらえても、あるのは気まずい雰囲気の中での生活。

 だから黙っていようと言うことになった。刃が男に戻るその日まで。

 ただし、何らかの理由で話す必要があればその限りではない。

 なお、男に戻るまではフランも刃を女として扱うと決めたため、当分彼女は困惑することになる。

 主に風呂やベッドなどで。

 




 刃が元男だと言わなかったのは自分も相手もデメリットばかりで、メリットがほぼなかったからです。

 さて、今回でついに書きだめしていたものは全て出し終えました。
 これによりここから先はタグの通り亀更新となります。
 今後の予定としてはこのまま東方紅魔郷編に突入するか、登場した割には出番が少なかった咲夜、美鈴、小悪魔と、出てこなかった妖精メイドの話を一、二話書いてから原作開始のどちらかを考えています。
 それでは次回もまたよろしくお願いします。

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