今回は普通ならカットする部分をあえて書いているため、もしかしたら見づらいかもしれません。
「フランの部屋に賊が現れたですって!?」
その報告を広間で聞いたレミリアは普通に驚いた。
妹と同じく幼い容姿だがこれでも紅魔館の主であり、昔は幻想郷で暴れ、今はパワーバランスの一角にまでなった吸血鬼。
大抵のことでは動じず、それこそふぅんと言いながら紅茶を飲んでいただろう。
だが、これは大抵のことではない。
何せ大切な自分の妹の部屋に侵入者が現れたと、最も信頼する従者である咲夜が言ってきたのだ。驚かないはずがない。
「はい。部屋の中から妹様と知らない女の声が聞こえました。内容は分かりませんでしたが、互いに叫んでいたので恐らく戦っているのではないかと。私も入って助太刀しようかと思いましたが、爆発音が聞こえましたので多分、妹様は能力を使っておられます。ならば助太刀は無用と思い、急ぎ報告に参りました」
「そう、分かったわ。報告ご苦労。門番の美鈴には何か罰を与えないといけないわね。でも、今はそれよりもフランよ。パチェと小悪魔、後、美鈴も一応呼んできて、フランの部屋に行くわよ」
咲夜の説明にレミリアは頷き、美鈴に罰を与えることを決め、その内容は後回しにし、フランの部屋へ親友と配下を呼びつつ大急ぎで向かった。
(もしもフランに傷一つでも付けてみなさい。この世に生まれてきたことを後悔させてあげるわ)
まだ見ぬ侵入者に憎悪を燃やしながら。
そして部屋の前に立つと、扉越しに聞こえてきたのは予想の反対、実に楽しそうなフランの声だった。
狂った笑いではなく、ただ、普通に遊んでいるときに出す声。それが聞こえた。
(どっ、どう言うことなの?)
その後に何かが激突する音が聞こえたが、レミリアは気にせず咲夜のほうを向く。
侵入者が現れたと言ったのは咲夜だから当然だ。
「わっ、私にも何がなんやら……」
その咲夜も珍しく動揺していた。
これは一緒に来た他の者も同じだ。
そこにフランの誰かを心配する声が聞こえ、再び部屋の方を見る。
誰かとは言うまでもなく侵入者と思われる者。
それが何か話しているのは分かるが、声が小さくて分からない。
分かったのは何か言われたことに対してフランが喜んだことくらい。
後は侵入者が何か言って、それっきり静かになった。
「パチェ。何があったと思う?」
「さあ。でも、声からして侵入者は敵ではないんじゃない?」
親友に聞いてみるが、返ってきたのは到底信じられないこと。
「咲夜。確かに爆発音が聞こえたのよね?」
「はい。爆発音が聞こえ、侵入者の呻き声が聞こえたからまず間違いないかと」
フランの力でものを破壊した場合、それは爆発して壊れる。これは生物でも例外ではない。
咲夜が聞き間違えたとは思えないので、戦っていたのは事実だろう。
だからこそ、狂った笑いでは無く、普通に喜ぶ声が聞こえた理由が分からない。
(いいえ、それも気になるけど、もっと気になるのは)
何故、侵入者はまだ生きている?
フランの能力を受ければ全てのものはその強度に関係なく破壊される。
姉であるレミリアでさえ例外ではなく、フランと一緒に居る時は常に警戒していなくてはならないほど、この能力は凶悪だ。
咲夜の話を信じれば侵入者はこの能力を受けている。でも、生きてフランを喜ばせている。
わけが分からなかった。
「レミィ。そんなに気になるなら部屋に入ってフランに直接聞けば良いじゃない」
「あっ。そうね。そうするわ」
親友の言うとおりだ。
中の状況は分からないが、静かと言うことは事が終わったと言うことだ。
別に探偵のように推理しなくてもフランに聞けば真実は分かる。
レミリアは部屋の扉をノックしてフランを呼ぶ。
しかし、返事は帰ってこなかった。
これに嫌な予感がして慌てて部屋の扉を開ける。
同時に焦るフランの声が聞こえたがもう遅い。
扉は開け放たれ、入ってきたのは血まみれの部屋で、同じく血まみれになったフランが、血まみれで眠っている黒髪の少女を抱きかかえている姿だった。
「えっ」
この光景にレミリアは硬直した。
(なんて話せば良いんだろう?)
自分たちと部屋の惨状を見て、レミリアを初めとして硬直するメンバーにフランは内心困っていた。
こんなことは初めてなので良い案が思い浮かばない。
刃が起きていれば何か良い案を出してくれていたかもしれないが、残念なことにすぐに起きるような気配はない。
そしてその原因はフランなのでこれは自業自得だ。
「……あっ、ごほん。フラン。その子が侵入者ね。どんな戦いがあったか分からないけどよく捕まえたわ。偉いわよ。五体満足で生きているのは驚きだけど、大丈夫。後は私たちで片付けるわ。美鈴」
フランがどうするか考えていると、レミリアが硬直から立ち直り、咳払いをし、刃をただの侵入者と思って、これを回収するように美鈴に命令。
「はっ、はい。さっ、妹様。その子は私が持ちます」
と言って美鈴が近づいて刃に手を伸ばす。
「刃に触らないで!」
「えっ!」
思わずフランは大声を上げ、これに美鈴は驚き手を止める。
どうすれば良いか分からない。そんな時に大切な者を奪われそうになればしょうがないこともかもしれない。
「ふっ、フラン?」
レミリアも驚き、妹の名を戸惑いながら呼ぶ。
「大声出してごめんなさい。でも、この子は。刃は侵入者じゃないし敵でもないよ」
驚かせたことを謝罪しつつ、フランは刃が敵ではないと簡単に説明する。が、それで納得する者は居ない。
「なっ、何を言っているの? 私はそんな子見たことないわよ。それにその子が背中に掛けているのは、色は変わっているけど私が貴方にあげた刀じゃない。それをその子が持っていると言うことは盗人でしょ。フラン。その子が何を言ったかは分からないけど、貴方騙されているのよ」
特にレミリアはその筆頭のように刃を疑っていた。と言うか盗人と決め付けている。
「違う。刃はお姉様がくれた刀のツクモガミなんだよ。今日なったばかりで、そのせいで刀は色が変わっちゃったんだよ。刃をよく見て、刀と体が霊力で繋がっているから」
それにフランは首を振って説明した。
「……確かに繋がっているわね。でも、ツクモガミって?」
レミリアは繋がっていることを確認したが、フラン同様付喪神に付いて知らなかった。
「この国に居る八百万の神の一種よ。長い間使われた道具が力を得てなるものだけど、基本捨てられた物が長い年月を経てなるから、大体が妖怪と同じ性質を持っているわ。もっとも私も初めて見るけどね。でも、その子は資料に載っていたものとは何処か違うような気がするから、もしかしたら亜種かもしれないわね」
それを説明したのはパチュリー。流石は図書館の館長。
(ああ、それで)
パチュリーの説明にフランは何故刃が付喪神になったか理解した。
「ちょっと待って、パチェ。別に私はあの刀を捨ててないし、ここにある以上フランも捨てていない。なら、そのツクモガミにはなれないじゃない」
対して事情を知らないレミリアは疑問に思う。
「家の中にあるゴミ箱に物を入れればそれは捨てたと言うでしょ。フラン。貴方はその刀をどうしていたの?」
「……百年ほど部屋の隅に置きっぱなしにしてた」
パチュリーの問いにフランは気まずそうに答える。
何せかなり頼み込んで譲ってもらったのだ、それを飽きたからと言って放置した、気まずくなるは当たり前だ。
「なるほど、使わずに長い間放置。これは捨てていると言えなくはないわね。と言うことよ、レミィ。納得した?」
この言葉はフランの胸にぐさりと刺さるが、パチュリーはそんなこと気にせずレミリアのほうを見る。
「まあ、とりあえずね。それなら誰にも気付かれずにフランの部屋に現れたことにも説明がつくし。でも、何でフランはそんなにその子を大事そうにしてるの? あの刀が付喪神になったとは言え、そうなった以上意思があるはず。従順したにしては貴方たちもこの部屋も血まみれ。一体何があったの?」
酷い状態となった部屋と二人を見回しレミリアは顔をしかめる。
「刃は従順なんてしてないよ。むしろここから出ていこうとした。でも、私は出ていって欲しくなくて、刃の足や手を破壊したの」
レミリアの問いにフランは酷く辛そうに説明を始める。
まるで己の罪を話す罪人のように。そしてフランにとってそれは罪だった。
「よく分からないけど、刃は元人間で、死んだ後に誰かに魂を刀の材料にされたんだって。それからずっと、気が遠くなって消えそうなぐらい長い間、喋ることも動くことも寝ることも出来なかったみたい。だから付喪神になって動けるようになったから外に出て自由に生きたかったんだって。
でも、私は出ていって欲しくなかった。体の方は破壊出来るけど、本体の刀は相変わらず破壊できなかったから。私、ずっとずっと、壊れない友達が欲しかったんだ。刃に聞いてみたら壊れない程度の能力の御陰らしいの。だからどうしても一緒に居て欲しくて、気がついたら部屋を出ていこうとしていた刃の足を破壊していたの。でも、刃はすぐに足を作り直したんだ。
それを見てから私は必死になった。刃の足をまた壊して痛みが消せないのを確認して、私のものになるように言った。でも、拒絶されたから今度は手を壊した。どれも全部刃は作り直したけど、凄く苦しがっていたからかなり痛かったと思う。でも、うんとは言ってくれなかった。
私がどうして刃に一緒に居て欲しいか説明しても、嬉しいとは言ってもうんとは言ってくれなかった。当たり前だよ。私と同じように刃も自由が欲しかったんだ。私と一緒にいれば自由がない。でも、でも、私は分からないふりをして、また壊そうとして。
刃に殴られた。
痛かったし、苦しかった。でも分からなかった。何で刃が私を殴ったのか。だって刃は刀の付喪神なんだよ。だったら私が刃を壊したように斬ればいいのにそれをしなかった。外に出るのを邪魔するなら殴り続けると言われて、わけが分からないまま私は両腕を壊した。そしたら蹴るまでだと言われて蹴り倒された。そしてこんな奴嫌だろって言われて、辛そうな顔の刃を見てやっと理解できたんだ。
刃が私を傷つけないようにしていることを。何で、って最初は思ったよ。だって刃とは今日会ったばかりなんだ。自分で言うのもあれだけど、体をあちこち壊したし、大事にされる理由が無い。でも、違ったんだ。刃はただの刀だった時、喋ることも動くことも寝ることも出来なかったけど、それ以外は出来ていたんだ。だからこれは、私の勝手な想像なんだけど、刃にとって私は既に友達のような存在だったんだと思う。
だからこれは喧嘩なんだと何故か思って、想いを伝えて私も殴り返した。そしたら想いを伝えられて殴り返された。それからは想いを伝えての殴り合いになった。私のほうも痛かったけど、刃は血を吐いていたからきっと公平じゃなかっと思う。
そんなんだから刃のほうが先に限界が来て、自分の負けだって言った。それでも私のものになりたくないと言われて悲しくなったけど、でも、相棒にならなるって言ってくれた。私が死ぬか、結婚するまで一緒に居るって言ってくれた。もちろん私はOKした。だってそれは私が欲しかった友達と同じ関係だったから。
そして刃は疲れて寝ちゃった。当然だよね。体中を壊されて、血を何度も吐いたんだから。悪いのは全部私。友達になって欲しいのに一言もそう言わなかった私が全部悪いの」
要領を得ない長い説明にいつの間にかフランは涙を流していた。
レミリアを初めとしたメンバーはそれを黙って聞いていた。
そして説明が終わるとフランはレミリアに頭を下げた。
「だからお願いお姉様。部屋をこんなにしたのは私なんだ。だから刃を怒らないで、罰しないで。そして刃と一緒にいさせて。刃をここに住まわせてあげて! やっと、やっと見つけたんだ。壊れない友達を、相棒を!」
「フラン」
フランの懇願にレミリアは静かに妹の名を呼ぶ。
「貴方の気持ちは良く分かったわ。きっとここに居る者はみんなそうでしょう」
実際美鈴は号泣、咲夜も涙を浮かべている。小悪魔は何かワクワクしているが気にしない。パチュリーも笑みを浮かべていた。
「それじゃ!」
フランは笑顔になるが、レミリアは辛い表情で告げる。
「でも、それらが全て真実である証拠は無いし、貴方が騙されている、何らかの術をかけられている可能性もある。悪いけど、その子、刃だったかしら? 事の真偽が分かるまで力を封印して監禁させて貰うわ。もちろん分かるまで貴方が会うのも駄目よ。尋問についても私が直々にするから心配しなくていい。分かった?」
この決定にフランの顔は青ざめていく。
それはそうだ。姉が妹の言っていることを信じないと言った。しかも泣きながら言う妹の真剣な言葉を。
「な、何で? 私、ちゃんと説明……したよね? 上手く……出来たとは……思えない……けど。でも、お姉様もみんなも分かったんだよね!」
信じられないものを見るようにフランは問い、これにレミリアは首を振って答える。
「勘違いしないで。貴方を信じてはいるけど、刃は信じられないの。もしも紅魔館に悪意を持っていて、その上で貴方を騙して何かするつもりだったらどうするの?」
「そんなことない! 刃はそんなこと絶対しない!」
「一体どこに絶対にそうしないと言う証拠があるの? 私は貴方の姉であると同時に紅魔館の主。館の住人全員に対して責任がある。妹がそう言ったから、はい、そうですってわけにはいかないの。貴方だってそれくらい分かるでしょ? 分かったら刃をこちらに渡しなさい!」
レミリアの言っていることは正しい。が、いつの間にか感情的になりすぎていた。
「分からないよ! どうして、どうして信じてくれないの? この部屋を見てよ。刃はこんなに血を流したんだよ。それだけ痛みに耐えたんだよ。一体そこまでして私を騙す理由って何なの!?」
だから納得は無理でも理解は出来たであろうことをフランは理解できず、さらに感情的になった。
「それをこれから調べるって言ってるでしょ! 血にしたって、痛みにしたって巧妙に偽装しただけかもしれないじゃない。本当は壊されても痛くなくて、そう見せるために血を流していただけかもしれないじゃない!」
「違う! あれは本当に痛がっていた、飛んできた血は暖かくて美味しかった!」
もはや売り言葉に買い言葉。
「ああもう! 拉致が明かないわね。とにかく私はそいつが信じられない! いい加減にしないと無理矢理引き離すわよ!」
「!」
口論の末、レミリアが放った言葉にフランの中の何かが切れた。
(どうして、どうして。お姉様はそんなことを言うの?)
今まで敬愛してきた姉。姉のために今まで色んなことを我慢していた。それなのに。
フランの瞳から光が消え、静かにレミリアを見据える。
「ふっ、フラン?」
これにレミリアは一瞬怯む。
「私はお姉様を信じているのに、お姉様は私を信じてくれない」
感情の篭っていないようで、何か重いものが篭った声。
「ちっ、違う。私は貴方を信じている」
さっきまでの怒りはどこかへ行き、レミリアはフランにそう答える。
「なら、何で刃を信じてくれないの。信じているはずの私が信じてって言っているのに」
ここに来てレミリアは気付く。刃を信じないと言うことはフランを信じないと同義であることに。
「ちっ、違う。私はただ、貴方が心配で……」
慌てて弁解しようとするがもう遅い。
「もういいよ。私を信じてくれないお姉様なんてもういらない。刃だけ居ればいい」
何処か諦めの入った言葉でフランはゆっくりと右手を開き、レミリアに向ける。
そして能力を使い、レミリアの破壊の目を右手の中に移す。
この時、咲夜と美鈴が行動を起こそうとするが、パチュリーの無言の制止によって出遅れてしまう。
「キュッとして……!」
だが、その手が閉じられることはなかった。
目を少しだけ開け、同じく右手を伸ばしてフランの右手を握った刃によって。
「えっ、刃!」
それに驚くフランに刃は酷く疲れた口調で言う。
「駄目……だ。みだりに俺……以外に……、ましてや……実の姉に使っちゃあ」
「……うん。分かった。分かったから刃は安心して寝てて」
瞳に光を戻し、頷くフランを見て、刃は微笑み、再び瞳を閉じて寝息を立て始めた。
それを確認してフランは再びレミリアのほうを向く。
「お姉様。これでも刃が信じられない? 今止めなかったら私は確実にお姉様を壊していた。紅魔館に悪意があるならこれ以上のチャンスはないと思うけど? それと壊そうとしてごめんなさい」
「そっ、それは……でも」
フランの言い分と謝罪に反論できず、戸惑うレミリア。その肩にパチュリーが手を置く。
「ぱ、パチェ?」
親友の顔は険しく、少なからず怒気も篭っていた。
「貴方の負けよ、レミィ。フランの言うとおり紅魔館に悪意があるなら館主殺しはこの上ないチャンス。それが妹による姉殺しとなれば尚更ね。それにレミィ。貴方は命を救われた上に妹との衝突も防いで貰ったのよ。紅魔館の主が恩を返さなくていいの? 愚痴なら後で聞いてあげるから、やることやりなさい。それに貴方も……」
「わっ、分かった! 分かったからそれ以上言わないで!」
パチュリーが何か言おうとしたところで、レミリアは慌ててそれを止め、そしてフランに向き直る。
「ごめんなさい、フラン。酷いことを言って。でも、紅魔館の主として責任もあったし、姉として貴方が心配だったのは分かってちょうだい」
「良いよ。それで刃のこと信じてくれるの?」
それなりに期待のこもった瞳で聞いてくる妹に姉は。
「ええ、パチェの言うとおり命を救われたし、貴方とも仲直りできた。私も刃を信じてみるわ」
頷き、そう答えた。
「ありがとう!」
ようやくフランは笑顔になり、レミリアもそれに微笑み、そして周りは安堵した。
こうして短くはありましたが、フランによる紅魔館メンバー説得は終わりました。
フランのセリフが長々と読みづらかったらすみません。最初自分もここはカットして他の話を書いて埋めようかと思いましたが、フランの頑張りを見せたくてあえてカットしませんでした。
さて、次はどうしてレミリアが感情的になったかです。