東方妹打刀   作:界七

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 お待たせしました。第二十話ようやく出来ました。


第二十話 三剣神(前篇)

「ここは?」

 そこは夕焼けに染まり、何処までも赤く染まった荒野。そんな場所に刃はいつの間にか立っていた。

「それにこの臭いは」

 鉄がさびたような臭い、刃にとっては嗅ぎなれた血の臭いが常人ならむせるほどその場に漂っていた。

「どこかの戦場跡?」

 それにしては死体は一体も見当たらず、争った形跡もない。

 景色だけみればとても血の臭いが漂うような場所ではなかった。

「何だろうこの感じ」

 さらに突然知らない場所に居たにも関わらず、刃はひどく落ち着いていた。

 まるで自分の部屋に居るような安心感がここにはある。

「何処なんだ、ここは? 確か俺はお嬢様と……」

「お前のせいだ」

「!」

 いきなり後ろからの声に刃は振り向き絶句する。

「おっ、お前たちは……」

 そこには昨日フランに話した昔の使い手である兄弟が居た。

 どちらも両目から血を流して刃を睨みつけている。

(何故、彼らは死んだはずじゃあ!?)

 今までの安心感は何処かへ行き、刃は酷く焦る。

 二人は確かに死んだ。いや、殺した。打刀だった自分が額に突き刺さることによって。

(もしかしてゾンビか亡霊か? はたまたは誰かによって操られている人形?)

 瞬時に頭に浮かんだのは人間が死んでなる人外、ネクロマンサーなどの死者を操る術者。

 しかし、以外にも二人からは霊力、妖力、魔力、いずれの力も感じず、辺りを見回しても術者らしき存在は確認できない。

(となると遠距離型の幻惑系能力か?)

 それなら霊力などが感じられず、分かる範囲に術者が居ないのも一応納得できる。

(だけど……)

 自分の中の何かが違うと訴えている。

(一体何なんだよ!?)

 そんな内外の状況に刃は困惑し、それを見計らったかのように兄弟が動き出す。

「お前が、お前が居たせいで俺は弟を殺してしまった」

 憎しみの篭った視線で兄が刃を指差す。

「お前が居たから兄は狂って死んだんだ」

 弟も刃を指差してそう宣言する。

「…………」

 兄弟の言葉に混乱していた刃の思考は冷水を掛けられたように冷めた。

(確かにそうだ)

 不可解な状況を忘れ、刃は二人の兄弟に付いて思い出す。

 仲の良かった兄弟。それが引き裂かれ、死に至った原因は刃にある。

 そのことに刃は罪悪感から目を閉じてうつむいてしまう。

 しかし、決心して顔を上げて目を開き。

「!?」

 驚愕する。

「お前のせいだ」

「お前のせいだ」

「お前のせいだ」

「お前のせいだ」

「お前の……」

 いつの間に現れたのだろう。外見は子供から老人、種族は妖精から鬼まで、目の前に数十……いや、数百の人間と人外が群れをなして、目から血を流して刃を指差していた。

 その様子はまさに地獄。

 一人一人が死んだ時のことを話し、原因は刃だと言って責め立てる。

 過去に自身が原因で死んだ者たちからの怨嗟の声。

 普通なら耳を塞いで、目を閉じて逃げ出したくなる状況。

「…………」

 だが、刃はそのようなことをせず、じっと静かに彼らを見て、声を聞いていた。

(違う)

 刃はそう思った。

 目の前に居る者たちの姿は間違いなくかつての刃の持ち主であり使い手だ。

 そして彼らの言う死んだ時のことも記憶とあっている。

 しかし。

(全員がただ指をさして恨み言を言うだけなんてありえない)

 そう、彼らはいつまで経っても刃を指差して恨み言を言うだけ。

 刃の知っている使い手たちなら少なくとも半数以上は実力行使に出ている。

 さらに兄弟と同じように誰からも力を感じない。

(そしてこの妙に落ち着く空間。そうか、ここは……)

 刃は答えが分かり、それを告げるようにここと彼らをちゃんと認識できるようになった。

「お前の……」

「黙れ」

「「「…………」」」

 相変わらずお前のせいだと言おうとした彼らに一言そう言うだけで全員が黙り、それを確認して刃は語りだす。

「紅魔館の宝物庫とフランの部屋に置かれている間ずっと考えていた。お前たちに起こった悲劇や不幸は俺のせいなのかと」

 それは彼らの気になることの一つであろう、原因である刃がどう思っているか。

 だが、彼らの表情に変化は無く、何も言わずに刃を見ている。

 その刃も気にせず続ける。

「結論を言うと俺が原因であることに違いはない。だからごめんなさい」

 刃は彼らに頭を下げた。が、その表情は決して罪悪感一色ではなく、すぐに頭を上げた。

「だが、それだけじゃない! 確かに俺が居たせいで不幸や悲劇は起きた。しかし、俺は何もしていない。知識を与えることこそしたが、不幸や悲劇が起こるようなことは何一つしてないし、起こそうとしても出来なかった。起こしたのはお前たちや周りの者たちだ。だから……」

 刃は息を吸い込み。

「何でもかんでも俺のせいにするなあぁぁぁぁぁぁっ!」

 ありたっけの怒りを込めた刃の怒声が辺りに響き渡る。が。

「「「…………」」」

 彼らは相変わらず黙って見ていた。

「ははっ、分かってるよ」

 何の変化も見せない彼らを見て刃は乾いた笑みを浮かべる。

「貴方たち……いや、『自分』に文句を言ってもしょうがないことくらい」

 言って刃は改めて荒野と彼らを見て、ため息を付く。

「はぁ、まさか自分の精神世界に来て、直に自分の記憶と罪悪感を見ることになるなんてなぁ」

 それがここと彼らの正体、さらに行動理由だった。

 そして分かった以上彼らを制御することは難しくない。

(原因はやっぱり肉体の構成を初めて霊力から妖力に切り替えたせいだろうな)

 このため力、おそらく妖力あたりが暴走してこのような状況を生み出したのだろうと刃は考える。

「今の状況、分かりやすく言えば意識のはっきりしてる夢か。外は大丈夫かな?」

(まさか意識を失って肉体が暴走とかしてないよな?)

 新しい力が目覚めて、その持ち主が暴走すると言うのは漫画などではよくある展開で、刃が生きている世界はそう言うところだ。

「早く目覚めないと。でも、その前に……」

 刃はかつての使い手たちの記憶に向かって手を合わせ、目を閉じた。

 

 

「以上が肉体の構成を霊力から妖力に切り替える間私に起こったことです」

 レミリアとの決闘の翌日。それが行われた図書館にて刃はその時起こった出来事、自身から妖力が溢れ、それがまるで怨霊の集合体のようになり、辺りに嘆きと血の匂いをまき散らしていたことを聞き、この間自分がどうなっていたかを、紅魔館の主要メンバーであるレミリア、フラン、パチュリー、咲夜、小悪魔、美鈴の六人に説明していた。

 と言ってもさすがに詳細に説明すると長くなるし、何よりしづらいので精神世界、夢のような世界で自分の記憶を元に再現された使い手達と会い、幾つか言いたいことを言ったと簡単にしていた。

「なるほどね。それですっきりした顔をしていたのね」

 腕を組んでパチュリーの隣に立っているレミリアがそう言い。

「確かに今までにやったことのない力の使い方をした場合、一種のトランス状態になることがあるからあり得ない話ではないわね」

 自分専用の椅子に座っているパチュリーが左手を顎に当てて分析するが。

「まあ、良いわ。それで刃。貴女がフランに語って聞かせた過去話、昨日見せた光景、そして紅き刃と言う技。これらを見て、私はこの本のことを思い出したのだけれど。ここに書いてある刀は貴女で間違いない?」

 パチュリーは自身の前にある作業机の前に一冊の本を置く。辞書のように分厚いその本の題名は。

『三剣神伝説』

「!?」

 刃は目を見開き、慌てて本を手に取って開く。

「あの本は。じゃあ、もしかして刃は……」

 本を見て何かに気付いたのか、フランが心配そうに刃の名を呼び、他の者も同じように見ていたが、本人はそれに気づかず一心不乱に本を流し読みしていく。

 それを簡単にまとめると。

 

 

 三剣神(さんけんしん)。古くは平安京が出来た頃に現れたと言う神が姿を変えた、あるいは神格化された無名の日本刀。

 平安時代から江戸時代まで(琉球王国含む)日本各地を巡って、様々な伝説や逸話を残しておりその数は軽く百を超えるため、各都道府県で探せば軽く三、四話は簡単に見つかるほど。

 しかし、江戸時代を最後にその消息は絶たれ、現在は三剣神を模したと言う日本刀を御神体とする神社が各地に存在するだけとなっている。

 そして三剣神がこれほどの伝説や逸話を残せるに至ったのは二つの要素があったため。

 一つ目の要素は持っている力。成長する霊力、壊れない力、知識を与え、さらに蓄える力の三つ。

 このため三剣神は数多の戦いで壊れることなく、さらにはその力を増し、持ち主も与えられる知識が増えていくにつれ、より短期間でより強くなっていった。

 また、知識を与えられた者は必ずと言って良いほど強くなっていたため、有名になった当初は『力を与える刀』と簡単に呼ばれている。

 二つ目の要素は運命。三剣神には同じくらいに有名な名前として『皆切丸(みなきりまる)』がある。

 これは読んで字のごとく誰でも斬ることからきており、人間、妖怪、神の種族、敵、中立、味方の勢力、悪人、凡人、善人の性格、老若男女などに囚われず斬り殺し、悪い時は持ち主とその親類縁者すらも斬り殺している。

 その様はまさに狂った運命と言ってよく、名前が斬るではなく切るなのは、持ち主の意思とは別の何かに対象が切られているのではないかと言われているためだ。

 同時に三剣神は歴史上の有名人との縁が薄く、歴史に名を残す権力者とは全くと言って良いほどに無い。

 さらに三剣神に斬られなくても、大体の持ち主は何かしらの理由で早死にする。

 だから死蔵されることなく、殆ど短い期間で次の持ち主へと渡っていき、それが巡り巡って日本各地を回ることとなった。

 当然、その存在は日本中に知れ渡り、神と呼ばれるようになるのは自然の流れ。

 三剣神の三剣とは、堅牢、賢人、刀剣の三つの『けん』からきており、剣が使われたのは刀だから。

 そして今も多くの者に信仰されているのは三剣神に助けられた話が多く存在し、中には神社自体が奇跡的に助かる話があるためだ。

 三剣神のご利益は堅牢であることから健康、知識を与えたことから学問、武術、技術、皆切丸のことから縁切りなどがあるが、意外なことに厄除け、厄払いがある。

 これは助けられた話でよく災難を様々な要因で回避できたものがあるからだ。

 そのため三剣神は慈悲深くもあるが厳しい神で、持ち主やその周りに不幸が訪れるのは、自身を使って殺しをした天罰ではと考えられている。

 もちろん、少ないながら生き残った持ち主もいるが、彼らは共通して自らの意思で三剣神を手放しており、それが唯一の回避方法と同じく考えられている。

 なお、持ち主にはバカの付くような善人も居れば、極悪人も居り、三剣神を使う理由も納得出来るものもあれば、出来ないものもあり、悪い意味で平等の神とも言われている。

 しかし、結局のところ彼らを襲ったのが天罰だったのか、それともただの不幸だったのかは分かっていない。

 解明しようにも先にも記した通り明治以降その消息は不明であるため困難。

 無名の日本刀で持ち主は人間に限らず神や妖怪と言った人外も居たため、三剣神や皆切丸と言った名前が独り歩きをし、結果一つの日本刀としてまとまった可能性もある。

 だが、多くの人々に信じられ、神社も多くあることからその存在が本物であると信じたい。

 最後に余談ではあるが日本刀が誕生したのは平安時代末期。もしも三剣神が発見されれば『最初の日本刀』と言われるだろう。

 

 

「…………」

 刃は無言でゆっくりと本を閉じ、作業机の上に置く。

 それだけ見れば普通だが、心は噴火寸前の火山のように煮え立ち、頭は南極の海のように冷え込む、と真逆の状態に陥っていた。

 当然そんな状態を隠しきれるはずがなく、汗が出て顔色が悪いのが自分でも分かるほどだ。

 見ればパチュリーを初め、全員が心配のまなざしをこちらに向けている。

 恐らく刃が休息したいと申し出れば聞いてくれるだろう。

 しかし。

(そんなこと言ってる場合じゃない)

 刃には皆に対してしなければならないことがある。

「パチュリー様。結論を言うとここに書かれている皆切丸は私です」

 だからまずはパチュリーの質問に答えた。

「皆切丸は? 三剣神は違うの? それと貴女大丈夫なの?」

 返って来たのは当然と言えば、当然の反応。

「三剣神は……違うと言うわけではないのですが……。とにかく私はとりあえず大丈夫です」

 出来れば三剣神について答えたかったが、それをしようとすると今度は火山と化している心が噴火しそうになる。

 しょうがなくそれはお茶を濁し、強引に自身の状態に答えていったん話を切った。

「それよりこの本は皆読んでいるのですか?」

 そしてすぐさま自分にとって必要な質問をする。

「貴女……。まあ、良いでしょ。この本が来たのは約三十年前。皆理由はそれぞれでしょうけど全員見ているわ。おかげで思い出すのに時間が掛かったけど」

 刃の返答にパチュリーは不満を見せるが、察してくれたのか特に問い詰めることなく答えてくれた。

 余裕がない刃にとってその対応は非常にありがたい。

「ありがとうございます」

 心からの感謝を述べ、顔色が悪いながら申し訳なさそうにレミリアの方を向いた。

「お嬢様。実は皆に言わなければならないことがあったんです。それも私がこの紅魔館の一員になる時に」

 これが南極の海のように頭が冷え込んでいる理由。

「それは貴女を雇うことによって生じる危険性についてかしら?」

 刃の言葉にレミリアは特に驚くことなく、さらには内容すら言い当てた。

 だが、これは三剣神伝説に出てくる刀が刃だと知っていれば容易に想像がつくことだ。

「はい。私には二つの危険性があります。一つ目は私、と言うか自身である、力を与える刀を狙う者たちが現れること。二つ目に私が原因で何かしらの不幸が起こることです」

 特に後者はすでにレミリアとフランの姉妹喧嘩と言う形で起こっている。しかも下手をすればレミリアが死んでいた可能性があった。

 故に自分の危険性を説明していなかったことが悔やまれる。

(何で説明しなかったんだろ?)

 言いながら刃はそう思った。

 自分の過去を思い出せば今している説明はフランの前に現れた時にするべきものだ。

 もちろん突然の付喪神化でそこまで頭が回らなかったと言うのはある。

 しかし刃はその後もこれをしなかった。今までずっと誰にもしようとすらしなかった。

 その理由が刃自身でも分からない。

「まあ、この本に出てくる刀が貴女だとすれば、確かに三ヵ月前の自己紹介の時にしてほしかったわね」

 そんな自分のしてしまった失態を重く捉えている刃に対し、レミリアの口調は非常に軽かった。

 特に気にしていない。そう言わんばかりに。

「お嬢様?」

 それが気になってレミリアを呼ぶ刃に本人はふっ、と笑う。

「ねぇ、刃。この本に出てくる貴女の使い手や持ち主の中には、貴女を手に入れることによって不幸になる者も居るようだけど、これは貴女が何かしたの?」

 それは質問と言うより遠まわしな確認。前に刃が説明した通り、ただの打刀だった頃は何も出来なかったのかと言う。

 刃はそれを肯定する。

「いいえ、違います。付喪神になる前の私は何もすることが出来ませんでした。しかし……」

 それでも自身が主な原因であることを伝えようとするが、遮られる。

「だったら貴女のせいではないわ。貴女を手に入れた者たちに運がなかっただけよ」

「それは、そうですが……」

 確かにレミリアの言う通りでもある。しかし、これで納得出来るようなら重く考えたりはしない。

「それに生き残った人たちも居るんでしょ? その証拠にただの刀だった貴女を手に入れてから百年以上経つけど、私たちの中から死者は一人も出ていないじゃない」

 そんな刃にレミリアは否定できない事実を述べた。

「……確かにそうです」

 少なくとも紅魔館で取り返しのつかないことは起こっていないし、かなり少ないながらも生き残った使い手も居る。

 この事実にようやく冷え込んだ頭に熱が戻り始めた。

「なら、自分のせいで周りが不幸になるなんて考える必要はない。そして貴女を狙う者が現れるかもしれないなんてここでは今更よ。私を初めとして、この紅魔館を狙う理由なんていくらでもある。それが一つ増えるぐらいどうってことないわ」

「お嬢様……」

 レミリアの器の大きさに刃は感嘆の声を上げる。

「だからこれは私と皆に謝罪して終わり。良いわね!」

「はい! 説明が遅れて申し訳ありませんでした」

 そしてこの後、同じように他のメンバーにもまとめて謝罪するが、皆気にしなくていい、今度からは気を付けてと特に怒ることはなかった。

 

 

「それじゃあ話を戻しましょうか」

 刃が皆に謝罪し終わった後、唐突に彼女に対してパチュリーがそう言った。

「さっきははぐらかされたけど、もう一度聞くわ。貴女が三剣神で間違いないわね?」

「!」

 この言葉に刃はドクンと心臓が強く反応したような気がした。

 そしてそう思うぐらい、そのことについては触れてほしくなかった。特に今は。

 しかし答えないわけにはいかない。何故なら刃は自身の危険性と同じく、それに対してどう思っているのかを伝えていない。だからパチュリーにとってこれは普通の質問でしかない。

(本当に最悪の連鎖だ)

 そう思いつつ、刃は何とか質問に答える。

「間違いないです」

 これだけでレミリアの言葉により頭ほどではないが、ある程度収まりかけていた心の火山が活動を再開する。

(まずい。早くこの話を終わらせよう)

 噴火こそしていないがそうなったらもう自制はできそうにない。

「ですが、三剣神は『あくま』で私の通り名の一つであって、私自身が神と言うわけではないですよ」

 努めて普通に、顔色が正常になっていることを願いながら、刃はパチュリーが何かを言う前に自分は神ではないと言う。

 パチュリーが改めて三剣神かどうか聞いてきたのは、自分が神かどうかを確かめるため。

 刃はそう考え、自分がそうだと信じる結論を出して話を終わらせようとした。

 だが。

「あながちそうではないかもしれないわよ」

「え?」

 話は終わらなかった。しかもパチュリーは何かしらの確信を持っているようだ。

 それに戸惑う刃にパチュリーは本を手に取りあるページを開く。

 そこには日本列島の地図が書かれ、三剣神を祀る神社の分布図となっていた。

 そして神社は小さな分社も含めて都道府県全部にあり、数は一社ずつではなく複数、大よそ日本のどこに居ても多少の無理をすれば参拝できるほどにある。

「生まれながらの神でなくても神格、文字通り神としての格を手に入れればその者は神力を持つようになる。

 その神格を手に入れる方法。その一つは多くの人々に神として認められ、信仰されること。またこれは神力自体を増やす方法でもある。

 本質が妖怪である付喪神が種族的にどう言う位置づけになるかは分からないけど、少なくとも貴女はこの条件を満たしている。その証拠に貴女にはわずかとは言え、他者が認識出来るほどの神力がある。つまり……」

 驚く刃にパチュリーは淡々と説明し、ビシッ、と指を刃に突き付け結論を出す。

「現時点で古刀・刃、いえ、三剣神は本物の神なのよ」

 自信満々の言葉は心の火山に直撃しヒビを入れた。

「いや、しかし付喪神だって一応神の名を持つ存在。少しくらい神力があってもおかしくないのでは?」

 だからすぐに反論しようとしたのは条件反射に近かったが、当然その内容は苦しいものだった。

「普通の付喪神に他者が認識できるほどの神力がないことは調査済みよ。それとも貴女はそんな付喪神に会ったことがあるの?」

 パチュリーのその言葉が心の火山のヒビを広げていく。

 そんな気が無いことは分かっている。でも、今は腹立たしい。

(大丈夫だ。まだ否定する要素はある)

 そう思って自身を宥め、刃は引き続き感情が表情に出ないよう努め、パチュリーに答える。

「いえ、ありませんでした。

 でも、この本を信じるなら私は上位の神と言うことになります。しかし私の神力は僅か。さらに使おうと思っても使えませんでしたよ」

 神の使い手が居たこともあり、刃は神力の使い方を知っている。

 そしてわずかとは言え神力は神力、何かに使えると思い鍛錬の合間に試してはいたが結局使うことは出来なかった。

「使えなかった? いや、……でも」

 さすがにこの返答は予想外だったようでパチュリーは少し考え込むが、すぐに心当たりがあったのか説明を始める。

「神力とは神への信仰である信頼、願い、思いが力となったもの。だからこそ神力は神にしか使えないし、神以外持てない。だから神力がある以上その者は神、あるいは神格を持っていることになる。

 これはある国の本に書かれていたんだけど、これを信じ、外部からの影響が無いと仮定した場合。刃」

 パチュリーは一呼吸置いてその答えを告げる。

「神力が使えないのは自分が神であることを否定しているせいではない?」

 この答えに刃の心の火山は粉々に砕け散った。

 


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