東方妹打刀   作:界七

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 長い間空けてしまい申し訳ありませんでした。
 そしてお待たせしました第十七話です。


第十七話 レミリアの心境

 時は少し戻り、紅魔館の上階にあるレミリア・スカーレットの部屋。

 この部屋は日光が入らないよう館の内部にあり、さらに不測の事態に備えてベッドには布団ではなく棺桶が置かれ、レミリアは普段その中で寝ている。

 しかし今回は看病のため、地下に部屋のあるフランのように布団の敷かれたベッドで寝ていた。

 そのレミリアも目を覚まし、部屋に集まったパチュリー、咲夜、小悪魔の三人は安堵する。

 そして昨日のことについて椅子に座ったパチュリーが話し出す。

「スペルカードには二つの問題があるわ」

 言って左手の手のひらの上に空中投影された半透明のスペルカードを掲げる。

「一つは非殺傷化による攻撃は普通のより痛いし、疲れる。これは本来なら対象を傷つける、あるいは破壊する力を擬似的な痛みと衝撃に変換しているのと、攻撃と非殺傷化に使われる霊力、妖力、魔力、気力、神力が精神と肉体に影響を与えているからなの。

 もっとも大技でもない限りあまり気にする必要はないレベルだけど。

 まあ、これに関しては実際体験しているからこれ以上、詳しく説明する必要は無いわよね。

 ねぇ、レミィ?」

 パチュリーの問いかけにレミリアは、まだ疲労が残る体でゆっくりと頷く。

 しかし、その顔は疲労よりも罪悪感に満ちていた。

 パチュリーはそれを見ながらため息をつき、もう一つの問題を言う。

「で、もう一つの問題はそんな非殺傷化された攻撃をスペルカードは自動で止めることが出来ない。一見別にそんな機能が無くても良いように思うかもしれないけど、よく考えてみて。傷こそ負わないけど痛い攻撃を、さらに熱い、冷たいなどが加わったものを受け続けたらどうなるかを」

「…………」

 パチュリーの新たな問いに昨日の自分を思い出し、レミリアはさらに気まずい顔になるが、目を逸らすことはしなかった。

「そうね。痛みだけなら疲労が溜まって過労死するか衰弱死。熱ければ熱中症、冷たければ低体温症を起こして最後はやはり死ぬ。貴女の場合は脱水症だけど、あのままフランの攻撃が続いていたらやっぱり死んでいたわ」

 死んでいた。

 その事実にレミリアは奥歯を噛みしめる。

 フランへの怒りではなく、罪悪感によって。

 そんなレミリアの様子を見ながらパチュリーは話を進めていく。

「なら、何でスペルカードに攻撃を自動で止める術式を組み込まなかったのか? その術式が出来なかったから?

 いいえ、やろうと思えば出来たわ。何せ持ち主が使えない術を使わせることが出来るのだから、その逆も当然可能よ。

 では何で組み込まなかったのか? それはそんなものを組み込んでしまったら殆どの者がスペルカードを使わなくなるからよ。

 だってそうでしょ。自分が出来ないことが出来るようになるのは良いことだけど、その逆は悪いことだもの。

 もしも攻撃を止める術式が組み込まれていて、これを体験したら持ち主はきっとこう思うでしょうね。

 スペルカードルール戦以外でも止まるんじゃないか?

 今の幻想郷は人里の人間を殺すことや人外同士の殺し合いなどが禁じられているけど、だからと言って殺される危険が無くなったわけじゃない。

 なら、生死を掛けた戦いで間違って攻撃を止める術式が作動してしまったら。刃と違ってスペルカードには壊れない程度の能力はないし、あっても不安は消えない。

 そうなるとスペルカードは敬遠され、最終的にあまり使われなくなる。

 もちろんこうならないかもしれないけど、ならないように越したことはない。だからスペルカードルールにはその名の通り、守るべきルールが制定されているの」

「ご主人様。お水です」

 話し過ぎたため、息が切れかけてきたパチュリーに小悪魔が水の入ったコップをお盆に載せて持ってきた。

「ありがとう。コア」

 パチュリーはお礼を言って一息ついた後、コップを取って水を飲み、お盆にまた載せ、椅子から立ち上がって話を再開する。

「でっ、この話はスペルカードが来た時にしたし、それからも何度かした。そ、れ、を、何で貴女は身内相手に破ってるのよおぉぉぉぉ!?」

 防音結界が張られた部屋にパチュリーの怒声が響き渡り、レミリアは思わず目を閉じてうつむいてしまった。

「パチュリー様。お嬢様は病み上がりなのですからお手柔らかに。それに貴女様もそんなに大声を出されてはお体に触りますよ」

 両者の間に咲夜が困った表情で仲裁に入るが、パチュリーは息を整えながら喋る。

「はぁはぁ、私なら大丈夫よ。……それに血をたらふく飲んでしっかり休眠したんだからレミィに残っているのは肉体の軽い疲労と、まあ、精神のほうはまだそれなりに疲弊しているでしょうが、問題ないでしょ。

 そうよね、レミィ?」

「ええ。大丈夫よ」

 隠そうともしないパチュリーの怒気にレミリアは申し訳なそうに頷く。

「分かりました。でも、無理が見えたら止めますからね」

 そして主がそう言ったのならば忠実な従者である咲夜は内心納得出来ずとも下がった。

「それで、レミィ。一体どうして刃にあんなことをしたの? そもそも当初の予定では刃がした質問に対して貴女があんなことをする必要はなかったのよ。それを捻じ曲げてどうしてあんな凶行を」

「…………」

 トゲを感じるパチュリーの言葉にレミリアはしばし無言になるが、ゆっくりと理由を告げた。

 

 

「私が刃を嫌っていたからよ」

 レミリアは語りだす。

「刃はフランにとって必要な存在。だから今まで刃は私にとっても必要な存在と思い込むようにしていた。でも!」

 決壊するダムの様にそれは溢れた。

「本当は気に食わなかった。あいつが現れた日から今日までストレスを感じなかった日は無かった!

 私がフランと喧嘩することになるわ。あいつに助けられるわ。あいつはフランと付き合える力を持ってるわ。フランを説得して腕組んで戻って来るわ。その後何かあってさらに親密になるわ。研修中にフランに問題起こさせるわ。勝手にフランにお仕置きするわ。掃除中にフランと抱き合うわ。フランと妖精の間を取り持つわ。フランと一緒にユリドリミドリを読むわ。スペルカードで落ち込むフランを慰めるわ。あいつがチャンスを与えるもんだからつい本気で攻撃しちゃうわ。おかげでフランに殺されかけるわ。

 おまけにメイドとしての仕事もちゃんとやるし、他の住人とも仲良くやってるし、何よりあいつから問題起こさないし。

 ああもう、とにかくあいつが憎い、妬ましい、気に食わない!」

 ベッドの上で立ち上がったレミリアの目はいつの間にか血走り、次から次へと出てくる刃への不満。それは納得できるものもあれば理不尽なもの、あげくのはては関係ないものからむしろ喜ぶべきものまである。

 しかし、それは段々別方向に向かっていく。

「つうか何で私はあんな奴雇ったのよ。何で私はあいつを解雇しないのよ。いや、そもそも何で私はあいつがそんなに嫌いなの? ああそうか。私が、レミリア・スカーレットだからか。だから私はあいつが嫌いなんだ。でも、あいつはフランに必要で……。そうだ。私が消え……」

「はい、そこまで」

 色々と言動がおかしくなったレミリアにパチュリーは指を鳴らし、魔法で吸血鬼が痛がるレベルの冷たい水流を、ザッパァンと浴びせた。

「いだぁぁぁい!」

 あまりのことに叫び声をあげるレミリア、しかし、次の瞬間には服も布団も乾いた物に変わっていた。

「パチュリー様、流石に今のはやり過ぎでわ?」

 時間を止めてそれをした咲夜は冷や汗をかきつつ、パチュリーを軽く睨む。

「胸の内を吐き出すどころか、トチ狂って自己否定しだした馬鹿を止めるためには必要な処置よ。妖怪にとって自己否定は最大級の致命傷なのは知っているでしょう? それとも咲夜には痛みを伴わない方法でもあったの?」

 妖怪は物理的なダメージよりも精神的なダメージが致命傷になりやすく、これは吸血鬼も例外ではない。

 だからレミリアが狂っていたとは言え、本気で自己否定をした場合死につながっていたかもしれないのだ。

 当然咲夜はそのことを知っているし、痛みを伴わない方法は思い浮かばなかった。

「……失礼しました。お嬢様をお助けいただきありがとうございます」

 だから内心思うところはあるが頭を下げてお礼を言う。

「咲夜、パチェを許してあげて、さっきのあれは当然の処置よ」

 そこに水流のダメージから立ち直ったレミリアが口を挟んだ。

 咲夜は慌ててレミリアに視線を移し。

「お嬢様、大丈夫なんですか!?」

「大丈夫よ。私はそんなにやわじゃないし、パチェもその辺が分かっているからやったのよ」

 心配する咲夜にレミリアは何でもないように手を振り、パチュリーに視線を向け。

「出なきゃあんなことレミィに対してやったりはしないわよ」

 胸を張ってパチュリーは当然と答えた。

「で、頭は冷えたんでしょうね?」

「おかげさまで」

「じゃあ、話を戻すわよ。貴女が刃の何かを嫌っているのではなく、存在そのものを嫌っているのはよく分かった。それが原因で鬱憤が溜まって暴走したこともね」

 言ってパチュリーは盛大にため息をつき、再び鋭い視線でレミリアを見る。

「レミィ、これからどうするの? 刃に謝罪するのは当然として、問題はその後。現状のままだと貴女はまた鬱憤が溜まって刃を襲うわよ。そしてフランに攻撃され、今度は死ぬかもしれないし、あるいは縁切りされるかもしれない」

 パチュリーの語る未来予測にレミリアは息を飲む。

「パチュリー様。いくら何でもそれはあり得ません。お嬢様は聡明なお方です。二度とこのようなことを起こすとは思えません。そうですよね、お嬢様?」

 流石にそれはないとレミリアを弁護する咲夜。しかし、その主は従者からの視線に目を背けた。

「どうしました? そちらに何かあるのですか」

「レミィ」

 レミリアの行動を何かあったと勘違いする咲夜に、パチュリーはため息をついて友人の名を呼ぶ。

「ごめんなさい、咲夜。パチェの言っていることは高確率で起きると思うわ」

「えっ! どうしてです」

 咲夜にとって意外なレミリアの言葉。そこに今まで黙っていた小悪魔が口を開いた。

「それは私が説明しましょう。と言っても予想ですが」

「小悪魔?」

 いきなりの申し出に疑問符を浮かべる咲夜に小悪魔は説明を開始する。

「人間にしろ、人外にしろ、一度嫌いになった人を好きになるのは難しいものです。特に初対面での印象と言うものは決定的。刃ちゃんを初めて見た時、私たちはようやく妹様と一緒に居られる人が現れたと、良い人が現れたと好印象でした」

 小悪魔の説明に咲夜はそうね、と頷く。

「しかし、お嬢様にとっては逆でした。正当防衛とは言え妹様を痛めつけ、にも関わらず好意を勝ち取った刃ちゃんは、一言で言うと悪い人。この上なく悪印象でした。そしてこの三ヵ月間、私たちは刃ちゃんへの信用が深まる一方、お嬢様は制御が出来ない程嫌悪が深まり、昨日の騒動となったわけです」

「……お嬢様」

 小悪魔の説明に咲夜は、レミリアにこれは本当なのですかと視線で訴える。

「小悪魔。貴女心を読む能力か技術を持っているんじゃない?」

 返ってきたのは肯定を表す小悪魔への疑問。

「こんなの三ヵ月間の貴女を見ていれば予想できることよ。咲夜、貴女も本当は予想できていたんでしょう?」

 そこにパチュリーはそんなもの必要ないとレミリアに言い、咲夜に問い掛ける。

「…………」

 これに咲夜は先ほどのレミリアと同じく視線を逸らした。

「無言は肯定ととるわ。それじゃあ、レミィ。もう一度聞くわ。これからどうするの?」

「…………」

 しかし、パチュリーの問いにレミリアはすぐには答えられず、場にしばしの沈黙が訪れた。

「……分からないわ」

 そしてようやく返ってきたのは困惑の言葉。

「レミィ、貴女は言ったわよね。刃は私にとっても必要な存在と思い込むようにしていたと。それって」

 うつむくレミリアにパチュリーは諭すように問い掛け。

「ええ、確かに私は刃に好意も持っている。フランの前に現れてくれたこと。フランと共に居てくれること。私とフランの衝突を止めてくれたこと。フランと妖精メイドの中を取り持ってくれたこと。これらを含めて私は本当に刃に感謝してる。私のプライドに掛けて誓うわ」

 レミリアはパチュリーの予想が正しいことを伝える。

「なら!」

 だが。

「でも駄目。それでも私はアイツのことが嫌いなのよ」

 そう言って悔しそうに顔をうつむかせるレミリアにパチュリーはなおも言いすがる。

「レミィ! 刃は昨日のフランとの衝突でも貴女を助けたのよ。意識が無かったからただの偶然、もしかしたら貴女の運命を操る程度の能力が発動した結果だったかもしれない。

 だけど、それでも刃が貴女を助ける大きな要因となったことに変わりないわ。

 レミィ、これでも貴女は刃が嫌いだと言うの!?」

「言いたくない!」

 パチュリーの叱責にレミリアは顔を上げる。

「嫌いだなんて言いたくない。私を二度も助けてくれて、私とフランの仲を取り持ってくれた、いいえ、きっと今回も取り持ってくれる刃を嫌いだなんて言いたくない。でも、でも、ダメなのよ。何度自分に言い聞かせても心が認めないの。まるでもう一人の私が居るように心が言うことを聞かないのよ!」

 瞳から涙を流しながらレミリアは語る。

「その私は刃のことを信じている。その私は刃のことを紅魔館の一員と認めている。だけどその私は刃のことが大嫌い。

 ええ、分かっている、矛盾しているって。

 だからこの三ヵ月間私は何度もその私に言い聞かせてきた。でも駄目だったの!」

 レミリアは三人を見る。出口の分からない迷路に迷い込み、途方にくれた子供の様に。

「ねぇ、パチェ、咲夜、小悪魔。私はどうしたらいいの? どうしたらもう一人の私を納得させられるの?」

 命を助けられ、さらに妹との関係を修復してもらう。これだけのことをしてもらってもなお刃を嫌いと思う、レミリアの頑迷な心を変えられる方法。

「「「…………」」」

 持っている筈もなく、レミリアの弱々しい問いに三人は何も答えられなかった。

沈黙が訪れた部屋。そこにドアを叩く音が聞こえ、四人の視線がそちらに向く。

「誰かしら?」

 涙を拭うレミリアの問いによく知った声がドアから聞こえてくる。

「紅・美鈴です。刃ちゃんが目を覚まし、妹様も落ち着かれましたのでご報告に参りました」

 

 

 それから数時間後、レミリアは事件のあった広間でフランと刃に対峙していた。

(本当に大丈夫かしら?)

 顔には出さずに不安な気持ちでレミリアは、フランと刃の後ろで様子を静かに見守る美鈴をチラッと見る。

 それに気付いた美鈴は大丈夫と言わんばかりに笑顔で答えた。

(はぁ、まさか美鈴から案が出るとは思わなかったわ)

 内心ため息をつきつつ、数時間前のことを思い出す。

 部屋に入ってきた美鈴から聞いた(本人から許可を貰っている)刃の過去話は想像以上で、思わずフランもかつての刃の使い手たちと同じようになるのではとレミリアは不安になった。が、フランがただの打刀だった刃を手に入れてから百年も経っていることを思い出して安堵する。

 それは現在レミリアの後ろで見守っているパチュリーたちも同じだった。

(って、違う、違う! 思い出すのはそこじゃない)

 慌てて思い出そうとしている記憶を引き出す。

 レミリアの心情を聞いた美鈴はやはりパチュリーたちのように悲しい顔をした。

 しかし、パチュリーたちと違って美鈴はレミリアに心変わりをするための方法を提示する。

 それはいかにも美鈴らしい方法でありながら、妖怪らしくもあるもので、何よりレミリアもこれが自分らしいと思えるものだった。

 ただ、この方法を実地するにあたり、美鈴はまずフランと刃の話を聞いてほしいと言ってきた。

 何でもその方が実地しやすいとのこと。

(でも、本当に大丈夫かしら?)

 レミリアは目の前の存在に意識を戻す。

「えと……、その……」

 そこにはレミリアを前にして何か言いたいが言い出せずに困っている、妹のフランの姿があった。

 お互いに挨拶をしてからまだそれ程経っていないが、このままでは何も言えずに終わりそうだ。

 そうなったら美鈴の方法は実地出来ない。

(それにしても)

 心の中に渦巻く不安を振り払うため、改めてフランを意識した。

 言いよどんでいるがフランから感じるのは罪悪感。その困った顔を見ればフランがレミリアに何を言いたいのかは誰でもわかる。

(私は貴女の大切な人に酷いことをしたと言うのに……)

 それが分かっただけでレミリアの中から熱いものがこみ上げてくる。

 だが、フランにそうしようと思わせた、その大切な人のことを考えると。

(どうして感謝の気持ちが出てこないの!)

 レミリアの中の熱が急激に下がり、どうしようもない冷たいものが広がってくる。

 まるで綺麗な絵に泥を掛けられる気分。

 レミリアはそんな自分に怒りを覚えたが、昨日と同じく表情には出さなかった。

 そんな自分との戦いをレミリアがしているとは露知らず、中々言い出せないフランは思わず刃の方を振り向く。

 これに刃は何も言わず、大丈夫と言わんばかりに頷いて見せると、今までのことが嘘のようにフランの顔から不安が消えた。

 同時にレミリアの中に嫉妬が生まれるが、フランの言葉によってすぐに消える。

「お姉様、昨日はごめんなさい!」

 再びレミリアに向き合うと同時にフランは大声でそう言って頭を下げた。

「本当に……ごめんなさい」

 そして再度、体を震わせ、床に光る物を落としながら謝った。

(フラン!)

 そんな妹の姿を見て、レミリアは刃のことなど忘れて駆け寄る。

「顔を上げて、フラン。貴女は間違ったことなんて……」

「間違ってた!」

 自分の従者が痛めつけられたのだ。ならば下手人に罰を与えるのは主として当然。だから間違いではない。

 レミリアはそう言おうとして顔を上げたフランに遮られた。

「私はお姉様に謝ってほしかったんだ。だから私は言葉でそうしてもらうべきだった。間違っても暴力でさせるべきことじゃない。

 ましてや私はお姉様を殺しかけた。間違った行動で姉を殺しかけるなんて間違い以外の何ものでもないよ!

 だから。だから謝ってるの、お姉様」

「……フラン」

 泣きながらもしっかりと自分の何が悪かったのかを言い、その上で謝ろうとするフランをレミリアは嬉しく思いつつも、こんなことをさせていることに罪悪感を覚えた。

(私が悪いのに……)

 そう思うが、確かにフランの言う通り間違ってはいたしやり過ぎた。

 刃のことと分けて考えるならレミリアも被害者。

(なら、私のすることは)

「分かった。貴女の謝罪、受け取るわ」

 レミリアは苦渋の表情でそう言った。

「ありがとう、お姉様。私、どんな罰でも受けるよ!」

 逆にフランは笑顔でそう言い、その内容にレミリアは焦る。

(ちょっと待って、なんでそうなるの!?)

 そしてすぐに自分が許すと言ってないことに気付く。

(何やってるのよ、私!)

 謝罪を受けるだけでも苦痛なのに、罰まで受けられては堪ったものではない。

 すぐに罰など受けなくていいと言おうとしたところに、本当の被害者である刃が割って入る。

「お嬢様。フラン様との会話中失礼します」

 この瞬間、レミリアの中に刃に対する嫌悪感と、妹との会話を中断された怒りが生まれるが。

「……気にしなくていいわ。話してちょうだい」

 それらをレミリアはグッと抑え込んだ。

「はい。そもそもこんなことになってしまったのは、パチュリー様が開発に携わったスペルカードに、私が疑問を持ってしまったことが原因です。

 だからフラン様に罰を与えるのなら私にも同じ罰をお与え下さい。

 そして浅慮な質問をしてしまい申し訳ありませんでした」

 そう言って頭を下げる刃を見て、レミリアは美鈴の提案を思い出す。

 確かに罰と言う形でなら美鈴が言った方法を行いやすい。が。それをすれば全ての原因は刃と言うことになってしまう。

 つまり、レミリアは自分の罪を刃に擦り付けると言うこと。

(そんな恥知らずなこと……いや、違う)

 紅魔館の門番であると同時に武人でもある美鈴はそう言ったことが嫌いだ。

 少なくともレミリアが知っている美鈴なら激怒する。

 再びチラッと美鈴を見ると真剣に事の推移を見守っていた。

(と、言うことはそう言うことなのね)

 美鈴の意図を理解してレミリアは内心ため息をつく。

 レミリアはプライドが高い。だから敵に情けを掛けられるなど言語道断。故にこれから行おうとすることに抵抗は全く感じなかった。

「刃。貴女のフランへの忠誠心には感服するわ。でも、貴女の謝罪は受け取らないわ」

「お姉様!?」

 レミリアの言葉に刃より先にフランが声を上げる。どうしてと。

「何故ですって? 簡単よ。刃に罪が無いからよ。何も悪いことをしていないのに謝られても困るだけよ」

 フランにそう言ってレミリアは刃に向き直る。

「刃」

「はい」

 レミリアの呼びかけに刃は若干困惑気味に答えた。

 これに少し気分を良くし、堂々と話を始める。

「昨日のことは完全に私の過失で貴女に非はない。だから刃、苦しい思いをさせてごめんなさい」

 レミリアは深々と頭を下げた。

「…………」

 そのレミリア行動に刃はしばし無言だったが。

「……お嬢様。お顔をお上げください」

「刃?」

 怒りが全く感じられない刃の声に疑問を感じつつ、レミリアは顔を上げる。

 そこには困っているが、嬉しそうな表情をした刃が居た。

「お嬢様。私はもう昨日ことについて怒りや不満はありません」

「私は貴女を、その体が維持できないほど痛めつけたのよ。何故?」

 刃の声に我慢している感じは無く、それ故にレミリアは疑問ではなく確認のために質問した。

(多分、刃はこう言うんでしょうね)

「私の怒りや不満はもう既にフラン様が晴らしてくれました。だからお嬢様が謝ってくれた以上、私が言うことは一つ。

 私はお嬢様を許します」

 刃の言葉は多少の差はあれ、レミリアの予想と同じだった。

 そして刃の言葉にフランはやっと全てが終わったと思ったのか、ほっと胸をなで下ろす。

 

 

 しかし、レミリアたちにとってはここからがある意味本番だった。

「許してくれてありがとう、刃。でも、それだけでは私の気が済まない。だから一つだけ貴女の願いを私が聞ける範囲で叶える。でも、その前に私のお願いを聞いてちょうだい」

 流石に予想外であろうレミリアの言葉に、フランと刃が驚く。

(まあ、そうでしょうね)

 どう考えてもレミリアはお願いを叶える方だ。間違ってもする方ではない。

「……お願いとはなんでしょうか?」

 顔を引き締めて刃が聞いてくる。

 これにレミリアは軽く呼吸して一気に言い放つ。

「明日。私とスペルカードルールで戦ってほしいの。決闘設定はスペルが三、決闘時間は三十分、戦闘方式は陸戦。ただし、両者ともにスペル攻撃は無し。その上で私と全力で戦って……」

「ふざけないで!」

 レミリアが改めて戦ってほしいと言うところでフランが怒声を上げた。

 その表情はさっきの安心した泣き顔から一転、怒気に溢れていた。

「お姉様、昨日あれだけ刃を痛めつけたのにそれでも足りないの? だから今度は自分が悪くないようにして痛めつけようってわけ!?」

「違う」

 怒りに声を上げるフランにレミリアは静かに、それでいて圧力のある声で否定した。

「……なら、どういうこと?」

 これによりフランの暴走しかけた感情が一時鎮まり、身構えつつも落ち着いて理由を聞いてきた。

(私が心変わりをするため……とはやっぱり言えないわね)

 そう、これこそが美鈴が提案したレミリアが心変わりをする方法。

 全力を持って戦うことで相手を知り、結果友好的になる。

 簡単に言ってしまえば熱血系漫画に見られる、喧嘩して友達になるあれである。

 そしてレミリアと刃が全力で戦う理由だが、本当の理由を言うわけにはいかない。

 刃のことをレミリアが内心嫌っているとフランが知れば、最悪姉妹の仲が破綻しかねないからだ。

 だから表向きの理由は色々考えられた結果。

「新人研修を終えた刃の実力が知りたいからよ」

 と言うことになった。

 戦うことで刃を知り、自身の彼女への印象を変えようと言うのだから、一応嘘にはならない。が、二つ問題があった。

 まず、明らかに今やるようなことではないこと。

 さらに全力で戦ったからと言って、レミリアの心変わりが起こるとも限らないこと。

(それでも)

 今のところ可能性のある解決手段はこれしかなく、解決するなら早い方が良かった。

 だからレミリアは二人を説得するため思考を巡らす。

(まずはフランからね)

 しかし返事は逆の方から意外な形で返って来る。

「分かりました。その勝負、今の私の全力を持ってお受けいたします」

 右手で本体である刀を掲げ、刃がそう宣言した。

「刃!?」

(え?)

 突然の相棒兼従者の了承にフランは刃のほうを振り向き、レミリアは言葉を失う。

 だが、すぐにレミリアは持ち直し。

「ありがとう、刃。勝負の時間と場所は後で追って連絡するわ。今日と明日は休みで良いから、今は鋭気を養いなさい」

「はい」

 フランが唖然としている中、こうしてレミリアと刃が戦うことは決定された。

 




 レミリアが刃に会心の一撃をいれた理由はこうでした。
 少々おかしく思われるかもしれませんが、レミリアも乙女なのでその心は複雑なんです。
 
 後、タイトルはよりらしいと思えたので変えてみました。

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