原作の流れに乗りながらも所々が変化していきます。
章タイトル元
『夕焼けの少年』 著:加納一朗
サブタイトル元
『すばらしき新世界』 歌手:flair
すばらしき新世界
わたしには、人の熱意を呼び起こす能力がある。
これが、わたしにとっては何物にも代えがたい”宝”だと思う。
他人の長所を伸ばすには、
ほめることと、励ますことが何よりの方法だ。
上役から叱られることほど、向上心を害するものはない。
わたしは決して人を非難しない。
人を働かせるには奨励が必要だと信じている。
だから、人をほめることは大好きだが、けなすことは大嫌いだ。
気に入ったことがあれば、
心から賛成し、惜しみなく賛辞を与える。
───チャールズ・シュワッブ
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西暦20XX年4月5日
日本
○○県××区 人工島区画
『IS学園(ISがくえん)』1年1組教室
(これはきついな……)
入学式が終わり、教室の割り振られた席に座った一龍は溜息を吐いた。
周りを見渡せば前後左右、女子、女子、女子。
横の方の席に一人男性が座っているのを除けば1年1組の全生徒38人中、36人が女子なのである。男子と女子の比率が1:18。本来女子校であり、自分たちがイレギュラーであるとは言ってもこの比率はきつい。だがまだ2人だけでもマシかもしれない、今回入学した男性操縦者は自分含めて7人、均等にクラス分けされたのだが、クラスの数は4つ、つまり4組だけは男児が1人なのだ。4組に分けられたまだ見ぬ男性操縦者に一龍は心で合掌した。
そして男子の人数の18倍の人数の視線が2人に注がれるのだ。もう一人の方は席に座ったまま堂々とした様子で目を瞑っており、動く様子が無い。
そしてなにより……
(香水、張り切りすぎだろ皆…)
高校デビューなのか女子生徒の殆どが香水を付けて来ており、そしてその付けている量が半端無い。しかも種類が1種類な訳がないのだから香りが混ざり合って凄い事になっていた。はっきり言って臭い。
(こんな時、咲重姉さんがいたらな…)
師匠である九龍の仲間で香りを操って相手の精神すらも操る『芳香師』の力を持つ、妖艶な女性を思いだした。彼女ならこの混ざり合った匂いを中和なり消すなり出来るのであろうと考えていると教室の扉が開き、緑髪の小柄な女性が入ってきた。
「皆さん、入学おめでとう御座います、私はこの1年1組の副担任になります
教師らしく無い、それが一龍にとって彼女に対する感想であった。低い身長に中学生位の幼い顔立ち、服装や掛けている眼鏡もサイズが合っていないのかだぼっとした感じだ。可愛らしいが教師かどうかと聞かれると首を傾げたくなってしまう。唯一大人っぽい所と言ったら、胸元のたわわに実っている果実である。俗に言う『童顔巨乳』というやつなのだろうか? 咲重姉さんと良い勝負だ。
そんな一龍の感想など知る筈も無く、真耶は話を続ける。
「このIS学園は全寮制で学校でも放課後でも皆さん一緒です。これから3年間互いに助け合って楽しく過ごしていきましょう。皆さん、宜しく御願いしますね♪」
可愛らしい笑顔と共に挨拶を終える。ここが男子校か男女共学であったなら男子達が騒ぎ出したであろう、だがここは女子校だ。それに女子生徒達の関心は自分達男子2人のみに集まっている為、拍手はおろか返事すらも無かった。
結果、真耶は涙目になっていた。
(本当に教師なのか? 可愛いけど)
一龍はますます心配になった。
「で、では皆さんに自己紹介をしていただきます!」
気を取り直して真耶が告げる。
「出席番号順に御願いしますね、それでは相川さん」
「相川 清香です、中学からハンドボールをやっており…」
自己紹介が始まる。嘗ての名前だとあ行だから直ぐであったろうが、今はは行のため考える時間はたっぷりとある。全く考えていなかった訳では無いがどう自己紹介したものか考える時間はあった方が良い。
「では次に荒垣君、御願いしますね」
1年1組でもう一人の男子である男が呼び掛けられ立ち上がる。一龍は改めて彼の様子を眺める。強面の青年で、他人を寄せ付けない様なオーラを放っている。多分自分達より2~3歳は年上であろう。
そして何より戦い慣れている。歩き方で見て取れた。
荒垣さん(君とは呼べない by 一龍)が教卓の前に立つ。やはりそのオーラに皆押されているっぽい、真耶は若干引き気味だ。男性恐怖症なのだろうか、怯え過ぎではないだろうか?
「
あっさりとした自己紹介を終える。真耶や女子達はポカンとしている様だ。
が、
「きゃ……」
「あ?」
「きゃ――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!!」
「うおっ!?」
「げっ!?」
【高出力の超音波発生、聴覚器官にダメージ】
女子達の黄色い歓声が響き渡る。教室の窓がビリビリいっている。一龍と真次郎は両手を耳に当てて顔を歪めてしまった。
「とってもワイルドぉ!!」
「俺はワルですって雰囲気が良い!!」
「抱いて、いっそ抱かせてぇ!!」
妙なコメントも混じっていたが皆の印象は良い方向のようだ。あんなタイプが女性の最近の好みなのであろうか?
「だあぁぁ! うるせぇ!!」
耐え切れなかったのか真次郎は大声を上げる。
「おれは五月蠅いのは嫌いだ! これ以上騒ぐんじゃねぇ!」
「声も格好良い!!」
「ぶっきらぼうなところも素敵ぃ!!」
真次郎の怒鳴り声に臆するよう様子も無く、女子達はキャーキャー騒いでいる。
「ったく、俺は戻るぞ、先生!」
「ひゃいっ!? あ、はい、では次…」
真次郎が席に戻り自己紹介が続く。
「では次に、篠ノ之さん」
「はい、」
真耶の呼びかけに凛とした返事をして黒髪ポニーテールの少女が教壇の前へ歩いて行く。
「篠ノ之 箒だ、小・中と剣道をやっていた。宜しく」
あっさりとした女の子らしくない挨拶に一龍は苦笑いであった。初めて会った時からの侍っぽい話し方は変わっていないようだ。まぁ、師匠の仲間にも当時の侍が現代に来たような時代錯誤な人がいた訳だが……
ふと箒と一龍の視線が合った。箒は目を見開き思わず声を出そうとしたが、一龍は自分の口に人差し指を当て、「静かに」と仕草で伝えた為、声を出さずに済んだ。
「え~と、篠ノ之さん?」
「へ? あっ、済みません、終わりです」
そう言って席に戻る箒、途中でも信じられない様な顔でこっちを見て来たのでニコリと微笑んでやると顔を真っ赤にした。
その後も特に問題無く進み、次が俺の番になろうとした時、教室の扉が開いた。黒いスーツをしっかりと着込なし、箒と同じ様に凛とした女性、一龍の姉である織斑 千冬の姿があった。
「織斑先生、会議は終わったんですね?」
「ああ、済まないな山田先生、クラス挨拶を任せてしまって」
「い、いえっ、私もクラス副担任ですから当然の仕事ですっ!」
「さて諸君、私が織斑 千冬だ。諸君等新人を今日から1年間で使い物に成るレベルまで鍛え上げるのが私の仕事だ。私の言う事はしっかり聞き、理解しろ。解らない者は解るまで、出来ない者は出来るまで指導してやる。返事は”はい”か”YES”しか認めん、いいな?」
(軍人学校と間違えたか?)
久々に会った姉の発言に一龍は心で突っ込んだ。IS学園はISに勉学を重点的に置いただけの女子校だと思っていたが、先が思いやられる。
そして、
「きゃああ―――――――――――――――っ! 本物の千冬様よぉ―――――――っ!」
「ずっとファンでした!!」
「お姉様に憧れて奄美大島からこの学園に来たんです!!」
「あの千冬様に御指導して頂けるなんて本望です!!」
「私、お姉様の為なら死ねます!!」
(どこぞのファンクラブ、親衛隊だ?)
再び起こる歓声に一龍は心でまた突っ込む。
世界的に有名な人は誰? と聞かれたら誰しもが『篠ノ之 束』か『織斑 千冬』と真っ先に答える時代ではあるが盲信しすぎではないだろうか? ファンだけで世界と渡り合えそうな勢いである…
後ろ姿で良くは判らないが真次郎も頭に手を当てて呆れている様子であった。
「…まったく、毎年よくもまあこれだけ馬鹿者共が入学してくるものだ。碌な者はいないのか?」
千冬様こと織斑先生は溜息を吐いている。
(俺も溜息を吐きたいよ…)
一龍は心から同意した。
「きゃああああぁぁ!! お姉様が怒られたわぁ!!」
「もっと叱って! 罵って! でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾けて~!」
ヤバい、このクラスは濃すぎる。今明らかに『HENTAI』がいた。これからこのIS学園での3年間の生活、持つだろうか? さっさと任務を済ませて逃げ出したくなってしまった。
「静かにしないか! 自己紹介はまだだったな、次は誰だ?」
「は、はいっ。次は葉佩君ですね、お願いします」
「はい、」
一龍は立ち上がり教壇前へ歩く。途中で千冬へ視線を向けると信じられない様な顔をしていた。
「【友】皆さん初めまして、葉佩 一龍と言います。親が仕事で海外を飛び回っているので全寮制の学校へ行こうと思っていた所、ISを起動してしまいこの学園に来ることになりました。世界初の男性操縦者と世間では言われていますがそこら辺にいるような男子なのであしからず。これから宜しくお願いします」
模範的な自己紹介ではなかろうか? 一龍は自分でそう判断した。
そして自己紹介を終えるとやはり…
「きゃああ――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!!」
本日3度目となる大歓声。
一龍と真次郎は既に耳に手を当てていた。
因みにこの教室以外、つまり2~4組の教室でもでかい歓声が時折上がっているのが聞こえた。多分、此処と同じく男性操縦者が自己紹介して反応しているのであろう。
「こっちも格好良い!!」
「荒垣さんとは違ったワイルドさ!」
「頬の傷が”危ない男”って感じ!!」
「いっそ危ない事を教えて~!」
「2人も男子がいるなんて今年はついてる!!」
「お母さん、私を産んでくれて有難ー!!」
やはり『HENTAI』が湧いたか、3年間退屈はしないだろうが、精神が持つだろうか?
「…質問があったら休み時間にでも受け答えするので、これで終わらせて貰います。良いですよね、先生?」
「ふぇ? は、はい、有難う御座いました葉佩君。では次は…」
「待ってくれ、山田先生。葉佩と言ったか?」
真耶が次の生徒を指名しようとしたところで千冬が止めた。
予想していたがやはり来たか、そう思いながら一龍は千冬の方を向く。
「何でしょうか、織斑先生?」
「お前は、一夏で無いのか?」
「一夏? 先生の知り合いか何かですか?」
「織斑 一夏、私の弟だ。お前は一夏では…「済みませんが、」!?」
千冬が言い切る前に一龍は言葉を遮った。ここでゴタゴタを起こしたくは無い。
「俺は葉佩 一龍です。似ているのかも知れませんが、織斑先生の言う弟さんではありません」
「そ、それは…」
「俺は
そう言って千冬の横を通り過ぎて自分の席へ戻る際、織斑先生の耳元で彼女にしか聞こえない声で呟いた。
「相談があるなら二人っきりの時にお願いします、織斑先生」
「!?」
千冬は通り過ぎる一龍を見るが一龍はもう彼女を見る事は無かった。
「千冬様に弟さんがいたの?」
「初めて知った…」
「一龍君が弟さんと似ているのかしら?」
「弟さんも格好良いのかなぁ?」
「私も千冬様の妹になりたい…」
席に座るまでにそんな会話が聞こえた。
(まぁ、俺がその弟さんなんだけどね…)
その後、全員が自己紹介を終え、1限目のISの基礎理論の講義が始まった。
講義は恙無く進み、講義終了のチャイムが鳴り休み時間となった。
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休み時間に入るや否や俺達は女子生徒達の質問攻めにあった。
「一龍君って何処から来たの?」
「エジプトから、養父さんの仕事でいたんだ」
「エジプト!? お父さんは何の仕事をしてるの?」
「世界を又に掛けるセールスマンかな?」
「趣味は何?」
「料理とかプチ旅行ってとこ」
「好きな音楽とかある?」
「ピアニスト取手 鎌治の『Irene』だな、あの曲は心に染みるよ」
「”はばっち”って呼んで良い~?」
「いきなりアダ名かよ!?」
ふと向こうを見ると荒垣さんも同じ様に質問攻めに合っている。鬱陶しそうな顔をしながらも質問に答えている当たり、律儀な人なのだろう。クラスでもう一人の男子生徒なのだ、友好関係を築いておきたい。勿論、他のクラスの男メンバーにもだが。
「ちょっといいか?」
声を掛けられたので声の方を向くと箒が立っていた。
「どうしたの篠ノ之さん?」
「俺に用だな箒?」
「ああ、」
「え!? 一龍君、篠ノ之さんと知り合いなの?」
「小学生の時の幼馴染でね」
「幼馴染だとぅ!?」
「いいなぁ、」
「じゃあ、用があるようだから質問はまた今度な」
そう言って席を立つ。
「屋上で話そう」
「わ、分かった」
羨ましがる声を背に受け、俺と箒は屋上へ向かった。
TO BE CONTINUE
という事で転生者の一人目は我等がオカン、『ペルソナ3』の『荒垣 真次郎』でした。
今後の彼の活躍をお楽しみに。
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