一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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幕間4話目はセシリアと真次郎のデートとなります。
クロスネタ多数? 有りますが気付くかなぁ…


 ドキドキ! 初デート (セシリア編)

 セシリア・オルコットは恋する乙女である。

 イギリスの名門貴族であり資産家でもあるオルコット家の一人娘であり、両親が列車事故によって亡くなった後も、勉学を重ねて欲深な親戚達から両親の遺産を守ってきた努力家である。

 その様な努力はISの操縦技術でにおいても国に認められ、イギリス国家代表候補生として専用機を与えられた事から現在IS学園に在学中である。

 そんな彼女だが、男性との恋愛経験に関しては全く無かった。勿論、社交パーティ等でルカと云った他財閥の御曹司達と会話したり友人関係にはなってはいたが、しょっちゅう会う訳では無いので恋愛にまで発展する事が無かったのだ。ましてや両親を亡くして以降、彼女は一部の支えが有ったとはいえ自分の家を守る事に必死であった事とから恋愛に構っている暇が無かった事も原因であろう。

 だからと言って、セシリア本人が恋愛毎に興味が無いのか? と聞かれれば否定するだろう。

 通っていたスクールもお嬢様学校であったのに加え、途中から家庭教師による自宅での学習に変わってしまったた為に同年代との男性との交流は殆ど無い。これによって異性と恋すると云う憧れは日々募ってゆくのであった。

 そんな恋に憧れていた彼女が、命を救ってくれた上に長年、心に募っていた悩みを振り払ってくれた男性、荒垣 真次郎に惚れない筈が無く、男性に対する見方が改まった今、彼への想いは更に募っていくのだった。

 

 

そして今回、彼女は新たな一歩を踏み出す。

 

 

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4月最終週の平日

 

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮

 

 

~♪

 

 

 目覚ましのアラームが鳴り、セシリアは目を覚ます。

 ルームメイトはまだ夢の世界らしく、ベットの中で寝返りを打っている。

 

 

「マミーズが開店するにはまだ余裕が有りますわね…」

 

 

 時計を確認したセシリアはシャワーで身体を清めた後、制服に着替えて髪を整える。

 

 

「問題はありませんわね……」

「早いわね……、セシリア…」

 

 

 髪型等、問題無いか鏡の前で睨めっこしていると、ルームメイトであるマイン・キャメロンが顔に掛かっていた桃色の髪の毛を掛け上げながらベットから起き上がる。

 

 

「お早う御座います、マイン」

「うん、お早う~。今日も彼を起こしに行くの?」

「はい。日課ですから」

「日課って……、完全に通い妻よね、それ?」

「か、通い妻!!?」

 

 

 マインの言葉にセシリアは驚き、数秒後両頬に手を当てながら顔を真っ赤にする。

 セシリアはIS学園に入学して以降、早起きしては男性操縦者の1人である荒垣 真次郎を起こしに行く事が日課になっている。

 真次郎は朝が弱い、それはもう酷い位に。低血圧である彼は目覚めが非常に悪く、月光館学園で寮生活していた頃から10個以上の目覚まし時計を仕掛けなければ自分で起きられなかった。

 IS学園に入学してもそれは当然で、ルームメイトのシンが耳栓をして寝ていても音を上げる程だった。しかし、セシリアが真次郎達と和解し、彼女が真次郎の目覚めの悪さをシンから聞いた事から、セシリアは彼を毎朝起こしに行く様になったのだった。

 

 

「い、いけませんわ! 通い妻だなんてっ!! わたくしとシンジさんはまだそんな関係じゃありません事よ!?」

 

 

 ナニを想像してしまったのか、いやんいやんと身体をくねらせるセシリア。

 そんな彼女の姿を見て、眠気が吹っ飛んでしまったマインは顔を引き攣らせる。

 

 

「で、でもシンジさんとならそんな関係になったとしても構わなかったりしますの~♥」

「冗談で言ったんだけど……ってか聞いて無いし…」

「おっと! 準備も整いましたし、わたくしはもう行きますわ」

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

 

 部屋を出るセシリアに、マインは「ノロケはもう充分」とばかりに手をプラプラさせて見送るのだった。

 

 

「それでは参りましょう♪」

 

 

 未だに赤みを帯びている頬を冷ませ、セシリアは真次郎の部屋へと向かうのだった。

 

 

「ふふん、ふん~♪」

「おはよー、セシリア。朝から御機嫌だね?」

 

 

 鼻歌を歌いながら廊下を歩いて行くセシリアに、クラスメイトである清香が声を掛けて来る。制服で無く、運動用のジャージを着ており、首にタオルを掛けている事からこれから運動をするのであろう。

 

 

「清香さん、お早うございます。其方は今から部活ですの?」

「うん、朝練で今からランニング」

「いってらっしゃいまし」

「ありがとね~」

 

 

 朝の挨拶も手短に清香は学生寮玄関へ去って行く。

 そして真次郎の部屋へと着いたセシリア。丁度、扉が開き真次郎のルームメイトであるシンがジャージ姿で出て来た。空手部所属の彼もこれから朝練に向かうのであろう。

 

 

「…セシリアか、今日も早いな」

「お早う御座います、シンさん。シンジさんはまだ寝ていますの?」

「何時も通りだ。今日も頼む」

「頼まれましたわ♪」

 

 

 部屋に入るセシリア。そのまま真次郎が寝ているベットへ向かい、様子を見ると真次郎はまだ夢の中らしく、ぐっすりと眠っている。

 気持ち良さそうに寝ている真次郎の様子に、そのまま見詰め続けたくなりそうになる自身の欲を抑え、如何起こそうかと考えるが、ふと好奇心に囚われて真次郎の頬をそっと撫でてみた。男性にしては中々滑らかな肌触りだった。

 

 

(意外な事実、シンジさんのお肌スベスベですわ!)

 

 

 つい、夢中になって真次郎の頬や首を撫で回すセシリア。

 すると…

 

 

「ん……」

 

 

 くすぐったかったのか真次郎が寝惚け声を出し、頬を撫でていたセシリアはその手を下げる。布団に包まった身体をモゾモゾと動かしながら、真次郎は目を薄っすらと開けた。

 

 

「シンジさん、朝ですわ。起きて下さいまし」

「う……む…、セシリア…か…?」

「はい。お早う御座います♪」

 

 

 寝惚け眼で尋ねてくる真次郎にセシリアは笑顔で答える。

 真次郎に「笑った顔の方が良い」と言われて以降、セシリアは常に笑顔でいる事を心掛ける様になった。惚れてしまった人の前では好きな表情でいたいと云う思いからであり、彼が笑顔でいる事が好きだと言ってくれる事が何よりも嬉しかった。

 

 

「……準備する、待ってろ」

「はい♪」

 

 

 掛け布団を捲り、起き上がりながらそう言う真次郎に笑顔で答え、セシリアは部屋を出て廊下で待つ。一度起き上がれば、真次郎は二度寝をする事が無いので、安心して廊下で待つ事が出来る。

 十分程経ち、部屋の扉が開くと制服姿の真次郎が現れる。

 

 

「待たせたな」

「いえ、それではマミーズへ行きましょう♪」

「ああ」

 

 

 マミーズへ向かう道中、真次郎の腕に抱き着くセシリア。真次郎が気にする様子が無いのでそのままの状態でマミーズまで到着する。開店して間もないのでガラガラな状態、である店内。セシリア達は窓際の2人席に座った。

 

 

「サンドイッチとキノコスープ。食後にコーヒーをブラックで頼む」

「わたくしも同じものを。但し、食後の飲み物を紅茶にして下さいまし」

 

 

 注文を受けたウェイトレスが去った後、真次郎は不思議そうな表情で尋ねてきた。

 

 

「ここ最近、俺と同じ物を注文しているが何故だ?」

「シンジさんの注文する料理にハズレが無いからですわ♪」

「そう言ってくれて悪い気はしねぇが…」

 

 

 ニコニコ顔で即答するセシリアに真次郎は若干呆れ顔になる。

 そのまま世間話をする事十数分、ウェイトレスが現れて料理を持って来たのでそのまま朝食に入る。

 

 

「シンジさんは朝によくサンドイッチを食べられますけど、お好きなんですの?」

「そうだな。食べやすい料理だし、具も野菜と肉のバランスが揃え易い。良く食べているから好物の類に入るだろうな」

「そうですの」

 

 

 真次郎の好物を知る事が出来たセシリアは内心ガッツポーズを取る。

 

 

「ISの操作には慣れましたか?」

「ああ。セシリアの教え方が上手いからな、覚え易い」

「そ、そんな…上手だなんて」

 

 

 ふと聞いたIS操作の状況において、真次郎から褒められてしまいセシリアは赤くなる。彼の操縦訓練を見ているのはセシリアであり、国家代表候補生にる実力からその指導は中々のモノだった。まぁ、余りに論理的だった為に一龍から注意を受けたのだが…

 兎に角、好きな人に褒められて嬉しくない筈が無い。嬉しさでテンションゲージがMAXな彼女は思い切ってある事を尋ねた。

 

 

「あ、あのシンジさん。ゴールデンウィークでお暇な日は有るでしょうか?」

「ゴールデンウィークか? 3日目に桐条グループ本社の方へ是まで集めたデータを提出しに行く位だが…」

「で、でしたら…宜しかったらわたくしとお出掛けしませんこと?」

「出掛ける? あ~、それは…デートとして受け取って良いのか?」

「!? あ、はっはい、そうですわ。御免なさい、遠回しに言ってしまって…」

 

 

 セシリアの誘いがデートなのか尋ねる真次郎。

 彼女がそれを肯定すると呆れた様な、困った様な表情になった。

 

 

「つか、俺なんかを誘って良いのか?」

「わたくしはシンジさんと行きたいのです!」

「…まぁ、お前が気にしないっつーなら別にいいんだけどよ」

「! でしたら…!!」

「日曜日で良いか?」

「!! はい! 問題ありませんわ♪」

 

 

 デートの了承にセシリアは満面の笑顔を浮かべながら喜ぶ。

 そんな彼女の笑みに真次郎は再び困った様な表情になるが、小さく微笑むのだった。

 

 

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『マミーズ IS学園店(マミーズ ISがくえんてん)』

 

 

「~♪」

「御機嫌だな、セシリア?」

「何か良い事でも有った訳?」

「顔が凄くニヤついてる…」

 

 

 夕食時、終始ご機嫌なセシリアに如何したのかと箒達3人が尋ねる。因みに、男性陣はスイーツバイキングを行って以降、たまに集まって料理談義を行っており、今日も料理部の一角を借りて談義しているので此処にはおらず、箒、セシリア、鈴音、簪の4人しかいない。

 

 

「あら、わたくしそんなにニヤついております?」

「そんなにって……これでもかと言わんばかりにニヤついているぞ?」

「一寸、キモいわよ?」

「…何かあったの?」

 

 

 簪に尋ねられるとセシリアは自慢げに胸を張りながら答えた。

 

 

「実はわたくし、シンジさんとゴールデンウィーク中にデートの約束をしましたの!」

「ほう、荒垣さんとデートか」

「にゃっ!? デートですって?」

「そうなんだ…」

 

 

 セシリアの回答に箒は成程と納得し、鈴音は驚き、簪は意外そうな顔になる。

 

 

「ですので当日が近付いてきていると思いますと楽しみで…」

「あの人とデートなんか出来るの? 面倒が嫌いそうでずっと1人でいたがりそうな雰囲気だけど」

「鈴は知らないんだったな、あれでも荒垣さんは面倒見が良いのだぞ?」

「料理も上手」

「そういえば一龍やルカ達と一緒にデザートバイキングのお菓子を作っていたわね…、意外だわ」

 

 

 真次郎の見た目に対するギャップに驚く鈴音。

 

 

「あぁ…、当日が楽しみですわ~♥」

(まぁ、私は一龍とセシリアがクラス代表を争う前の休日にデートしたからな。うん、ゴールデンウィーク中にまたデートしよう!)

(アタシもルカとデートしたいなぁ…)

(…ブロントさんを誘ったらデートしてくれるかな?)

 

 

 デートの日をセシリアは楽しみにし、他女子メンバーは各自デートに対する思いにふけるのだった。

 

 

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ゴールデンウィーク2日目 日曜日

 

 

「とうとう、この日が来ましたわ…」

 

 

 真次郎とデートの約束をしたデート当日。セシリアはまだ自分の部屋におり、彼に会っていないにも関わらずそわそわと落ち着きが無かった。尚、ルームメイトのマインは所属部であるGUN部へ行っており、部屋には居ない。

 

 

「まだ待ち合わせの時間まで余裕が有りますわね……テレビでも観て落ち着きましょう」

【~♪(時価ネットたなかのテーマ)】

【こちら時価ネット! 『時価ネットたなか』でごっざいま~す!】

「そういえば今日は『時価ネットたなか』の日でしたわね…」

 

 

 部屋に持って来ていた小型テレビをつけると、やけに耳に残る曲と共に通販番組が始まった。

 

 

『時価ネットたなか』とは毎週日曜に放送される通販番組であり、日本どころか世界でもその名を知られている。元々、昼のみの放送だったが、顧客の時間ニーズに合わせて朝、昼、夜の3部に分けて拡大放送する様になった。

 通販マニアなセシリアは毎週、3回全てをチェックしていたりする。

 

 

【生放送でお送りする通販番組、『時価ネットたなか』でございまーす! 良いモノを常に適正時価でお届け! う~ん、目が離せない! さ~あ、本日朝の部で紹介する商品はこちら!】

 

 

 『時価ネットたなか』はたなか社長自ら司会を務めている。

 特徴的な話し方をするたなか社長の前には箱を被されたキャスター付きのテーブルが置かれており、彼が箱を取り上げて中身の商品を紹介し始めた。

 

 

【ズバリ、『天誅ガールズ成り切りセット(赤)』! 現在放送中の大人気魔法少女アニメ『天誅ガールズ』、主人公『大石内蔵助良子』こと天誅レッドに貴女も成れる! ヒュ~ウ、ワンダホー! これに『アニメ天誅ガールズ 1.stシーズンDVDボックス』をお付けした『天誅ガールズセット』! お値段は大特価の18500円!】

 

 

 少々、オーバーなアクションをしながら、たなか社長は商品を紹介する。

 値段を紹介し終えると『天誅ガールズセット』が載ったテーブルが片づけられ、新たなテーブルが現れた。

 

 

【更に、もう一つの目玉商品はこちら! 『間宮印のミルクアイス』10食分! 有名茶屋『間宮』でしか食べれない、間宮さんお手製のアイスが貴方のお自宅で食べられる!! これに『間宮印の特製羊羹』10本をお付けした『茶屋間宮セット』! お値段は、なんと6500円! 1日数量限定の商品、売れ行き絶好調の為、お1人様、どちらか1つの注文でお願いします! 今週朝の部のご注文は、どっち!?】

「『茶屋間宮』といったら3つ星を受賞した喫茶店でしたわね。羊羹も食べてみたいですし、『茶屋間宮セット』を注文しましょう!」

 

 

 セシリアは番組のテロップに表示された番号を携帯に入力し、『茶屋間宮セット』を注文した。

 

 

【さ~あ、それじゃあ本日朝の部はこれまで。売り切れ御免! 残念無念! お買い上げのお客様、昼・夜の部か、またの来週日曜からの3日間、このチャンネルでゲッチュー! お買い上げ頂けなかった、出来なかったお客様、また、次の機会に、このチャンネルでゲッチュー!】

【~♪】

 

 

 『時価ネットたなか』が終わり、セシリアはテレビの電源を切った。

 

 

「良い買い物をしましたわ。丁度良い時間になりましたし、参りましょう♪」

 

 

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『IS学園(ISがくえん)』 校門前

 

 

「済まん、遅れたか?」

「いえ、わたくしも先程来たばかりですわ」

 

 

 待ち合わせしていた校門前に一足先に着いたセシリアだったが、真次郎も待ち合わせの時間の数分前に到着する。

 真次郎の格好はニット帽と臙脂色のコート、下は黒のズボンに革靴であった。

 

 

「あの…、シンジさん。その格好は暑くはありませんの?」

「問題無ぇ、中は薄着だから暑くは無い」

「そうなんですの?(薄着…ラフなシャツでも着ているのでしょうか?)」

 

 

 5月序盤の初夏にしては余りに厚着な様に見える真次郎の格好にセシリアは心配するが、彼の言葉に納得する。コートの前襟から首まで包んでいる黒シャツが覗かせている事から、半袖シャツなのだろう。

 

 

「その……なんだ、その格好…似合っているぞ」

「へ……? あ、そ、そうですの!?」

 

 

 納得したセシリアに対し、真次郎は突然彼女の格好を褒めてきたので驚いてしまう。セシリアの格好は空色のオールインワンに白のカーディガンを羽織り、頭には何時も着けている青のヘアバンド、下は白のサンダルを履いている格好だ。彼の性格だと余り衣装等を褒める事は少ないだろうと思っていたので、嬉しい誤算だった。

 

 

「ああ。綺麗な空色で、セシリアにとても似合ってる」

「ふふっ、褒めて戴いて嬉しいですわ♪」

 

 

 真次郎の褒め言葉にセシリアは満面の笑みで返す。

 

 

「それでは参りましょうか?」

「ああ」

 

 

 真次郎の右腕に抱き着くセシリア。少々戸惑いながらも真次郎は特に気にする様子無く、そのままモノレールに乗り、街へと向かった。

 

 

「さて、街に出たは良いが何処に行くか?」

「あの…、シンジさんはそれ以外のお洋服は持っておりませんの?」

「あ? 基本、シャツにこれ(コートにズボン)だからな…」

「なら今日はシンジさんのお洋服を見て回りましょう!」

「は? 俺の服をか?」

 

 

 デートで街に来たは良いものの、地理に詳しくない真次郎は今後の予定を聞く。するとセシリアは真次郎の服装事情について尋ね、彼の新しい服を探す事を提案してきた。

 

 

「シンジさんは格好良いのですから、もう少し服装に興味関心を持って下さいまし。今のシンジさんの服装がおかしい訳ではありませんが、もう少しバリエーションが欲しいですわ」

「否定は出来ねぇが、良いのか? 折角のデートだぞ、俺の服よりはセシリアの服を見て回る方が普通な気がするんだが…」

「わたくしはちゃんと揃えています。シンジさんはそればかりだと着たきり雀と呼ばれてしまいますわ!」

「良くそんな言葉(着たきり雀)を知っているな…」

「さぁ、参りましょう♪」

 

 

 セシリアは改めて真次郎の腕を取り、ファッション店が立ち並ぶ通りへと彼を引っ張っていった。

 

 

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 2人はメンズファッションの店を彼方此方巡って4、5着程購入した後、近くの喫茶店で休憩する事にした。

 

 

「うふふ、良い買い物でした♪」

「しっかし、試着で何度も着替えさせられた俺は疲れたんだが…」

「良いではありませんか、似合っていたのですから」

「ヒトを着せ替え人形の様にして楽しんでただろ……まぁ、セシリアが言うのなら間違いは無いんだろうな」

 

 

 木製のテーブルで向かい合い、注文したキャラメルミルクが入ったマグカップを持ちながら微笑むセシリア。洋服店ではノリノリで真次郎に合う服はどれかと楽しそうに選んでいた。

 そんな可愛らしい笑顔を前に真次郎も試着での疲れが消え去ってしまった。

 

 

「ところで、服を選んだのはわたくしですが宜しかったのですか? 買われた服の中にはお高い物も有りましたが」

「金については気にするな。テストパイロットとして美鶴から給料をそれなりに貰っている」

 

 

 桐条グループの専属パイロットとなった真次郎は、自身のISであるカストールのパイロットであるだけで無く、集めたデータを提出するテストパイロットとしての役割も持っている。ましてや世界に7人しかいない男性操縦者でもある訳なので、結構な給料を貰っていたりする。

 休憩後、小物やアンティークの店を見て回ったりする内に昼時となり、何処で昼食を取ろうかとレストラン街を歩いているとある店を真次郎は見付けた。

 

 

「あれは……『はがくれ』か?」

「シンジさん?」

 

 

 真次郎が足を止めた店の名前は『鍋島ラーメン「はがくれ」』。元々、巌戸台駅前商店街にある佐賀県風のラーメンを扱うラーメン屋であり、真次郎も時折通っていたラーメン店である。

 

 

「まさか、此処にも出店していたなんてな」

「ラーメン屋ですか、行った事がありませんので興味ありますわ。シンジさん、お昼は此処にいたしません?」

「しかし、デートで行く店では無いだろ?」

「そんな事ありませんわ。わたくし、気になります」

「そう言うなら…」

 

 

 セシリアの希望により、真次郎達は『はがくれ』でお昼を食べる事にした。

 

 

「ラーメン自体はマミーズで食べた事は有りますが、お店毎で味等が変わるのでしたよね?」

「ああ、『はがくれ』は佐賀県風のラーメンを扱っている。メインの『はがくれラーメン』も勿論美味いが、隠しメニューだった『はがくれ丼』とかも美味いな。それに、この店の常連になると…」

「あれ? 荒垣さんじゃないっすか!」

 

 

 真次郎が『はがくれ』で扱っているラーメンやメニューについてセシリアに説明しながら店内に入ると、カウンター越しにある調理場の方から声を掛けられた。

 

 

「お前…家康か?」

「久しぶりっす」

 

 

 声の方を向くと頭にバンダナを巻いた店員らしき青年が立っていた。

 真次郎が驚いた声で青年の名前を呼ぶと、イエヤスと呼ばれた青年は嬉しそうに挨拶した。

 

 

「何でまた此処に?」

「いやぁ、店主に働きっぷりを認められて支店の管理を任されたんすよ。なんで此処の店長なったっす」

「ほう、出世したな」

「ははは、頑張った甲斐が有ったってもんです」

「あの、シンジさん。其方の方は?」

「あぁ、コイツはな…」

 

 

 真次郎はセシリアに青年を紹介する。

 彼は友人と共に進学・就職目的でポートアイランドに来ていた地方の学生で、彼自身は進学せずに『はがくれ』の方でラーメンの修行をしていた。その為、真次郎とは顔見知りで、彼からアドバイスを受けていたりする。

 

 

「辰巳や沙世とは連絡取り合ってんのか?」

「勿論っすよ。そういや辰巳の奴、桐条グループの警備員になったんすよ? なんか気に入られたとか」

「美鶴か…」

「おっと、客相手に話っぱなしは駄目っすね。お昼食べに来たんでしょ? 荒垣さんは向うから常連でしたし『坦々タン麺』もオッケーっすよ?」

「そうだな、それに『ミニはがくれ丼』を付けてくれ」

「そっちの綺麗なお嬢様は何にしますか?」

「え? えぇと…お勧めは何ですの?」

「そうっすね、女性なら『コラーゲンたっぷりなトロ肉しょうゆラーメン』がお勧めっすね。コラーゲンパワーで魅力も上がるっすよ」

「魅力……そ、それを戴きますわ!」

「まいどあり~、『坦々タン麺』、『ミニはがくれ丼』、『コラーゲンたっぷりなトロ肉しょうゆラーメン』それぞれ一丁~」

 

 

 注文を受け、厨房で調理し始める家康。

 十数分経って、ラーメン丼2つと小丼を運んで来た。

 

 

「へいお待ち~。ところで荒垣さん、そちらのお嬢様って彼女っすか?」

「あ?」

「そ、そんな。彼女だなんて…まだそこまで深い関係にはなっておりませんわよ!?」

 

 

 ラーメンを手渡しながら家康がそんな事を尋ね、セシリアは顔を真っ赤にする。

 

 

「ありゃ、荒垣さんと2人で来店して来たからてっきりそうかと」

「まぁ、デートの途中で此処を見付けたんだが…」

「でもシンジさんが構わないのでしたら喜んで彼女に成りたいですの♥」

「まぁ、こんな関係だ」

「は~、荒垣さんにお熱って訳っすね」

 

 

 両頬に手を当て、クネクネしだすセシリアを見ながら真次郎と家康は苦笑するのだった。

 

 

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 『はがくれ』での昼食を終えて家康に別れを告げた後、真次郎達は小物やアンティークの店を見て回った。

 

 

「ほぅ、これは良いな」

「包丁ですか、シンジさんはそういったモノに詳しいですの?」

 

 

 食器などを扱っている店に入り、陳列棚に並べられていた包丁の一本を手に取って眺めながら真次郎がコメントをすると、セシリアが質問してきた。

 

 

「これでも My.包丁を持っている」

「スイーツバイキングの時はお菓子を作られておりましたが、他のお料理も出来ますの?」

「ああ。色々と作ってるな」

「そうですか。あの時のお菓子はとても美味しかったですし、他のお料理も美味しいのでしょうね」

「なら食うか?」

「へ?」

 

 

 真次郎の言葉にセシリアは目を丸くする。

 

 

「セシリアが良いなら今夜の晩飯に作ってやるが?」

「宜しいのですか?」

「料理くらい何の事は無ぇ」

「なら、是非とも食べたいですわ!」

「分かった。なら早速準備しねぇとな」

 

 

 真次郎は手に取っていた包丁を購入し、セシリアを連れて食品を扱う店舗へと向かった。

 

 

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『IS学園(ISがくえん)』 学生寮 真次郎の部屋

 

 

 帰宅後、真次郎の(正確にはシンとの兼用)部屋に御呼ばれしたセシリア。

 部屋の中央に置かれたテーブルの前で緊張した面持ちで座っていた。

 真次郎の方は簡易キッチンの方で買ってきた食材を使って調理を行っている。

 

 

(シンジさんの部屋には何度も来ておりますが、こう長く居た事はありませんわね…)

 

 

 キョロキョロと部屋を見回すセシリア。朝に真次郎を起こしに行くという短い時間でしかこの部屋には居た事が無いので改めて見る部屋の景色は新鮮だった。

 ふと、セシリアの視界にハンガーに掛けられたコートが映る。

 

 

(シンジさんのコート……今日一日着られていましたが、暑くなかったのでしょうか?)

 

 

 ふと好奇心に駆られ、セシリアは立ち上がると掛けられていたコートを手に取り、羽織ってみた。

 

 

(普通のコートですわね……)

 

 

 袖に腕を通したり前ボタンを留めたりするが、真次郎と21cmも身長差が有るセシリアにとって彼のコートは足までは届かないものの、ブカブカだった。

 

 

(ポカポカ暖かいですわ、それに…)

 

 

 スンスンとコートの前部分を顔に当てて香りを嗅ぐと、遺跡で救出された時に自分が足を挫いて歩けなかったから真次郎が背負ってくれた際、彼の背中から嗅いだ匂いがした。

 

 

(シンジさんの匂いですわ~)

 

 

 不思議と暖かさと安心が得られるこの匂いにセシリアはコートを鼻に押し当てて嗅ぐ事に夢中になる。

 

 

「ああ~、いけない事だと解かっておりますが止められませんわ~。これもシンジさんの魅りょ「何やってんだ、お前は?」k……!!?」

 

 

 ヘブン状態となっていた所に声を掛けられ、現実に戻されたセシリア。後ろを向くと皿に盛られた料理を持った真次郎が呆れた顔をしていた。

 

 

「俺のコートを羽織って、何してやがる?」

「い、いや、そのですね……、シンジさんのコートって暖かそうだと思いましてつい…」

「まぁ、保温性は高いが……、料理が出来たから直せ」

「は、はい」

 

 

 コートを掛ける様にセシリアに言い、真次郎はテーブルに料理を並べていく。

 メニューは白身魚のムニエルに温野菜と茸のサラダ、軽く焼いたスライスバゲット、そして南瓜のポタージュだ。

 

 

「まぁ、美味しそうですわ」

「そうか? ま、食うぞ」

「はい、戴きますわ♪」

 

 

 テーブルを挟んで向かい合い、食事を始める2人。

 ポタージュを掬ったスプーンを口に運び、良く味わうセシリア。暫くして顔を綻ばす。

 

 

「ああ、とても美味しいですわ♪ シンジさんは本当にお料理が上手なのですね?」

「外で不味いモノを食べる位なら自分で作った方が得だしな」

「確かに、シンジさんのお料理はレストランのモノよりも美味しいですわ」

 

 

 ムニエルは表面がサックリ、中はふかふかで舌に溶けるような食感。

 サラダも生野菜と温野菜のマリアージュが素晴らしい。

 そしてポタージュは南瓜のほんのりとした甘さがホッとする。

 

 

「御馳走様でした」

「ん」

 

 

 食事が終わり、真次郎は食器を片付ける。

 簡易キッチンから戻って来た時、彼は右手に何か持っていた。

 

 

「セシリア、これを」

「それは?」

 

 

 真次郎は持っていた小箱をセシリアに渡す。

 受け取った小箱を開けてみると、中にはブローチが入っていた。セシリアはそのブローチを手に取ってまじまじと見つめる。青いバラを模した綺麗なブローチだった。

 

 

「あの、何処でこれを?」

「小物の店を巡っていた時に途中、トイレへ行っただろう? 待っていた時に見付けて、な」

「綺麗ですわ…ねぇ、シンジさん。青いバラの花言葉は御存知?」

「いや、知らない」

「バラには青の色素が無く、品種改良で作る事が出来ないので『不可能・有り得ない』だったそうですわ」

「! なら、拙かったか?」

「いいえ、まだこの話には続きが有ります。その後、青色色素を持つ花の遺伝子を導入する事で青いバラを作る事に成功しましたの。それから花言葉は新たに『奇跡、神の祝福』という意味を設けられたそうですわ」

 

 

 そう言ってセシリアは真次郎へ感謝の笑みを送ったのだった。

 

 

「シンジさん、有難う御座います。最高のプレゼントですわ♪」

「そうか、そう言ってくれるなら何よりだ」

 

 

~♪【1年1組のオルコットさん、宅配の方が来ております。学生寮玄関前まで来てください】

 

 

「あら、通販で注文した物が来たのでしょうか? それではシンジさん、わたくしはこれで失礼致します。御馳走様でした♪」

「ああ、またな」

 

 

 寮内放送でセシリアを呼ぶ内容が流れたのでセシリアは別れの挨拶をし、玄関へと向かった。

 

 

(今夜の夕食は本当に美味しかった…。そうですわ、わたくしも今度シンジさんにお弁当でも作って差し上げましょう♪)

 

 

 玄関へ向かう途中、セシリアはそんな事を考えており、これが後に騒動となる事をこの時誰も気付く筈が無かった…

 

 

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ゴールデンウィーク3日目 月曜日

 

とある墓地

 

 

「……それで、美鶴の様なとこのお嬢様ではあるんだが、積極的な奴でな。まぁ、ハネッ返りなお前程じゃ無いだろうが…」

 

 

 ISのデータを提出した後、真次郎はとある墓地へと来ていた。

 墓地の一角にある墓標を前にし、真次郎は持って来た花束を置きながら話し掛ける。

 

 

「出会った最初こそ、高飛車で最近の女尊男卑な奴に見られる性格だったから相容れないと思ってたがな。境遇を聞いて、俺なりの考えを言ったら悩みが晴れたらしくてな。それで、どうも……、俺を気に入ってくれたらしく、つい昨日、デートに誘われた……」

 

 

 真次郎は楽しそうに語っていたが、その楽しそうな表情が消えた。

 

 

「俺だけがこんな思いをしていて良いのか? お前は死んじまったのに、俺は……」

 

 

 問い掛ける言葉を途中で止め、暫くの間沈黙が流れる。

 

 

「また来る、公子…」

 

 

 最後にそう告げて去って行く真次郎。

 彼が居た墓標には『主人 公子(あまと きみこ)』と名前が刻まれていた。

 

 

TO BE CONTINUE




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次回はアンケート結果より、千冬の独白回を予定。
活動報告にて幕間でどんな話を優先的に読みたいかアンケートを続けておりますので、良かったら御回答御願いします。


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