一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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皆様、明けましておめでとう御座います。
新年最新話は五反田家での出来事になります。
描写が微妙な気がしますが、御容赦下さいませ…


 突撃! 五反田家

ゴールデンウィーク2日目

 

『五反田家(ごたんだけ)』 2階:弾の部屋

 

 

【Heaven or Hell Lets Rock!!】

 

「普通の学校生活はどうだ?」

「中学と変わん無ぇな…数馬と相変わらず馬鹿やって、バンドしてる。そっちは如何なんだよ?」

「退屈しない毎日だな」

 

【αブレイド!】

 

「しっかしよ、男子生徒7人でそれ以外女の子ばかりなんだから良い思いしてんだろ?」

「俺は箒一筋だから関係無いし……昨日も一緒にピアノリサイタルへ行ったしな」

 

【ガンフレイム!!】

【トロイんだよ!】

 

「なっ!? 昨日デートだったのかよ!? というかそれ自慢だよな? 羨ましいぞコン畜生! でもIS学園って美少女揃いだから毎日が目の保養なんだろ?」

 

【やる気あるのか?】

 

「一部HENTAIが混ざってるから中々落ち着く時間が無いんですわ、お? このままではストレスで俺達の胃袋がマッハ…」

「【寒】だよな、俺達で勝手に掛け算(ホモカップリング)してる貴腐人達がいるし…」

 

【戴きぃ! 戴きぃ!】

 

「ぎゃあああぁああ!? 投げからの空中コンボでライフが4分の1にぃ!?」

「俺は4組の生徒なんだが、担任が油断したら即襲ってきそうなプレデターだからキツイべ……」

「【悲】船越先生か、可愛い顔してるのに肉食系だからそれは否定できないな…」

 

【嘗めんじゃねぇ!!】

 

 六畳一間の部屋で男が3人、ゲームをしながら近況を話し合う。

 ゲームをプレイ中である1人はこの部屋の主である五反田 弾(ごたんだ だん)、一龍が一夏であった頃の親友であり、赤の長髪をバンダナで巻いているのが特徴的な長身の青年だ。

 弾と対戦している1人は弾より長身で銀髪、褐色肌の青年、ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザーことブロント。

 そして、弾とブロントの対戦を観戦しているのが頬の十字傷が特徴的な黒髪の青年、葉佩 一龍だ。

 ゴールデンウィークとなったので一龍は久しぶりに弾の家へ遊びに行き、交友を温めようと来たのだ。

 

 

「しっかし、弾はブロントさんと知り合っていたんだな」

「ああ。一龍と会ったあの休日にレゾナンスのゲームセンターでな」

 

 

 尚、何故ブロントが一緒に居るのかと云うと、彼は前の休みに外出中、レゾナンスのゲームセンターで弾と知り合い、ゴールデンウィークに入ったら遊びに来ないかと誘われていたのだ。

 

 一龍が箒とデートをした日に一龍が弾と再会する1時間程前、レゾナンスのゲームセンターに来ていた弾は格闘ゲームコーナーに赴いていた。すると、そこでは人だかりが出来ており、歓声を上げながらあるプレイヤー達の対戦を観戦していた。気になった弾が見てみると、そこでプレイヤーとして何人もの挑戦者を撃破していたのがブロントだった。

 ブロントは格闘ゲームやMMOゲーム等の大会で上位入賞、果ては優勝した事が何度かあるのでゲーマーの間では結構有名だったりする。そして弾もそんな彼のファンであった事からプレイ終了後にサインを求めて挨拶をしに行き、その後意気投合した事からメールアドレスを交換、本日遊ぶ約束をしたのだった。

 

 因みに現在、弾とブロントがプレイしているのは格闘ゲームは『ギルティギア(GuiltyGear)アンリミテッドカーニバル(UC)』というタイトルであり、人気格闘ゲーム『ギルティギアシリーズ』の最新作で今迄登場したキャラがオール参戦という正にカーニバルと言った内容を誇っている。

 

【ヴォルカニックヴァイパー!!】

【シッショー】

 

 ブロントが操作しているキャラが放った奥義が弾の操作しているキャラへヒットし、そのままダウン。『SOL WIN!』の文字が画面中央に表示され、ブロントの勝利となった。

 

 

「だぁあああ! やっぱ負けたぁああ!!」

 

 

 悔しそうに声を上げながら、弾はコントローラーを置く。

 

 

「やっぱトッププレイヤーに勝つなんて無理かぁ…」

「そうでもないぞ? 紙忍者であそこまで立ち回れるのは大したモノだべ」

「ブロントさんにそう評価してもらえるなら、プレイしていた甲斐があったっすよ」

 

 

 ブロントの評価に弾は照れ臭そうに後頭部を掻く。

 

 

「そろそろ別のゲームでもするか?」

「ならこれはどうだ?」

 

 

 そう言って弾が取り出したのは『インフィニット・ストラトス(IS)/ヴァースト・スカイ(VS)』。ジャンルは3Dメカアクションゲームであり、第2回モンドグロッソで実際に登場した機体のデータが使われている為、世界中で大ヒットした。

 

 

「じゃあ俺が伊知郎と変わるべ」

「分かった(相変わらず俺の呼び方が違わなくないか?)」

 

 

 ブロントが一龍にプレイを譲り、弾と一龍が対戦モードで対戦を開始した。

 

 

「そういえば一龍、鈴とはどうなったんだ?」

「ちゃんと謝ったぜ。ビンタかまされたけどな」

「それだけか? てっきりゴネ続けるかと思ってたが…」

「リンインならルカと付き合っているんだが?」

「はぁ!? どういう事っすか!!?」

 

 

 鈴音がIS学園に転入した事を弾は聞かされており、彼女の近況について一龍に尋ねると、ブロントが衝撃の事実を伝える。

 

 

「リンインは2組に転入したんだが、同じ2組のルカと色々練習している内に告白したべ」

「うっそだろ!? 一龍に振られて1月足らずで告白かよ? 前向き過ぎだろ!!」

「俺としては一郎に告白していた事が驚きなんですわ、お?」

「ブロントさんには話して無いしな」

「しかもルカって、イタリアの男性操縦者で『ルカちゃまを愛でる会』のルカちゃまだろ!? 意外過ぎる!!」

 

 

 どうやら『ルカちゃまを愛でる会』はIS学園外でも知れ渡っているらしい。ネット上での集まりだから当然であろうが、可愛らしさについて語り合う集まりだから、詳しく知らない人には可愛らしいだけで頼りないイメージを抱かれるだろう。

 

 

「ルカはあれでも剣術が一流でな、入学における教師との模擬戦でも勝ったんだぞ?」

「見事な両手剣装備のナイトだと感心が鬼なった」

「くぅ~。一龍は幼馴染と云う箒さん、鈴にも彼氏が出来てるのかよ……。一龍、俺にも誰か可愛い娘を紹介しやがれ!!!」

「【驚】わ!? プレイ中なのに飛び掛かるな!!?」

「おいィ!? 突然リアルファイトするとかSyあレにならんでしょ?」

 

 

 コントローラーを放り出し、一龍にアームロックを仕掛ける弾。

 そんな騒ぎ立てる彼らの元に部屋の扉を蹴っ飛ばして乱入者が現れる。

 

 

「ちょっとお兄ぃ、五月蠅いのよ! 何を部屋で騒いでんの!!?」

「おいィ…」

 

 

 開け放たれた扉の前に居たのは、弾の赤髪と同じ髪を持つ少女。

 彼女の名前は五反田 蘭(ごたんだ らん)、弾の妹であり現在中学3年生だ。彼より柔らかい髪質の赤髪に彼と同じくバンダナを巻いているのが特徴的だが、何より衣服の恰好が拙かった。

 成長期で胸元の果実が膨らみ始めているその身体を包んでいるのは上はラフなキャミソール、下はホットパンツという格好。しかもホットパンツの前を止めている筈のボタンが止められていない為に、前が開かれて可愛らしい白のレースパンツがチラチラ見えていた。

 余りに刺激的な姿にブロントが呆れ半分の呻き声を上げた。

 

 

「って、一夏さ……じゃなかった、一龍さん!? ……それと、えっと…?」

「おいィ…。紹介したいのは山々なんですがね、その格好は男の眼には毒だべ」

「え? ……っ!!?」

 

 

 一龍の姿に驚愕し、初対面であるブロントに戸惑う蘭だったが、ブロントの指摘に自身の格好を思いだし、顔を真っ赤にしながら扉の陰にすぐさま隠れた。

 

 

「取り敢えず服を着て来るべき、自己紹介はその後で良いんじゃにぃか?」

「そ、そうします……」

「蘭、お前なー、ノックくらいしろよな? 恥知らずな女だと思わ……」

 

 

 更なるブロントの指摘に従うべく扉を閉めようとする蘭だったが、弾の言葉にピタリと止まり彼を睨み付ける。

 実の兄を視線だけで殺せそうな目つきで睨み付けたので弾も言葉を途中で止めてしまった。

 

 

「お兄…、誰のせいだと思ってるの?」

「え……? あっ、そう言えばお前には一龍達が来るって言って無かったか?」

「聞いていないんだけど…?」

「あ~、い、言って無かったか……。そ、そうか~そりゃ悪かったな。あ、あははは……」

「お兄の馬鹿!!!」

 

 

 弾に怒鳴りながら蘭は扉を叩き付ける様に閉じた。

 

 

「あ~、やっちまった…」

「【呆】ちゃんと謝っとけよ?」

「ほむ、『ほう(報告)れん(連絡)そう(相談)』は日常でも大切だべ」

「そうっすね…」

 

 

 その後、蘭に謝った弾だったが、蘭から制裁の踵落としを喰らい沈黙したのだった…

 

 

:::::

 

 

 弾の実家は『五反田食堂』と云う店名の大衆食堂を経営している。

 2階建ての家の1階が食堂となっており、一龍が一夏であった頃は弾の家に遊びに来た日のお昼は一階の食堂で食べるのがほぼ通例となっていた。

 現在、一龍とブロントは蘭が配膳してくれた定食を美味そうに食べており、弾は彼女からキツイ制裁を喰らってテーブルに突っ伏している。

 

 

「あの、ゆっくりしていって下さいね、一龍さん」

「有難う、それと久しぶりだな蘭」

「はい、お久しぶりです。それと…」

「俺はブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザーだ。言い難ければ”ブロントさん”で良い」

「はい、宜しくお願いしますねブロントさん。私は五反田 蘭と言います、蘭って呼んで下さい」

「ほむ、RUNか。宜しく頼むぞ?」

 

 

 改めて蘭と挨拶し合う一龍とブロント。そんな彼女は先程のラフな格好と打って変わって可愛らしいフリルのあしらわれた服に着替えている。

 

 

「可愛らしい服だな、似合っているよ」

「あ、有難う御座います♪」

「うむ、見事なファッションセンスだと感心が鬼するがどこもおかしくない。【もしかして誰かとデートですか?】」

「けっ、何処の馬の骨とも知れねぇ野郎と此処で会う約束だとよ」

「お爺ちゃん!!」

 

 

 ブロントの問いに対して不機嫌な表情で答えたのはこの五反田食堂の店主、五反田 厳(ごたんだ げん)。弾と蘭の祖父であり、一龍も中学生の頃はこの店でバイトをしていた事もあり、色々とお世話になった人だ。遊びに来た時に一龍が挨拶しに来た際に色々と自分の事情を話したが、拳骨を落としながらも無事で良かったと喜んでくれた。

 そんな彼が不機嫌に答えた事に対し、蘭は戒める様な声を上げる。

 

 

「【驚】弾! 蘭って彼氏が出来たのか!?」

「そうなんだよ! しかもお前と出会ったあの日だぜ? 俺も爺さんもビックリだって!」

 

 

 蘭に彼氏が出来た事に驚いた一龍が小声で弾に尋ねて、彼が肯定する。

 経緯を聞こうと一龍が口を開いたところで店の扉が開き、誰かが入って来た。

 

 

「来やがったな!」

 

 

 入店と同時に厳がおたまを勢いよく入店者へと投げつける。高速で回転しながら飛んできたおたまだったが、入店者は難無くキャッチする。

 

 

「っち、簡単にキャッチしやがる」

「…御挨拶だな、大将」

「「シン!?」」

 

 

 入店してきたのは間薙 シンであった。シンがおたまをキャッチした事に厳は舌打ちし、一龍とブロントは驚愕する。

 

 

「シンさん!? 大丈夫ですか?」

「ああ、問題無い」

「もう、お爺ちゃん! いきなりシンさんに何するの!?」

 

 

 慌てた様子で蘭はシンへ駆け寄り彼の無事を確認しつつ、厳を睨み付ける。

 

 

「俺が投げたおたまを掴める男だ、全く問題無ぇだろうに。それより、一龍とブロントさんは知り合いなのか?」

「【驚】同じ男性操縦者なんですよ!? て言うか、シンが蘭の彼氏!?」

「あもりにも世界は狭いと言う事に驚きが鬼なった。この驚愕はしばらくおさまる事を知らにぃ…」

 

 

 驚いた表情のままで厳の問いに答える一龍とブロント。彼等からしてみればシンは恋愛毎に興味ない様なイメージを抱いていたので、正に意外だったのだ。

 シンはシンで五反田食堂に一龍とブロントが居た事に軽く首を傾げる。

 

 

「…一龍とブロントさんか、何故此処に?」

「此処は俺の友人の店だから遊びに」

「俺も誘われたから遊びに来たべ」

「友人?」

「一龍さんとブロントさんはお兄と友達なんです」

「弾の友人か」

 

 

 一龍達の説明にシンは納得する。その後、シンも一龍達の席に同席して定食を戴く事にした。

 

 

「しっかし、シンが蘭と付き合っているなんて…驚いたな。何処で知り合ったんだ?」

「不良に絡まれて危なかった所を助けてくれたんです♪」

 

 

 蘭はシンとの馴れ初めを一龍達に語り出した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

一龍が箒とデートした日

 

 

 休日と言う事でレゾナンスは遊びに来ていた五反田兄妹。途中から後で落ち合う約束をして各自、好きな所を見て回る事にした。

 衣服や靴といったファッションの店舗を回り、買い物を楽しんでいると懐かしい顔を見付ける。それは自分が小学生の時に知り合い、見惚れた少年であり、現在葉佩 一龍と名乗っている青年、織斑 一夏だった。

 嬉しさの余り駆け寄って彼に声を掛けようとするが、喉元で止まってしまう。遠目からは見えなかったが、彼は見知らぬ女性()を連れていたのだ。

 仲良さそうに会話する2人。彼も、そして連れの彼女も幸せそうな表情であり、深い関係である事が見ただけで解かる。蘭はこれ以上、その様子を見ていられず、その場から走って逃げだした。

 

 何処をどう走っているのか分っておらず、自身が見てしまった現実から逃げる様に蘭は只々、走っていた。しかし、前をよく見ていなかった彼女は誰かにぶつかってしまった。

 

 

「痛っ!? おい、何ぶつかってんだよ!!」

「ご、御免なさいっ」

 

 

 ぶつかってしまった相手が苛立たしげに怒鳴りつけてきたので、我に返った蘭はすぐさま謝った。どうやら3人組の1人にぶつかってしまったらしく、目の前には黒、赤、青と色違いの服を着たチャラい男達が立っていた。

 謝る蘭に対して、怒鳴った男は怒った表情を消してまじまじと蘭を眺めてきた。

 

 

「なぁ、この娘めちゃ可愛くね?」

「えっ、マジマジ? ホントだ、バッチェ可愛いじゃん?」

「ねぇ彼女、俺らと遊ばな~い?」

 

 

 蘭に対してナンパしてくる男達。下心を取り繕う気も無いらしく、ニヤニヤと露骨な視線を向けて来るので、そのあからさまな態度に恐怖を感じた蘭は後ずさる。

 

 

「あ、あの…忙しいので遠慮します」

「そんな事言わないでさぁ?」

「俺等と楽しもうや! なぁ?」

「け、結構です!!」

 

 

 踵を返して走り去ろうとした蘭だったが、男の1人が右腕を掴んできた。

 

 

「なっ!? 放して下さい!!」

「おい犯っちまおうぜ!お前!」

「犯っちまうか?」

「犯っちゃいますか!?」

「な、何をするんですか!?」

 

 

 掴まれた右腕を解こうとするが大の男の力に勝てる筈も無く、嫌がる蘭を余所にビルとビルの隙間にある裏路地へと引き込んでいく。元々人通りが少ない道だったらしく、蘭と男達以外に周囲には人の気配が無い。

 

 

「やぁっ、放してぇ!!」

「嫌がらねぇでよぉ、俺達と楽しもうぜぇ!!」

「きゃあ!?」

 

 

 突然路地裏の奥へ突き飛ばされ、蘭は尻餅を付いてしまう。

 

 

「へぇ~、可愛いパンツ履いてんじゃん?」

「おっぱいはまだ発育段階だが、十分だよなぁ?」

「見ろよ、太ももとか良い感じだぜ?」

 

 

 捲れてしまったスカートからパンツが見えてしまい、男達は嫌らしい目付きでジロジロと眺めてくる。

 慌ててスカートの裾を下げて隠して立ち上がろうとするが、足が震えて立つ事が出来ない。

 

 

「震えてんの? 可愛いねぇ~」

「怖がる姿がまたそそるよなぁ?」

「俺もう我慢出来ないんですけど~?」

「い、嫌っ……(怖いよ…誰か……)」

 

 

 これから男達に何をされるのか、想像するだけで蘭は恐怖で震える。

 迫って来る男達を前に、蘭は目を瞑って心から願った。

 

 

(誰か助けて────ッ!!)

 

 

その時、何処からか声が聞こえてきた。

 

 

「おい」

「何だ……ぶげぇっ!!?」

 

 

 突如、蘭に一番迫っていた黒服男がトラックに轢かれたカエルの様な悲鳴を上げて倒れ込む。倒れて地面に這いつくばった状態の男の上には一人の青年が立っており、男を踏んづけていた。

 呆けた表情でその状況を見ていた蘭に青年はチラリと視線を向ける。

 

 

「……大丈夫か?」

「えっ……? あっ、はい!」

「ほら、立てるか?」

 

 

 男の背中から降りた青年は蘭の前に片手を差し出す。蘭が右手を伸ばして青年の手を掴むと、彼は腕を引っ張って立ち上がらせた。先程まで震えていた筈の脚は何時の間にかその震えが止まっており、蘭は難無く立ち上がる事が出来た。

 

 

「…こいつ等は俺が抑えておくから今の内に逃げろ」

「あ、あの…」

「ちょっと兄ちゃん何のつもり~?」

「女の子のピンチに颯爽と駆けつけるヒーロー気取りですか~?」

 

 

 蘭に逃げる様促すシンだが、残りの男2人がシンへ絡んでくる。そして倒れていた黒服男も立ち上がり、シンを睨み付けてきた。

 

 

「いって~……。おいテメェ、良い度胸じゃねぇか、なぁ?」

「あ~あ、キンちゃんを怒らせちゃったよ」

「これは死刑コースまっしぐらっしょ、可哀想~」

 

 

 黒服男が構えを取り、シンへと向かって来る。

 

 

「俺等の邪魔をした覚悟は出来てんだろうなぁ~?」

「………ふっ!!」

 

 

 シンは左足を後ろに回して『気合い』を込め、左足に全体重と体内を巡るエネルギーを掛けて黒服男へ『突撃』した。左足で蹴った途端、踏み込んだ床煉瓦が砕け散り、左足を中心に波紋状の衝撃波が発生する。床煉瓦を踏みしめた左足から生み出された反発力は身体を通して右肘に収束し、黒服男の鳩尾へと打ち込まれた。

 

 

「吹き飛べっ…!!」

「ぼげらばぁぁぁぁぁあああっ!!?」

 

 

 シンの右肘は見事に鳩尾にめり込んだ後、黒服男は勢い良く吹き飛んだ。

 黒服男は後ろの2人の間をすり抜けて飛んで行き、10メートル程先で落下、更にバウンドしながら5メートル転がって漸く停止した。黒服男はくの字に倒れ込んだまま、ピクピクと痙攣を起こしている。

 

 

「まだやるか?」

「てっテメェ!!」

「嘗めんじゃねぇ!!」

 

 

 シンの言葉に残り2人は激昂し、襲い掛かる。

 

 

「ふんっ!!」

「ぎゃぼっ!?」

 

 

 赤服男が殴り掛かって来るが、シンは簡単に避ける。避けられた赤服男が前のめりによろけた所で裏拳で後頭部を叩き込むと、顔面を勢い良く床にぶつけ、そのまま動かなくなる。

 

 

「死ねぇ!!」

「あ、危ない!?」

 

 

 青服男が懐からナイフを取り出してシンに突き刺そうと飛び掛かる。

 思わず蘭が声を上げるが、シンは落ち着いた様子で突き出してきたナイフを左手で掴む。

 

 

「なっ!? は、放せ!!」

 

 

 慌てて青服男はナイフを引き抜こうとするが、シンに掴まれた刃は少しも引き抜く事が出来ない。

 シンがそのままナイフを掴んだ手の腕を捻ると、あっさりとナイフはポッキリ折れてしまった。

 

 

「お、折れ……ふぁびょお!!?」

 

 

 ナイフが折られた事に青服男は呆然となるが、シンが右足を振り上げて踵落としを脳天にぶち噛まされた事で沈黙する。

 3人の男達がシンによって倒されたのは僅か数分の出来事だった。

 

 

「…逃げろと言った筈だが?」

 

 

 シンの言葉に蘭は我に返る。

 流れる様な動きで襲ってきた男達をアッサリ倒してしまったシンの姿に彼女は見惚れていたのだった。

 

 

「あ、あの…助けてくれてありがとう御座います!」

「別に良い。勝手にした事だ」

「でも……!?」

 

 

 蘭はシンに感謝を述べるが、シンの左手から血が垂れている事に気付く。

 どうやら青服男のナイフを掴んだ時に掌が切れてしまった様だ。

 

 

「血が出てるじゃないですか!」

「これ位、如何でも無い。すぐ治る」

「駄目ですっ! 手当てしますから来てください!」

「いや、しかし…」

「実家は近くですから!」

 

 

 渋るシンだったが、蘭はそのまま彼の右手を掴んで家まで連れ帰り、手当をしたのだった。その後、色々と話をしている内に蘭はシンに告白。シンはそのまま了承し、騒動が起きたらしい。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「と云う訳で、シンさんは私にとっての恩人なんです」

「ほむ、乙女のピンチにカカッと駆けつけるとは見事なナイトっぷりだと関心はするがどこもおかしくはないな」

 

 

 頬を赤く染めながら事の顛末を説明した蘭はさり気無くシンの腕に抱き着いていた。

 成程と一龍は納得する。蘭が危なかった所をシンが助けた事から彼に惚れてしまった様だ。

 

 

「へっ! ゴロツキ共の仲間かもしれねぇってのにあっさり心を許しやがって…」

「だからお爺ちゃん、シンさんは違うってば!」

 

 

 鼻を鳴らしながら厳がそんな事を言い、蘭が否定する。確かに人気が無かった所に都合よく駆けつけて来たのは都合が良い気もするが、シンなら遠く離れた所からでも悲鳴を聞き付けて駆け付けそうだと一龍は思った。

 

 

「シンが悪い奴じゃないって事は俺が保障しますよ厳さん」

「俺も市郎の意見に賛成だな。シンはミステリアスな雰囲気を持つが仲間想いの紳士だべ、英語で言うなら gentleman」

「一龍が言うなら文句は無ぇが…」

 

 

 一龍達の弁護に厳は渋々ながらも納得する。

 

 

「ほらっ、一龍さん達もこう言ってるんだよ? じゃあ、私はこれからシンさんとデートだからっ」

「おいっ、蘭! だからってそいつとのお付き合いを認めた訳じゃ無ぇぞ!!」

「シンさん、行こっ♪」

「…良いのか?」

 

 

 厳の言葉を気にする様子も無く、蘭は食事を終えたシンを連れてそのまま出て行ってしまった。

 

 

「……行きやがった」

「厳さん、シンの事が気に入らないんですか?」

「いやな、1回会っただけの奴に蘭が一目惚れするってのがな…」

「【困】俺の時も一目惚れだったって弾に聞いたんですが…」

「おめぇさんの時は好青年なガキだったからよ、問題無いと感じたんだがヤツからは何か危ない雰囲気を感じまってどうも……」

「そるは否定できにぃな…」

 

 

 何だかんだでシンの意外な事に気付いていた厳だった。

 

 

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夕方

 

近所の公園

 

 

「シンさん、今日は有難う御座いました」

 

 

 レゾナンスでのデートを楽しんだ後、蘭はシンに感謝の言葉を告げた。

 

 

「それと御免なさい、お爺ちゃんがあんな事してしまって」

「気にするな、孫想いの良い人じゃないか?」

「あれは過保護過ぎです…」

 

 

 シンの言葉に蘭は苦笑いする。

 

 

「IS学園は楽しいですか?」

「そうだな……本当なら高校を卒業して大学に進学しているか就職しているかだったからな、2回目の高校生活というのも悪く無い」

「そうですか…」

 

 

 質問に答えたシンに対して、何か考え込む蘭。

 そして、決心した面持ちで彼女は声を上げた。

 

 

「決めました! 私、来年IS学園を受験します!!」

「…蘭の学校はエスカレーター式で大学まで進学出来るんじゃ無かったか? 折角、確実に進学出来るのに良いのか?」

 

 

 蘭が通っている学校はお嬢様学校で有名な『私立 聖マリアンヌ女学園』であり、現在中等部3年の彼女は生徒会長を務めている。勿論、学園内で高等部、大学へ進学する際には進学試験が行われるが、一般の高校や大学の試験よりは甘い上、蘭は成績優秀且つ生徒会長と云った功績があるので問題無く進学できるのだ。

 

 

「大丈夫です。私の成績なら筆記も余裕ですし、IS適性もA判定なんですよ?」

「俺がとやかく言う資格は無いのだが………、俺個人としてはIS学園に入学するのは余り賛同出来ない」

「!? ど、どうしてですか?」

 

 

 シンの入学は勧めないと云う言葉に蘭は戸惑う。

 

 

「IS学園はISパイロット、整備士を育成する事をメインにした教育機関だ。勿論、教育内容は一般高校の学業にIS学を増やした様なモノだから卒業後はISに携わらない進路を選ぶ事も出来る。だが、ISに深く関わる事になる以上、今の社会風潮がネックになる」

「ネック……ですか?」

 

 

 シンの言葉に蘭は首を傾げる。

 

 

「蘭はISの事をどの様なモノと思っている?」

「? スポーツとして使われるパワードスーツでしょうか?」

「……一般的な観点として答えるならそれが普通なのだろうな。だが政治的観点で視れば軍事的象徴だ」

「軍事的象徴?」

 

 

 今一、解かっていない様子の蘭。世間ではISは軍事利用が禁止されており、安全なスポーツ競技用のパワードスーツとして使われていると通っているのだから当然かもしれない。

 

 

「ISは元々宇宙開拓の為に用いるパワードスーツとして造られたと言われている。だが、開発当初は誰もその性能の高さに信じる事は無かった。そしてISが世界的に認められた事件は……何だ?」

「白騎士事件……ですよね?」

「そうだ。だが、その時にISは宇宙開拓用の道具として認められた訳では無い」

「っ!? 兵器としての力が認められた!!?」

 

 

 ハッとした表情で答える蘭にシンは頷く。

 

 

「そうだ。だからこそアラスカ条約が結ばれてISは軍事利用が禁止、競技用としてしか使われなくなった……あくまで表側でだがな。だが、モンドグロッソ等での競技での使われ方を考えてみろ? レースや飛行技術を比べる競技こそあれどメインとなっている競技は武器を使った『戦闘競技』だ」

「!?」

「ISにはシールドや絶対防御がある。だからこそ武器を使っても……まぁ、競技用の武器を使っているとはいえ安全な競技をしている様に見える。だが、実際にはその競技は参加した国が作成したISの性能を比べる代理戦争と言っても過言じゃ無い。そしてそれが何時、本当の戦争に用いられるかも分からない」

「でも条約で禁止されている以上、そう簡単に軍事利用はされないんじゃないですか?」

「先程競技用として利用しているのはあくまでも表側と言ったよな? 実際にはISを所持している国は殆どで軍事兵器としての実験・研究が行われているし、それらが何時、実戦転用されるか分かったモノじゃない。戦争で自国の危機に陥ったら条約なんて平気で無視するだろう。そして、それが引き金になって世界中で軍事利用が始まる」

「…………」

「そうなってしまえば戦地に送られるのはISパイロットや整備士達、それら経験がある者達だ」

 

 

 蘭は理解した。

 IS学園に入学すると云う事はISパイロット、そして整備士としての技術・経験を得ると云う事であり、この経験を持った者はもしもISが戦争に利用された時に戦場へ赴く事になる可能性が有ると云う事を…

 

 

「俺としては彼女がそんな可能性がある場所へ入学して欲しくないというのが有るんだが…」

「…………」

 

 

 シンが自分の事を心配してくれている事を嬉しく思う反面、彼に惚れたからと云う理由で深く考えずにIS学園へ入学しようと考えた事を蘭は恥じた。

 しかし、シンは意外な言葉を口にした。

 

 

「だが、蘭の人生はお前だけのモノだ。進路を如何するかは好きに決めれば良い」

「IS学園に入学しても良いんですか?」

「俺が話したのはあくまでも可能性の話だからな。実際に起こり得る事だとはいえ、起こらないかもしれない。それに……」

 

 

 途中で言葉を止め、シンは蘭の頭を優しく撫でる。

 

 

「もしもそんな事になったら、俺が守ってやるさ。世界を敵に回しても、な?」

「─────────ッ!!」

 

 

 告白と言っても過言では無い発言に蘭の顔が茹蛸の様に真っ赤になる。

 

 

「世界を敵に回してもって……一寸クサくないですか?」

「…そうかもな」

「ふふっ、でもそう言って貰えて嬉しいです♪」

 

 

 クスリと笑った蘭はシンの腕に抱き着く。

 

 

「自分の進路、もう少し考えてみます」

「そうか。ま、その方が良いな」

「もし……、IS学園に入学した際にはシンさんにお手引きをお願いして良いですか?」

 

 

 未だ頬を赤く染めながら、蘭はシンに尋ねる。

 

 

「良いぞ。何だったら、就職先も推薦してやる」

「推薦って…何処ですか?」

「桐条グループだ。俺は其処の専属パイロットって事になってるからな」

「ぶっ、世界屈指の大企業じゃないですか!!?」

 

 

 シンが所属している企業に驚愕する蘭。

 その後、家族を交えて自身の進路を話し合い、やはりIS学園へ入学する事を決めた蘭。シンに言われた事等、色々考えたが彼と共に歩んでいきたいと心に決めたのだった。

 

 

TO BE CONTINUE




次回はアンケート結果より、真次郎とセシリアのデートを予定。
活動報告にて幕間でどんな話を優先的に読みたいかアンケートを続けておりますので、良かったら御回答御願いします。


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