一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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今年最後の投稿となる幕間第2弾は学園最強(笑)こと楯無に降りかかる災難となります。
尚、今回の話は完全にネタまみれなのでご注意下さい。


 がんばれ楯にゃん シスコン道中~彼女が裸エプロン先輩と呼ばれる理由~

『IS学園の生徒会長は学園最強でなくてはならない』

 この言葉はつまり、学園で最強であるならば学年問わずに生徒会長に成る事が出来ると云う事である(え? 学園最強ならば元ブリュンヒルデである織斑 千冬よりも強くないといけないのではないのかって? こまけぇこたぁいいんだよ!!)。

 そして現IS学園生徒会長である更識 楯無はIS学園入学後、1年生の身で当時生徒会長であった3年生を撃破し、生徒会長の座を勝ち取った猛者である。

 更に彼女は専用機『ミステリアス・レイディ(霧の淑女)』を持つロシア国家代表であり、日本のカウンターテロ組織『更識家』の次期党首でもある。

 そんな彼女が男性操縦者達が入学して来た事によって、受難の日々を送る様になるとは当の本人も知る筈が無かった。

 

 

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『IS学園(ISがくえん)』 生徒会室

 

 

 IS学園生徒会長、更識 楯無は悩んでいた。というのも原因は今年から入学して来た男性操縦者達である。

 勿論、世界で7人しかいない男性操縦者達を軽視していた訳では無い。IS学園、そして学園生徒達を守る生徒会長として、学園内で暗躍しようとする裏の組織に対するカウンターテロ組織の主として、あらゆる方面から注目を受けている彼等を守る為に学園内の警備や警護を如何にするか考えていた。突然、ISを起動してしまった哀れな一般人として……

 しかし、彼女の彼等に対する評価は大きく変化する事になった。というのも、5月のクラス代表対抗戦で起きた無人機による襲撃事件が理由だ。

 襲撃事件において、彼等は競技用ISの性能を超える無人機20機を相手に大きなダメージ無く全滅させたのだ。

 生徒会長席に座る彼女の前には男性操縦者達のプロフィールが纏められた書類が並べられていた。

 

 

「お嬢様、お気持ちは分かりますが、そろそろ仕事の方をして頂きたいのですが…」

 

 

 そんな彼女に生徒会会計である布仏 虚(のほとけ うつほ)が楯無に仕事の催促をする。

 

 

「駄目よ虚ちゃん。今回の事件で男性操縦者達は只者で無い事が分かったのに、彼等の詳しい正体が解かっていないのよ?」

「それはそうですが……」

 

 

 整備課の3年生である彼女は先祖代々更識家を支えてきた一族であり、彼女自身が楯無専属の従者、つまりメイドである。因みに妹である本音は簪のメイドだったりする。

 

 

「3組の熊田 陽介については本音ちゃんから色々と聞き出せてはいるけど、それでも情報が全然足りないわ」

「彼については基本食べ物の話しか聞いてないそうですしね」

 

 

 クマこと陽介とお菓子パーティ仲間である本音は彼から色々と話を聞いているが、有益な情報は手に入っていない。まぁ、本音本人が乗り気で無い為に聞き出していないのかもしれないが…

 

 

「何より問題なのは……、この男よ!」

 

 

 そう言って楯無は虚の前にある男性操縦者のプロフィール書類を置く。

 書類に書かれている男性操縦者の名前欄には『ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー』と書かれていた。

 

 

「コイツは簪ちゃんと同じクラスである事だけで飽き足らず、簪ちゃんと仲良くしているのよ!!? 信じられないわ!!」

「………は?」

 

 

 楯無の言葉に虚は戸惑いの声を漏らす。

 

 

「簪ちゃんの専用機にも色々と手を出しているらしいわ。きっと恩を着せて何か善からぬ事を簪ちゃんにする気なのよ!!」

「…………」

 

 

 簪の姉である楯無は生粋のシスコンであった、しかも重度の…

 

 

「簪ちゃんも何であんな男に心を許しているのかしら?」

「お嬢様、生徒達の話を聞く限り彼は話し方こそ変わっていますが好青年だと聞いていますよ?」

「猫を被ってそう偽っているだけよ! 男なんて皆ケダモノなのよ?」

 

 

 自分の妹が知らない男と仲良くなっているのが心配なのは解かるが、そう一方的に決めつけるのは如何なものだろうか? 楯無の態度に虚は呆れる。

 

 

「兎に角、何が目的か調べなくちゃ!」

「……はぁ。変な事はしないで下さいね?」

 

 

 嫉妬オーラを燃え上がらせる楯無に虚は戒める様に注意をするが、多分無駄であろうと内心諦めていた。

 

 

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後日

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮廊下

 

 

「ふぅ、今日も疲れたべ…」

 

 

 整備室で簪の専用機の整備を手伝ったブロントは自分の部屋へと向かう。

 クラス代表戦の1年4組代表に成ったにも関わらず、無人機が襲撃してきた為に出場する事が出来ず、そのまま無人機の襲撃を迎え撃った簪。クラス代表対抗戦はそのまま有耶無耶になって終わってしまったが、彼女は次回の対抗戦に向けて改めて準備を進めている。

 そんな彼女を手伝っている本音とブロントは今日も簪の専用機である打鉄弐式の整備を手伝っていた。

 機体の調整や自身のISとの模擬戦等を終わらせ、ついでに簪と今度遊ぶ約束をし、自分の部屋の前へと戻って来たブロントが鍵を開けて扉を開けると……

 

 

「お帰りなさいアナタ♪ ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

「…………………」

 

 

 ブロントの部屋中には裸エプロン(正確にはビキニ水着の上にエプロン)の楯無が待っていた。

 そのまま数分間の沈黙が続く、そして…

 

 

パシャッ! バタン!

 

 

 ブロントはポケットの携帯電話で部屋内の様子を写メで撮った後そのまま部屋の扉を閉じると、携帯電話を取ってある所へ電話を掛けた。

 

 

「あもしもし? あもしもし? あすいません、あの、自分の部屋に、変態裸エプロンがちょっと入り込んでるんですけど…。不法侵入ですよ不法侵入! あ今すぐ、来て下さい。お願いします!!」

「ファッ!?」

 

 

 予想外の行動に楯無は変な声を上げる。このままでは拙いと判断し、どう脱出しようか思考を巡らせていると別の声が聞こえてきた。

 

 

「何やブロントさん、部屋の前で如何したん?」

「げっ!?」

「ほむ、ニコラウスか。今部屋の中に変態裸エプロンが入り込んでいるんですわ、お?」

 

 

 如何しようかと悩んでいる内にもう一人の住人であるニコラス・D・ウルフウッドが帰って来た。

 

 

「は? 裸エプロン? どういうこっちゃ?」

「多分変態だと思うんだが(名推理)」

「んなアホな……」

 

 

 そんな言葉と共に扉を開けて部屋の内部を確認したニコラス。

 中には水着エプロン姿(傍目には裸エプロンに見える)の楯無が。

 

 

「………………」

「………………」バタン

 

 

 互いの目が逢って数秒間の沈黙の後、ニコラスは無言のまま扉を閉じた。

 

 

「おった…、確かに変態やな…。でもアレやないか? ハニートラップってヤツ?」

「おいィ……。裸エプロンで待ち受けるとかいくらなんでもダイレクトアタック過ぎるでしょう?」

「まぁ、それもそうやな。で、さっきは誰に電話掛けてたん?」

「寮監だべ」

「オワタ……orz」

 

 

 ブロントの通報先に逃げ場が無い事を悟る楯無。

 そして、数分も経たない内に新たな声が聞こえてきた。

 

 

「生徒のピンチにいざ参上~。ブロント君、大丈夫~?」

「もうついたのか!」

「はやい!」

「きた! 寮監きた!」

「メイン寮監きた!」

「これで勝つる!」

「オゥフ」

 

 

 寮監の教師の声にブロントとニコラスは歓喜し、楯無は絶望の声を漏らす。

 

 

「私が来たからにはもう安心よ♪ さぁ、寮監よ~! 観念しなさい!!」

 

 

 愛宕が部屋に入り、楯無へ飛び掛かる。

 相手が教師である上に自身に非が有る状況な為に抵抗出来ない楯無はそのまま押さえ付けられてしまった。

 

 

「何が目的なの? 物? お金?」

「ち、違います!!」

「特に部屋には異常は無い様ね…あら? 良く見たら貴女は2年の楯無さんじゃない、何をしているの?」

「えぇと………その……」

 

 

 この状況を如何乗り切ろうかと楯無は脳内で高速思考する。

 優しい性格である愛宕なら上手く理由を説明すれば何とかなると考えるが、運命は残酷だった。

 

 

「生徒達が騒がしいから来てみれば…、何をしている更識?」

「織斑先生……」

 

 

 もう一人の寮監である千冬までもが到着した。

 

 

「織斑先生も来たんですか~?」

「同じ寮監なんですから来ますよ、船越先生。さて更識、生徒会長と云う身でそんな恰好で男性生徒の部屋に不法侵入するとは良い度胸だな?」

「あ、あの……これには訳が…」

「弁解は聞いてやる。但し、生徒指導室でな」

「逃げちゃ駄目よ~?」

「………はい…」

 

 

 両腕を千冬と愛宕に捕まれ、楯無はドナドナされて行く。

 

 

「うら若き乙女の裸エプロンじゃとぉ!!? 是非とも写真を「ふんっ!!」ぶべらっ!?」

 

 

 何処で聞き付けたのか玄道がカメラを片手に走って来るが、千冬の裏拳によって沈められる。白目を剥いて倒れている彼を尻目に、楯無は千冬と愛宕に挟まれて生徒指導室へと連行されるのだった。

 

 勿論、水着にエプロン姿のままで……

 

 そしてその姿は騒動で廊下に出て来た生徒達全員に目撃される事となり、楯無受難の始まりとなったのだった…

 

 

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翌日

 

『IS学園(ISがくえん)』 学園校舎廊下

 

 

「ひ、酷い目に遭った……」

 

 

 千冬と愛宕の2人に生徒指導室へ連行され、一晩中説教を受けた楯無はその目の下に大きな隈を作っていた。

 

 

「冗談のつもりだったのに……虚ちゃんの忠告を聞いておけば良かったわ。それにしても……」

 

 

 楯無に対して周りの生徒達がジロジロと眺めては何かをヒソヒソと話している。中には学校新聞らしきモノと楯無を交互に見比べている者もいる。

 

 

「何か何時もより周りから視線が多く感じるんだけど、まさかね……あら?」

 

 

 ふと、彼女の視界に1年1組の生徒である葉佩 一龍が映る。彼は同じクラスの生徒である箒と仲睦まじく会話していた。

 

 

「こうなったら、直接話をして上手く聞き出すしかないわよね?」

 

 

 自身が直接話をして情報を聞き出す方針を決めた楯無は一龍の元へ向かい話し掛ける。

 

 

「ねぇ君、1組の葉佩君だよね?」

「【友】あ、裸エプロン先輩こんにちわ」

「ファッ!!?」

 

 

 突然の渾名に驚愕の声が漏れる。尚、一龍の横にいる箒の視線が冷たい。

 

 

「あ、あの……葉佩君? 何でそんな呼び方するのかな~?」

「学園中の噂で持ち切りですよ? 生徒会長が欲情して男性操縦者を襲ったって」

「…………へ?」

「他人の部屋の鍵を開けて不法侵入した挙句に裸エプロンで待ち受けていたなんて、こわいなーとづまりすとこ(棒読み)」

「…………ウゾダドンドコドーン!」

 

 

 知らぬ間にとんでもない事になっていた。

 一龍が言った内容は「欲情して襲った」、「裸エプロン」以外に間違いが無い。無いのだがそれが何より悔しい。

 取り敢えず欲情して襲った訳では無い事を説明しようと彼に近付くと、箒が前に立ち塞がる。

 

 

「裸エプロン先輩」

「はい?」

「上級生に対して失礼とは思いますが、これ以上一龍に近付かないで頂けますか?」

「いや……あの…」

「近付かないで頂けますか?」

「……………はい…」

 

 

 有無を言わせない様な箒の声に、楯無は只々従うしかなかった。これ以上、一龍に近付いたり話し掛けたら殺してやると言わんばかりな剣幕の彼女であった為、楯無はその場を去らざる得なかった。

 

 

「一体どうして………ん?」

 

 

 ふと壁に貼られている学校新聞が目に付いた。

 学校新聞にデカデカと書かれた見出しには……

 

 

『後輩レ○プ!? 野獣と化した生徒会長!!』

 

 

 と書かれており、顔にモザイク処理が為された水着エプロン姿の楯無が千冬と愛宕の2人に連行されている姿が写真で写されていた。正直言って、モザイク処理が為されていても記事のタイトルに生徒会長と書かれているのでプライバシー保護もへったくれも無い。

 

 

「う、嘘でしょ……?」

 

 

 信じられない表情になる楯無。

 記事には先程一龍が言った内容が書かれており、他の写真にはブロントが撮影したと思われるポーズを決めている楯無の姿があった。

 

 

そしてその後、彼女の受難が本格的に始まる事になる。

 

 

 

・荒垣 真次郎の場合

 

「荒垣君、ちょっと良いk「いけませんわ─────────ッ!!!」…!?」

「うお!?」

 

 

 真次郎を見付けた楯無が彼に話し掛けようとすると、叫び声と共にセシリアが2人の間に飛び込んで来た。

 

 

「セシリア!?」

「いけませんわシンジさん! この方とお話されてはいけません!!」

「ちょ、ちょっと! どういう事よ!!?」

 

 

 真次郎の前に立ち塞がりながらセシリアは楯無を睨み付けている。

 

 

「この方は己の性欲を持てあます余りにニコラスさんとブロントさんの部屋に不法侵入した挙句、裸エプロンと云う破廉恥な格好で待ち構えていたそうですわ!!」

「ぶふぅう!!?」

「ああ。テメェが例の裸エプロン先輩って奴か?」

 

 

 セシリアの言葉に楯無は吹き出し、真次郎は納得する。

 

 

「行きますわよ、シンジさん! 此処に居ては何をされるか分かりませんわ!!」

「ちょ、ちょっと待って! 一部内容に誤解が……」

「きっとお茶に誘って、睡眠薬入りのアイスティーを飲ませた挙句、地下室に連れ込んであんな事やこんな事をするに決まってますわ!!」

「お前は何を考えているんだ……」

「お願い───ッ!! 話を聞いて───ッ!!」

 

 

 楯無の懸命な声も届かず、セシリアに手を引かれた真次郎は去って行った。

 残るは orz のポーズで崩れ落ちる楯無1人、そんな彼女を周りの生徒達が生暖かい目で見詰めているのであった。

 

 

 

・ルカ ミルダの場合

 

 意気消沈する楯無が廊下をトボトボと歩いていると、周りの生徒達の黄色い声が聞こえる。声の先を見ると男性操縦者の1人であるルカ ミルダが女子生徒達に囲まれていた。彼女達は十分会話したらしく、ルカの元から離れて行き、この状況が話しかけるチャンスだと楯無は彼に近寄って話し掛ける。

 

 

「ルカく~ん、ちょっとお姉さんとお話しn「掌底・発勁!!」……ない?」

 

 

 掛け声と共に楯無の鼻先をナニカが掠めて通り過ぎる。

 ナニカは廊下の窓を超えて遥か彼方へ消え去った。

 鼻先がチリチリと焦げるのを感じながら楯無が声の方を振り向くと、ツインテールを逆立てた鈴音が片手を彼女へ翳しながら睨み付けていた。

 

 

「あ、貴女は……」

「リン?」

「ふっしゃあぁ─────────ッ!!!」

 

 

 まるで怪我をした子猫を外敵から命を賭して守る母猫の様に、鈴音はルカを背にして楯無の前に立ち塞がると、彼女に対して威嚇する。

 

 

「一歩でもルカに近づいてみなさい、生まれてきた事を後悔する位に地獄を見せてやるから!!」

「何!? 私、貴女の仇敵!?」

「リン、知り合いなの?」

「ルカも聞いているでしょ? コイツが例の変態裸エプロン先輩よ!!!」

「あぁ、この人なんだ……」

「ぶふぉお…」

 

 

 楯無を睨み付けながら説明する鈴音に、ルカは相手が何者なのか納得する。

 そして相変わらず、裸エプロン呼ばわりされている事に楯無は絶望の呻き声を零す。

 

 

「裸エプロンで他人の部屋に不法侵入するヤツなのよ? きっとルカをどっかに連れ去った後に首を絞めたり、鞭攻めや蝋燭攻め、水攻めとか虐待を仕掛けて楽しむに決まっているわ!!」

「えっ…何それは…(ドン引き)」

「ちょっと待って!? 私の話を…「問答無用よ!!」…!?」

 

 

 弁解しようとする楯無に対し、鈴音はポケットからスイッチらしき物体を取り出すとそのスイッチを押す。スイッチらしき物体からアラームらしき音が廊下に鳴り響くと、何かが集まって来る振動音が聞こえてきた。

 

 

「非常事態のアラートよ!!」

「皆のルカちゃまがピンチだわ!!」

「者共! 出合え、出合え─────ッ!!」

「おのれルカちゃまを狙う賊めが!!」

 

 

 廊下の両側から、果ては上や下の階から窓を潜って大群が押し寄せて来る。大群はルカと鈴を守る様に囲み、楯無がルカ達へ届かぬ様に壁となった。

 

 

「やだ、何これ……」

 

 

 アラームが鳴り響き、一分足らずで出来た状況に楯無は引き気味になる。1年生から3年生まで学園生徒達が揃っており、中には教師や用務員、マミーズのウェイトレスといった職員達まで混ざっていた。

 

 

「ねぇ、大井っち。この人って…」

「裸エプロン先輩だわ」

「裸エプロンの生徒会長だね」

「変態裸エプロンかぁ、たまげたなぁ…」

「ちょっと、だから裸エプロンじゃないってば!!」

 

 

 ルカを守る集団が楯無を見ながらザワザワと騒ぎ出し、楯無も事実無根な内容を訂正するべく弁解しようとする。

 

 

「例え生徒会長であろうとも」

「ルカちゃまを狙うと云うのなら」

《我等『ルカちゃまを愛でる会』が許さない!!》

「す、すいませんでした……」

 

 

 『ルカちゃまを愛でる会』面々の迫力に、楯無は何故か謝る始末。そのままルカは彼女達に連れられて何処かへ去って行ってしまった。

 

 

 

・熊田 陽介(クマ)の場合

 

 

「かいちょう~」

 

 

 意気消沈の楯無の元へ本音が駆け寄って来る。声こそのほほんとした感じではあるが、本音は何時ものぽややんとした雰囲気が無く、真剣な表情であった。

 

 

「あら……本音ちゃん、如何したの?」

「あのね、かいちょうにお願いがあるの~」

「お願い?」

 

 

 首を傾げる楯無に本音は切実な表情で答える。

 

 

「私がちゃんとクマさんから聞き出すから、かいちょうはクマさんに会って欲しくないの」

「………へ?」

 

 

 だぼっとした袖をプラプラさせながら、本音が言った内容を楯無は理解出来なかった。

 

 

「私ね、クマさんとお付き合いしてるの。だから聞き出すついでに襲って欲しく無いんだ?」

「あ、あの……本音ちゃん? もしかして学校新聞の内容を信じていないかな~?」

「兎に角私が頑張るから、かいちょうは来ないでね!」

 

 

 姉である虚からまだ話を聞いていないのか、本音は学校新聞の内容をそのまんま信じているらしい。楯無が訂正しようとするが、本音は言うだけ言って走り去って行った。

 

 

「ちょっと、本音ちゃん!? 待ってってば!!」

 

 

 楯無は呼び止めようとするが本音は既に居なく、生徒会書記にすら勘違いされてしまっている事に彼女は再び落胆するのだった。

 

 

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 次々と男性操縦者とのコンタクトが失敗し、後シン一人となった現状。このまま会っても是までの様に『変態裸エプロン先輩』と呼ばれて忌避されるのがオチであろう。

 因みにブロントは論外、ルームメイトであるニコラスも事件の当時者なので近寄り難く、話し掛ける事が出来ないでいた。

 如何したものかと悩みながら歩いていると、妹である簪とバッタリ出会った。

 

 

「か、簪ちゃん……」

「…………変態裸エプロン先輩どうも…」

「ぐふぉおっ!!?」

 

 

 出会った事が非常に嫌そうな表情で挨拶をする簪に、楯無は吐血する様な悲鳴を上げながら昏倒した。学校中の者が自身が仕出かした事を脚色して認知されているのだ、妹である簪が聞いていない筈が無い。

 上半身を起こして簪を見ると、彼女は冷たい視線で楯無を見下ろしていた。

 

 

(あ…あの簪ちゃんの目……… 養豚場のブタでも見るかの様に冷たい目…残酷な目よ…。「かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね」って感じの!)

「……変態裸エプロン先輩に言っておきたい事が有ります」

 

 

 自分の妹に途轍もない視線で見下ろされている事に絶句する楯無に、簪は脅す様な声でこう言った。

 

 

「今度、ブロントさんにちょっかいを出したら…………地獄に墜とす、いえ……墜ちろ」

「ごばぁあ!!?」

 

 

 姉である楯無に対して底冷えする様な脅しを掛ける簪に、彼女は遂に血を吐いた。

 

 

「……それでは失礼します。忙しいので」

「ま、待って……、簪ちゃん…話を聞いて…」

「触らないで下さい、変態がうつります」

 

 

 弁解しようと楯無は手を伸ばすが、簪の冷たい言葉と共に叩き落とされる。

 

 

「……さようなら、変態裸エプロン先輩」

「簪ちゃ………、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙も゙お゙お゙や゙だあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!(デスボイス)」

 

 

 簪が立ち去り、一人残された楯無は絶望の悲鳴を上げた。

 

 

「お、終わった……何もかも……。う、うぇええええええん!」

「如何した?」

 

 

 死刑執行が間近で絶望する死刑囚の様に完全に崩れ落ちて泣き出す楯無。

 そんな彼女に男の声が掛かる。

 涙と鼻水でグショグショになった情けない顔を上げた先には、最後の男性操縦者である間薙 シンが立っていた。

 

 

「……あぁ、お前が新聞に出てた生徒会長か?」

「ふぐぅ…、ひっぐ……。どうせ貴方も私を馬鹿にしに来たんでしょう? 」

「……お前に何が有ったのか知らないが、俺は少なくともそんな気は無い」

 

 

 その後、楯無はシンに促されて自販機コーナーにてコーヒーを貰い、落ち着いたところで事の顛末を彼に説明した。

 

 

「成程、今迄ISを操作したことが無い筈の男性操縦者達が襲撃事件の時に難無く無人機達を撃破出来た事を不審に思って調べようとして、その一環でブロントをからかおうとあんな姿で待ち受けていた、と?」

「そうよ……もう、散々だわ。学園中が私の事で持ち切りだし、簪ちゃんにも嫌われちゃった…」

「…身から出た錆としか言えないのだが?」

「……確かに昨日の晩は調子に乗ってました、はい」

「変わり者が多い学園だと思っていたが、生徒会長もなら納得だな」

「うぅ……」

 

 

 実際にブロント達の部屋でやった事は自身の落ち度である為に、シンの指摘に反論できない楯無。

 しょんぼりと落ち込む彼女にシンは溜息を吐く。

 

 

「『好奇心猫をも殺す』だな。そんなに知りたいのなら誠意を見せた方が良いと思うぞ」

「……誠意って?」

「単純に正直に情報提供を頼めって事だ」

 

 

 そう言ってシンは自分が飲み終えたコーヒーをゴミ箱に捨てると、その場を去って行った。

 

 

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放課後

 

『IS学園(ISがくえん)』 生徒会室

 

 

「はぁ、結局誰からも聞き出す事は出来ず、か。散々な一日だったわ…」

 

 

 やつれた顔で溜息を吐いた楯無は、生徒会長席の机にぐて~と倒れた。

 

 

「けひゃひゃひゃ。アイツに馬鹿な事するからだろ?」

「…………何時の間に入ったのよ、ノブ?」

 

 

 楯無以外居ない筈の生徒会室に男性の笑い声が響くが、彼女は驚く様子無く声の主に問い掛ける。すると何時の間にか生徒会室の扉の横に変わったサングラスを掛けた青年が立っていた。

 

 

「ビキニ水着の上にエプロン姿で色仕掛けとか、お前馬鹿だろ? どうせアイツが堅物だって俺が言ったから、どんな反応をするか見たくてやったんだろうけどよ」

「写メを撮って直ぐ様通報するなんて誰が想像できるのよ……?」

「暗部の次期党首の癖にお頭が足りな過ぎだろ……お前?」

 

 

 愚痴を零す楯無に青年は呆れた声を上げる。青年の姿は茶髪で黒のスーツ姿に目線の様な変わったデザインのサングラスを掛けている。少なくともIS学園の職員では無い。

 

 

楯無にノブと呼ばれた青年の名前は『笠松 信雄(かさまつ のぶお)

 日本国を支えてきた暗部、『更識家』の分家である『笠松家』の嫡男で、楯無の幼馴染。

 その実力は楯無はおろか、実父達を遥かに超えており、楯無や簪が居なければ次の総頭首になっていたであろうと言われている。しかし、彼自身は暗部の頭首に興味が無かった為に次期党首を誰にするか決める決議において、そこまで騒動になる事は無かった。

 本人は次期当主の座に興味が無いと言っているが一族の仕事事態に責任を感じていない訳では無く、本人は効率が良いからと言っているものの楯無や簪の鍛錬に付き合ってあげる等、面倒見は良かったりする。

 

 

「…それで、何しに来たの?」

「御挨拶だな、お前が俺に仕事を頼んだんだろうがよ。ほらよ」

「きゃっ!?」

 

 

 そう言って信雄はUSBメモリを楯無に投げる。

 

 

「何よコレ?」

「男性操縦者達のデータ。集められるだけ集めたぜ?」

「嘘? こんなに早く!?」

「まぁ、公開出来る内容を各自の組織から提供して貰ってそれを纏めただけだけどな。じゃ、他に仕事が有るから失礼するぜ?」

 

 

 そう言って信雄は音も無く消え去る。驚愕した楯無がパソコンで調べてもみると、決して多くは無いものの、これまで分からなかった事が纏められていた。

 

 

「……私が昨日した事は全くの無駄だったのね…」

 

 

 彼女しかいなくなった生徒会長室で、楯無は精根尽きたかのように机に突っ伏した。

 

 

 後日、シンの説明によって楯無に対する脚色された誤解は解けたが、簪の態度は変わる事無く、暫くは『裸エプロン先輩』の渾名は消える事が無かった。

 彼女の受難は続く……

 

 

TO BE CONTINUE




次回はゴールデンウィーク回(五反田家)か千冬の独白の予定。
活動報告にて幕間でどんな話が読みたいかアンケートを続けておりますので、良かったら御回答御願いします。


感想コメント、意見・質問お待ちしております。
それでは皆さん、良いお年を♪

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