一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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足に歩けなくなる位の激痛が走る様になって、病院に行ったら若年性の痛風と診断された……泣きたい。
何はともあれ鈴音編最終話です。
心理描写が全然書けなくて中々筆が進まなかった……


サブタイトル元
『スイートマジック』 歌手:ろん


 スイートマジック

愛と優しい心を秘めた”宝”石箱を友人が死ぬまで閉じっぱなしにしてはいけない。

蓋を開けて友人の人生を甘美さで満たしてあげなさい。

耳が聞こえ、心臓が感動でふるえるうちに、

楽しい朗らかな言葉をかけてあげなさい。

 

───ヘンリー・ウォード・ビーチャー

 

 

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「……取り敢えず、鈴も救出できた事だし。戻るか」

「そうだね、リンは歩ける?」

「ぐすっ…、うん……大丈夫…」

 

 

 抱き締めていたルカから離れた鈴は、その目尻に残った涙を拭いながら答える。

 

 

「なら行くか。しっかし……今回のエリアは暑くて堪らないな…」

「うむ」

「早くシャワーで汗を流したいですわ…」

「リンは大丈夫? ここは暑いし、熱中症になったら大変だよ?」

「うん、大丈夫…」

 

 

 鈴の体調を確認するが大丈夫と言う返事が返って来たので、一龍達はこれまでに通った区画を通り大広間へと戻って行く。

 

 

「ねぇ、一龍」

「何だ?」

「一龍がトレジャーハンターで世界を周っていたというのは聞いたけど、それって名前を捨てた事とか千冬さんとの仲と関係してるの?」

 

 

 裁きの流路を通る中、鈴が一龍へ疑問を投げ掛ける。やはり織斑の名前を捨てた事や千冬との仲が変である事が気になっているらしい。

 

 

「そうだな。そもそもの始まりが有る出来事で千冬姉を信じられなくなった事からだからな」

「その出来事って……教えてくれる事は出来ないの?」

「【謝】悪いな鈴。この事ばかりはまだ話す事は出来ないんだ」

「そう……何時かは仲直り出来るの?」

「千冬姉の答え次第だな…」

「そっか、良い返事が返ってきたら良いわね」

「そうなる事を願ってるけどな…」

 

 

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夜 00:25

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮非常階段前

 

 

「……戻って来たか」

「無事に助けられた様だな?」

 

 

 遺跡を出て森林地帯を抜けると、非常階段の前で真次郎とシンが待っていた。

 

 

「ええと……ルカ、そっちの人は?」

「? ……ああ、リンはシンの事を知らなかったね」

 

 

 手を繋いだままの鈴がルカにおずおずと尋ねてくる。

 

 

「彼は3組のシンだよ」

「セシリアを救出するときにシンジと一緒に手伝ってくれたんだ」

「間薙 シンだ、シンジと同じ所に所属している。コンゴトモ ヨロシク」

「え? あ、うん。宜しく…」

 

 

 シンの独特の雰囲気に気圧されたか、鈴は少々口籠りながら答えた。

 

 

「今回もISが化けたのか?」

「ああ、大型機人を倒した後には鈴の甲龍があった。前もって調べてはいなかったから例のデータが入っていたのかは解からないが、セシリアのブルーティアーズを調べた時みたいに消滅後のログが残っている筈だ」

「そうか、一龍の言ってた事が確実になってきたな…」

 

 

 一龍の答えに真次郎は顔を顰める。

 

 

「ねえ、一龍が言ってた事って?」

「ん、鈴とルカは知らないか」

 

 

 鈴の問いに、一龍はISに隠されていたプログラムとセシリアを救出した際に考えられる事を説明した。

 

 

「通信やISのデータはメインサーバとやらに筒抜けな上に、あの巨大な化物になって使い手を殺して成り代わるなんて無茶苦茶だわ…」

「ハロルドが言っていた変なプログラムってそう言う事だったのか…」

 

 

 鈴は驚愕し、ルカは納得した様な表情になる。

 尚、男性操縦者達の専用機はいずれもが各自の所属機関において不審なプログラムは消されていたりする。

 

 

「ちょっと待って。そのプログラムが全てのISにあるんだったら学園用のは勿論、代表候補生のISもヤバいじゃない!?」

「そう言う事。放っておけば大型機人になる可能性は否めない訳だ」

「学園内のIS全てが暴れ出したら止めようが無いわ!?」

「まぁな。現状では対処法は無いが、後日協会からそのプログラムをデリートするソフトを送って貰う事になっているから、受け取った後に学園用のISをチェックしながら不要なプログラムをデリートする予定だ」

 

 

 セシリアの件でISコアのプログラムに危険性が有る事を知った一龍はロゼッタ協会に報告。学園内のISが暴走する前に異常なプログラムを消去すべく、専用のソフトを送って貰う様依頼していた。

 

 

「それまで大丈夫なの?」

「今のところは専用機である事と遺跡内限定で暴走しているからな。大丈夫だと思う」

「…なんかハッキリしないわね」

「未知の事態だからな」

 

 

 話はこれまでにして、一龍達は解散し部屋に戻る事にした。

 

 

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夜 00:50

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮1025号室

 

 

「ふぅ~、着いた着いた、我等が部屋へ~♪」

「今回も疲れたな」

「箒、先にシャワー入るか?」

「そうだな、お言葉に甘える」

 

 

 部屋に戻った一龍は着ていたサバイバルジャケットを脱いで伸びをする。

 共に汗を流し、お茶を飲みながらまったりとした後いざ寝ようとした時、箒が一龍にある頼み事をしてきた。

 

 

「さぁて、そろそろ寝るか」

「一龍、お願いがあるのだが…」

「ん? 何だ?」

「その……一緒に寝て欲しいのだ…」

「【驚】何っ!?」

 

 

 もじもじとしながら上目遣いにお願いしてくる箒。

 風呂上りな為にまだしっとりとしている髪をストレートにし、身体の火照りと恥ずかしさが混じった赤い顔。本来ならその可愛さの余りに抱き締めてしまったであろうが、箒の御願いの内容に驚いた一龍はそうはしなかった。

 

 

「駄目……か?」

「い、いやな。いきなりだったから頭が追い付いていないと言うか…」

 

 

 箒の頬は赤いが、一龍も赤くなっている。頬をポリポリと掻きながら一龍は箒に尋ねる。

 

 

「理由は……聞くまでも無いか…」

「済まない。朝起きたら一龍が居なくなっているのではないかという不安が頭から離れないのだ…」

 

 

 今回の襲撃事件で専用機を持っていない箒は唯一何も出来なかった。真次郎が止めなければ焦心したまま何を仕出かしたか分からなかっただろう。しかし、其れ程までに箒は不安だったのだ。

 鈴救出の時もそうだ。ルカの御蔭で何事も無く龍貴妃を倒せたが、溶けた鉄の津波をぶつけようとするとは思いもしなかった。

 和魂剣(にぎみたまのつるぎ)の力を開放すれば防げただろうが、一龍にはそれ以外の手段が無く、最悪の場合箒かセシリアに鈴共々抱えて貰い天井部へ逃げるしか無かった。しかし、逃げたら逃げたで床一面に広がった鉄の海のせいで降りる事も出来ず、更なる苦戦が待っていたであろう。

 

 

「【謝】御免な箒、彼女にこんな心配を掛けさせるなんて」

「ううん。一龍は間違った事をしている訳では無いのだ」

 

 

 箒を優しく抱きしめ、箒も一龍の胸元に体を預ける。

 

 

「男としてはこの上無いし、本望なんだが……良いのか?」

「ん、一龍と一緒に寝たい…」

「そっか……」

 

 

 一龍は微笑み、箒の額にキスを落とした。

 

 

 

 

 

 数分後、一龍が使っているベッドは2人が横になりながら向かい合っていた。

 

 

 

 

 

「……やはり照れるな」

「そうだな、部屋じゃ良く抱き締め合ったりしていたから慣れてると思ってたが…」

 

 

 密着までとはいかないまでも互いの身体や顔は近く、見詰め合う互いの顔は赤い。

 ふと、一龍は箒の体を引き寄せる。

 

 

「一龍?」

「良い香りだな、箒は」

「ふぇ!? い、いきなり何を言うのだ!!?」

「柔らかい抱き心地で、こうして傍に居るだけでホッとする」

「はううぅぅ……」

 

 

 一龍の言葉に箒の顔が真っ赤になる。実際、シャワー後である為に石鹸やシャンプーの良い香りがし、豊満な箒の体を抱き締めているので寝間着越しとはいえ、その抱き心地の良さを存分に堪能出来ているのだ。正直、一龍は本能と理性の狭間で悶々としており、一方の箒も好きな相手に抱き締められてヘブン状態になっていた。

 

 

「俺は箒の事が好きだ」

「私も一龍が好きだ。とても、とっても大好き」

「お休み、箒」

「お休み、一龍」

 

 

 互いの温もりと幸福感を感じながら、一龍と箒は眠るのだった。

 翌朝、お互い目覚めは最高であったという。

 

 

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『IS学園(ISがくえん)』 学生寮925号室

 

 

「唯今……って、やっぱり居ないか」

 

 

 自分の部屋に戻った鈴だったが、ルームメイトのティナ ハミルトンは案の定、居なかった。部屋の真ん中に置いてある折り畳み式のテーブルに置手紙が置かれていた。

 

 

「『友達の部屋に遊びに行ってます』か、またお菓子パーティかしら?」

 

 

 ティナと知り合ってから1週間程度であるが、彼女のお菓子好きについて鈴は良く理解していた。彼女は夜になると1組の本音や他のお菓子好きな女子達、時折3組の男性操縦者である陽介とお菓子を食べながらお喋りに興じていた。時折この部屋でも行われていた為、鈴も加わる事があったが夕食を食べた筈であろうに大量のお菓子を空けては解散するまでに食べ尽くしているのだ。鈴はその量に驚愕し、コップ1杯のジュースとクッキー数枚食べるだけで胸がムカムカしだしてドロップアウトしたのだった。

 

 

「夜中にあれだけチョコレートやらスナック菓子を食べて、よく太らないわよね…」

 

 

 そんな事を考えながらシャワーを浴びて汗を流した後、下着姿のままでベッドに寝転がる。

 

 

「はぁ…」

 

 

 額に手を当てながら、自身に起きた出来事を思い返す。

 

 

『”君”だって、リンの一面じゃないか! なのに、リンの一面だけを、過去だけを見詰めている面だけを見て、それがリンの全てだなんて”過去に縛られているだけの君”が言うな!!』

『確かにヒトは過去に追い縋る事もあるさ、僕もそうだった。でも幾ら輝かしく、素晴らしかった過去であったとしても過去には戻れない。過去の自分とのギャップに苦しんで自身を縛り続けるなんて不毛なだけだ! ヒトは前に進まないといけない。リンだって前に進もうとしているんだ、だから僕は、僕達はリンが進んで行ける様に支えていく!!』

『大丈夫だよ。不安な時は、僕達に頼って? リンは1人じゃないんだから…』

 

 

「ルカ…」

 

 

 遺跡でルカが言った言葉を鈴は思い返す。自分が学園に来た日からクラス対抗戦までの鍛錬、そして今回の遺跡での出来事でも彼は自分の事を気に掛けてくれた。それが何よりも嬉しく、心が温かくなる。

 

 

(アタシは一龍が好きだった…。なのに今はルカの事が気になって仕方ない……これってルカを好きになったって事よね…?)

 

 

 想い人の変化に戸惑いながらも鈴はルカの事を好きになっている事を理解する。

 あの時のルカは自分を苛めから救ってくれた一夏だった頃の一龍と同じだったから…

 しかし、正直怖かった。

 

 

(また、振られたらどうしよう……)

 

 

 ルカへの想いが叶わなかったら自分は立ち直れるだろうか? 一龍に振られ、今の自分の支えになっているのはルカだ。このままなら友人関係でずっといられるだろう、でも自身に芽生えたルカへの恋心を抑える事は出来ないだろう。だが、彼に思いを打ち明けてギクシャクとした関係になってしまったら自分は……

 

 

「怖いよ、ルカ……」

 

 

 自身の体を抱き締めて鈴は震えた。

 

 

~♪

 

 

 ふと、鈴の携帯からメールの着信音が鳴った。自身の候補生担当官である楊 麗々(ヤン レイレイ)からかと思いながら、送り主の名前を見てみると自分の母親からであった。

 

 

「母さんから?」

 

 

 普段メールをしない母親からのメールに、意外だなと思いながら鈴は内容を読む。

 

 

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受信日:20XX年4月21日

送信者:母さん

件 名:鈴音へ

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滅多にメールをしないから意外だと思っているで

しょうね。元気にしている? 母さんは元気です。

鈴音の事だからもう友達は出来たかしら?

鈴音がIS学園に行く日、入れ違いで父さんが

家に来ました。

母さんと再び縁りを戻したいそうです。

お爺ちゃんに追い出され、何度も怒鳴られてもずっと

家の前で土下座してお願いし続けました。

お店を放っておいて良いのかと聞いたらお店を畳んで

来たそうです。自分の夢を捨ててでも母さんや鈴音と

暮らしたいと父さんは言いました。

お爺ちゃんも遂には折れ、母さんの判断に任せてくれ

ました。

母さんは父さんを許したいと思います。でも、散々

鈴音に悲しい思いをさせた以上、貴女の気持ちを

聞かないで決める訳にはいきません。

母さんがこのメールを送った数分後、父さんも鈴音へ

メールを送ります。父さんを許すか如何か、貴女が

決めなさい。

 

_________________________

 

 

「嘘……、父さんが!?」

 

 

 鈴は口を左手で抑え、驚愕する。

 父さんが復縁の為に母さんに謝りに来た? 自分の店を手放せないと、散々母さんと喧嘩し続けていたあの父さんが!?

 

 

~♪

 

 

 メールの内容通り、数分後に父さんからのメールが来た。

 

 

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受信日:20XX年4月21日

送信者:父さん

件 名:ごめんよ

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こうしてメールをするのは初めてだな、元気か?

母さんと鈴が出て行ってから、父さんは心が空っぽに

なった様だった。ずっと……

父さんの夢だった”自分の店を持つ”という事を

父さんは手放したくなかったんだ。

でも、お前達がいなくなってからずっと心が

満たされる事が無かった。夢が叶ったのに、2人

が居ないと父さんは駄目だ。

お前達が居なくなってから漸く分かった大馬鹿者だが、

もし許してくれるのならまた一緒に暮らしたい。

2人に辛い思いをさせて来たのは解っている。嫌なら

嫌で父さんは受け入れるつもりだ。

返事を待っている。

 

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「………」

 

 

 両親からの謝罪と遣り直しという突然のメールに鈴の脳内は状況の把握に追い付いていなかった。メールの内容に読む限り、自分が父親を許せばもう戻る事が無いと思っていた家族関係が戻るのだ。しかし、自分と母親に辛い思いをさせた父親をそう簡単に許すなど……

 

 

「………アタシは…」

 

 

 数分間沈黙した後、鈴は両親に返信メールを送ったのであった。

 

 

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4月28日

 

帰りのSHR

 

『IS学園(ISがくえん)』1年1組教室

 

 

「それでは今日はこれで終わりだ」

「来週の月曜日にまた会いましょうね」

 

 

 鈴を地下遺跡から救出して1週間が経過した。

 無人機による襲撃事件については箝口令が布かれたが、学園内では話の種として持ち切りとなっていた。しかし、今日は違った。1年生は全ての組の者がウキウキしており、今夜行われるイベントを心待ちにしていた。

 

 

「葉佩君、今夜楽しみにしているね♪」

「荒垣さ〜ん! とっておきのお菓子を作ってね♪」

「【友】おう、任せとけ!」

「…まぁ期待してろ」

 

 

 

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19:30

 

 

『マミーズ IS学園店(マミーズ ISがくえんてん)』

 

 

「王様プリン、出来たぞ~」

「追加の杏仁中華だ、持ってけ」

「了解クマ。特製アイスが出来たクマよ~、溶けるから早い者勝ちクマ」

 

 

 マミーズの厨房で完成したお菓子を一龍と真次郎がカウンターに出し、陽介が受け取ってテーブルに運んで行く。

 

 

「ルカ、この洋梨はどうする?」

「それは洋梨ピザに使うから皮を剥いといて!」

 

 

 シンが沢山の洋梨が入った箱を抱え、クレープ生地を焼いているルカに如何するか尋ねる。

 

 

「アップルパイが焼けたで、火傷せぇへん様にな」

「追撃の『絹のたしなみ』だべ。解り易く言えばパンプキンケーキだな、熱々の内に食べるべき」

 

 

 ニコラスとブロントが焼き立ての焼き菓子をオーブンから取り出し、受け取ろうと並ぶ女子達に切り分ける。

 現在のマミーズは半分が貸切状態となっており、一龍達男性操縦者達が作ったお菓子を1年の女子達に振る舞っていた。クラス対抗戦が無くなった事により、優勝賞品のデザートフリーパスも無くなってしまったので、一龍達は代わりとして自分達でお菓子を作ってデザートバイキングを振る舞う事にしたのだ。なので一龍達は授業が終わると部活をせずにそのまま厨房へ直行。準備や下拵えが必要なモノはこの1週間で準備しておいたので、後は調理だけとなっていたが、1年女子全員に行き渡る量且つ数十種類のレシピを熟すので19:00にバイキングがスタートして1時間経過した現在でも一龍達は忙しく動いていた。

 

 

「ん~♪ 美味しぃ~♪」

「ねぇ、大井っち。そっちのは何?」

「ルカきゅん特性のフルーツプディングよ。すっごい美味しい♪」

「静寐は何を食べているの?」

「葉佩君が作った『ラベンダーSK(スモーク)』ってアイスだよ~。ラベンダーの風味とブルーベリーの酸味が最高♪ 清香の方は?」

「4組のブロントさんが作った『新雪の欠氷(かきごおり)』ってカキ氷だよ。ベリーとメロンのフルーツと蜂蜜のマリアージュが良いね♪」

 

 

 テーブルに並べられたスィーツの数々に舌鼓を打つ女子達。

 何れのお菓子も好評で、女子達の胃袋へと消えていく。

 

 

「あぁ~、太るとは解かっていても……こんな美味しいお菓子を食べないなんて無理よ~♪」

「うわぁ…どれも美味しいです。葉佩君達って料理上手なんですね?」

「そうだな、どれも美味い(あの頃も美味かったが、更に上達したんだな…一夏)」

「美味しぃ~♪ あの7人の誰か、結婚してくれないかしら?」

「足柄先生、こんな時にまでその話は止しましょうよ……」

 

 

 当然ながら1年担任の教師陣も混ざっており、それぞれがお菓子を堪能していた。

 

 

「よぉし、これで料理は終わり!」

「ふぅ……、漸く終わったか」

 

 

 最後のお菓子を作り終え、片付けを済ませた一龍達は伸びをする。長時間に及ぶ料理作業であった為に7人共、疲れた様子だった。

 

 

「【友】皆、有難うな。助かったよ♪」

「気にせぇへんで良えで?」

「うん、僕も皆と料理できて楽しかったよ」

「クマも楽しかったクマ~♪」

「流石に疲れたが、久々に本気な料理が出来たな」

「たすかに大変だったが充実した感。俺の料理スキルも上達したから感謝だな」

「…手伝えたなら何よりだ」

 

 

 一龍が手伝ってくれた真次郎達に感謝し、冷凍庫からアイスを取り出して6人に配る。

 

 

「御礼と言っちゃなんだけど、是非食べてくれ」

「これは?」

「イチローが出してたアイスには無かったアイスクマね?」

「トレジャーHT(ハンター)って名前でな、俺が所属しているロゼッタ協会のメンバー間だけに伝えられている正に《秘宝》に相応しい隠し味を秘めたアイスだ」

「ほぅ、良いのか? そんなのを俺達に食べさせて?」

「そこまで極秘のレシピって訳じゃないしな。義父さんも学生の時にバディ達に振る舞ってたらしいし」

「構へんなら遠慮無く戴くで?」

 

 

 最初に口にしたはニコラス。舌で掬わずに直接口で金色に輝くトレジャーHT(ハンター)にかぶり付く。

 

 

「ほぉ〜、アッサリした味わいにシュワッとした爽快感が堪らんな♪」

 

 

 シャリシャリと口の中で音を立てながら溶けていくアイスに、ニコラスはそう評価してその味わいを堪能する。

 

 

「ほむ、炭酸が残っている訳か? 炭酸好きには堪らん一品だべ」

「スッキリした甘さだから幾らでも食べられそうだな…、旨い」

「ソルベ系のアイスなのかな? 金のアラザンをふんだんに使っているから名前通りトレジャー(財宝)を食べているみたいだね」

「うむ…美味い」

 

 

 ブロント、真次郎、ルカ、シンもそれぞれの感想を述べる。

 何れも好評の様だ。

 

 

「クマはホームランバーが好きだけどこれも爽やかで美味しいクマー♪」

「あ~! クマさん何食べてるの?」

 

 

 陽介もトレジャーHT(ハンター)を食べた感想を述べた所に本音がやって来る。その手に持つ皿には様々なお菓子が山の様に盛られていた。

 

 

「のほほんちゃん、一口食べてみるクマ~」

「わ~い、有難う~♪」

 

 

 陽介が差し出したままトレジャーHT(ハンター)に齧り付く本音。所謂間接キスであるのだが気付いていないのか、気にしていないのか。

 

 

「ん〜♪ 美味しい〜♪」

「それは良かったクマ♪」

「私もお礼をするね、あ〜ん」

「あ〜ん♪」

 

 

 ニコニコ顔で本音はお菓子が盛られた自分の皿から一口大にカットされたチーズケーキを摘まむと、陽介の口に放り込む。

 

 

「むぐむぐ……美味しいクマ〜♪」

「でしょ~♪」

「あら? シンジさん達、終わりましたのね?」

 

 

 陽介と本音の遣り取りの中、セシリア達がやって来た。

 

 

「セシリアか、楽しんでいるか?」

「ええ。シンジさん達のお菓子はとても美味しいですし、話も弾みますわ♪」

 

 

 真次郎の問いにセシリアは笑顔で答える。

 

 

「このプリンなどカラメルの甘味と苦味がバランス良くって、キャラメル好きには堪りませんわ♪」

「セシリアはキャラメルが好きなのか?」

「はい♪ 幼い頃から食べ慣れたお菓子でしたので、気付いたら好物になっておりましたの」

「ならあのケーキはどうだ? 生地に溶かしたキャラメルを練り込んでいるんだが」

「まぁ! 戴きますわ♪」

 

 

 そんな会話をしながら真次郎とセシリアは様々なケーキが盛り付けられたテーブルへ去って行った。

 

 

「箒は楽しめているか?」

「うむ。しかし、大変ではなかったか? これだけの量のお菓子を作ったのは?」

「【愛】お代わりする程に美味しいか、作った甲斐があるもんだぜ♪」

「ただ、夕飯替わりとはいえこんなに甘いものを食べてしまっては太らないか心配だな」

「朝練を欠かさずにしてるんだし、箒なら太らないさ。まぁ、ぽっちゃりした箒も可愛いと思うが…」

「い、一龍……」

 

 

 バカップルめいた一龍の惚気に顔を赤くする箒。

 

 

「葉佩く~ん! このスコーンすっごく美味しいけど、どうやって作ったの?」

 

 

 そんな一龍へ1組のクラスメイトがお菓子のレシピを尋ねてくる。一龍は説明をする為にクラスメイトの所へ向かい、箒も後に続いた。

 

 

「ブロントさん、料理も上手なんだね?」

「ほむ。パティシエまでとはいかなくとも俺の料理スキルはAAAだからな」

「……ちょっと妬ましいかも」

「おいィ? 女子は料理が上手なのが普通なんて偏見でしかないんですわ、お?」

「でも羨ましいかな?」

「なら俺が教えるぞ? 一浪やシンジまで上手くはいかないと思うが、カンザシが良いのならな」

「良いの?」

「教えるんじゃなく、教えてしまうのがナイト」

「ふふっ♪ ならお願いするね?」

「構わにぃ」

「じゃあ、早速だけどあのケーキってブロントさんが作ったんでしょ?」

「ほぅ、お目が高いな。あれは……」

 

 

 ブロントも簪に自作のケーキのレシピを教える為に彼女を連れて離れて行き、シン、ニコラスも部活生に呼ばれて去って行ったのでその場に残ったのはルカと鈴の2人だけになった。

 

 

「リンは楽しめてる?」

「え? あ、うん。どのお菓子も美味しいから、ついついお代わりしちゃって」

「そっか、良かった♪ 僕達もクラスの席に行こうか?」

「そうね」

 

 

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「あ、ルカく〜ん♪」

「このクレープ、スッゴい美味しいよ♪」

 

 

 2組女子達が集まっている席へルカと鈴が来ると、女子達が集まって来た。

 

 

「喜んで貰えてなによりだよ」

「大井っちとかさ~、フルーツタルト5回も御代りしてんだよ?」

「な!? き、北上さんだってフルーツサラダを同じ位御代りしてるじゃない!」

「サラダはヘルシーだから無問題だって」

「サラダと言ってもフルーツサラダなのよ? 果糖は馬鹿に出来ないんだから!」

 

 

 クラスメイト達の遣り取りを微笑ましく眺めるルカ。

 そんな中、鈴はルカへ声を掛けた。

 

 

「あの……ルカ?」

「何?」

「あの……そのね…ルカに言いたい事が…あるの」

 

 

 ルカを前にし、鈴は顔を少し俯けながらルカに口を開く。

 その顔は赤い。

 

 

「その……もしもルカが良いと言うなら……あのね…」

「?」

「アタシの……特製酢豚を毎日食べて下さい!!」

「!!?」

 

 

 鈴の言葉に周囲は凍り付き、突然の告白にルカは目を丸くする。過去の一龍との遣り取りを聞いたルカは鈴の言った言葉の意味が解っている。

 

 

「も、勿論酢豚だけじゃ無いわ。色々作ってあげるし、ルカが食べたいモノがかったらアタシが知らなくても頑張って作るから」

「リン、それは告白で受け取って良いんだよね?」

 

 

 ルカの問いに鈴はコクリと頷く。

 成程、彼女が赤いのはそういった理由かとルカは内心で納得する。しかし、ルカは鈴の表情に不安と恐怖が混じっている事を見逃さなかった。

 

 

「あの時からルカの事を考えるとドキドキが止まらないし、頭から離れないの」

 

 

 赤らめる顔に告白した事の恐怖を僅かに混じらせながら、鈴は自虐気味に言葉を続ける。

 

 

「突然で勝手だと思うのは分かってるわ。ついこの前迄、一龍の事を諦め切れないとルカに散々愚痴を聞かせた。なのに今こうしてルカに告白してるんだもの…。でもね…、ルカの事が好きで好きで堪らないの」

「………」

 

 

 鈴が恐れているのは自分からの拒絶だ。一龍に告白し、振られた鈴は自分にもし告白を断られたらと恐怖しているのだ。しかも一龍に振られたのが最近なら尚更だ。

 

「……突然の告白には驚いたけど、リンみたいな可愛い娘に好きって告白されるのは嬉しいよ。でも……」

 

 

 ルカの”でも”と言う言葉に鈴の表情が曇る。しかし、ルカは微笑みながら言葉を続ける。

 

 

「僕はリンと知り合って1週間と少ししか経ってない。僕がリンの事を好きになるにしても、僕はリンの事をまだよくは知らないし、リンも僕の事を知らないよね?」

「…うん」

「だから僕がリンの事を恋人と言う意味で好きになるのはまだ応える事が出来ない。なら、これから教えてくれるよね?」

 

 

 そう言ってルカは鈴の前に手を出した。

 

 

「僕はリンの事をもっと知りたい」

「!? それって……つまり?」

「お付き合いするという意味で、僕の答えは YES だよ」

「!!?」

「僕はもっと、リンの事を知りたいな」

 

 

 微笑みながら鈴の告白を受け入れたルカ。

 鈴は元々大きい瞳を更に大きくし、そして泣き出した。

 

 

「ルカぁ……、ふぇ…ふえぇぇぇぇえん」

 

 

 そのままルカに抱き付く鈴。唯、自分の想いが叶った事が嬉しくて嬉しくて泣き、ルカはそんな彼女の背中を優しく撫でる。

 尚、周りのオーディエンスは鈴が告白した時点で殺気立っていたがニコラス達の懸命な説得で突撃を防いでいた。しかし、ルカのOKという返答と鈴が彼に抱き着いた事により状況は悪化。女性教師(1名)までもが参加して箒達までも加勢しなければ抑えきれなくなったが、被害無くなんとかデザートバイキングパーティはお開きとなった。

 

 

 

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受信日:20XX年4月21日

送信者:鈴音

件 名:母さん、父さんへ

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メールを読んだよ。

突然の事で戸惑ったけど、アタシはまた家族で暮らし

たい。

あの時、父さんが家族よりもお店を選んだ事は許せな

かったけど、夢を捨てきれなかった事や家族を養って

いこうと必死になっていた事が今は分かる。

でもアタシも母さんもあの日から沢山悲しい思いを

した。だからこれからその悲しい思いをした分、

いっぱい楽しい思い出を作って返して欲しい。

アタシはあの時みたいに家族で笑いあえる日々が

戻ってきたらそれで十分だから、それだけは約束して

欲しい。

帰って来るのは夏休みになると思うけど、その日を

楽しみにしているね。

 

_________________________

 

 

 

 

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?????

 

『とある研究所 「吾輩は猫である」(とあるけんきゅうじょ「わがはいはねこである」)』 研究ルーム

 

 

「束様」

「お帰り、くーちゃん。今回はどうだった?」

 

 

 研究室にて相も変わらずキーボードを叩き続けている束の元に白黒のドレスで着飾った仮面の少女が現れる。

 

 

「裏神をまたしても退け、《生贄成る乙女》は奪還されました」

「そっかそっか。まぁ、いっくんとイレギュラー共がいれば今の階層の裏神じゃあ相手にならないよね~」

「今回、イレギュラーはルカ・ミルダ1名のみ連れて行ったようです」

「ふ~ん。確かあの頼りなさそうなちんちくりんだったけ? 強いの?」

 

 

 少女の報告に束は特に感情を変える事無く、新たに問い掛ける。

 

 

「斬撃による衝撃波で裏神を吹き飛ばしました。ISを纏っていたとはいえ、異常ですね」

「裏神を吹き飛ばした〜? 普通のISじゃあスペックが足りなくて出来る筈が無い事態だね」

「複数のコアを搭載して出力を上げている可能性は?」

「コアネットワークの過去ログを見る限り、アイツのISには1つしか使っていないから有り得ないね。むしろアイツ自身に何か有ると束さんは推理するね」

 

 

 裏神の戦闘記録をチェックしながらニヤニヤ顔で束は話す。前回含めた裏神との戦闘及び襲撃事件で詳細は解からないまでも様々なデータを手に入れる事が出来た。これらが今後の研究に役立ってゆくだろうと笑みが止まらない。

 

 

「ま、まだ先は長いからね〜。いっくん達が何処まで潜れるか楽しませて貰うよん♪」

 

 

 そう言ってモニターに新たな映像が映る。転入届けの写しらしく、優しげな表情をした金髪及び眼帯をした銀髪の少女がそれぞれ写っていた。

 

 

「フランス、デュノア社社長の妾の娘にドイツ軍のデザイナーズベイビーと……。今回は本当に《生贄成る乙女》が大量に現れそうだね〜」

 

 

TO BE CONTINUE




推奨ED曲『アオイキヲク』 歌手:喜多村 英梨

成績表を挟んで次回より幕間に入ります。
ゴールデンウィークでの各メンバーの日常が殆どになるかと。
今度こそクエスト回を書きたいなぁ……

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