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『赤碧の空』 歌手:Elphaind
天国にあくがるる者は賃”金”のために働く日傭人。
されど神にあくがるる者は栄光の途にあり。
───アンサーリー・ヘラ―ティー「詩」
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『裏神創生の間(うらかみそうせいのま)』
一龍達が辿り着く十数分前
4月にしては異様な蒸し暑さに、鈴の意識が覚醒する。
未だぼんやりとし、ハッキリしない頭で周りを見渡すが、周囲は見た事の無い光景。自分は先程まで学生寮の廊下でルカと話をしていた筈……
「……何処よ、ここ?」
全く見覚えのない場所に、鈴は戸惑う。
地面は岩石で出来ており、所々から溶岩らしき赤い液体がグラグラと煮え滾っている。その影響か、立っている場所も熱い事が靴越しからでも分かる。
「何……、火山なの?」
学園は埋め立てた土地に建てられている為、この様な場所がIS学園の敷地内にある筈が無い。
状況がサッパリ分からないが、こんな所でじっとしていても仕方が無いと考え、鈴は出口を探しに取り敢えず移動する事にする。
野球ドーム程の広さであろうか、熱気のせいで陽炎が揺らめき先の景色が鮮明に見えない。暫く歩くと鍵の掛かった扉を発見したが、鍵を持っていない為にその先へと進む事が出来なかった。仕方がないので鈴は反対方向へ進む事にした。
反対側の壁に辿り着き、壁に沿って扉を探す事数分。鍵が掛かっていた扉と同じデザインの扉を発見するがこれもまた鍵が掛かっており開かなかった。こうなったらISで打ち破ろうと
「え…、
普段、ブレスレットとして腕に付けている待機状態の
「嘘!? どうして?」
身の回りを探すが見当たらない。出口を探すべく歩き回った際に落としたのかと考え、歩いた道を戻って探し回る。探しながら徐々に焦りが生じてくる。
「何処? ……何処に落としたの?」
意識が覚醒して十数分間の出来事であったが、区画の熱気と焦り、此処から出る事が叶わないのでは無いか? という不安と恐怖で鈴は精神的に疲労してきていた。
「助けて……ルカぁ…」
『何でルカなのよ、本当は一夏に助けて欲しいくせに?』
「!? だ、誰?」
思わず零した弱音に対する返答が聞こえる。周囲を見回すと後ろに瞳を金色に輝かせた、もう一人の自分が立っていた。
「だ、誰よアンタ!?」
『誰って、アタシはアンタよ?』
もう一人の鈴はニタニタと笑みを浮かべながら答える。
『アタシは”鳳 鈴音”。アタシはアンタであり、アンタはアタシ。そんなのも解からないの?』
「い、意味解んないわよ…」
『意味解んないって言っても、アタシはアタシ。それ以外の何者でもないわ。ってゆうか、そんな事今は如何でも良いわよ』
もう一人の鈴は怪しげな笑みを浮かべながら、鈴に近寄って問い掛ける。
『ねぇ、自分に嘘を吐くのは止めなさいよ。人を騙すのも、自分を騙すのも、嫌いでしょ?』
「な、何よ!?」
『アタシは一龍……いえ、一夏の事が好き。そしてそれは今でも同じ、そうでしょ?』
「あ、アタシは…」
『彼女が既にいる? だから何よ? そんなの、奪い返せば良いだけじゃない?』
「奪い返す…」
もう一人の鈴の言葉が毒となって鈴の心に染み込んでくる。
「「鈴(リン)!!」」
突然、鍵が掛かって開かなかった筈の背後の扉が開いて複数の人影が広間に入って来る。
鈴が声に驚いて背後を振り返ると、そこには見知った顔があった。
「一龍にルカ……何で此処に!?」
驚く鈴とは対照的に、もう一人の鈴の表情は歪んでいく。
『何で……何でアンタが一夏の横にいるのよ?』
一龍の横に立っている箒を憎々しげに睨み付け、もう一人の鈴は心の奥底に溜め込んでいた不満をぶちまける。
『アタシだって一夏の事が好き! だからあの時に告白もした! なのに何で!? 何で一夏の横にアタシじゃなくてアンタが立っているのよ!?』
「鈴……私は……」
『ふざけんじゃないわよ!!』
激昂したもう一人の鈴は語り掛けようとした箒に怒鳴りつける。
「鈴…」
「リン……」
『アタシは愛して欲しかっただけなのよ!? 何で誰も愛してくれないの!?』
「止めて……」
悲鳴に似た叫びを上げるもう一人の鈴に鈴は弱々しく止めようとする。
『母さんも父さんも喧嘩ばかり、家にはアタシの居場所なんか無かった!! そんなアタシの支えになっていたのは一夏だけだったのに……』
「止めてよ……」
『何でアンタが一夏と一緒に居るのよ!? 何で一夏はコイツを選んだのよ!?』
「鈴……俺は……」
『アタシは寂しかったの!! 只、誰かに愛して欲しかったの!!』
ポロポロと涙を零しながらもう一人の鈴は一龍に訴えてくる。それを彼は悲痛な表情で受け止める。
『なのに何で誰もアタシを愛してくれないの!? アタシは愛されてはいけないの!?』
「止めて、これ以上言わないで……」
もう一人の鈴の訴えを鈴は止めようとする。これ以上の言葉を続けるのを恐れている様だ。
『喧嘩ばっかりで愛してくれなかった母さんと父さんも、アタシから一夏を奪ったアンタも、アタシを選んでくれなかった一夏も、皆消えちゃえ!! 死んじゃえば良い!!』
「止めてぇええ!!」
怒りが込められたもう一人の鈴の叫びに鈴は悲痛な叫びを上げる。
「お願い、これ以上言わないで…」
『何? アンタが思っている事を言っただけじゃない? 嗚呼……あの頃の関係に戻りたい! 母さんと父さんは仲が良くって、一夏には彼女がいない。今は失ったあの頃に戻りたい!!』
「止めて、止めてよぉ……」
『皆、アタシに優しくしてくれた。あの頃しかいらない、アタシに優しくしてくれない奴なんていらない』
「お願い黙ってよ! アンタなんか…」
「!? よせっ! 鈴!!」
『アンタなんか……何?』
一龍が止めようと声を掛ける中、もう一人の鈴は嘲笑混じりに鈴へ問い掛ける。その問いかけに平常心を失っている鈴は反射的にもう一人の自分へ”禁句”を叫んでしまった。
「アンタなんか、アタシじゃない!!」
鈴の叫び声を聞いたもう一人の鈴は嗤笑すると、高らかに笑い出した。
『アハハハハハハハハ!! 否定した! 否定したよコイツ!! これで……これでアタシは、アタシに成れる!!!』
「きゃあっ!?」
「リン!!」
突然、もう一人の鈴が溢れる光に包まれ、同時に衝撃波が発生する。一番近くにいた鈴は吹き飛ばされるが、ルカが難無くキャッチした。
「一龍さん、これは!?」
「セシリアの時と同じだ! 鈴の否定がトリガーになって暴走が始まったんだ!!」
「くっ、止められなかったか…」
【警告、高周波のマイクロ波を検出、強力なプラズマ発生を確認】
H.A.N.T.が警告を促す中、光に包まれたもう一人の鈴がセシリアの時の様に異形の姿となって現れる。上半身は紅い中華鎧の様な装甲で覆われており、手の部位には青竜刀の様な鋭利な爪が並んでいる。しかし、何より目に付くのは蛇か龍の胴体の様な蛇腹状の多関節となっている下半身であり、その長い下半身は蜷局を巻いておりその先端には棘の付いた尾がゆらゆらと動いていた。
「我ハ『龍貴妃』…… 」
「鳳・鈴音ノ影デアリ、本人自身…」
「今宵、コイツヲ殺シテ真ナル我トナル」
「コイツヲ殺シタラ次ハあんたラダ。ソシテアノ頃ニ戻ルンダ!!」
龍の頭部の様な兜越しから金色の眼光を輝かせ、龍貴妃と名乗った機人は鈴と箒を睨み付ける。
すかさず、一龍とルカが前に出て武器を構える。
「何、あんたラ? 本物ヲ庇イ立テスル気? ダッタラ、一緒ニ焼キ尽クシテヤル!!」
そう言って床を尻尾で叩き付けると床の所々が割れて溶けた鉄が噴き出し、噴き出た箇所から前の区画に戦ったしゃれこうべの機人が数体現れる。
「往ケ!! あたしノ下僕達!」
「皆、ISを展開しろ!!」
「了解ですわ! 行きますわよ、ブルーティアーズ!」
「来て! アスラ!!」
「今回も頼むぞ、
【Get Ready Stanby】
「リンは扉の前に避難していて!」
「ルカ、皆!」
各自がISを展開すると同時にしゃれこうべの機人達が火球を放ってきた。
「既に戦った相手に遅れは取らんぞ!!」
「いくよ!!」
箒とルカが直ぐ様前に出ると、それぞれ
「あたしノ下僕達ガ全滅!? 嘘デショ!!?」
「次はお前だ!!」
「フザケルナァ! あたしノ邪魔ヲスル奴ナンカ皆、燃エテシマエ!!」
龍貴妃は掌から火炎弾を放つが、箒とルカは素早く避けて龍貴妃に肉薄して戦闘を開始した。
「はあぁぁぁあ!!」
箒が
「あたしノ鎧ガ砕ケタ!? ヨクモォ!!」
「させないよ!」
左手を振りかぶり、その爪で箒を切り裂こうとするが、ルカがすかさずデュランダルの斬り上げで龍貴妃を仰け反らせる。
その隙を一龍とセシリアが見逃す筈も無く、箒達が退いたのを確認して遠距離支援を始める。
「これでも喰らえ!!」
「お行きなさい、ブルーティアーズ!!」
一龍がタクティカルLと小型戦闘機による爆撃を前面に集中砲火し、セシリアがレーザービットで全体にレーザーの雨を降らせる。
「クウゥゥ、嘗メルナ!!」
龍貴妃は床を殴りつけて岩盤を割ると、鉄の海へ飛び込んだ。
「逃げましたわ!?」
「鉄の海に逃げたか…」
「これじゃあ攻撃が出来ないぞ!?」
「如何する一龍?」
「皆、周囲の警戒を怠るな! 鉄の海に引きずり込まれたら一溜りも無いぞ!!」
武器を構えながら下を警戒する一龍達、するとルカの後ろの床が砕きながら龍貴妃が飛び出した。
「ルカ、後ろだ!!」
「遅イワヨ、ノロマ!!」
「うわっ!?」
一龍の言葉にルカは後ろへデュランダルを向けるが、既に龍貴妃は爪を振り下ろしていた。間一髪で受け止めるが無理な姿勢が祟って弾き飛ばされてしまい、壁に叩き付けられてしまう。
「くうっ!?」
「「「「ルカ(さん)!?」」」」
一龍達が入って来た扉の近くに墜ちたルカに鈴は駆け寄る。
「このっ、よくもルカを!!」
「アハハッ! 遅イ遅イ!!」
箒が斬り掛かろうとするが龍貴妃は素早く鉄の海へと潜り、回避する。
「くっ、逃げられた!?」
「これでは攻撃が出来ませんわ!」
「H.A.N.T.、動きを追えるか?」
【地面下より移動する高周波のマイクロ波を確認。機人と推定】
「完璧だ、動きを追って随時報告してくれ!」
【
「後ろだ箒!!」
「!」
一龍の呼び声に箒が飛び出し、それと同時に床を砕きながら龍貴妃が爪を振りかざして現れる。箒がいち早く回避出来た事が幸いし、龍貴妃の攻撃は外れた。
「クソッ、動キヲ読マレテイルノカ!」
すかさず攻撃を仕掛ける一龍達に、龍貴妃は堪らずに鉄の海へ逃げ込む。
一龍達は龍貴妃が何処から現れても迎え撃てる様に、武器を構えて臨戦態勢を取りながら周囲を警戒する。
【左前方に移動するマイクロ波発生源を確認】
「来るぞ、皆構えろ!!」
龍貴妃が飛び出して来るのを今か今かと待ち構える一龍達。床がひび割れ始め、龍貴妃が飛び出すだろうとランチャーの砲口を向けるが、床が砕け散ると同時に飛び出したのは溶けた鉄の液柱だった。
フロアの天井近くまで昇った溶けた鉄はそのまま床に飛び散って一龍達に降り注いでくる。
「うおっ!? 熱っ!!」
「一龍!?」
溶けた鉄をなんとか避けた一龍。そんな彼の近くの床を破って龍貴妃が襲い掛かる。
「死ニナサイ!!」
「させるか!! はあぁぁ!!!」
一龍へ襲い掛かる、生身の彼を一振りで彼を殺すことが出来るであろう龍貴妃の爪を箒が受け止める。
「邪魔スルンジャナイワヨ、コノ泥棒猫!!」
「くぅ!」
龍貴妃の爪と唾是り合いになるが、爪を凍らせられる事を危惧した龍貴妃は掌から火球を放って箒を吹き飛ばす。鉄を一瞬にして溶かす高熱の火炎だったが、
「私が剣だけしか使えないと思うな!!」
吹き飛ばされながらも箒はサブマシンガン『MP5R.A.S』を展開し龍貴妃に弾幕を張る。
殆どの弾丸は鎧の様な装甲に拒まれて録なダメージとなっていないが、数発の弾丸が龍貴妃の兜から突き出ている角に命中すると体を仰け反らせて苦しみだした。
「!? 痛イ痛イィィィ!!」
「! 反応が違う? 一龍、これは…?」
「【喜】でかした箒!! こいつは角が弱点だ!!」
箒に感謝を告げながら、一龍は小型戦闘機を龍貴妃の角へと向かわせる。弱点を撃たれた事で苦しみ暴れ、振り回している爪や尾をヒラリヒラリと避けながら、その角へと爆撃を行う。
「グ、ギィヤアァァァ!!」
砕くまではいかなかったが、その角にひび割れを生じさせる事に成功する。
「痛イ痛イ痛イィィィ!!」
「角が弱点か!」
次こそ角を砕こうと小型戦闘機が旋回して龍貴妃へと向かうが、いち早く鉄の海へ逃げ込んだ。
「また逃げたか」
「こうも一々逃げられては決定打を打てませんわ」
「なんとか動きを止める事が出来れば良いのだが…」
「僕がやるよ」
そう言いながら、ルカが前に出る。
「アスラの装甲は丈夫だし火炎耐性も高いからね。万が一鉄の海へ引き摺り込まれても大丈夫だよ」
「頼めるか?」
「任せて」
ルカが先頭に立ち、龍貴妃が現れるのを待ち受けていると、向こうの離れた床が砕け散り、溶けた鉄が津波の如く一龍達がいる場所へ押し寄せて来た。
「アッハッハッハ! 皆、鉄ノ海ニ呑マレテ溶ケチャエ!!」
溶けた鉄の波に乗りながら、龍貴妃も高らかに笑いながら迫って来る。
「な!? こんなの有りですの!!?」
「一龍、このままでは一龍と鈴は耐えきれないぞ!?」
「【焦】くっ、前の区画に逃げられない以上、箒達に掴まって上に逃げるしか…「大丈夫だよ」…ルカ?」
「僕に任せて」
ルカはデュランダルを構えると、身体を流れる気を力へと収束させる。
「…はあぁぁぁ!!」
『
ルカは倒れるギリギリの量の気を腕に集結させる。アスラを身に纏っている為にルカの姿は一龍達には見えないが、鼻から血が滴り落ちていた。
デュランダルを横に構え、ルカは迫り来る鉄の津波を見据える。そして、一龍達を今にも呑み込もうとした時、一閃が振るわれた。
「
本来、ルカの周囲全体を斬り払う剣技である
龍貴妃と共に相当な質量を持って押し寄せていた鉄の津波はルカの一閃の元に弾き返され、割れた岩盤と共に押し寄せていた方向とは反対方向へと吹き飛ばされていく。龍貴妃自身も斬撃波に斬り飛ばされ、壁へ貼り付けとなった。
「ガハァッ!?」
装甲が砕け散り、崩れ落ちる龍貴妃。ルカの一撃が強力だった為か、ティターニアの時の様に装甲が再生する事は無かった。
「……ナンデヨ?」
装甲が砕け、怪しく輝くISコアを剥き出しにしながら龍貴妃は起き上がる。
「何デ本物ノ味方ヲスル訳? あんたラ馬鹿ジャナイノ!?」
「仲間だから、友達だからに決まっているだろ!」
憎々しげに叫ぶ龍貴妃へ一龍が言い放つ。
「あたしハアノ頃ニ戻リタイダケナノ、ナノニ何デ? 何デ邪魔スルノ!? コンナ、コンナ過去ニ追イ縋ッテイルミットモナイ女ナンカヲ!!?」
「皆、色々な顔があるんだ! その一面だけが全てな訳じゃない!!」
一龍に続き、ルカが龍貴妃に言い放つ。
「”君”だって、リンの一面じゃないか! なのに、リンの一面だけを、過去だけを見詰めている面だけを見て、それがリンの全てだなんて”過去に縛られているだけの君”が言うな!!」
「ッ!?」
「確かにヒトは過去に追い縋る事もあるさ、僕もそうだった。でも幾ら輝かしく、素晴らしかった過去であったとしても過去には戻れない。過去の自分とのギャップに苦しんで自身を縛り続けるなんて不毛なだけだ! ヒトは前に進まないといけない。リンだって前に進もうとしているんだ、だから僕は、僕達はリンが進んで行ける様に支えていく!!」
「ルカ……」
ルカの言葉に鈴は
「ッ……馬鹿ニシナイデヨ……アンタ等ナンカ……アンタ等ナンカァ……!!」
そう言って龍貴妃はルカへ爪を振りかざして襲い掛かる。ルカは剣を構え、真正面からそれを迎え撃った。
「
「グアッ…!?」
まずルカは、鋭い斬撃によって衝撃波を走らせて龍貴妃にぶつける。
「ガアッ!!」
「まだ終わらないよ!
衝撃波を真面に喰らい、仰け反った龍貴妃にルカは飛び掛かり、その頭上にデュランダルを振り下ろす。勢い良く床に叩き付けられ、バウンドで浮かんだ龍貴妃を今度はデュランダルを思いっ切り振り上げて、斬り上げた。
「コ、コノ……」
「これで決める!
スラスターで斬り上げた龍貴妃より高く飛び上がり、再び
「やあああぁぁぁぁぁ!!」
「グ、ガァァァァアアアア!!」
再び打ち上げられた龍貴妃へ
「ソンナ……コイツラサエイナケレバ、あたしガ本物ニ、本物ニ成レタノニ……。コイツラサエイナケレバアアアァァァ!!」
角が砕かれた龍貴妃は、ティターニアの時と同じ様にISコアの輝きが徐々に消えてゆき、完全に消えるとその体が崩れていく。
怨嗟の言葉を最後に、龍貴妃は消滅した。
【敵影消滅を確認、安全領域に入りました】
「……ふぅ」
「【喜】やったな、ルカ!」
「お見事な剣技でしたわ!」
「日本の剣術とはまた違った剣技、興味深かったぞ」
龍貴妃を撃破したルカに一龍達は駆け寄る。
「【驚】しかし、龍貴妃ごとあの鉄の津波を斬撃の風圧で吹き飛ばすなんて凄ぇな!」
「アスラの出力があってこそだけどね」
「【愛】何はともあれ、鈴の救出は成功だ。有難うな皆」
「一龍の役に立てたのなら、私はそれで満足だ」
「一龍さんへ恩を返せて良かったですわ♪」
龍貴妃が消滅した場所にはブレスレットが落ちていた。それを拾い、鈴が待つ扉前へと戻って行った。
「ルカ…、皆……」
鈴の表情は弱々しいものだった。
それもそうだろう、突如非現実的な状況に巻き込まれ、自身の見られたくない一面を見せる事になったのだ。
「アタシ……ルカと話をしていたら急に気が遠くなって…、気付いたら此処にいて…」
「ああ、解かってる。原因はこれだ」
そう言って一龍は、鈴に待機状態の甲龍であるブレスレットを手渡す。
「アタシの甲龍! これが原因って、どういう事なの?」
「それはだな……」
一龍はIS学園で起きている行方不明事件とセシリアの身に起きた出来事、ISがもう一人の鈴に化けていた事や自身の正体と任務について話した。
「つまり……ISには人間に成り代わろうとするプログラムが前もって設定されていて、甲龍もアタシに成り代わろうと襲ってきたって事?」
「そう言う事。でも、鈴のISは龍貴妃と名乗った彼奴をもう倒したから問題無いからな?」
「なら良いけど…。一龍がトレジャーハンターだったり、ISが自我に目覚めたり…驚く事が多すぎるわ」
ISコアに書き込まれている謎のプログラム。一龍やルカのISは入学前にそれぞれの機関で不必要且つ怪しいプログラムとして削除済みな為に問題無く、セシリアのブルーティアーズに関しても後に調べたが、ティターニアを撃破した為かプログラムは消滅していた。
「一応後で調べさせて貰うが、もう大丈夫だ」
「一龍、アタシ……」
「鈴…、御免な」
一龍は鈴に深々と謝った。
「俺は鈴の気持ちに応える事が出来ず、傷付けた」
「…ううん、一龍は悪く無いわよ。何時までも引き摺っているアタシが悪いだけ…」
謝る一龍を前に、鈴は自嘲気味に答える。
「情けないわよね? アイツが言った通り、アタシは過去を引き摺ったまま一龍に癇癪起こして、皆に迷惑を掛けて…」
「…リン」
泣きそうな鈴をルカが抱き締めた。
「!? ルカ?」
「誰だって過去の良い思い出には縋りたくなるんだ。でもリンは前に進もうとしてるじゃないか?」
「でも……アタシ…皆に迷惑掛けた…」
「誰にも迷惑を掛けないヒトなんていないよ?」
「そうですわ。わたくしだってそうでした…」
ルカに続き、セシリアも鈴に語り掛ける。彼女も鈴の様に《生贄なる乙女》として選ばれ、一龍達が助けに来なければ自身のISに殺され、成り代わられるところであったのだから。
「大丈夫だよ。不安な時は、僕達に頼って? リンは1人じゃないんだから…」
「ルカぁ………、有難う……うぅ…ふぇえええん!!」
鈴の頬を優しく撫でながら微笑むルカに、鈴は嬉しさで泣き出す。そんな鈴をルカは優しく撫でながら抱き締めて慰めた。
TO BE CONTINUE
次回で鈴音編は終了、多分、May be…。
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