遺跡探索回です。
サブタイトル元
『Burning Hearts ~炎のANGEL~』 歌手:光吉 猛修
いかにすぐれた政治的手腕を用いても、
鉛の思想を黄”金”の行為に誤魔化すことは不可能である。
───スペンサー「教育論」
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夕方 18:00
『IS学園(ISがくえん)』 学生寮非常階段前
「来たか…」
準備を整えて非常階段を降りて来た一龍と箒。そこには真次郎とセシリア、シンとルカが待っていた。
「状況は?」
「ルカと話している途中、急に意識を森の方に向けてそのまま森に向かって行ったらしい」
「追い掛けるルカさんをわたくしが見掛けまして、後を追ったら鈴さんが遺跡へ入って行きましたの」
「ねぇ、どういう事なのか説明して欲しいのだけど?」
真次郎とセシリアが説明する中、ルカが良く解らないといった様子で尋ねてきた。
「? もしかして、ルカにはまだ話して無い?」
「遺跡に詳しいのは一龍だからな、来たら説明すると言った」
「確かにそうだ」
「一龍、教えてくれるかな? リンがどうしたのか、彼女が入って行った皆が言う遺跡とは何なのか…」
「【友】分かった。だがまずは俺の事を教えないとな……」
一龍はルカに自分の素性と学園の地下にある遺跡、そしてそれに纏わる行方不明事件について話した。
「…つまり、年に何人かの生徒が行方不明になっているのは地下の遺跡が原因だと考えられていて、トレジャーハンターの一龍はそれを調べに来たって事だね?」
「そういうこと」
「…意外だな、トレジャーハンターって実際にいるんだ」
「ロゼッタ協会って大きな組織なんだけどな…」
「兎に角、このままだとリンが危ないんだよね? 一龍、僕も連れて行ってくれるかな?」
「ルカをか?」
「うん」
決心した表情でルカは一龍に頼み込む。
「これでも剣の腕は自慢出来るんだ」
「そう言えばルカさん、貴族のパーティの際に余興で行われた剣術試合で優勝されましたわ」
「そうなのか?」
「剣騎士の称号を与えられていた伯爵位の方に勝たれましたから、あの時は驚きましたわ」
「お願い、一龍。僕を連れていって」
ルカの真剣な表情に一龍は考える。確かにルカは同年代と比べると身のこなしに無駄が無く、シン程では無いが何か強い力の様なモノを持っているようだ。今日のクラス対抗戦で自分を手こずらせる程の剣術を鈴に短期間で教えた事も評価できる。
一龍は静かに頷いた。
「分かった。だがこの先の遺跡は命に係わる危険な罠もある。大丈夫か?」
「大丈夫だよ、これでも荒事には慣れているんだ」
そう答えながら、ルカはポケットからプリクラを取り出して一龍に手渡した。注射器を持った医者の服装がフレームとしてプリントされており、其処にルカが写っていた。似合っていると思うのは医者志望だと聞いたからだろうか?
「これ、渡しておくね」
「プリクラか?」
「シンジとセシリアが連絡先を教える時に一緒に渡したそうだから…」
「あ、あぁ…、有難うな。じゃあ、この生徒手帳のアドレスページに書いてくれ」
プリクラを貰った一龍はアドレスページに張り付け、ルカに連絡先を書く様にペンと一緒に手渡した。
「さて、ルカ決定したとして後2人は……」
「私(わたくし)を連れて行ってくれ(くださいまし)!」
「箒とセシリアか…」
残り2人のバディを誰にするか呟いた一龍に箒とセシリアが声を上げる。
「今日の襲撃で私は一龍の手助けが出来なかった。せめて遺跡の探索では一龍の役に立ちたい!」
「わたくし、セシリア・オルコットの命を救って頂いた恩を返す良い機会ですわ」
「箒はもう解っているし、さっきルカに言ったがこの遺跡には俺達を襲う機人や罠がある。単独行動はしない様に頼む」
「解かってる(解かりましたわ)」
「それじゃあ、シンジとシンは今回は待機で頼むよ」
「襲撃を受けた夜だ、お前達の事を尋ねられたら上手く言い繕っておく」
「何か有ったら連絡しろ。直ぐに駆けつける」
「【友】有難うな」
真次郎とシンに見送られ、一龍達4人は遺跡へ乗り込むべく森林地帯へ向かった。
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『IS学園地下遺跡(ISがくえんちかいせき)』大広間
「改めて見るが、やはり大きいな」
「うわぁ…」
「最初来た時はちゃんと見ていませんでしたが、本当に大きいですわね…」
大広間に降りて来た一龍達。まず大広間を再び調べてみると、中心地にある円陣の外側にある発光するパネルが増えていた。セシリアを救出する際に埋め込まれていた位置にあるパネルは発光しておらず、別の方向を示す新たなパネルだけが輝いていた。
道標が示す先には前回は閉ざされていた扉があり、押してみると開く。
「この先にリンが?」
「ああ、H.A.N.T.サポートを頼む」
【ナビゲーションサポートを開始します】
「よし、行くぞ皆」
一龍達は扉を開き、遺跡探索を開始した。
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第1区画『地下遺跡・焔道入り口(ちかいせき・ほむらみちいりぐち)』
「うおっ!? 何だこの熱気は!?」
「火山の中にいるみたいだね」
「暑いな……」
「まるでサウナですわ…」
扉を開けた直後、熱い熱気が一龍達を包み込んだ。
セシリアがいたエリアは石材が綺麗に積まれ、水晶の様な輝く鉱石が壁に並んでいた。しかし、このエリアは岩山を刳り貫いた様な赤茶色の岩石の通路となっており、所々が高熱で真っ赤に輝いている。
「不用意に壁に触れるな。火傷するぞ!」
「近付いただけで身体が炙られる様だ」
「目玉焼きが焼けそうですわ……」
「………脱水症状に気を付けてね?(ケルム火山を思い出すな)」
暫く通路を進んでいると広間の様な空洞に出た。広間には何も無く、先へと通じる扉が有るだけだった。
「この区画には仕掛けも無さそうだな、先へ行くか…」
「一龍、これは何だ?」
先へ進もうとした一龍に箒が問い掛ける。彼女の視線の先には奇妙な紫色の蝶がフワフワと舞っていた。
「【驚】これは……まさか……?」
「一龍?」
一龍が紫の蝶に触れると蝶は輝きだし、その姿をヒトガタへと変えていく。
「な、何ですの!?」
「蝶が……人に!?」
「一龍……!?」
「【友】大丈夫だ」
驚く箒達を窘め、一龍は蝶の変化を見守る。
「この世は、泡沫の蝶の夢……。
求め彷徨う者よ。
ようこそ、智の迷宮へ」
輝きが消えるとそこには、紫を基調とした扇情的なドレスを纏った貴婦人を思わせる麗人が現れた。箒と同じく烏の濡れ羽色の様な黒髪をウェーブにし、その顔には先程飛んでいた紫の蝶を象ったパピヨンマスクを着けていた。
「わたくしは古代の叡智と共に在る者」
仮面の麗人は一龍達へ優雅に礼をした。
「悪魔、天使、魔女、精霊……。
或いは慈愛に満ち溢れた女神。
或いは冷酷無比なる鉄の番人。
古来、人間はわたくしを様々な存在に見立てようとする。
そのいずれもが正しく、またそのいずれもが、異なる。
ただ、あなたの先人達はいつの頃からか、わたくしを『マダム・バタフライ』と呼ぶわ。
それがあなた方の目に映るわたくしの仮初めの名……。
どう? わたくしに似合いの名前ではなくて?」
『マダム・バタフライ』
嘗て
妖艶な笑みを浮かべながらマダム・バタフライは一龍へ問い掛ける。
「【友】マダム・バタフライ、美しき古代の叡智と共に在る者よ。俺の名前は葉佩 一龍。貴女の事は義父、葉佩 九龍から聞いてます。義父の時の様に、俺にも力を貸して貰えますか?」
「あの時の冒険者の息子なのね……ふふっ♪」
一龍の言葉にマダム・バタフライは愉快そうに笑うと、再び優雅に一礼した。
「ありがとう。
あなたの肯定によって、わたくしはまた受け継がれていく。
たとえこの出会いが仮初めに過ぎぬものであったとしても……」
一礼を終え、マダム・バタフライは優しい笑みを浮かべながら問い掛ける。
「葉佩 一龍───。
龍の意思を引き継ぎし、若き探究者よ。
あなたが我が望みを叶えるならば、わたくしもまたそれに報いましょう」
「ふむ……」
マダム・バタフライの問いに一龍は考える。義父、九龍の時には化人が落とす道具や料理等を渡す事でオーパーツと交換して貰っていたと言う。ならば今回も彼女が欲しているアイテムを渡せば今後、一龍達が探索で有利になる様なアイテムを好感して貰える筈である。
現在は手持ちに道具に料理は無いが、前回のセシリア救出の際に撃破した
「これで如何でしょうか?」
「『隷属の歯車』と『疑似魂の結晶』ね……。
これならば『9mmLUGER弾』と『5.56NATO弾』が貴方に相応しいかしら?」
一龍から道具を受け取ったマダム・バタフライの手から道具が消えると、弾薬が入った箱が代わりに現れる。
「お行きなさい。
その心の望むままに……。
また会いましょう………」
一龍に弾薬箱を手渡すと、マダム・バタフライは別れの言葉と共に輝きだし、紫の蝶になってフワフワと飛んで行った。
「【驚】………まさかこの遺跡にも表れるなんてな…」
「一龍、彼女は一体何者なのだ!? 九龍さんの事も知っている様だったが…?」
「蝶から人の姿に成るかと思えば道具を消したりする力……人間ではありませんの?」
「マダム・バタフライ……蝶の貴婦人か…(彼女からは神の時代のケルベロスに匹敵する程の凄い力を感じたな。シンや陽介からも力は感じたけど、ここまで強い力を持つ人がこの世界にも居るなんて)」
「ああ、彼女はな……」
一龍は箒達にマダム・バタフライについて説明した。
「遺跡の番人か……あの雰囲気は只者では無いとは分かったが…」
「料理を道具やオーパーツと交換しますの? 食通なのでしょうか…?」
「そんな人をバディにするなんて九龍さんって凄いんだね…」
マダム・バタフライへの感想を聞きながら、一龍達は次の区画へ通ずる扉へ辿り着く。
「一龍、石碑が」
「”現世に降りたし《機界の神》は生と死の焔を与える”、か…」
「《生と死の焔》?」
「焔、炎は生活に欠かせないし、それで人も殺せる。そんな意味かな?」
「この暑さから炎に携わるエリアなのか?」
一龍達は気を引き締め、次の区画へ向かった。
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第2区画『焔道(ほむらみち)』
扉を抜けると一直線の真っ直ぐな廊下の様な通路に出た。通路の両端は窪んでおり、其処に黒い液体が溜まっている。
「只の通路でしょうか?」
「脇に溜まっている液体は何だ?」
「匂いからして油の類だね」
「床にトラップが有るかも知れないから気を付けて進むぞ」
床に注意して進んで行き、次の区画へ進む扉へ到着する。しかし、扉には鍵が掛かっており開かない。
「早速行き詰ったか…?」
「しかし、鍵になる様な物は有りませんでしたわ?」
「何処かで見逃したのか?」
今のところマダム・バタフライと出会った焔道入り口位しかない。それとも、通路の脇に溜まっている油の中に沈んでいるのだろうか?
「一龍、途中に会った黒色の床が怪しい気がするんだけど?」
「ルカもそう思うか?」
ルカが指摘したのは通路の途中にあった、赤色の床に対して踏めば如何にもトラップが起動しそうな黒色の床だった。
「いかにもだよなぁ……」
「如何する?」
「時には危険を冒さないといけない時もある………皆、もしもに備えて構えていろ」
周囲の警戒を促しながら一龍は黒色の床を踏んだ。
カチリという装置が作動する音と共に油が溜まっていた両脇に火が燃え盛る。それと同時に閉じていた扉の鍵が開く音が聞こえた。
「仕掛けはこれだけか?」
「いや……まだだ!!」
「カラ、カラ、カラ、カラ」
独特の笑い声と共に燃え盛る油からナニカが飛び出してきた。
現れたのは燃え盛る炎に包まれた漆黒のしゃれこうべであり、周囲を同じく黒色の棒が複数本周っている。
【敵影確認、戦闘モードに移行】
「囲まれたか……」
一龍達がいるスイッチ床がある位置から見て焔道入り口側に4体、次の区画側に2体と計6体の機人が一龍達を囲んだ。
「如何する、一龍?」
「俺とセシリアが此処から遠距離サポートをするから、箒とルカは敵の接近を抑えてくれ。4体側は俺とルカ、2体の方を箒とセシリアに任せる」
「解かった(よ)」
「任されましたわ」
「後、箒はこれを使ってくれ」
そう言って一龍は青く輝く剣を展開し、箒に手渡した。
「一龍、これは…?」
「これは
「凄く……綺麗ですわ…」
「氷の剣か……燃え盛っている相手に丁度良さそうだね」
「この剣なら相手の熱気を打ち消してくれるから安心して斬り込める筈だ」
「一龍……有難う!」
「良し…往くぞ!!」
しゃれこうべの機人はカラカラと笑いながら一龍達へ炎の塊を飛ばしてくる。箒は
【敵戦力低下、H.A.N.T.に情報を追加しました】
「しゃれこうべが弱点か、上手く当ててくれよセシリア!」
「もう! 回転している棒が邪魔ですわ!!」
回転している黒い棒はセシリアのレーザーすらも弾く様だが、2射目でしゃれこうべを撃ち抜き見事撃破した。
「はぁああ!!」
「
機人の放つ炎の塊を打消し、時には避けながら箒とルカは機人を斬り捨て撃破する。箒達の方はそれで終わりだが、一龍達の方にはまだ2体残っている。
しかし、一回撃破した事で回転する棒のタイミングを理解した一龍は素早いスナイプで残り2体を撃破した。
【敵影消滅、探索モードに移行します】
「ふう……、助かった」
「ルカは凄いな、ISを展開せずに生身の剣術で機人を倒すとは…」
「身軽な方が戦い易いからね。でも箒も強いよ?」
「一龍の足を引っ張りたくないからな。無理はしない様に、されど努力を怠らずに続けている鍛錬の賜物だな」
先程の仕掛けで鍵は開き他に仕掛けは見付からなかったので、一龍達は次の区画へ足を踏み入れた。
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第3区画『灯火の大地(ともしびのだいち)』
新たな区画に入った一龍達、そこは……
「これは…また凄いな」
「底が見えませんわ…」
扉の先には断崖絶壁の光景が広がっていた。見えるのは真っ暗な奈落の底、所々に奈落の底から伸びている様に岩石の柱が立っており、区画の中央には大釜の様な物体が吊り下げられていた。
「一龍、此処はどうしたら良い?」
「落ちたら洒落にならないだろうからな。皆、ISを展開してくれ」
「一龍はどうするの? 」
「これくらいなら生身でも楽勝だな……ほっ!」
そう言って一龍は扉から柱へ軽々と飛び移る。
「まるで天狗だな…」
「危なげも無く飛び移っておりますわね…」
「僕達も追い掛けよう?」
箒が前回の様に一龍から渡された
柱を飛び移りながら別の区画へ通ずる扉の前へと辿り着くが、またも鍵が掛かっていた。
「また仕掛けを解く必要があるのか…」
「となると…、中央にある大釜が怪しいな」
再び柱を飛び移って大釜の前へ着く。大釜は鋼鉄でできており、淵には文章が書かれていた。
「”《機界の神》は従属せし民に褒美として《焔の種》を与え、灯を大地に宿した”」
「セシリアを助けた場所の石碑にも書かれていたが、《機界の神》とは何なのだ?」
「歴史を紐解けば、大航海時代にヨーロッパ人が着いた先の原住民から神と称えた事があったらしいですが、これもそうなのでしょうか?」
「つまり、”文化が進んだ外国人が原住民を隷属させた際に《焔の種》を与えた”ってところかな? 《焔の種》はそのまま火種の事?」
「釜の中に液体が溜まっているな…H.A.N.T.【可燃性の液体と確認】…となると…釜に火を付ければ良い訳か」
一龍はポケットからティッシュ、そして
「一龍さん、それで何をするつもりですの?」
「直ぐ燃えるティッシュを長時間燃え続ける木炭と組み合わせれば……」
そう言いながら一龍はティッシュを木炭に巻き付け、小瓶に入った液体を振り掛ける。
「延焼剤の完成だ」
ライターを取り出した一龍は完成したばかりの延焼剤に火を付け、釜の中に落とす。すると釜の中に入っていた可燃性の液体が燃え上がり、大釜を吊るしていた綱を燃やしていく。
自信を吊るす物が無くなった大釜は奈落の底へ落ちていき………重量のある金属がぶつかる激しい金属音が区画内に響き渡る。そして、見えなかった区画の底が明らかになった。
「……奈落の底が炎の海に変わったね」
「どっちにしても、落ちたら御陀仏だな……」
区画の底にも可燃性の液体が溜まっていたらしく、燃え盛る炎に溢れている。底で燃えている炎を見ている内に鍵が掛かっていた扉がカチリと鍵が開く音が聞こえた。
「あんなに離れているのに熱気が届いて来ますわ…」
「熱くて堪らんな。一龍、先を急ごう」
「そうだな、……ん?」
次の区画へ進もうとした一龍達の元に一枚の用紙が落ちてきた。
「一龍、それは?」
「ロックメモ、俺達より先にこの遺跡を探索したトレジャーハンターが残したメモだ」
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暑い。一歩歩く毎に汗が噴き出してくる。
新しい区画に入ったは良いが、此処から雰囲気が大きく変わっている。
最初に入った区画は石積みの整えられた建築物であったのに対し、
此処は火山の岩石部位を刳り貫いて造られた様だ。
古代人が此処まで掘り抜くには相当な時間と労力を要した筈だが、
一体何の為にこの様な区画を設けたのだろうか?
古代エジプト文明におけるピラミッドはその権力を後世に知らしめる
為にあそこまで巨大な建造物を建てたと言われている。
この区画も労力や時間を使うだけの力があったと知らしめる為のモノ
なのだろうか?
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「先に入った人がいたんだ……」
「メモの通り、此処はわたくしがいた区画とは雰囲気が違いますわね」
「しかし、何故落ちてきたのだ?」
「炎の熱気で気流が発生して舞い上がったんだろうな。俺達もこのままだと炙られるから先に進むぞ」
「「「分かった(りましたわ)」」」
一龍達は再び柱を飛び移り、次の区画へ通じる扉を開いた。
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第4区画『称えの祭壇(たたえのさいだん)』
【敵影確認、戦闘モードに移行】
下り階段を下りて行き、新たな区画に入った一龍達を待ち受けていたのは機人達の手荒い歓迎だった。扉を開くなり、燃えるしゃれこうべの機人とヒトガタの新しい機人が炎の塊を一龍達へ飛ばしてきた。
「うおっ!? いきなりとは御挨拶だな!!」
「一龍!!」
「防御は任せて!!」
直ぐ様、箒とルカが前に出て襲い掛かる火炎弾を斬り払い、一龍とセシリアが狙撃で援護する。
先程戦ったしゃれこうべの機人は弱点が解かっている為に直ぐに倒す事が出来たが、ヒトガタの機人は何処を撃っても中々倒れなかった。
ヒトガタの機人は全身を防護服の様な鎧を纏っており、構えたライフル銃の様な武器から火炎弾を放ってくる。
一龍は防護服の関節部位を狙って弾丸を放つが、関節部位も硬く弾丸を弾いている。セシリアのレーザーも防護服を撃ち抜けずにエネルギーが四散されて効いていないようだ。
「銃撃は無意味か…」
「わたくしのスターライトも効いていませんわ!」
「一龍どうする?」
「撤退すべきかな?」
ヒトガタの機人は徐々に距離を詰めて来ている。
(敵の前面は全て撃った。残りは側面と後ろだが…)
敵には必ず弱点がある。残った部位にどう攻撃すべきか、一龍は考える。
区画を見回しながら状況を判断していると、区画の天井近くにワイヤーポールがあるのを見付ける。
「(奴等の背後を取るのに使えるな)皆、ちょっと冒険してくるぞ」
「「「一龍(さん)!!?」」」
【ワイヤーを発射します】
一龍はワイヤーポールに向けてワイヤーを射出し、ワイヤーが繋がる。ワイヤー射出機を床に固定するとワイヤーに乗って走り出す。ヒトガタの機人が火炎弾を放つが、一龍の背後を通り過ぎる。
「一龍っ!?」
「何をするつもりなのでしょうか?」
「一龍の事だから問題無いだろうけど……」
ワイヤーを伝って高台に着いた一龍はヒトガタの機人の側面や背後を確認する。機人が火炎弾を放っているライフル銃の様な武器は背中にあるボンベの様な物体に繋がっている。
「見るからに………だな!」
一龍はボンベらしき物体に向けて弾丸を放つ。NATO5.56弾が命中したボンベは大爆発を起こし、機人ごと木端微塵に吹き飛ばした。
【敵戦力低下、H.A.N.T.に情報を追加しました】
「当たりか、セシリア! 弱点は背中のボンベだ!」
「了解しましたわ。行きなさいブルーティアーズ!!」
一龍の言葉に頷いたセシリアはレーザービットを展開し、機人へ向けて飛ばす。ブルーティアーズは機人の後ろを取ると、ボンベを次々と撃ち抜いていく。レーザーに撃ち抜かれた機人は爆散していき、全滅した。
【敵影消滅、探索モードに移行します】
「やりましたわ」
「【褒】流石、セシリアだ」
「一龍、いきなりだったから心配したぞ?」
「【謝】悪いな、箒」
「何はともあれ、罠が無いか確認し終えたらこの区画は安全だね」
罠が無いか確認しながら、一龍達はこの区画の調査を開始する。区画内は広く、中央に祭壇を囲む様に祈るポーズをとった石像がバラバラな方向を向いて配置されていた。次の区画へ進む扉も直ぐ見付けたが、案の定鍵が掛けられていた。
「何だこの蛾は? む、何かに集っているぞ?」
「一龍さん、またメモが有りますわ」
箒達が示す先を見ると、床にロックメモが置かれており、その上を蛾が飛んでいた。
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赤子の様な機人、燃え盛る骸骨の頭と宙に浮かぶ機人をこれまで目撃
したが、あの様な小さい物体が重力をコントロールする技術が古代日本に
存在していたとは思いもしなかった。
尚、このメモには動物達が持ち去るのを防ぐ為に特殊な香料が塗られて
いる。
機械と融合している機人に効果があるかは解からないが、他の方法を模索
している暇は無い。
動物を近寄らせない効果があると同時に、この香料は特定の虫を呼び
寄せる効果がある。
もし、俺の後に続く者がいるのなら、きっとそれが目印になるだろう。
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「メモから香る匂いは動物避けの香料だったのか」
「動物避けは便利ですわね、虫が寄って来るのは問題ですが…」
「一龍、この壺は?」
ルカが見付けたのは宝物壺だった。鍵が掛かっていたが、サバイバルツールを使って施錠すると、中には秘宝が入っていた。
【秘宝を入手しました】
一龍は燃える炎の形を模した石版《焔の御霊》を手に入れた。
「これは?」
「多分、この区画か先にある仕掛け也を解く際に必要な筈だ」
「この区画の中央にある祭壇に使うのでしょうか?」
「まずは調べてみるか」
周囲には他に目ぼしいモノが無かったので、次に祭壇とその周辺を調べてみる。祭壇には何かを燃やした様な跡が有るが、先程手に入れた《焔の御霊》を取り付ける場所は見当たらない。しかし、祭壇の手前に石碑があり、これが仕掛けを解く手がかりとなるだろう。
「”民は祭壇に祈ると祭壇に《灯》が宿った”」
「これは解り易いね、この祭壇の周囲にある石像を全て祭壇に向ければ良いんじゃないかな?」
「成程、石像が祈る方向を全て祭壇へ向ければ仕掛けが解かれる訳か」
「それなら早速動かしましょう」
祈るポーズをとった石像は東西南北あらゆる方向を向いており、この石像を回す事で祭壇の方へ向ける事が出来た。全ての石像を祭壇へ向けるとしかけが作動する音が聞こえ、祭壇に灯が着いた。それ同時に扉の鍵が開く音も聞こえた。
「鍵が開きましたわ」
「解り易い謎解きで良かった」
鍵が開いた扉を通り、一龍達は次の区画へ進んだ。
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第5区画『裁きの流路(さばきのりゅうろ)』
新たな区画は先が見えない位に長い直線路だった。
「これは……」
「如何にも……」
「何か罠が……」
「仕掛けてありそうな…」
横に石碑が有る以外には何も無い直線路。取り敢えず用心して進むとして、まずは石碑を調べてみた。
「”《機界の神》の意に背く都有り。怒りし《機界の神》は死の焔を呼び、都を裁いた”」
「死の焔で都を裁いた……」
「従わない国を火攻めにしたのでしょうか?」
一龍達は周囲に注意しながら通路を進む。通路はなだらかな下り坂となっており、特に罠らしい仕掛けは見付からない…………
カチリッ
と思った矢先に何か仕掛けが作動する音が聞こえた。
「な!? 何故だ!?」
「変なスイッチなど押してませんわよ!?」
「H.A.N.T. ! 原因は解かるか?」
【周囲に空洞音は無し。但し、扉周辺に空洞と金属部品と探知。現状より扉を開いた時に発動する時限式のトラップと想定】
「皆、あれ!!」
ルカが指差したのは一龍達が入って来た扉が有る方向。ルカの指の先には壁の側面の穴から流れ出る真っ赤な液体があった。
「溶岩!?」
「こっちに流れて来るぞ!!?」
「急げ!!」
斜面である事から、大量の溶岩は一龍達に向けて勢いよく流れて来る。通路は狭い為にISの展開は不可能な為、一龍達は全速力で通路を走っていく。
「こ、これは……正にインディジョーンズですわ!!」
「まさか……こんな事になるなんて……!!」
「兎に角、走れ走れ! 追い付かれたらアウトだぞ!!」
「本当にアウトだな、生死の境目的に!!」
一龍達は走り続ける。途中に上りの傾斜があったが、傾斜が低い為に勢いよく流れて来る溶岩が止まる筈も無く、どんどん一龍達との距離が迫って来る。こうして数分走り続ける内に通路の床が無くなっており、ポッカリと穴が待ち受けていた。
「そんな!? ここまで来て行き止まりだと!!?」
「ここまでですの!?」
「いや、向こう岸が見える。あそこへ行けば……」
「でもこの狭さじゃISは展開できないし、壁には捕まるところは無いよ!?」
こうしている内にも溶岩は一龍達を焼き尽くそうと迫って来ていた。
「セシリア、ルカ、このワイヤーガンに捕まれ!!」
「一龍!? きゃあ!?」
一龍はワイヤーを飛ばして天井へアンカーを突き刺すと、ワイヤーガンをルカに渡して自分は箒を抱えると、そのまま向こう岸へと飛び出した。
「一龍さん!?」
「セシリア、僕達も飛ばないと!!」
「へ? きゃっ!?」
直ぐそこに溶岩が迫っていた為にルカはもセシリアを抱えて飛び出した。一龍、ルカ共に向こう岸へと飛び移る事ができ、溶岩は穴の底へと流れ落ちていった。
「セシリアとルカは無事か?」
「ルカさんの御蔭でなんとか…ですわ」
「一龍のワイヤーガンが無かったらと思うとぞっとするよ…」
「【喜】無事で良かった……。箒も大丈夫か?」
「う、うむ。一龍の御蔭で問題無いぞ(こんな状況なのに……何ドキドキしているのだ私は!? いや、こんな状況だから尚更なのか?)」
バディ達全員の無事を確認した一龍は安堵する。
「取り敢えず、溶岩に溶かされる危機は脱したがまだ罠があるとも限らない。注意して進もう」
「「「分かった(かりましたわ)」」」
一龍達は周囲を警戒しながら進むが、先程の溶岩トラップ以外に無かったらしく、次の区画へ通じる扉へと辿り着き、その扉にはロックメモが貼り付けられていた。
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トラップの様に仕掛けられた溶岩を流す水路を調べてみると、どうやら
溶岩では無く、溶けた鉄の様だ。
これだけの量を溶かすには膨大な熱量が必要な筈だ。新たな区画に入って
から壁や床が高温になっているが、この流れている鉄を溶かしている熱の
影響なのだろうか?
人の姿が無くなって相当な時間が経っているであろうこの遺跡で尚も
稼働していると思われる溶鉱炉は一体どの様なテクノロジーで造られた
のだろうか?
興味が尽きない。
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「僕達に迫っていたのは溶けた鉄だったんだね」
「どちらにせよ危険だったのには変わりませんわ……」
「しかし、何故溶けた鉄などが流れてきたのだ?」
「溶かした鉄を流す流路か……、案外この区画全体は巨大な溶鉱炉なのかもな」
一龍達は次の区画へつながる扉を開いた。
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第6区画『裁かれし大地(さばかれしだいち)』
第5区画から梯子で更に地下へ降りた先に待ち受けていたのは溶岩……否、溶けた鉄で溢れた海であった。所々に浮島があるのでこれを伝って先に進んで行けるだろうが、踏み外してしまえば鉄の海へと真っ逆さまである。
「これ全部が溶けた鉄なの!?」
「溶鉱炉を壊して中身をぶちまけたらこうなるのでしょうか?」
「ここまでくると絶景だな……」
「あそこから前の区画で穴に流れ落ちた鉄が出て来ているのか」
区画の壁際に石材で造ったと思われる排水口らしき物体が伸びており、そこから前の区画から流れて来たであろう溶けた鉄が排出されて鉄の海へと注がれていた。
「遮蔽物が無い此処なら浮島に飛び移らなくとも、ISで扉まで飛べば済むな」
「おっと、ISに頼るのは駄目だ」
「どうして?」
「セシリアの時の様に、鈴がいる場所での戦闘が考えられる以上、飛んでエネルギーを消費するのは得策じゃない。それに、この先の戦闘でエネルギーが尽きたら歩いて戻らないといけないだろ? この区画にも仕掛けが有る様だし、歩きでも戻れる様にしないと帰れなくなるぞ」
一龍の言葉通り、先の区画へ向かう為の浮島が途中から無くなっており、人の身では扉が有る向こう岸まで辿り着くのは不可能だ。
「確かに、セシリアを助けた時はシンのISがエネルギーが尽きていたな」
「此処の仕掛けも解かないといけない訳だね? 簡単に解ければいいけど…」
「帰りも来た道を通る事を忘れていましたわ」
浮島を飛び移りながら一龍達は先が途切れている手前の浮島に辿り着く。
この浮島だけは他より面積が広く、ハンドルが取り付けられた石柱が立っており、柱には文章が書かれていた、
「”従属を近いし民は燃えし都から《鋼の橋》を渡りて裁かれし大地から逃れた”」
「状況をも見るに《鋼の橋》が向こう岸へ渡る為の仕掛けなのかな?」
「つまり、これを回せば橋が出てくるのだな?」
「でもこのハンドル、硬すぎて回りませんわ!!」
長い間放置されていた為か、ハンドルは箒とセシリアの2人がかりではびくともせず、一龍とルカでも動かなかった。
「油を潤滑油代わりに使うのはどうかな?」
「いい考えだ」
ルカの案で一龍は食物油を取り出し、ハンドルの仕掛け部分に軽く注ぐ。
「食物油まで持って来ていたんだ?」
「油は色々な所で利用できるからな。よし、回り出したぞ!」
ハンドルを回していくと、鉄の海から向こう岸まで通じる橋が現れる。しかし、それと同時に向こう岸に置かれていた棺桶からヒトガタの機人が現れた。
【敵影確認、戦闘モードに移行】
「ここで敵!?」
「橋を渡っていないのに、このままでは狙い撃ちされるぞ!?」
「ここはわたくしのブルーティアーズの出番ですわ!」
「なら俺も!」
前の区画で倒した様に、セシリアはレーザービットを展開して機人の背中へ攻撃を開始する。一龍も小型戦闘機を飛ばして、セシリアに続いた。ブルーティアーズと小型戦闘機の的確な弱点への攻撃に機人は抵抗も儘ならず爆散していった。
【敵影消滅、探索モードに移行します】
「セシリアを連れて来て正解だったな」
「ふふっ、ブルーティアーズに死角はありませんことよ?」
そのまま橋を渡る一龍達。向う岸にはこれといった仕掛けは無く、倒した機人が入っていた棺桶がある位であったが、床の中央にロックメモが置かれていた。
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一面に広がるは溶けた鉄の海。上から鉄が流れ落ちて来るのに嵩が
増えないのは別の区画へ流れているからだろう。
この溶けた鉄を溜めている区画の深さは解らないが、これだけの量の鉄を
溶けた状態で保存するのに必要な熱エネルギーはどこから来て、どの様に
生み出しているのだろうか?鉄の海を抜けると、蛇が向かい合った
巨大な扉が目の前に立ち塞がった。
この新しい区画に入る時にもお目にしたが、蛇は記紀神話において霊力を
持つ獣だとされている。
この遺跡も神話を元にしたモノなのだろうか?
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「蛇が登場する神話は数多くありますが、この遺跡のモチーフは何なのでしょうか?」
「石碑に多々書かれている《機界の神》も気になるな」
(義父さんの話だと、蛇が向かい合った扉は
「リンが心配だし、進もう? 無事だと良いんだけど…」
一龍は入手した『焔の御霊』を鍵穴にはめ込み、錠前は光の粒子に変わって大気中に溶ける様にして消失する。それを確認した一龍達は鈴がいるであろう次の区画へ入っていくのだった。
TO BE CONTINUE
次回、ボス戦。
しっかし、遺跡探索は微妙だなぁ…
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