一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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今回は襲撃後の後始末的な回です。


サブタイトル元
『それじゃあバイバイ』歌手:SURFACE


 それじゃあバイバイ

結婚をしばしば

”宝”くじにたとえるが、それは誤りだ。

”宝”くじなら当たることもあるのだから。

 

───バーナード・ショウ

 

 

____________________________________________

 

 

『IS学園(ISがくえん)』 保健室前

 

 

 突如、一龍達を襲撃してきた謎の無人IS。20機という1国を簡単に墜とす事が出来るであろう戦力の数であったが、一龍達男性操縦者とセシリア、簪の活躍によって全て撃破する事が出来た。

 被害者こそいなかったが、この襲撃事件によってクラス対抗戦は中止。被害についても謎のハッキングによる学園の防衛プログラムの異常や無人機のビームによって第2アリーナにはあちこち破壊されており、あちこちに傷痕が残っていた。

 現在、一龍達は保健室に向かっている。

 今回の襲撃事件に係わった者として千冬に報告をする事になったのだが、無人機との戦闘で体に異常が起きていないか確認するのが先であると保険医の瑞麗から言われ、先に保健室に集まる事になった。そして部屋に入ると……

 

 

「一龍!!」

「【驚】うお!? 箒?」

「一龍、一龍、いちろぉ………!!」

 

 

 一龍が部屋に入るや否や、先にいた箒が一龍の胸元に飛び付いて来た。

 

 

「箒、皆の邪魔に…「し、死んでしまうかも…えぐっ……しれない! いなくな……うぐっ…いなくなるかもしれない……思った!!」………箒……」

「…ぐすっ……怖かったよぉ………」

「【悲】御免な、箒…」

 

 

 涙をボロボロと零しながら縋り付く箒を一龍は優しく抱き締め、その様子を鈴は気まずい様子で見詰めていた。

 

 

「おや、英雄達は皆揃ったかな?」

 

 

 保健室の奥から瑞麗が煙草管を片手に現れる。

 

 

「ルイ先生?」

「その娘の相手は少し骨だったよ。君の事が心配で今にも事切れそうな位に顔が真っ青だったのだから」

「【驚】……そんなに…」

「愛されているね、君は」

 

 

 申し訳なさそうに一龍は箒の頭を撫でる。箒はまだ一龍の胸元でしゃくりあげていた。

 

 

「避難した生徒達は無事だったんですか?」

「避難中に転んだり、ぶつかったりした娘はいたが、君達の迅速な対応のお陰で大した怪我をした者はいなかったよ」

「そうですか、良かった…」

 

 

 ルカが避難した生徒達の無事を確認し、安堵する。

 

 

「何や、ルカ坊はそのセンセと知り合いなんか?」

「知り合いというか……」

「彼とは良く話をする仲でね。なんでも未来の医者の卵と言うじゃないか、だから良くお茶を飲みながら色々と話をしたり、質問に答えたりしているのさ」

「ルイリー先生の東洋医学の話はとても為になるからね」

「中々優秀な生徒だよ、君は。それで……君が話にあった娘かな?」

 

 

 瑞麗の視線が鈴に移り、彼女は戸惑う。

 

 

「アタシを知っているんですか?」

「愚弟から色々とね、「武術を教え甲斐のある娘と故郷に帰った時に出会った!」と」

「…もしかして、貴女が弦月さんのお姉さん?」

「うむ、姉の瑞麗だ。同じ出身国同士、宜しく頼むよ」

「は、はい。こちらこそ、弦月さんにはお世話になりました」

 

 

 そう言って鈴は瑞麗にペコリと礼をした。

 

 

「さぁ、身体検査だ。この後、織斑先生に報告があるのだろう? 早く終わらせよう」

 

 

:::::

 

 

IS学園地下 隔離部屋

 

 

 IS学園の地下50メートル、学園の関係者でもレベル4の権限を持つ者でしか入ることが出来ない空間ににある一室に千冬と真耶はいた。

 彼女達の前には一龍達によって機能を停止した無人機(比較的破損が少ない機体)が解体され、パーツ毎に分けられて陳列されている。パーツやコアにはコードが繋がれており、千冬達によって解析を受けていた。

 

 

「何か解ったかね、山田君?」

「はい、これを見てください」

 

 

 千冬の問いに真耶はタッチパネルを操作して解析結果をディスプレイに表示する。表示された無人機のデータには、世界で進められていながら未だに完成していない技術である遠隔操作(リモート・コントロール)機能、独立機構(スタンド・アローン)が備わっていたのだ。

 

 

「やはり無人機なのか……」

「葉佩君が言った通りですね…」

(だが、今回の襲撃に関しては無人機である事に感謝するしかないな…)

 

 

 そんな事を思いながら、千冬は内心安堵する。今回の襲撃事件に現れたISが有人機であった場合、あの状況では自分の生徒達が侵入者達を殺してしまうかもしれなかったのだ。

 

 

「それで、コアの方はどうだ?」

「それが……登録されていないコアでした」

「やはりか……」

 

 

 千冬の意味深な発言に真耶は首を傾げる。

 

 

「心当たりがあるんですか?」

「!? いや、20個ものコアを持っている国など数える程度な上に、この様な捨て駒として使う訳が無いと思ってな」

「嗚呼、成程。だから新しく作られたコアだと考えられる訳ですね?」

「そういう事だ」

 

 

 千冬の説明に真耶は納得する。

 

 

「失礼します」

 

 

 そこへ、水色髪の生徒が入って来る。リボンの色が黄色である事から2年生と窺えるが、何故生徒である筈の彼女がこの部屋に入れるのか?

 

 彼女の名前は更識 楯無(さらしき たてなし)

 日本を裏から守る暗部、カウンターテロ組織の一族である『更識家』の若き当主であり、IS学園とも深く関係を持っている。そして彼女はIS学園生徒会の会長であり、ロシアの国家代表でもある。

 今回の襲撃事件は、知られてしまえば国際レベルの騒動が確実に起きる程の出来事であり、更識家を使って情報操作を行い、情報の拡散を防ぐ事になったのだ。

 真耶から無人機のデータを渡された楯無は素早く内容を確認した後、分解された無人機本体に視線を向ける。

 

 

「先生、これが?」

「そうだ。これが今回襲撃してきた無人機で、20機の内比較的損傷が少なかった機体だ」

「他の機体は?」

「コアも含めて跡形も無く破壊されているのが殆どだ。これが無事であったのは奇跡かもしれんな」

「はぁ……、迎撃したのは男性操縦者と聞いていますが…?」

 

 

 楯無は若干、不思議そうな表情で千冬に尋ねる。

 実際のところ、彼女は20機もの無人機を男性操縦者達が撃破したと言う事について半信半疑であった。実際に20機ものISを迎え撃つなど、元ブリュンヒルデである千冬を含む学園の教師陣と自分達、国家代表候補生が結集したとしても全てを撃破する事は到底不可能だと彼女は考えていたからだ。

 

 

「更識はアリーナにはいなかったのだったな?」

「はい。2、3年生はくじ引きでアリーナ応援席に入れるか選んでいたのですが、私はハズレだったので外のモニターで観ていました」

「モニターには映っていなかったのか?」

「襲撃と同時に映像は消えていましたし、避難誘導で手一杯でしたから…」

「ならこれを視ろ」

 

 

 そう言って千冬は制御室の監視カメラで撮影されていた一部始終をモニターに映し、楯無に見せた。

 

 

「何よ……これ…」

 

 

 楯無は驚愕の声を漏らす。

 

 映像は襲撃直後から始まった。遮断シールドを突き破るビームを放つ無人機の姿から、この機体が戦闘用として造られたモノであると分かる。このビームは軍事用のISでかろうじて耐えきれるかどうかの威力であり、IS学園にある学園所持の機体や自分含む国家代表候補生が持つ専用機が喰らえば、ひとたまりも無いだろう。

 そんな武装を持つ機体が7機も現れたのだ。この無人機達のAIがどれ程のモノなのか知らないので詳しい実力は解らないが、自分や元ブリュンヒルデである千冬といった教師陣がいなければ1時間も経たぬ内にIS学園は更地と化すだろう。

 

 しかし、楯無が本当に驚愕するのはこの後であった。

 

 まず1組応援席に降りてきた3機の内1機を荒垣 真次郎が支援ユニットと思われる馬型無人機で即座に撃破した。

 残りの2機を3組代表の熊田 陽介が真次郎の馬型無人機と共に迎撃し、止めこそ真次郎に奪われていたが、放ってくるビームをそのずんぐりとした機体からは想像出来ない俊敏な機動で避けながら2機纏めて冷凍兵器で無力化させた。

 次に4組応援席だが、遮断シールドが消えて無防備となっている生徒達、詳しくは4組唯一の男性操縦者であるブリリアント (省略) テザーの前に1機の無人機がビーム砲を向けながら現れていた。

 と、ここで楯無はその目を大きくし、驚愕の表情に染まる。

 

 

(嘘、あんな所に簪ちゃんがいたの!?)

 

 

 自分の妹である更識 簪がブロントの隣に座っており、無人機にビーム砲を向けられている姿が映されていた。

 生徒は全員無事であり、簪が怪我をしていない事は陰から確認済みであるが、まさかあのような場所にいたとは思いもしなかった。

 今にも放たれようとしているビーム砲。このままで放たれれば自分の妹が消し炭と化すであろうその瞬間、ブロントの右手に両刃剣が現れ、無人機を難なく一刀両断したのだ。

 ISにはシールド及び絶対防御がある。軍事用の機関銃の弾でも弾くシールドが張られている筈の無人機を両刃剣以外展開する事無く斬り裂いた。

 

 

(無茶苦茶だわ…)

 

 

 先程、真耶に見せて貰ったデータから、無人機の性能は競技用ISを上回るモノであると理解していた。その機体を映像を見る限り剣だけで真っ二つにしたのだから驚かせない方が無理だ。

 最初に現れた2機も片方は葉佩 一龍が取り出したヒートブレード? と思わしき武装で融かされて破壊され、もう片方も鳳 鈴音は初めこそ苦戦していたが、男性操縦者の中で唯一襲われていなかったルカ ミルダと協力して撃破してみせた。

 最後にルカを狙って現れた3機も放つビームはブロントの構えた盾に防がれ、簪と追ってきたニコラス、シンによって撃破された。

 

 

「……織斑先生、無人機は20機いたんですよね?」

「そうだ」

「映像には半分の10機しか映っていませんでしたが残りの10機は?」

「学園上空でウルフウッドと間薙が撃破した」

「そんなっ!? たった2人でですか?」

「そうだ。但し、迎撃の際に使った武装のリミッターは解除していたらしいがな」

「……無人機10機を2人だけで…」

 

 

 信じられないといった様子で楯無は何かをブツブツと呟く。

 

 

「今回の件は学園内に箝口令を出す。良いな?」

「…解りました」

「そろそろ検査も終わる頃だろう。山田君、後を頼む」

「分かりました」

 

 

 そう言って千冬は部屋から退出した。

 部屋を出た千冬は深く溜め息を吐く。

 

 

(今日の件が束だと云う事が確定的だ。こんな事をするのなら葉佩が言った通り、白騎士事件もあいつのマッチポンプ………私は担がれ束と一緒に世界を狂わせた……だとしたら一夏…、私は…)

 

 

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管理室

 

 

「失礼します」

「来たか………何故、篠ノ之がいる?」

「【謝】申し訳ありません、どうしても離れたがらなくて…」

 

 

 部屋に入って来た面々を見た千冬は怪訝な表情になる。一龍の右腕には箒がガッチリとしがみ付いていた。

 

 

「篠ノ之、お前は今回の件には関係が無い。外で待っていろ」

「それは無いでしょう、織斑先生」

「どういう事だ、葉佩?」

 

 

 一龍が発言した意味を理解出来ない千冬。

 

 

「今回の無人機による襲撃を出来る人間など1人しかいなく、箒はその人物と深く関係していると言う事ですよ」

「一龍、まさか!?」

 

 

 驚愕した表情で一龍を見る箒に一龍は頷く。

 

 

「そうだ箒、今回の襲撃は篠ノ之 束博士が起こしたものだ」

「そんな、姉さんが…」

「葉佩、それを篠ノ之や他の者がいる場所で「いえ、知らないと危険です」…それは何故だ?」

「箒は勿論、織斑先生も解っている筈です。篠ノ之 束博士がどんな性格であるかは」

「む…」

「彼女は自身が興味を持ったモノ以外の存在に対する関心が全く無いと言って良い程希薄だ。それが自身を産み、育ててくれた肉親だとしても……」

「そんな…自分の親に対しても無関心だと云いますの?」

 

 

 セシリアが信じられないといった表情になるが、一龍は彼女に頷いて肯定の意味を伝える。

 

 

「逆に興味を持ったモノには異常なまでに執着する。今回、興味を持ったのは……」

「俺達男性操縦者って訳か?」

「それで態々20機もの無人機を投入して、俺達の実力を確かめたという事か…」

「何よソレ……、無茶苦茶じゃない!?」

「下手したら……いや、怪我人どころか死者が出るかもしれなかったのに…」

 

 

 真次郎とシンは納得するが、鈴は憤慨し、ルカは起きたかもしれない最悪の状況を想像して青ざめる。

 

 

「データを採るだけの為に姉さんは何て事を……」

 

 

 漸く落ち着いてきた箒も、自分の姉の凶行に悲痛な表情になる。

 

 

「それに、彼女が今回の襲撃だけで満足するとは限らない」

「つまり今後も似た様な襲撃が起こると言うのか?」

「そう言う事です。しかも何時、何処で襲撃して来るか解らない以上、心構えは必要でしょう」

「こん先、同じ襲撃が起こる可能性が有るんかいな……。面倒な事になりおる…」

 

 

 ニコラスがそうぼやくが実際、再び襲撃が何時行われるか解らないのだ。

 

「今回の無人機が使用した武装も問題です。あの破壊力はISのシールドどころか絶対防御も破りかねない」

「まさか、クマ達は殺してもデータが採れれば問題無いと言う事クマか?」

「そんな……」

「おいィ、Dr.シャントット以上のクレイジーとかちょとsYレならんしょこれは…」

「………確かに葉佩の言う通り、今回の襲撃は国や組織が起こせるものでは無い。製作者である束しか出来ない事だ。だが葉佩、篠ノ之を連れて来た理由は何だ?」

「今回の件は箝口令を出して世間にも隠すのですよね?」

「ああ、そのつもりだ。この襲撃は世界を混乱させるのに充分な事件だ」

「それには俺も賛成です。でも情報は何時漏洩するか分からない」

「学園の誰かが洩らすと言うのか!?」

「それも考えられますが、いるでしょう? 学園関係者意外にこの襲撃を知っている者が1人」

「!? まさか一龍、姉さんが?」

「可能性として有り得るとしか言えないけどな。自身以外は基本どうでも良いと考えている彼女だ、遣りかねない」

「でも一龍さん、仮に束博士が今回の事件を漏洩したとして、待っているのは博士を捕まえようとする世界中の人間ですわよ?」

「ISが世界に発表されて数年後に行方を眩ましたっきり、誰にも見付かっていない奴だ。いくら探しても無駄だろうな。問題はその影響を受ける周りの人間、つまり篠ノ之という事だな?」

「そうです」

 

 

 千冬は一龍が箒を連れて来た理由を理解し、一龍はそれを肯定する。

 

 

「束博士を確保したい組織には家族を人質にしてでもやる連中がいるでしょう。政府に守られている箒の両親や国家間での協定が結ばれている俺達男性操縦者は兎も角、箒は超法的地区であるIS学園に基本的にいるとしても、学園外に出たら何処で拉致られるか解りませんから」

「つまり、私も用心を心掛けておけと言う事だな?」

「そうだ(まぁ、俺がいるからそんな事はさせないけどな)」

「……篠ノ之の警護についてはこっちで考えておく。では、お前達を呼んだ理由を話させて貰うぞ」

 

 

 漸く本題に入り、千冬は一龍達を見回す。

 

 

「今回の襲撃事件については葉佩が先程言った通り、箝口令が布かれる。この件が知られれば国際的にも大問題だ。外部の者には決して口外するな、良いな?」

《解りました》

 

 

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夕方 17:00

学生寮

 

 

 寮に戻って来た一龍達であったが、何か生徒全員が物凄いお通夜ムードとなっていた。

 

 

「何だこりゃ?」

「何がありましたの?」

「おいィ、あもりにも空気がネガネガし過ぎでしょ? このままではメンタルが鬱でマッハ」

「はばっち、シンにー!」

 

 

 首を傾げる面々に本音が駆け寄って来る。

 

 

「本音、一体何があったんだ? やっぱりあの襲撃で誰かが怪我を…?」

「クラス対抗戦自体が無くなったから優勝商品が無くなったんだよ〜」

「ああ、納得…」

「確かにデザートパスが無くなったのは惜しいクマ〜」

「皆、欲が突っ張っとるのぉ…」

 

 

 状況を理解したニコラスは呆れ顔になる。

 

 

「【憂】でもまぁ、あんな怖い思いをしたのに何も無いってのもな?」

「? どうするつもりだ?」

「俺達を応援してくれた御礼でもしようかと、な?」

 

 

 そう言って一龍は真次郎達、男性メンバーのみを集めて何か耳打ちする。

 

 

「…物好きだな、お前も」

「でも良い考えだと思うよ?」

「クマもイチローの考えに賛成クマ〜」

「まぁ、ワイも構へんで?」

「別に反対はしないが俺は簡単な仕事しか手伝えないぞ?」

「役割を分担すれば良いのではにぃか? だが費用はどうするんですわ、お?」

 

 

 一龍の意見に対し、皆が賛成の意見を取ってくれた。

 

 

「費用は言い出しっぺの俺が出すから問題無いさ」

「馬鹿言うな。1年連中全員分だろうが、一龍にだけ払わせるか」

「せやな。1人だけで払うんは太っ腹やけど水くさいで?」

「当日は大した手伝いが出来ない身だ、費用位多目に払わせてくれ」

「【喜】有難うな皆」

「クマさん達は何で内緒話しているの〜?」

 

 

 男だけで話を進めている姿に首を傾げる女性陣。そこに陽介が本音に耳打ちする。

 

 

「のほほんちゃん、あのね………」

「わ〜ぁ! 本当!?」

「本当クマよ♪」

「クラスの皆に伝えておいてくれないか?」

「は〜い♪」

 

 

 本音は元気良く返事をすると、ルンルンとステップを踏みながら他の生徒達の元へ去って行った。

 

 

「一龍、一体何をのほほんさんに話したのだ?」

「…本音の目、とっても輝いていた」

「さっきまでぽやぽやしていたのに…」

「凄く喜んでいたようですが…」

「ほむ、そるはだな…」

 

 

 一龍の代わりにブロントが箒達に説明する。

 

 

「まぁ、宜しいですの?」

「その…態々良いのか? 4クラス分って、大変じゃないか?」

「ブロントさんの……、凄く楽しみ」

 

 

 各々が反応を返す。

 

 

「ほぅ、カンザシが期待しているなら、ちゃんと応えないといけない感」

「【友】まぁ、俺達がやりたいからやる訳だから楽しみにしていてくれよ」

「そうと決まれば、さっさと打ち合わせをするぞ」

「そうだね、道具とか材料が揃っているか確認しなくちゃ」

 

 

 そう言って一龍達はマミーズへ向かって行った。

 

 

「わたくし達は部屋に戻りましょうか?」

「そうだな」

「…今日は疲れた」

「…………」

 

 

 残された箒達も各自の部屋へ戻ったのだった。

 

 

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学生寮

 

 

「ふぅ…」

 

 

 マミーズから帰って来たルカは自販機でミルクティーを購入し、一服入れていた。

 一龍達との打ち合わせは長く掛かり、夕食を食べながらも続いた。

 

 

 ふと、ルカの視線に廊下にポツンと立っている人影が映る。近づいてみると鈴が廊下の窓から外をぼおっと眺めていた。

 

 

「リン?」

「ルカ……」

 

 

 ルカが声を掛けると鈴は彼の方を振り向く。その目は真っ赤に充血していた。

 

 

「!? その目…、どうしたの?」

「大丈夫、ちょっと泣いていただけだから…」

 

 

 そう言って無理に笑みを浮かべる鈴。この仕草からルカは彼女が一龍への未練をまだ残している事を理解する。

 

 

「ルカのお陰で吹っ切れたと思ってた…」

 

 

 鈴はポツリと呟く。

 

 

「一龍との決着は襲撃のせいで、うやむやになっちゃったけど、それでも割り切れる様になったと思ってた」

 

 

 ルカは鈴の話を黙って聞いていた。

 

 

「でも駄目だった…」

 

 

 ルカを見詰める鈴の目から涙が溢れてきた。

 

 

「保健室で箒が一龍に抱き締められながら撫でられる姿を見た時、胸がとても苦しかった」

「………」

「それで思っちゃったんだ、“何で一龍に抱き締められているのがアタシじゃないのか”って…」

「リン……」

「何でかな?」

 

 

 鈴は涙を溢しながら俯き、言葉を続ける。

 

 

「アタシは只、普通に暮らしていければそれで良かったの。父さんと母さんがいて、一龍や弾と遊んでいればそれで………」

 

 

 悲痛な鈴の言葉にルカは言葉を掛ける事が出来なかった。

 

 

「アタシはどうすれば良かったの? 皆で笑いあえればそれで良かったのに…」

 

 

 鈴は心の声を洩らし、再び哀しそうな笑みを浮かべた。

 

 

「アタシは……」

 

 

 言葉を途中で切り、鈴は黙りこむ。先程までルカを見詰めていた目も虚ろだ。

 

 

「リン?」

「…………」

 

 

 ルカの呼び掛けに応える事無く、鈴は明後日の方を向く。

 その方向には学園敷地内にある《森林地帯》があった。

 

 

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学生寮1025号室 一龍と箒の部屋

 

 

「一龍♪」

「【困】やれやれ…」

 

 

 打ち合わせを終えた一龍が部屋に戻ると、甘えん坊モードを全開にした箒が待っていた。

 一龍の片腕に腕を回し、ギュッと抱き締めてその豊満な果実を存分に押し付けながら彼の服越しから伝わる温もりを満喫していた。

 

 

「あの、箒さん?」

「どうした、一龍?」

「もう少し力を緩めてくれるとうれ「嫌だ」……」

 

 

 一龍の頼みを一蹴した箒は座っている一龍の膝に乗り、今度は彼の背中に腕を回して胸元に抱き付いてきた。

 

 

「一龍が悪いのだぞ? 私がどれだけ心配したと思っている?」

 

 

 そう言いながら、一龍の胸元から上目遣いで彼を見詰める箒。

 

 

(【愛】可愛い過ぎだろ、コレ……)

 

 

 頬を赤く染めながら少し膨らませ、「私怒っています」アピールをしている自分の彼女に一龍は胸がキュンと来てしまった。

 

 

「【謝】心配掛けてご免な、箒。でも、あそこで俺が押さえていないと応援席の皆が危なかったんだ」

「うん、解ってる。でも、それでも怖かったのだ…」

 

 

 謝る一龍に箒は彼の胸元に顔を埋めながら応える。

 

 

「“もしも一龍が怪我をしたら、死んでしまったらどうしよう”と云う考えが頭に溢れてとても怖かった」

「箒……」

「そして自分が情けなかった」

 

 

 再び顔を上げる箒、その目は若干潤んでいた。

 

 

「大好きな、大事な人が危ない目に遭っているのに助ける事が出来ない自分が腹立たしかった」

「箒、それは…」

「解ってはいるのだ、無暗に力を求めてはいけない事は。でも少しずつしか強くなれない、戦う術を持たない自分が……」

「箒」

「あっ…」

 

 

 一龍は箒を苦しく無い程度に強く抱き締めた。

 

「【愛】俺は絶対に箒を残して死んだりしない」

「一龍…」

「口だけの約束になるし、世の中に絶対は無いのは分かっている。だが、俺はこれだけは絶対に押し通す」

「……本当に私の前から消えない?」

「【愛】ああ、絶対に」

「嬉しい…、嬉しいよ一龍!!!」

 

 

 涙をポロポロと零しながら嬉し泣きをする箒を一龍は優しく抱き締める。

 

 

「【愛】箒、大好きだ」

「私も好き。大好き一龍…」

 

 

 恋愛ムードが高まり、互いを見つめ合う2人は段々と顔を近づけていき……

 

 

〜♪

 

 

 そこへ一龍の携帯電話が着信音を鳴らす。

 一瞬で現実に戻された2人は残念そうな表情をしながら、一龍は携帯を通話モードにする。

 

 

「もしもし?」

【一龍さん、大変ですわ! 鈴さんが遺跡に!!】

「何!?」

 

 

 どうやら今日は襲撃だけでは終わらない様だ……

 

 

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次回より探索パート開始。
連れて行くバディは誰になるのか……


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