一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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1週間以内の投稿に成功。
ゴーレムⅠ軍団 VS 男性操縦者+αとなります。
盛り込み過ぎて逆に読み難くなっている様な……(弱気)


サブタイトル元
『killy killy JOKER』 歌:分島 花音


 killy killy JOKER

天国にあくがるる者は賃”金”のために働く日傭人。

されど神にあくがるる者は栄光の途にあり。

 

───アンサーリー・ヘラ―ティー「詩」

 

 

____________________________________________

 

 

クラス対抗戦当日

 

一龍と鈴の対戦が行われている時

 

『IS学園(ISがくえん)』 学園屋上

 

 

 1年2組の男性操縦者、ニコラスは学園校舎の屋上で煙草を吹かしていた。

 

 

「何をしているんだ、ニコラス?」

「シンかいな」

 

 

 そんな彼の元にシンが現れる。

 

 

「2組の試合は始まっているぞ、サボりか?」

「ちょっと煙草を、な?」

 

 

 そう言ってニコラスは咥えていた煙草を右手に取る。

 

 

「……それだけでは無いのだろう?」

「………」

 

 

 シンの言葉に対し、ニコラスは直ぐ様回答する事が出来なかった。自身が所属している兵器・IS開発企業『ミカエルの眼』からニコラスにとある通信が来た為、屋上に来たのだ。

 

 

『現在、IS学園に向かって所属不明のISが複数機接近中』

 

 

 更に接近中のISはステルスを纏っており、企業の衛星以外では確認出来ないという。知られたら国際問題に発展しかねない問題に、ニコラスは話して良いものかと悩んだが、所属不明のISについては『破壊してコアを最低1つ手に入れろ』とのみ企業から指令が来ているだけで学園の敷地内で迎え撃つ予定であった事を思い出し、他の学生にも知られるだろうと改めて考えた彼はシンに話す事にした。

 

 

「…ワイのとこの企業から連絡が来おってな、此処(学園)に向かって複数機のISが接近中や」

「! 何故国は気付かない?」

「特殊なステルスで隠れてるそうやで? ワイのとこはそういうのに詳しいさかい、分かったっちゅう訳や」

「……それで、どうする?」

「企業からは最低1個のコアを奪えとしか命令は来とらん。せやから1機だけコアは無事にして後は全部ブチ壊す」

「シンプルだな。それで、1人で片付くのか?」

「武装のリミッターを解除すれば楽勝と思うんやけど…。あ、向かって来るISは全部無人機な?」

「…何故分かる?」

「生体反応が無いそうや。つまり…」

「世界初の無人IS機か…」

「そういうこっちゃ。企業がサンプルとして欲しがる訳やで」

 

 

 そう言いながら自身のISを展開するニコラス。展開されたISは一龍達の機体と比較してアニメや漫画に登場しそうな、正に戦うロボットと言った感じの機体であった。

 

 

「…イカした機体だな」

「そうやろ? 重武装・殲滅型IS『プロメテウス』や。ワイはゴテゴテし過ぎて余り好かんのやけど、孤児院のチビッ子共は大喜びでな」

 

 

 そう言ってニコラスは十字架を模した殲滅兵器『パニッシャー』を取り出す。シンも魔人を展開し、光剣を構える。

 

 

「来たで…」

 

 

 屋上から見える水平線から黒い影が現れる。

 モニター越しに写る姿は1機、2機、3機、4機………

 

 

「………数が多くあらへん?」

「10機以上はいるな………というか、俺に聞くのか?」

 

 

 ここでニコラスは詳しい数を確認しておけば良かったと後悔する。

 

 

「アリーナに居るシンジとクマには連絡しておいた。一龍達にもあの2人から話をするだろうし、問題無いだろう」

「そうだと良いんやけど…」

 

 

 そう言いながらニコラスは飛び立ち、シンも後に続く。

 

 

「過剰戦力やろ、アレ? 1機だけコアを無事に残せるか分からんわ…」

 

 

 向かって来るISの群れに向かってパニッシャーから弾丸が放たれ、戦いの火ぶたは切って落とされた。

 

 

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『IS学園(ISがくえん)』 第2アリーナ

 

 

 突如アリーナの遮断シールドを突き破って現れた2機の黒いISは、一龍と鈴の前で動く事無く2人と対峙していた。

 

 

「ちょっと、アンタ達何のつもりよ!?」

 

 

 鈴が問い掛けるが相手からは何も返事が無い。

 

 

「止めとけ鈴。奴らはプログラムで動いている無人機だ。受け答えなんかしないさ」

「ちょっと!? 何で判るのよ?」

「スキャンを掛けてみたが生体反応が全く無い。やれやれ、世界初であろう無人IS機をこんな事で御目に掛かるとは…」

「確かに…まだ技術的にISが無人で動くなんてありえないって言われているのに。つまりあの無人機の存在って世界的ニュースじゃない!?」

【もしもし!? 葉佩君、鳳さん聞こえますか!?】

 

 

 鈴に黒いISの正体を教えたところで、制御室にいる真耶から通信が入る。

 

 

【試合は中止です。直ぐにピットに戻ってアリーナから脱出してください!】

「申し訳ありませんが山田先生、それは無理です。俺達はこいつを排除します」

【な、何でですか!? そんなの危険です! 直ぐ他の先生達が駆けつけますから…】

「こいつらの攻撃のせいかは解りませんが、遮断シールドが全て消えています。未だ張り直されていないって事は何かの妨害があるのでしょう。この状況でこいつらが暴れ出したら生徒達は軽くミンチですよ。しかもこの2機だけじゃ無い様だ」

【え……?】

 

 

 一龍の言葉と共にアリーナ上空から更に4機の無人機が降りて来た。

 

 

【そ、そんな……まだいるんですか!? それに、本当にシールドが張り直せない!?】

「……どうやら外部から妨害を受けている様ですね。とにかく機体持ちの俺達が避難が完了するまで壁代わりにならないといけません。シンジ達、専用機持ちが多くて良かった…」

【壁代わりって……2人は試合でエネルギー残量は半分を切っているんですよ!?】

「とっておきがありますから簡単には墜ちませんよ。先生達は急いで妨害の解除をお願いします」

【あ、ちょっと葉佩く……プツッ】

 

 

 そう言って一龍は通信を切る。新しく現れた無人機達は他の男性操縦者達と戦闘を行いだしていたが、目の前の無人機達は相変わらず動く事無く、一龍達の前を浮遊している。

 

 

「さて、周りの状況から見てこいつらは俺達男性操縦者に用があるみたいだな。鈴、相手の実力は未知数だが手伝ってくれるか?」

「上等よ♪ 此処で逃げろとか言ってたら殴ってやったわ!」

「やる気は十分の様だな。相手は無人機だから遠慮はしなくていいが、エネルギーの残量と敵の射線には気を付けろ!」

 

 

 一龍は戦斧を消し、一振りの刀を展開する。

 その刀は斬馬刀と迄はいかないが普通の刀より刀身が大きく、そして紅蓮の如く紅く輝いていた。

 

 

「【燃】状況が状況だ。とっておきの武器でさっさと終わらせてもらうぞ!」

 

 

 此方の戦意を受け取ったのか、無人機はビーム砲を一龍達に向けた。

 

 

「いくぞ(わよ)!」

 

 

:::::

 

 

1組応援席

 

襲撃の数分前

 

 

 アリーナ襲撃前にいち早く反応できたのは真次郎と陽介の2人だけだった。

 

 

~♪

 

 

「ん、シンから連絡だと?」

「何の用だクマ?」

 

 

 2人同時に鳴り出したIS同士での連絡着信音。

 確認すると、

 

 

_________________________

 

緊急連絡

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ニコラスの企業が学園に接近しているISを複数機

確認した。

後、数分で学園に到着する。

俺とニコラスが学園上空で迎え撃つが数が多く、

全ては抑えきれないだろう。

準備を頼む。

尚、ISは生体反応が無く、無人機との事。

手加減は無用だ。

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「し、シンジロー! これって!?」

「……マジかよ」

「シンジさん、如何いたしました?」

「クマさんどうしたの~?」

 

 

 シンからの連絡に驚愕する真次郎と陽介。そんな2人にセシリアと本音は心配そうに尋ねる。

 次の瞬間、アリーナ上空が一瞬だけキラリと瞬いた。

 

 

「っち、伏せろッ!!!」

「え……きゃあ!?」

「っ…!?」

「本音ちゃん、危ないクマァ!!」

「ひゃあ~!?」

「何、なに、ナニ!?」

 

 

 真次郎と陽介の2人がセシリアと箒、本音とティナそれぞれの頭を抱きかかえて各自の影に隠し、姿勢を低くさせる。直後、閃光がアリーナ上部を覆う遮断シールドを突き破ってアリーナ中央に降り注いだ。

 

 

「な、何なの今のは!?」

「葉佩君の武器?」

 

 

 今起きた事態を理解している人間は真次郎達2人以外におらず、轟音と共に土煙がもうもうと上がるアリーナを生徒全員が見ていた。

 

 

「シンジさん、一体何が?」

「クマさん?」

 

 

 セシリアと本音が驚いた様子で声を掛けるが、真次郎と陽介は聞いていない。2人のISのハイパーセンサーが侵入者の出現を警告しており、緊張した表情をしていた。

 

 

「シンジロー!!」

「構えろ! 敵は待ってくれねぇぞ!!」

 

 

 待機状態のISを構える2人、そこへ黒いISが降りて来る。

 全身装甲(フルスキン)であるその機体は外見が首というものが無く、肩と頭が一体化している様な形状であった。腕はつま先よりも下まで伸びており、その腕を入れると2メートルを越す巨体であった。姿勢制御用のスラスターを全身に搭載してあり、頭部にはむき出しのセンサーレンズが不規則に並んでいて、腕にはビーム砲が左右に計4つ装備されている。正にゲームに登場する様な正にロボットといった感じであった。

 その数は3機。

 

 

「な、IS!?」

「何でこんな所に!!?」

 

 

 驚く生徒達を尻目に3機の内、1機がビーム砲の砲口を観客席に向けた。先程、アリーナ上部を覆う遮断シールドが突き破られた際にアリーナ全体のシールドは消えてしまっており、ビームを放たれたら防ぐ術は無い。

 

 

「ポリデュークスゥ!!!」

 

 

 砲口が輝きだした瞬間、真次郎の呼び声と共に空間からポリデュークスが現れる。ポリデュークスはビーム砲を向けた無人機へ突進し、その角で機体を貫く。

 

 

「ジオンガ!」

 

 

 ポリデュークスの角から電撃が発せられ、機体の内部から回路全てを焼き尽くす。ポリデュークスが振り落すと、機体は動く事無くアリーナの床へ落ちていった。

 

 

「クマ! ポリデュークスに援護させる。2機相手に時間稼ぎ頼む!!」

「任せるクマ! カモン、キントキドウジィ!!」

 

 

 陽介は頷き、自身のISを展開する。その姿は真次郎のISであるカストールの様にISには見えない姿であった。赤色を基調としたズングリした姿に青いマントを纏っており、デフォルメしたヒーローの様な姿だった。

 

 

「さぁ、いくクマよ!」

 

 

 陽介はポリデュークスと共に臨戦態勢をとっている残り2機へ向かって行った。

 アリーナの観客席はどこもパニックが起きていた。

 

 

「セシリア、箒や本音と協力して生徒達を誘導しろ!」

「シンジさんは?」

「クマや一龍の援護が要る。どうやらあの3機だけじゃ無いみてぇだ」

 

 

 アリーナの方では陽介とポリデュークスが戦っている2機の他に一龍と鈴の所や4組の応援席の前にも同じ黒いISが現れていた。

 

 

「詳しい数は分から無ぇ。避難が終わり次第、来てくれるか?」

「…! 解りましたわ、任せてくださいまし!」

「頼むぞ……、って何呆けてやがる箒!!?」

 

 

 セシリア達に他の生徒達の避難を頼んだ真次郎だが、箒がアリーナを見て呆けている事に気付く。真次郎の言葉に我に返った箒は焦った様子でアリーナの外へ通じる扉へ向かおうとした。

 

 

「何処へ行くつもりだ? セシリア達と避難誘導の手伝いをしろと言っただろ?」

「一龍が…一龍が危ないんだ!!」

「落ちつけ箒!!」

 

 

 箒の肩を掴む真次郎だが、それでも扉へ向かおうとするので此方へ向かせ、両肩を掴んで怒鳴る様に声を掛ける。箒は顔を青ざめながらも必死な表情をしていた。

 

 

「彼奴は強い、そう簡単にやられる様なタマじゃ無ぇだろ!!」

「でも……、もし一龍に何かあったら…私は……」

「あのISの実力は解ら無ぇし、一龍の事が心配なのも解かる。だがISを持って無く、戦う術が無ぇお前に何が出来る?」

「!? そ、それは……」

「敵は何をしてくるのか解ら無ぇんだ。一龍の奴は俺達に任せてお前は自分の出来る事をしろ!!!」

 

 

 一言一言をしっかり聞かせる様に真次郎は箒へ語り掛ける。

 今の箒には一龍達を助ける術が無い。専用機を持っていない上に学園のISもこの場に無い以上、アリーナ内を飛んで戦っている一龍達を援護する事は出来無い上、無人機を陽動して戦う事も不可能だ。

 箒は戸惑った様子であったが、真次郎の言葉に納得し、頷く。

 

 

「────────一龍を…お願いしますっ」

「安心しろ、お前がいるのに彼奴を死なせるかよ」

 

 

 真次郎の言葉を聞いた箒は顔を引き締めると既に誘導を行っていたセシリア達を手伝うべく、彼女達の元へ向かって行った。

 

 

「…クマ達の援護に行くか、カストール!」

 

 

 扉が開かなかったらしく、セシリアがスターライトMk-Ⅲで撃ち破って避難路を確保した姿を確認した真次郎はカストールを展開し、援護をすべくアリーナへ飛んで行った。

 

 

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4組応援席

 

 

「今のは何!?」

「新しいビーム武装かな?」

 

 

 突如アリーナ中央に降り注いだ閃光と爆発音に、応援席に居た生徒達は何が起きたのか解らないでいた。しかし、1人だけこの事態の異常に気付いた者がいた。

 

 

(今のでアリーナを覆っていた遮断シールドが消えたぞ。このままじゃ観客席の生徒達の命が流れ弾でマッハ!)

「ブロントさん?」

 

 

 観客席から立ち上がるブロントに簪は不思議そうに声を掛ける。ホワイト・グリントを展開しようとした時、目の前に黒い無人機が現れた。

 

 

「…………え?」

 

 

 無人機は右手のビーム砲をブロント達へ向けており、簪は何が起きたのか頭の情報処理が追いつかずに間の抜けた声を出していた。

 

 

「ハイスラァッ!!!」

 

 

 このままビームが放たれ、生徒達を焼き尽くすかと思われたが。即座にブロントはグラットンソードで無人機を一刀両断する。コアごと両断された無人機は断面から火花を散らしながら1組観客席で撃破された機体と同じ様にアリーナの床へ落下していく。

 

 

「くっ、どうやら俺が目的の様だが、無差別攻撃とかシャレにならんしょ? (思わず真っ二つにしてしまったが只のロボットで良かった感。中身が人だったらこの作品がR-18Gになっていたべ(メタ発言))」

「ブロントさん、これって!?」

「他には俺を狙っている機体はいない様だぬ。簪、皆を避難させるぞ!」

「え? う、うん!!」

 

 

 無人機が自分達に砲口を向けていた事を理解した生徒達は他の観客席同様、パニックに陥っていたのだが、

 

 

「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り!!」

 

 

 ブロントの一喝でピタリと静まり返った。

 

 

「お前等落ち着いて行動しる! 避難行動の原則『お(押さない)か(駆けない)し(喋らない)』も知らないのかよ?」

「な、懐かしい言葉だねブロントさん…」

 

 

 ブロントの言葉に簪は突っ込むが、周りの生徒達は整列し扉に近い順番に避難行動を開始した。この当たり、ブロントが4組の女子達に与えた影響が如何に大きいかが分かる。

 

 

「ちょwwwww扉がww開かないwwwですけどwwwwwwwww」

「何で開かないし!?」

「このままじゃ、私達の命がマッハだよぉ…」

 

 

 扉の前で生徒達の移動が止まっていた。1組の観客席同様、扉がロックされており、開かなくなっていたのだ。

 

 

「おい、おもい達退け!」

 

 

 事態を察したブロントは直ぐ様、扉の前で屯していた女子達を脇に退かし、拳を構える。

 

 

「メガトンパンチ!!」

 

 

 ブロントは振り被った右手の拳で扉を殴り飛ばした。

 

 

「こるで扉は開いた。後は急いで避難すべき!」

「うはwwwwwおkkkwwwwwwwwとんずらでwww脱出!!」

「流石ナイトは格が違った!」

「すごいなー憧れちゃうなー」

 

 

 生徒達が無事脱出するのを確認したブロントと簪は自分達も脱出しようとするが其処へまた新たな無人機が降りて来た。

 

 

「チッ。ウザってぇ」

「ブロントさん、どうしよう?」

 

 

 生徒達が避難している廊下と簪を護る様に立ち、ブロントは無人機にグラットンソードを向ける。彼の制服の裾を掴みながら簪は不安そうに尋ねる。

 

 

「カンザシは避難が終わって居ない他のクラスの誘導を頼むべ。それが終わり次第逃げろ」

「そんな!? ブロントさんを置いて避難するなんて…」

「安心すろ。俺はこんなガラクタに負ける程弱くにぃ!」

 

 

 ホワイト・グリントを展開したブロントはそのまま無人機へ斬り掛かる。無人機はスラスターで後方へ退避し、ビームを放ってきた。

 

 

「効くかよ、カス猿!!」

 

 

 前に構えたケーニッヒシールドがビームを弾く。

 

 

「バラバラに引き裂いてやろうかぁ!」

 

 

 そのまま無人機に肉薄し、斬撃の嵐をお見舞いするブロント。無人機も器用に避けるが次第に避けきれなくなり、右腕で防ごうとして逆に斬り落とされた。

 

 

「グラットンソードは斬れ味バツ牛ン。来いよ、コアごとバラバラにしてやる」

 

 

 右腕部位から火花を散らす無人機にブロントは不敵な笑みでそう挑発するのだった。

 

 

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2組応援席

 

 

「皆、慌てずに順番に進んで!」

 

 

 第2ピットから戻って来た途端、襲撃に出くわしたルカの行動は早かった。つい先程通った扉が開かない事を確認するとデュランダルを扉に突き刺し抉じ開けて避難路を確保する。

 最初こそパニックになっていた2組女子だったが、ルカが呼び掛けるや否やピタリと静まり返るあたり4組とは違った統率が出来ていると言えよう。

 ルカの指示通りに避難していく女子達を確認しながら男性操縦者達に襲い掛かっている無人機が何時自分にも来るか構えていたのだが、来る様子が無く全員の避難が無事に終わったのだった。

 

 

「……良く分からないけど、リンを助けなきゃ」

 

 

 ルカはアスラを展開し、戦いが続いているアリーナ中央へ向かった。

 

 

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第2アリーナ制御室

 

 

「駄目です、織斑先生! アリーナのセキュリティが何者かによって高レベルのハッキングをされていて此処からじゃ操作できません!!」

 

 

 悲鳴にも似た声で真耶が叫ぶ。制御室の操作パネルの画面は全てが真っ赤に点滅し、警報音が鳴り響いている。真耶がキーボードを叩いたり、立体スクリーンに触れても警報が止まらなかった。

 無人機が現れた瞬間にこの事態は発生しており、アリーナの扉全てをロックし、遮断シールドの発生を出来ない様にしていた。

 

 

「………くっ、遮断シールドを信頼し過ぎていたか」

 

 

 今回の対抗戦では生徒達に配慮して観客席には生徒しかいない。その為、教師達が救援に向かいたくてもアリーナに入れないのだ。そして、遮断シールドは消滅したままの状態であり、何時、戦闘による余波で生徒達に被害が出るか分からない。

 

 

(束の奴め…一体何を考えている!? このままでは死人が出るのかもしれないのだぞ?)

 

 

 千冬は顔を顰め唇を噛む。

 一龍と同様、今回の襲撃の犯人の目星を彼女も付けていた。IS学園のセキュリティにハッキングする技術やISを大量に送り込んで来るという世界が大騒ぎになりかねない無茶苦茶さ。この様な事を平気で仕出かすのは世界で篠ノ之 束、たった一人しかいない。

 

 

「あの未確認機体からは返答は無いのか?」

「ずっと通信しているのですが反応がありません…」

「葉佩の言う通り、やはり無人機なのか」

 

 

 無人機という未だ誰も成功していないISの開発も束ならば簡単にやり遂げてしまうだろう。

 

 

(だが何が目的だ? 何の為に葉佩や男性操縦者達と戦わせる?)

 

 

 千冬には束が無人機を使って一龍達男性操縦者と戦わせる理由が分からなかった。

 

 

(只のデータ集めなのか? だがここまでして一体何になると言うのだ?)

「織斑先生、外の先生達からアリーナに閉じ込められていた生徒達が避難して来たそうです。どうやらオルコットさん達が扉を破ってくれた様ですね」

「そうか…」

 

 

 アリーナでは男性操縦者達が無人機達を各個撃破していく姿が見えていた。

 

 

「(良かった、どうやら無事に終わりそうだな…)山田先生、外の先生達は直ぐに来れるか?」

「厳しいですね、アリーナに通じる通路は避難して来た生徒達で溢れ返っていますし、パニックになっている子も少なくありません。到着にはまだ時間が掛かりそうです」

「そうか……(束の奴め、今度会ったら唯では済まさんぞ…)」

 

 

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IS学園上空

 

 

「また抜かれたぞニコラス!」

「くそったれぇ! 数が多過ぎるんや!!」

 

 

 パニッシャーから放たれる弾丸が無人機の1機をハチの巣にして粉々にする中、砕けた機体の破片を弾きながら別の機体が第2アリーナへ向かって行った。

 

 

「これで何機が抜けた?」

「今ので7機だ」

 

 

 ニコラスの問いに冷静に答えながらシンは光剣で1機を叩き斬る。 ニコラスは舌打ちしながらパニッシャーの上部からミサイルランチャーを放ち、アリーナへ向かおうとした別の無人機を爆散させる。

 

 

「こいつら何が目的やねん!? ワイ等に襲い掛かる奴もいればガン無視してアリーナへ行こうとする奴もいる…」

「俺達がそれぞれ2機倒したら以降は全てアリーナへ行こうとしている。多分だが、俺達男性操縦者が目的だろう」

「って事は10機は最低でもアリーナへ向かうっちゅう事かいな!?」

「10機も来られてはアリーナでは狭過ぎる。可能な限りここで押さえるぞ」

 

 

 無人機が放つビームを避けたシンがお返しとばかりに眼部からビームを放ち、喰らった無人機はシールドが削り切られ蒸発した。抜ける事が出来ないと理解したのかニコラスにも砲口が向けられる。

 

 

「バッテン達はともかく、嬢ちゃん達が心配や」

「確かに、避難が無事に済んでいれば良いが…」

 

 

 無人機も残り4機となった所で急にアリーナへ向かいだした。

 

 

「はぁ!? こっちに狙いを定めたんや無いんか?」

「フェイントか…」

 

 

 逃がさんとばかりにニコラスとシンは機関砲とレーザーを放つが1機が盾となって3機を護り、破壊される頃には距離を離されていた。

 

 

「ああ、くそったれが!」

「追うぞ」

 

 

 後を追うべくニコラス達もアリーナへ向かった。

 

 

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第2アリーナ

 

 

 無人機へ飛び掛かる一龍に対し、ビームを放つ無人機。しかし、一龍は簡単に避けて距離を詰める。

 

 

「はぁあ!!」

 

 

 一龍が紅い大刀を振り下ろす。無人機は片手で受け止め様とするが、受け止めた途端、腕が融けてそのまま機体ごと斬り下ろされた。

 

 

「その程度の装甲とシールドじゃあ、荒魂剣(あらみたまのつるぎ)の熱量には耐えられないぜ?」

 

 

 斬られた断面に尚も残る熱量に、無人機は金属の装甲にも係わらず、ドロドロと融けていった。

 

 

「他の皆も大丈夫な様だな…」

 

 

 周りを見回すと新たに侵入して来た無人機を各個撃破する男性操縦者達の姿があった。

 

 

「ギガンフィストォ!」

 

 

 真次郎のポリデュークスと共に無人機2機と戦っていた陽介は放ってくるビームをずんぐりした姿に似合わぬ俊敏な動きで避けながら、ポリデュークスは突進、陽介がエネルギーを込めたパンチで吹き飛ばし、2機を纏めてアリーナの壁に叩き付けた。

 

 

「纏まった今がチャンスクマ! 喰らえ、ブフーラ!!」

 

 

 掌から冷凍ビームが放たれ、無人機達は忽ち凍り付く。氷像と化した無人機は重力に逆らえぬまま落ちていった。

 

 

「これで止めクマー!」

 

 

 両腕にハープーンミサイルの様な物体を展開し、墜ちていく無人機に投げつけ様とするが…

 

 

「ふんっ!!」

 

 

 加勢に来た真次郎がバス停で氷像と化した無人機を粉々に打ち砕いた。

 

 

「あぁー!? 何するクマかシンジ! 折角、クマの必殺兵器で止めを刺そうとしたのに!!」

「テメェのそれは破壊力が有り過ぎるだろうが! アリーナが吹き飛ぶぞ!」

 

 

 陽介は真次郎に文句を言うが逆に怒られた。

 

 

「ギガトンパンチ!!」

 

 

 無人機を追い詰めたブロントが雷属性の左ストレートを打ち込み、ポリデュークスの時と同じ様に機体の回路を電流が焼きつくす。

 

 

「ああもう、無駄に硬いわね!!」

 

 

 最初に侵入して来た無人機の1機を相手取っている鈴は、そこまで自身の武器の破壊力が高く無い為に中々決定打を打てないでいた。

 

 

弧月閃(コゲツセン)!」

 

 

 そこへ、2組の生徒の避難を終わらせたルカがアスラを纏い駆けつける。デュランダルで無人機を斬り上げて大きく仰け反らせ、隙を作った。

 

 

「いくよ、リン!」

「おっけー、任せといて!」

 

 

 ルカの掛け声に鈴は頷き、斬り上げられた無人機に同時に回転斬りを決める。

 

 

「「烈空斬・双牙(レックウザン・ソウガ)!!」」

 

 

 2人が烈空斬(レックウザン)を決め、無人機の後ろへ通り過ぎると。無人機はX字に刻まれ、バラバラになった。

 

 

「やったね!」

「これで終わりかしら?」

「待たんかい、ワレェー!!」

 

 

 鈴の言葉の後に続いたのはニコラスの怒鳴り声。ハイパーセンサーにアリーナ上空から近づく影が5つ表示される。皆が上を見上げるとこちらへ向かって来る3機の無人機をニコラスとシンが追いかけている所だった。

 

 

「やだ……何アレ…」

「まだいるクマか?」

「【呆】今更3機増えたところで変わらない気もするがな…」

 

 

 ニコラスのパニッシャーが放つ弾幕を避けながら、無人機達は何のつもりかルカに殺到して行く。

 

 

「え!! 僕!?」

「ルカ!!?」

 

 

 3機が揃ってビームをルカに放つ。急な攻撃にルカは回避が間に合わず、デュランダルでの防御が精一杯である。

 鈴が悲鳴を上げたがそこへ…

 

 

「ヘイト稼いで無いナイトに集中砲火とかあもりにも卑怯過ぎるでしょ。汚いなさすが忍者きたない」

 

 

 ブロントがルカの前に飛び込みケーニッヒシールドでビームを防ぐ。

 

 

「黄金の鉄の塊で出来たナイトが、鉄装備の無人機に遅れをとるはずは無い!」

「ブロントさん、相手は忍者じゃ無いし多分、合金製だよ」

 

 

 カァオ! という独特の発射音と共にビームを放った無人機の1機をプラズマ弾が包み込み、爆散させる。ブロントの援護に来た簪はKARASAWA『春雷』を構えながらブロントの言葉にツッコミを入れる。

 

 

「シンジさん、一龍さん。御待たせ致しましたわ!」

 

 

 残りの2機にもレーザーが降り注ぐ。ブルーティアーズを展開し、レーザーの雨を降らせながらセシリアも駆けつけて来た。

 

 

「逃げるんじゃないわ、ボケェ!」

「…右に同じく」

 

 

 レーザーに抑えられた残りの無人機をニコラスがパニッシャーの砲身で叩き潰し、最後の1機もシンが光剣で貫いて破壊した。

 

 かくして、20機いた無人機は男性操縦者と国家代表候補生達によって撃破され、後に名付けられる『第1次IS学園襲撃事件』は幕を閉じたのだった。

 

 

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?????

 

『とある研究所 「吾輩は猫である」(とあるけんきゅうじょ「わがはいはねこである」)』 研究ルーム

 

 

「ありゃりゃ、1時間足らずで全滅しちゃったよ」

 

 

 モニター越しでIS学園での戦闘を観ていた束は自身が造った無人機が全滅したと言うのに悔しそうな様子は無く、寧ろ愉快そうな表情で笑っていた。

 

 

「いっくんもイレギュラー共も強いね。ゴーレムは《裏神》と比べたらカスみたいなモノだから期待してなかったとはいえ、予備を含めて投入した20機も倒しちゃうんだもん」

 

 

 最初の予定では束は無人機を一龍や男性操縦者達各自に2機ずつ(一龍は死なない程度)に相手をさせてデータを取る計画であった。その為、14機だけが襲撃に参加し、残り6機は近場で待機させるつもりであったのだが、ニコラスとシンによってその計画は大きく崩れる事になった。

 

 

「何だよ、あの機関砲…ゴーレムのシールドを紙みたいに破りやがって…」

 

 

 ニコラスが使っていたパニッシャーによって、無人機3機が学園の敷地内に辿り着く前に撃破された。ゴーレムⅠはまだ実験段階である為、シールド強度も一般のISより弱い。しかし、ISの競技用武装程度では傷すらつかない強度ではある。

 

 

「結局、アリーナへ押し通る為に半分以上をあいつらに投入する事になっちゃった…。リミッターを解除していた可能性もあるけど、あの武装は競技用じゃ無くって完全に軍事用だね」

 

 

 そう言って、ゴーレムが集めたパニッシャーのデータが表示される。各種センサーによって内部構造まで確認しようとしたが、やはりプロテクト処理が成されており大雑把なデータしか採れていなかった。

 

 

「未知なモノにはワクワクするけど、束さんが解らないなんてやっぱムカつく〜。それに…」

 

 

 束はキーボードを叩き、モニターに男性操縦者達の戦っている姿が映し出される。いづれも苦戦している様子は無く、ゴーレムを撃破していた。

 

 

「いっくんとこいつ等は強いって解ってたけど、他の奴等もゴーレムを歯牙に掛けないんじゃ、完成はまだまだだねぇ〜」

 

 

 真次郎とシンの2人は《裏神》と戦った事から大体の実力は分かっていたが、他の男性操縦者達も苦戦する様子無く、無人機を撃破していた。彼等の所属している企業・研究機関にハッキングが出来無い事も含めて自分にとってかなり厄介な存在である事を実感した。

 

 

「ま、対策は後で考えればいっか♪」

 

 

 機械仕掛けのウサ耳をピコピコと動かしながらキーボードのキーを押すと、一龍以外の男性操縦者達の映像に『ブッKILL』と赤い文字で表示される。

 

 

「データは採れたしいっくんの活躍も観れた。ゴーレムも改良点を色々見つける事が出来たって事でポジティブに行こうかな? 次の《生贄成る乙女》も見つかったしね♪」

 

 

 そう言って笑う束の視線の先には、モニターに映し出された鈴の姿があった。

 

 

TO BE CONTINUE




ニコラスのISのモデルは『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』に登場した機体『プロメテウス』となっております。アイディアを提案して下さった偽王ドロボウさん、有難う御座います!!

3組応援席だけシンとクマがいなかった為に簪が避難誘導に来る始末…
無人機20機は多すぎたか…


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