一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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御待たせ致しました。
今回、鈴音の家族について独自設定を入れておりますのでご了承ください。


《お知らせ》
本作においての鈴音の一人称を「アタシ」に変更しました。


サブタイトル元
『きっと明日は晴れるから』 歌手:河合 美智子


 きっと明日は晴れるから

「ああ、いとしき恋の天使よ、

 わが人生の”宝”よ、幸せの”宝”庫よ!」

 

───パルザック

 

____________________________________________

 

 

4月16日

 

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮

 

 

 アタシは寮の廊下を走っている。

 

『一龍には恋人がいた』

 

 その言葉が走るアタシの頭の中を支配していた。

 

 

(何で?)

 

 

 時折、生徒が訝しげにアタシを見ているが構わず走り続けていた。

 

 

(何でアタシを選んでくれなかったの…?)

 

:::::

 

 アタシは中国人の母さんと日本人の父さんの間に生まれた。料理の修行で中国に来ていた父さんは母さんと出会い、互いに惹かれあって結婚。そしてアタシが生まれた。自分の店を持つ事が夢だった父さんは修業が終わり次第、アタシ達を連れて日本へ帰国。それがアタシが11歳の時で、まだ名前が一夏だった一龍と出会う事になるきっかけだった。

 

 

「ハ、初メマシテ、鳳 鈴音デス。宜シクオ願イシマス」

「鳳さんは中国からきました。皆仲良くして下さいね?」

 

 

 中国から来た転校生であり、日本語も片言でしか話せないアタシは珍しい存在であり、そして苛めの格好の標的となった。

 

 

「お前ってパンダみてぇな名前だよなぁ?」

「ソ、ソンナ事……無イデス……」

「そうだよな、これからはリンリンって名乗れよ」

 

 

 その日も学校の裏庭で3人に囲まれて苛められていた。

 

 

「アタシノ筆箱…返シテ…下サイ」

「ああ? パンダには筆箱なんて必要無いよなぁ?」

「パンダなら笹食えよ笹?」

「ヤ、止メテ……」

 

 

 ニヤニヤと憎らしい顔で3人がアタシを囲む。

 そんな時…

 

 

「お前達、何をしているんだ!!」

 

 

 アタシ達の前に2人の少年が現れた。黒髪の少年は一夏で赤髪を短く切った少年は弾。

 

 

「げ、一夏と弾…」

「な、何をしてたって良いだろ!」

「ふざけんじゃねぇぞ! 泣いてるじゃねぇか!」

「何時も何時も女の子を苛めやがって、懲りねぇよなお前ら」

「ちっ、めんどくせえ。やっちまえ!!」

 

 

 そのまま2人と苛めっ子達の喧嘩が始まった。途中で騒ぎを聞きつけた先生がやって来たので決着は着かず、職員室へ連れて行かれた。アタシの証言があったから助けてくれた2人はそこまで咎められる事は無かった。

 

「大丈夫か?」

「ア…、ハイ」

「そっか、良かった」

「!」

 

 

 彼の笑顔にアタシはドキッとした。

 

 

「ったく、無駄に突進するなよな。フォローするのは俺なんだぜ?」

「悪い。弾も巻き込んで御免な?」

「謝る位なら考えてから動けよな。あ~、殴られた頬がまだ痛ぇ…」

「御免ナサイ。私ノセイデ…」

「いいって。こいつは何かがあると直ぐ突っ込んで行くんだからよ。おっと、俺は五反田 弾だ宜しくな」

「俺は織斑 一夏、ええと…?」

「鳳 鈴音デス。呼ビ辛イナラ(スズ)ッテ呼ンデ下サイ」

「分かった。なら鈴って呼ばせて貰うぜ?」

「これから宜しくな、鈴?」

「ハ、ハイ♪」

 

 

 思えばあの出来事が一龍に惚れてしまった原因なのだろう。

 その日からアタシは彼等と友達となった。何時もは3人で、時折弾の妹である蘭を巻き込んで、ある時は旅行に行ったり、バンドを組んで演奏したり、4人で馬鹿やって遊んだ。

 アタシは一龍に振り向いてもらうべく、何かとアプローチを続けたが、気付く様子は無く、弾に愚痴を零しては慰められ、同じく一龍に好意を持っている蘭とは競い合いながらも対策を練り合ったりした。毎日が楽しく、何時までも続けば良いと思った。

 

 しかし、中学2年生の夏休みが終わる頃、楽しかった日々は一変した。

 

 お爺ちゃん、母さん方の父親が病気で倒れたと連絡が来た。お爺ちゃんの家はお婆ちゃんと2人暮らしで農家である。母さん以外に家族や親戚がいない為、お爺ちゃんのお世話でお婆ちゃんが付きっきりになれば仕事が出来ずに暮らしていけなくなる。

 だから母さんは中国へ帰国して実家を支えたいと父さんに頼んだ。

 でも父さんは首を縦には振らなかった。漸く自分の母国に店を構える事が出来る様になり、経営が軌道に乗り出した所で起きてしまった家族の不幸。当然、父さんは店を手放したくなかった。それなら母さんだけでも帰らせれば良い筈なのだが、店は両親の2人で切り盛りしている為、父さんは母さんを手放したくなかったのだ。

 結果、2人は大喧嘩。毎日の様に言い争いをし、アタシは家へ帰るのが辛い日々が続いた。それでも一夏達には気付かれない様に明るく振る舞い続けた。

 そして月日が流れ、3学期が終わりに近づく頃、遂に母さんが離婚届を持ち出した。仕事が出来ず、刻々と貯金が無くなっていくお爺ちゃん達の現状に母さんはもう我慢出来なかったのだ。父さんも結局これに同意、アタシの親権は母さん持ちになり、一緒に中国へ帰国する事になった。当然、アタシは嫌だったけど子供の私では如何する事も出来ず、唯、従うしか出来なかった。

 帰国する日となり、空港には一夏や弾、クラスの皆が集まってくれた。それぞれに別れの挨拶をする中、一夏にアタシはこう言った。

 

 

『料理が上達したら、毎日アタシの酢豚を食べてくれる?』

 

 

 すると一夏は笑顔で「おう、楽しみにしてる!」と答え、アタシはそれに満足して中国へ帰って行った。

 

:::::

 

 今思えば超が付く程に朴念仁で鈍感な一夏がその言葉の意味を理解していた筈が無い。大方「鈴が毎日料理を御馳走してくれる」ぐらいに受け取っているだろうと心のどこかで思っていた。

 でも再開した一夏は名前を変えて一龍となっており、アタシが言った告白の意味を理解してくれていた。しかし、一龍にはもう一人の幼馴染がいて、彼はその娘と付き合っていた……

 

 

 そんな事実に納得出来ず、アタシは唯、ひたすらに、現実から逃げる様に闇雲に走り続けていた。

 

 

「一龍の、馬鹿ぁ……」

 

 

 一龍は悪く無い、それは解っている。アタシの想いを理解している上で一龍はあの娘()を選んだ。彼を恨むのはお門違いだと言うのは解っている。でもだからって納得出来る程、アタシは良い子では無い。

 

 

「リン?」

 

 自分を呼ぶ声が聞こえ、漸くアタシは足を止めた。

 

 

「どうしたの?」

「ルカ……」

 

 

 未だに零れ続ける涙でぐしゃぐしゃになっているアタシの顔を見て少し驚きながら、ルカはアタシに近づいて来る。そして、ポケットからハンカチを取り出してアタシに差し出した。

 

 

「これで拭いて?」

「うん…アリガト…」

「何かあったの?」

「……その…」

 

 

 口籠ってしまうアタシ。一龍に告白したら既に彼女がいて逆上して泣いてしまったなんて情けなくて言いたくない。

 

 

「取り敢えず、僕の部屋に来る?」

 

 

 そんなアタシの様子を察したのか、ルカはそう言ってきたのだった。

 

 

:::::

 

 

 

「どうぞ」

「あ、有難う…」

 

 

 ルカの部屋に招かれたアタシは、彼に出された紅茶を飲む。蜂蜜に漬けたレモンを入れているらしく、仄かな甘みと爽やかな香りがアタシの心を落ち着かせてくれる。

 

 

「少しは落ち着いた?」

「…うん。でも良いの? ルカのルームメイトは大丈夫?」

「クマは他の子の部屋へ遊びに行っているから大丈夫だよ。心配しないで?」

「そう……(熊?)」

 

 

 心が落ち着いた事をルカにアタシは答えた。

 

 

「それで、どうしたのかな?」

「…………」

 

 

 ルカが真剣な表情で尋ねてくる。本心からアタシの事を心配してくれている事が分かる。アタシは先程の出来事と一龍との嘗ての約束を話した。

 

 

「………そうなんだ。一龍とは幼馴染でそんな約束を…」

「みっともないわよね。彼女が出来ていて可笑しくないのに、逆上して一龍を叩いて怒鳴って………ぐすっ」

「リン、泣かないで…」

 

 

 再び涙があふれてきたアタシの目元をルカが拭ってくれた。そして彼は微笑みながらアタシの頭を優しく撫でてくれる。子供っぽい扱いに少し抵抗を感じたけど、とても心地良くて嫌でなかったのでされるがままでいた。

 

 

「ルカ……」

「リンはそんなに一龍の事が好きなんだね」

「え!? ………う、うん」

「1人の人をそんなに思い続けるって良い事だと思うよ?」

「……でも一龍にはもう好きな人が出来てた」

「そうだね」

 

 

 ルカは只々、アタシの頭を撫で続ける。

 

 

「リンは今の一龍の事が好き?」

「え…?」

「リンは苛めから助けてくれた一夏が好きだと言った。一緒に遊んで、笑ってくれた一夏の事が好きだって。だから引っ越す前に告白したって」

「…………」

「それは今の一龍にも当て嵌まるかな?」

 

 

 ルカが聞きたい事をアタシは理解した。

 

 

(ああ、アタシってあの頃の一夏が好きだったんだ……)

 

 

 今いる一龍はもうあの頃の一夏では無い。

 

 私と別れて、

 

 その間に様々な事があって、

 

 色んな経験をしたのが今の彼で、

 

 そんな彼を私は知らない。

 

 

(私が知らない間に好きな人が出来ていてもおかしくない訳よね。でも箒って一龍の幼馴染だから私が負けたのか……、悔しいなぁ)

 

 

 アタシは立ち上がり、部屋の扉に手を掛けた。

 

 

「………そろそろ帰る」

「御免ね、傷付ける様な言い方をして」

「ううん、寧ろ感謝してる。ルカの御蔭で気付けたから、それにルカに話したら気が楽になったし」

 

 

 そう言ってアタシは微笑むが、正直まだスッキリ仕切れていなかった。その様子を見たルカはその事を察したのか、何か想い付いた様な表情でアタシに声を掛けてきた。

 

 

「そうだ、リンは明日の放課後は空いてる?」

「? 大丈夫だけど……」

「それじゃあ………」

 

 

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:::::

::

 

 

4月17日

 

放課後

 

『IS学園(ISがくえん)』 第11アリーナ

 

 

「リン、用意は良い?」

「私は大丈夫よ。でも良いの? 私が相手で?」

「問題無いよ。それにリンは国家代表候補生なんだし強いでしょ?」

「…まぁ一般生徒に負ける気は更々無いけど……」

 

 

 放課後のアリーナで鈴はISを纏ってルカと対峙していた。

 昨日の夜、ルカは放課後のISでの鍛錬に付き合ってくれないかと鈴に頼んだのだ。

 何時もはニコラスや時間のあるクラスメイトの娘と行っているのだが、学園用ISの使用届出は全て埋まっており、ニコラスも部活のGUN部で外せない用事があったので是非も無かったのだった。

 

 鈴が搭乗しているIS『甲龍(シェンロン)』は中国軍IS開発部によって作成された第3世代ISである。赤色の棘付装甲(スパイク・アーマー)が特徴的であるが、何より非固定浮遊部位(アンロックユニット)が目立っている。

 一方のルカのIS『アスラ』は漆黒の鎧の様な全身装甲(フルスキン)であった。一龍の一龍(イーロン)も黒騎士の様な外見であったが、一龍(イーロン)がシャープな外見であるのに対し、ルカの機体は重装兵の様にゴツい外見であった。

 頭部の装甲を展開していない為にルカの頭が覗かせているが、アンバランスな感じがすると鈴は思った。

 

 

「ルカのISってなんか空飛ぶ鎧って感じね。動き辛く無い?」

「う〜ん、もう慣れているから気にした事は無いかな?」

「そ、そう? (ルカのイメージに合わない機体ね…、やっぱり男らしさに憧れがあるからそんな機体なのかしら?)」

 

 

 会話を終え、ルカは頭部装甲を展開する。頭部装甲は金色の兜の様で、雄山鹿の立派な角の様な装飾が施されている。

 

 

「それじゃあいくよ、リン!」

「良いわ、掛かって来なさい!!」

 

 

 ルカが巨大なバスタードソード『デュランダル』を構え、鈴へ斬りかかる。鈴は両端に刃を備えた翼形の青龍刀『双天牙月』をその手に展開し、ルカの斬撃を受け止める。互いの刃がぶつかり合い、大きな金属音が鳴り響き、激しい火花が散る。

 鈴は双天牙月を華麗に振り回しながら縦、横、斜めと自由自在に斬り込むが、ルカもデュランダルの剣閃を流れる様に動かして確実に斬撃を受け止め返し刃で打ち込む。

 

 

(流石、国家代表候補生だね。攻撃が尋常じゃ無いや)

(ルカの斬撃、重過ぎ!? これじゃあ押し切られる)

 

 

 鈴は双天牙月を真ん中から分離させて2本の青竜刀にし、刃を交差させてデュランダルを受け止めた。

 

 

「二刀流か…(スパーダを思い出すな)」

「其れだけじゃないわよ。喰らいなさい!!」

「え? うわぁっ!?」

 

 

 甲龍の両肩周りに浮いている非固定浮遊部位(アンロックユニット)のスライド部位が開いたかと思うとルカは大きく仰け反りながら吹き飛ばされた。

 

 

「くっ、センサーには実体弾や爆発は確認されなかった……、衝撃砲(インパクトカノン)を使ったのかな?」

「1回使っただけで判っちゃうのね…、そうよ。空気を圧縮して放出する衝撃砲『龍咆』。360度全てが攻撃方向、死角なんてないわ!!」

「しかも実弾兵器みたいに弾切れは無く、エネルギー兵器よりもシールドエネルギーの消費は少ない、か。死角が無いのは厄介だね」

「さぁ、見えない砲撃をどう避ける?」

 

 

 そう言って鈴は接続し直した双天牙月を構えてルカへ肉薄する。鈴の斬撃を受け止めればそのまま衝撃砲をモロに受ける事になると判断したルカは、斬撃を受けると見せ掛けて素早く飛び退いた。

 

 

「そう簡単には受けてくれなさそうね。でもどうする? 剣だけじゃ私を倒せないわよ?」

「……はあぁ!」

 

 

 ルカは掛け声と共に意識を集中させ、鈴へ斬りかかる。鈴は再び双天牙月を2本に分け、斬撃を受け止めようとするが、斬り込みからの鍔を使った強烈な押し上げで大きく双天牙月を弾かれてしまう。

 

 

「力が上がってる!? でも私には……」

 

 

 元からカウンターで準備していた衝撃砲をルカへと放つが…

 

 

真空破斬(シンクウハザン)!!」

 

 

 デュランダルを一瞬構え、直後機体を回転させながら水平に薙ぎ払う。鋭い斬撃によって発生した斬撃波が龍咆から放たれた空気の塊を切り裂いた。

 

 

「うっそ!? 衝撃波を切り裂いたっての!?」

「其れだけじゃ無いよ! 秘儀・弧月双閃(コゲツソウセン)!!!」

「!? しまった…きゃっ!!」

 

 

 驚いた事によって隙が出来た鈴にルカは間髪入れずに剣技を叩き込む。下方から三日月を描く様にデュランダルを連続で斬り上げる。シールドによって鈴自身が切り裂かれる事は無かったが鋭い衝撃と共にアリーナの天井近くまで打ち上げられてしまう。

 

 

「一気に決めるよ!」

「シールドエネルギーがごっそり持って行かれたですって!? 後1回斬られたらエンプティ確実じゃない!!」

 

 

 ルカはスラスターを噴かして鈴の元へ一気に舞い上がる。向かって来るルカから距離を離すべく、鈴は龍咆を放ちながら後方へ下がる。

 

 

「散れ! 烈風月華衝(レップウゲッカショウ)!!」

 

 

 ルカはデュランダルを構え、全身ごと縦回転して鈴へ突っ込んで行く。回転カッターと化したルカに衝撃波が届く訳も無く、回転斬撃に尽く切り裂かれていく。

 

 

「後ろがもう壁!? 嘘でしょ!!?」

 

 

 焦る余りに後ろを確認していなかった自分に舌打ちしながら、2本にした双天牙月を構え直しルカを迎え撃つ。

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 振り下ろされるルカの斬撃を鈴は双天牙月を交差させてX字に斬り込んだ。回転によって勢いが付いた斬撃を受けた鈴は天井から床へ一気に押されてしまうが何とか防ぎ切る事に成功する。しかし、ルカの攻撃はまだ終わっていなかった。

 

 

「まだ終わらないよ!」

「しまっ!? (さっきので腕に力が入らない)」

 

 

 斬撃を防ぐ事で手一杯だった鈴へ、今度は逆の真下からの斬り上げが襲い掛かる。何とか避けようとバックステップするが紙一重で間に合わず……

 

 

【甲龍のシールドエネルギー残量0、ルカ・ミルダの勝利】

 

 

:::::

 

 

「あ〜あ、負けちゃった。ルカがこんなに強いなんて」

 

 

模擬戦が終了し、ISスーツから制服に着替え終えた鈴は呟く。

 

 

「今日は付き合ってくれて有り難う。少しは気分転換になったかな?」

「うん。負けたのは悔しいけど、久々に暴れたからスッキリしたわ♪」

「そう、それなら良いけど…」

 

 

 ルカはそう答える鈴の表情を確認する。

 昨夜の様に無理をしている様子は無く、言葉通りスッキリした雰囲気であった。

 

 

(少しは気分が晴れた様だけど、箒と付き合っている一龍が身近にいる以上、そう簡単に気分が晴れる訳が無いだろうし……)

 

 

 鈴と会った2日間でルカは彼女の性格を大体理解する事が出来ていた。

 

 

(リンみたいな性格なら何か区切りを着けてしまえば解決するんだけど…どうしたものかな?)

 

 

 色々と思考している内に、名案が浮かんだ。

 

 

「ねぇ、リン。一龍と勝負をしたい?」

「え? 急に何?」

「ちょっと聞いておきたくってさ。それで、どう?」

「…そうね、クラス対抗には参加するつもりだった訳だし、アタシとしては区切りを着ける意味でも……、ね?」

「なら、出る?」

「………へ?」

 

 

 ルカからの突然の提案に鈴は目が点になる。

 

 

「リンがやりたいなら今回は譲れると思うんだけど、どうかな?」

「ちょ、ちょっとルカ!? 担任含めたクラスの皆が許してくれなかったのよ? ルカが皆を説得するにしてもアタシが何か言ったと疑われるかもしれないって言ったのはルカだったじゃない?」

「うん、リンが一龍と顔見知りや友達程度の関係であったなら、譲る事は無理だったよ」

「それって…?」

「リンの想いを利用する形になるから気乗りしないけど……」

 

 

 ルカは鈴の耳元で内容を説明した。

 

 

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4月18日

 

朝のSHR前

 

『IS学園(ISがくえん)』 1年2組

 

 

「……と云う訳で、今回のクラス対抗戦はリンに出場して貰おうと思っているんだけど、…駄目かな?」

 

 

 現在、ルカは担任含む2組全員が揃った事を見計らって鈴をクラス対抗戦に出場させる趣旨を話した。

 

 鈴は1組のクラス代表である葉佩 一龍と幼馴染みであり、彼に対して恋愛感情を抱いていた。ある日、日本から母国である中国へ帰らなくてはならなくなった時、見送りに来た彼に告白して別れた。そしてIS学園で再開したのだが、彼には既に別の恋人が出来ていた。

 彼自身は鈴の告白を理解した上でそれでも今の恋人を愛しており、そこに鈴が入る余地は無く、彼女も無理であると理解した。

 しかし、心ではまだ諦めが着かずにいるので、自身の想いに決着を即けさせる為に一龍と戦わせて欲しい、と。

 

 鈴から聞いた事情から彼女が出場するに相応しい理由をクラスの皆に語る。

 

 

「彼女の気持ちに区切りを着けさせたいのだけど、どうかな?」

 

 

 ルカの問いに教室は静まり返る。そこへ…

 

 

「私は許可します」

《先生!?》

 

 

 2組の担任である足柄 小夜子(あしがら さよこ)の賛同にクラスの女子達がどよめく。

 

 

「好きな男性の事を引き摺らない様に、けじめを即けたいと言う思いは分かるわ」

「それもそうだけど…」

「気持ちは分かるけど、私情を持ち込んで良いのかな?」

「良いに決まっているわ! 告白されたのに唯、謝るだけなんて許される筈が無いもの!!」

「………せ、先生?」

「あれだけ尽くしてきたのに、「本当に好きな人が出来てしまったから別れよう」なんて巫山戯た理由で振る様な男なんて半殺しでも足りないたりないタリナイ…………」

「ねぇ、これって……」

「足柄先生、3年間付き合っていた恋人に振られたんだって(小声)」

「じゃあこの許可って私怨が混ざっているんじゃ……」

「許さないゆるさないユルサナイ赦さないゆるさないユルサナイ………」

「そっとしとこう? 鳳さんの事情は理解できる訳だし…」

「そ、そうね……」

 

 

 ブツブツと呪怨を呟く担任に引きながら、クラスメイト達は鈴の出場を認めるのであった。

 

 

「ルカ、…その、有難う」

「ううん、鈴は対応戦で自分の気持ちに決着を即けて?」

「…うん、頑張るわ!」

「クラス対抗戦までの鍛錬は僕も手伝うから頑張ろう?」

「良いの?」

「勿論だよ。鈴には勝って欲しいしね」

「ルカ………有難う♪」

 

 

 鈴はルカに満面の笑顔を向けるのであった。

 

そんな中、

 

「……………女っちゅうのは怖いわ」

 

 

 担任の姿を見て、ニコラスはボソリとそう呟いていたのであった。

 

 

TO BE CONTINUE

 




次回、波乱のクラス対抗戦に突入!!


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