一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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とうとう2か月も間を空けてしまいました。
お気に入りも数人消えてしまっている様で皆様大変申し訳ありませんでした。
エタる気は全く無いので完結まで御付き合いお願いいたします。

尚、本来は幕間にクエスト回を投稿する予定でしたが、執筆が難航している為、先に本編を投稿させて頂きます。


章タイトル元
『失われた世界』 著:コナン・ドイル

サブタイトル元
『赤い鈴』 歌手:あさき


3rd.Discovery 失われた世界
 赤い鈴


「そなたの内に

 宝の中の”宝”が隠されている。

 人間よ、自分自身を知れ。

 そうすれば宇宙と神々を知るだろう」

 

───古代の格言:ノーシス

 

 

____________________________________________

 

 

4月15日

 

20:30

 

『IS学園(ISがくえん)』 エントランスホール前

 

 

「ふう…」

 

 

 イタリア出身の男性操縦者にして1年2組クラス代表になった少年、ルカ ミルダは1人廊下を歩いていた。

 

 

「少し食べすぎたかな?」

 

 

 1年1組のクラス代表就任パーティに参加し、皆で馬鹿騒ぎしていたのだが、休憩を兼ねて少し抜け出して散歩をしていたのだ。

 

 

「ほんと…何処なのよ此処? 訳が分からない」

 

 

 ふと、向こうから声が聞こえた。声の方へ向かうと、黄色のリボンでツインテールにした小柄な少女が大きなボストンバックと学園のパンフレットを持ちながらブツブツと呟きながら歩いている。パンフレットに書かれた学園内の地図と睨めっこしながらキョロキョロと周りを見渡している。

 見たところ迷っている様子なのでルカは声を掛けてみる事にした。

 

 

「どうしたの?」

「きゃっ!? いきなり声を掛けないでよ!! ってあんた誰?」

「ご、ごめん…」

 

 

 後ろから声を掛けてしまった為か少女は驚いてしまった。

 

 

「ええと……制服を着ているって事は、アンタここの学生?」

「うん、僕はルカ、ルカ ミルダ。君は…転入生かな?」

「そうよ、中国国家代表候補生の鳳 鈴音(ファン リンイン)。専用機の調整が終わったから漸く来れたの」

「そうなんだ、宜しくね。リンって呼んで良いかな?」

「構わないわ。アタシもルカって呼ぶから、宜しくね♪」

 

 

 

 そう言って鈴は人懐っこい笑みを浮かべた。

 その笑顔にルカは猫っぽいなと思った。

 

 

「ところでリンは此処で何をしていたの?」

「あ、そうだった。本校舎一階総合事務受付って何処か知ってる?」

「知っているけど、案内すればいいのかな?」

「うん、お願い」

 

 

 どうやら本当に迷っていたらしい。ルカは鈴を連れて目的の場所まで案内することにした。

 

 

「それにしても、ズボンなんて珍しいわね」

「へ?」

 

 

 2人歩きながら鈴が唐突にその様な事を言い出し、ルカは首を傾げる。

 

 

「制服の改造は許されているけど、スカートじゃなくてズボンだなんて。上も男の制服っぽいし」

「……………」

 

 

 IS学園は制服の改造が許可されている。其の為、素肌を見せたくない生徒は長袖、ロングスカートが許され、鈴も好みなのか脇出しルックになっている。

 鈴の言葉にルカは黙り込む。心なしかルカの周りの空気がどよ~んとしだし、茸が生えてきている様に見えだした。

 

 

「あ、あれ? どうしたの?」

「僕って女の子に見える?」

「え……それって…、あっ(察し)」

「僕は男だよ?」

 

 

 一瞬時が止まった様な感覚に陥り、互いに黙り込む。気まずい空気が流れ出す中、思い切って鈴が口を開いた。

 

 

「え、えぇと御免ね? 可愛いから女の子だと思ってつい…」

「いいよ、僕は格好良い路線のベクトルとは正反対なんだから…解ってるよ……グスッ」

 

 

 瞳に若干の涙を浮かべて告げるルカの姿はものすごく可愛らしかったが、そう言っては本人が更に落ち込むだろうと思い、鈴は心の内に仕舞い、別の話題に変えるべくルカに尋ねた。

 

 

「ね、ねぇルカ、葉佩 一龍って知ってる?」

「一龍? 1組のクラス代表だけど知り合いなの?」

「幼馴染かもしれないの。織斑 一夏って名前だったんだけど」

 

 

 鈴はルカに幼馴染について説明した。なんでも織斑 一夏は嘗て日本に転校して来た時に親しくなり、再び中国へ引っ越すまで親友として付き合っていた仲であったという。そして男性操縦者発見のニュースで一龍の顔写真が写った時、頬の傷等若干の違いはあれど一夏とそっくりであった事に大変驚いたらしい。

 

 

「一夏か…、一龍の過去について詳しく聞いた事が無いから分からないなぁ」

「そう…」

「箒や真次郎なら知ってるかも?」

「誰それ?」

「一龍と同じ1組の人なんだけどね、2人なら詳しく聞いてると思うよ。それに箒は一龍の幼馴染だし、リンは知らない?」

「う〜ん、箒って名前は聞いた事無いわね。やっぱり他人の空似なのかしら?」

「明日、本人達に聞いてみたら良いんじゃないかな? あ、着いたよ。じゃあ僕は戻るね」

「それもそうね、案内してくれて有難う♪」

 

 

 鈴を送り終えたルカは鈴に別れの言葉を掛けてパーティ会場に戻ろうとするが…

 

 

「ルカー!!」

 

 

 鈴がルカを呼ぶ声が聞こえる。振り返ると受付の前で鈴が大きく手を降っていた。

 

 

「これから3年間宜しくねー!!」

 

 

 鈴に笑顔で手を振り返し、ルカは会場へ戻って行った。

 その後、一龍達に鈴の事を話そうと思っていたのだが、2組で発足した『ルカちゃまを愛でる会』の面々に捕まってしまい、グダグダの内にパーティはお開きになったので話せずに終わってしまった。

 

 

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4月16日

 

朝のSHR前

 

『IS学園(ISがくえん)』1年1組教室

 

 

 一龍と箒が教室に入ると何やら騒がしかった。

 

 

「おはよー葉佩君、箒さん。ねぇ、聞いた?」

「【疑】何をだ?」

 

 

 教室の入り口近くで本音や相川と話をしていた谷本が一龍に話し掛けてきた。

 

 

「2組に新しい転校生がやって来るんだって」

「へぇ、珍しい。今の時期にか?」

「そうそう、何でも中国の代表候補生なんだってさ」

「中国……か…」

 

 

 そう呟きながら一龍は物思いに耽る。小学高学年の時に転入してきた一龍にとって箒に続く幼馴染と言うべき少女。しかし、中学2年生の終わりに親の都合で母国である中国へ帰ってしまった。当時は事情を知らなかった一龍だが、別れる際に見せた悲しそうな顔を思い出し、箒と時と同じ様に彼女の事情を調べてみた。

 彼女が中国へ帰ったのは両親の夫婦仲の不和のせいであった。空港で彼女と別れたあの日、既に両親は離婚しており、母親と中国へ帰ったのだ。その後、IS適性が高かった彼女は中国国家代表の道を進む事に決め、見事国家代表候補の座を勝ち取ったのだった。

 

 

「代表候補生と言う事は専用機持ちなのか?」

「何でも専用機の調整で入学が遅れたって噂だよ~?」

「成程、だとすると確かに辻褄が合うな」

 

 

 箒の疑問に谷本と話をしていた本音が答える。

 

 

「一龍は中国の専用機についてやっぱり知っているのか?」

「そうだな、軍部のIS部門で造られた近・中距離対応のバランス型らしいぞ?」

「そうなんだ、オルコットさんのブルー・ティアーズみたいに何か凄い武装とか持っているのかな?」

「確か『衝撃砲』とか言う武装があった筈だな」

「衝撃砲?」

 

 

 聞かない言葉に箒達が首を傾げる。

 一龍は箒達に衝撃砲について説明する。

 

 

「まぁ、解り易く言うなら『360°展開可能な空気砲』だな」

「はぇ~、すっごい解り易い」

「でも何か凄みが無くなったね~」

「でも射程距離が短いとはいえ、不可視の空気弾ってのは厄介だな…」

「んなもんカラースモークを焚いてしまえば楽勝だぞ?」

「え、カラースモーク……ああ、そっか!! 煙で見える様にすれば良い訳か!!」

「そういう事」

「はばっち、物知りだね~」

 

 

 あっさりと中国の専用機が持つ特殊武器の対策を言ってしまう一龍に皆が感心する。

 

 

「……朝から騒がしいな」

「皆さん、お早うございます」

 

 

 中国の専用機について話が盛り上がっている中、真次郎とセシリアが教室にやって来た。

 

 

「お早う、シンジ、セシリア。揃ってなんて珍しいな」

 

 

 セシリアが真次郎に好意を抱いている以上、珍しくない行動であろうが一龍はあえてそう言ってみる。

 

 

「今朝はシンジさんを御迎えに行きましたの。シンジさん、朝は弱いのですね?」

「昨夜は寝付くのが遅くてな、眠ぃ…」

 

 

 寝不足な為か、若干不機嫌気味な表情の真次郎が欠伸をしながら答え、その様子をセシリアが微笑ましそうな表情で見ていた。

 

 

「ところで、何の騒ぎですの?」

「あのね~、中国から専用機持ちの転校生が来たみたいなの~」

「あら? この私の実力を危ぶんでの急な転校でしょうか?」

 

 

 強気なセリフを言うセシリアであったが、真次郎が突っ込む。

 

 

「セシリア……、その咬ませ犬的なセリフは止めろ」

「か、咬ませ犬!?」

 

 

 真次郎の突っ込みにショックを受けるセシリア。その姿にうんうんと頷く面々、高飛車な性格を反省した筈なのにまたやってしまっては当然の意見であろう。

 

 

「転校生の事も気になるけど、それよりも差し迫ったクラス代表戦だよ!」

「葉佩君、絶対勝ってよ? なにせデザートフリーパスが懸かっているんだからね♪」

「はばっち、ファイト~♪」

 

 

 クラス対抗戦では優勝したクラスに半年間分のマミーズのデザートメニューフリーパスチケット(クラス全員分)が優勝賞品として配られる。甘いものが好きな女子達にとって誰もが喉から手が出る程欲しい代物だった。

 

 

「どのクラスも専用機持ちが代表だけど負けないでね?」

「葉佩君が勝ってくれたら私達もしあわせ~♪」

「勝利の御旗を1組に掲げてぇ!!」

 

 

 気付くとクラスの皆が一龍の周りに集まり激励を掛けてくれていた。

 

 

「そうはいかないわ!!」

「ぁん?」

 

 

 突如入り口から元気の良い声が響く。

 丁度扉の前に立っていた真次郎が鬱陶しそうに声の方を向く。

 

 

「アタシが来た以上、そう簡単に勝てるとは思わない事……ね?」

「あぁ……もしかして、てめぇが2組の転校生か?」

 

 

 真次郎の強面を前に鈴の強気だった声が小さくなっていく。そこに真次郎の背中から一龍達が顔を出す。一龍にとって懐かしい声の主は…

 

 

「【喜】やっぱり鈴か、久しぶりだな」

「やっぱりいちk…じゃなかった、一龍なのね。久しぶり♪」

 

 

 鈴は笑顔で答える。そしてふんす! と胸を張りながら一龍を指さし宣言した。

 

 

「今日は2組の代表として宣戦布告させて貰いに来たわ!」

「ん? 2組代表はルカじゃなかったか?」

「え、ルカがクラス代表なの?」

 

 

 真次郎の言葉に鈴はキョトンとした表情になる。

 

 

「ルカを知っているのか?」

「うん、昨日ちょっと助けて貰って…」

「(成程、パーティの途中でルカの姿が見えなかったのはそういった理由があった訳か。俺の名前を一龍と言い直したのはルカから軽く事情を聞いた為か?)というか、クラス代表は先週の内に決まっているんだぞ? どうやって出るつもりだったんだ?」

「え~と頼んで代わって貰おうって思ってたから…」

「行き当たりばったりなのは相変わらずだな?」

「ぐぬぬ……」

 

 

 あの時と変わらない様子の鈴に苦笑する。家の事情やISの訓練で苦労していると聞いていたので心配していたが、元気にしていた様だ。まぁ無理をしている可能性も考えられる訳だが……

 

 

「色々話したいが、SHRの時間が近づいているな。俺のクラスは織斑先生が担任だから早く戻った方が良いぞ?」

「本当? それじゃあ、どやされる前に失礼するわ♪」

 

 

 そう言って背を向ける鈴に一龍は問い掛ける。

 

 

「戻ったらルカに頼むのか?」

「お願いしてみるつもりよ、其れじゃ!」

 

 

 今度こそ、鈴は去って行った。鈴が廊下を走る音と共に千冬の「廊下を走るな」と言う声が聞こえた。

 

 

「変わってないな、鈴は…」

「一龍、あいつとは知り合いか?」

「中国の代表候補生と知り合いなんて顔が広いのですのね」

 

 

 置いてきぼりであった真次郎とセシリアが尋ねてくる。箒はデートの時に鈴について一龍から色々と聞いていたので納得した様な顔をしていた。

 

 

「【困】説明したいのは山々なんだが、織斑先生が来たみたいだ」

 

 

 そう言った矢先、千冬と真耶が入ってきた。

 

 

「SHRの時間だ、皆席に着け!」

「休み時間に説明するからさ、いいだろ?」

「分かりましたわ」

 

 

 セシリア達に説明の約束をし、各々が席へ戻って行き、出席確認が行われ始めた。

 

 

(しかし、鈴まで此処(IS学園)に来るとはな。世界は狭いな)

 

 

TO BE CONTINUE

 




短めですが今回は此処までです。

感想コメント、意見・質問お待ちしております。

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