一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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待っていた方がいるかは分かりませんがデート回(終始箒視点)です。
改めて考えるとISの原作メンバーでデート経験者っているのか?


 ドキドキ! 初デート (箒編)

4月12日

 

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮

 

 

「箒、デートしよう」

「ふぇっ!!?」

 

 

 一龍からの突然の言葉に私は変な声を上げてしまった。今、デートと言ったのか…?

 

 

「い、いきなりどうしたんだ一龍!?」

「折角の日曜日だし、明後日の代表決定戦に向けて練習ばっかりだったろ? 息抜きにな」

「しかし、良いのか?」

「根を詰め過ぎても良い事無いからな。それに約束しただろ?」

「約束……あっ!」

 

 

『「いや、似合っているよ。今度一緒に写しに行こうか?』

『ふぇ、一緒か!?』

『【愛】ああ、デートの時にでもな』

『デート…、そうだな、一緒に写ろう!』

 

 

 クラス代表を決める事でゴタゴタがあった日に一龍とした会話を私は思い出した。息抜きは必要だが、まさか今日とは……

 

 

「もしかして、今日は何か予定でもあったか?」

「無いぞ! うん、予定など無い!!」

「【驚】そこまで強く否定!?」

 

 

 必死な顔で答えてしまったからなのか、一龍は苦笑した。

 

 

「寮監には外出届を出しているけど、準備があるだろうから9:30に校門前で集合な」

「分かった」

「それじゃあ朝飯を食べに行くか」

 

 

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『IS学園(ISがくえん)』 学生寮 廊下

 

 

「一龍とデート、デート、デート……」

 

 

 朝食後、時間まで互いの準備を済ませる為に一龍とは別行動をする事になったのだが、未だに”一龍とのデート”という言葉が私の頭から離れないでいた。

 

 

「一龍と…大好きな一龍とデート…」

 

 

 私の幼馴染にして最愛の人、私の想いを受け止めてくれた人。そんな彼とのデートが嫌な筈が無い。しかし、私にはデートといった恋愛事に疎いという大きな問題があった。

 私は幼い頃から人付き合いが上手く無かった。小学4年生までは一龍が間に入ってくれたからそれなりに友人はできていたのだが、姉さんのせいで1年毎に転校するようになってからは友人など碌に作れなかった。結果、恋愛事を女友達と話する機会等ある筈も無く、知識はせいぜい購入した漫画や小説、テレビぐらいのものであって現実的なものでは無かった。

 そして今回、生まれて初めてのデートである。大好きな一龍の手前、可愛らしく振る舞いたいものだが、如何せん私はこれまで可愛らしい事に縁が無かった。

 どうしようかとブツブツと呟きながら歩いている内に、私は誰かとぶつかってしまった。

 

 

「おい、気を付けろ」

「す、済みません……荒垣さん?」

「箒か、どうした1人で?」

「いえ、その……」

「一龍はどうした?」

「今日は…時間迄待ち合わせをしていて…」

「……デートか?」

「ふぁい!?」

 

 

 荒垣さんの言葉に私は変な声を上げてしまった、すると荒垣さんはクスリと笑っていた。

 

 

「分かり易過ぎるぞ」

「あうぅ……」

「ま、折角の日曜なんだ。楽しんでこい」

「は、はい…」

 

 

そう言って荒垣さんは背中を向けて去ろうとする。私はその時、彼に声を掛けていた。

 

 

「あの、荒垣さん」

「何だ、まだ用があったか?」

「その…荒垣さんに聞くのもお門違いな気もするのですが…」

 

 

 改めて考えると何故彼に尋ねたのか解らない。唯、彼なら何か知っていそうだったからかもしれない。

 

 

「で、デートの時ってどう振る舞えば良いのでしょうか?」

「はぁ!?」

 

 

 予想していた反応が返ってきた。当然だ、男性に聞く方が可笑しい。

 

 

「…選りにも選って俺に聞くか?」

「す、済みません」

「………ふぅ」

 

 

 荒垣さんは溜息を吐くと、私の方を振り向いた。

 

 

「有りの儘で良いんじゃねぇか?」

「有りの儘ですか?」

 

 

 荒垣さんの言葉を私は繰り返す。

 

 

「一龍とは遊びのつもりで付き合っている訳じゃ無ぇだろ?」

「それはっ! 勿論です!!」

「ならおべっかや猫被る必要なんか無ぇ、ずっと付き合っていくならな。何時かボロが必ず出る」

「そうですね」

 

 

 後頭部を掻きながら荒垣さんは恥ずかしそうに言う。

 

 

「それにな…」

「?」

「大事な奴に本心を伝えられ無いと何時か後悔をするぞ…」

「荒垣さん……?」

 

 

 一瞬、荒垣さんの顔が悲しみに歪んだ気がした。

 

 

「…じゃあな」

 

 

 手を振りながら今度こそ荒垣さんは去って行った。先程見せた荒垣さんの悲しそうな表情が気になったが、大事な事に気付いた。

 

 

「しまった、服装はどうしよう!?」

 

 

この7年間、御洒落に気を使わず動きやすい服装ばかり購入していて、デートに着るような服が殆ど無い事に気付いた。急いで調べなくては!

 

 

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『IS学園(ISがくえん)』 校門前

 

 

「待たせた、一龍」

「お、来たか」

 

 

 校門前へ行くと一龍は既に待っていた。

 

 

「遅かったか?」

「いや、大して待っていないよ。それよりその格好…」

「ん、似合っているか?」

 

 

 一龍は私の姿をまじまじと見た。上は襟にワンポイントあるシャツに白色のセーターを着ており、下は紺色のふんわりとしたフレア・スカートで茶色のブーツを履いている。あと髪型は一龍が送ってくれた琥珀の髪留めで纏めていつも通りポニーテールにしている。

 

 

「【愛】可愛いな…」

「ひゃい!?」

 

 

 一龍の感想に箒の顔はたちまち赤くなる。

 

 

「それに綺麗だし、とっても似合っているぞ」

「ほ、本当か?」

「ああ、とっても」

「そ、そうか……良かった(一龍が可愛いって誉めてくれた…)」

 

 

 そう言って褒めてくれる一龍に私は嬉し恥かしさで顔が熱かった。

 

 

「その…、一龍も格好良いぞ?」

「そうか? 俺のは何時も来ていた服なんだけど…」

 

 

 一龍は黒のカッターシャツの上にグレーのチョッキ、下はモスグリーンのズボンで革靴であった。私としてはモデルみたいだなと思ったんだが…

 

 

「それじゃ、行こうか?」

「分かった、何処に行くかは決めているのか?」

「ショッピングモールであちこち巡ろうかと思っているけど、どうかな?」

「ショッピングモールと言うと、『レゾナンス』か?」

「ああ。そこでなんだが、箒に俺の服を選んで欲しいんだが…」

「私にか!?」

「ああ、駄目か?」

「駄目なんて、そんな訳無い! 是非選ばせてくれ!」

「【驚】お、おう。頼むよ」

 

 

 私が必至な返事をしたからか、一龍は少し押されながら私に笑い掛けてくれた。

 

 

「じゃあ、行こうか?」

 

 

 そう言って一龍は右手を出した。

 

 

(こ、これは手を繋ぐのか…!?)

「どうした、箒?」

「い、一龍…、それは…手を繋ぐのか?」

「それ以外に無いと思うんだが…嫌か?」

「い、いや、嫌じゃ無いぞ。唯、いざするとなると少し緊張して…」

「手を繋ぐだけでそんなに緊張するとか初心過ぎだっての。ほら」

「あ…」

 

 

 一龍は少し呆れた様子で私の手を取った。

 

 

「行くぞ」

「う、うむ…(て、手が…)」

 

 

 一龍に手を引かれて、私達はショッピングモール経由のモノレール駅へ向かうのだった。

 

 

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『レゾナンス』 衣服コーナー

 

 

 目的地に到着した私達は早速衣服コーナーへ足を運んだ。

 

 

「これとかどうだ?」

「少し派手過ぎないか?」

「私は似合っていると思うぞ?」

「そっか、なら試しに着てみるか」

 

 

 私が選んだ服を一龍が受け取る。因みに選んだのはオレンジ色のスプリングコートだ。羽織るだけで良いので一龍はチョッキを脱ぎ、スプリングコートを羽織った。

 

 

「どうだ?」

「うむ、似合っているぞ」

「なら買うかな?」

 

 

 衣服を扱う店は色々とあったので、午前中は私の服も含めて彼方此方巡った。買った衣服は一龍が一龍(イーロン)拡張領域(バススロット)に収納したので問題無かった。成程、こういう使い方も出来るか…

 こうして、一龍と私の服を色々見て回り時間は過ぎて行った…

 

 

:::::

 

 

 昼時になったので、飲食店が建ち並ぶグルメ通りへ足を運ぶ。フードコートでも良かったが折角のデートなので良い店に行きたいと一龍が言ったのでそれに従う事にした。

 そんな訳で入った店は料亭。中に入ると杉の木や竹、季節の花を飾った洒落た内装であった。

 

 

「い、一龍…高そうな店だが大丈夫なのか?」

「問題無いぞ? 義父さんの仕事を手伝っていたから結構稼いでいるからな」

「そ、そうか」

「箒とのデートなんだ、見栄を張らせてくれよ」

「う、うむ」

 

 

 心配そになったので私は尋ねたが、一龍の笑みに再び顔を赤くし納得する。

 

 

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 

割烹着姿の店員がお茶を配りながら尋ねる。

 

 

「『季節の昼膳』を、箒は?」

「わ、私も同じ物を」

「畏まりました、『季節の昼膳』を2つですね?」

「はい、お願いします」

 

 

一龍の言葉を確認した店員は厨房へ去って行った。

 料理が来る迄の間、私は一龍と色々と話した。大半は一龍が冒険してきた世界各地の遺跡の話を聞いていたのではあるが…

 

 

「…それで義父さんの撃った弾丸が仕掛けに当たらなかったら、俺達はそこで死んでいたな。まさかあんな罠があるなんて思わなかった」

「もはや創作の世界の話だな…」

「古代人は今より遥かに発達した文明を持っていた所もあるからな、それを調べるのがまた楽しいんだ」

「…本当に楽しかったのだな」

 

 

 話をする一龍は本当に楽しそうで、少し嫉妬してしまう。一龍から贈り物を貰った半年間はマシであったが、姉さんのせいで7年間楽しいと思った事は無かった。始めこそは頑張ろうと努めたが、変えようがない現実に遂には諦めた。

 

 

「ま、今度は一緒に行こうな」

「……え?」

「遺跡もそうだがどこも周りの景色が凄く綺麗でさ、箒に是非見せたいんだ。何時か一緒に行きたい」

 

 

 一龍は笑顔で私に笑い掛ける。一龍と再会してから何度も見ているが、一龍の笑顔には慣れない。この笑顔は卑怯だ、何時見ても顔が赤くなるのが止められない。

 

 

「一龍……」

「まぁ箒の都合があるし、何時になるか分からないけど、どうだ?」

「行きたい。一龍が行った場所へ、一龍が見た世界を私も見たい!」

「そっか、何時か2人で行こうな」

 

 

 一龍が巡った世界の風景を見る約束をしたところに、店員が注文した料理を運んで来た。

 

 

「御待たせ致しました、『季節の昼膳』です」

 

 

 店員が注文した料理をテーブルに並べる。

 『季節の昼膳』の内容は、鶏と筍と茸の炊き込みご飯やら桜鯛と山菜の天ぷら、あさりの吸い物と茶碗蒸しと菜の花の和え物であった。うん、とても美味しい。いずれも国内天然モノで桜鯛は日本海でその日に漁獲したらしい。学生が食べれるモノでは無いな……食後には桜餅と玄米茶が出た。

 

 

(私も料理の腕を上げないとな…)

 

 

 茶を啜りながらそんな事を考える。あの時、一龍が荒垣さんと作った洋菓子はとても美味しかった。今の時代、女性だから悔しいと思うのは古いかもしれないが、私だって一龍に手作りの料理を食べて貰って”美味しいと”言って貰いたい。数日前、試しに炒飯を作ってみたのだが、塩と胡椒を加えるのを忘れるという大失態を犯し、素材の味しかしない炒飯が出来てしまった。出来た後に塩を掛けて食べたが一龍に出せる筈も無く、泣く泣く一人で食べ切ったのだった。

 

 

(取り敢えずは荒垣さんを含むお菓子のお返しを考えないとな…)

 

 

 そう考えながら、私は一龍と共に店を後にした。

 

 

:::::

 

 

 昼食後は本屋とCDショップへ行った。何でも知り合いが出した本、CDが発売されているらしい。一龍の義父である葉佩 九龍さんの友人達との事だが、一龍の話から同じトレジャーハンターから流離いのカレー屋、テニストッププレイヤー、ピアニスト、軍人、ファッションデザイナー、政治家等々幅広い人達と繋がりを持っている事に驚いた。本当に九龍さんはトレジャーハンターなのか?

 

 

「箒はこの本とかどうだ?」

「それは?」

「真里谷 剣介著『今を生きる侍道』。今日、本屋に寄った理由がコレ」

「あの人、本も出していたのか?」

「最近書いたって連絡が来てな(そう言えば、七瀬さんに読んで貰いたいとか言ってたって?)」

「ふむ…」

 

 

 本屋の後は目的であったプリクラを一緒に撮る為にゲームセンターへ行った。

 

 

「あったぞ一龍」

「それじゃ、早速撮るか」

 

 

 撮影機の中に入ってお金を入れ、フレームの選択をする。

 

 

「デートだしハート型が鉄板かな?」

「は、ハート…」

「良し、撮るぞ。箒はもっと近づいて」

「一龍? ひゃあ!?」

 

 

 一龍は私の腰に手を回し体を引き寄せる。体は勿論、互いの頬が当たる程の密着で私の顔はたちまち真っ赤になってしまった。

 

 

【撮影を開始します。3、2、1、~♪】

 

 

 撮影機から撮影されたプリクラが出てくる。左手で私の左肩を掴みながら右手でピースをする一龍と密着状態で真っ赤になっている私。見ると恥ずかしい…

 

 

「良く撮れているな」

「い、一龍…もう一度撮らないか?」

「気に入らないか?」

「流石に照れ過ぎだから…その…」

「可愛いけどな?」

「い、一龍がそう思っても流石に照れ過ぎているから…」

「ならもう一度撮るか」

 

 

 プリクラを撮り終えた後は、色々なゲームをプレイした。ガンシューティングにアーケードゲーム、音楽ゲームにクレーンゲーム等々。一龍はどれも上手く、ゲームの経験が殆ど無い私は一龍から色々と教えて貰いながらプレイし、楽しむことが出来た。

 

 

「【喜】ははは、大量大量♪」

「す、凄いな……」

 

 

 メダルゲームで大量のメダルをゲットした一龍、ここでは集めたメダルの枚数で景品と交換してくれるらしい。交換の為に交換所へ向かった一龍、私は少し疲れたので近くのベンチに座って待つ事にした。

 

 

「ねぇ、貴方。ちょっとお金貸してよ」

「はあ? なんで知り合いじゃ無ぇのにそんなこと…」

 

 

 一息吐いた所に男女が言い争う声が聞こえる。

 

 

「良いでしょ? 男なんだから貸しなさいよ」

 

 

 女性の言葉に私は眉を顰めた。

 ISが出て以降、”ISに乗れる女性は男性よりも偉い”と言う、女尊男卑の風潮が広まった。理由にならない理屈を並べては男性に雑用を頼んだり、お茶を奢らせたり、中にはデートに付き合わせようとする者もいる。断ろうとすれば、事実無根の罪を被せると脅すのだ。実際に女性が優遇される世間になっているのでその嘘が罷り通る場合が多く、被害を受けた男性も少なく無い。

 

 

「ふざけんな」

「ふ~ん、女性にそんな事言って良い訳? 警備員を呼んでもいいんだけど?」

 

 

 案の定、脅しに入った。このままでは呼んだ警備員に出任せを言うに決まっている。

 同じ女性として見過ごせ無い私は、ベンチから立ち上がり2人の元へ向かう。

 

 

「好い加減にしろ」

「え…?」

「な、何よ貴女?」

 

 

 いきなり私が割り込んだので戸惑っている様だが構わず言葉を続ける。

 

 

「事の顛末を見ていた者だ。他人からお金を強請り集ろうとし、更には脅すなんて恥ずかしく無いのか?」

「あ、貴女、女の癖に男に味方するの?」

「女の癖に? 女がどう男より優れているのだ?」

「女はISに乗れるのよ? それなのに…」

「ISに乗れるから何だ? お前はISに乗っているのか? それともお前は国家代表だとでも言いたいのか?」

「そ、それは…」

「IS乗りでも無いのに威張り散らすのか? 唯女性だけが扱えるという理由だけで?」

「く……」

「お前みたいな奴がいるせいで女性の品位が下がるのだ。恥を知れ!!」

 

 

 睨みつけながら言ったのが効いたのか、女性は反論する事無くそのまま逃げる様に去って行った。

 

 

「あ、有難うな。御蔭で助かった」

 

 

 絡まれていた少年が感謝の言葉を述べてきた。

 年齢は私や一龍と同じ位だろうか? 長い赤髪でバンダナを巻いている。一龍や荒垣さんの様なワイルド系に近い。

 

 

「気にするな、同じ女性として見逃せなかったのだから」

「いや、だとしても助かったよ。俺は五反田 弾(ごたんだ だん)って言うんだ、是非礼をさせて欲しいんだが…」

「感謝の気持ちだけで充分なのだが…」

「箒、待たせたな」

 

 

 そこへ景品を交換しに行っていた一龍が戻って来た。

 

 

「一夏…? 一夏だよな!?」

「……弾か?」

「うおおお、やっぱり一夏か! 1年間、何処をほっつき歩いていたんだよ!?」

 

 

 弾と名乗った少年は一龍の顔を見ると驚きの声を上げながら一龍の肩を掴んだ。

 

 

「ああ、色々話さないといけないが、立ち話もなんだし…場所を変えるか?」

「そうだな、俺も色々聞きてえ」

「箒も良いかな?」

「一龍の友人なのなら仕方ないな」

 

 

:::::

 

 

「1年間世界中を廻っていたのか?」

「ああ、義父さんの手伝いや任務とかであちこちとな」

「トレジャーハンターねぇ……、本当にあるんだな…」

 

 

 私達はゲームセンターからフードコートへ移動し、一龍はそこで事情を説明した。

 

 

「しっかし、織斑の名前を捨てているって…理由は聞け無いのか?」

「悪いな弾…、これは俺と千冬姉の問題だから…」

「姉弟間の問題にまで口出しするつもりは無ぇけど…何かあったら頼れよ? 相談位乗るからよ」

「【友】…有難うな、弾」

「ダチだろ? 当然だって」

 

 

 弾と名乗った一龍の友人は人懐っこい笑みを浮かべる。こう云うのが男の友情っていうやつなのだろうか?

 

 

「ところで一龍、彼女は誰なんだ?」

 

 

 話題が私の事になり弾が一龍に尋ねる。

 

 

「箒は小学4年生迄の幼馴染でIS学園で再開したんだ」

「自己紹介がまだだったな。私は篠ノ之 箒、一龍のクラスメイトで……彼と付き合っている関係だ」

「俺と知り合う前に引っ越した訳か………付き合っている?」

「あ、あぁ。箒は俺の…彼女だ」

「か、彼女ぉ!?」

 

 

 弾が目を丸くして大声を上げた。周りの客が何事かと視線をこちらに向けてきた。

 

 

「弾、驚くのは解るが声が大きいって…」

「おぉ、悪い……でもお前が彼女持ちって…マジかよ…」

「その…そんなに驚く事なのか?」

 

 

 弾の驚きと彼の反応を肯定している一龍に私は尋ねる。私が知っている一龍は出会った幼稚園児から小学4年生迄…その頃から一龍は同組やクラスメイトの女の子にモテていた。勿論、私も好意を抱いていたが恋心だと気付いたのは一龍と別れた後であった。それから7年間、一龍への想いを募らせながら、誰かと付き合っているのではないかと時折不安になる時があった。

 

 

「そりゃあ一龍の奴、超が付く程朴念仁だったんだぜ? 「付き合って」って言われても「買い物の手伝いか?」って受け取るし、バレンタインで本命のチョコ貰っても「義理でも嬉しい」って渡した本人の前で言いやがったんだからな」

「……それは………凄いな…」

「【悲】うぐっ……そういうのに疎かったんだから仕方無いだろ…」

「疎いってレベルじゃ無ぇから、何時女子に刺されるか心配になる位だったんだからな」

「一龍……」

「【悲】勘弁してくれ…」

 

 

 弾の言葉に若干いじけた様子の一龍。

 成程、一龍は恋愛に関して鈍感だったのか……弾の話を聞く限り、一龍の義父である九龍さんと出会って以降、鈍感が治ったという事だろう。…と言う事はもし出会っていなかったら道場での私の告白も一龍は恋愛で無く、友愛での”好き”で受け取ったっきりになるかもしれなかたのか………、となると九龍さんには感謝だな。

 

 

「どうせ、鈴にあの時言われた言葉だって飯を奢ってくれる事と思ってたんだろ?」

「おぐっ!? それを聞くか…?」

「鈴?」

 

 

 聞きなれない人名に私は疑問の声を上げる。

 

 

鳳 鈴音(ふぁん りんいん)って俺達が小学5年の時に中国から転校してきた女の子でな」

「箒と入れ替わる形で来た…俺にとって第2の幼馴染になるのかな? 中2、モンドグロッソを観戦しに行く数日前にまた中国へ帰ったんだけど…」

「そうか…」

「それで鈴の奴、別れ際に一龍に言ったのが”料理の腕が上がったら私の酢豚を毎日食べてくれる?”だったんだぜ?」

「毎日酢豚を? いや……それってもしかして………」

「そう、”私の作った味噌汁を毎日飲んでくれますか?”と同じ意味」

「それって……告白じゃないのか一龍!?」

「ここ1年で漸く理解できたんだ、勘弁してくれ……そもそも得意料理で当て嵌めたなんて解らないっての…」

 

 

 どうやらその鈴音の言葉を理解して悩んでいた様だ。やはり御付き合い前提の告白をされていたのだな、一龍………。しかし、当時の一龍が鈍感であったとはいえ彼女も解り難い告白をしたものだな……。

 

 

「で、鈴の言葉を理解した上で箒さんと付き合っているって事はそうなのか?」

 

 

 弾が一龍を見つめ、確認するように尋ねる。

 一龍は頷いて答えた。

 

 

「…ああ、鈴が俺を恋愛で好いてくれるのは嬉しい。でも、おれが好きな女性は箒だから…」

「全く……、箒さんみたいな美少女と相思相愛で御付き合いとか羨ましいぜ。それで、鈴には何て言うんだ? あいつ癇癪持ちだから絶対に爆発するぞ?」

「謝る。色々言われるだろうけど」

「ま、そうだろうな。それじゃ、俺はもう行くわ」

「そうか、会えて嬉しかったよ」

「俺もだっての。変な女に絡まれたけど今日は良かったぜ、格ゲーのトッププレイヤーに会えるわ、一龍と再会できたで。じゃ箒さん、助けてくれて有難うな」

「箒で良い。気にするな」

「そう言えば、今日は1人で来たのか?」

「いや、蘭と来ていて別々に行動していたんだがな、何か”急に用が出来たから帰る”ってメールを送ってきて帰ったんだよ」

「急用か? 残念だな…」

「会えたらあいつも喜んだだろうな……そういや一龍、蘭にもちゃんと断ってくれよ? あいつもお前に惚れてんだからな?」

「ああ…やっぱり?」

「じゃ、またな」

 

 

 そう言って弾は去って行った。

 

 

「私達もそろそろ時間だし、帰るか…?」

「そうだな……ちょっと寄りたい所があるから良いか?」

「? 構わないが?」

「よし、じゃあ行こう!」

 

 

 私は一龍に手を引かれて、ある店へと向かった。

 

 

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夕方

 

『モノレール車内(モノレールしゃない)』

 

 

「色々とあったな、今日は…」

「楽しかったか?」

「ああ、とっても♪」

 

 

 帰り道でのモノレールの中、一龍の問いに私は笑顔で答える。

 

 

「しかし、良かったのか一龍? またこの様な物を買ってくれたが…」

 

 

 そう言いながら、私はバックから箱を取り出す。

 帰りの駅へ向かう前に一龍はアクセサリーショップに足を運び、私に髪飾りを買ってくれた。赤と白の椿がモチーフの髪飾りだった。

 

 

「良いって。7年間、箒の誕生日を祝えなかったんだからその分を含めたつもりだから」

「もう十分な物を貰ったのだが……、あの髪留めも本物の琥珀だから高かったのだろう?」

 

 

 中学3年生の時に一龍から送られてきた琥珀の髪留めは、一龍に再開してから本物の琥珀で作られていると聞き、気になって相場を調べてみたが値段の高さに驚いてしまった。

 

 

「あの髪留めは任務の手伝いでロシアへ行った時に買ったやつだから、そこまで高い訳でも無いぞ?」

「そうなのか?」

「ロシアって琥珀の一大産地だからな、原材料だけだしそこまで高くなかったな」

「原材料……、まさか手作り…?」

「ああ、ここ1年で手先が器用になったから」

「有名な店で買ったのだと思ったぞ…。しかし、これが手作りか…トレジャーハンターと言うのは何でも出来るのだな…」

「鍵の開錠とかで器用さは必須だからな…、必要な技能を学んでいたら色々出来るようになったって感じかな?」

「ふむ…いっそ私もトレジャーハンターになろうか…」

「お? 箒もなるか?」

「望んでIS学園に入った訳では無いからな。そう簡単になれないとは思うが、一龍と一緒に世界を巡りたい」

「その時は喜んで歓迎するよ」

 

 

 笑みを浮かべる一龍に私も笑みを返す。

 

 

「一龍、大好きだ」

「俺もだよ、箒」

 

 

 気付けば右手を一龍の膝にある彼の左手に伸ばしていた。

 学生寮の部屋に着く迄、互いに手を繋ぎ合っていた。




色々と伏線を含んでデート終了。
こんなので甘いと言えるのか…
次回はクエスト回の予定。


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