セシリアが変なキャラになってしまった感が否めない。
どうしてこうなった…
章タイトル
『妖精作戦』 著者:笹本 祐一
サブタイトル元
『WILD CHALLENGER』 歌手:JINDOU
WILD CHALLENGER
健康は実に貴重なものである。
これこそ人がその追求のために、
単に時間のみならず、
汗や労力や財”宝”をも、
否、生命さえも捧げるに価する唯一のものである。
───モンテーニュ「随想録」
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4月7日
朝のSHR後の休み時間
『IS学園(ISがくえん)』1年1組教室
「おう、お前等頼まれたモン作って来たぞ」
「後で味の感想を言ってくれれば嬉しい」
綺麗にラッピングされた袋を取り出して真次郎達が教壇前に立つ。
袋の中には昨日焼いたフロランタンがぎっしりと入っていた。
「本当に作って来てくれたの!?」
「やったー!!」
「葉佩君も作ったんだ」
「有難う荒垣君♪」
「わ~い、ありがと~しんにー、はばっち~♪」
「1人1袋だ、もう1限目が始まるからその後から食えよ」
「「「「「「「は~い♪」」」」」」」
女子達が教壇前に列を作り、一龍達は一人一人に配って行く。
「一龍、」
「ん、どうした箒?」
一龍からフロランタンを貰った箒は一龍に尋ね掛ける。
「その、だな、まだ一龍とメールアドレスの交換をしていなかったから…」
「そういや、そうだったな。ちょうど良い、これに書いてくれないか?」
そう言って一龍は生徒手帳を取り出して箒に渡す。
受け取った箒は生徒手帳のアドレスページに連絡先を書き込んだ。
「名前だけだと寂しいな……、そうだ!」
ふと何かを気付いた箒はポケットからシールの様なモノを取り出す。
「入学前日に物は試しと撮ってみたんだ」
シールの様なモノは箒が写ったプリクラであった。
箒はそのプリクラを空欄に貼った。
赤い椿と番傘のフレームに凛とした表情で写っている箒、堅物な彼女にしては珍しいと一龍は笑った。
「へ、変か?」
「いや、似合っているよ。今度一緒に写しに行こうか?」
「ふぇ、一緒か!?」
「【愛】ああ、デートの時にでもな」
「デート…、そうだな、一緒に写ろう!」
箒はにっこりと微笑んだ。
袋を配り終えた後、千冬と真耶が入って来た。
千冬は一龍をチラリとみると少し苦しそうな顔をしたが直ぐ戻った。
「お早う諸君、1限目の授業を始めたいがその前にやるべき事がある」
教壇に千冬が立ち、話を始める。
「今日から2週間後に学年別でクラス対抗戦が行われる。従ってその対抗戦に出場するクラス代表を諸君に選んで貰いたい、クラス代表は学級委員の役目も担う。つまり学校行事のまとめ役をするクラスの顔になる訳だ」
一龍は嫌な予感がした。
IS学園も学校である以上、クラスのまとめ役は必須となる。しかし1年生にはどのクラスにも男性操縦者がいる、そしてISは本来女性しか起動出来なくて男性操縦者は珍しい存在、よって……
「自薦、他薦は問わないぞ。誰かいないのか?」
千冬のこの発言に一龍は覚悟した。
真次郎も明らかに嫌そうな顔をしていた。
「は~いっ!! 葉佩君を推薦しま~す!」
「私もー!」
「私は荒垣君を推薦するー!!」
「あー、なら私も荒垣さんを!!」
「私は葉佩君を!」
「荒垣さんに一票!!」
「葉佩君に倍プッシュ!」
恐れていた事態が発生してしまった。珍しい存在がいるならその存在を誇示してしまう、人間の心理である。更に先程のSHR後の休み時間に皆に振る舞ったお菓子の恩返し的な感情が混じっている。クラス代表が嫌という訳では無いが、一龍達は若干の後悔を感じた。
(【困】更に嫌な予感がする…)
一龍達が推薦されるであろう事は予想していた。
しかしそれだけで終わるとも思っていなかった。
「お、お待ちなさい! 納得が行きませんわ!!」
(【呆】やっぱりな…)
予想は更に的中。
案の定、セシリア・オルコットが席から立ち上がって抗議の声を上げた。
昨日の遣り取りで解ったが、彼女はプライドが高く、高飛車の絵に描いた様なお嬢様キャラ、そして女尊男卑主義者である。
そんな彼女が自分が選ばれずによりによって男性が選ばれる事など認めるだろうか?
否、認める筈が無い。
「宜しいですか!? クラス代表という立場は実力者が為るべき、それが必然ですわ! それをただ物珍しいという理由だけで極東の猿に勤めさせては困ります! わたくしはわざわざこのような文化として後進的な島国にまでIS技術の修練に来ているのであって、サーカスを演じる気など毛頭ありませんわ!!」
(【驚】本気で言っているのか? コイツ…)
セシリアの発言に一龍はただ驚く、真次郎も呆気にとられた顔をしている。
当然である。今のセシリアの発言は代表候補性に有るまじき、外交問題に成りかねない爆弾発言である。
男女差別は現在の世間の風潮では小さい問題であろうが、他国を貶す発言をした、これはいただけない。
箒を含め、女子生徒の中には嫌悪感に顔を顰めている娘もいた。
【今の発言を問題ある発言を解釈、録音しました】
(…ナイスだ『H.A.N.T.』)
「オルコットさん、言いすぎだよぉ…」
「そもそも、男が代表だなんてありえませんわ!! この私にこの1年間恥をかかせるつもりですの!?」
「古人曰く…」
一龍の静かな、しかし力強い言葉に皆が静まる。
「『怒りの結果は、怒りの原因よりはるかに重大である』」
「な、何ですの?」
「マルクス・アウレリウスの『自省録』に書かれている言葉だ。セシリア・オルコット、アンタはとあるオリンピック選手の不祥事を知ってるか?」
「オリンピック? 一体何の話を…」
「その選手は担当する競技において既に世界新記録を出す程の実力者で国内の全ての国民から期待されていた。だが、」
一龍は一息吐いて言う。
「その選手は短気で怒りっぽく、そして直ぐに手を出す人間だった。そんな選手は試合が始まる前に恋人に振られてしまった。選手自身は自分は悪くないと激怒した。そのまま選手はオリンピック開催地に行き、その時に走ってきた子供がその選手にぶつかってしまった」
周りは皆、一龍の話を聞いている。
「怒り心頭だった選手は八つ当たりの様にぶつかった子供を殴り飛ばしてしまった。子供は顔の骨が砕けるという重症を負い、忽ち世界のニュースとして報じられてしまった。」
静まり返る教室、誰もがその選手の結末を聞こうとしていた。
「オリンピック出場は取り消し、治療費等の多額の賠償金を請求されたがそれだけでは終わらない。帰国後に彼を待っていたのは国の面子に泥を塗ったと怒り狂った国民達だった、何処へ行っても国の汚点だと責められ石を投げられ、自宅は荒らされた。家族も同じ様な目に遭わされて縁を切られた。そして選手は言ったんだ、”どうしてこんな事になってしまったんだ?”と、」
話を終え、一龍はセシリアの方へ再度向いた。
「選手は振られた怒りで自分の全てを失った、くだらない怒りによって大きな怒りの結果を招いてしまったんだ。セシリア・オルコット、アンタはどうだ?」
「何ですって!?」
「この代表選抜は自薦、他薦を問われていない、自分で立候補すれば良い話なのに皆は自分を選ばずに俺達を選んでいるとアンタは腹を立てている。実にくだらない理由で怒るんだな?」
「貴方、わたくしを馬鹿にしていますの?」
「そして先程の暴言だ、『H.A.N.T.』、再生しろ」
【録音内容を再生します】
【宜しいですか!? クラス代表という立場は実力者が為るべき、それが必然ですわ! それをただ物珍しいという理由だけで極東の猿に勤めさせては困ります! わたくしはわざわざこのような文化として後進的な島国にまでIS技術の修練に来ているのであって、サーカスを演じる気など毛頭ありませんわ!!】
セシリアが言った言葉が再生される。周りはシィンと静まり返った。
「IS開発者はアンタの言った文化として後進的な島国が出身なんだが? 極東の猿とは日本人の事か? ならこの学園の半数は猿と言いたい訳か、ブリュンヒルデも含めて?」
「わ、わたくしは…」
「アンタは俺が話した選手みたいに暴力は振るっていないがこの発言は明らかにお前の国の威信をガタ落ちにするぞ。代理戦争扱いのモンドグロッソに出場する選手は国の顔だ、その顔になる代表候補生がこんな暴言を吐くのだからな、この事を知ったら国は、いや国民はどう思うかね? 代表候補生なら専用機も持っているんだろう? 専用機は没収、お家取り潰し、国民全員から吊るし上げか?」
「そんな…」
セシリアの顔が青ざめていく、自分のした事に漸く気付いたのであろう。はっきり言って遅いのだが…
「まぁ、これを公開する気は更々無いが、一言言わせて貰う」
「ひっ!?」
一龍はセシリアを睨み付ける。
此処に来て以降、見せた事の無かった剣幕に皆動けなくなる。
「【怒】誇りと自尊心を履き違えている様な奴が、後先考えずに吠える子供が出しゃばるな!!」
「─────────っ!!?」
一龍の怒声にセシリアは竦む、いや、竦んだのはクラスの生徒の殆どであり、真耶すらも涙目になっている。平気なのは真次郎と千冬位であった。
「─────────ですわ」
「?」
俯いたセシリアが何か言葉を零したが聞こえなかった。
「決闘ですわっ!!」
「ほう…」
セシリアの決闘宣言に周りはどよめきだす。
「確かに、国家代表候補生としての自覚が薄くなっておりましたわ、わたくし」
「今更気づいても手遅れだろぉが、本当は」
「黙りなさいっ!! 手遅れで無いならば猛省し、しっかりと改めれば良い事。ですので!!」
セシリアは一龍を睨み付ける。
「貴方方に決闘を申し込みます!! 3人の中で誰がクラス代表に相応しいのか決闘で決めませんこと!?」
「【燃】ふむ、IS学園ならばISでの決闘で決めたいか、だが先程の発言をされてはお前に決まったとしても皆の印象は最悪だと思うが?」
「ならば、こうするまでですわ!!」
そう言うやセシリアは教壇前まで行き、なんと、土下座したのだ。
「日本の皆様に対する数々の暴言、今ここで謝罪いたしますわ!!」
「お、オルコットさん!?」
「ほぅ」
「へぇ…」
「わたくしはオルコット家当主、ですが先程の発言をしてしまう様にまだ未熟な所もあり、皆様に迷惑を掛ける事も少なく無いでしょう、でもわたくしとて誇りを持っておりますわ!!」
そして立ち上がり高々と宣言した。
「わたくしがクラス代表になった暁にはクラス代表戦等の代表戦を勝ち抜き、1組に優勝の栄光を約束いたしますわ!!」
(【褒】中々に肝が据わっているなこのお嬢様…)
(あの性格で土下座かますたぁ、口だけの女じゃねぇ様だな)
セシリアの行動と態度に、一龍達は改めて評価した。
感情的ではあるものの、しっかりとした誇りを持っている様だ。
「一時はどうなるかと思ったが決まった様だな、クラス対抗戦は2週間後、其れまでにクラス代表を決めなければならない。一龍の専用機はまだ届かないのか?」
「済みません、武装の設定がまだ掛かるらしくって、後5日程は必要です」
「出来れば1週間内に決めて欲しいのだが…」
「それなら問題無いです。届き次第、決闘をしましょう」
「それで良いのか?」
「動かす分には問題無い調整なので大丈夫です」
「…葉佩がそう言うなら分かった、では今日より1週間後に模擬戦用アリーナを借りてクラス代表の決定戦を行う。3人共それで良いな?」
「はい」
「…分かった」
「分かりましたわ」
「せっかく3人いるんだ、戦績順にクラス代表、副代表、補佐とすれば良い。では授業を始めよう」
騒ぎも収まり、1限目の講義が始まった。
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4限目後 昼休み
『マミーズ IS学園店(マミーズ ISがくえんてん)』
「結局、こうなったか」
「…面倒臭ぇ」
「まぁ、やるしか無いよな」
昼食を食べながら一龍達は1限目の出来事を振り返っていた。
「しかし2人共大丈夫なのか? 相手は国家代表候補生だぞ?」
「問題無ぇ、来る以上、叩き潰すのみだ」
「代表候補生の実力を見るのにちょうど良い機会かな?」
「…随分あっさりしてるな」
緊張している様子がまるで無い2人に箒は呆気にとられた。
「戦いは相手の弱点を突けば楽勝だからな」
「弱点? 一龍はオルコットの専用機を知っているのか?」
「ああ、『ブルー・ティアーズ』それが彼女の専用機だ」
一龍は箒にセシリアの専用機の特徴を説明する。
『ブルー・ティアーズ』、
イギリス産の第3世代型IS。軽量型装甲の機体であり、武装はレーザーライフル『スターライトMk-Ⅲ』とショートソード『インターセプター』、そして特殊武装であるビット兵器『ブルー・ティアーズ』。
パイロットの思念操作によって操作する『ブルー・ティアーズ』は4機のレーザービットと2機のミサイルビットの計6機が搭載されている。本体とビットによる複合攻撃がこの機体の特徴かと思われるが、この機体には機体自身とビットの操作を両立する事が出来無いと云う大きな欠点を持っている。
つまりビット操作中は本体は棒立ち、本体が動いている間はビットは攻撃や移動が出来無いのだ。
「つまり、ビット操作中は本体を、本体が動いている間はビットを狙って攻撃すれば良い訳か?」
「そういうこと、しかも軽量装甲だから衝撃に弱い」
「衝撃の強い攻撃で仰け反り易いという事か…」
ブルーティアーズの攻略法を知り、真次郎と箒は頷く。
「おお、おったおった。バッテンとシンジ」
「ニコラス?」
そんな彼らの元へニコラスがやって来た。
「いや参ったで、クラス代表なんて決める事になって大騒ぎや」
「そっちでもか?」
「せや、まぁルカ坊が選ばれた訳なんやけど」
「……やっぱりか」
「ルカ坊に任せっきりなんも悪いさかい、ワイは副代表になったわ」
「そっちは平和的に決まったんだな」
「なんや? そっちは問題でもあったんかいな?」
「実はな…」
箒はニコラスに事情を話した。
「またけったいな事になってもうたんやなぁ、そっちは」
「うぜぇったらありゃしねぇ」
「ま、やる事をやるだけさ」
一龍はニカッと笑う。
「けったいな事と言ったらワイの部屋の相方が妙なやっちゃで」
「そう言えばニコラスは誰なんだ?」
「ルカの奴は3組の陽介だったな、俺も3組のシンだし…」
「という事は、ニコラスさんは4組の?」
「そうそう、4組の奴なんやけどな……」
「おいィ、何人の噂話をしようとしているんですかねぇ?」
「………来よったで」
ニコラスの顔が複雑なモノになる。
彼の後ろには長身銀髪で褐色肌の逞しい男性が立っていた。
TO BE CONTINUE
最後の男性操縦者(現時点)が遂に登場、次回は荒れに荒れる可能性(彼の言葉遣いのせいで)
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