一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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祝!UA5000突破!!
1万字突破って、頭沸いてんじゃねぇの俺!?
それでもスラスラ書けるんだから怖い…
今回、『SEKKYOU』染みた内容がありますのでご注意ください。


サブタイトル元
『星の銀貨集めて』 歌手:浮森 かや子


 星の銀貨集めて

「道者万物之奥。善人之”宝”。不善人之所保。」

 

───徳経:老子

 

 

____________________________________________

 

 

夕方 18:00

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮

 

 

「【驚】はえ~、凄いなこりゃ」

 

 

 箒と共に割り当てられた部屋へと行くと、一龍は学生寮とは思えぬ部屋の豪華さに驚いた。

 内装はホテル並み、エアコン・暖房完備、シャワールームは勿論、簡易キッチンまで完備している。

 部屋には既に、段ボールに入った幾つかの普通の荷物が届いていた。

 

 

「さて、荷解きと行くか」

「そうだな」

 

 

 2人でそれぞれの荷物を解いて片付けていく。中には私服や下着もあるから一龍は箒の方を極力見ない様に努力した。

 

 すると、

 

 

~♪【メールが届きました】

 

 

「メールか?」

「ああ、そのようだ」

 

 

 メールの内容を確認すると、

 

_________________________

 

受信日:20XX年4月5日

送信者:ロゼッタ協会

件 名:転送メール手続き完了

-----------------------------------------------------

**********お知らせ**********

 

本サービスは、指定のサーバーに届いたメールを貴方

のH.A.N.Tに転送するサービスです。

下記のように、転送メールの手続きを完了した事をお

知らせいたします。

 

対応サーバー:IS学園サーバー

使用開始日:20XX年4月5日

 

          ロゼッタ協会システム管理部門

_________________________

 

 

 協会からのメールサービスに関する内容であった。

 メール内容を確認後、『H.A.N.T.』を切ると今度は寮内の呼び出しチャイムが鳴る。

 

 

~♪【1年1組の葉佩君、宅配の方が来ております。学生寮玄関前まで来てください】

 

 

 寮内放送で一龍を呼ぶ内容が流れる。

 

 

「宅配か、ちょっと行って来る」

「分かった」

 

 

 一龍は玄関へ向かった。

 

 

「亀急便でございますぅ」

 

 

 学生寮玄関前まで来ると、宅配業者の老人の声が響いた。

 

 

「葉佩 一龍さんですな? こちらにサインをぉ」

「解りました、御苦労様です」

 

 

 礼を言って、サインをして重量感ある協会の荷物を受け取る。

 この様な重い荷物を持てるとはと一龍は運んできた老人に感心した。

 

 

「それでは失礼しますぅ」

 

 

 温厚な笑みを浮かべ、宅配業者の老人は去って行った。

 

 

~♪【メールが届きました】

 

 

 またメールが来たので確認する。

 

_________________________

 

受信日:20XX年4月5日

送信者:ロゼッタ協会

件 名:装備の発送

-----------------------------------------------------

当局より装備の発送を行った。

現地には本日中に到着すると思われる。

 

天香学園地下の遺跡のように遺跡内には人体に危険な

影響を及ぼす生物が存在している可能性がある。

 

探索を行う際は《銃器》と十分な《弾薬》を携行する

ことを薦める。

 

以上。

 

         《ロゼッタ協会》遺跡統括情報局

_________________________

 

 

「荷物と共にメールが届くとはな…」

 

 

 荷物を抱えて部屋に戻る、箒は殆どの荷物を片付け終えており、お茶を淹れて飲んでいた。

 

 

「何の荷物だ?」

「ん~、養父さんからの防犯グッズ的なモノ」

 

 

 そう言って荷物を開封する。

 入っていたのは、

 

 小型削岩機

 ガスHG×5

 スタンHG×5

 パルスHG×5

 MP5R.A.S

 M92FMAYA

 小型戦闘機×2

 5.56NATO弾×3箱

 9mmLUGER×3箱

 40mm擲弾×1箱

 

 だった。

 

 入試の模擬戦時に愛用の武装を持ち込んでいたが、今後遺跡を探索する際にそれだけでは頼り無いし、物足りない。なにより協会謹製の武器を送られたのだ、嬉しくない訳が無い。

 

 

「ぶふぅっ!!!?」

 

 

 箒は銃器を見た瞬間に啜っていたお茶を吹き出した。

 

 

「け、けほっ、い、一龍、何だその武器は!?」

「男性操縦者だから護身用の武装ってとこかな?」

「銃器は良く知らないが、護身用にそんな武器を使うのか?」

「まぁ、集団で襲い掛かってきて誘拐とかも考えられるからな」

「な、成程…(あの金色の飛行機みたいなモノは何だろうか?)」

 

 

 釈然としない様であったが箒は納得する。

 

 

「しかし、これからこの部屋で箒と一緒に過ごすのか…」

「嫌か?」

「恋人と一緒の部屋で嫌がる奴がいるなら見てみたいな」

「そうか…、一龍!」

「うお!?」

 

 

 箒が一龍の横に座り右腕を抱きしめる、豊満な果実が一龍の腕に当たってふにゅっと凹んだ。

 

 

「【驚】だ、大胆だな…」

「一龍の前では遠慮しないと決めた」

「【喜】そうか、まぁ俺としてはそっちの方が良いかな?」

 

 

 そう言って肩に頭を載せる箒、一龍は箒の頭を優しく撫でた。

 

 

「でも一緒に暮らす以上、シャワーとかの時間を決めとかないとな」

「うむ、時間とかどうする?」

「箒は大浴場もつかえるしな…」

「なら私は基本大浴場を利用して、シャワー室を使う時は扉前にシャワー中とボードでも掛けておこう」

「それでいいか、着替えはどうする?」

「脱衣室でする事にして着替える時はシャワー時と同じくボードを使おう」

「分かった」

「一龍…」

 

 

 箒は一龍の右手を掴み名前を呼ぶ。箒の手は暖かった。

 

 

「何だ?」

「好きだよ」

「【愛】…俺もだ」

「ふふっ」

 

 

 好きと返答すると箒は笑った。

 

 

「さぁて、汗を流して晩飯を食べに行くか」

「そうだな、じゃあ私は浴場へ行く。マミーズの前で落ち合おう」

「分かった」

 

 

 その後、風呂と済ませ、一龍達はマミーズ前で合流した。

 一龍は牡丹鍋定食、箒は唐揚げ定食を注文した。

 

 

「牡丹鍋か、凄いモノを食べるな一龍は」

「練習した御蔭で腹ペコだからな」

「確かに一龍の練習内容は理に叶ってはいたがハードだったな」

「剣の師匠が厳しくてな」

「師匠か?」

「ああ、多分箒も剣道をしているなら知っている筈だ、真理野 剣介(まりや けんすけ)って聞いた事無いか?」

「真理野、剣介……! まさか全国剣道大会で優勝し続けているあの『独眼竜』!?」

「そう、その人!!」

「一龍は知り合いなのか!?」

「正確には養父さんの友人、会う機会があったら稽古して貰っていたんだ」

「は~、一龍は面識も広いのだな…」

「今度、一緒に会いに行こうぜ」

「良いのか!?」

「恋人が出来ましたって伝える序でに稽古もして貰えば良いさ」

「あうう…」

 

 

 箒の頬が赤くなる。

 その後、食事を終えた一龍達は部屋へと戻り、一服するのであった。

 

 

「箒、俺は今から真次郎と菓子を作りにマミーズへまた行くけどどうする?」

「私は明日の予習をしておく」

「分かった、調理が終わったらそのまま千冬姉のとこに行くから先に寝ていてくれ」

「ん、分かった」

「【謝】悪いな、話が出来なくて」

「これから一緒なんだ、話せる時間は沢山あるだろ?」

「そうだな、じゃあ行くよ」

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 一龍はマミーズへ向かった。

 

 

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夜 20:00

 

『マミーズ IS学園店(マミーズ ISがくえんてん)』 厨房

 

 

 食堂内はまだ賑わっていた。

 

 

「おまたせ、」

「…来たか」

 

 

 一龍が厨房に到着した時、既に真次郎は準備を整えていた。

 

 

「材料も調理器具も問題無ぇ、オーブンも暖める準備は出来ている」

「【喜】サンキュー、先に準備してくれて」

「気にすんな、さっさと済ませるぞ」

「おう」

 

 

 早速、調理を開始する。

 

『 florentins(フロランタン)』、

フランスの糖菓子で和名は『フレンツェの菓子』、ドイツ語で『フロレンティーナシュニッテン』とも呼ばれる。クッキー生地に軽く焼いて焦げ目をつけたナッツ類(大体はアーモンドスライス)をのせてその上にキャラメルや糖蜜でコーティングし、焼き上げて作る。

 

 

 まずは生地であるクッキー作りである。

 柔らかくした無塩バターに砂糖、卵、バニラエッセンス、薄力粉、アーモンドプードルを入れて良く混ぜ合わせる。しっかりと混ぜ合わせるのがポイントだ。

 生地がしっかりと纏まったら冷蔵庫で約1時間程寝かせる。

 

 いったん休憩し、一龍達はコーヒーを注文して一息入れる。

 

 

「IS学園初日の感想は?」

「まぁ、ぼちぼちだな」

「これから3年間やっていけそうか?」

「お前等とは楽しくやれそうだが、問題はアイツだな」

「セシリア・オルコットか?」

「ああ、」

 

 

 コーヒーを啜り、真次郎は溜息を吐く。

 あの高飛車な性格は誰もが受け付けないだろう、近い内に彼女はクラスで孤立してしまうのは目に見えている。

 しかし注意したところで聞かないであろう。

 どうしたものか悩んでいると声が掛かった。

 

 

「イチロー、此処で何しているクマー?」

 

 

 陽介だった。制服では無く、白いシャツにグレーのズボンを履いていた。

 

 

「陽介か…」

「シンジ、知っているのか?」

「所属している企業が同じだ」

「おお~、シンジローもいるクマー」

 

 

 陽介は一龍の隣の席に座る。

 

 

「2人でコーヒーブレイククマー?」

「いや、いま調理中でな、焼くための生地を寝かしているから休憩しているんだ」

「料理? 何を作っているクマか?」

「フロランタンっていう焼き菓子だ」

「お菓子クマ?」

「ああ、クラスの女子達に頼まれてさ」

「おお~、乙女のハートを掴むのにはまずお腹からって事クマね?」

「…違う」

「頼まれたから作っているだけさ」

「ぬむ~、クマも料理出来るようになったら更にモテモテクマ~?」

「さぁな、一龍、そろそろ時間だ」

「分かった」

 

 

 席を立ち、一龍達は厨房へ戻って行く。

 

 オーブンを起動して暖めておき、その間に天板にオーブンシートを敷き、麺棒で取り出したクッキー生地をしっかり伸ばす。

 オーブンが暖まったら、約10分間クッキー生地を焼き上げる。

 クッキー生地を焼いている間に生地の上にのせる『フィリング』を作る。

 一龍がスライスアーモンドをフライパンで軽く炙り、焦げ目を付ける。

 隣で真次郎が鍋にバターと砂糖を入れて溶かし、更に生クリームと蜂蜜、バニラエッセンスを加えてじっくりと練り混ぜる。

 

 

「君達、随分と手馴れているね」

 

 

 横から食器を片づけていた厨房の職員が声を掛けてきた。

 

 

「料理が趣味なんで」

「…右に同じく」

 

 

 鍋の中の材料がキャラメル色になったので真次郎がフライパンの中のスライスアーモンドを入れ、手早く掻き混ぜる。

 その間に一龍が焼けたクッキー生地を台に置き、真次郎はフィリングを流し込む。

 フィリングを均等に伸ばし、再びオーブンで焦げない様に見張りながら焼く。

 

 周囲にはバターとキャラメルの甘い香りが漂っていた。

 

 

「焼けたな」

「ああ、」

 

 

 無事に焼き上がり、フロランタンが出来上がった。

 

 

「出来立てのアツアツを食べても美味いんだよな、これ」

「…確かに」

 

 

 綺麗に切り分け、袋に詰める。

 これで完成だ。

 切り分けた際に出た切れっ端を食べてみる。

 

 

「…美味いな」

「【喜】ああ」

「イチロー、クマも食べたいクマー!」

「騒がなくてもくれてやる、ほら」

「おおー! 美味しいクマー!!」

「【喜】そう言って貰えれば嬉しいな」

「2人共センセイみたいに料理が上手クマー」

「先生?」

「クマの知り合いクマー」

「そうか、切れ端だが残りいるか?」

「有難く戴くクマー、ルカも喜ぶクマよー」

「ルカと同室なのか?」

「そうクマー、イチロー達は誰クマー?」

「…俺は3組の間薙だ」

「俺は箒と一緒」

「!? なぬー!? 箒ちゃんと一緒なんてズルいクマー!!」

「【困】いや、そう言われても…」

「是非ともクマと変わって下さい!!」

「断る、彼女だし」

「彼女!?」

「【困】おっと、織斑先生のとこへ行く時間だ、シンジ悪いけど…」

「おう、どやされ無い様にさっさと行きな」

「【喜】サンキュ!」

「ああ! イチロー、まだ話は終わって無いクマ!!」

「お前は俺と片付けだ」

「ええ!?」

 

 

 真次郎とクマの会話を後に、一龍は寮監室へ向かった。

 

 

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夜 21:55

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮 寮監室

 

 

 千冬は一人、パソコンで入試試験である模擬戦の記録データを見ていた。

 内容は今年入って来た男性操縦者達だ。

 

 

(本当に全員IS初心者なのか?)

 

 

 記録を見た千冬が感じた感想はそれだった。

 年齢は違えど、ISを起動できると判明して半年も経っていない筈なのに、全員が自分の手足の様にISを操り教官達を撃破している。

 

 

(強すぎる、学園内で勝てる者がいるだろうか?)

 

 

 そして何より目を引いたのが…

 

 

(葉佩 一龍、装備は自前なれど打鉄でラファールに無傷で勝利するか…)

 

 

 男性操縦者達はその希少な存在から全員が専用機が与えられている。しかし一龍だけは調整中という理由で持参しておらず学園所有の打鉄で模擬戦を挑んだ。

 

 が、

 

 持参してきたという装備を展開した打鉄は本来以上の機動性を見せ付けながら教官の搭乗するラファールを圧倒、ラファールが放つマシンガンの弾丸に当たる事無く逆に正確に撃ち返して当ててくる。更に手榴弾を投擲、弾丸を避けようとするラファールの移動方向で爆発させて動きを止めるや、すかさず接近、戦斧に切り替えて流れる様な斬撃を連続で叩き込み、シールドエネルギーを0にした。

 

 

(葉佩、お前は一夏なのか?)

 

 

 圧倒的な実力を見せ付けた一龍が弟と同一人物なのか確信が持てない。

 顔立ちや身長は一夏そのものだ、だが行方不明となり今日までの約1年間でISをあそこまで操れるであろうか? 更に操るだけで無く、その反射神経や戦略も高い。

 真耶から聞いたが、剣道場にて箒と試合をして圧勝したという。箒は全国中学剣道大会の優勝者である、一夏は箒が引っ越してから剣道を止めており、中学に入った後も自分の負担を和らげようとアルバイトに専念し、部活動をしていなかった。

 スポーツや武道の腕は一日休めば3日分劣ると言われている。6年間のブランクをたった1年で取戻し更に腕を上げて、ずっと剣道を続けていた箒に勝つなど可能であろうか? 自分が同じ状況ならまず不可能だ。

 

 そう考えていると扉をノックする音が聞こえた。

 

 

「織斑先生、葉佩です」

「うむ、入れ」

 

 

 了承の声を聴き、一龍が入ってくる。

 

 

「失礼します」

「ああ、そこに座ってくれ」

 

 

 千冬の言葉に従い一龍はテーブル前に座り、千冬も向かい合う形で座った。

 

 

「それでは俺を呼んだ理由を教えていただけますか?」

「…その、何だ、葉佩、此処は寮だから別に敬語でなくても良いぞ」

「教えを乞う立場ですのでそれは出来ませんよ、先生」

「……そうか」

 

 

 一龍の言葉に千冬は少し落ち込む。

 

 

「本題に入っていただけますか?」

「…解かった。んんっ、葉佩…、いや一龍、お前は一夏なのか?」

 

 

 千冬は一龍に尋ねた。

 

 

「朝にも聞かれましたが、何故そう思うのですか?」

「お前は、一龍は一夏に瓜二つだからだ。それに篠ノ之、箒と仲が良かった、いや、山田君に幼馴染だと言ったそうだな箒が、一夏と箒は幼馴染の関係だ」

「その一夏と出会う前、別れた後に知り合った幼馴染みかもしれませんよ?」

「それは無い、箒は人付き合いが苦手だ。私や一夏と出会った時、幼馴染と呼べるような友達はいなかったし、別れた後も…」

 

 

 千冬は途中で口を噤む。

 箒の境遇は政府による秘密事項である為、一龍に言うべきか悩んでいるのだ。

 

 

「成程、1年毎に転々と引っ越しをさせられてしまっては幼馴染になる程の親しい友人など出来る筈が無い訳ですね?」

「!? 何故それを?」

「本人から聞きました、確かにそれなら俺が一夏と同一人物と考えても可笑しく無いですね」

「それなら…「ですが織斑先生」!?」

 

 

 千冬の言葉を一龍は遮る。

 

 

「先生自身が認めたとしても、俺は認めない」

「そんなっ!? ドイツの事を恨んで…「違います」…え?」

「ドイツで行われた第2回モンドグロッソで先生は弟さんを誘拐された、誘拐犯達の目的は優勝確実な先生を棄権させる事。しかし脅迫電話に出たのは先生のサポーター、サポーターは連続優勝という栄光を取り逃して欲しくないと先生に伝えずに弟さんを見殺しにした。そしてその後、漸く気付いて誘拐犯達の隠れ家へ行くとそこには気絶した誘拐犯達の姿しか無かった。死体は見つからず、弟さんは行方不明という扱いになってしまったが、先生には何も非が無い訳です」

「…何故そんなに詳しく知っている?」

「情報通の知り合いがいると言っておきます。とにかく、ドイツの件で恨むなんてお門違いという訳ですよ」

「なら、なら何で認めてくれないんだ?」

「………解からないと? 世界を変える程の事を仕出かしておいて?」

「世界? 一体………まさか…!?」

「白騎士事件」

「!?」

 

 

 千冬の顔が凍りくが一龍は気にする事無く続ける。

 

 

「俺の知り合いにアマチュア無線技士(ハム)がいるんですがね、白騎士事件の時に奇妙な通信を傍受したんですよ」

「奇妙な通信…?」

「通信にはこんなやりとりがされていたそうです。

 

 【ちーちゃん、後数分でミサイルが飛んで来るよ】

 【ああ、モニターに表示されている。だが束、コレで本当にミサイルを撃ち落とせるのか?】

 【心配ないよ、束さんのISはすっごいんだから、ほら射程内に入って来たよ】

 【ふんっ、さっさと片付けるぞ】

 【頑張れちーちゃん、いっくんや箒ちゃんもこのままじゃ危ないからね】

 

 とね、」

「!?」

「束は篠ノ之 束の事でしょう、そして妹の箒、いっくんは箒から聞きましたが篠ノ之 束が一夏へ言っていた愛称らしいですね、そしてちーちゃんは……貴女ですね、織斑先生?」

 

 

 一龍の問い掛けに千冬は答えられない、白騎士事件当時の通信を知っているのが衝撃だったのだ。

 

 

「結局、白騎士に乗った織斑先生の御蔭でミサイルは全て撃墜、捕獲・撃破しようと襲ってきた各国の戦闘機や戦艦を無力化して白騎士は何処かへと消え、ISは世界に名を轟かせました、めでたし、めでたし…、とまぁ、篠ノ之 束はそんなチープな脚本を書いて貴方はそのシナリオに従った訳だ」

 

 

 一龍の言葉が冷たくなる。

 

 

「世間では白騎士事件での被害者は0とか言ってますが、戯言だって素人目でも判りますよね? 撃墜したミサイルの残骸は日本国内に一部が降り注いで少なからずの被害を与えているし、貴方が無力化した戦闘機のパイロットや戦艦の乗組員が無事だと思っていますか?」

「そ、それは…」

「脱出機能で脱出できた者はまだ良い、でも当時の映像を見れば爆散している戦闘機もありました。それに、戦艦の砲塔へ向けて荷電粒子砲を撃ってましたね? 爆風に誰も巻き込まれなかったと思っておりますか?」

 

 

 千冬は答えらえない。

 自分は当事者なのだ、当時はミサイルや戦闘機の迎撃の為に一種のトランス状態に陥っていた。だからそのような被害についてまったく考えなていなかった。

 しかし時間が経つにつれて疑問が湧いてくる。一龍の言った様に迎撃した戦闘機のパイロットや乗組員達は無事だったのであろうか? と、政府が公表した被害者0という内容を信じ、ひたすらその事を誤魔化し続けていた。

 

 

「解かってはいる様ですね、少し安心しました。罪悪感無くずっと過ごしていたなら許せませんでしたけど」

「い、一龍…」

「さっきの通信、まだ続きがありましてね」

「!?」

「白騎士には通じない様に回線を切っていたそうですが、通信機自体の電源は入っていたのでしょう

 

 【束さんのISを認めさせる為にわざわざハッキングしてミサイルを発射させたんだもん、頑張ってねちーちゃん】

 

 と言っていたそうです。」

「そ、そんな…、あのミサイルは…、あの事件は…、全てあいつの自作自演だったというのか!?」

「古人曰く、『歴史は犯罪と災難の記録にすぎない』歴史に名を残すであろう白騎士事件は開発者の篠ノ之 束による自己満足の為の犯罪であり、世界にとって災難となった記録な訳ですよ。そしてその真意を知らなくも事件の片棒を担いでしまった織斑先生、貴女にも幾らか非がある訳です」

「そんな…、わたしは…」

「俺は篠ノ之 束を許さない」

 

 

 そう言って一龍は千冬を見つめる。

 

 

「自分の私利私欲で世界を歪めたんだ、許せる訳が無い」

「一龍…」

「篠ノ之 束の唯一の友人である貴女はどうするのですか?」

「え?」

「これからも共に歩みますか? あの天災の横で、世界を狂わせ続けますか?」

「そんな、私は…」

「もし共に行くと言うなら…」

 

 

 一龍は立ち上がってキッパリと言う。

 

 

「俺は葉佩 一龍として天災、篠ノ之 束とその友人、織斑 千冬を敵として止めさせて貰う」

「そんな!? 一夏、私は敵じゃ…」

「決着を付けるまで俺は名前を戻す気は無い」

 

 

 そう言って一龍は扉を出る。

 

 

「待って、いちか…、一龍!」

「今夜は帰ります。話したいならまた今度お願いします」

「私は、わたしは…!」

「さよなら、千冬姉」

「!?」

 

 

 一龍は寮監室から出ていった。

 閉まる扉を千冬は只、見つめる事しか出来なかった。

 

 

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夜 00:00

 

『IS学園(ISがくえん)』 学生寮

 

 

(そろそろ行くか…)

 

 

 部屋に戻ると箒は既に眠っていた。

 すぅすぅと可愛らしい寝息を立てている箒を見ながら一龍はリュックサックに装備を詰めた。

 師匠は装備したまま遺跡入り口へ向かった際に友人に見つかって正体が初日でバレてしまったという、ロゼッタ協会の『宝探し屋(トレジャーハンター)』という秘密を知られてしまえば何時、敵対組織や悪質なハンターがこの学園に来るか分かったものでは無い。

 事は慎重に運ばなければならない、遺跡入口を見付け次第、リュック内の装備を装着して入り込む事にした。

 

 

「まずは遺跡探しだな」

 

 

 時刻は12時過ぎ。

 まだ一部の生徒は起きているであろうが、寮の中は静まりかえっている。

 廊下に誰もいない事を確認し、突き当たりの非常口から音を立てないように外へ出る。

 外に出るとグラウンドに誰かいた。

 近づいてみると、玄道がトンボで地面をならしながら何か唸っていた。

 

 

「う~む、どっちなのかのぉ」

「【疑】どうしたんですか、そんなに唸って?」

「む? おお、昼休みの坊主か」

 

 

 玄道は作業を止め、一龍の方へ向く。

 

 

「いやの、葉佩よ。儂はな、今そりゃあもう真剣に悩んどるんじゃ」

「悩みですか?」

「そこでな、ちくと相談なんじゃがの」

 

 

 真剣な表情で玄道は近づいてくる。

 

 

「その……お主じゃったらどれを選ぶ?」

「何をですか?」

「胸じゃ」

「…………………は?」

 

 

 空気が凍った様な気がした。

 

 

「胸じゃ、胸の大きさじゃよ。お主は大きい胸が好きか? それともちっぱい胸か? その中間の普通か? いやまさか洗濯板が好みか!?」

「いやいやいやいやいやいや!!」

 

 

 真剣な悩みかと思ったら胸の大きさで悩んでいるとは、一龍は脱力した。

 千冬姉にぶっ飛ばされたのにてんで反省した様子が無いようだ。

 

 

「どっちじゃ? どれが好みなんじゃ!?」

「だから…」

「さあ、答えるんじゃ!!」

 

 

 鬼気迫る問いに、つい考えてしまった。

 

 

(胸の大きさか…)

 

 

 そして思い付いた先は、恋人である箒の胸。

 制服や厚い生地の剣道着越しからでも判るたわわな果実。

 

 

「でかい胸か……、っは!?」

「そうか……、やはりそうじゃな」

「いや、あの……」

「あれこそは男の浪漫(ロマン)というべきか!!」

「あの~、話を聞いてますか?」

「よし、作戦開始(ミッションスタート)!! 突撃じゃ~!!」

 

 

 そういって玄道は学生寮の方へ駆けて行った。

 

 

「…………………」

 

 

 砂塵と共に消えていった玄道を一龍はただ眺めていた。

 

 

「………行くか」

 

 

 一龍はグラウンドから離れた。

 

 

「しっかし、」

 

 

 一龍は周囲を見渡す。

 遺跡の入り口が何処なのか、学園は広い、学園施設の下に入り口があるとしたら面倒な事になる。

 ふと、パンフレットの地図を思い出した。

 

 

(そういえば学生寮の隣に森林地帯があったな、最初探す場所としてはうってつけかもな)

 

 

 そう結論し、一龍は森林地帯へ向かった。

 

 

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夜 00:20

 

『IS学園(ISがくえん)』 森林地帯

 

 

 森林地帯には木製の遊歩道があり、日中の休み時間等において森林浴や散歩目的で利用される。道中、ベンチやテーブルも設置されているので弁当を持参して此処で食べるという例も少なくない。

 暗くなると照明の少なさから遊歩道を踏み外す危険性があるので入らない様、注意されている。

 

 

「『H.A.N.T.』、辺りをサーチしてくれ」

【『H.A.N.T.』、起動しました。サーチを開始します】

 

 

 『H.A.N.T.』を起動して遺跡の入り口が無いかサーチさせる。

 月明かりも届きにくい森の暗がりの中を、一龍は明かりも持たずに苦もなく進む。

 暫く進むと森の木々が途切れて池の様な場所に辿り着いた。

 

 

【地中より反響音を確認、地下に空洞があると推定】

「BINGO!!」

 

 

 どうやらこの池一帯の下に空間があるようだ。

 遺跡へ繋がる穴の確率は高い、後は……

 

 

(どうやって入るかだが…、ん?)

 

 

 池の中央部にポツンと石碑の様なモノが立っていた。

 そして石碑から岸辺までに飛び石がある。

 

 

(調べる価値はあるな)

 

 

 そう考えリュック内の道具を装備し、石碑まで行こうとした時…

 

 

「あれ? 此処で何やってるの?」

「!?」

 

 

 後ろから女の子の声が聞こえた。

 驚きながら後ろを振り返るが誰もいない。

 

 

「しんにー、どうして此処にいるの?」

「寝ようとしてたんだが、何だか寝付けなくてな、気分転換に散歩だ。本音はどうして此処に?」

「しんにーが森に入って行ったから気になって追いかけて来たの~」

 

 

 どうやら木々の向こうから声がしているようだ。

 一龍は慎重に木陰からその様子を見る。

 話しているのは真次郎と本音のようだ。

 

 

「夜は暗いから危ないよ~?」

「夜目は効く方だ、心配するな。少しぶらついたら戻る」

「う~、気を付けてね~?」

 

 

 そう言って本音は学生寮へと戻って行った。

 本音の気配が完全に消えた時、真次郎は一龍が隠れている木の方を向いた。

 

 

「何時まで隠れていやがる?」

「…気づいてたか」

 

 

 一龍は観念して姿を現した。

 

 

「…こういうのには慣れているからな。それで一人で何してやがる? 肝試しにはまだ早ぇぞ」

「【焦】その、な…」

「ベストに手袋、それにゴーグルなんて着けて…、何でそんな格好してんだ? それにその銃…、テメェ何モンだ?」

 

 

 まさか師匠の様に潜入1日目でバレるとは思いもしなかった。かれは只者では無い、下手に誤魔化したところで何も解決しないだろう。

 一龍は観念して真次郎に『宝探し屋(トレジャーハンター)』の素性を明かす事にした。

 

 

「『宝探し屋(トレジャーハンター)』だぁ? 遺跡に秘宝? スパイみたいなモンか?」

「当たらずとも遠からずかな? そう思って構わないけど」

「この学園の地下に遺跡か…」

「やっぱ信じられないか?」

「いや、信じるぜ」

「【驚】え?」

「似た様な事に巻き込まれた事があるからな、信じてやる」

「【喜】有難う、シンジ」

「ふっ、数少ない学園内のダチなんだ、お前の事は秘密にしといてやる。で、遺跡の入り口とやらは見付けたのか?」

「ああ、そこの池が怪しくてな」

 

 

 そう言って一龍は飛び石を越えて石碑の前に立つ。

 真次郎は岸辺からその光景を眺めていた。

 

 

「”《生贄成る乙女》、柱に触れ《機界の扉》を開き、《機神》の贄と成らん”か、柱はこの石碑か? 乙女が触れると扉が開くのか、男じゃ無理かな…」

 

 

 一龍が石碑に触れると石碑が揺れ出した。

 

 

「……男なのに」

 

 

 石碑が後ろにずれていき、元々あった場所に人一人が入れそうな穴が開いていた。

 

 

「…それが遺跡の入り口か?」

「そうっぽい」

「入るのか?」

「いや、今夜は入り口を探すだけだったからこれで終わりだ」

「そうか、なら戻るぞ」

「ああ」

 

 

 学生寮へ向けて一龍達は戻って行った。

 

 

「そういや用務員の爺さんが女子共にボコられてたぞ」

「やっぱり……」

 

 

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 一龍達が学生寮へ戻る頃、学園校舎の屋上に月光を背に立つ人影があった。

 

 

「《生贄成る乙女》が選ばれていないのに《岩戸》が開いた?」

 

 

 銀色の髪を靡かせ、その影は一龍達が見付けた遺跡への入り口がある方向を見つめていた。

 

 

「束様にお伝えしなければ…」

 

 

 そしてその影はまるで闇夜に溶ける様に消えた。

 

 

TO BE CONTINUE




推奨ED曲『アオイキヲク』 歌手:喜多村 英梨

1st.Discovery、これにて完結。
次回よりセシリア編、2nd.Discoveryが開始!!


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