一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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おかしい…スイスイと書け過ぎだ。
今週までだろうけど…
本作品はハーレムという存在をダストシュゥゥゥゥゥゥゥッ!!! しております。
従ってヒロインは基本一人……


サブタイトル元
『世界でいちばん頑張っている君に』 歌手:HARCO


 世界でいちばん頑張っている君に

結婚というのは”宝”くじのようなものだ。

ただし当たらなかったからってその券を破り捨てるわけにはいかない。

 

───F.M.ノールズ

 

 

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放課後

 

『IS学園(ISがくえん)』 1年1組教室

 

 

 学園生活初日の講義が全て終了し、皆が教室から出て行く。

 一龍達も同じく、教材を鞄に纏めていた。

 

 

「じゃあ一龍、また今夜な」

「【友】ああ、分かった」

 

 

 別れを告げて真次郎は先に教室を出る。

 

 

「ふ~、今日の授業が終わった~」

「一龍、」

「ん、どうした箒?」

「その、部活動は何をするか決めているか聞きたくてな…」

「箒は決めてるのか? まぁ、大体想像できるが…」

「うっ、まぁ剣道部に入部するつもりだ。一龍はどうするんだ?」

「ああ、入学前から決めているぞ。箒と同じ剣道部だ」

「!? ほ、本当か?」

「嘘ついてどうするんだよ?」

「そ、そうだな(一龍と一緒かぁ…)」

「嬉しいのか?」

「へ!? いや、その…」

「【喜】俺は嬉しいぞ、また箒と剣道が出来るんだからな」

「ななっ!?」

 

 

 ニカッと笑う一龍に箒は顔を赤らめる。

 

 

「さて、入部届けを出しに行かないとな。行こうぜ」

「あ、ああ!(嬉しいか…、私も嬉しいぞ一龍♪)」

 

 

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放課後

 

『IS学園(ISがくえん)』 運動場区画 剣道場

 

 

「失礼します」

「!?」

「男子だ!?」

「入部希望かな?」

「格好良いかも…」

「隣の娘は?」

「見た事あるよ、確か新聞に…」

「全国中学生剣道大会で優勝した娘だよ!」

「ええ!?」

 

 

 剣道場に入ってきた一龍達に剣道部員達の視線が集まる。

 

 

「俺達、入部希望なんですが主将か顧問はいますか?」

「わ、私が主将だけど…」

「これ入部届けです、今日から練習とか出来ますか?」

「入部希望? 葉佩君と篠ノ之さんね、練習なら今日から出来るよ」

「【喜】有難う御座います、自前の防具がまだ寮に送られていないので借りる事は出来ますか?」

「うん、あそこの棚にあるのが使えるから。でもサイズが合うかなぁ?」

 

 

 主将の心配は的中し、一龍のサイズに合った防具は無かった。

 

 

「【憂】やれやれ、今日は防具無しでやるしかないか…」

「残念だな、ところで今更なのだが、」

「何だ?」

「一龍は剣道を続けていたのか?」

「いや、篠ノ之道場が閉鎖してからはやって無い。中学に入った後は千冬姉の負担を和らげようとバイトばっかりしてたからな」

「そうか…(剣道していなかったのか、少し寂しいな…)」

「まぁ、この1年で鍛え直したから問題無いぞ」

「? 1年で戻るほど甘くは無いのだぞ?」

「それがそうじゃ無いんだなこれが、これ借りますね」

「良いけど…?」

 

 

 一龍はニヤリと笑うと腕の筋肉を鍛える為の丸太棒を掴む。とても重い為、両手でしっかり掴んでゆっくりと素振りをするだけの用途しか無いのだが、一龍は片手で軽々と持ち上げた。

 

 

「え? それを片手で!?」

「中に鉄芯が入っていて滅茶苦茶重いのに…」

 

 

 部員達が驚きの声が上げる。

 

 

「ちょっと離れていてくれ」

「な、何をするんだ?」

「まぁ、見てなって」

 

 

 道場の中央へ移動した一龍は両手で丸太棒を持って構える。

 瞬間、空気が張り詰める。

 一龍の表情も鋭くなり、箒達は息を呑む。

 

 

「ふっ!!」

 

 

 一龍は素早く丸太棒を振り回す。

 重さに振り回される事無く、流れる様に振るその姿は美しかった。

 一通り素振りをし、一龍は残心の構えをとった。

 

 

「ま、こんなもんだな」

「きゃあ──────────────────────────────っ!!!」

 

 

 丸太棒を下ろすと周りから歓声が響きだす。

 

 

「すっごい力持ち!!」

「あんな重い丸太棒を普通の竹刀みたいに振り回すなんて!」

「素振りも綺麗!!」

「男子個人戦は優勝確実かしら?」

 

 

 女子部員達が一龍を褒めちぎる、中にはうっとり顔を赤らめながら見つめている娘もいた。

 

 

「い、一龍!!」

 

 

 ぷりぷりしながら箒が近づいてくる、どうやら怒っている様だ。

 

 

「どうした箒?」

「お前と言う奴は、女子達にちやほやされて!」

「【困】いや、向こうが勝手に騒いでるだけだろ…(もしかして嫉妬か?)」

「ええいっ、私と打ち合え! 試合だ!!」

「俺に合うサイズの防具が無いんだが…(沸点が低い気もするが、可愛いな)」

「私も着け無いでやる!」

「危ないだろ!?」

「うるさいっ! さっさと準備をしろ!」

「【憂】やれやれ、分かったよ(仕方が無いな)」

 

 

 道場の中央に一龍と箒は対峙した。主将や他部員達は周りでそれを見ている。

 

 

「行くぞ!」

「ああ、来い!!」

 

 

 互いに竹刀を構え、睨み合う。

 しかし、互いに動かずに隙を窺う。

 

 

「はああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 数分の静寂の中、動いたのは一龍であった。

 竹刀を腰の高さまで下げて箒へ駆けて行く。

 

 

「やあっ!!」

「ふんっ!!」

 

 

 がら空きの頭部を狙って箒は打ち込み、一龍は振り上げて振り下ろされる竹刀を迎え撃つ。

 大きな音が響くと同時に箒の竹刀が弾き飛ばされる。

 手から離れなかったが、大きく仰け反ってしまう。

 

 

「なっ!?(なんて力だ!?)」

「そこっ!!」

 

 

 一龍は竹刀を箒の首元に当てる。

 

 

「死合いならこれで終わりだ、まだやるか?」

「くっ、勿論だ!」

「【燃】上等」

 

 

 一龍が箒から離れ、再び対峙する。

 今度は箒が先に一龍へ飛び掛かる。

 

 

「せやぁ!!」

「遅いっ!」

 

 

 小手を狙って振るわれる竹刀を一龍は素早く回避して箒の首元狙いで突きを繰り出す。

 箒は体を捻って躱すが一龍は更に打ち込んでくる。

 

 

「うりゃああああああ!!」

「うくっ(一撃、一撃が重くて速い…)」

 

 

 打ち込みを防ぐが次第に手が痺れてきた。

 そこへ容赦無い一撃が襲い掛かる。

 

 

「はぁっ!!」

「しまった!?」

 

 

 遂に竹刀が箒の手元から離れてしまう。

 そして再び首元に一龍の竹刀の先が当てられる。

 

 

「……参りました」

 

 

 竹刀が無い以上続けるのは不可能と判断した箒は降参する。

 一龍は竹刀を下げ、箒に礼をした。

 見ていた部員達が歓声を上げる。

 

 

「凄いわ!!」

「素早いし、何よりあの覇気!」

「男子個人の部は優勝確実だわ!」

「皆静かに! 練習始めるわよ!」

「「「「「「は~い!」」」」」

「それじゃあ、葉佩君はどうする?」

「防具は今夜届く筈ですし、明日からは皆に混じらせて貰います。」

「解ったわ」

 

 

 主将は部員達の中へ混じって行った。

 

 

「箒、練習手伝ってくれるか?」

「ああ、しかし一龍は強いな。本当に約1年間しか鍛えなかったのか?」

「本当だ、内容が凄まじいものだっただけで…」

「?」

「と、とにかく練習しよう!」

 

 

 一龍は箒の手を掴む。

 

 

「ほら、行くぞ」

「あ、ああ」

 

 

 箒の手を引っ張り、一龍達は練習を開始した。

 

 

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 部活動の練習時間が終わり、部員達が帰って行く。箒は防具を片付け、一息吐いていた。

 

 

「お疲れさん」

「一龍…」

 

 

 一龍の呼び掛けに箒は振り向く。道場にはもう二人しかいなかった。

 

 

「ほら、部員の娘にスポドリ貰ったから」

「ああ、有難う…」

 

 

 箒は一龍からスポーツドリンクを受け取る。

 

 

「済まない、一龍…」

「ん、どうした?」

「あんな事で怒って、試合を挑んでしまって…」

「【愛】なぁに、気にするな。あの怒った顔も可愛かったしな」

「なっ! 可愛い!?」

 

 

 一龍の発言に箒の顔は忽ち真っ赤になってしまった。

 

 

「ま、怒りの沸点が低いのはいただけないがな」

「あうっ、済まん…」

「なぁ、箒…」

 

 

 先程までの軽い感じから変わって一龍の表情は真剣になる。

 

 

「な、何だ?」

「何か悩んでいるだろ?」

「え?」

「箒の剣には、迷いがあった」

 

 

 一龍は箒の瞳を見つめる。

 箒はその視線に捉えられ、逸らす事が出来なかった。

 

 

「俺と別れた後の7年間か?」

「!?」

 

 

 的確に悩みを当てられ、箒は目を見開いた。

 

 

「……だろうな、1年毎に転校させられていたんだろ、たった独りで?」

「!? 何故知っているんだ!?」

 

 

 箒は驚く、この事は政府の判断によって行われた事であり一龍や他の者には理由を明かされていなかった筈だ。

 

 

「そういった情報には詳しくてな。でも酷いよな、当時小学生、柳韻さん達ともバラバラに別れさせるなんて」

「…………」

 

 

 箒は黙り込んだ、IS学園に入学する迄の記憶が蘇ってきたのだ。両親とも離れ離れになり、たった独りで過ごしていた日々。場所を特定されない様にという理由で年毎に転校させられて友達も碌に作れなかった。親や友人に連絡もさせて貰えず、誰にも頼れない。

 

 友達を作っても1年以内に別れさせられる事実に、次第に学校でも独りでいるようになり、それによって苛められる事もあった。

 

 唯一、支えとなったのは父から教えられた剣道のみ、ただそれだけにのめり込み続けるしか出来なかった。止めてしまったら孤独感に押し潰されそうだったから……

 

 だがそれも次第に溜まったストレスや感情を発散させる為だけの行為になってしまった。試合になればただ力任せに、暴れる様に相手へ打ち込んでいた。そして試合を終えて、その行為を振り返って自己嫌悪に陥るのだった。

 

 そして中学3年生になり、剣道も心の支えに為らなくなり今にも溜まった感情に押し潰される事に怯えていた時、転機は訪れた。

 

 誰が送って来たのか判らない匿名の箱、中には綺麗な琥珀色の髪留めと短く書かれた手紙。これが箒の支えとなってまた頑張れる様になった。

 

 そして、

 

 保護という名目でIS学園へ入学させられる事になる。

 

 

「IS学園になんて来たくなかった」

 

 

 ポツリと箒は言葉を零す。

 今にも溜まった感情が溢れだしそうだった、だが頑固な性格がそれを邪魔する。

 

 

「ISも嫌いだ」

「だろうな」

 

 

 見つめてくる一龍の瞳を睨む様に見つめ返し箒は言う。

 

 

「私には剣道だけしか無かった、でもそれも次第に支えに為らなくなった」

「ああ、」

 

 

 箒の瞳が滲んで来ていた。

 そして、怒りの感情が爆発する。

 

 

「家族をバラバラにした、私を孤独にしたISなんか大嫌いだ! それを造った姉さんも!」

 

 

 箒は怒鳴る様に叫ぶ。

 

 

「何故? 何故私がこんな目に遭うんだ!? 私が何をしたんだ? 悪い事をしたか?」

 

 

 瞳から涙を溢れさせ、箒は一龍に尋ねる様に叫ぶ。

 

 

「姉さんのせいで! 姉さんがあんなモノを造ったせいで!! 父上、母上にも会えない、嘗ての友達にも会えなかった!!!」

 

 

 叫びながら箒は一龍の胸倉を掴む。

 一龍は何もせずに只、箒を見つめていた。

 

 

「家族を滅茶苦茶にしたISなんて見たくない! 此処からも逃げ出したい!」

 

 

 箒はその額を一龍の胸に当てる。

 

 

「もう…、苦しみたく無いよぉ…」

 

 

 箒の心からの声。

 

 一龍は瞳を閉じる。

 

 どれだけ苦しい思いをしてきたのだろう?

 

 自分は確かに箒の境遇を知った。

 

 でも彼女の思いまでは解からない。

 

 同情は出来ても本当の思いまでは解からなかった。

 

 そして今、溢れた彼女の思いを聞いた。

 

 でも、

 

 まだ足りない。

 

 彼女は思いを出し切っていない。

 

 7年間孤独で苦しんだ感情…

 

 これだけで出し切れる筈が無い。

 

 だから、

 

 出し切らせる。

 

 溜まっている7年分の負の感情、

 

 出し切る時に潰されない様に、

 

 彼女を支えてあげよう。

 

 それが自分が此処に来た、

 

 理由の一つなのだから……

 

 

「出せよ」

「え?」

 

 

 一龍の呟きに箒は顔を上げる。

 

 

「全部、出し切っちまえ」

「一龍?」

 

 

 そう言って一龍は箒を抱きしめる。

 

 

「あっ…」

「俺が体験した訳じゃ無い、」

 

 

 箒を強く抱きしめる。

 

 

「只の同情と思うかもしれない」

 

 

 強くも、優しく抱きしめる。

 

 

「でも俺は、箒の支えになりたい」

「一龍……」

 

 

 抱きしめた腕を解き、一龍は箒を見つめる。

 箒の瞳はまだ涙が溢れていた。

 

 

「箒、俺は頼り無いか?」

「!? そんな事無い!!」

 

 

 一龍の問いを箒は強く否定する。

 

 

「幼い頃、一龍は苛められていた私を助けてくれた! 別れた後も私を覚えていてくれた! 今も私を気遣ってくれている! そんな一龍が頼り無いなんて、そんな事あるものか!!」

「【喜】有難うな、箒。ならさ…」

 

 

 一龍は箒の両頬に手を当てる。

 箒は顔を赤らめながらも一龍を見つめる。

 

 

「今迄溜め込んだ嫌な思い、全部吐き出しちまえ」

「一龍……でも、」

 

 

 微笑む一龍に対して箒は不安そうな顔をする、吐き出す思いに潰されないか不安なのだ。

 

 

「俺は、箒の支えになりたい。だから吐き出して欲しい」

 

 

 再び一龍は箒を優しく抱きしめた。

 

 

「俺は箒の傍にいる、だから本当に元気になる為に今迄の思いを、吐き出せ!!」

「!! 一龍………、うぅ、うわあああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 一龍の言葉に心の箍が外れた箒はその思いを吐き出した。

 

 

「あああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」

「今迄、こんなに我慢していたんだな…」

 

 

 泣き叫ぶ箒を優しく抱きしめながら、その背中を擦る。

 

 

「もう我慢する必要なんて無い、遠慮無く泣けば良い」

「いちろぉぉぉ、うぇ、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「古人曰く、『孤独はこの世で一番恐ろしい苦しみだ。どんな激しい恐怖も、皆が一緒なら耐えられるが、孤独は死に等しい』か、本当に頑張ったんだな…」

 

 

 一龍の胸に縋り付いて、箒はひたすらに泣き続けた。

 そして一龍は箒を優しく、愛しく抱きしめていた。

 

 

暫くして………

 

 

「溜まった思い、全部出し切ったか?」

「ああ、もう大丈夫だ」

 

 

 まだ愚図つきながら箒は答える。

 一龍の服は箒の涙でびしょびしょになっていた。

 

 

「済まない一龍、……私は弱いな」

「【怒】こらっ」

「あうっ」

 

 

 一龍はこつんと自分の額を箒の額へと当てる。

 顔が近い為か箒の顔が赤い。

 

 

「弱くて良いんだよ、もう我慢するなよ?」

「でも……、」

「でもじゃない、苦しい時、辛い時、悲しい時、どんな時も俺に頼れ。箒は独りじゃ無いんだから」

「一龍………、うん」

 

 

 顔を離し笑うと、箒も微笑んだ。

 

 

「本当に箒は可愛いな」

「なっ!?」

 

 

 一龍が笑顔でそう言うと、箒はたちまち真っ赤になった。

 

 

「笑顔の時、怒った時、照れた時、泣き顔は見たくないから除くけど、どんな時も箒は可愛い」

「い、一龍ぉ…」

 

 

 褒めちぎられた箒は真っ赤な顔のまま困っていた。

 

 

「俺は箒を忘れない。箒は孤独じゃないんだから、元気を出せ、そして寂しさに負けるな」

「……え!?」

 

 

 一龍の言った言葉に箒はハッとする。

 

 

(今何て言った!? 今の言葉はまるで……)

 

 

『私は君を忘れない。君は孤独じゃないから元気を出して寂しさに負けないで』

 

 

 髪留めと一緒にあった手紙に書いてあった短い言葉、

 

 自分を支えてくれていた暖かい言葉……

 

 

「一龍…」

「何だ?」

「この髪留めは、一龍が送ってくれたのか?」

「……………ああ」

「!? 何で屋上で言ってくれなかったんだ?」

「夜に話そうと思っていてな、ほら、後で話すって言ってた内容と一緒に」

「そ、そうだったのか…………うぅっ」

「箒?」

 

 

 止まっていた涙が再び溢れ出す。

 

 

「どうした?」

「嬉しいんだ、ずっと私の事を思ってくれていたから、一龍…ぐす、ふえっ、うえぇぇぇぇんっ!!」

「箒……、悪いな、でも話せて良かった」

「うっ、ひっぐ、一龍…、好きだ」

「え?」

 

 

 涙でくしゃくしゃになりながら箒は一龍に告白した。

 

 

「好き、大好きだ、私の事をこんなに思ってくれる一龍の事が、大好き」

「………それは『LIKE』じゃなくて『LOVE』で受け取って良いんだな?」

「ぐすっ、ああ。私は一龍を異性として好きだ」

「…………」

「この思いが受け入れられなくても構わない、只、一龍にこの思いは伝えたい。私は、その、そこまで女らしくないし…」

「ばかやろう……」

「あっ……」

 

 

 一龍が箒を優しく抱きしめる。涙で湿った服がひんやりと心地良かった。

 

 

「古人曰く、『バラが棘の中に咲くように、恋は怒りの中に咲いて燃える』」

「それは…、恋愛の格言か?」

「ああ、部員達が俺の事で騒いだ時、箒は怒っていたよな?」

「うっ、まぁ他の女子達が一龍に好意を向けているのが嫌だったから…、関係無い一龍に八つ当たりみたいに試合を挑んでしまって……、済まない」

「気にするなって、つまり俺の事が好きだから怒ったんだろ?」

「…うん」

「嬉しいよ」

「!?」

 

 

 箒を放して見つめる。

 箒は信じられない様な顔をしていた。

 

 

「【愛】俺も好きだ」

「ほん……とう?」

「ああ、男勝りな性格、素直になれない頑固さ、極度の照れ屋、そして我慢強くて誰より女らしい箒が俺は好きだ、勿論『LOVE』の意味でだぞ?」

「一龍……嬉しい、嬉しいよぉっ!!」

「おっと、泣き過ぎじゃないか?」

 

 

 箒はまた瞳に涙を溢れさせて一龍の胸に飛び込む。

 夕焼けの日差しが道場内を照らす中、一龍はまた優しく抱きしめて箒の頭を撫でた。

 

 

「一龍君、此処でしたか…ってどうしたんですか!?」

「「山田先生!?」」

 

 

 突如現れた真耶に一龍と箒はパッと離れる。

 

 

「ふ…、不純異性行為は駄目ですよぉっ!!」

「【慌】ち、違います! え、え~と、その…」

「私の告白を受けてくれたので嬉しさで泣いていたんです先生」

「【驚】箒!?」

 

 

 箒の言葉に一龍は驚く。

 

 

「え、え? 告白ですか!?」

「はい、一龍と私は幼馴染で小さい頃から私は彼が好きでしたので、漸く会えたから告白したんです」

「そ、そうだったんですか。じゃあお邪魔でしたね、それでは…」

「待って下さい、先生! 俺に用事があるんじゃ?」

「へ? あ、ああそうでした!」

 

 

 そう言って若干顔を赤らめながら真耶は一龍に番号付の鍵を渡した。

 

 

「これは…、寮の部屋鍵ですか?」

「はい、急なセッティングだったんで一龍君だけ女の子と相部屋になっています、御免なさい」

「いや、先生が気にしなくても宜しいですよ。ええと、番号は…1025号室か…」

「私の部屋だぞ、其処」

「【驚】何!?」

 

 

 衝撃の事実に一龍は更に驚く。

 

 

「篠ノ之さんと相部屋ですか、という事は恋人同士の愛の巣に…、キャー!」

「【困】山田先生、何言ってるんですか!? 箒もニヤニヤしない!」

「ふふっ、大好きな一龍と一緒か…、これから宜しくな♪」

 

 

 困る一龍を余所に箒は眩しいくらいの笑顔を浮かべていた。

 

 

TO BE CONTINUE




完全勝利したファース党UC(笑)
一龍にこれ以上ヒロインは出来無い(確信)



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