魔法少女リリカルなのはで盗掘中   作:ムロヤ

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 オークション会場の一室、そこは現在幾重にも結界が張られ、中から出ることはもちろん外から入ることもできない牢獄と化していた。

 その牢獄は俺が逃げないようにするために、転移系統の魔法、能力を重点的に封印する仕様となっている。さすがの俺も、これではおいそれと脱出することができない。

 おまけにラヴィエは俺とは違う部屋に連れて行かれてしまった。

 

 念のために左目とラヴィエに持たせている盗聴器から向こうの様子を確認してみた。

 

「……なんで玉子サンド?」

 

 本来取り調べには不要なはずの玉子サンドが、大皿の上に所狭しと乗せられてラヴィエの前のテーブルの上に置かれていた。

 

「……」(もごもご)

 

「ラヴィエちゃん、おいしいですか?」

 

 ラヴィエは呑気に目の前に置かれたその玉子サンドを頬張り、その様子を嬉しそうに管理局のリインフォースⅡが眺めている。

 そんな場違いな光景に思わずそう呟いてしまった。

 

「……アイスの次」

 

「ラヴィエちゃんはアイスが好きなんですか?」

 

「……」(ぶんぶん)

 

 リインフォースⅡの質問に、ラヴィエにしては珍しい激しい頭の上下運動で、同意の意を示している。何も知らない者が見れば、それは非常に和やかな光景だ。

 

 この光景を見る限り、ラヴィエは安全なようだ。

 

 まあ、そもそも機動六課の連中がラヴィエに何かするとは考えていない。機動六課に関わるようになって、連中の経歴を調べたから分かる。ここの連中はとんでもなく優秀ではあるが、どうしようもないお人好しの集団だ。

 そんな集団が子供に何かするとは思っていない。

 

「さて、それで? 俺に何が聞きたいんだ? 答えられる範囲なら、なんでも答えるぞ」

 

 ラヴィエの安全を確認した俺は、目の前にいるはやて、なのは、フェイトに視線を向ける。

 

「えらい協力的やな。普通こういうんは、嫌がるもんやのに」

 

 はやてが俺の協力的な姿勢に、意外そうな視線を向けてくる。

 それはそうだ。

 ついさっきまで敵対していた人間がいきなり協力的になったら、誰だって裏がないかを疑うだろう。

 

「まあ、捕まったからしかたない」

 

 俺はそう言って肩をすくめた。

 

 これは単純に俺が自分の中で定めているルールだ。

 一つ、殺しはしない。

 二つ、制御不能な古代遺物は封印する。

 三つ、無理はしない。

 

 俺は自分でこの道に入った時に、この三つのルールを自分に課した。別に深い理由があるわけではない。単純に

実験体達(兄妹)とそういう約束をしただけだ。だがそんな事情を知るわけもない管理局員(はやて)たちは、いまいち信用できないといった表情だ。

 

 それに何より俺は無理はしないが、逃げ出すことを諦めてはいない。そのためには時間が必要だから質問にも素直に答えると言ったにすぎない。

 素直に質問に答えておけば、凶悪犯や殺人犯のように問答無用で船や監獄に連行される可能性は低い。特に今のような突発な事態ではなおさらだ。

 

「なんや調子狂うなぁ」

 

「にゃはは、なんだか普段逮捕してる犯罪者(人たち)と違うね」

 

「うん。抵抗もしなかったしね」

 

 はやて、なのは、フェイトの順で苦笑しながら感想を述べていく。

 

「まあ、この状況で逃げれるような能力もないしな」

 

「この間はラヴィエちゃん、やったか? 大人の姿になってシグナム達と戦っとったやん」

 

 当然の疑問である。だが現状で、ラヴィエは【M】の融合を促進するために、あらゆるスキルと魔法の使用に制限を掛けてしまっている状態だ。

 この状態では例え古代遺物の仮面をつけて、大人に成長したとしても戦うのは無理だろう。

 それに、そもそも今はラヴィエの体調のためにも戦わせるどこか、魔法を使わせる気も俺にはない。

 

「まあ、そこはちょっと調子が悪くてな。しばらくは体調を考慮して魔法も使わせないようにしてるんだよ」

 

「そういえば映像で血吐はいとったけど、大丈夫なん?」

 

「問題ない。ただ念のため魔法は使わせないようにしてくれ」

 

「ええよ、リイン達にも伝えとくな」

 

 俺のお願いをはやては快く了承してくれた。

 

 ……やはりこういったところはお人好しだ。

 

「さて、それで? まずは何について聞きたいんだ?」

 

 ラヴィエに関しても心配がなくなったことで、俺はさっそく本題に入ることにした。

 

「予想はついとると思うけど、私が聞きたいんはスカリエッティのことや」

 

「まあ、そうだろうな」

 

 予想通りの質問だ。

 

「さっき俺から回収した端末があるだろ? ちょっとそれ持ってきてくれ。ああ、別に逃げるつもりはないぞ。あの端末に情報が入ってるから、それをやるよ」

 

「……私が言うんもなんやけど、そんなにあっさりと情報を渡してええん?」

 

 あまりにもあっさりと俺が言ってのけると、はやてが何とも言えない表情をしていた。

 

「ん?いいよ。あの変態野郎は一応客だけど、それ以上に嫌いだからな。それに、先に俺の情報を管理局に流したのはあいつだ。ならやり返したって文句はないだろ」

 

 俺は一切悪びれることなく言い切った。

 そして手渡された自分の端末の電源を2回押して立ち上げると、スカリエッティの情報を次々とはやてに渡していく。

 

 まずはあいつが使っているアジトの情報。とはいえ、あの変態のことだ。俺が捕まったことを何かしらの手段で知って、すでに引き払っているだろう。

 

 次に研究成果であるナンバーズの情報。これはちょっと迷ったが、結局渡すことにした。特にクアットロの情報はかなり詳細まで渡す。

 あいつ嫌いだし。

 

「今あるのはこんなところか」

 

「……えらい気前がええな」

 

 予想以上の情報にはやての方があっけにとられている。

 まあ、いきなりアジトの情報や、保有戦力の詳細な情報を「はいどうぞ」と渡されても信じるのは難しいだろう。

 

「あ~、言っておくけど、あいつ逃げ足速いから、多分アジトに関しては無駄足になるぞ」

 

 一応あとで騙したと言われるのは嫌なので、アジトに関してはそう付け加えておく。

 

「そのくらいは私も承知や」

 

 今まで散々尻尾を掴めずにいた相手のことだ。その辺は管理局も重々承知しているようだ。

 

「まあ、目ぼしい情報はこんな物かな? あとは聞きたいことは?」

 

「次はレリックについてや」

 

 ある意味当然の質問が来た。ただこの質問には俺も困った。

 

「ん~、なんていえばいいのかな?」

 

 レリックの機能。単純に言ってしまえば、あれは超高エネルギー結晶体だ。

 それ単体では外部から大きな魔力を受けると誘爆するだけの代物だ。

 そう説明しても目の前のはやては納得した様子はなかった。

 

「そのくらいは管理局もしっとるんよ。私が知りたいんは、()()()レリックをスカリエッティが探しとるかや」

 

 はやてはそう断言する。

 スカリエッティがただレリックを探しているのではなく、何らかの特別なレリックを探していると感づいているようだ。

 

「……王の印」

 

 そこまで知っているならと、俺は情報を開示することにした。

 

「王の印?」

 

「ああ。こっからは俺も確証がないから、推測混じりだぞ? レリックっていうのは、古代ベルカ王朝時代から存在する。そのほとんどはさっきも言ったように、単純に超高エネルギー結晶体でしかない。ただ、古い文献にはレリックの中に王の印と呼ばれる特別なレリックが存在するとある」

 

 おそらくレリックがこれだけ大量に造られた理由は、その王の印を隠すためではないかと俺は考えている。木を隠すなら森の中というように、大量のレリックに紛れた王の印は外見だけでは見分けがつかないようになっているはずだ。

 そしておそらく王の印とは、古代ベルカ王朝の王の一人である聖王ゆかりの物だろう。

 それならスカリエッティが俺に依頼してきた件も納得がいく。

 

「……」

 

 その説明を聞いたはやては苦虫を噛み潰したような表情をしていた。想像以上にスカリエッティが行おうとしていることが大きかったのだろう。

 

「まあ、俺が答えられるのはこのくらいだな。あとはサービスとして、管理局の内部にも気をつけろよ?」

 

「……サービス? どうゆうことや?」

 

 はやては俺のの言葉の真意を推し量ることができずに聞き返してくる。だが、残念なことに時間切れだ。

 

 ピーピー

 はやての持つ端末へ連絡が入ってきた。

 

「はい……っな!? なんで!!」

 

 はやてが驚きと怒りをないまぜにしたような表情で端末に怒鳴る。

 俺はその様子を見ながら帰り支度を始めた。

 

「残念だったな。八神はやて」

 

 そう言ってはやての肩を叩きながら俺は堂々と監禁部屋を後にした。

 

 

「ラヴィエ。帰るぞ」

 

 俺は監禁部屋から出た後、ラヴィエを迎えに来た。

 

「なっ! なんでてめぇが!? てめぇ、はやてはどうした!?」

 

 部屋に入ると赤いチビこと八神ヴィータがこちらを睨み付けてきた。

 ついでに部屋にいた他の連中も臨戦態勢に入っている。

 

「何もしてねぇよ。単純に俺とラヴィエの釈放命令が上から来ただけだ」

 

 俺は事もなげにそう告げる。

 そのことに全員が驚愕の表情を浮かべていた。いや、ラヴィエだけは良くわかっていないようで、貰ったアイスを幸せそうに食べている。

 

「てめぇ! 冗談も大概に……」

 

「ヴィータ……」

 

 今にも襲いかかってきそうなヴィータを後からやって来たはやてが制した。

 

「この男が言ってるんは本当のことや」

 

 はやてはそれだけ言って力なく首を振った。

 

「だから言ったろ? 気をつけろってな」

 

 なぜ俺がわざわざ情報をぺらぺらと喋っていたのか。

 

 理由は単純だ。さっき端末を受け取った時、俺は電源を2回押した。あれはとある大物に救難信号を送る合図だったのだ。

 俺はこれまでにかなりのロストロギアを闇に流しているし、依頼で遺跡を荒らすこともある。

 そうなってくると、自然とお偉いさんとも繋がりができる。

 そしてそういったお偉いさんは、俺が捕まってしまうと困ることが沢山あるため、こうした事態に救助を要請すれば、管理局に圧力をかけてくれるのだ。

 

 これが現行犯や捕まった後に管理局の施設や船に入れられてしまえば難しいが、それ以外の場合なら誤認逮捕という名目で俺の身分をでっち上げてくれる。

 

「まあ、そういうわけだ。いい社会勉強になったろ? 世の中綺麗ごとじゃ回らないんだ。あ、たださっきの情報は本当だから、あの変態を捕まえるなら急いだ方がいいぞ?」

 

 俺はそれだけ言い残すと、ラヴィエを連れてオークション会場を後にした。

 


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