VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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遅れて申し訳ありません(>_<)



地獄に落ちようとも希望を掴む

 赤の信号弾が打ち上げられた。

 街の住人はそれをただの余興程度にしか見ていないのか主だった騒ぎはない。

 だが慌てたのは、隣にいた馬鹿……アオイだ。

 

「り、リヴァイ兵士長! 門の方から赤の信号弾が!?」

「んなの見りゃわかる」

 

 ただ事ではないと思ったのだろう、あたふたと俺と門の方向を交互に見ながら今にも飛び出して行きそうだ。

 周囲の奴らもひそひそと話しあっているが――まあ無えな。そんな話しがあったら事前に連絡がくる。

 ほぼ100%トラブルだろう。

 立体機動装置に手を掛けた馬鹿(アオイ)は、

 

「俺、ちょっと様子見てきます!」

「待て馬鹿」

「で、でも緊急事態だったら――」

「ぴーちくぱーちく喚くなってんだよ、イノシシが!」

「あだッ!?」

 

 とりあえず軽く跳んで頭に蹴りをぶち込んでおく。コイツはやたら頑丈だからな。

 蹲って痛みに震えているが知るか。

 俺は近くにいたハンジに目配せする。ハンジからエルヴィンの居場所については聞いていた。おそらく門付近にいるだろう。

 こういうときの対応も慣れたもので、軽く頷いてから、大声で言う。

 

「はいはーい注目ー! どうもうっかりさん(・・・・・・)が信号弾を撃ちあげちゃったようだね。一応規則では状況の確認をしなくてはいけない。10名くらいで様子見にいくよ」

「じゃあ俺も――」

「テメエは待機だ。ハンジ、頼むぜ」

「はいよー、んじゃ」

 

 調査兵を中心に10人前後の人間はアンカーを射出してトロスト区の南門へと向かっていく。

 だが納得が言っていないのかアオイの野郎は不満そうだ。

 ったく、だからテメエは駄目だってのが理解できてねえようだ。だから餓鬼なんだよ。……少し、説教しなくちゃならねえようだな……。

 

「あのリヴァイ兵士長、やっぱり――」

「おい餓鬼」

「え?」

「テメエは何故兵士をやってやがる。成り行きとかは聞いてねえ。何をすべきか言ってみろ」

「……それは、みんなを護る為に……。それより行かないと――ッ!」

「軽いな。テメエの言葉には何の重さも感じねぇ。ぽっと出の餓鬼が青臭い理想論を垂れ流しているのと一緒だ。これならウォール教の糞共の方がまだマシかもな」

「……ッ!?」

 

 目をまんまるにして俺を見つめる。

 口を阿呆のようにぱくぱくして反論を返せないようだ。

 ――そこですぐ反論できる意思を持たねえから駄目なんだよ。

 

「助ける助ける助ける……テメエはいつも口癖のように言ってるな」

「そりゃそうでしょう! 誰だって死んで欲しくない。だからこそ俺は助ける為に――」

「今この瞬間だって死んでいる野郎はごまんといる」

「――!」

「明日の喰うものを無く飢え死にする奴は探せばそこら中に転がっているだろうさ。それで何を助けるって? テメエが両腕に抱え込める命なんてたかがしれてんだよ。神様にでもなったつもりか?」

「違います! 俺は……」

 

 喰いつくな……。普通の奴ならここでぴーぴー支離滅裂な事を囀って終わりになりそうだが、意思だけは無駄にあるんだろうがな……。

 目の前のことをすっかり忘れてやがる。

 

「勘違いしているようだから言ってやる。テメエに救える命なんてケツからひり出せる糞みてえに少ないんだよ! 今俺たちがすべきことは祭を問題無く終わらすこと。次の立体機動の演技をお祭り気分の奴らに夢を見せるだけだ」

「異常事態が起きてるかもしれないんですよ!? だったら助けにいって――」

「テメエはこの世の全てを解決出来るのか?」

「それ、は」

「前々から感じていた……テメエに足りないのは頭でも実力でもねえ。誰かに頼ることだ! 変な理屈こねて結局自分で解決しようとする。下手に実力があってここまで運良く出来たからいいものの、なあなあで済ましてきたんだよテメエは。だが、今すべきことは違う。俺達はキッチリ祭を終わらせる義務がある。赤の信号弾には別の奴が向かう……それでいいだろう。判ったから大馬鹿野郎!」

「俺、は」

「どんなに粋がっても出来ねえことの1つや2つ、あんだよ……」

 

 腐るほどな……。

 後悔して眠れないことなんて原っぱの草よりある。汚ねぇ崩れ落ちた手を伸ばして俺を泥沼の底へと引き摺りこもうとする。

 

「……綺麗に、しないとな……」

「え……?」

「とにかくだ」

 

 今のこの暴走馬車野郎のことだ。

 いいかげん、気付かせないといけねえな。

 

「横を見ろ、後ろを振り向け……そして思い出せ。お前の側には誰がいるのかをな。お前の手は剣を掴むだけのものじゃねえだろう……人の手を掴むことだって出来るはずだ。……それを思ってもまだ突き進むなら止めねぇ。案外うまくいくかもしれない……俺には判らねぇからな」

「俺は……俺は…………」

 

 目を瞑って逡巡しているようだ。

 だが両手を握りしめ真っすぐ俺を見つめると、

 

「判りました。アオイ・アルレルト、祭の成功のために尽力を尽くします!」

「……そうか。まあ、なんとかなるだろう。あっちはあっちできっとうまくいくだろうさ」

 

 空を見上げる。その先は俺がかつていたスラム街の方向。

 

(だろうエルヴィン? 素敵に糞な作戦しか考えねえ団長様よ。テメエが俺たち(・・・)に刃を突きつけて引き摺りこんだんだ。……ヘマだけはすんじゃねえぞ)

 

 トロスト区の門に顔を動かす。

 ハンジの奴らが兵を引き連れ飛んでいく。

 離れているからか、門はやけに小さく見えた。

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■  ■ 

 

 

 

 

 

 赤の煙弾を打ち出してまだ数分も経っていない。1秒1秒がやけに長く感じる。もしかしたら60秒を数えてすらいないかもしれない。

 しかし我々に残された時間は余りのも少なかった。

 4人がかりで扉を抑えている。閂もある。しかし――

 

「エルヴィン! これ以上は扉が持たないぞ! 奴らは斧のこちらの扉を打ち破る気だ!」

「判っている。少々待ってほしい」

「……巨人信奉者とはここまで強引だったとは……」

 

 普段なら滅多に聞くことのないミケの焦った声。リコと名乗った女性の兵士も奴らの強引さに、扉を叩く音が部屋内に響くごとに顔を険しくしていっている。

 事実、木製の扉から光が差し込み始めていた。何度も斧で叩かれ破れ欠けているのだ。

 重要施設ゆえ頑丈に作られているからまだ大丈夫だが、現状は厳しいと言わざるを得ない。

 もう一人の捕まっていた若い兵士は唾を飛ばしながら悪態を吐く。

 

「ちくしょー、今頃はシルフィアちゃんとラブラブデートの予定だったのに……。死にたいならテメエらで勝手に死ねばいいってんだ! 人類を巻き込んでダイナミック心中するな!」

「確かに豪快ではあるね。きっと君をうらやんで巨人とデートしたいのだろう」

「かーっ、あんなデカイ奴と愉しむ奴らの気がしれねえっすよ! 俺はただシルフィアちゃんに『レヴィンおにいちゃんおいしいおー』ってお菓子をほおばる彼女を横で眺めたいだけなのに!」

「はっはっはっ! 良いお兄ちゃんじゃないか」

「……アンタたちはなにを気さくに話しているんだ。今がどういう状況か判っているのか!?」

 

 気を紛らわせる冗談のつもりだったのだが、リコさんはお気に召さなかったようだな。

 眼鏡の奥の双眸が更に冷たくなったようだ。

 更にドンと手に振動が伝わる。外ではぎゃーぎゃーと喚きながら黒ローブと裏切り者たちが騒いでいるみたいだな。

 冷や汗を流したリコが焦燥に駆られたのか剣を引き抜こうとする。

 

「やはりこちらからも打って出るしか――ッ!」

「いや愚策だろう。相手は最低20人はいる。最悪倍はいるものと見るべきだ」

「ならどうする!? 室内には扉を補強する板は一切ない。木製の扉一枚ではすぐにでも破られるぞ。いや銃を隙間から押し込んで撃たれたら一貫の終わりだ! なら――」

「それこそない。一瞬だが外の様子を見た。別の兵士達と銃撃戦を繰り広げて膠着状態になっていた。耐え切ればこちらの勝ちさ。それに……壁ならある」

「その耐え切れる時間が…………壁」

「奇策じゃないが……あるだろう。そこに転がっている()が」

 

 ドアを抑えつけながら顎で示す。それを見たリコが私の意図を察して慄いた顔で、

 

「まさか……兵士を……?」

「裏切り者とはいえ奴らも兵士の端くれ。人類を護るための礎になれるなら本望だろうさ」

「エルヴィン団長! いやエルヴィン! 貴方は兵士の死体を使って壁を作ろうというのか!? 死者に対する弔いの心はないのか!?」

 

 感情をむき出しにして糾弾するリコ。兵士の死体が駐屯兵ということもあるのだろう。その表情からは怒りが大半を占めていた。

 弔いか。昔の私ならその言葉に動揺の1つでも見せたかもしれないが……。

 

「私だって死者を悼む心くらいある。しかし今、重要なのは開閉扉を護りきり信奉者の横暴を許さないことだ。このボロボロの扉は人類100万の壁と同価値なのだ。決して……破らせてはならない!」

「……く……ッ」

「ミケ、数秒だけでいい。絶対に破らせるな。私が持ってくる(・・・・・)

「判った」

「……くそ……巨人さえいなければこんなことには」

「誰もがそう思っているだろう。だからこそ、兵士は命を賭して戦わねばならないのだ。未来を繋ぐ為に……弱くも愛しい者たちを護る為にな。……死んだ者たちも。そう願っているだろう」

 

 私は死んだ兵士を引き摺り扉の元まで持っていく。そう持っていく。

 これはただのモノだ。ぶよぶよした肉の塊。私は意図して無表情に努めこれらのモノを扉に押し当てていく。

 ぐちょり、と音がした。

 脳髄が飛び散り、鉄の匂いが身体中に沁みつく。こちらが何をしているのか理解したのだろう。

 僅かに見える外からは息を飲む気配を感じた。

 悪魔め、と誰かが呟いたが構うものか。人の死にどっぷりつかってきた私には今更な言葉。元より天界(ヴァルハラ)など逝ける生き方はしていないのだ。

 扉を抑える誰もが悲痛な表情で扉を抑え続けた。

 ぐちょぐちょと斧が肉を裂く音がする。しかしその手ごたえは弱い。

 幾分勢いの弱くなった相手に私はほくそ笑む。

 そうだ、それでいい。

 信仰に酔っていても人の良心はそうそうかなぐり捨てられるものではない。

 眼球が球体だと確認したことはあるか? 脳みそとはシワだらけの灰色をしていると知っているか? 血の海とはどういう状態か見たことは?

 お前達はウォールマリアが破られた時しか見たことはないだろう。

 私はその地獄を知っている。

 その地獄の名は壁外――――いずれ私が落ちる奈落の底。

 

「お前たちは地獄の釜の中身を知らない……その程度の奴らが私たちに……人類に牙を剥くなど100年早い!」

 

 そして時は来る。

 私が待ち望んでいた希望が。

 それは扉の隙間をするりと抜けて全員の耳に届いた。

 

「貴様らぁぁぁぁぁぁ!!! 巨人信奉者だな。いや俺がそう判断したそうに違いねえなっ! うじうじうじうじと湧きやがってうざいんだ糞がぁ! ナイル・ドーク以下100名の兵士によりこの場を納めさせて貰おうかぁっ!!! 無論、抵抗すれば即反逆罪で鉛弾とブレードを全身の穴に突き込んでやるからな……! うえ、頭いてぇ……全部こいつらの所為だ……」

 

 少々下品な救世主が来たようだな……。

 

 

 

 




リアルでとても忙しいので次回も期間が空くと思います……すいません。

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