VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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投稿が遅れてすいません。
ちょっとリアルが忙しいので投稿間隔はしばらく空きやすくなります。


私の正義を為すためなら血にも染まろう

 トロスト区南、ウォール教トロスト区支部。

 ウォールマリア陥落で市民の不安はこれ以上ない程増大した。

 人の弱みに付け込み――というと聞こえが悪いだろうが彼らの手法は実に合理的かつ堅実に行われている。まるで一昔前の巨人信奉者を彷彿させる鮮やかさだ。

 だが私はその事について彼らを非難するつもりはない。

 私には私の正義があるように、リヴァイにはリヴァイの、アオイ君にはアオイ君の、そして彼らウォール教の神父にも『正義』があるのだから。

 正義というと実に耳触りの良い言葉だが、実質それは個人、組織の主義主張でしかない。

 明日を生きるのも困難な食糧難だと仮定したとき、人間の死体を食してでも生きることは悪は善か?

 私には判断が付かない。

 食べてでも生にしがみ付き明日を生きようとするのも正義だし、同族を食べることは忌避すべきとして食さないのも正義。

 所詮、正義とは一方の偏った見方でしかない。重要なのはその一歩先にある。つまり――――

 

 

 

 ――――『君はあらゆる全ての犠牲を払う覚悟を抱いても正義(しんねん)を貫き事を為すことができるか?』

 

 私は払う。喜んで払おう。例えその代償が己の命であったとしても、だ。

 

 

 

 

「エルヴィン済まない、こちらにはめぼしいものはなかった。やはりウォールシーナの本部の方じゃないと難しいのではないか?」

「いや……どうだろうな」

 

 私達は人気の無いウォール教の内部へ侵入し、彼らの残した資料を漁っていた。ひらたく言えば泥棒のまねごとだ。

 見つかれば最悪、首が飛ぶことになるだろう。無論、物理的にだ。

 そうならないよう今回の大々的に催した祭で彼らを引っ張り出せるよう偽の布教嘆願書を出すなどしている。

 彼らの資料は存外少なかった。やはり重要機密にあたる書類は口伝、もしくは王城に保管されているのかもしれない。

 関係の無い壁についての賛辞ばかりが記されている。

 だが……彼らは致命的なミスを犯した。関係無いからこそ、そこに浮き出る情報の価値を見誤った。

 大収穫だ。ミケは首を傾げているようだが。

 

「どういうことだ?」

「ふっ…………あぶり出しだ。一見ただの紙でも特殊加工された代物は火で炙れば文字が見えるだろう。情報も別の視点で見ればそこに隠された真実が見えてくる。これは今回我々が支払った資金に見合う成果だ」

「すんっ……なるほど、怪しい匂いは間違いではなかったわけだ」

「そういうことだ。そうと判ればここを離れよう。念の為、神父達が居る北側ルートは避け、南側を通る」

「わかった」

 

 後は記憶に刻みこんだ資料を本部で調べあげるだけだ。

 私はミケと共にウォール教の支部から無事脱出することに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 支部から脱出こそしたが神父達とすれ違う可能性がある北側は避けた方がいいだろう。

 侵入の痕跡こそ隠したが万が一ということもある。リスク回避は徹底する。

 だが無言で歩くのも不自然と判断したのだろう。

 ミケは何でもないように話しかけてきた。さながら雑談をしつつ周辺を見回る兵士といったところか。

 私服兵士も祭に紛れて目を光らせているからな。欺瞞となる。

 この辺の絶妙な気遣いはミケならではだな。本当に助かる。

 

「しかし、北側は盛況のようだ」

「南側もさきほどから歓声が上がっているようだ。リヴァイとアオイ君はうまくやっているようだな」

「エルヴィン、気にしているのか?」

「アオイ君には無理を言ったからな。団長としてはいつもハラハラしているさ」

「そうか。俺の鼻では彼は傑物になると言っている。リヴァイといい調査兵団に良い流れがきているな」

「ふふ、そうだな。だがアオイ君はまだ幼い。持ち前のセンスでカバーしている部分が多いし、基礎能力が上がれば安定するのだろうが……」

「団長としては複雑、か」

「そうだな…………」

 

 彼は幼いのに兵士として必死に強くなろうとしている。きっとその執念こそが彼を強者たらしめているのだろう。

 調査兵団に新しい風を吹き込む彼の存在は良い方向になっている。

 願わくば、人類反撃の一助となることを祈るばかりだ。

 

「ん?」

「どうした、ミケ?」

「エルヴィン、隠れろ。様子がおかしい」

「……なんだと?」

 

 もうじき南門の前というところでミケは突如身を潜める。

 私も習ってしゃがみつつ近くの樽の近くに身を隠したのだが。

 

「……黒いローブ。見るからに怪しい」

「確かにな。しかも憲兵団や駐屯兵団の姿も見える。彼らは何をやっているのか……」

 

 黒いローブの集団と兵士達が周囲を警戒している。

 どうみても尋常じゅない。

 やれやれ……どうやら仕事はまだ終わりではないらしい。

 

「まずはここは離れ――――」

「どうしたエルヴィン?」 

「…………いや、どうやら後手に回ったらしい。後ろを見てみろ」

「……なんだと?」

「済まないが大人しくしてもらおうか」

「背後にも……ッ!」

 

 正面に集中していたら背後から兵士が3人、ブレードを引き抜いてこちらに突きつけている。

 しかもこちらの様子に気づいて正面からもローブの集団が集まっている。

 手段を講じる前に先手を取られて格好だ。

 両手を上げて降参のポーズ。下手な反抗は悪手となろう。

 相手は血走った目でこちらに要求する。

 

「我々も悪魔ではない。抵抗しなければ巨人様の一部となれるよう手配しよう」

「巨人、様?」

「そうだ。この世でもっとも強く気高い絶対者――――彼らの一部となることが我らの望み」

「……巨人信奉者、か」

「そんな俗な名前で呼ばれることは業腹だが……まあいいだろう。死にゆく者たちの戯言だ」

 

 まさかまだ存在していたとは、な。

 数十年前に役人を人質にとってシガンシナ区の門を開け放った反逆者。

 彼らは巨人に喰われることを望む。憲兵団によって壊滅状態に追い込まれたと思っていたが……。

 

(10人、いや20前後か。見えないところを見ると倍近い人数がいると仮定すべきだ)

 

 状況は宜しくない。

 すぐさま後ろ手にされ縄で縛られる。だが……そう簡単に事が運ぶとは思わないことだ。

 調査兵団団長として見過ごすことはできない。最大限の抵抗をしてみせよう。

 人類の勝利の為に、ここで終わるわけにはいかないのだから。

 

「来い。他の者たちと一緒に世界最後の日を過ごすといい」

 

 背中を押されて連れて行かれた先は門の開閉室。

 木製の扉を開けると内部には数人の兵士達は一か所に集められていた。当然縛られている。

 私とミケは兵士――いやもう裏切り者でいいだろう――に乱暴に蹴られ押し込められる。

 

「ぐ……ッ」

「精々僅かな命を惜しむがいい」

 

 そういって去っていく。

 周囲には4人の兵士がこちらを警戒していた。

 私は捕らえられた兵士を背に背中を接触させる。

 巨人信奉者に聞こえないよう小声で話す。

 

「大丈夫か?」

「く……済まない、不覚をとった。私は駐屯兵団所属、リコだ」

「調査兵団団長エルヴィン・スミスだ。どうやらとんでもない事になっているようだな」

「団長だと!?」

「し……」

 

 声を上げた所為で一瞬注目が集まる。

 だが何もできないと思ったからだろう。直ぐに視線はなくなった。

 再度彼女と話す。

 

「どうにもタイミングが悪くてね、捕まってしまったのだ」

「私は背後から殴られたようだ。正直手詰まりだな」

「大丈夫だ……手はある」

 

 少し身じろぎしてそれを取り出す。

 備えあって憂いなし。

 彼らのミスを1つあげるとすれば、身体検査はキチンとするべきだな。

 じゃないと足を掬われることになる。

 私は彼女の手にその硬質な物体を押し付ける。

 

「ッ!? これは……」

「私が縄と切る。全員で彼らに襲いかかれば大丈夫だろう。他の者もそれでいいな」

「………………」

 

 返事は無いがこちらのナイフを触って動かした。了承と見る。

 

「だが……彼らは国家反逆罪だ。このまま生かしてはおけない。一撃で殺す覚悟はあるか?」

「……それは」

「ナイフは4本ある。短いが1人1本で喉を掻き切れば確実だ。見誤るな。巨人信奉者は門を開け放ち巨人を招き入れるつもりだ。トロスト区市民の命と反逆者の命――――どちらが重いかは判るだろう?」

「……判った。1人は私が担当しよう」

「ミケも1人頼む。私は入り口にいる敵を排除し扉を閉める。時間稼ぎにはなるだろう」

「了解した」

 

 他の者にもナイフを手渡し気付かれないようにロープを切っていく。

 数分したあと全員のロープを断ち切ることに成功する。

 後は――実行するだけだ。

 

「3数えたら――開始する。1――」

「2――」

「「「3……ッ!!!」」」

 

 一斉に走り出す兵士達。

 虚を突かれた兵士は完全に対応を誤った。

 

「な、きさ――ぐぅッ!」

「かはぁ!? ……巨人、さ――」

「人類を――舐めるなっ!!」

 

 それぞれが兵士達に襲いかかる様子を後目に私は入り口へと走る。

 そして隠し持っていたもう一本のナイフを仕込み靴から取り出し敵に向かう。

 相手はまだ振り返っていない。

 もう一つの|隠しブツも右手に持ち、装填を完了させる。

 

「なぁ!? きさ――――」

「君は判断を誤った。私は調査兵団団長――」

 

 ズブリ――相手を喉笛を掻き切りもう1つの隠し球を取り出す。

 

 パァァァンッッ!!!

 

 赤い信号弾が天を貫く。

 周辺の敵にも気付かれるがそれ以上に兵士達が大挙してやってくるだろう。

 だがそれでいい。兵士達が来た時点で――

 

「――――エルヴィン・スミス、だ。有事の際に隠しナイフや信号銃は常に携行している。君はまず私の身体検査を徹底すべきだったのだ。…………懺悔は、あの世で私が今まで殺してきた巨人達にでも行うがいい!」

 

 ぶちゅり

 相手の喉に喰い込んだナイフを振り抜く。

 赤黒い液体が体に降り注ぐが気にしない。

 私は殺した兵士を蹴り飛ばし開閉扉の鍵を閉めた。

 

 我々人類はいかなる敵にも、屈することはない。例え相手が人間でも、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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